夏も盛り,テレビをつければ高校野球中継をやっていますが,甲子園出場校には私立高校が多いな,という印象を持ちます。
調べてみたところ,現在開催中の夏の甲子園大会出場校49校のうち,私立高校は35校であるようです。比率にすると約7割。母集団での構成比を勘案すると,甲子園の出場校は私立高校に相当偏っているといえます。
夏の甲子園は,各県の予選を勝ち抜いた高校が出場しますが,出場校が私立であるか否かによって,47都道府県を塗り分けた地図をつくってみました。今年のものと,30年ほど前の1980年のものです。
緑色は,出場校が私立である県です。1980年の東京は,東東京が私立,西東京が公立なので,薄い色にしています。1980年の出場校の調査にあたっては,下記の「年別全国甲子園出場校」というサイトを使わせていただきました。
http://www.geocities.co.jp/athlete/1492/data/shutujyou.html
1980年では私立よりも公立のほうが多かったのですが,現在ではそれが逆転し,多くの県に色がついています。出場校(49校)の占める私立校の比重は,38.8%から71.4%へと大きく伸びました。
上述のように,これは,全高校の設置者構成とはかなり隔たっています。文科省『学校基本調査』から分かる,母集団の国公私構成と出場校のそれを照合してみると,下図のようです。カッコ内は,高校の数です。
昔はそうでもありませんでしたが,現在では,母集団と出場校の設置者構成のズレが顕著になってきています。今では,全高校では4分の1ほどしかない私立高校が,夏の甲子園出場校の7割をも占有しているわけです。単純に考えると,私立校の出場確率は,通常の2.7倍高いことになります(71.4/26.5 ≒ 2.7)。
5月7日の記事でみたように,有力大学合格者が私立高出身者に偏る傾向が強まってきていますが,甲子園の土を踏むに際しても,そういう格差が出てきている,ということかしらん。
それはさておき,統計学の教材づくりも兼ねて,甲子園出場校の公私の偏りを可視化するジニ係数を計算してみましょう。下表は,用いる基礎データです。
母集団と出場校の設置者構成のズレは,一番下の累積相対度数によって表されています。この数値をグラフ化することで,その様を視覚的にみてとることができます。
下の図は,横軸に全高校(母集団),縦軸に甲子園出場校の累積相対度数をとった座標上に,3つの群をプロットし線でつないだものです。これがローレンツ曲線なり。
曲線の底が深いほど,全高校と出場校の設置者構成のズレが大きいこと,すなわち出場チャンスの国公私間格差が大きいことを示唆します。2013年の底は,1980年よりもだいぶ深くなっていますね。
ここで求めようとしているジニ係数は,曲線と対角線で囲まれた部分の面積を2倍したもので,0.0~1.0までの値をとります。算出された係数値は,1980年は0.152ですが,2013年現在では0.450にもなります。
学業のみならず,スポーツの領域でも,こういう学校格差はあるのですねえ。まあ,特待生制度とかで技能に秀でた生徒をかき集めている私立校は多いでしょうから,当然といえばそうですが,以前に比して,偏りの程度が増してきていることは,私にとっては発見でした。
話をちょっと広げると,学力をはじめとした教育達成に社会階層差があるのは教育社会学では常識ですが,スポーツ達成の階層差というのはあるのでしょうか。競技技能の向上に際しては,稽古をつけたり優秀なコーチをつけたりといろいろ費用がかかりますから,階層要因との結びつきはあるように思いますが。
論文検索サイトCiniiで,「スポーツ」と「社会階層」という語でサーチしたところ,多くはありませんが,いくつかの論文がヒットしました。体育学,スポーツ社会学の領域の研究主題として,一応の確立はみているようです。
今回やったのは,甲子園出場校の分析ですが,野球だけでなく,他の種目にも目を向けて,インターハイ出場選手の高校分析などをしてみても面白いでしょう。ネット上に,出場選手の基礎情報を軒並みまとめたサイトとかがあるかもしれません。
夏の甲子園大会も中盤。燃えよ,若き球児たち(熱中症にならない程度において)。みなさまも,よいお盆休みをお過ごしください。