暴力とは何かについては,人によって認識が分かれるところです。殴る・蹴るといった有形力を伴う行為は多くの人が暴力と認めるでしょうが,怒鳴る,無視する,束縛するなどについては,判断が異なるでしょう。また,性による違いもあるかと思います。
内閣府の「男女間における暴力に関する調査」では,複数の行為を提示し,それぞれが暴力に当たるかどうかを対象者に答えてもらっています。私は,20代男女の回答を整理してみました。拾ったのは,「どんな場合でも暴力である」という最も強い肯定の回答割合です。
http://www.gender.go.jp/e-vaw/chousa/h11_top.html
最新の調査は2014年のものですが,時系列比較もしたいと考え,最も古い1999年のデータも採取しました。
どの項目も,最近のほうが肯定率が高くなっています。今世紀以降,暴力に関する各種の啓発がなされたことの成果ともいえるでしょう。
男女別にみると,増加幅は総じて女性のほうが大きく,その結果,多くの項目で肯定率のジェンダー差が開いています。赤字は女性と男性の差が8ポイントを超える項目ですが,1999年では1つだったのが,2014年では4つに増えています。
変化の様相を分かりやすいグラフにしてみましょう。★は,2014年のデータで男女差が10ポイントを超える項目ですが,これらに着目すると,最近15年間の変化を象徴するようなグラフができます。横軸に「大声で怒鳴る」,縦軸に「交友関係やメールなどを細かく監視する」の暴力認識率をとった座標上に,両年の男女のドットを位置付け,線でつないでみました。
ここ15年間の認識の高まりは女性で著しく,男女のドットの隔たりが大きくなっています。
99年に男女共同参画社会基本法が制定され,それ以降の男女共同参画基本計画(1~3次)に基づいて,女性への暴力根絶に向けた取組が推進された経緯がありますが,その成果は,男女によって異なるようです。それまで黙っていた女性の口は開くようになったが,男性の意識はさして変わっていないと。
http://www.gender.go.jp/about_danjo/basic_plans/index.html
DV加害者の大半が男性であることを考えると,上記の変化をもって,被害の顕在化(訴えの増加)は予測できても,暴力行為そのものの減少という事態を期待するのは難しいかと思います。今後は,男性を重点ターゲットとした取組・啓発が求められるのではないでしょうか。
白書では,国民全体の暴力認識の高まりというようなことが報じられていますが,層ごとに分解して観察すると,違った様相も見えてきます。その作業は,今後の要注意層を検出することにもなります。全体を見た後は,部分を見る。この原則を忘れてはならないでしょう。