昨日,内閣府より「地域における女性の活躍推進に関する意識調査」という資料が公開されました。47都道府県の成人男女(20~60代)に,性別役割分業など,諸々のジェンダー項目に関する意識を尋ねています。
http://www.gender.go.jp/research/kenkyu/chiiki_ishiki.html
この調査の目玉は,都道府県別のデータを出していることです。各県の男女共同参画政策関係者の参考になることでしょう。新聞でも,「男は仕事,女は家を守る」という性別役割観の賛成率の都道府県ランキングが報じられ,注目を集めています。トップは奈良の50.4%,最低は富山の37.2%だそうです。
http://mainichi.jp/select/news/20150619k0000e040158000c.html
しかし,この設問だけの回答でもって,各県の県民のジェンダー意識を測るのはちょっと乱暴でしょう。上記の調査では他にも,いろいろなジェンダーの設問が盛られています。
私は,8つの設問に対する回答を合成して,47都道府県の県民の脱ジェンダー意識を測る指数を計算してみました。伝統的なジェンダーに反対する考えがどれほど強いかを測る尺度です。
本調査のQ4では,回答者本人のジェンダー意識を問うていますが,そこから8つの項目を抜き出してみました。丸囲いの番号は,調査票の項目番号です。冒頭のリンク先の調査票でご確認ください。
上半分の4項目(①,③,④,⑤)については,否定の回答(3 or 4)の回答比率を拾います。下半分の4項目(⑥,⑩,⑪,⑫)のほうは,肯定の回答(1 or 2)の回答割合に着目します。
どの項目でも,算出された比率にはかなりの地域差があります。8つの項目について,最高値と最低値を整理すると,以下のようです。繰り返しますが,①~⑤は否定,⑥~⑫は肯定の回答割合です。
8項目のうちの半分は,最高値は北陸の富山となっています。働く女性が多い県として知られていますが,こういう脱ジェンダー意識ゆえでしょうか。対極をみると,奈良と長崎が2項目で最低値となっています。
これら8つの項目の回答比率を合成して,脱ジェンダー意識の単一尺度をつくるわけですが,各々は値の水準が異なるので,単純に足したり均したりはできません。そこで,各項目の数値を,1~5の範囲内の収まる相対スコアに換算します。47都道府県中の最低値を1.0,最高値を5.0とした場合,いくらになるかです。この2点を通る関数式を求め,それを使って各県のスコアを割り出します。
①の性別役割分業観でいうと,最低値は49.6%,最高値は62.8%ですが,(49.6,1.0)と(62.8,5.0)の2点を通る一次関数式を求めると,Y=0.303X-14.03 となります。この式のXに,各県の実値を代入すれば,1~5の範囲に収まる相対スコアになります。首都の東京は56.2%ですので,これを代入して,東京の①の相対スコアは3.00となる次第です。47都道府県のレインヂ(1~5)のちょうど真ん中くらいですね。
このやり方で,8項目の回答比率をスコア化し,それらを平均値をとりました。東京のスコアは,①が3.00,②が2.01,③が3.47,④が3.10,⑤が3.12,⑥が3.51,⑦が2.36,⑧が3.42ですので,これらの平均値は2.999となります。東京の成人の脱ジェンダー意識は,この値で測られます。脱ジェンダー意識指数と呼ぶことにしましょう。
この尺度(measure)を47都道府県別に計算し,ランキングにすると,以下の表のようになります。
県民の脱ジェンダー意識指数のトップは富山,2位は岩手,3位は山形です。東京は17位で,私の郷里の鹿児島は28位。鹿児島は男尊女卑とかいわれますが,下位の群ではないですね。最も低いのは,首相の出身県の山口となっています。
この脱ジェンダー意識指数は,各県の第一次産業率と+0.404の相関関係にあります。傾向としては,都市県より農村県で,脱ジェンダー意識が強い,ということです。自営業では一家総出ですから,「夫はこう,妻はこう」なんて言ってられないのでしょうね。一方,大都市のリーマン世帯ではそうではないと。
子育て期(30~40代)の女性の有業率とは+0.548,正社員率とは+0.512という相関です。やはり,伝統的なジェンダー観念と対峙する意識が強い県ほど,女性の社会進出は進んでいるようです。はて,こういう先進的な意識があるから働く女性が多いのか,あるいは逆に働く女性が多いという客観的事実が,県民の意識を規定するのか。因果の向きには2通りの解釈がありますが,私は後者のほうが強いのでは,と思っています。人々の意識は,居住地のクライメイトの影響を被るものです。
個人レベルでいうなら,人々の脱ジェンダー意識は「低学歴<高学歴」でしょうが,都道府県統計でみると,高学歴が多い都市県で値が低くなっています。これは,個人の属性効果が,地域の文脈効果に回収されていることを示唆します。地域の効果,侮りがたしです。やはり対策は,地域レベルで行うべきであると思われます。戦略の重点は,県民,とりわけこれから社会に入ってくる子ども・若者が目にする客観的状態を変えることにおくべきで,そのことが,意識の変革にもつながるとみられます。
マルクス流にいえば,意識が存在(状況)を決めるのではなく,存在(状況)が意識を決定する,です。