昨日,2012年度の文科省『学校基本調査』の確定値が公表されました。8月公表の速報値とは違って,仔細な集計も多く盛られています。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001011528
集計の仕方も年々詳しくなってきているのですが,今年度より,卒業後進路の「就職」カテゴリーが,「正規就職」と「非正規就職」とに区分されていることが注目されます。雇用の非正規化が進んでいる現在,双方の数字を分けてカウントする必要がある,という認識からでしょう。
今年度より,高等教育機関の卒業後進路カテゴリーは,以下の8つとされています。
①:進学
②:正規就職
③:非正規就職
④:臨床研修医
⑤:専修学校,外国の学校等入学
⑥一時的な仕事(バイト)
⑦:左記以外の者(その他)
⑧:不詳・死亡
今年春の大学院博士課程修了生(満期退学含む)の場合,8カテゴリーの分布はどうなっているのでしょう。この点については,8月29日の記事にて明らかにしたのですが,用いたのは速報集計のデータだったので,修了生全体ならびに大雑把な専攻系列ごとの傾向しか把握し得ていません。
しかるに,このほど公表された確定値集計では,各系列の下位にある,細かい小専攻ごとの数値も分かります。無業(⑥+⑦)や進路不詳・死亡(⑧)の比重については,8月30日の記事でもみたところですが,就職の中の「非正規」をも含めたら,どういう傾向が出てくるでしょうか。
私は,修了生数が100人を超える30の小専攻について,今年春の修了生の進路分布を明らかにしました。なお,人数が少ない①,④,⑤の3つは,「進学等」の1カテゴリーにまとめたことを申し添えます。
就職者の中から非正規を取り出してみると,これまたすさまじい傾向が出てきます。非正規就職,バイト,その他(無業),および不詳・死亡を「不安定進路」として括ると,文学専攻では,修了生の84.9%が不安定進路をたどっていることが知られます。
藍色の線で囲った不安定進路の比重の上位5位は,文学(84.9%),人文科学その他(79.6%),史学(71.8%),哲学(70.6%),そして生物(69.6%)です。
ほう。理系の生物専攻が5位にランクインしていますね。これは,非正規就職の比重が高いことによります。多くは,短期採用のポスドクでしょう。就職者中の非正規の数が公表されたことで,理系専攻の影の側面もみえてきました。
不安定進路(膿)のウェイトがはっきり分かる図も提示しておきましょう。上図の6カテゴリーを簡略化した組成図をつくりました。
藍色の比重は,およそ半分というところでしょうか。非正規就職をも考慮すると,理系専攻においても,膿が広がっていることが分かります。
修了者の行き場がないことから,博士課程の定員を抑制する方針が出されています。それが実施されているのか,あるいは危機を感じた学生が自発的に離れているのかは分かりませんが,近年,博士課程への入学者は減少傾向です。
昨日公表の『学校基本調査』の確定値によると,今年春の入学者は15,557人なり。前年よりも減っています。来年春はどうなることやら。
文科省の進路統計において,就職者のカテゴリーが正規と非正規に区分されたのは,好ましいことだと思います。大学学部や修士課程についても,同じ分析をしてみるのも一興でしょう。