2013年8月9日金曜日

属性別の新卒ニート出現率

 2013年度の文科省『学校基本調査』の速報結果が公表されました。各紙が結果のハイライトを報じていますが,大卒者の進路に関するトピックが多いようです。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm

 近年,『学校基本調査』の進路統計のカテゴリーは詳細になってきています。原資料にあたって,この春の大卒者の進路内訳表をつくると,以下のようになります。


 大卒者の数はおよそ56万人。そのうち正規就職者が35万人であり,63.2%を占めています。しかるに,ここでみたいのは,そういう「おめでたい」部分ではありません。目を下のほうに移すと,進学でも就職でもない「左記以外」のうち,進学浪人でも就職浪人でもない「その他」というカテゴリーの者が3万人ほどいます。

 卒業時の進路が,進学でも就職でもない。かといって,そのための準備もしていない。昨日の日経記事では,「家事手伝いやボランティア従事者も含まれるが,大半がニートとみられる」といわれていますが,私もそうだろうと思います。最近よくいわれる「新卒ニート」です。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASDG0706K_X00C13A8CC1000/

 新卒ニートの出現率は5.5%,卒業生18人に1人なり。結構いるものですね。ところで,これは大卒者全体の値ですが,男女,国公私,および専攻といった属性別にみるとどうでしょうか。また,短大や大学院といった他の高等教育機関の卒業生では,どういう値が観察されるでしょう。

 私は,上記の意味での新卒ニートが卒業生に占める割合を,5つの機関別・属性別に計算しました。下表は,結果をまとめたものです。率の水準によってセルの色分けもしています。**は,データがないことを意味します。


 まず,最下段の合計の行をみると,高専では新卒ニートはほとんどいません。しかし,他の機関では5%を超えており,おおむね,段階を上がるほど出現率が高くなっていきます。上表にあるように,大学学部卒業生では5.5%ですが,修士課程修了生では6.2%,博士課程修了生では13.1%,8人に1人にもなります。

 博士課程修了生の多くは大学教員志望者ですが,教員公募に応募中の者は「就職準備中」としてカウントされ,ここでいう新卒ニートには含まれないと思われます。はて,この率の高さは何故でしょう。

 それはさておき,表中の属性別数値に目をやると,すさまじい値がちらほらみられます。10%超は薄い灰色,15%超は濃い灰色,20%超はブラックにしていますが,大学院,とりわけ博士課程の箇所では,ほとんどのセルに色がついています。

 私が出た教育系の博士課程では18.2%,芸術系では20.3%,最も高い人文系では23.2%です。およそ4人に1人。教員公募への応募等のシューカツは修了してから,ということなのでしょうか。まあ,私もそうでしたけど。

 「大卒の新卒ニート3万人,全体の5%」。これはメディア等でよく報じられてるところですが,細かい属性別にみると,値が大きく変異することが分かりました。

 卒業時の行き先が明確でなく,何らかの役割を得るための準備もしていない。こういう人間が増えることは問題を含んでいる,という見方が多数でしょうが,この中に,新たな生き方の萌芽が潜んでいるとも考えられます。

 2013年春に輩出された,上記の5高等教育機関の新卒ニートは41,232人。この集団の素性のより詳細な解析と,数年後の状況がどうなっているかを追跡する研究が求められるでしょう。社会変革のきっかけ(ヒント)を,アウトサイダーから学べることも少なくないのです。