2020年1月12日日曜日

年齢層別の餓死者数

 われわれロスジェネの苦境が知れ渡ってきましたが,餓死者まで出ているという,ショッキングな社説に触れました。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200110-00010005-nishinpc-soci

 飽食の国・ニッポンで餓死なんてあるはずないと思われがちですが,あるのですよね。統計でも,その存在をうかがい知ることができます。死者の数といったら厚労省の『人口動態統計』ですが,死因の小分類カテゴリーに「食糧の不足」というものがあります。死因コードは,X53です。

 この死因で亡くなった人が餓死者とみられます。『人口動態統計』の死因小分類統計は,1999年以降のバックナンバーがネット上で公開されています。私は各年の資料に当たり,「食糧の不足」という原因による死亡者数を採取しました。下図はその推移です。性差があるので,男女で分けています。


 始点の1999年,私が大学を出た年ですが,この年では年間85人の餓死者が出ていました。その後,小泉内閣の「痛みを伴う改革」という残酷路線もあってか,2003年に93人とピークを迎えます,

 それ以降はリーマンショックの2008年,東日本大震災の2011年に突起があるものの減少傾向で,2018年の餓死者は22人と,今世紀初頭の4分の1ほどとなっています。景気回復に加え,フードロス志向が高まり,フードバンクのような取組も本格化してきているので,悲劇の確率は減っているのでしょうか。ITの普及も,困窮者に食べ物を届けることに寄与しています。

 性別でみると,餓死者には男性が多くなっています。1999~2018年の餓死者は997人ですが,そのうちの806人(80.8%)が男性です。餓死者の8割は男性であると。経済力は男性のほうがありそうですが,調理力はむろん,人とのつながり(社会関係資本)は女性に劣りそうです。変なプライドが邪魔をして助けを求められないなんてのも,男性のほうが多そうです。

 ちなみに年齢層別にみると,きれいな傾向が出てきます。1999~2018年の餓死者で,年齢が分かるのは914人です。私はこの914人のデータを,性別・年層別のグラフにしてみました。なおこの中には,2009年の死者は含みません。この年だけ,なぜか公表統計のファイルが年齢層別に分割されていて,それぞれのファイルから餓死者数を拾うのは非常に面倒であるので,採取を断念しました。

 それでも900人超のデータなんで,安定した傾向が検出できます。ブツを見ていただきましょう。


 50代をピークとした,きれいな山型になっています。相対的にですが,危ないのはアラフォー年代であるようです。

 人件費が高いという理由で,リストラされやすいステージです。年齢の壁に阻まれ,再就職も容易ではありません。どうしようもなくなって生活保護を申請しようにも,「まだ生産年齢なんで働けるはず」と突っぱねられる…。苦難のオンパレードです。

 男性が圧倒的に多いですが,「金の切れ目が縁の切れ目」ってことで,妻子と分かれた(逃げられた)人も多いでしょう。生活が荒み,地域に人間関係もないので,独り身で孤立しがちになると。

 2007年に北九州市で,「おにぎり食いたい」と書き残して餓死した人がいましたが,無念の死を遂げたのは52歳の男性でした。上記グラフのピークのステージです。執拗な就労指導で生活保護を打ち切られたのが原因だったそうです。

 これから先,ネットでフードバンク等の情報が得られるようになり,ドローンで困窮者に食べ物を届けることも容易になるでしょう。こういうテクノロジーを駆使して,悲劇を無くしたいもの。国民1人が1日茶碗1杯分の食べ物を捨てる国で餓死が起きる,食品ロスと餓死が背中合わせの国なんて,何ともおかしい。

 データから分かる要注意層は,50代の男性であるようです。会社にどっぷり浸かってガシガシ稼ぐものの,そこを切られたら脆い。職場・収入と共に家族も失い,一気に転落することになる。会社一辺倒のスタイルは,いいことがなさそうです。随所で言っていますが,複数の顔を持ちたいもの。

 食品ロスと餓死が同居する国というのは,バランスのよくない生き方をしている人が多い国です。その矛盾が,50代になると一気に噴き出てくる。ワークライフバランスのとれた社会では,上記グラフのような型にはならないでしょう。