ニュースをみると,明日から増税スタート,保育無償化スタートとあります。今日は9月の末日でした。教員不祥事報道の整理の日です。
今月,私がネット上でキャッチした不祥事報道は39件です。今月は,校長や教頭といった管理職の不祥事が目につきます。新潟の小学校校長の男子高校生買春事件は,世間を震撼させました。
兵庫県の小学校教諭が,林間学校で就寝中の女子児童4人にわいせつ行為を働いたのもショッキング。こういう人がいるから,養護教諭に男性は宛てられないと言われるのだなあ,と思ってしまいます。
小学校教頭がツイッターで差別発言を繰り返していた事案。匿名であってもバレます。先生方にはSNSで情報収集したり,ご自身の実践を発信したりしていただきたいですが,使い方には気を付けましょう。近年の教員採用試験では,情報モラルについて問われる頻度が増しています。
明日から10月です。過ごしやすくなってきました。背景を秋晴れ模様に変えます。
<2019年9月の教員不祥事報道>
・リサイクルショップで値札付け替え、小学校教諭逮捕
(9/1,日刊スポーツ,山梨,小,男,45)
・17歳といかがわしい行為の疑い50歳中学教諭逮捕
(9/2,日刊スポーツ,北海道,中,男,50)
・女子高生の胸、わしづかみ容疑 中学教諭逮捕
(9/3,京都新聞,京都,中,男,30)
・少女にみだらな行為 私立高校教諭の男を逮捕
(9/3,MBC,鹿児島,高,男,25)
・「もう片方も聞こえなくするぞ」剣道部顧問 生徒にけが
(9/3,NHK,岐阜,中,男,31)
・県立高校教諭が懲戒免職(9/3,NHK,熊本,高,男,43)
・幼稚園教諭の女を現行犯で逮捕 横断歩道で車にはねられ女性死亡
(9/4,FNN,福島,幼,女,51)
・女子生徒の太もも触り停職処分 県立高校男性教諭
(9/5,テレビ神奈川,神奈川,高,男)
・高校教諭がみだらな行為疑い逮捕(9/6,NHK,福島,高,男,45)
・中学教諭が酒気帯び運転で懲戒免職 部活動後の懇親会で飲酒
(9/6,瀬戸内海放送,岡山,中,男,36)
・小学校長が置引の疑い 自宅謹慎、書類送検へ
(9/6,サンスポ,埼玉,小,男)
・盛岡工業の副校長酒気帯び検挙(9/7,NHK,岩手,高,男,51)
・名古屋市の中学教諭が地下鉄駅の階段で盗撮して逮捕される
(9/7,CBC,愛知,中,男,28)
・体罰で中学校教諭を減給処分(9/9,NHK,北海道,中,男,40代)
・過去に体罰の中学女性教諭、再び生徒を平手打ち 小学校男性教諭は同僚女性にセクハラ(9/10,神戸新聞,兵庫,体罰:中女42,セクハラ:小男30代)
・飲酒運転 教員を任意で捜査(9/10,NHK,岩手,小,男,50代)
・生徒に頭突きや殴打 中学教諭を懲戒処分
(9/10,北海道放送,北海道,中,男,40代)
・日南の中学校で教諭が体罰(9/11,NHK,宮崎,中,男,30代)
・相次ぐ教職員の酒気帯び運転 小学校教諭また摘発
(9/12,岩手放送,岩手,小,男,53)
・群馬県教委、60歳中学教諭を懲戒免職 女子生徒の体触るわいせつ行為で
(9/17,産経,群馬,中,男,60)
・小学校金庫から窃盗疑い教諭逮捕(9/17,NHK,奈良,小,男,25)
・47歳の県立高校教諭 酒気帯び運転で懲戒免職
(9/18,テレビ山梨,山梨,高,男,47)
・越地方の小学校男性教諭が体罰 児童にバインダー投げ懲戒処分
(9/18,上越妙高タウン情報,新潟,小,男,30代)
・男子高校生を買春か 新潟の小学校校長ら2人を逮捕
(9/18,共同通信,新潟,小,男,58)
・生徒の頭たたいた教諭ら懲戒処分
(9/18,NHK,岐阜,高,男性53歳,62歳)
・高3女子を買春、逮捕の小学校教諭 横浜市教委が懲戒免職
(9/19,神奈川新聞,神奈川,小,男,31)
・生徒と不適切行為 教諭懲戒免職(9/19,NHK,北海道,特,男,41)
・あわや大事故…酒気帯びで衝突、中学教諭を逮捕 アルコール5倍
(9/20,沖縄タイムス,沖縄,中,男,41)
・女性教諭、2歳園児の腕にフォーク先端を押し当てる
(9/21,読売,鹿児島,幼,女)
・林間学校で女児4人に強制わいせつ容疑 小学校教諭逮捕
(9/23,朝日,兵庫,小,男,32)
・勤務先の女子生徒にわいせつ行為か 県教委が中学校男性教諭を懲戒免職
(9/24,サンテレビ,兵庫,中,男,20代)
・仙台市立中学校の男性教師が生徒らに「死刑」発言
(9/25,東日本放送,宮城,中,男)
・教材費を横領 高校講師懲戒免職(9/25,NHK,茨城,高,男,36)
・「ローン返済滞り」修学旅行の積立金盗む 小学校教諭免職
(9/27,神奈川新聞,神奈川,小,男,29)
・小学校教頭が酒気帯び運転 「酒が残っているとは考えていなかった」
(9/27,琉球新報,沖縄,小,男,56)
・特別支援学校教員が個人情報紛失(9/28,NHK,大分,特,男,50代)
・小学校教頭が蔑称ツイート、2011年ごろから繰り返す「軽率だった」
(9/30,共同通信,北海道,小,男,50代)
・泥酔状態で建造物侵入、容疑で小学教諭を逮捕
(9/30,毎日,静岡,小,男,30)
・中学校教諭が酒気帯び運転で懲免(9/30,NHK,青森,中,男,40)
2019年9月30日月曜日
2019年9月29日日曜日
女性のフルタイム就業率と出生率の相関
首都の東京では出生率が上がっているのですが,都内の地域別にみるとトレンドは一様ではありません。都内23区でみると,出生率が上がっている区があれば,その逆の区もある。前者には,都心の区が多くなっています。
前回の記事で明らかにしたことですが,「子育てに専念できる,リッチな主婦世帯が多いからだろ」という意見がありました。確かに富裕層が多いエリアですが,そうなんでしょうか。
私は都内23区別に,子育て期の有配偶女性のフルタイム就業率を計算してみました。25~44歳の有配偶女性のうち,労働力状態が「主に仕事」の人のパーセンテージです。労働力状態が不詳の人は分母から除きます。資料は,2015年の『国勢調査』です。
下表は,高い順に23区を並べたものです。加えて,出生率のランキングも明らかにしました。人口当たりの粗出生率ではなく,出産年齢の有配偶女性ベースの出生率です。2015年の出生児数を,25~44歳の有配偶女性数で割って出しました。分子は『東京都統計年鑑』(2015年),分母は上記と同じく『国勢調査』(2015年)から得た数値です。
既婚女性のフルタイム就業率が最も高いのは,中央区ではないですか。港区は順位は下のほうですが,率は42.2%と23区の平均値よりは高くなっています。タワマンひしめくエリアで,優雅な主婦世帯が多いというのではなさそうです。
これらの区は所得水準が高いのですが,2馬力の共働き世帯が多いからでしょう。夫婦とも稼ぎが多い,パワーカップルも多いものと推測されます。
前回もみたところですが,これらの区の出生率は高し。港区は首位,中央区は3位です。この出生率は,出産年齢の既婚女性をベースにしたものであり,都心部には子育てファミリーが多い,という類の事情は除かれています。
上表のデータをもとに,2つの変数の相関図を描くと以下のようになります。
出産・子育て期の既婚女性のフルタイム就業率と出生率は,有意なプラスの相関関係にあります。地域単位のデータですが,「働く女性が増えると出生率が下がる」なんてどの口が言った,という感じですね。
出産・育児にはお金がかかりますが,二馬力でガシガシ稼ぐ世帯が多い区で出生率が高いというのは,まあ理に適っています。ちなみに大阪市の24区のデータでも,同じ傾向が検出されます。
https://twitter.com/tmaita77/status/1177530453709881346
来月から保育の無償化政策が始まりますが,認可園に入りやすいのは,夫婦とも正社員の世帯なり。首尾よくわが子を保育園に入れたら費用はタダ,それで余裕ができて更なる出産ができる…。こういう構図が強まるかもしれません。
保育の無償化政策は「富裕層の優遇だ」という声がありますが,具体的にはこういうこと。これが進んだら,出産と経済力のリンクがますます強まることになります。意図せざる結果,政策の逆機能です。
政府としては,費用負担を軽減することで出産増を狙っているのでしょうが,保育所の定員枠は手付かずのまま。入園競争は以前よりも激化し,入れた世帯と落ちた世帯の落差も大きくなります。この政策は,子持ちの世帯を分断(separate)して,政府への反旗を抑えようという意図でもあるのかと,勘ぐりたくもなります。
何度も申していますが,無償にしても入れなければどうしようもないのです。
増税で得られた財源は,保育園の入所枠を増やすことに使うべきでした。具体的には,保育士の待遇改善です。予想ですが,保育の無償化政策は,直ちに機能不全(逆機能)を露呈することでしょう。舵の転換を考えていただきたいと思います。
前回の記事で明らかにしたことですが,「子育てに専念できる,リッチな主婦世帯が多いからだろ」という意見がありました。確かに富裕層が多いエリアですが,そうなんでしょうか。
私は都内23区別に,子育て期の有配偶女性のフルタイム就業率を計算してみました。25~44歳の有配偶女性のうち,労働力状態が「主に仕事」の人のパーセンテージです。労働力状態が不詳の人は分母から除きます。資料は,2015年の『国勢調査』です。
下表は,高い順に23区を並べたものです。加えて,出生率のランキングも明らかにしました。人口当たりの粗出生率ではなく,出産年齢の有配偶女性ベースの出生率です。2015年の出生児数を,25~44歳の有配偶女性数で割って出しました。分子は『東京都統計年鑑』(2015年),分母は上記と同じく『国勢調査』(2015年)から得た数値です。
既婚女性のフルタイム就業率が最も高いのは,中央区ではないですか。港区は順位は下のほうですが,率は42.2%と23区の平均値よりは高くなっています。タワマンひしめくエリアで,優雅な主婦世帯が多いというのではなさそうです。
これらの区は所得水準が高いのですが,2馬力の共働き世帯が多いからでしょう。夫婦とも稼ぎが多い,パワーカップルも多いものと推測されます。
前回もみたところですが,これらの区の出生率は高し。港区は首位,中央区は3位です。この出生率は,出産年齢の既婚女性をベースにしたものであり,都心部には子育てファミリーが多い,という類の事情は除かれています。
上表のデータをもとに,2つの変数の相関図を描くと以下のようになります。
出産・子育て期の既婚女性のフルタイム就業率と出生率は,有意なプラスの相関関係にあります。地域単位のデータですが,「働く女性が増えると出生率が下がる」なんてどの口が言った,という感じですね。
出産・育児にはお金がかかりますが,二馬力でガシガシ稼ぐ世帯が多い区で出生率が高いというのは,まあ理に適っています。ちなみに大阪市の24区のデータでも,同じ傾向が検出されます。
https://twitter.com/tmaita77/status/1177530453709881346
来月から保育の無償化政策が始まりますが,認可園に入りやすいのは,夫婦とも正社員の世帯なり。首尾よくわが子を保育園に入れたら費用はタダ,それで余裕ができて更なる出産ができる…。こういう構図が強まるかもしれません。
保育の無償化政策は「富裕層の優遇だ」という声がありますが,具体的にはこういうこと。これが進んだら,出産と経済力のリンクがますます強まることになります。意図せざる結果,政策の逆機能です。
政府としては,費用負担を軽減することで出産増を狙っているのでしょうが,保育所の定員枠は手付かずのまま。入園競争は以前よりも激化し,入れた世帯と落ちた世帯の落差も大きくなります。この政策は,子持ちの世帯を分断(separate)して,政府への反旗を抑えようという意図でもあるのかと,勘ぐりたくもなります。
何度も申していますが,無償にしても入れなければどうしようもないのです。
増税で得られた財源は,保育園の入所枠を増やすことに使うべきでした。具体的には,保育士の待遇改善です。予想ですが,保育の無償化政策は,直ちに機能不全(逆機能)を露呈することでしょう。舵の転換を考えていただきたいと思います。
2019年9月27日金曜日
都内23区の出生率の変化
ちょっと涼しくなってきました。おかげで,金曜の夕方にソレイユの丘の温浴施設,週末のお昼に長井水産という「お楽しみ」が復活できそうです。
少子化が加速度的に進んでいますが,首都の東京,それも都心部ではそんなもの「どこ吹く風」。子どもが増え続け,地元の学校は悲鳴を上げています。タワマン効果もあってか,子育てファミリーがどっと流れ込んでいるからです。
これは社会増ですが,自然増もあるみたいです。出生率(人口千人あたりの出生数)をみると,湾岸の中央区では,2002年では8.5であったのが,2017年では13.1に増えています。15年間で4.6ポイントの増加です(東京都の統計資料)。
隣接する千代田区と港区も,同じ期間にかけて出生率の伸び幅が大きくなっています。都内23区では出生率が上がってる区が多いですが,減っている区もあり。一覧表にしてみると気になる傾向が出てきますので,ご覧に入れましょう。
2002年と2017年の比較ですが,まず目につくのは,上位の顔ぶれの変化です。赤字は上位3位ですが,2002年では城東エリアの区が高かったのが,2017年では都心の3区に様変わりしています。中央区,港区,千代田区です。
先に記したように,これらの区では出生率の伸びが大きいからです。対して城東エリアの区は出生率が下降し,23区の中での順位も陥落しています。足立区は,2002年の2位から17年の22位へと大下落です。
一昔前は地価が安いエリアで出生率が高かったのですが,最近はその逆になりつつあります。地域単位のデータですが,出生率と経済力がリンクする傾向すら出てきています。
上表の3つの数値をグラフにしてみましょう。(1)2017年の出生率,(2)過去15年間の出生率の伸び幅,(3)住民の経済力です。(1)を横軸,(2)を縦軸にとった座標上に23区を配置し,各区のドットの大きさで(3)を表現します。
右上には,都心の3区があります。最近の出生率が高く,過去からの伸び幅も大きい区です。対極の左下には城東の3区が位置しています。出生率が下がり,23区内の順位が下位に落ちている区です。
23区はおおよそ右上がりの線上に位置するみたいですが,その位置を規定する要因として,住民の経済力があるみたいです。ドットの大きさからそれが知られます。最初の表から,2017年の出生率と,2016年の住民1人あたりの税負担額の相関係数を出すと+0.7208にもなります。
飛躍を承知で言うと,結婚・出産は富裕層の特権となりつつあるのでしょうか。藤田孝典さんの名著『貧困世代』(講談社現代新書)の帯に,「結婚・出産なんてぜいたくだ!」と書いてあったのを思い出します。
ここで取り上げた出生率は,人口ベースの粗出生率であって,都心のエリアには子育てファミリーがたくさんいるからだ,という疑問があるかもしれません。では,出産年齢の有配偶女性をベースにした出生率を出してみましょうか。
基幹統計の『国勢調査』から,25~44歳の有配偶女性の数を取り出し,各区の年間出生数をこれで割ってみます。『国勢調査』の実施年に合わせ,2000年と2015年の区別の出生率を計算してみました。以下に掲げるのは,出生率の順位が高い区に色をつけたマップです。
結婚している出産年齢の女性をベースにした出生率ですが,このように精緻化した出生率でみても,地域差の構造が様変わりしています。今世紀の初頭では城東の区で高かったのが,最近では都心エリアで高くなっていると。
同じように結婚している出産年齢の女性であっても,子を産もうという意向が地域によって違うようです。そういう差はいつの時代でもあるのですが,最近の特徴は,地域住民の経済力とリンクする傾向が強くなっていること。ある方がツイッターで言われてましたが,不妊治療にも費用が掛かる…。
都内23区という局地の地域データの傾向なんですが,出産と経済力の関連の強まりを演繹するのは乱暴でしょうか。日本は教育費が高く,夫婦が出産をためらう最大の理由は「教育費がかかるから」というのは,各種の調査で明らかにされていること。
そういえば前に,ニューズウィーク記事にて,日本は,男性の経済力と子持ち率の関連が最も強い社会であるのを示したのでした。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/01/post-9286.php
来年実施される2020年の『国勢調査』のデータではどうなっているか。濃い色が,ますます一部のエリアに凝縮されてないことを祈ります。
子育て費用の軽減として,来月から認可保育所の無償化が始まりますが,予想される効果はいかほどか。保育士の超薄給はそのままで,保育士不足は手付かずですので,入れる枠は変わりません。無償にしても入れなければどうしようもない。入れた人と落ちた人の落差も大きくなります。
重点をおくべきは費用軽減よりも,受け入れの枠を増すこと。保育士の待遇改善はその中核に位置します。費用負担の経年をしつつ,夫婦二馬力で稼げる環境を醸成すること。今,データを出してみたのですが,ママのフルタイム就業率と出生率って,プラスの相関なんですよね。「働く女性が増えると出生率が下がる」なんて,どの口が言った?
https://twitter.com/tmaita77/status/1177462811825324032
増税で得られた財源の使いみちを,誤らないようにしたいものです。
少子化が加速度的に進んでいますが,首都の東京,それも都心部ではそんなもの「どこ吹く風」。子どもが増え続け,地元の学校は悲鳴を上げています。タワマン効果もあってか,子育てファミリーがどっと流れ込んでいるからです。
これは社会増ですが,自然増もあるみたいです。出生率(人口千人あたりの出生数)をみると,湾岸の中央区では,2002年では8.5であったのが,2017年では13.1に増えています。15年間で4.6ポイントの増加です(東京都の統計資料)。
隣接する千代田区と港区も,同じ期間にかけて出生率の伸び幅が大きくなっています。都内23区では出生率が上がってる区が多いですが,減っている区もあり。一覧表にしてみると気になる傾向が出てきますので,ご覧に入れましょう。
2002年と2017年の比較ですが,まず目につくのは,上位の顔ぶれの変化です。赤字は上位3位ですが,2002年では城東エリアの区が高かったのが,2017年では都心の3区に様変わりしています。中央区,港区,千代田区です。
先に記したように,これらの区では出生率の伸びが大きいからです。対して城東エリアの区は出生率が下降し,23区の中での順位も陥落しています。足立区は,2002年の2位から17年の22位へと大下落です。
一昔前は地価が安いエリアで出生率が高かったのですが,最近はその逆になりつつあります。地域単位のデータですが,出生率と経済力がリンクする傾向すら出てきています。
上表の3つの数値をグラフにしてみましょう。(1)2017年の出生率,(2)過去15年間の出生率の伸び幅,(3)住民の経済力です。(1)を横軸,(2)を縦軸にとった座標上に23区を配置し,各区のドットの大きさで(3)を表現します。
右上には,都心の3区があります。最近の出生率が高く,過去からの伸び幅も大きい区です。対極の左下には城東の3区が位置しています。出生率が下がり,23区内の順位が下位に落ちている区です。
23区はおおよそ右上がりの線上に位置するみたいですが,その位置を規定する要因として,住民の経済力があるみたいです。ドットの大きさからそれが知られます。最初の表から,2017年の出生率と,2016年の住民1人あたりの税負担額の相関係数を出すと+0.7208にもなります。
飛躍を承知で言うと,結婚・出産は富裕層の特権となりつつあるのでしょうか。藤田孝典さんの名著『貧困世代』(講談社現代新書)の帯に,「結婚・出産なんてぜいたくだ!」と書いてあったのを思い出します。
ここで取り上げた出生率は,人口ベースの粗出生率であって,都心のエリアには子育てファミリーがたくさんいるからだ,という疑問があるかもしれません。では,出産年齢の有配偶女性をベースにした出生率を出してみましょうか。
基幹統計の『国勢調査』から,25~44歳の有配偶女性の数を取り出し,各区の年間出生数をこれで割ってみます。『国勢調査』の実施年に合わせ,2000年と2015年の区別の出生率を計算してみました。以下に掲げるのは,出生率の順位が高い区に色をつけたマップです。
結婚している出産年齢の女性をベースにした出生率ですが,このように精緻化した出生率でみても,地域差の構造が様変わりしています。今世紀の初頭では城東の区で高かったのが,最近では都心エリアで高くなっていると。
同じように結婚している出産年齢の女性であっても,子を産もうという意向が地域によって違うようです。そういう差はいつの時代でもあるのですが,最近の特徴は,地域住民の経済力とリンクする傾向が強くなっていること。ある方がツイッターで言われてましたが,不妊治療にも費用が掛かる…。
都内23区という局地の地域データの傾向なんですが,出産と経済力の関連の強まりを演繹するのは乱暴でしょうか。日本は教育費が高く,夫婦が出産をためらう最大の理由は「教育費がかかるから」というのは,各種の調査で明らかにされていること。
そういえば前に,ニューズウィーク記事にて,日本は,男性の経済力と子持ち率の関連が最も強い社会であるのを示したのでした。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/01/post-9286.php
来年実施される2020年の『国勢調査』のデータではどうなっているか。濃い色が,ますます一部のエリアに凝縮されてないことを祈ります。
子育て費用の軽減として,来月から認可保育所の無償化が始まりますが,予想される効果はいかほどか。保育士の超薄給はそのままで,保育士不足は手付かずですので,入れる枠は変わりません。無償にしても入れなければどうしようもない。入れた人と落ちた人の落差も大きくなります。
重点をおくべきは費用軽減よりも,受け入れの枠を増すこと。保育士の待遇改善はその中核に位置します。費用負担の経年をしつつ,夫婦二馬力で稼げる環境を醸成すること。今,データを出してみたのですが,ママのフルタイム就業率と出生率って,プラスの相関なんですよね。「働く女性が増えると出生率が下がる」なんて,どの口が言った?
https://twitter.com/tmaita77/status/1177462811825324032
増税で得られた財源の使いみちを,誤らないようにしたいものです。
2019年9月25日水曜日
創造性を阻むスタンダード
昨日の西日本新聞に「筆算の線,手書きダメ 小5,160問書き直し」という記事が出ています。
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/545572/
筆算の線を手書きで出したところ,160問すべてのやり直しを命じられたそうです。あまりにもアホらしいと理由を糺したところ,「小学校では昔からこういうふうに指導している」みたいなことを言われたようですが,そうなんでしょうか。
私は,そんな指導を受けた記憶はありません。むしろ逆で,几帳面に定規を使う生徒は教師からどやされていました。教科書に定規でマークを引く生徒に対し,「まったく,そういうどうでもいいことだけは訓練されとるんだなあ」と,教師が嫌味を言っていたものでした。
東大の村上准教授の調査によると,有効回答を得た自治体の2割ほどが「スタンダード」を導入しているのだそうです。学校での授業の受け方や生活態度について細かく定めた決まりです。静岡県の小学校の例をみると「机上に置くノートや筆箱の位置,発表や話を聞く態度,あいさつの仕方,廊下の歩き方,靴や傘,トイレのスリッパの置き方,休み時間の遊び方」…。刑務所かと思うような内容です。
従順な身体を作り上げる「隠れたカリキュラム」ってやつですね。異国の人が見たら,「なるほど,日本の企業の社畜はこうやって作られるのか」と納得するでしょうか。工場労働が幅を利かす時代ならともかく,21世紀の今でも日本の学校はこの有様。ICT化の遅れといい,色々な意味で時代変化とのラグが大きいのだなと痛感します。
これからの時代,定型作業は機械(AI)がやってくれます。人間に求められるのは,新たなものを生み出す創造性です。しかるに,幼少期から細かな規則に従うのを強いられ,そこから寸分外れることも許されない生活の中で,創造性が育まれるとは考えにくし。創造というのは,型から外れることですので。
日本人の創造性って,他国との比べてどうなんでしょう。2010~14年に実施された『世界価値観調査』では,「新しいことを考え,創造的であるのを大事にする」という人間像を提示し,自分はそれにどれほど当てはまるかを問うています。以下の6段階です。
Very much like me ・・・(6点)
Like me ・・・(5点)
Somewhat like me ・・・(4点)
A little like me ・・・(3点)
Not like me ・・・(2点)
Not at all like me ・・・(1点)
各国の20代の回答分布を出し,上から6点,5点,…2点,1点を付した場合,平均点が何点になるかを計算しました。下表は,結果を高い順に並べたランキングです。
若者の創造志向の国際比較ですが,いかがでしょうか。上位には,発展途上国が多いですね。字のごとく発展の途上にあり,伸びしろを多分に残しているステージにあるので,新たなものを生み出す余地が多分にあるためでしょう。創造性に満ちた人材への評価も高いはず。
日本はというと,6段階の平均点は3.7点で,59か国の中で見事に最下位となっています。統制が強い旧共産圏の社会よりも数値が低くなっています。日本の若者の創造志向は,世界で最も低いと。予想していたことですが,データでもハッキリ出てしまいました。
要因はいろいろあるでしょうが,筆算の線を定規で引かないとダメ出しされる,教科書通りの計算方法で問題を解かないとバツにされるといった,学校のスタンダード,隠れたカリキュラムに由来する部分が大きいと思われます。
提示されたやり方に従うのがよしとされ,それからちょっとでも外れると叱られる。こんな生活を長く続けていたら,は創造性が育まれるどころか,その芽が摘まれてしまいます。上記のデータ,さもありなんです。
むろん,日本の若者にも創造志向が高い人はいます。日本の20代のうち,上記の問いに「Very much like me」ないしは「Like me」と答えたのは約3割です。はて,創造性が歓迎されない日本社会において,この人たちはどういう意識を持っているのでしょう。
上記の問いへの回答によるスコアづけで,5~6点を創造性「高」群,3~4点を「中」群,1~2点を「低」群というようにグループ分けします。この3つの群で,幸福度の設問の回答がどう違うかを調べました。
下図は,日本とアメリカの20代を取り出して,クロス集計をしたみた結果です。幸福感の設問の回答は4段階ですが,「あまり幸福でない」と「全く幸福でない」は「幸福でない」と括りました。
青色の「とても幸福」の比重に注目すると,驚くべき結果が出ています。アメリカでは創造志向が高い若者ほど幸福感は強いようですが,日本はその逆なのです。
「出る杭は打たれる」の表れのような気がします。この国において,既存のものを批判し,型から外れ,新たなものを生み出すのを好む人は,周囲から奇人視され,つまはじきにされることもあるでしょう。少なくとも小・中学校でこのような態度をとったら,教師から叱られ,嫌な思いをするのは必至です。
カイ二乗検定をしたところ,有意差というレベルではなく,単なる偶然かもしれません。もっと大規模なデータでの追試が必要ですが,上記のような傾向が再現されるとしたら大ごとですよね。
学校のスタンダードというのは,21世紀型の人間を育成するにあたって,マイナスの機能しか果たさないと思います。日本に山積している問題は,これまでの型(思考枠)を大きく外れることでしか解決できないステージに達しています。育てるべきは,型を外れるのを好む人間であって,そういう性向のある子を叱りつけ,彼らの自尊心を打ち砕いている場合ではないのです。
細かなスタンダードは今すぐ撤廃すべし。算数の文章題にしても,教科書とは違った解き方をする子を大いに褒めたたえましょう。
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/545572/
筆算の線を手書きで出したところ,160問すべてのやり直しを命じられたそうです。あまりにもアホらしいと理由を糺したところ,「小学校では昔からこういうふうに指導している」みたいなことを言われたようですが,そうなんでしょうか。
私は,そんな指導を受けた記憶はありません。むしろ逆で,几帳面に定規を使う生徒は教師からどやされていました。教科書に定規でマークを引く生徒に対し,「まったく,そういうどうでもいいことだけは訓練されとるんだなあ」と,教師が嫌味を言っていたものでした。
東大の村上准教授の調査によると,有効回答を得た自治体の2割ほどが「スタンダード」を導入しているのだそうです。学校での授業の受け方や生活態度について細かく定めた決まりです。静岡県の小学校の例をみると「机上に置くノートや筆箱の位置,発表や話を聞く態度,あいさつの仕方,廊下の歩き方,靴や傘,トイレのスリッパの置き方,休み時間の遊び方」…。刑務所かと思うような内容です。
従順な身体を作り上げる「隠れたカリキュラム」ってやつですね。異国の人が見たら,「なるほど,日本の企業の社畜はこうやって作られるのか」と納得するでしょうか。工場労働が幅を利かす時代ならともかく,21世紀の今でも日本の学校はこの有様。ICT化の遅れといい,色々な意味で時代変化とのラグが大きいのだなと痛感します。
これからの時代,定型作業は機械(AI)がやってくれます。人間に求められるのは,新たなものを生み出す創造性です。しかるに,幼少期から細かな規則に従うのを強いられ,そこから寸分外れることも許されない生活の中で,創造性が育まれるとは考えにくし。創造というのは,型から外れることですので。
日本人の創造性って,他国との比べてどうなんでしょう。2010~14年に実施された『世界価値観調査』では,「新しいことを考え,創造的であるのを大事にする」という人間像を提示し,自分はそれにどれほど当てはまるかを問うています。以下の6段階です。
Very much like me ・・・(6点)
Like me ・・・(5点)
Somewhat like me ・・・(4点)
A little like me ・・・(3点)
Not like me ・・・(2点)
Not at all like me ・・・(1点)
各国の20代の回答分布を出し,上から6点,5点,…2点,1点を付した場合,平均点が何点になるかを計算しました。下表は,結果を高い順に並べたランキングです。
若者の創造志向の国際比較ですが,いかがでしょうか。上位には,発展途上国が多いですね。字のごとく発展の途上にあり,伸びしろを多分に残しているステージにあるので,新たなものを生み出す余地が多分にあるためでしょう。創造性に満ちた人材への評価も高いはず。
日本はというと,6段階の平均点は3.7点で,59か国の中で見事に最下位となっています。統制が強い旧共産圏の社会よりも数値が低くなっています。日本の若者の創造志向は,世界で最も低いと。予想していたことですが,データでもハッキリ出てしまいました。
要因はいろいろあるでしょうが,筆算の線を定規で引かないとダメ出しされる,教科書通りの計算方法で問題を解かないとバツにされるといった,学校のスタンダード,隠れたカリキュラムに由来する部分が大きいと思われます。
提示されたやり方に従うのがよしとされ,それからちょっとでも外れると叱られる。こんな生活を長く続けていたら,は創造性が育まれるどころか,その芽が摘まれてしまいます。上記のデータ,さもありなんです。
むろん,日本の若者にも創造志向が高い人はいます。日本の20代のうち,上記の問いに「Very much like me」ないしは「Like me」と答えたのは約3割です。はて,創造性が歓迎されない日本社会において,この人たちはどういう意識を持っているのでしょう。
上記の問いへの回答によるスコアづけで,5~6点を創造性「高」群,3~4点を「中」群,1~2点を「低」群というようにグループ分けします。この3つの群で,幸福度の設問の回答がどう違うかを調べました。
下図は,日本とアメリカの20代を取り出して,クロス集計をしたみた結果です。幸福感の設問の回答は4段階ですが,「あまり幸福でない」と「全く幸福でない」は「幸福でない」と括りました。
青色の「とても幸福」の比重に注目すると,驚くべき結果が出ています。アメリカでは創造志向が高い若者ほど幸福感は強いようですが,日本はその逆なのです。
「出る杭は打たれる」の表れのような気がします。この国において,既存のものを批判し,型から外れ,新たなものを生み出すのを好む人は,周囲から奇人視され,つまはじきにされることもあるでしょう。少なくとも小・中学校でこのような態度をとったら,教師から叱られ,嫌な思いをするのは必至です。
カイ二乗検定をしたところ,有意差というレベルではなく,単なる偶然かもしれません。もっと大規模なデータでの追試が必要ですが,上記のような傾向が再現されるとしたら大ごとですよね。
学校のスタンダードというのは,21世紀型の人間を育成するにあたって,マイナスの機能しか果たさないと思います。日本に山積している問題は,これまでの型(思考枠)を大きく外れることでしか解決できないステージに達しています。育てるべきは,型を外れるのを好む人間であって,そういう性向のある子を叱りつけ,彼らの自尊心を打ち砕いている場合ではないのです。
細かなスタンダードは今すぐ撤廃すべし。算数の文章題にしても,教科書とは違った解き方をする子を大いに褒めたたえましょう。
2019年9月20日金曜日
平均のトリックの好事例
データというのは,最初は数字の羅列です。それを整理する第一歩は,度数分布表の形にすることです。しかし,報告書に度数分布表を逐一載せることはできません。そこで,データの特性を端的に表す代表値が使われます。
代表値としては,最頻値(mode),平均値(average),中央値(median)があります。最頻値はデータの個数が最も多い階級,平均値は総和を個数で除したもの,中央値は高い順に並べた時ちょうど真ん中にくる値です。
この中でよく見かけるのは平均値ですよね。平均点,平均身長,平均年収…。2018年度の文科省『学校保健統計』にょると,14歳男子の平均身長は165.3センチとなっています。これを見てわれわれは,普通の中学生の身長はこれくらいなんだなと判断します。生徒にすれば,自分は普通より小さいか,デカいかを知る目安になります。
要は,普通を知るための目安です。私はヒマがあれば,官庁統計の概要資料に目を通しているのですが,2016年の厚労省『国民生活基礎調査』の結果概要に,次ののような数字が出ていました。高齢世帯の平均貯蓄額は1284万円だそうです。
世帯主が65歳以上の世帯ですね。さすがといいますか,ガッツリ溜め込んでますね。しかるに,これをもって「普通」の高齢世帯の貯蓄額とみなしていいものか。平均値に丸める前の度数分布表に当たってみると,以下のようになります。
普通のデータは,中層が厚い山型の分布になるのですが,高齢世帯の貯蓄額はそうではありません。上と下に分化した型になっています。溜め込んでいる世帯が多いが,スッカラカンの世帯も多い,ということです。
最も多いのは,貯蓄ゼロの世帯ではないですか。最頻階級(mode)はゼロです。ちょうど真ん中の世帯(中央値)はというと,右端の累積%から,500~700万円台の階級に含まれることが知られます。累積%が50ジャストの値ですので。按分比例を使って,それを割り出しましょう,
按分比=(50.0-44.9)/(54.9-44.9)=0.5098
中央値=500万円+(200万円 × 0.5098)=602.0万円
高齢世帯の貯蓄額の中央値は602万円と出ました。報告書に載っている平均値(1284万円)の半分以下ですね。高齢世帯の貯蓄額分布を的確に代表しているのは,後者よりも前者です。ど真ん中の値ですので。平均値は,一部の極端に高い数値によって釣り上げられた(歪められた)結果に他なりません。
フツーの高齢世帯の貯蓄状況について説明するときは,「平均貯蓄額は1284万円です」ではなく,「最も多いのは貯蓄ゼロの世帯で,中央値は602万円となっています」と言いましょう。前者だと「老人からもっと金をとっていい」となりますが,後者を添えることで,そういう暴走にも歯止めがかかります。
上記の度数分布表から分かるように,平均値の1284万円を越えるのは,全体の3割ほどしかありません。こんな値で高齢世帯全体を語られたらたまったものではないでしょう。
よく言われることですが,データの代表値としては,平均値よりも中央値がベターです。分布の型が歪(いびつ)である場合,両者の乖離は大きくなります。
例を示しましょう。厚労省の『国民生活基礎調査』(2016年)には,世帯の年代ごとの平均所得額と平均貯蓄額が出ています。それを,度数分布表から割り出した中央値と対比してみます。
私の年代の40代に注目すると,世帯所得の平均値は671万円,中央値は621万円となっています。50万円の差です。貯蓄のほうをみると,平均値が652万円,中央値が344万円と隔たりが大きくなっています。倍近くの差です。元の度数分布表を見ると分かりますが,溜め込んでいる世帯とそうでない世帯に割れているからです。
貯蓄の分化(segregation)が大きい高齢層では,平均値と中央値の乖離が甚だ大きくなっています。倍以上の差です。言わずもがな,「普通」を的確に表しているのは後者です。平均値をもってそれを解釈すると,とんでもないことになります。相対的貧困率の定義が「所得が中央値の半分に満たない世帯の割合」という点も思い出してください。砕いて言うと,収入が「フツー」の半分にも満たない世帯,ということです。
平均値よりも中央値を見ろ。随所で言われていることですが,分かりやすい例が見つかりましたので,紹介してみた次第です。
度数分布表から独自に計算する場合,中央値はやや手間がかかりますが,はじき出された数値はリアルです。都道府県別の若い未婚男性の所得中央値を見てごらんなさい。私の郷里の鹿児島では,300万円稼ぐ男性に出会えたら御の字です。
官庁統計には平均値が出ていることが多いのですが,その背後にある分布に思いを巡らせましょう。できればそれにあたりましょう。最頻値や中央値という観点でみると,まったく違った値になることがしばしばです。
2019年9月15日日曜日
疎遠な専門職
ISSP(国際社会調査プログラム)は,毎年興味深い国際調査を実施しています。個票データもアップしてくださるので,本当にありがたい。
http://www.issp.org/data-download/by-year/
最新の2017年調査の主題は「人間関係」,凝った言い回しをすると「社会関係資本」です。人間は他者と関係を取り結んで生きる社会的存在ですので,しごくまともな主題であると思います。
調査票をみると,最初のQ1から面白い設問が盛られています。いくつかの職業を提示し,あなたの知り合いの中に,当該の職業の人がいるかと問うています。選択肢は,「家族・親戚にいる」「親友にいる」「知人にいる」「いない」の4つです。学校の教員(school teacher)はいるか,という問いへの回答分布は,以下のようになっています(無回答は除く)。
日本を含む主要7か国の成人の回答結果です。いつもは韓国を入れるのですが,2017年の調査対象にはなってないようですので,代わりに中国を入れました。
どうでしょう。アメリカの36.3%,フランスの39.2%の人が,家族ないしは親戚に教員がいると答えています。家族・親戚は運命的な縁ですが,この2つの社会では,教員人口が多いのでしょうか。
日本はというと,赤色の「いない」が幅を利かせています。自分が取り結んでいる人間関係の中に教員はいないという人が67.7%,7割近くを占めます。他国と比して際立って多くなっています。
就学率が高い日本で,国民あたりの教員の相対数が少ないとはちょっと考えにくい。教員はあまりに忙しく,人間関係を広げるゆとりがないのか。それとも,教員同士で固まる傾向があるのか。このブログでデータを出してきましたが,教員は同業婚が多く,異業種経験者も少ないという事実があります。
社会に人材を送り出す学校の教員は,社会を知っていなければなりません。デュルケムの『教育と社会学』で言われているように,教員は社会の代弁者なり。社会との豊かな関係を取り結んでおきたいものです。
教員と並ぶ専門職として,弁護士の知り合いがいるかも尋ねられています。この問いへの回答も面白い。日本の成人のうち,弁護士の知り合いがいると答えたのは17.7%です。アメリカでは,この比率は57.9%と6割近くにもなります。さすがは訴訟社会ですね。
他の国はどうでしょう。ISSPの2017年調査から,30か国のデータを得ることができます。横軸に教員,縦軸に弁護士の知り合いがいると答えた人の割合をとった座標上に,30の国を配置すると以下のようになります。
日本は,教員の知り合いがいる人は32.3%,弁護士の知り合いがいる人は17.7%ですが,この数値は国際的にみて最も低いようです。
対極のアイスランドは小国ということもあってか,これら2つの専門職の知り合いがいる人は全体の8割を超えます。欧米の主要国は5~7割というところ。日本よりずっと多くなっています。
教員と弁護士。わが子の教育を託し,トラブルに遭遇したときに味方になってくれる専門職ですが,日本では一般市民とあまり馴染みがないようです。教員について,私が思う所は上述の通りなんですが,弁護士は如何。欧米と異なり,日本では裁判沙汰は好まれないので,弁護士の数そのものが少ないといのもあるでしょうね。
ただ,事業をやっている人は,一般に顧問弁護士をつけます。会社の経営者だけでなく,個人事業主(フリーランス)も,ある程度の人になるとそうです。去年の11月,とある文筆家の人にグラフを盗用されましたが,私が抗議して2日も経たないうちに,代理人弁護士が和解の申し入れをしてきて,ちょっとびっくりしました。そこそこの文筆家になると,顧問弁護士と契約しているようです。
私もよくトラブルを起こす人間なんで,気軽に相談できる弁護士の知り合いがいたらなあと思うことがあります。
専門職(プロフェッショナル)というのは,高度な知識や技術を駆使して,社会に貢献することを期待される職業です。その任務を全うするには,社会の一般市民がどういうことで困っているか,何を求めているかを肌で知っていないといけません。
市民から隔たっている日本の専門職をどうみるか。彼らの生活構造を点検してみる必要があるのではないでしょうか。
http://www.issp.org/data-download/by-year/
最新の2017年調査の主題は「人間関係」,凝った言い回しをすると「社会関係資本」です。人間は他者と関係を取り結んで生きる社会的存在ですので,しごくまともな主題であると思います。
調査票をみると,最初のQ1から面白い設問が盛られています。いくつかの職業を提示し,あなたの知り合いの中に,当該の職業の人がいるかと問うています。選択肢は,「家族・親戚にいる」「親友にいる」「知人にいる」「いない」の4つです。学校の教員(school teacher)はいるか,という問いへの回答分布は,以下のようになっています(無回答は除く)。
日本を含む主要7か国の成人の回答結果です。いつもは韓国を入れるのですが,2017年の調査対象にはなってないようですので,代わりに中国を入れました。
どうでしょう。アメリカの36.3%,フランスの39.2%の人が,家族ないしは親戚に教員がいると答えています。家族・親戚は運命的な縁ですが,この2つの社会では,教員人口が多いのでしょうか。
日本はというと,赤色の「いない」が幅を利かせています。自分が取り結んでいる人間関係の中に教員はいないという人が67.7%,7割近くを占めます。他国と比して際立って多くなっています。
就学率が高い日本で,国民あたりの教員の相対数が少ないとはちょっと考えにくい。教員はあまりに忙しく,人間関係を広げるゆとりがないのか。それとも,教員同士で固まる傾向があるのか。このブログでデータを出してきましたが,教員は同業婚が多く,異業種経験者も少ないという事実があります。
社会に人材を送り出す学校の教員は,社会を知っていなければなりません。デュルケムの『教育と社会学』で言われているように,教員は社会の代弁者なり。社会との豊かな関係を取り結んでおきたいものです。
教員と並ぶ専門職として,弁護士の知り合いがいるかも尋ねられています。この問いへの回答も面白い。日本の成人のうち,弁護士の知り合いがいると答えたのは17.7%です。アメリカでは,この比率は57.9%と6割近くにもなります。さすがは訴訟社会ですね。
他の国はどうでしょう。ISSPの2017年調査から,30か国のデータを得ることができます。横軸に教員,縦軸に弁護士の知り合いがいると答えた人の割合をとった座標上に,30の国を配置すると以下のようになります。
日本は,教員の知り合いがいる人は32.3%,弁護士の知り合いがいる人は17.7%ですが,この数値は国際的にみて最も低いようです。
対極のアイスランドは小国ということもあってか,これら2つの専門職の知り合いがいる人は全体の8割を超えます。欧米の主要国は5~7割というところ。日本よりずっと多くなっています。
教員と弁護士。わが子の教育を託し,トラブルに遭遇したときに味方になってくれる専門職ですが,日本では一般市民とあまり馴染みがないようです。教員について,私が思う所は上述の通りなんですが,弁護士は如何。欧米と異なり,日本では裁判沙汰は好まれないので,弁護士の数そのものが少ないといのもあるでしょうね。
ただ,事業をやっている人は,一般に顧問弁護士をつけます。会社の経営者だけでなく,個人事業主(フリーランス)も,ある程度の人になるとそうです。去年の11月,とある文筆家の人にグラフを盗用されましたが,私が抗議して2日も経たないうちに,代理人弁護士が和解の申し入れをしてきて,ちょっとびっくりしました。そこそこの文筆家になると,顧問弁護士と契約しているようです。
私もよくトラブルを起こす人間なんで,気軽に相談できる弁護士の知り合いがいたらなあと思うことがあります。
専門職(プロフェッショナル)というのは,高度な知識や技術を駆使して,社会に貢献することを期待される職業です。その任務を全うするには,社会の一般市民がどういうことで困っているか,何を求めているかを肌で知っていないといけません。
市民から隔たっている日本の専門職をどうみるか。彼らの生活構造を点検してみる必要があるのではないでしょうか。
2019年9月13日金曜日
ツリーマップでみる人口
ツリーマップグラフというのをご存知でしょうか。階層化されたデータを,四角形の中の陣取りで表現する図法です。
日本の国土は大きく8つの地方に分けられ,さらに47都道府県に細分されます。2017年の県別人口は以下のようになっています。地方ごとに色をつけています。単位は千人です。
最も多いのは,東京都で1372万人です。東京都だけで総人口の1割,関東の7都県だけで3割が占められます。
各地方・県の人口のシェアを,四角形の中の陣取りで表せるのは,ツリーマップグラフです。エクセルで作ってみると,以下のようになります。
8つの地方の色分けは,上記の元データの表と揃えています。関東地方,東京都のシェアは大きいですね。東北地方6県の合算は,東京都に及びません。
ご自分の県はいかがでしょうか。単純な棒グラフでは,全体の中での比重は分かりませんが,こういう陣取りグラフだと,それ見て取りやすくなります。私が住んでいる神奈川県は,思ったより広いんだな。最近は大阪府を抜いて,人口が2位ですので。
赤枠は,人口上位5位です。これら5都府県の人口だけで,総人口の36.7%が占められます。人口の集中は凄まじい。しかしこれら5都府県は,面積の上ではわずかなんですよね。47都道府県の面積を,同じやり方で表現してみましょう。
トップはダントツで北海道です。東北6県の合算よりも,北海道のほうが大きいのですね。小学校4年生の社会科の授業で,「岩手県は四国4県より大きいんだぞ」と担任に聞かされた記憶がありますが,どうやらそれは間違いのようです。郷里の鹿児島は,九州では一番広いのだな…。こうやって,陣取りにしてみると分かりやすい。
赤枠は人口上位5位の都府県ですが,狭いエリアに人口が密集しているのですね。これら5都府県の面積は,国土全体の4.2%でしかありません。こんな狭い土地に,総人口の4割近くが住んでいると。通勤電車がぎゅうぎゅうになるはずです。東京は狭い土地を活用すべく,どんどん「空に伸びる」と言われ,タワマンが林立しています。
以上は日本の8地方・47都道府県のツリーマップグラフの見本ですが,世界に視野を拡張してみましょうか。
世界は大きく6つの地域に分かれ,その中に200を超える国ならびに小地域(島)が含まれます。総務省の『世界の統計2019』という資料に,231の国・小地域の人口が出ています。2017年の推計値です。これをツリーマップにしてみます。
データの数は231と膨大ですが,人口がネグリジブルスモールの国・地域は,可視的な四角形として表れません(グラフのサイズをうんとデカくすれば別ですが)。
大雑把な地域別にみると,アジアのシェアが大きいですね。大国の中国とインドを擁しているからです。日本もシェアが結構ありますね。2017年の世界人口ランクは11位なり。
これは2017年の勢力図ですが,2050年には中国とインドだけで世界人口の3分の1が占められます。3人に1人が「ニーハオ」か「ナマステ」になるわけです。これら2国の言語や文化を学ぼうという機運が強まるかもしれません。
それと,水色のアフリカの比重もどんどん増してきます。日本と対照的に,アフリカ諸国では今後も人口が直線的に増えていく見込みですので。2050年のデータをみると,インド・中国に次ぐ人口大国は,北アフリカのナイジェリアとなる予測です。
未来の国別人口のツリーマップグラフは,『2100年の世界地図・アフラネシアの時代』(岩波新書)に載っています。昨日,横浜の紀伊国屋で立ち読みしましたが,上記の現時点の図とは,模様がかなり変わっています。
https://honto.jp/netstore/pd-book_29760291.html
最後に,富の国別占有度を可視化してみましょうか。自由競争の社会では,人口の上でわずかの富裕層が,一国の富の大半をせしめるのが常なんですが,ワールドワイドでも同じことがいえます。
78か国の国内総生産(GDP)の内訳を,ツリーマップグラフで表してみます。国の数は少ないですが,これら以外の小国のGDPはネグリジブルスモールですので,影響はあまりないとみていいでしょう。
トップはアメリカ,2位は中国,3位は日本です。よく言われるように,GDPの上では,日本は世界に名だたる経済大国なり。
赤枠の上位5位のGDPだけで,78か国の総額の55.7%が占有されています。世界の富の大半を,少数の先進国が寡占していることの表現です。人口では結構いるアフリカ諸国のGDPの割合は2.4%でしかありません。
今後はアフリカの人口爆発が続きますので,富の分布も変わってくるのでしょうね。
四角形の陣取りで表現するツリーマップグラフは面白いです。今回は人口やGDPのデータを使いましたが,1日の生活行動の分布を表すなんてのはどうでしょう。大きくは1次,2次,3次行動に分かたれますが,日本の生産年齢男性でみると,2次行動(仕事!)で大半が占められちゃうでしょうね。『社会生活基本調査』の平均時間のデータを使えば,この点を抉り出せます。
中学校の総合的な学習の時間で,こういうグラフを作らせる作業をさせたらどうでしょう。社会科と数学科の内容をドッキングした総合学習です。
中高の先生方がこのブログを見てくださっているようで,授業の教材としてデータを使わせてほしい,という依頼がたまにきます。度数分布を教えるなら,労働者の所得分布が一番。ジェンダー差や正規・非正規差に生徒も仰天し,大いに関心を寄せることでしょう。架空のテストの点数分布なんてナンセンスです。
授業には,生徒が関心を持ちそうな題材を使う。これは揺るぎない鉄則です。
日本の国土は大きく8つの地方に分けられ,さらに47都道府県に細分されます。2017年の県別人口は以下のようになっています。地方ごとに色をつけています。単位は千人です。
最も多いのは,東京都で1372万人です。東京都だけで総人口の1割,関東の7都県だけで3割が占められます。
各地方・県の人口のシェアを,四角形の中の陣取りで表せるのは,ツリーマップグラフです。エクセルで作ってみると,以下のようになります。
8つの地方の色分けは,上記の元データの表と揃えています。関東地方,東京都のシェアは大きいですね。東北地方6県の合算は,東京都に及びません。
ご自分の県はいかがでしょうか。単純な棒グラフでは,全体の中での比重は分かりませんが,こういう陣取りグラフだと,それ見て取りやすくなります。私が住んでいる神奈川県は,思ったより広いんだな。最近は大阪府を抜いて,人口が2位ですので。
赤枠は,人口上位5位です。これら5都府県の人口だけで,総人口の36.7%が占められます。人口の集中は凄まじい。しかしこれら5都府県は,面積の上ではわずかなんですよね。47都道府県の面積を,同じやり方で表現してみましょう。
トップはダントツで北海道です。東北6県の合算よりも,北海道のほうが大きいのですね。小学校4年生の社会科の授業で,「岩手県は四国4県より大きいんだぞ」と担任に聞かされた記憶がありますが,どうやらそれは間違いのようです。郷里の鹿児島は,九州では一番広いのだな…。こうやって,陣取りにしてみると分かりやすい。
赤枠は人口上位5位の都府県ですが,狭いエリアに人口が密集しているのですね。これら5都府県の面積は,国土全体の4.2%でしかありません。こんな狭い土地に,総人口の4割近くが住んでいると。通勤電車がぎゅうぎゅうになるはずです。東京は狭い土地を活用すべく,どんどん「空に伸びる」と言われ,タワマンが林立しています。
以上は日本の8地方・47都道府県のツリーマップグラフの見本ですが,世界に視野を拡張してみましょうか。
世界は大きく6つの地域に分かれ,その中に200を超える国ならびに小地域(島)が含まれます。総務省の『世界の統計2019』という資料に,231の国・小地域の人口が出ています。2017年の推計値です。これをツリーマップにしてみます。
データの数は231と膨大ですが,人口がネグリジブルスモールの国・地域は,可視的な四角形として表れません(グラフのサイズをうんとデカくすれば別ですが)。
大雑把な地域別にみると,アジアのシェアが大きいですね。大国の中国とインドを擁しているからです。日本もシェアが結構ありますね。2017年の世界人口ランクは11位なり。
これは2017年の勢力図ですが,2050年には中国とインドだけで世界人口の3分の1が占められます。3人に1人が「ニーハオ」か「ナマステ」になるわけです。これら2国の言語や文化を学ぼうという機運が強まるかもしれません。
それと,水色のアフリカの比重もどんどん増してきます。日本と対照的に,アフリカ諸国では今後も人口が直線的に増えていく見込みですので。2050年のデータをみると,インド・中国に次ぐ人口大国は,北アフリカのナイジェリアとなる予測です。
未来の国別人口のツリーマップグラフは,『2100年の世界地図・アフラネシアの時代』(岩波新書)に載っています。昨日,横浜の紀伊国屋で立ち読みしましたが,上記の現時点の図とは,模様がかなり変わっています。
https://honto.jp/netstore/pd-book_29760291.html
最後に,富の国別占有度を可視化してみましょうか。自由競争の社会では,人口の上でわずかの富裕層が,一国の富の大半をせしめるのが常なんですが,ワールドワイドでも同じことがいえます。
78か国の国内総生産(GDP)の内訳を,ツリーマップグラフで表してみます。国の数は少ないですが,これら以外の小国のGDPはネグリジブルスモールですので,影響はあまりないとみていいでしょう。
トップはアメリカ,2位は中国,3位は日本です。よく言われるように,GDPの上では,日本は世界に名だたる経済大国なり。
赤枠の上位5位のGDPだけで,78か国の総額の55.7%が占有されています。世界の富の大半を,少数の先進国が寡占していることの表現です。人口では結構いるアフリカ諸国のGDPの割合は2.4%でしかありません。
今後はアフリカの人口爆発が続きますので,富の分布も変わってくるのでしょうね。
四角形の陣取りで表現するツリーマップグラフは面白いです。今回は人口やGDPのデータを使いましたが,1日の生活行動の分布を表すなんてのはどうでしょう。大きくは1次,2次,3次行動に分かたれますが,日本の生産年齢男性でみると,2次行動(仕事!)で大半が占められちゃうでしょうね。『社会生活基本調査』の平均時間のデータを使えば,この点を抉り出せます。
中学校の総合的な学習の時間で,こういうグラフを作らせる作業をさせたらどうでしょう。社会科と数学科の内容をドッキングした総合学習です。
中高の先生方がこのブログを見てくださっているようで,授業の教材としてデータを使わせてほしい,という依頼がたまにきます。度数分布を教えるなら,労働者の所得分布が一番。ジェンダー差や正規・非正規差に生徒も仰天し,大いに関心を寄せることでしょう。架空のテストの点数分布なんてナンセンスです。
授業には,生徒が関心を持ちそうな題材を使う。これは揺るぎない鉄則です。
2019年9月11日水曜日
避難所指定学校の防災機能の都道府県比較
先日,台風15号が関東地方に襲来しました。横須賀に上陸したのは9日の午前2時頃。暴風雨の音で眠れず,アパートも揺れ,恐怖を感じました。
夕刻のウォーキングでこの辺を歩くと,屋根瓦が飛び,2階のベランダがごっそりもぎ取られている家屋が見受けられます。人手不足で修理業者もすぐには来てくれないでしょうから,当分の間,殺伐とした風景を見せられそうです。
被害が甚大で,家屋が倒壊したり,ライフラインの断絶が長引いたりするようであれば,避難所での生活を強いられます。避難所に指定されているのは地域の公共施設,その代表格は学校です。
学校には広い校庭や,雨露をしのげる体育館があるためですが,空間やハコがあるだけではダメで,生活に必要な物資が備蓄されていることが望ましい。
文科省の統計によると,今年4月1日時点において,避難所に指定されている公立学校は全国に3万349校あります。小学校,中学校,義務教育学校,高等学校,中等教育学校,特別支援学校です。これらの学校のうち,6つの資源(防災機能)を保有している学校のパーセンテージは以下のごとし。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/bousai/1420466.htm
1)備蓄倉庫 ・・・ 78.1%
2)飲料水 ・・・ 73.7%
3)非常用発電機等 ・・・ 60.9%
4)LPガス等 ・・・ 57.1%
5)災害時利用通信 ・・・ 80.8%
6)断水時のトイレ ・・・ 58.3%
この数字の意味合いは分かりませんが,炊事や暖をとるのに必要なガスや,人間の生理を処理するのに欠かせない断水トイレの保有率が低いのは,痛手であるように思います。
しかし地域差があり,石川県では避難所指定学校(以下,学校)の全てがLPガスを備えており,鳥取県の学校の断水トイレ保有率は100%となっています。上記の文科省資料に,6つの防災機能の保有率が都道府県別に出ていますので,その一覧をご覧に入れましょう。
黄色マークは最高値,青色マークは最低値です。鳥取県は,5つの機能の保有率が全国一となっています(LPガスだけ陥落しているのはどういう事情か?)。石川県もスゴイ。避難所指定学校の防災機能が充実している県です。
対して郷里の鹿児島県をみると,すべての機能の保有率が全国値を割っています。うーん,台風や水害が多い県なんですがね。活火山の桜島も擁しています。
6つの防災機能の保有率を合成して,各県の避難所指定学校の防災機能充実度を評価する単一尺度を作ってみましょう。値の性質が違うので,6つの数値を単純に平均することはできません。そこで,それぞれの数値を0.0~1.0の範囲の相対スコアに換算します。最低値を0.0,最高値を1.0とした場合,いくつになるかです。以下の式で計算します。
相対スコア=(当該県の値-最低値)/(最高値-最低値)
鹿児島県の備蓄倉庫保有率は58.6%ですが,これを相対スコアにすると,(58.6-35.4)/(100.0-35.4)=0.359 となります。47都道府県の分布幅(0.0~1.0)の中で,どの辺に位置するかの表現です。
こうすることで6つの保有率を同列に扱うことができ,平均するのも可能になります。鹿児島県の6つの保有率スコアを平均すると0.242となります。本県の避難所指定学校の防災機能充実度を測る総合尺度です。防災機能指数ということにしましょう。
このやり方で,47都道府県の避難所指定学校の防災機能指数を計算しました。高い順に並べてみます。
トップは石川県の0.941です。上記の一覧表で分かるように,6つの機能の保有率とも,バランスよく高くなっていますので。避難所指定学校の防災機能の最優良県なり。鳥取県は,LPガスの保有率が陥落しているのがネックになりました。
石川県に次ぐのは東京都。首都圏直下型地震への警戒か,そもそも財政に比較的余裕があるためなのか。東海大地震の被害が懸念される静岡県も上位5位に入っています。本県の教員採用試験では毎年,学校防災の問題が出ます。
表の右下に目を移すと,防災機能指数が低いのは西南で多いようです。郷里の鹿児島はワースト4位。鹿児島,沖縄,長崎…。これらの県の離島部は台風銀座とも言われているのですが。
上表の指数を地図に落としてみると地域性も浮き出てきます。0.5と0.6で区切った3段階で塗り分けてみました。
東日本大震災に見舞われた宮城県,東海・中部,四国地方において,避難所指定学校の防災機能指数が高くなっています。首都圏大地震,東海大地震,南海トラフ地震への警戒ゆえでしょうか。
対して中国や九州は真っ白。台風がよく通り,豪雨による水害に見舞われやすいエリアでもあります。「備え」を充実させたいものです。
ただ専門家も言われるように,避難所の機能を学校だけに任せるのはいただけません。「寺や神社,民間企業」なども分担すべきでしょう。求められるのは,防災体制の組織化です。
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/541492/
今回は生活物資(施設)の保有率という点で,47都道府県を比べましたが,ジェンダーの視点による評価も欠かせません。避難所生活で生じるニーズは,女性と男性では違いますので。ジェンダーの視点による都道府県比較は,日本女性学習財団機関誌『We Learn』の8月号でやっています。興味ある方はどうぞ。
夕刻のウォーキングでこの辺を歩くと,屋根瓦が飛び,2階のベランダがごっそりもぎ取られている家屋が見受けられます。人手不足で修理業者もすぐには来てくれないでしょうから,当分の間,殺伐とした風景を見せられそうです。
被害が甚大で,家屋が倒壊したり,ライフラインの断絶が長引いたりするようであれば,避難所での生活を強いられます。避難所に指定されているのは地域の公共施設,その代表格は学校です。
学校には広い校庭や,雨露をしのげる体育館があるためですが,空間やハコがあるだけではダメで,生活に必要な物資が備蓄されていることが望ましい。
文科省の統計によると,今年4月1日時点において,避難所に指定されている公立学校は全国に3万349校あります。小学校,中学校,義務教育学校,高等学校,中等教育学校,特別支援学校です。これらの学校のうち,6つの資源(防災機能)を保有している学校のパーセンテージは以下のごとし。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shisetu/bousai/1420466.htm
1)備蓄倉庫 ・・・ 78.1%
2)飲料水 ・・・ 73.7%
3)非常用発電機等 ・・・ 60.9%
4)LPガス等 ・・・ 57.1%
5)災害時利用通信 ・・・ 80.8%
6)断水時のトイレ ・・・ 58.3%
この数字の意味合いは分かりませんが,炊事や暖をとるのに必要なガスや,人間の生理を処理するのに欠かせない断水トイレの保有率が低いのは,痛手であるように思います。
しかし地域差があり,石川県では避難所指定学校(以下,学校)の全てがLPガスを備えており,鳥取県の学校の断水トイレ保有率は100%となっています。上記の文科省資料に,6つの防災機能の保有率が都道府県別に出ていますので,その一覧をご覧に入れましょう。
黄色マークは最高値,青色マークは最低値です。鳥取県は,5つの機能の保有率が全国一となっています(LPガスだけ陥落しているのはどういう事情か?)。石川県もスゴイ。避難所指定学校の防災機能が充実している県です。
対して郷里の鹿児島県をみると,すべての機能の保有率が全国値を割っています。うーん,台風や水害が多い県なんですがね。活火山の桜島も擁しています。
6つの防災機能の保有率を合成して,各県の避難所指定学校の防災機能充実度を評価する単一尺度を作ってみましょう。値の性質が違うので,6つの数値を単純に平均することはできません。そこで,それぞれの数値を0.0~1.0の範囲の相対スコアに換算します。最低値を0.0,最高値を1.0とした場合,いくつになるかです。以下の式で計算します。
相対スコア=(当該県の値-最低値)/(最高値-最低値)
鹿児島県の備蓄倉庫保有率は58.6%ですが,これを相対スコアにすると,(58.6-35.4)/(100.0-35.4)=0.359 となります。47都道府県の分布幅(0.0~1.0)の中で,どの辺に位置するかの表現です。
こうすることで6つの保有率を同列に扱うことができ,平均するのも可能になります。鹿児島県の6つの保有率スコアを平均すると0.242となります。本県の避難所指定学校の防災機能充実度を測る総合尺度です。防災機能指数ということにしましょう。
このやり方で,47都道府県の避難所指定学校の防災機能指数を計算しました。高い順に並べてみます。
トップは石川県の0.941です。上記の一覧表で分かるように,6つの機能の保有率とも,バランスよく高くなっていますので。避難所指定学校の防災機能の最優良県なり。鳥取県は,LPガスの保有率が陥落しているのがネックになりました。
石川県に次ぐのは東京都。首都圏直下型地震への警戒か,そもそも財政に比較的余裕があるためなのか。東海大地震の被害が懸念される静岡県も上位5位に入っています。本県の教員採用試験では毎年,学校防災の問題が出ます。
表の右下に目を移すと,防災機能指数が低いのは西南で多いようです。郷里の鹿児島はワースト4位。鹿児島,沖縄,長崎…。これらの県の離島部は台風銀座とも言われているのですが。
上表の指数を地図に落としてみると地域性も浮き出てきます。0.5と0.6で区切った3段階で塗り分けてみました。
東日本大震災に見舞われた宮城県,東海・中部,四国地方において,避難所指定学校の防災機能指数が高くなっています。首都圏大地震,東海大地震,南海トラフ地震への警戒ゆえでしょうか。
対して中国や九州は真っ白。台風がよく通り,豪雨による水害に見舞われやすいエリアでもあります。「備え」を充実させたいものです。
ただ専門家も言われるように,避難所の機能を学校だけに任せるのはいただけません。「寺や神社,民間企業」なども分担すべきでしょう。求められるのは,防災体制の組織化です。
https://www.nishinippon.co.jp/item/n/541492/
今回は生活物資(施設)の保有率という点で,47都道府県を比べましたが,ジェンダーの視点による評価も欠かせません。避難所生活で生じるニーズは,女性と男性では違いますので。ジェンダーの視点による都道府県比較は,日本女性学習財団機関誌『We Learn』の8月号でやっています。興味ある方はどうぞ。
2019年9月8日日曜日
司法は男社会
今朝の朝日新聞ウェブに,「性暴力が無罪になる国-司法判断の根底には性差別が」という記事が出ています。
https://digital.asahi.com/articles/ASM8V05QJM8TUTIL020.html
近年,性暴力の無罪判決が相次いでいます。「本当に嫌なら激しく抵抗したはずである」と。酒で意識を飛ばせた女性との性行為については,「抵抗が不可能だったのは認めるが,『相手の同意がある』と被告が思った可能性があるので,故意とはいえない」と。
強制性交の要件として,激しい抵抗ないしは抵抗の不能性,そして故意性があるとのことですが,理解不能ですねえ。被害者は極度の恐怖から身体が凍り付いて何もできないことが多し。意識がない相手への行為については,「同意があると思った」と主張すれば,故意とは認められず,無罪放免。ワケが分かんないです。
記事中で角田弁護士が言われているように,同意のない性行為は全て罰するようにすべきかと思います。しかし,同弁護士が続けて言われるように「条文を変えても,運用する人の頭の中が同じであれば」,判断は一緒です。変えるべきは,社会に蔓延る性差別,そして「男社会」と形容される司法の構造なり。
司法の「男社会」の度合いは,法を適用して判断を下す裁判官(判事)がどれくらい男性で占められているか,別の言い方をすれば何%が女性であるか,という指標によって可視化できます。国連薬物犯罪事務所(UNODC)のホームページの統計をもとに,国別の数値を計算してみましたので,ご覧に入れましょう。
https://dataunodc.un.org/crime
私が計算したのは,各国の裁判官・判事(Professional Judges or Magistrates)の女性比率です。データの年次は2014年です。日本でいうと,3750人の裁判官のうち,女性は703人となっています。比率にすると18.7%,5人に1人というところです。
これだけでは「ふーん」「そんなとこだろうね」という感想しか出ないですが,世界各国の分布ではどの辺に位置するのでしょう。上記の資料から62か国のデータを算出できました。高い順に並べてみます。
ぐむむむ。日本の裁判官の女性比率は,下から2番目となっています。相対順位もさることながら,パーセンテージの絶対水準に低さにも絶句します。データをとれた62か国の平均値は47.8%です。裁判官の男女比は「半々」というのが,国際的な標準なり。日本はそれをはるかに下回っています。
異国の人が日本にきて,数日ほど裁判の法廷を見学したら,こう言いたくなるでしょう。「日本の裁判官は男性だらけだが,これでは男性よりの判決が多くなるのではないか」と。実際そうなんですがね。フランスでは,裁判官の7割近くが女性であるようですが,この国の性犯罪の裁判を傍聴してみたいものです。どういうやり取りがされるんでしょう。
日本では,被害者が被害を訴え出て,被害届を警察に受理させ,相手を起訴し,被告として法廷に立たせるのも容易ではありません。
伊藤さんの『Black Box』(文藝春秋)を読むと,警察を動かすのがいかに大変かが分かります。男性警官に事件時のことを根掘り葉掘り聞かれ,性行為をされている体勢を再現させられ,あげく被害届を出さないよう執拗に言われます。セカンドレイプ以外の何物でもありません。被害を訴え出るのも勇気が要りますが,被害届を受理させるのも大変。泣き寝入りする,被害届をつっぱねられる…。こういう人は数多くいるでしょう。裁判以前の問題です。
司法の前段階,最初に被害の訴えを受け付ける警察が「男社会」であるのも問題といえましょう。上表の62か国のうち,42か国について,警察官の女性比率と強姦事件の認知件数(人口10万人あたり)が分かります。警察官の裁判官の女性比のマトリクスに42か国を散りばめ,強姦事件の認知件数で各国のドットの大きさを表現したグラフを作ってみました。
日本は裁判官の女性比は18.7%と低いのですが,警察官の女性比は7.7%ともっと低し。事件を受け付ける警察,裁きを下す司法とも「男社会」です。
こういう構造ゆえか,警察統計に記録されている強姦事件認知件数(2013年)は,人口10万人あたり1.1件と,にわかに信じがたい数値になっています。この背後に膨大な暗数があるであろうことは,想像に難くありません。
冒頭の朝日新聞記事で角田弁護士が言われていますが,性暴力事件に関わるトンデモ判決は以前から出ていました。フラワーデモに象徴されるように,最近になってそれが糾弾されるようになっているのは,メディアの中で女性記者が増えたからではないでしょうか。
この伝でいうと,「性暴力が無罪になる国」を変えるには,まずもって,警察と司法の「男社会」の構造を変えるべきかと思います。その余地が大有りなのは,上記のグラフから明らかです。日本のドットはもっと右上に移行し,ドットがもっと膨らむのが健全であると思います。イギリスやフランスのように。
https://digital.asahi.com/articles/ASM8V05QJM8TUTIL020.html
近年,性暴力の無罪判決が相次いでいます。「本当に嫌なら激しく抵抗したはずである」と。酒で意識を飛ばせた女性との性行為については,「抵抗が不可能だったのは認めるが,『相手の同意がある』と被告が思った可能性があるので,故意とはいえない」と。
強制性交の要件として,激しい抵抗ないしは抵抗の不能性,そして故意性があるとのことですが,理解不能ですねえ。被害者は極度の恐怖から身体が凍り付いて何もできないことが多し。意識がない相手への行為については,「同意があると思った」と主張すれば,故意とは認められず,無罪放免。ワケが分かんないです。
記事中で角田弁護士が言われているように,同意のない性行為は全て罰するようにすべきかと思います。しかし,同弁護士が続けて言われるように「条文を変えても,運用する人の頭の中が同じであれば」,判断は一緒です。変えるべきは,社会に蔓延る性差別,そして「男社会」と形容される司法の構造なり。
司法の「男社会」の度合いは,法を適用して判断を下す裁判官(判事)がどれくらい男性で占められているか,別の言い方をすれば何%が女性であるか,という指標によって可視化できます。国連薬物犯罪事務所(UNODC)のホームページの統計をもとに,国別の数値を計算してみましたので,ご覧に入れましょう。
https://dataunodc.un.org/crime
私が計算したのは,各国の裁判官・判事(Professional Judges or Magistrates)の女性比率です。データの年次は2014年です。日本でいうと,3750人の裁判官のうち,女性は703人となっています。比率にすると18.7%,5人に1人というところです。
これだけでは「ふーん」「そんなとこだろうね」という感想しか出ないですが,世界各国の分布ではどの辺に位置するのでしょう。上記の資料から62か国のデータを算出できました。高い順に並べてみます。
ぐむむむ。日本の裁判官の女性比率は,下から2番目となっています。相対順位もさることながら,パーセンテージの絶対水準に低さにも絶句します。データをとれた62か国の平均値は47.8%です。裁判官の男女比は「半々」というのが,国際的な標準なり。日本はそれをはるかに下回っています。
異国の人が日本にきて,数日ほど裁判の法廷を見学したら,こう言いたくなるでしょう。「日本の裁判官は男性だらけだが,これでは男性よりの判決が多くなるのではないか」と。実際そうなんですがね。フランスでは,裁判官の7割近くが女性であるようですが,この国の性犯罪の裁判を傍聴してみたいものです。どういうやり取りがされるんでしょう。
日本では,被害者が被害を訴え出て,被害届を警察に受理させ,相手を起訴し,被告として法廷に立たせるのも容易ではありません。
伊藤さんの『Black Box』(文藝春秋)を読むと,警察を動かすのがいかに大変かが分かります。男性警官に事件時のことを根掘り葉掘り聞かれ,性行為をされている体勢を再現させられ,あげく被害届を出さないよう執拗に言われます。セカンドレイプ以外の何物でもありません。被害を訴え出るのも勇気が要りますが,被害届を受理させるのも大変。泣き寝入りする,被害届をつっぱねられる…。こういう人は数多くいるでしょう。裁判以前の問題です。
司法の前段階,最初に被害の訴えを受け付ける警察が「男社会」であるのも問題といえましょう。上表の62か国のうち,42か国について,警察官の女性比率と強姦事件の認知件数(人口10万人あたり)が分かります。警察官の裁判官の女性比のマトリクスに42か国を散りばめ,強姦事件の認知件数で各国のドットの大きさを表現したグラフを作ってみました。
日本は裁判官の女性比は18.7%と低いのですが,警察官の女性比は7.7%ともっと低し。事件を受け付ける警察,裁きを下す司法とも「男社会」です。
こういう構造ゆえか,警察統計に記録されている強姦事件認知件数(2013年)は,人口10万人あたり1.1件と,にわかに信じがたい数値になっています。この背後に膨大な暗数があるであろうことは,想像に難くありません。
冒頭の朝日新聞記事で角田弁護士が言われていますが,性暴力事件に関わるトンデモ判決は以前から出ていました。フラワーデモに象徴されるように,最近になってそれが糾弾されるようになっているのは,メディアの中で女性記者が増えたからではないでしょうか。
この伝でいうと,「性暴力が無罪になる国」を変えるには,まずもって,警察と司法の「男社会」の構造を変えるべきかと思います。その余地が大有りなのは,上記のグラフから明らかです。日本のドットはもっと右上に移行し,ドットがもっと膨らむのが健全であると思います。イギリスやフランスのように。
2019年9月6日金曜日
フリー編集者の増加に思う
『Webにはなぜ三流編集者がのさばるのか?』という本が出ています。電子書籍です。買ってはいませんが,目次をみて内容は推して知るべし。私の実体験に照らしても頷けることばかりです。
今やオンラインは大きな広告収入源で,そこそこの規模のある出版社は,この分野に手を出さないわけにはいきません。オンラインは,問題があった場合でもすぐに修正ないしは削除が可能で,クオリティ担保の必要性は「紙」に比して低し。そこで,ろくに訓練も受けてないフリー編集者に担当が振られる。私の担当についた編集者は,こういう人でした。
出版不況が言われる中,記者や編集者の数は減少傾向です。しかしフリーの編集者は…。下表を見てください。
記者・編集者の数は,2000年の9万5899人をピークに減少傾向で,2015年には7万8730人にまで減っています。『国勢調査』で観測可能な期間では最低です。出版不況の影響でしょう。
しかしフリー編集者は,同じ期間になけて8171人から1万1540人に増えています。総数に占める比率も8.5%から14.7%にアップ。2015年では,記者・編集者の7人に1人がフリーランスです。出版社の人件費抑制志向が高まり,またネットメディアの普及にもよるとみられます。
フリー編集者の質が劣っていると決めつけるのではないですが,酷い目に遭った立場から言わせてもらうと,基本的な訓練や倫理教育を受けてない人が結構いるのではないかなあ,と邪推してしまいます。
4月の半ばくらいでしたか,とあるネットメディアの記事が私のグラフを無断転載していました。4つもです。私が抗議したところ,「出典を書いており,舞田先生の元記事へのリンクも張っている。正当な引用であると捉えています」というリプが返ってきました。
何をいわんや。引用とは,自説を補強する意味合いで,必要最低限の範囲でなされるものです。自分の主張・コンテンツが「主」で,引用部分は「従」でないといけません。しかし問題の記事は,私のグラフ4つをメインに書かれており,主従関係が完全に逆転しています。正当な引用(フェアユース)とは,到底言えません。こういう使い方をする場合は,許諾を得ないといけません。
私がこの点を指摘すると,しばらくしてから「上司に確認した結果,おしゃる通りでした。申し訳ありませんでした。記事を削除し,ご希望でしたら使用料を払います」というメールがきました。その後,上司から「大変申し訳ありませんでした。外部スタッフが担当したもので,今後は教育を徹底します」というお詫びもきました。
出版は国の文化の根幹です。「紙」も「ネット」も,社内(社員)も社外(フリー)もありません。業務に当たらせる前に,編集者としての訓練,倫理教育をしっかりしてほしいと願います。
今やオンラインは大きな広告収入源で,そこそこの規模のある出版社は,この分野に手を出さないわけにはいきません。オンラインは,問題があった場合でもすぐに修正ないしは削除が可能で,クオリティ担保の必要性は「紙」に比して低し。そこで,ろくに訓練も受けてないフリー編集者に担当が振られる。私の担当についた編集者は,こういう人でした。
出版不況が言われる中,記者や編集者の数は減少傾向です。しかしフリーの編集者は…。下表を見てください。
記者・編集者の数は,2000年の9万5899人をピークに減少傾向で,2015年には7万8730人にまで減っています。『国勢調査』で観測可能な期間では最低です。出版不況の影響でしょう。
しかしフリー編集者は,同じ期間になけて8171人から1万1540人に増えています。総数に占める比率も8.5%から14.7%にアップ。2015年では,記者・編集者の7人に1人がフリーランスです。出版社の人件費抑制志向が高まり,またネットメディアの普及にもよるとみられます。
フリー編集者の質が劣っていると決めつけるのではないですが,酷い目に遭った立場から言わせてもらうと,基本的な訓練や倫理教育を受けてない人が結構いるのではないかなあ,と邪推してしまいます。
4月の半ばくらいでしたか,とあるネットメディアの記事が私のグラフを無断転載していました。4つもです。私が抗議したところ,「出典を書いており,舞田先生の元記事へのリンクも張っている。正当な引用であると捉えています」というリプが返ってきました。
何をいわんや。引用とは,自説を補強する意味合いで,必要最低限の範囲でなされるものです。自分の主張・コンテンツが「主」で,引用部分は「従」でないといけません。しかし問題の記事は,私のグラフ4つをメインに書かれており,主従関係が完全に逆転しています。正当な引用(フェアユース)とは,到底言えません。こういう使い方をする場合は,許諾を得ないといけません。
私がこの点を指摘すると,しばらくしてから「上司に確認した結果,おしゃる通りでした。申し訳ありませんでした。記事を削除し,ご希望でしたら使用料を払います」というメールがきました。その後,上司から「大変申し訳ありませんでした。外部スタッフが担当したもので,今後は教育を徹底します」というお詫びもきました。
出版は国の文化の根幹です。「紙」も「ネット」も,社内(社員)も社外(フリー)もありません。業務に当たらせる前に,編集者としての訓練,倫理教育をしっかりしてほしいと願います。
2019年9月5日木曜日
公務員の割合
人手不足もあり,働く人の過重労働がよりいっそう深刻化していますが,「官」の世界も例外ではありません。いやむしろ,公務員がそれを率先している感もあります。教員の過重労働はよく知られていること。それがすっかり知れ渡ってか,教員採用試験の競争率は低下の一途です。
中央省庁で働く国家公務員の長時間労働も酷し。厚生行政と労働行政を一手に担う厚生労働省の職員は,自らの状況を「生きて墓場にいるようなものだ」と形容し,薬物所持で捕まった同省職員は「覚せい剤を使ってでも仕事に行かねばと思った」と,裁判で話しています。
https://blogos.com/article/401703/
仕事がべらぼうに多いからですが,人員が不足しているというのもあるでしょう。ちょっと前に,厚労省の統計不正が取り沙汰されましたが,その要因として人員の不足(削減)を指摘する声が多く上がりました。
実はですね,日本の労働者に占める公務員の割合って,少ないのです。ISSPが2017年に実施した調査によると,日本の雇用労働者のうち,公的セクターで働いていると答えた人の割合は11.5%でしかありません,日本の雇用労働者の公務員比率は1割ちょいでしかないわけです。
http://www.issp.org/data-download/by-year/
海を隔てた大国アメリカは20.2%で,日本の倍以上です。イギリスは28.9%,ドイツは28.0%,フランスは35.6%と,さらに高くなっています。フランスでは,勤め人の3人に1人が公務員なんですね。
公務員比率がもっと高い国もあります。下図は,調査対象の30か国を高い順に並べたグラフです。
青色は,公務員のシェアです。日本は下から2番目となっています。グラフの上をみると,公務員割合の上位3位は北欧の3国となっています。デンマークとスウェーデンは,雇用労働者の半分近くが公務員であると。福祉国家の性格の表れでしょうか。
国民の年齢構成が若く,右上がりの成長の途上にある社会では,余計な規制や介入は極力控える「夜警国家」がよしとされます。日本も,高度経済成長期ではそうでした。しかし高齢化が進み,成熟社会のステージに入っている今では,対極の「福祉国家」が強く求められるようになっています。世の中にある「公」と「民」の仕事のうち,前者の比重が増してくるからです。
児童虐待の防止も,「公」の仕事の範疇です。悲惨な事件が起きるたびに,児童相談所の対応が槍玉にあげられますが,スタッフが著しく不足しているのが現実。1人の児童福祉士が100ものケースを抱えるのも珍しくないそうです。
ちょっと古い本ですが,川崎二三彦さんの『児童虐待』(岩波新書,2006年)に,次のような数字が出ています(180~181ページ)。児童相談所のワーカーの配置の日独比較です。
日本 … 子ども人口1万数千人に1人
ドイツ … 子ども人口900人に1人
桁違いですね。大学で臨床社会学を教えるために手に取った本で,最初に見た時は驚愕しましたが,上記の公務員比率の国際差をみると,さもありなんという感じです。
まあ政府も,「公」の仕事への需要の高まりは分かっているようで,公務員の数は増えてきています。『就業構造基本調査』のデータをみると,公務員(産業大分類が「公務」の者。教員や警察官等は含まず)の数は,1992年では205万人でしたが,四半世紀を経た2017年では235万人となっています。
しかるに,増分の多くは非正規雇用です。その結果,公務員の非正規率は1992年では10.1%だったのが,2017年では16.4%にまで上昇しました。公務員の非正規化の進行です。
なお地域差もあります。1992年と2017年の47都道府県の数値を高い順に並べ,5%刻みの階級で塗り分けてみると,結構インパクトがあります。
全国的に,公務員の非正規化が進んでいます。1992年では非正規率が15%を超えるのは6県だけでしたが,2017年では多くの県がこのラインを越え,10の県で2割を超えています。沖縄や岐阜では,公務員の4人に1人が非正規雇用です。
前に明らかにしましたが,図書館司書の非正規化はもっと酷い。ほとんどの県で,司書の非正規率が半分を超えています。生涯学習をする人が増える中,それをサポートする司書への需要が高まっていますが,安上がりな非正規雇用で凌いでいると。
データで明らかなのは,以下の2点です。
1)日本の労働者の公務員比率は,他国と比して低い。
2)「公」の仕事の需要の高まりを受け,公務員は増えてはいるが,多くを非正規雇用で凌いでいる。
随所で言われていますが,日本では公務員を増やす余地はあるように思います。人間的な暮らしが保障されない非正規に依存するのではなく,正規雇用の増加によってです。財政的に厳しいと言われるかもしれないですが,ちょっとググってみたら,日本の公務員人件費の対GDP比って,国際的にみて最下位であるのが分かります。
http://top10.sakura.ne.jp/OECD-GENGOVPROD-T1A.html
公務員として働くのを希望している人は数多くいます。ピチピチの新卒世代だけではありません。兵庫県の宝塚市がロスジェネ限定の採用試験を実施したところ,3人の採用枠に1800人もの応募があったそうです。国をあげてロスジェネ救済に乗り出していますが,さ迷える世代を「公」の世界で吸収してほしいものです。宝塚市のような自治体が続いて出てくることを欲します。
中央省庁で働く国家公務員の長時間労働も酷し。厚生行政と労働行政を一手に担う厚生労働省の職員は,自らの状況を「生きて墓場にいるようなものだ」と形容し,薬物所持で捕まった同省職員は「覚せい剤を使ってでも仕事に行かねばと思った」と,裁判で話しています。
https://blogos.com/article/401703/
仕事がべらぼうに多いからですが,人員が不足しているというのもあるでしょう。ちょっと前に,厚労省の統計不正が取り沙汰されましたが,その要因として人員の不足(削減)を指摘する声が多く上がりました。
実はですね,日本の労働者に占める公務員の割合って,少ないのです。ISSPが2017年に実施した調査によると,日本の雇用労働者のうち,公的セクターで働いていると答えた人の割合は11.5%でしかありません,日本の雇用労働者の公務員比率は1割ちょいでしかないわけです。
http://www.issp.org/data-download/by-year/
海を隔てた大国アメリカは20.2%で,日本の倍以上です。イギリスは28.9%,ドイツは28.0%,フランスは35.6%と,さらに高くなっています。フランスでは,勤め人の3人に1人が公務員なんですね。
公務員比率がもっと高い国もあります。下図は,調査対象の30か国を高い順に並べたグラフです。
青色は,公務員のシェアです。日本は下から2番目となっています。グラフの上をみると,公務員割合の上位3位は北欧の3国となっています。デンマークとスウェーデンは,雇用労働者の半分近くが公務員であると。福祉国家の性格の表れでしょうか。
国民の年齢構成が若く,右上がりの成長の途上にある社会では,余計な規制や介入は極力控える「夜警国家」がよしとされます。日本も,高度経済成長期ではそうでした。しかし高齢化が進み,成熟社会のステージに入っている今では,対極の「福祉国家」が強く求められるようになっています。世の中にある「公」と「民」の仕事のうち,前者の比重が増してくるからです。
児童虐待の防止も,「公」の仕事の範疇です。悲惨な事件が起きるたびに,児童相談所の対応が槍玉にあげられますが,スタッフが著しく不足しているのが現実。1人の児童福祉士が100ものケースを抱えるのも珍しくないそうです。
ちょっと古い本ですが,川崎二三彦さんの『児童虐待』(岩波新書,2006年)に,次のような数字が出ています(180~181ページ)。児童相談所のワーカーの配置の日独比較です。
日本 … 子ども人口1万数千人に1人
ドイツ … 子ども人口900人に1人
桁違いですね。大学で臨床社会学を教えるために手に取った本で,最初に見た時は驚愕しましたが,上記の公務員比率の国際差をみると,さもありなんという感じです。
まあ政府も,「公」の仕事への需要の高まりは分かっているようで,公務員の数は増えてきています。『就業構造基本調査』のデータをみると,公務員(産業大分類が「公務」の者。教員や警察官等は含まず)の数は,1992年では205万人でしたが,四半世紀を経た2017年では235万人となっています。
しかるに,増分の多くは非正規雇用です。その結果,公務員の非正規率は1992年では10.1%だったのが,2017年では16.4%にまで上昇しました。公務員の非正規化の進行です。
なお地域差もあります。1992年と2017年の47都道府県の数値を高い順に並べ,5%刻みの階級で塗り分けてみると,結構インパクトがあります。
全国的に,公務員の非正規化が進んでいます。1992年では非正規率が15%を超えるのは6県だけでしたが,2017年では多くの県がこのラインを越え,10の県で2割を超えています。沖縄や岐阜では,公務員の4人に1人が非正規雇用です。
前に明らかにしましたが,図書館司書の非正規化はもっと酷い。ほとんどの県で,司書の非正規率が半分を超えています。生涯学習をする人が増える中,それをサポートする司書への需要が高まっていますが,安上がりな非正規雇用で凌いでいると。
データで明らかなのは,以下の2点です。
1)日本の労働者の公務員比率は,他国と比して低い。
2)「公」の仕事の需要の高まりを受け,公務員は増えてはいるが,多くを非正規雇用で凌いでいる。
随所で言われていますが,日本では公務員を増やす余地はあるように思います。人間的な暮らしが保障されない非正規に依存するのではなく,正規雇用の増加によってです。財政的に厳しいと言われるかもしれないですが,ちょっとググってみたら,日本の公務員人件費の対GDP比って,国際的にみて最下位であるのが分かります。
http://top10.sakura.ne.jp/OECD-GENGOVPROD-T1A.html
公務員として働くのを希望している人は数多くいます。ピチピチの新卒世代だけではありません。兵庫県の宝塚市がロスジェネ限定の採用試験を実施したところ,3人の採用枠に1800人もの応募があったそうです。国をあげてロスジェネ救済に乗り出していますが,さ迷える世代を「公」の世界で吸収してほしいものです。宝塚市のような自治体が続いて出てくることを欲します。
2019年9月2日月曜日
災害とジェンダー
日本は自然災害が多い国です。2011年の東日本大震災以降,防災・減災への関心が急速に高まり,学校現場でも安全教育・防災教育の取組が盛んになっています。静岡県の教員採用試験では毎年,学校防災の問題が出ていますね。東海大地震の被害が懸念されているためでしょうか。
しかし,どれほど入念に備えていても,大震災が起きると不幸にして命を落とす人が出てきます。死亡者の素性を観察すると,若者よりも高齢者が多し。体力が弱っており,逃げるのもままならないためでしょう。スマホ等での情報収集に慣れてないのもネック。
それと性別でみると,男性より女性で多いのです。昨日,「女性が死者の8割を占めたケースも。災害の死者に女性が多い背景とは」という記事を見かけ,ツイッターでシェアしたところ,RTとファボが1000を超え,驚いています。地震の死者の性差って,あまり知られていないのでしょうか。
上記記事では,2004年のスマトラ沖大地震による死者数を,インドネシアのアチェという地域で調査した結果が紹介されています。それによると女性の死者は男性の3倍で,死者の8割が女性だった村もあるとのこと。要因として,女性や女の子は,木登りや水泳に慣れておらず,サババル手段が男性に劣っていたこと,また家族の面倒を見ていて逃げ遅れた,ということが挙げられています。
なるほど,インドネシアはイスラム社会なんで,服が乱れ肌が露出する木登りや水泳に慣れていない,もしくはそれを厭う女性が多いでしょう。自宅で幼子や老人の世話をしていて,逃げようにも逃げれなかった人も,男性より女性で多かったであろうことも,想像に難くありません。
大地震による死者数の性差は,偶然によるものではなく,社会の文化・慣習,ジェンダーによるのだなと思います。
東南アジアのイスラム国家の話と一蹴するなかれ。日本でも,同じようなデータがあります。1995年の阪神大震災の死者数は,男性が2713人,女性が3680人で,女性のほうが多くなっています。2011年の東日本大震災の死者は男性7360人,女性8363人で,こちらも女性のほうが多し(内閣府『男女共同参画白書』2012年版)。
http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/index.html
女性は男性より長生きし,体が弱い高齢層に女性が多いからでは,と思われるかもしれません。では,年齢層別の死者数もみてみましょうか。
ほとんどの年齢層で,男性より女性の死者が多いではないですか。右端の女性比率をみると,50%超(赤字)が多くなっています。
高齢層で女性比が高いのは,ベース人口の性差の故でしょうが,生産年齢層の死者が「男性<女性」であるのは,それでは説明がつきません。震災発生時に在宅率が高く,家に潰されてしまった,あるいは育児や介護をしていて逃げようにも逃げられなかった…。こういうケースは,男性より女性で多かっただろうと推測されます。
上表の死者数の性差は,単なる偶然ではなく,男女の役割差,ジェンダーの視点で解すべきものであると考えます。
ちなみに厚労省『人口動態統計』の死因統計に,「地震による受傷」(X34)というカテゴリーがあります。東日本大震災が起きた2011年のデータをみると,この死因による死亡者は男性が8674人,女性が10163人です。上表に出ている死亡者数よりも数が多く,ジェンダー差も大きいですね。
上記表の死亡者は,震災による直接的な影響による死亡に限られますが,厚労省『人口動態統計』の「地震による受傷」の死亡者は,震災の間接的な影響によるものも含みます。震災で負った疾病や精神的ストレスで亡くなったなどです。
震災時に生き長らえても,その後のストレスは男性より女性で大きいのではないかと思われます。たとえば避難所生活で,女性用トイレは男性用の3倍必要というのが国際基準ですが,これを満たしている避難所はほぼ皆無でしょう。更衣や入浴等に際しても気苦労が多し。心のケアにしても,女性特有の配慮が求められることも多々あり。
震災後の避難所生活のニーズには性差があり,それを的確に汲み取るには,防災・減災行政に携わる人に女性が増えることが不可欠。各自治体には,地域防災計画の策定・実施を任とする地方防災会議が置かれることになっていますが,その委員の女性比率は如何。
最新の『男女共同参画白書』によると,都道府県防災会議委員の女性比率は15.7%,市区町村防災会議委員のそれは8.4%となっています(2018年4月1日時点)。前者は6人に1人,後者は12人に1人ですか。少ないですね。地域差もあり,47都道府県の数値を高い順に並べると,以下のようになります。
都道府県会議をみると,徳島,島根,鳥取では委員の女性比率が4割を超えます。男女ほぼ半々の委員で,地域の防災計画を練り上げるという好ましいタイプですが,こういう自治体は少数派です。
市区町村会議に至っては,35の県で委員の女性比が1割未満という惨状になっています。これでは,被災者のニーズのジェンダー差を汲み取った計画の立案は,なかなか難しいでしょう。
自然災害の直接的・間接的な影響で命を落とす率には性差があり,それは決して偶然ではなく,社会に根付いている文化・慣習,ジェンダーによる部分が大きい。いのちのジェンダー差は,デーからうかがえるところです。防災・減災の政策の立案に際しては,ジェンダーの視点が欠かせないと思います。
まずなすべきは,被災者のニーズの性差を汲み取るべく,防災・減災の政策を決める場に出入りする女性の率を増やすことです。同時に,われわれ一般人が心がけるべきは,偏狭な性役割分業を普段からなくすことです。
「男性は**をすべし,女性は**をすべし」という性役割観は,避難所の共同生活にも影を落とします。火事場のクソ力といいますか,女性はこの壁を乗り越えて,重い物を運ぶなどの労働にも積極的に参与するのですが,男性はそうではなく,炊事や洗濯等を一切しない人も多し。いのちに関わる避難所生活では,男がどうの,女がどうのなど言ってられないのですが,普段から染みついたジェンダー観念が足を引っ張ることも多し。
高知県の安芸市では,避難訓練の際,男女のステレオタイプな役割分業を一切排しているそうですが,普段からそれを実践しておきたいもの。ジェンダーフリーはいのちを救う。自然災害が多い日本において,肝に銘じておくことです。
しかし,どれほど入念に備えていても,大震災が起きると不幸にして命を落とす人が出てきます。死亡者の素性を観察すると,若者よりも高齢者が多し。体力が弱っており,逃げるのもままならないためでしょう。スマホ等での情報収集に慣れてないのもネック。
それと性別でみると,男性より女性で多いのです。昨日,「女性が死者の8割を占めたケースも。災害の死者に女性が多い背景とは」という記事を見かけ,ツイッターでシェアしたところ,RTとファボが1000を超え,驚いています。地震の死者の性差って,あまり知られていないのでしょうか。
上記記事では,2004年のスマトラ沖大地震による死者数を,インドネシアのアチェという地域で調査した結果が紹介されています。それによると女性の死者は男性の3倍で,死者の8割が女性だった村もあるとのこと。要因として,女性や女の子は,木登りや水泳に慣れておらず,サババル手段が男性に劣っていたこと,また家族の面倒を見ていて逃げ遅れた,ということが挙げられています。
なるほど,インドネシアはイスラム社会なんで,服が乱れ肌が露出する木登りや水泳に慣れていない,もしくはそれを厭う女性が多いでしょう。自宅で幼子や老人の世話をしていて,逃げようにも逃げれなかった人も,男性より女性で多かったであろうことも,想像に難くありません。
大地震による死者数の性差は,偶然によるものではなく,社会の文化・慣習,ジェンダーによるのだなと思います。
東南アジアのイスラム国家の話と一蹴するなかれ。日本でも,同じようなデータがあります。1995年の阪神大震災の死者数は,男性が2713人,女性が3680人で,女性のほうが多くなっています。2011年の東日本大震災の死者は男性7360人,女性8363人で,こちらも女性のほうが多し(内閣府『男女共同参画白書』2012年版)。
http://www.gender.go.jp/about_danjo/whitepaper/index.html
女性は男性より長生きし,体が弱い高齢層に女性が多いからでは,と思われるかもしれません。では,年齢層別の死者数もみてみましょうか。
ほとんどの年齢層で,男性より女性の死者が多いではないですか。右端の女性比率をみると,50%超(赤字)が多くなっています。
高齢層で女性比が高いのは,ベース人口の性差の故でしょうが,生産年齢層の死者が「男性<女性」であるのは,それでは説明がつきません。震災発生時に在宅率が高く,家に潰されてしまった,あるいは育児や介護をしていて逃げようにも逃げられなかった…。こういうケースは,男性より女性で多かっただろうと推測されます。
上表の死者数の性差は,単なる偶然ではなく,男女の役割差,ジェンダーの視点で解すべきものであると考えます。
ちなみに厚労省『人口動態統計』の死因統計に,「地震による受傷」(X34)というカテゴリーがあります。東日本大震災が起きた2011年のデータをみると,この死因による死亡者は男性が8674人,女性が10163人です。上表に出ている死亡者数よりも数が多く,ジェンダー差も大きいですね。
上記表の死亡者は,震災による直接的な影響による死亡に限られますが,厚労省『人口動態統計』の「地震による受傷」の死亡者は,震災の間接的な影響によるものも含みます。震災で負った疾病や精神的ストレスで亡くなったなどです。
震災時に生き長らえても,その後のストレスは男性より女性で大きいのではないかと思われます。たとえば避難所生活で,女性用トイレは男性用の3倍必要というのが国際基準ですが,これを満たしている避難所はほぼ皆無でしょう。更衣や入浴等に際しても気苦労が多し。心のケアにしても,女性特有の配慮が求められることも多々あり。
震災後の避難所生活のニーズには性差があり,それを的確に汲み取るには,防災・減災行政に携わる人に女性が増えることが不可欠。各自治体には,地域防災計画の策定・実施を任とする地方防災会議が置かれることになっていますが,その委員の女性比率は如何。
最新の『男女共同参画白書』によると,都道府県防災会議委員の女性比率は15.7%,市区町村防災会議委員のそれは8.4%となっています(2018年4月1日時点)。前者は6人に1人,後者は12人に1人ですか。少ないですね。地域差もあり,47都道府県の数値を高い順に並べると,以下のようになります。
都道府県会議をみると,徳島,島根,鳥取では委員の女性比率が4割を超えます。男女ほぼ半々の委員で,地域の防災計画を練り上げるという好ましいタイプですが,こういう自治体は少数派です。
市区町村会議に至っては,35の県で委員の女性比が1割未満という惨状になっています。これでは,被災者のニーズのジェンダー差を汲み取った計画の立案は,なかなか難しいでしょう。
自然災害の直接的・間接的な影響で命を落とす率には性差があり,それは決して偶然ではなく,社会に根付いている文化・慣習,ジェンダーによる部分が大きい。いのちのジェンダー差は,デーからうかがえるところです。防災・減災の政策の立案に際しては,ジェンダーの視点が欠かせないと思います。
まずなすべきは,被災者のニーズの性差を汲み取るべく,防災・減災の政策を決める場に出入りする女性の率を増やすことです。同時に,われわれ一般人が心がけるべきは,偏狭な性役割分業を普段からなくすことです。
「男性は**をすべし,女性は**をすべし」という性役割観は,避難所の共同生活にも影を落とします。火事場のクソ力といいますか,女性はこの壁を乗り越えて,重い物を運ぶなどの労働にも積極的に参与するのですが,男性はそうではなく,炊事や洗濯等を一切しない人も多し。いのちに関わる避難所生活では,男がどうの,女がどうのなど言ってられないのですが,普段から染みついたジェンダー観念が足を引っ張ることも多し。
高知県の安芸市では,避難訓練の際,男女のステレオタイプな役割分業を一切排しているそうですが,普段からそれを実践しておきたいもの。ジェンダーフリーはいのちを救う。自然災害が多い日本において,肝に銘じておくことです。
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