2020年3月8日日曜日

子どもの面前での夫婦喧嘩も虐待

 コロナショックの影響で,社会の至る所で機能縮小(停止)が起きています。仕事を失う人も出てきていますが,時給で働く非正規や,仕事単位の対価で暮らすフリーランスにすれば死活問題です。

 これに対し政府が何と言っているかというと,仕事を無くした非正規・フリーランスには,無利子・無担保で10万円融資してやるとのこと。融資ですので借金です。憤りの声が上がっていますが,舐めているとしか思えないです。

 講演やイベント登壇など,人と会うのを生業にしているフリーランスは,仕事のキャンセルが相次ぎ,途方に暮れていることでしょう。私は自宅仕事なんで,幸い影響はなしです(今のところは)。今日も午前中,せっせと公務員試験の過去問を解いていました。

 その中で,児童虐待の統計を扱った問題に出くわしました。児童虐待の統計といったら,児童相談所が対応した児童虐待の相談件数です。手元にあるデータをみると,1997年度では5277件でしたが,最新の2018年度では15万9838件に膨れ上がっています(厚労省『福祉行政報告例』)。少子化で子どもが減っていることを思うと,凄まじい増加です。

 これは相談件数なんで,虐待とみられる行為が児童相談所に通告される頻度が増しているためでしょう。「過去最悪」などと報じる新聞もありますが,この数が増えるのは悪いことではありません。人々の道徳意識が鋭敏になった証でもあり,喜ぶべきことともいえます。

 児童虐待防止法2条によると,児童虐待には4つの類型があります。私が解いた問題は,この4つの構成がどうなっているかを問うものでした。1997年度と2018年度の構成をグラフにすると以下のようになります。


 この20年間で構成が様変わりしています。1997年では身体的虐待が52.7%と過半数でしたが,2018年度では心理的虐待が過半数を占めるに至っています。

 心理的虐待とは,人格を傷つけるような暴言や拒絶的対応ですが,確かにこういうことをする親が増えているような気はします。しかし最も大きいのは,2004年の法改正です。この年の児童虐待防止法改正により,「児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(配偶者の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動)」も,心理的虐待に含まれることになりました(第2条)。

 簡単にいえば,子どもの面前での激しい夫婦喧嘩も心理的虐待に当たりますよ,ということです。父親が母親を殴る,両親が口汚く罵り合う…。子どもにすれば,こんな光景を目の当たりにしたらたまったものではありません。心理的外傷につながる可能性が大です。

 2016年度の統計から,心理的虐待のうち,「暴力の目撃によるもの」が分けて集計されています。この手の事案が増えてきて,きちんと数を把握したほうがいい,という認識からでしょか。データをみると,心理的虐待(暴力の目撃)の数は多くなっています。以下の表は,2016年度と18年度の相談件数(実数)です。



 どうでしょう。心理的虐待を2つに分けた,合計5つのカテゴリーですが,心理的虐待(暴力の目撃)が最も多いではありませんか。2018年度は5万2423件で,全体(15万9838件)の32.8%,3分の1に相当します。

 虐待というと,殴る・蹴るといった身体に対する侵害が想起されますが,最も多いのは,夫婦喧嘩を見せつけられ,心理的外傷を植え付けられることなんですね。この手のタイプが,児童虐待全体の3分の1を占めると。その様を可視化しておきます。久々に,面グラフを使いましょう。



 色付きは心理的虐待のシェアで,最初の図でも見た通り,全体の過半数を占めます。点線は,そのうちの「暴力の目撃」の比重で,これだけで全体の32.8%(3分の1)を占めるのが見て取れます。

 子ども,とくに年少の子どもにあっては,家庭生活の比重が殊に高いのですが,そこでは両親と子が密に接して暮らします。子どもの前での振る舞いには,十分注意したいものです。

 コロナの影響で,自宅待機や在宅勤務(テレワーク)が増えていますが,何もしない夫が家にいることによる,妻のストレスは如何。夫の家事分担率を県別に出してみると,高い県でも2割ほど,低い県では5%ほどです。日本の場合,家庭における夫婦間の葛藤のタネは多し。
https://twitter.com/tmaita77/status/1236268095959740416

 これまでは, 長時間の通勤・勤務で夫が家にいる時間が少なく,そうしたコンフリクトは顕在しませんでしたが,コロナという黒船の到来により,そうもいかなくなりそうです。子どもの前で,つまらない渦を巻き起こさないようにしましょう。お父さんは,家事を分担しましょう。よくない言い方かもしれないですが,男性の家庭進出が進む契機になれば,しめたものです。

 「2020年はコロナの襲来により,父親が家にいることが多かった。その影響で,夫婦間の諍いが多発し,心理的虐待(暴力の目撃)の件数が激増した」「この年だけ離婚率が跳ね上がった。人呼んで,コロナ離婚という」。後世において,こんなふうに書かれたりしたら,何とも悲しいことですよね。