高卒後の教育(中等後教育)を担う機関は,大学だけではありません。同じ高等教育機関として括られる短大や高専のほか,専修学校や各種学校といった,実践的な職業教育を施す学校も,その一翼を担っています。
これらの機関の間では移動可能性も開かれており,短大や専修学校を出た後,大学に編入学する者もいます。また,7月27日の記事でみたように,大学を出た後,専門学校に入り直すという学生も増えてきています。大学の自由な時間の中でやりたいことを見定めた,というような者です。
意外に知られていませんが,わが国の中等後教育(Post Secondary Education)は,多様で柔軟な構造を持っています。個々人の意向や適性の分化に対応しつつ,袋小路をつくらない。こういう条件が上手く活かされるならば,子どもから大人への移行期の青年期教育は,大変実りあるものになるでしょう。
ところで,これらの中等後教育機関で教える教員は,どういう人間なのでしょう。「教育は人なり」といわれるように,教員集団の構成がどうかという人的条件も,教育の効果を規定する重要要因の一つです。
18~22歳青年の多くが学ぶ大学では,教員の非正規化がすさまじい勢いで進行しており,専攻によっては,教員の半分以上が,不安定な生活にあえぐ専業非常勤教員です(昨年の9月25日の記事)。他の機関では如何。今回は,大学,短大,高専,専修学校,および各種学校の教員集団を解剖してみようと思います。専任(非常勤)がどれほどかという,雇用形態に注目します。
資料は,2010年の文科省『学校教員統計』です。同年10月時点における,5つの中等後教育機関の教員構成は,以下のようになっています。上の表は原資料から採取したローデータであり,下の表は,それを3カテゴリーにまとめたものです。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kyouin/1268573.htm
中等後教育機関の教員は,当該学校に正規に属する本務教員と,数時間の授業をするためだけに雇われている非常勤教員からなります。後者の非常勤教員は,本職の傍らで教鞭をとっている「本務あり非常勤教員」と,それがなく,薄給の非常勤給をメインに生計を立てている「専業非常勤教員」に分かたれます。
どの学校種でも,本務教員より非常勤教員のほうが多く,専業非常勤教員も少なくないようです。短大では,専業非常勤教員が最も多くなっています。へえ,これは知りませんでした。4年制大学を上回る,教員の非正規化(極貧化)ぶりですね。
専修学校では,本務あり非常勤教員が多いですね。実践的な職業教育を施す学校ですので,兼任の実務家教員が多く招かれているのでしょう。
3カテゴリーの実数表のデータを統計図にしてみましょう。ヨコ幅によって,各学校の教員の量も表現します。
中等後教育機関の教員のトータルな構成図ですが,非常勤教員の領分が結構広いですね。5つの学校の教員数は51万4,249人ですが,このうちの非常勤比率は54.0%,専業非常勤比率は23.1%です。
どういう感想を持たれたかは人それぞれでしょうが,多感な青年層の教育の多くが,細切れ労働の非常勤教員によって担われているのですね。長期的な接触による,信頼関係の醸成もできたものではありません。
以前の図はつくっていませんが,おそらくは,グレーの領域が広がっていることと思われます。非常勤教員,とりわけ専業非常勤教員の増加にあたっては,教育機関側の人件費抑制志向の高まり(プル)と,大学院博士課程から輩出されるオーバードクターの増加(プッシュ)という,2要因のマッチングがあることに注意する必要があるでしょう。
今から10年後,20年後には,どういう図柄になっているか。その頃には,これらの機関は,成人の学びのセンターとしての機能を果たすようになっているでしょうが,そういう状況変化に伴い,事態は改善されているか。それとも,その逆か。
近未来の生涯学習社会,学習社会の有様を占うキーは,こういうところにも見出されます。