フリーの地図作成ソフト,MANDARAをご存知でしょうか。埼玉大学の谷謙二准教授が,ネット上で無償提供されているものです。
http://ktgis.net/mandara/index.php
これを使うと,都道府県よりも下った,各県内の区市町村単位の統計地図も簡単に作成することができます。現在,使い方をようやくマスターし,さまざまなデータの地図化を楽しんでいるところです。
いくつか試作品を作ったのですが,ここにて,首都圏(1都3県)の就学援助率地図をご覧に入れようと思います。就学援助とは,経済的理由によって学齢の子女を義務教育学校に通わせることが難しい保護者に対し,区市町村が,学用品費等を援助する制度です。
対象は,生活保護法が定める要保護者と,それに準じる程度に生活が困窮していると認められる準要保護者です。その子ども(学齢)は,要保護児童・生徒,準要保護児童・生徒と呼ばれます。
文科省の『平成21年度・要保護及び準要保護児童生徒数について(学用品費等)』という資料から,全国の区市町村の要保護ならびに準要保護児童・生徒の数を知ることができます。
これによると,私が住んでいる多摩市の場合,同年度の要保護児童・生徒数は210人,準要保護児童・生徒数は2,807人です。同資料に掲載されている,同年の公立小・中学生数は9,930人。したがって,当市の就学援助受給児童・生徒の出現率は,(210+2,807)/9,930≒30.4%となります。およそ3割。結構いるものですね。
私は,1都3県の204区市町村(東京の島嶼部除く)についてこの値を出し,上記ソフトで地図化してみました。以下に展示します。
5%の区分で塗り分けています。黒色は20%(2割)を超える地域ですが,都内の特別区部(23区)に明らかに集中していることが注目されます。ちなみに,上記5位は以下のごとし。
1位 東京・足立区 ・・・ 38.2%
2位 東京・墨田区 ・・・ 34.2%
3位 東京・板橋区 ・・・ 33.4%
4位 東京・荒川区 ・・・ 32.1%
5位 東京・多摩市 ・・・ 30.4%
おお,わが多摩市が5位とは。1~4位は,すべて東京の北東部の下町地域です。
ところで,就学援助は貧しい家庭を対象とするものですから,論理上,上図の地図の模様は,経済面での豊かさマップとは逆の模様になると思われます。税務統計をもとに首都圏の富裕度地図をつくり,上図と照合してみましょう。
ここで富裕度の指標とするのは,納税義務者1人あたりの課税所得額です。税が多く課されている地域ほど,富裕度が高いと解されます。ソースは,総務省統計局『統計でみる市区町村のすがた2012』です。
http://www.stat.go.jp/data/ssds/5b.htm
どうでしょう。予想に反してといいますか,上の就学援助率地図の裏返しとはいえないようです。むしろ,模様が似ているかの感すらあります。たとえば,東京の中心部が黒色であること,千葉県の西部・南部が白色である傾向はそっくりです。
2つの地図の元となっている,就学援助率と1人あたり課税所得額の相関係数を出すと,+0.337となります。204というデータ数を考慮すると,1%水準で有意な係数値です。
論理上は,貧しい地域ほど就学援助率が高い傾向になるはずですが,現実はその逆です。これは,就学援助の認定基準の設定が各区市町村に委ねられているためです。ゆえに,就学援助の量は貧困度と必ずしも比例しない,という現象も起こり得ます。
この点の詳細については,9月6日の記事で述べましたので,ここでは繰り返しません。ただ,本当に就学援助が必要な家庭が,制度の対象からこぼれ落ちているのではないか,という問題が提起されることを記しておきましょう。
MANDARAで試作した地図がたまっています。コメントが必要なものはブログで,ただ見てほしいというものはツイッターにて,公表していく予定です。お楽しみに。