2019年11月6日水曜日

小・中学生の家庭の年収分布

 「年収600万円で中学受験はできるか」という主題の記事を見かけました。
https://st.benesse.ne.jp/ikuji/content/?id=44042

 受験費用,合格後の入学金,授業料,制服代,交通費,学用品費…等のデータが示され,私立生の親の何人かに年収を尋ねた結果が紹介されています。

 こういう問題を扱う場合,私立に通わせている家庭の年収分布を出すのが手っ取り早いと思うのですが,それはされていません。文科省『子供の学習費調査』に出ているのですがね。秋晴れの昼下がり,ヒマですので,アシストをさせていただきましょう。

 上記のリンク先の「5 世帯の年間収入段階別,項目別経費の金額段階別構成比」に,小・中学生の家庭の年収分布が%値で出ています。公立と私立に分けられています。公私立の小・中学校の分布を採取し,中央値の検討をつけるため累積%にしてみました。結果は以下のようです。



 左は公立,右は私立の分布ですが,かなり違いますね。公立小の最頻階級は400~500万円台,公立中は600~700万円台ですが,私立は小中ともマックスの1200万円以上です。分布が高年収層に偏しており,私立小では半分近くが1200万円以上となっています。幼少期の「お受験」をできる家庭はやっぱりスゴイ。

 下段の累積%をみると,50ジャストの中央値(median)は,公立は600~700万円台,私立は1000~1100万円台の階級に含まれることが知られます(赤字)。按分比例を使って割り出すと,児童・生徒の家庭の年収中央値は以下のようになります。

 公立小 = 636万円
 公立中 = 675万円
 私立小 = 1160万円
 私立中 = 1022万円

 いかがでしょう。まず冒頭の記事の問いに絡めると,年収600万円というのは,私立中学校の家庭では中央値よりもずっと下ですね。全生徒の下位15%のラインにも達しません。中学受験をする家庭のフツーの年収は1000万円,下位25%でも700万円くらい。この事実を押さえましょう。

 公立でみても600万円を超えているのに驚きます。公立小は400万円台かなと思いきや,それよりもずっと高し。うーん,ざっくり言うなら,子育てをするには600万円の年収が要る時代ってことでしょうか。

 小・中学生の親は30~40代くらいだと思いますが,この年齢層の男性有業者の所得分布を,2017年の『就業構造基本調査』から明らかにすると以下のごとし。



 小・中学生のお父さん年代の所得分布ですが,真ん中が膨らんだきれいなノーマルカーブですね。右端の累積%から,中央値は400万円台であるのが分かります。

 小・中学生の家庭の年収中央値は600万円台,父親年代のそれは400万円台。上表の分布は税引き前の所得の分布ですので,手取りだともっと下方にシフトします。子育てをするには,共稼ぎでないとキツイ時代になっているようです。

 先週のニューズウィーク記事で扱いましたが,都内23区の出生率をみると,今世紀初頭の頃と現在では,地域差の構造が変わっています。一昔前では地価の安いエリアで高かったのが,現在では所得水準が高いエリアで多産になっているのです。母親のフルタイム就業率とも相関するようになっています。これなども,共稼ぎでないとキツイ時代になっていることの証左です。

 今からでも遅くはありません。増税でえられた財源の使いみちを正しましょう。重きを置くべきは,保育の費用負担の軽減ではなく,受け皿の拡充です。保育士の待遇改善はそのための主要戦略ですが,保育士の非正規化もビックリするほど進行しています。
https://twitter.com/tmaita77/status/1190947315093098501

 非正規のパートと思って応募したら,正規職員と同等の仕事をさせられるのもザラ。正規でも安いのに,それをも上回る低賃金で働かされる。これでは,保育の質も脅かされるというもの。

 共稼ぎでないとキツイ,そうでないと出産できない。こういう時代になっていることは,子育てファミリーの稼ぎを一瞥するだけで分かっちゃいます。