ただ,これを否定するオトコに向けられる,世間の眼差しというのは,どういうものでしょう。「軟弱」とか「ヒモ」とか,心ない言葉が浴びせられるかもしれません。
男性は「バリバリ仕事をする」以外の選択肢をなかなか持てない。「バリバリ仕事をしたい」と思わない男性は,自己肯定意識が低い,鬱屈感が強い・・・。本田教授は,こうした傾向を指摘されていますが,そういう面もあろうかと思います。
私などは,「バリバリ働こう」なんて決して思いませんが,郷里(鹿児島)の親戚の集まりで,そのような腹の底の思いを打ち明ける度胸はありません。「40の働き盛りのオトコが何たることか」とどやされること必至です。そういう体験を繰り返せば,自己肯定感は低くなるでしょう。
はて,現実はどうなのか。内閣府『わが国と諸外国の若者の意識に関する調査』(2013年)では,「男は仕事,女は家庭」という項目に対する賛否を尋ねています(賛成,反対,分からない,の3択)。これに対する回答と,「自分は役立たずだ」という無能感のクロスをとったら,どういう結果になるでしょうか。
私は,本調査のローデータをもとに,20代の男性サンプルを取り出して,この分析をやってみました。下表は,日本とスウェーデンのクロス結果です。
北欧のスウェーデンでは,性役割規範に賛成する人は少ないですねえ。303人中25人,たった8.3%です。対して日本では,36.9%が賛意を表しています(76/206)。
さて関心は,賛成群と反対群で,「自分は役に立たない人間だ」に対する肯定度がどう違うかです。「そう思う」と「どちらかといえば,そう思う」(アミかけ)の比率をとってみましょう。
例のモザイク図で結果を表現します。ヨコの幅を使って,性役割規範への賛成群と反対群の量も表しています。
日本では,「男は仕事,女は家庭」に反対の者のほうが,無能感が高くなっています。対してスウェーデンは,その逆です。
日本は,両群の差は有意ではありませんが,性役割規範に反対のオトコのほうが無能感が高いというのは,欧米には見られない特徴です。上記の内閣府調査の対象は,日本,韓国,アメリカ,イギリス,ドイツ,フランス,スウェーデンですが,こうした傾向が出るのは,日本と韓国だけです。他の欧米5か国では,反対群より賛成群の無能感が有意に高くなっています。
この結果から予想されることですが,自己満足感は,日本では性役割反対群のほうが低くなっています。欧米5か国は,その逆です。
前々回の記事で,夫の家事分担度が高い女性の家庭生活満足度は必ずしも高いわけではない,ということを示唆しました。「家事は女性がするもの」という観念にとらわれて,後ろめたさのようなものを感じるからです。夫の家事分担をやたらと奨励するだけでは,場合によっては,女性を追いつめることにもなる。
若年男性の性役割意識と無能感の関連についても,周囲の文脈の影響があるのでしょう。性役割規範は古臭い,望ましくないと教え込むだけではダメ。教育は真空の中で行われるのではなく,社会的な文脈の中で行われるもの。
性役割意識と無能感の関連の仕方に社会差が出るのは,こういうことの表われかと思います。