2015年12月16日水曜日

睡眠時間の減少

 総務省の『社会生活基本調査』は,国民のいろいろな生活行動の実施率や平均時間が分かるスグレモノです。主な項目は,時系列の推移をまとめた表も公開されています。

 上記サイトの表2は,主な行動の平均時間(1日あたり)の推移表ですが,これを眺めていたら,「はて?」という現象に気付きました。睡眠時間の減少です。下の図は,生産年齢の男女の変化を折れ線グラフにしたものです。


 20代は90年代以降増えていますが,これは進学率の上昇により,学生が増えたためでしょう。30代女性の睡眠時間も長くなっていますが,未婚化の進行により,子どもがいない女性が増えているためでしょうか。

 しかし,30~50代の男性,40~50代の女性は,一貫した右下がりです。とくに中年女性はキツイ。就業率の上昇に加え,晩婚化・晩産化の進行により,育児と介護の「ダブルケア」を負わされる女性が増加していることの表れとみられます。

 この点については,12月10日の記事でも書きましたが,睡眠時間の時系列変化にも,明瞭に表われていることに驚かされます。

2015年12月13日日曜日

健康格差に対する認識

 先日,2014年の厚労省『国民健康栄養調査』の結果が公表されました。新聞等でも報じられましたが,今回の目玉は,対象者の世帯所得との関連を分析していることです。
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/0000106405.html

 上記サイトの調査結果ポイントによると,「所得の低い世帯では,所得の高い世帯と比較して,穀類の摂取量が多く野菜類や肉類の摂取量が少ない,習慣的に喫煙している者の割合が高い,健診の未受診者の割合が高い,歯の本数が20歯未満の者の割合が高いなど,世帯の所得の違いにより差がみられた」とのこと。

   既存統計を使って,この手の分析を多く手掛けている私にすれば,さもありなんです。それが官庁調査の個人データで明らかにされたのは画期的です。傾向がクリアーな4項目のデータをグラフにしておきます。成人男性のデータです。統計的手法により,年齢ならびに世帯人員の影響は除去されているそうです。


   健診未受診率,肥満率,歯の数が20本に満たない者の率は,低所得層ほど高くなる。野菜摂取量は,高所得層ほど高い傾向。低所得層は生活にカツカツで,自身の健康に気を配る余裕がないためでしょう。

   肉を好み野菜を食べない,ラーメン二郎のようなジャンクなものを好んで食す,飲酒や喫煙をするなどは個人の嗜好ですので,他人がとやかく言うことではありません。しかし,それが度を超すと健康に悪影響が出ることは,医学上の定説です。さらにそうした偏りが低所得層に集中しているとなると,社会的な啓発や支援も必要になります。当人の自己責任として放置してよいことにはなりません。

   しかるに,上記のようなデータがあまり出されないためか,日本人は貧困に由来する健康格差問題への認識が薄いようです。国際社会調査プログラム(ISSP)が2011年に実施した健康意識調査によると,「貧困は,健康問題の原因となる」という項目に「そう思う」と答えた者の比率は,日本では29.7%だったそうです。韓国は65.7%,アメリカは54.0%,イギリスは53.7%,西ドイツは51.2%,フランスは54.5%,スウェーデンは42.7%ですから,主要国の中ではダントツで低くなっています。
   
   問題の原因を,当人の健康管理の欠如,怠惰に帰しているのでしょう。確かにそうなのですが,そうした乱れ(荒み)が,貧困という生活条件から来ていることへの認識が薄い。これがわが国の特徴です。

   それゆえに,健康問題の解決に税金を投じることに賛成する国民の率も,他国に比して低くなっています。「肥満防止施策に税金を使う」ことに対する賛成率は,日本は40.6%で,こちらも主要国では最下位です。

   もっと多くの国を含めた全体構造の中に,日本を位置付けてみましょう。横軸に「貧困は,健康問題の原因となると思う」の率,縦軸に「肥満防止施策に税金を使うことに賛成」の率をとったマトリクス上に,上記のISSP調査の対象となった34か国をプロットしてみました。


   ご覧のように,日本は最も左下にあります。健康問題を当人の自己責任として捨てるのではなく,社会的な視野で考えようという意識が,最も希薄な社会です。

   これはおそらく,他の問題についてもいえるのではないでしょうか。たとえば,横軸の「健康問題」を「学力遅滞」,縦軸の「肥満防止施策」を「学力格差是正施策」に変えて意見を問うても,似たような図柄になると思われます。

   わが国では,この種の問題の原因を当人の責に帰す傾向が強く,家庭環境のような外的条件に目を向けることはタブー視されるきらいがあります。教育社会学者の多くが感じている不満でしょうが,アンケートで保護者の年収や学歴などを尋ねようとすると,拒否されるのが常です。これでは,不利な条件の家庭の子どもに対する支援はおぼつきません。貧困に由来する,学力格差や健康格差の問題から目をそらしてはいけないと思います。

   最近ではようやく事態が変わり,2013年度の『全国学力・学習状況調査』では,対象児童・生徒の家庭環境が把握され,学力との関連が分析されました。そこで提示されたデータは,保護者の学歴や年収と平均正答率の,「残酷」ともいえるまでの相関関係です。

   これにより,問題の社会的規定性が世間に理解され,東京都の足立区のように,子どもの貧困実態調査を独自に行う自治体も出てきました。こうした取組により,「生まれ」によってライフチャンスや心身の健康が制約されることのないような社会の実現が望まれます。

   上記の散布図は2011年の国際データですが,数年後に実施される同種の健康意識調査では,日本の位置が変わっていることを強く欲します。

   しかし,社会を動かす上で,データの力は侮れないと感じます。握りこぶしを振り上げて「**すべし」と訴えるのは簡単ですが,それが世論を説得し,資源の投入が認められ,具体的な政策につながるには,データ(エビデンス)が求められます。よくいわれる「Evidence based policy」とは,このことです。

   私は,4月8日の日経デュアル記事にて,家庭環境と非行発生率の関連を明らかにしたのですが,「こういうデータは,一人親家庭への偏見を助長する」というコメントが書き込まれました。まったく心外です。私は,そんなことは微塵も意図していません。非行防止に際して,不利な条件の家庭への支援が必要であると主張したいまでです。それを具現するには,こういうデータ提示が不可欠であることは,言うまでもありません。それとも,この種の分析をやってはいけないのでしょうか?

   このような考えが,問題に対する世人の目を曇らせ,社会的な次元での解決策を滞らせていると思います。私はFBをやっていませんので,ここで反論しておくことにいたしましょう。

2015年12月10日木曜日

子育て期の父母の睡眠時間

 11月2日のニューズウィーク記事にて,日本人の睡眠時間が世界で最も短いこと,それがイノベーション社会への変革を阻害する条件となっていることを指摘しました。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2015/11/post-4061.php

 日本人のどの層の睡眠時間が短いかというと,中年女性です。上記記事の図2の年齢曲線によると,40代後半女性の睡眠時間がことに短くなっています。高校生くらいの子がいる年代ですが,弁当づくりなどのため早起きを強いられるのでしょう。

 また,老親の介護も始まる時期であることから,育児と介護のダブルケアを負わされる女性も多いとみられます。晩婚化・晩産化が進んでいる現在では,育児と介護の時期が重なるようになってきています。今後,こうしたダブルケア女性の過労の問題も台頭してくることでしょう。

 今回は,もう少し分析を深めてみます。中年女性の睡眠時間が短いのですが,それが顕著なのはどの地域か。言わずもがな,大都市と地方では違うでしょう。都道府県レベルの統計を使ってデータを作ってみましたので,それをご覧に入れようと思います。国内の地域差の吟味です。

 中年女性の中でも寝ていないのは,子どもがいる女性です。ここでは,子育て期の女性に焦点を当てることとします。

 2011年の総務省『社会生活基本調査』から,子育て期の男女の平均睡眠時間を都道府県別に知ることができます。平日1日あたりの平均睡眠時間を,末子の発達段階別に採取し,折れ線グラフにすると,下図のようになります。全国と大都市・神奈川県のグラフです。
http://www.stat.go.jp/data/shakai/2011/index.htm


 男性はさておき女性は,子どもが大きくなるにつれて,睡眠時間が短くなっていきます。都市部の神奈川ではその傾向が顕著で,全国の折れ線に比して,右下がりの傾斜が大きくなっています。とりわけ,子が中学校から高校に上がることに伴う変化が著しく,睡眠時間が30分近くも減ります(386分→359分)。

 高校生の子がいるとなると,弁当作りのため早起きをしないといけませんが,遠距離通学の多い都市部では,その時間が早くなるのでしょう。塾通いで帰りも遅くなるので,遅寝にもなると。中年女性の寝不足のレベルは,地域によって異なることがうかがわれます。

 では,他県のデータもみてみましょう。末子が高校生の男女(父母)の平均睡眠時間一覧表をつくってみました。


 育児と介護のダブルケア年代ですが,平均睡眠時間は県によってかなり違っています。女性でみると,342分から432分までの幅があります。最も短い和歌山では,わずか342分(5時間42分)。分布をみれば,5時間未満の母親も少なくないことでしょう。

 女性の平均睡眠時間の赤字は,360分(6時間)に満たない数値です。首都圏(1都3県)は,見事に赤色です。都市部のママは寝ていないようです。

 右欄の性差は,男性との差ですが,鳥取と熊本では,女性の睡眠時間が男性よりも2時間以上短くなっています。鳥取では,男性は8時間寝ているのに対し,女性は6時間寝ていないと。性差の赤字は,男女の差が60分(1時間)を超える県です。

 女性の睡眠時間が6時間未満で,かつ男性との差が60分を超える県(赤字2つ)を拾うと,神奈川,和歌山,鳥取,福岡,熊本の5県となります。これらの県では,中年女性のダブルケア負担が大きいこと,それが女性に偏していること,という問題が提起されるかもしれません。

 最後に,高校生の子がいる母親の平均睡眠時間(上表の中央欄)をマップにしておきます。4つの階級を設け,各県を塗り分けてみました。


 白色は360分(6時間)未満の県ですが,首都圏や近畿圏といった都市部がこの色になっていることに注目。子どもの遠距離通学に加え,介護施設が不足している都市部では,在宅介護に伴う負担があるのかもしれません。

 日本人は世界一寝ていないのですが,とくにそうなのは中年女性,それも都市部居住の中年女性であることを知りました。このように詰めていくことで,対策の重点層が見えてきます。

 資源は有限です。全国一律ではなく,時には資源の傾斜配分も必要。その判断材料として,こういうデータが必要であることは,申すまでもないことです。

2015年12月8日火曜日

落第の国際比較(2012年)

 落第とは,法律用語で原級留置といいます。字のごとく,次の学年に進級できず,当該の学年に留置かれることです。

 学校教育法施行規則第57条では,校長は平素の成績を勘案して,進級や卒業の可否を決めることと定められています。高校や大学だけでなく,義務教育の小・中学校でも同じです。よって小・中学校でも,成績不良者や長欠者の落第はあり得ることになります。

 しかしながら,「かわいそう」という思いからか,日本では小・中学校で落第の措置がとられることはまずありません。年齢を重ねたら自動的に進級させる,年齢主義の考え方がとられています。

 一方,諸外国はそうではありません。学部の比較教育の授業で,フランスでは小学校でもガンガン落第させると習った覚えがあります。課程の内容を習得しているかが厳密に試験され,それをもとに,進級の可否が決められるとのこと。年齢ではなく,課程の習得状況を重視する,課程主義の考えが採用されているわけです。

 教育は社会によって異なりますが,義務教育段階での落第という点において,その差を明瞭に見てとることができます。今回は,小・中学校の落第率の国際比較をしてみましょう。

 OECDの国際学力調査『PISA 2012』では,対象の15歳生徒に対し,「ISCED1」と「ISCED2」の段階の学校で,落第したことがあるかと尋ねています(Q7)。前者は初等教育(primary education),後者は前期中等教育(lower secondary education)に相当です。日本でいう,義務教育の小・中学校に対応するとみてよいでしょう。
https://pisa2012.acer.edu.au/

 めぼしい国を取り出し,小学校段階の回答をグラフにすると,下図のようになります。日本の生徒は,この質問には回答していません。小学校での落第なんて皆無と分かり切っているためでしょう。


 主要国の15歳生徒の回答ですが,小学校での落第経験者は少しはいます。韓国は3.2%,アメリカは10.2%,イギリスは1.9%,ドイツは10.0%,フランスは16.4%,スウェーデンは3.1%,ブラジルは23.4%です。

 米独仏は10%超で,南米のブラジルでは小学校でも4人に1人が落第させられたと。スゴイですねえ。われわれの感覚からしたら,ちょっと驚きです。

 なお他の国をみると,もっと高い値が出てきます。調査対象の60か国について,小・中学校での落第経験率を計算し,高い順に並べたランキング表をつくってみました(日本は0.0%と仮定)。


 小学校の経験率トップはポルトガルで24.5%,中学校は北アフリカのチュニジアが最高です(29.9%)。小学校で4人に1人,中学校で3人に1人を落第させる社会もあると。

 上位をみると,南米などの発展途上国が多く名を連ねています。おそらくは,児童労働の問題も絡んでいることでしょう。

 先進国ではフランスがトップです。なるほど,学部の比較教育の講義で習った通り。この文化国では,小・中学校といえど,課程の習得状況が厳正に試験され,進級の可否が決められているようです。

 われわれが信じて疑わない常識が相対化されますね。しかし世界からすれば,日本の状況が特異と驚かれることでしょう。「小・中学校の落第率0%! さすがジャパン。全ての児童・生徒に,課程の内容を習得させることに成功している」と。

 しかし,こんなことを言われたら,歯がゆさを禁じえません。わが国において,形式的就学(進級)が蔓延っているのは,よく知られていること。授業を理解している者の比率は小学校で7割,中学校で5割,高校で3割といわれ,「七五三」などと揶揄されています。

 最後に,60か国の義務教育の落第経験率をグラフにしておきます。横軸に小学校,縦軸に中学校での落第経験率をとった座標上に,60の社会をプロットしたものです。


 日本では,義務教育段階で落第させるのは,「恥をかかせること,かわいそう」という思いが強くあります。確かに,年下の子どもと机を並べるのは,屈辱感を伴うでしょう。何事も年齢を重視するわが国あっては,なおのこと。だから年齢を重ねたら自動的に進級させる,年齢主義が採用されているわけです。

 しかしフランスなどの諸外国では,課程の内容をちゃんと習得しないまま進級させることこそ「かわいそう」という見方がとられています。

 文化の違いといえばそれまでですが,日本でも,形式的就学(進級)の病理を克服しようという動きが出ています。2008年の改定学習指導要領では,課程の内容をきちんと習得・定着させるため,前学年の内容を必要に応じて復習することと定めています。算数や理科といった理系教科では,とくにです。

 落第はさせないという考えは残した,対処療法です。年齢主義の伝統が強いわが国,いきなり欧米流の落第方式を持ち込んだら,大きな混乱が起きることは必至。よって,自国に即したやり方で,事態を徐々に変えていく。現段階でできるのは,こういうことです。

 ただ,自国のやり方(年齢主義)というのが,国際的にみたら普遍的でも何でもない,むしろ特異なものであることが,今回のデータから分かるかと思います。こういう視点を持つと,教育改革の道筋を考える際も,発想の幅が広がりますよね。

 まあしかし,これから日本でも,外国籍の子どもが増えるなど,学校が多国籍化していきます。こうなった時,日本流の年齢主義をいつまでも固持することができるか。国際化の波に洗われた10年後,20年後あたりは,上記の図における日本の位置も違っているかもしれません。

 私としては,それをちょっと期待します。教育は変わるという,希望的事実になるからです。

2015年12月6日日曜日

宿泊・飲食業の学生バイト依存率

 前回の続きです。前回は地域別の高校生・大学生のバイト率を出したのですが,今回はそれを求めている需要側のデータです。

 学生の過重なバイトが生まれる要因としては,当人の生活苦と同時に,産業界の人手不足もあります。前者はプッシュ,後者はプルの要因といえましょう。

 低賃金で文句もいわずバリバリ働いてくれる若い学生では,喉から手が出るほど欲しい労働力です。とりわけ飲食業界ではそうでしょう。私はよく日高屋に行きますが,料理を運んでくるのはほぼ100%学生バイトです。こういう産業は,学生労働力によって成り立っているのだろうなと,強く感じます。

 総務省『就業構造基本調査』の産業カテゴリーに「宿泊・飲食業」があります。2012年の統計でみると,この産業の全就業者は374万人。このうち,在学者(≒学生バイト)は52万人。よってこの産業では,全就業者の13.9%,7人に1人が学生バイトということになります。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm

 宿泊・飲食業のデータですが,飲食業に限ったら値はもっと高くなるでしょう。しかしそれはできませんので,ひとまずこの業種に注目します。では前回と同様,都道府県別・政令指定都市別の数値を出してみましょう。


 全国値は13.9%ですが,値は地域によって大きく違っています。赤字は20%超ですが,やはり都市部で高いですね。マックスの千葉市では29.4%,3人に1人が学生バイトです。すごい依存率ですね。飲食業に限ったら4割,下手したら5割いっちゃうでしょうか・・・。

 都市部では学生が多いので,当然といえばそうですが,ブラックバイトのプル要因が多く潜んでいることにかんがみ,行政の側は対策に力を入れねばなりますまい。

 都市部では,地方から出てきて下宿している学生で,生活費を自分で稼がないといけない学生も多いでしょう。下宿性の仕送り額が近年激減し,今では3人に1人が月額5万円未満です。つまり,プッシュ(生活苦)の要因もあるとみられます。
http://tmaita77.blogspot.jp/2015/05/blog-post.html

 限られた資源でブラックバイト対策を行うには,ねらいをピンポイントで定めないといけませんが,前回の学生のバイト率,および今回の学生バイト依存率が高い地域は要注意といえましょう。

2015年12月3日木曜日

県別・指定都市別の高校生・大学生のバイト率

 長いタイトルになりましたが,このデータを試算してみましたので,ご覧に入れようと思います。

 資料は,2012年の総務省『就業構造基本調査』です。この資料のデータは十分にしゃぶり尽くしたと思っていたのですが,まだまだです。公表されている統計表を目を凝らしてみると,まだまだ知見を引き出すことができます。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm

 2012年の資料では,在学人口とそのうちの有業者数が,県別・指定都市別に集計されています。ここでいう有業者には,パートやバイトも含みます。よって,在学の有業者は学生バイトとみなしてよいでしょう。私はこれを使って,高校生と大学生のバイト率を地域別に出してみました。

 全国の数値を引くと,15~19歳の高校生人口は373.6万人,そのうちの有業者は20.7万人です(2012年10月時点の数値)。よって高校生のバイト率は,後者を前者で除して5.5%となります。大学生のほうは,15~24歳の大学生が269.2万人,そのうちの有業者が88.1万人ですので,バイト率は32.7%となります。

 大学生はおよそ3人に1人がバイトしていると。これは全国の数値ですが,値は地域によって違います。では,主眼の県別・指定都市別のバイト率をみていただきましょう。分母と分子の数値も提示いたします。下段の政令指定都市の数は,都道府県の内数の再掲です。


 高校生のバイト率8%超,大学生のバイト率35%超は赤色にしました。高校生のバイト率マックスは横浜市の11.0%,大学生のそれは浜松市の48.6%,半分近くです。やはり都市部は高いですね。東海地方で高いのは,製造業の工場が多いためでしょうか。

 県単位のデータでは,高校生の最高値は神奈川の9.4%,大学生は愛知の42.1%です。

 時系列的にみると,学生のバイト率はさして変わっていません。学生がバイトに精を出すのは,今も昔も同じこと。ただその目的が変わってきていて,大学生のバイト目的が遊興費稼ぎから生活費・学費稼ぎにシフトしていることは,先日のニューズウィーク記事で申した通りです。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2015/11/post-4152.php

 こうした生活苦と産業界の人手不足が相まって,ブラックバイトという病理が生まれるわけですが,その所在を明らかにし対策を講じるには,上表のような細かいデータも必要になるでしょう。各県・指定都市の飲食業界のうち,学生バイトが何%かという「学生バイト依存率」のような指標も,地域別に出せます。回を改めて提示しようと思います。

2015年12月2日水曜日

収入の地域格差の拡大

 90年代以降の「失われた20年」にかけて,人々の収入は減ってきています。東京という大都市に限ってもそうです。

 総務省『住宅土地統計調査』のデータを使って,東京都内特別区部(23区)の世帯年収分布がどう変わったかをグラフにすると,下図のようになります。年収が判明する普通世帯の年収分布図です。
http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/kekka.htm


 1993年では年収が高い世帯が多い右上がりの曲線だったのが,20年を経た2013年では,低収入層が増えています。2コブの折れ線です。

 階級値に依拠して,この分布から世帯年収の平均値を出すと,1993年が625.1万円,2013年が535.2万円となります(計算の方法は,3月1日の記事を参照)。この20年間で平均世帯年収が90万円も「失われた」わけです。

 これは世帯の年収であり,単身世帯や高齢世帯が増えたことによるでしょう。しかし個々の労働者の収入も減っていることは,よく知られていること。先日のニューズウィーク記事で紹介したデータをひくと,25~34歳の男性就業者の平均年収は,402万円から350万円へと減じています。結婚気の若年男性のデータですが,これでは未婚化が進むだろうなと感じます。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2015/10/post-4005.php

 さて,上のグラフは23区全体の変化ですが,この20年間の変化は,それぞれの区によって違っています。平均世帯年収を観察すると,減っている区がほとんどですが,減少の幅には地域差があります。23区のうち1つの区だけは,この「失われた20年」にかけて年収が増えています。そこはどこか?

 私は同じやり方で,平均世帯年収を区ごとに計算してみました。下の表は,1993年と2013年を比べたものです。右端の数値は,この20年間で何%減ったかを示す減少率です。


 23区全体の減少率は14.4%ですが,値は区によって多様です。台東区,墨田区,板橋区,練馬区,足立区,江戸川区は減少幅が大きく,20%以上の減です。

 対して世田谷区や豊島区などはほとんど減っておらず,港区のように逆に増えている地域もあります(774万円→779万円)。ヒルズ族の貢献ってやつでしょうか。

 このように減少率が疎らなことから,23区の平均世帯年収の地域格差も拡大しています。最高値から最低値を引いたレインヂは1993年では295万円でしたが,2013年では361万円にまで開きました。これは両端ですが,標準偏差も72万円から99万円に拡大しています。

 繰り返しますが,これは世帯の平均年収であり,単身化や高齢化のレベルが区によって違うためとも考えられます。しかし同じ大都市の都内23区では,そういう基底的な条件に大きな差はないとみてよいでしょう。上表のデータは,そういう条件の変化ではなく,まぎれもなく貧困化のレベルの地域差を示していると思います。

 この20年間で平均世帯年収の減少率が大きい区が,地理的に固まっていることにも注目。土地勘のある方はお分かりでしょうが,北部・東北部の区です。マップにするとよく分かります。


 「失われた20年」のダメージは,区によって違っています。富の減少率が大きいのは,もともと貧しかった地域。港区と足立区という対照的な2つの区を拾うと,「富めるはますます富み,貧じるはますます貧に」という感じになります。
 
 この20年間における収入減少はよく言われますが,それには格差の拡大が伴っていることを添える必要があるでしょう。まあ,個々人や世帯単位の収入のジニ係数がアップしていることは随所でいわれていますが,地域単位の格差拡大も付け加えておかねばなりません。

 子どもの学力格差を考える際も,家庭環境の要因と居住地域の要因は分けて考える必要があります。子どもは,済んでいる地域のクライメイトの影響を被るもの。場合によっては,後者が前者を凌駕することもあります。

 私は都内23区を例に,こういうデータをよく出していますが,「大阪市内の区別データも出してほしい」というリクエストをたまにうけます。東京の山の手・下町(東西)格差も大きいだろうが,大阪市内の南北格差はもっとスゴイと。しかし私は,大阪の土地勘はありませんで,ためらっています。『住宅土地統計』のデータは誰でも使えますので,どなたかやっていただけないでしょうか。

 こういうコラボにより,日本の主要大都市内部の格差を明らかにするのも,意義ある作業といえるでしょう。