前回は,大学の入り口にまつわるトピックでした。今回は,大学の出口についてです。大学の修業年限は4年間(一部は6年)ですが,この最低年限で学業を終え,卒業していく者もいれば,そうでない者もいます。後者は,いわゆる留年生といわれる人種です。私の印象では,最近,留年をする学生が増えているように思うのですが,実情はどうなのでしょう。
文科省『学校基本調査(高等教育機関編)』によると,2010年の大学生(修業年限4年)のうち,4年という最低修業年限を超えて在学している者は,106,406人であるそうです。この年の大学生の数は2,559,191人ですから,留年生の比率は,前者を後者で除して,41.6‰となります。%にすると,およそ4%。つまり,学生の25人に1人が留年生という計算になります。
この値をどう評価するかですが,以前に比して増えているのでしょうか。前回の作業と同様,1992年の統計と比較してみようと思います。この年は,18歳人口がピークであった年です。
上記の棒グラフは,学生千人あたりの留年生の数を示したものです。これによると,1992年では,留年生の比率は39.0‰でした。2010年の値は41.6‰ですから,微増していることになります。留年の年数をみると,留年生のほとんどが,1~2年というところです。
しかし,学生の性別や,在学している大学の種別によって,留年率は異なるものと思われます。そこで,前回と同じく,以下の表をつくってみました。
この表は,留年学生の比率をカテゴリーごとに出したものです。まず,女子学生よりも男子学生で留年率が明らかに高いことが注目されます。1992年では,4倍以上でした。しかし,2010年データでは,その差が縮まっています。次に,大学の種別でみると,留年生の比率は国立大学で最も高くなっています。2010年データでは,国>公>私という,明確な構造ができています。これは少し意外でした。
さて,この結果をどう解釈すべきでしょう。留年の理由は,勉強を怠けて単位を落としたという類のものが多いのでしょうが,最近では,別の理由も目立ってきています。それは,就職が決まらなかった学生が,翌年も新卒枠で就職活動を行うために,わざと留年するというものです。こうみると,学費が比較的安い国公立大学で留年率が高い,という傾向も合点がいきます。私立大学にも,こうした学生の意向に応えるべく,留年期間中の学費を値下げする大学が出てきているくらいです。
わが国の労働市場には,新卒至上主義という奇妙な慣行があります。私は,この分野に詳しくないのですが,若者の労働市場が新卒枠と既卒枠とに分かれているような国が,他にあるのでしょうか。経団連も,この慣行の奇妙さに気づいたのか,卒業後3年までは新卒扱いにしてほしいという要望を出しています。しかし,どうなることやら…
私の卒論ゼミの学生にも,「就職決まらないんで,留年しようかと思うんですけど」と言ってくる学生がいます。もったいないな,と正直思います。お金もですが,時間もです。卒業して,何かやりたいことをしながら,就職活動をすればよいではないか,と言いたくて仕方ありません。でも,当人のためを思えば,それは無責任な発言になるのでしょうね。採用面接で,「大学を卒業してから遊んでいたのか!」と一蹴されることになるのですから。
道草ができない社会,日本。この社会の世知辛さが,大学生の留年率という指標によって,可視的になっているように思います。