2012年6月14日木曜日

新規採用教員の高齢化の問題

6月11日の日本教育新聞に,「『新任』の高齢化で新たな課題」と題する記事が載っています。私が分析したデータが紹介されています。


 記事によると,2009(平成21)年度の公立学校の新規採用教諭のうち,30歳を超える者の割合は,小学校が2割,中学校が3割,高等学校が4割とのこと。記事中のグラフから明らかなように,この比率は,12年前の1997年度よりも増えています。一言でいうなら,新規採用教員の「高齢化」です。

 採用試験の難関化により,現役一発ではなかなか受かりにくくなっているのでしょう。採用側にしても,ケツの青い新卒よりも,臨時講師などの教職経験のある人材が欲しいのかもしれません。ちなみに,2009年度の新規採用教員の採用前の状況をみると,「塾講師,非常勤講師」という者が最多だそうです。臨時講師などをしながら採用試験に複数回トライした浪人組です。

 新規採用教員の高齢化は,別に悪いことではありますまい。臨時任用とはいえ,一応は経験を積んだ人間が集まるわけですから。つい昨日まで学生だった22歳の青二才を,いきなり教壇に立たせていいのか,という声もあります。採用試験の年齢制限は,「~歳未満」という上限ではなく,「~歳以上」という下限にすべきだ,という意見も耳にしたことがあります。

 しかるに,負の側面もあります。上記の記事にて,横浜市教委の教職員育成課長さんは,次のように述べています。「非常勤経験が長いほど,自己流の授業スタイルに陥るリスクが高い」。

 なるほど。時間給(1時間の授業当たりナンボ)で働く臨時講師には,研修を強制できません。「放課後の研修会にちょっと出ろや」と声をかけても,"No"といわれればそれまでです。自分の力量形成のため,無償であっても参加する講師もいれば,授業が終わったら,採用試験対策のための予備校に直行という者もいることでしょう。後者のほうが多数派なのではないかなあ。

 かくして,臨時採用の期間が長引くほど,自己流の授業スタイルができ上がっていくリスクが高まることになります。この手の輩が試験に通って正規採用になった場合,初任者研修では,それを削ぎ落とさなければならないわけです。これは,ある意味,経験のない白紙の新卒を教育するよりも大変なことです。

 こういう問題があることから,横浜市では,臨時採用の講師にも研修を課すそうですが,研修時間の分の給料も上乗せして払うのかしらん。それとも,1日あたりナンボの日給制にするのかな。

 続いて,第2の問題点。記事では,福井大学の松木教授の調査結果が紹介されています。それによると,子どもからの支持が高い教員の年齢層は,20代前半,30代半ば,そして50代だそうです。子どもからの支持という点でみると,3つのピークがあることが知られます。

 高齢の新規採用教員は,このうちの第1のピークを経験する(味わう)機会を逸するわけです。このことが,教員としての自信形成,自我形成に影響しないかどうか・・・。こういう懸念が持たれます。

 新規採用教員の高齢化は,最初から即戦力のある人材が増えるのであるからよいことだ,と捉えられがちですが,それには影の部分もあることを知りました。上記の記事は勉強になりました。

 蛇足ながら,記事では述べられていない,第3の問題点を指摘しておこうと思います。新規採用教員の高齢化は,教員集団の年齢構成を「いびつ」なものにします。4月4日の記事でみたように,新規採用教員の高齢化が最も著しいのは沖縄です。その関係上,この県では,20代の若年教員がとても少なくなっています。

 下図は,東京と沖縄について,公立小学校教員の年齢ピラミッドを描いたものです。資料は,2010年の『文科省学校教員統計』です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001016172


 沖縄では,20代教員は全体のわずか3.2%,残りの96.8%は30歳以上なり。比にすると「1.0:30.3」。東京は,20代が21.7%,30歳以上が78.3%で,比は「1.0:3.6」。

 どの職業集団でも,各種の雑務は,下の層にいくことでしょう。20代の教員が自分たちより上の世代の教員を支える,という比喩を立ててみましょう。この場合,沖縄の20代教員が上から被る圧力の強さは30.3,東京のそれは3.6という数値で測られます。

 人口比をもとに比喩的に出した数値ですが,沖縄の20代教員が被る圧力は,東京の約10倍です。2月19日の記事でみたように,沖縄は,精神疾患による教員の休職率が最高の県ですが,その一因は,上図のような教員集団の年齢構成の「いびつさ」にあるのかもしれません。

 新規採用教員の高齢化は,高齢化した新規採用教員の力量形成のような問題に加えて,マイノリティ化する若年教員(20代)への圧力増大という問題もはらんでいるといえましょう。県単位の統計を使って,新規採用教員の高齢化の程度と,教員の離職率や精神疾患率の相関関係を分析してみるのも,興味深い課題です。