大学の教員には,当該の大学に正式に属する本務教員(専任教員)と,そうではない兼務教員(非常勤教員)という,2種類の人種がいます。いわゆる非常勤講師や特任教授などは,後者に属します。
文科省『学校基本調査』(2011年度版)の速報結果によると,同年5月1日時点における大学の本務教員数は176,663人,兼務教員数は188,219人です。大学教員全体に占める兼務教員の比率は,51.6%となります。
この指標の長期的な推移をたどると,1960年は27.2%,1970年は35.9%,1980年は39.0%,1990年は42.1%,2000年は47.7%,です。兼務教員の比率は上昇の一途をたどり,今日では半分を超えています。*これらの時系列データは,下記サイトの総括表9(学校種ごと)の統計から計算可能です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001015843&cycode=0
賃金の安い兼務教員(以下,非常勤教員)の比重を増やすことで,人件費の抑制を図る大学が多くなっている,ということでしょう。少子化により,多くの大学が経営危機に瀕している状況を思えば,さもありなんです。
ところで,上記の数字は大学全体のものですが,個々の大学ごとにみるとどうでしょうか。教員のほとんどが非常勤教員という大学もあれば,非常勤教員が1人たりともいない大学もあることでしょう。
読売新聞教育取材班『大学の実力2012』(中央公論社,2011年)の巻末資料から,2011年現在における,全国615大学の非常勤教員率を明らかにすることができます。文科省の統計から分かる,この年の全国の大学数は780校ですから,母集団の78.8%がカバーされていることになります。
サンプルの信憑度はまずまずといってよいでしょう。毎年,全国の大学を対象とした大規模調査を実施しておられる,読売新聞社のご努力に敬意を表します。
http://www.chuko.co.jp/tanko/2011/09/004281.html
この資料には,各大学の専任教員数と,専任以外の教員(非常勤教員)数が記載されています。私が非常勤として勤務する武蔵野大学の場合,前者は196人,後者は418人です。よって,この大学の非常勤教員率は,418/(196+418)=68.1%となります。615大学の平均値(52.9%)をかなり上回っています。うーん。非常勤講師控室にあるレターケースの数の多さを思うと,そうだろうな,という気がします。
615大学の非常勤教員率の最大値は91.7%,最小値は0.0%です。すごい差です。615大学の度数分布(10%刻み)をとると,下図のようになります。国公私の構成が分かるようにしてあります。
60%台の階級が最頻値(Mode)となっています。非常勤教員の比率が7割を超える大学は89校ですが,そのうちの81校は私立大学です。8割以上の大学は全て私立です。逆に,国公立大学は,下の層のほうに分布しています。
平均値を出すと,国立は39.0%,公立は45.8%,私立は56.4%,となります。非常勤教員率は,私立大学で高いことが知られます。このことに説明は要しないと存じます。
次に,都市部の大学の地方の大学とで,分布がどう違うかをみてみます。私は,大学院修士課程は鹿児島大学だったのですが,知り合いの先生が次のようにおっしゃっていました。「非常勤をいくつも任されて困ってるんだよ。君がこっちにいるなら,じゃんじゃん回してあげるんだけどねえ」。
地方の場合,非常勤を気軽に頼める研究者が少ない,ということがあるでしょう。それに,交通網が未発達なので,遠方から講師を呼びにくい,という事情もあると思います。先ほどの先生は,週に2回,鹿児島市内から新幹線で他校に出講するという,ハードスケジュールをこなされています。今はどうか分かりませんが。
私は,615大学を首都圏(埼玉,千葉,東京,神奈川),近畿圏(京都,大阪,兵庫,奈良),および地方(その他)の3群に分け,非常勤教員率の度数分布をとってみました。
予想通り,首都圏と近畿圏の大学が上層に分布しています。70%以上の大学は89校ですが,そのうちの63校が首都圏ないしは近畿圏の大学です。平均値を出すと,首都圏は59.7%,近畿圏は56.9%,地方は48.0%,となります。各大学の非常勤依存率の水準は,地域条件にも規定されているようです。
非常勤教員を増やす増やさないは,各大学の自由ですが,非常勤教員率があまりに高くなることは,好ましいことではありますまい。この指標が8割や9割を超えるということは,自校の教育の大部分を部外者に「丸投げ」していることを意味します。
各大学の非常勤教員率は,もしかすると,学生の中退率のような指標と相関しているかもしれません。さらには,就職率(進路未定率)のような,アウトプット指標とも関連しているのではないかしらん。
次回は,今提起した一番目の問題に関連する実証データをご覧に入れようと思います。