もう少し,非行のお話をさせてください。前回と前々回では,各世代の非行の軌跡を明らかにしました。ところで,非行といっても,いろいろな罪種があります。大半は万引きといった軽微なものですが,殺人のようなシリアスなものもあります。今回,注目しようと思うのは,凶悪犯です。凶悪犯を多く出している,Atrocious Geneation(凶悪世代)は,何年生まれの人たちでしょう。
凶悪犯とは,殺人,強盗,強姦,および放火の総称です。字のごとく,凶悪な罪種ばかりですが,非行全体の中でのウェイトはかなり小さいものとお考えください。
まずは,自分の世代の軌跡を振り返ってみます。私の世代は,1986年に10歳となりますが,この年に凶悪犯で補導された10歳少年は28人です。翌年には11歳ですが,この年の11歳の凶悪犯は20人です。…こうしたデータをつなぎ合わせたのが上記の表です。
非行全体の場合,ピークは15歳でしたが,凶悪犯では18歳が305人で最も多くなっています。10~19歳の凶悪犯の延べ数は1,308人となっています。非行少年全体の延べ数(178,100人)の0.7%ほどです。
では,時代×年齢のマトリックス上にて,凶悪犯出現率を表現し,その俯瞰図の上に,各世代の軌跡を位置づけてみましょう。下の図をご覧ください。
非行全体の出現率とは違って,凶悪犯の場合,16歳以上の高年齢の部分に多発ゾーンが多くみられます。人口10万人あたり30人を超えるブラックゾーンは,1970年代前半の年長少年の部分と,世紀の変わり目あたりの中間少年の部分に広がっています。
この俯瞰図の上に,各世代の軌跡を表す直線を引きましょう。私の世代の場合,(10歳,1986年)と(19歳,1995年)の2点を結んだ直線になります。図をみると,私の世代は,率が20を超える青色以上のゾーンは通っていないようです。比較的,いい子ちゃん世代であったことが知られます。
ところが,一回り下の1986年生まれ世代は,16~18歳あたりにかけて,凶悪犯を多数出したようです。この図をみる限り,1980年代前半生まれの世代が,Atrocious Geneationであることが分かります。
1998年の1月,栃木県の黒磯市で,中学1年生の男子生徒が女性教師をナイフで刺殺する事件があり,以後,「キレる子ども」という言葉が飛び交った時期があります。時の文部大臣も「ナイフを持つのは止めよう」などと盛んに訴えていました。ちょうど,この世代が10代を過ごした時期と一致しています。
1980年代前半生まれの世代は,物心ついた時は,バブル経済で世の中が浮かれていましたが,思春期にさしかかった時期に,経済状況が奈落の底に落ちるという激変を経験しています。また,多感な10代の頃に,世の中のIT化(インターネット,ケータイの普及…)に遭遇したというのも,彼らに固有の経験です。
非行というのは,時代現象であり,年齢現象であると同時に,世代現象でもあります。非行世代の研究というのも,犯罪社会学の中でそれなりの位置を占めている,面白い分野です。