2019年9月15日日曜日

疎遠な専門職

 ISSP(国際社会調査プログラム)は,毎年興味深い国際調査を実施しています。個票データもアップしてくださるので,本当にありがたい。
http://www.issp.org/data-download/by-year/

 最新の2017年調査の主題は「人間関係」,凝った言い回しをすると「社会関係資本」です。人間は他者と関係を取り結んで生きる社会的存在ですので,しごくまともな主題であると思います。

 調査票をみると,最初のQ1から面白い設問が盛られています。いくつかの職業を提示し,あなたの知り合いの中に,当該の職業の人がいるかと問うています。選択肢は,「家族・親戚にいる」「親友にいる」「知人にいる」「いない」の4つです。学校の教員(school teacher)はいるか,という問いへの回答分布は,以下のようになっています(無回答は除く)。


 日本を含む主要7か国の成人の回答結果です。いつもは韓国を入れるのですが,2017年の調査対象にはなってないようですので,代わりに中国を入れました。

 どうでしょう。アメリカの36.3%,フランスの39.2%の人が,家族ないしは親戚に教員がいると答えています。家族・親戚は運命的な縁ですが,この2つの社会では,教員人口が多いのでしょうか。

 日本はというと,赤色の「いない」が幅を利かせています。自分が取り結んでいる人間関係の中に教員はいないという人が67.7%,7割近くを占めます。他国と比して際立って多くなっています。

 就学率が高い日本で,国民あたりの教員の相対数が少ないとはちょっと考えにくい。教員はあまりに忙しく,人間関係を広げるゆとりがないのか。それとも,教員同士で固まる傾向があるのか。このブログでデータを出してきましたが,教員は同業婚が多く,異業種経験者も少ないという事実があります。

 社会に人材を送り出す学校の教員は,社会を知っていなければなりません。デュルケムの『教育と社会学』で言われているように,教員は社会の代弁者なり。社会との豊かな関係を取り結んでおきたいものです。

 教員と並ぶ専門職として,弁護士の知り合いがいるかも尋ねられています。この問いへの回答も面白い。日本の成人のうち,弁護士の知り合いがいると答えたのは17.7%です。アメリカでは,この比率は57.9%と6割近くにもなります。さすがは訴訟社会ですね。

 他の国はどうでしょう。ISSPの2017年調査から,30か国のデータを得ることができます。横軸に教員,縦軸に弁護士の知り合いがいると答えた人の割合をとった座標上に,30の国を配置すると以下のようになります。


 日本は,教員の知り合いがいる人は32.3%,弁護士の知り合いがいる人は17.7%ですが,この数値は国際的にみて最も低いようです。

 対極のアイスランドは小国ということもあってか,これら2つの専門職の知り合いがいる人は全体の8割を超えます。欧米の主要国は5~7割というところ。日本よりずっと多くなっています。

 教員と弁護士。わが子の教育を託し,トラブルに遭遇したときに味方になってくれる専門職ですが,日本では一般市民とあまり馴染みがないようです。教員について,私が思う所は上述の通りなんですが,弁護士は如何。欧米と異なり,日本では裁判沙汰は好まれないので,弁護士の数そのものが少ないといのもあるでしょうね。

 ただ,事業をやっている人は,一般に顧問弁護士をつけます。会社の経営者だけでなく,個人事業主(フリーランス)も,ある程度の人になるとそうです。去年の11月,とある文筆家の人にグラフを盗用されましたが,私が抗議して2日も経たないうちに,代理人弁護士が和解の申し入れをしてきて,ちょっとびっくりしました。そこそこの文筆家になると,顧問弁護士と契約しているようです。

 私もよくトラブルを起こす人間なんで,気軽に相談できる弁護士の知り合いがいたらなあと思うことがあります。

 専門職(プロフェッショナル)というのは,高度な知識や技術を駆使して,社会に貢献することを期待される職業です。その任務を全うするには,社会の一般市民がどういうことで困っているか,何を求めているかを肌で知っていないといけません。

 市民から隔たっている日本の専門職をどうみるか。彼らの生活構造を点検してみる必要があるのではないでしょうか。