厚労省の『社会福祉行政業務報告』には,児童相談の統計が掲げられています。年度の間に,全国の児童相談所に寄せられた相談の件数です。11月27日の記事では養護相談,29日の記事では不登校・いじめ相談の件数を分析しました。今回は,性格行動相談の統計をみてみようと思います。
上記の資料の用語解説によると,性格行動相談とは,「子どもの人格の発達上問題となる反抗,友達と遊べない,落ち着きがない,内気,緘黙,不活発,家庭内暴力,生活習慣の著しい逸脱等性格もしくは行動上の問題を有する子どもに関する相談」と定義されています。
「反抗」,「逸脱」,「行動上の問題」といったタームが出てきますが,この種の問題を抱えた子どもは増えてきているような印象を持ちます。相談件数の統計は,どのように推移しているのでしょうか。1965年度(昭和40年度)以降の2~3年刻みの統計を整理しました。
性格行動関連の相談件数は,やや波がありますが,傾向としては増えてきています。1965年度では1万7千件ほどでしたが,それから40年を経た2005年度では3万3千件を超えています。この期間中,子ども(20歳未満)の数が減ってきていることを勘案すると,子どもの発育途上において,性格行動上の問題が発現する確率が上がってきていることがうかがれます。
表をよくみると,1992年度から95年度にかけて,相談件数の実数,比率とも急上昇しています。この3年間の間に,相談件数は1万件も増えています。ちょうど日本社会に暗雲が立ち込めてきた時期と重なっているのが不気味です。
次に,性格行動関連の相談が,どの年齢の子どもで多いのかをみてみます。2010年度の統計によると,性格行動相談は,13歳の子どもに関するものが最も多く,2,637件となっています。この年の13歳の子どもの数は,およそ119万人です(総務省『人口推計年報』)。よって,人口(ベース)あたりの相談件数の比率は,1万人あたり22.1件となります。子ども人口全体でみた相談件数率(11.8)の2倍近くです。
性格行動上の問題が発現する確率が最も高いのは,13歳のようです。ちょうど第二次反抗期の只中にある難しいお年頃です。分かるような気がします。しかるに,これは最近のデータです。年齢別の様相は,時代によって異なると思われます。私は,上表の各年度について,人口あたりの性格行動相談率を年齢別に出し,結果を上から俯瞰することができる図をつくりました。
黒色は,該当年齢人口1万人あたりの相談件数が20件を超えることを示唆します。紫色は,15件以上20件未満です。色により,それぞれの時代の「難しいお年頃」が何歳かをみてとることができます。
私が生まれた頃の1970年代では,性格行動関連相談は,3~4歳の幼児で多かったようです。その後,80年代から90年代の初頭までは,目立った高率ゾーンはなくなりますが,90年代の後半以降,6~15歳の学齢の部分において,怪しい紫色が広がってきます。黒色の膿の位置が,徐々に高齢の部分にシフトしていることも注目されます。
いかがでしょう。難しいお年頃は,時代によって変わってきているようです。かつては3~4歳でしたが,最近では13~14歳です。奇しくも,前者は発達心理学でいう第一次反抗期,後者は第二次反抗期に相当します。
第一次反抗期は,身体を自由に動かせるようになった幼児が,それまでの親の全面的な統制に反抗するようになる時期です。第二次反抗期は,自我に目覚め,大人になることを欲する児童・生徒が,親の干渉や支配に反抗するようになる時期です。
今日では,2番目の第二次反抗期の危機が際立っているようです。子どもの自我の芽生えを,大人が押さえつけているようなことはないでしょうか。彼らの有り余るエネルギーの発散の場を用意できているでしょうか。
多くの子どもが早い段階で社会に出ていた時代では,こうした問題はさほど深刻ではなかったことでしょう。しかし,進学率の上昇により,ほぼすべての子どもが,勉強の好き嫌いに関係なく,長期の間学校に囲い込まれる現代では,彼らの自我が周囲(親,教師・・・)と衝突する度合いが高くなっていることと思われます。
青少年の成熟拒否志向が問題視されていますが,思春期以降の子どもは,いつの時代でも,大人になりたいという強い欲求を持っています。それを好ましい方向に指導していくには,彼らに適切な役割(role)を与えることが重要です。今日では,「机上の勉学に励むべき生徒」という一面的なものにあまりにも偏していることは,指摘するまでもありません。
学齢期において膿が広がっている上図の模様は,学校化が過度に進行した現代日本社会の病理を表現したものと捉えることもできるでしょう。