随時,私の好きな本を実物写真を交えて紹介していきたいと存じます。まずは,恩師の松本良夫先生の主著,『図説・非行問題の社会学』です。1984年に,光生館から発刊された本です。
少年非行の社会学的研究を志すならば,まずもって読まなければならない重要文献です。本書に収められた多数の統計図(表)から,社会現象としての少年非行の全貌を把握することができます。その一部をご覧にいれましょう。私のメモ書きやマークがありますが,ご容赦ください。
出身階層や教育上の進路によって,非行少年の出現率がどう異なるか,という問題を追及した箇所です(108~109頁)。松本先生が科学警察研究所時代に手掛けられた,大規模なコーホート追跡調査の結果が用いられています。
右下の統計図では,両変数を組み合わせて構成した9グループの非行少年出現率が明らかにされています。この図は,各グループの非行率のみならず,各々の量的規模までもが視覚的に分かるよう工夫されています。
教育上の進路(中学まで,高校まで,大学まで)の構成は横軸,出身階層(ブルーカラー,商工業自営,ホワイトカラー)の構成は縦軸の幅で表現されています。
左側は1942年生まれ世代,右側は1950年生まれ世代の結果です。いかがでしょう。世代が下ると,進学率の上昇により,中学までの者(黒色)の比重が減じてきます。その分,このグループに危機が濃縮されることとなり(落伍者の烙印・・・),中学までのグループから非行少年が出る確率は,他の学歴グループに比して,格段に高くなります。出身階層を問わずです。
現象を端的に分かりやすく伝えようという配慮(真心)が,この本の至る所に見受けられます。なお,本書が出た頃は,エクセルなどのグラフ作成ツールはありませんでした。どの統計図も,松本先生が丹精込めて手書きで作成されたものなのでしょう。すごいな,と思います。
私も,松本先生の域に近づけるよう,努力していきたいと存じます。私の論文を読まれたという某先生から,「いかにも松本先生のお弟子さんらしい論文」という感想のお便りをいただいたことがあります。とてもうれしい思いがしました。今後も,このような評価をいただけるような仕事ができたら,と思っております。