前回の記事では,大学卒のグレーカラー化が進んでいるというお話をしました。大卒者のうち,高度な知識や技術を必ずしも要しないと思われる販売職やサービス職に就く者が増えている,ということです。
このことは,どの職業でも大卒がマジョリティーになり,高卒や中卒がごく一部のマイノリティーに追いやられていることを示唆します。言葉を換えると,どの職業においても,大卒によって高卒や中卒が締め出しを食う,ということです。このことに関する統計をお見せしたいと思います。
私は,それぞれの職業に就いた新規学卒者(男子)の学歴構成が,時代と共にどう変わったのかを調べました。下図は,半世紀前の1960年の状況を示したものです。資料は,文部省『日本の教育統計-新教育の歩み-』(1966年)です。
学歴の区分は,大雑把に,大卒,高卒,そして中卒の3区分で捉えることとします。図をみると,当時にあっては,新規学卒入職者の学歴構成は多様だったようです。専門技術職では38%,事務職では68%,販売職では90%,サービス職では94%が高卒以下です。後2者では,中卒もかなりの比重を占めていることが注目されます。
ところが,50年の時を経た2010年現在では,状況が激変します。資料源は,文科省の『学校基本調査(高等教育機関編)』ですが,現在では,中卒就職者があまりに少ないためか,中卒の職業別就職者の数は計上されていません。よって,大卒と高卒の2区分でみることになります。
図をみると,大卒者のシェアの増加が一目瞭然です。販売職にあっても,あらたに入職してくる新卒者のほぼ9割が大卒です。サービス職になって,ようやく大卒と高卒が折半するという具合です。
このことは,高卒者や中卒者の就職機会が狭められていることを意味します。勉強が嫌いという理由や,経済的理由などで大学に行かない人間もいることでしょう。しかし,就職しようとすると,大卒学歴を暗に求められる。専門の知識や技術を要さないような職業であっても…こういう時代になっているものと思われます。
企業がなぜ大卒を好んで採るかというと,大卒の専門的な職業スキルに期待してのことではなく,大卒ならば間違いはないだろう(少ないだろう)という,曖昧な理由であることがほとんどです。要するに,人材選抜のための手ごろなシグナルとして学歴を使っている,というだけのことです。
企業の側が,そのような無精をしないで,自社に必要な人材を自前で見抜く努力をするならば,2番目の図のような現状が,最初にみた,1960年の状況にバックすることもあり得るのではないでしょうか。そうなった時,好むと好まざるとに関係なく,万人が大学進学を強いられるような,学校化社会が克服されるかも知れません。
上記の2つの図を見較べて,どちらが健全であると思うかと問われたら,私なら,1960年の状況図を指差します。社会の多様性って,こういうものではないでしょうか。現在の状況には,それとは反対の「閉鎖性」という語を当てるのが適当ではないかと存じます。