2019年9月5日木曜日

公務員の割合

 人手不足もあり,働く人の過重労働がよりいっそう深刻化していますが,「官」の世界も例外ではありません。いやむしろ,公務員がそれを率先している感もあります。教員の過重労働はよく知られていること。それがすっかり知れ渡ってか,教員採用試験の競争率は低下の一途です。

 中央省庁で働く国家公務員の長時間労働も酷し。厚生行政と労働行政を一手に担う厚生労働省の職員は,自らの状況を「生きて墓場にいるようなものだ」と形容し,薬物所持で捕まった同省職員は「覚せい剤を使ってでも仕事に行かねばと思った」と,裁判で話しています。
https://blogos.com/article/401703/

 仕事がべらぼうに多いからですが,人員が不足しているというのもあるでしょう。ちょっと前に,厚労省の統計不正が取り沙汰されましたが,その要因として人員の不足(削減)を指摘する声が多く上がりました。

 実はですね,日本の労働者に占める公務員の割合って,少ないのです。ISSPが2017年に実施した調査によると,日本の雇用労働者のうち,公的セクターで働いていると答えた人の割合は11.5%でしかありません,日本の雇用労働者の公務員比率は1割ちょいでしかないわけです。
http://www.issp.org/data-download/by-year/

 海を隔てた大国アメリカは20.2%で,日本の倍以上です。イギリスは28.9%,ドイツは28.0%,フランスは35.6%と,さらに高くなっています。フランスでは,勤め人の3人に1人が公務員なんですね。

 公務員比率がもっと高い国もあります。下図は,調査対象の30か国を高い順に並べたグラフです。


 青色は,公務員のシェアです。日本は下から2番目となっています。グラフの上をみると,公務員割合の上位3位は北欧の3国となっています。デンマークとスウェーデンは,雇用労働者の半分近くが公務員であると。福祉国家の性格の表れでしょうか。

 国民の年齢構成が若く,右上がりの成長の途上にある社会では,余計な規制や介入は極力控える「夜警国家」がよしとされます。日本も,高度経済成長期ではそうでした。しかし高齢化が進み,成熟社会のステージに入っている今では,対極の「福祉国家」が強く求められるようになっています。世の中にある「公」と「民」の仕事のうち,前者の比重が増してくるからです。

 児童虐待の防止も,「公」の仕事の範疇です。悲惨な事件が起きるたびに,児童相談所の対応が槍玉にあげられますが,スタッフが著しく不足しているのが現実。1人の児童福祉士が100ものケースを抱えるのも珍しくないそうです。

 ちょっと古い本ですが,川崎二三彦さんの『児童虐待』(岩波新書,2006年)に,次のような数字が出ています(180~181ページ)。児童相談所のワーカーの配置の日独比較です。

 日本 … 子ども人口1万数千人に1人
 ドイツ … 子ども人口900人に1人

 桁違いですね。大学で臨床社会学を教えるために手に取った本で,最初に見た時は驚愕しましたが,上記の公務員比率の国際差をみると,さもありなんという感じです。

 まあ政府も,「公」の仕事への需要の高まりは分かっているようで,公務員の数は増えてきています。『就業構造基本調査』のデータをみると,公務員(産業大分類が「公務」の者。教員や警察官等は含まず)の数は,1992年では205万人でしたが,四半世紀を経た2017年では235万人となっています。

 しかるに,増分の多くは非正規雇用です。その結果,公務員の非正規率は1992年では10.1%だったのが,2017年では16.4%にまで上昇しました。公務員の非正規化の進行です。

 なお地域差もあります。1992年と2017年の47都道府県の数値を高い順に並べ,5%刻みの階級で塗り分けてみると,結構インパクトがあります。


 全国的に,公務員の非正規化が進んでいます。1992年では非正規率が15%を超えるのは6県だけでしたが,2017年では多くの県がこのラインを越え,10の県で2割を超えています。沖縄や岐阜では,公務員の4人に1人が非正規雇用です。

 前に明らかにしましたが,図書館司書の非正規化はもっと酷い。ほとんどの県で,司書の非正規率が半分を超えています。生涯学習をする人が増える中,それをサポートする司書への需要が高まっていますが,安上がりな非正規雇用で凌いでいると。

 データで明らかなのは,以下の2点です。

 1)日本の労働者の公務員比率は,他国と比して低い。
 2)「公」の仕事の需要の高まりを受け,公務員は増えてはいるが,多くを非正規雇用で凌いでいる。

 随所で言われていますが,日本では公務員を増やす余地はあるように思います。人間的な暮らしが保障されない非正規に依存するのではなく,正規雇用の増加によってです。財政的に厳しいと言われるかもしれないですが,ちょっとググってみたら,日本の公務員人件費の対GDP比って,国際的にみて最下位であるのが分かります。
http://top10.sakura.ne.jp/OECD-GENGOVPROD-T1A.html

 公務員として働くのを希望している人は数多くいます。ピチピチの新卒世代だけではありません。兵庫県の宝塚市がロスジェネ限定の採用試験を実施したところ,3人の採用枠に1800人もの応募があったそうです。国をあげてロスジェネ救済に乗り出していますが,さ迷える世代を「公」の世界で吸収してほしいものです。宝塚市のような自治体が続いて出てくることを欲します。