元旦の記事において,最近のわが国では,青年の自殺が増大していることを指摘しました。こうした危機兆候は,わが国固有のものなのでしょうか。これまで,どのトピックでも,国「内」にこもりがちであったので,ここで初めて,視野を世界に拡大してみたいと思います。
私は,1995年と2005年における,世界各国の青年の自殺率をできるだけ多く集めました。WHOの国際統計では,年齢区分が「15~24歳」,「25~34歳」という区切りになっているので,ひとまず,後者を青年と考えることにしました。性別は,男性に限定することにしました。男性の率のほうが,各国の社会状況の変化を鋭敏に反映すると考えるからです。
統計の出所は,WHOホームページのMortality Databaseです。URLを下記に示します。
http://apps.who.int/whosis/database/mort/table1.cfm
さて,数字ハンティングの結果,47ヵ国の青年男性の自殺率の近況を知ることができました。グラフにする前の,統計の原表を掲げます。
国の順序は,2005年の率が高い順にしています。日本(赤字)は,2005年でいうと,47ヵ国中7位です。10年前のランクは25位でした。不名誉のランクアップを遂げています。
次に,この10年間における自殺率の増減ですが,わが国のように増えている国もあれば,その逆の国もあります。フランス,アメリカ,イギリス,ドイツなどの先進国は,いずれも値を減少させています。大国ロシアも,率はぶっちぎりで高いですが,10年前よりは自殺率が下がっています。
口であれこれ言っても分かりにくいですので,「百聞は一見に如かず」,変化を一目で大観できるグラフをお見せします。横軸に1995年の自殺率(X),縦軸に2005年の自殺率(Y)をとった座標上に,47ヵ国をプロットした散布図です。斜めの実線(均等線:Y=X)より上方に位置する場合,この10年間で値が上がっていることを意味します。下方にある場合は,その反対です。なお,点線の斜線(Y=X±10)よりも外側にある場合,自殺率が10ポイント以上増減していることになります。
図をみると,この期間中に自殺率が増大している国は,どちらかといえば,少数派のようです。ましてや,わが国のように,10ポイント以上伸びている国は,ガイアナしかありません。
こうみると,わが国の青年の危機兆候は,国際的にみても際立っているといえそうです。これをどう乗り切るか。図をみると,エストニアやフィンランドでは,青年の自殺率が大きく減少しています。前者ではマイナス35ポイント,後者ではマイナス22ポイントです。こうした,自殺対策先進国の実践に教えを請うことも有益であるかと存じます。