読売新聞教育取材班は,毎年,全国の大学を対象に,入試状況や退学率などを調べる大規模調査を実施しています。調査の内容は,年々充実してきており,最新の2011年調査からは,各大学の初年次退学率を知ることができます。
高校の中退率を学年別にみると第1学年がダントツで高いのですが,大学についても,同じことがいえるのではないでしょうか。無目的に何となく入ったが,専攻の勉学内容にどうしても興味が持てない,高校までの基礎ができておらず,授業についていけない・・・。事情はいくらでも想起できます。
大学全入時代といわれる今日,入学早々,不適応を起こしてしまう輩も少なくないことでしょう。このような事態を防ぐため,補習授業の実施や長欠傾向の学生のフォローなど,各大学でさまざまな取組がなされていると聞きます。
さて,現在の大学の初年次退学率がどれほどかをみてみましょう。読売新聞教育取材班『大学の実力2012』(中央公論新社,2011年)の巻末資料から,全国597大学の初年次退学率を知ることができます。2010年4月入学生のうち,翌年3月までの間に,どれほどの者が退学したか(除籍になったか)を表す指標です。
私が非常勤として勤務する武蔵野大学の場合,初年次退学率は3.1%です。597大学の平均値(2.6%)を上回っています。私は同大学で1年次配当の授業を持つことが多いのですが,途中から来なくなり,「アイツ,辞めましたよ」と聞かされた学生さんの顔を何人か思い出すことができます。残念なことですが。
597大学の初年次退学率は,0.0%から18.3%まで,幅広く分布しています。度数分布をとると,下図のようです。国公私の組成が分かるようにしました。
下の層ほど厚い,きれいなピラミッド型ができています。1%未満の大学が159校と,全体の4分の1ほどを占めています。色分けに注目すると,国公立大学は下層部に分布しています。国立は全て3%未満,公立は全て5%未満です。初年次退学率が5%を超える大学(86校)は,全て私立です。
初年次退学率の平均値を出すと,国立が0.7%,公立が0.8%,私立が3.2%,となっています。国公立と私立の間に大きな溝がみられます。
私立では,経営難を回避するために,なりふり構わず学生を入れることに躍起になっている大学も多いと思います。学力検査を課さず,ほとんどをAO(All OK)入試のような一芸入試で入れる,というように。その結果,入学後の勉学についていけなくて中退・・・。こういうことが多いのではないかしらん。
上記の文献の統計から,2011年入学生のうち,一般入試を経由していない者の比率を各大学について出すことができます。武蔵野大学の場合,入学者総数は1,493人,うち一般入試経由者は582人ですから,一般入試非経由者の比率は,(1,493-582)/1,493=61.0%です。
先ほど初年次退学率を明らかにした597大学のうち,この指標の値を出すことができるのは552大学です。私は,この552大学のデータを使って,一般入試非経由率と初年次中退率の相関関係を出してみました。
データの数が多いので撹乱が結構ありますが,一般入試非経由率(X)が高い大学ほど,初年次中退率(Y)が高い傾向が看取されます。相関係数は0.598です。552というデータ数ですから,明らかに有意な相関と判断されます。
赤色のドットは武蔵野大学ですが,ちょうど回帰直線の上に乗っかっています。Yの値が,Xの値から期待される値に近い,ということです。
上記の相関は,X→Yという因果関係的な面を強く持っているのではないでしょうか。学力面での不適応という,常識的な解釈をあてがうだけで十分でしょう。
なお,一般入試非経由率が同じくらいであっても,初年次退学率が大きく異なるケースが多々あります。この差は,初年次の学生に対し,大学側がどれほど綿密にフォローを行っているかの違いによる部分が大きいと思われます。
上記の読売新聞調査から,初年次の学生に対する補習の実施頻度を,大学別に知ることができます。この変数と,初年次退学率の相関関係も興味深いところです。この分析にあたっては,入試偏差値(ランク)が同じくらいの大学のデータを使う必要があります。ランク指標の入力に時間がかかりますので,しばしお待ちください。