内閣府は,「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」を5年間隔で実施しています。高齢化が進んだ日本にとって,重要性を増している調査です。現在,2015年度の第8回が実施中です。
はて,どういうデータが公表されているのかと,2010年度の第7回調査のページをのぞいてみると,興味深い集計表が結構あります。私が興味を持ったのは,対象の高齢者(60歳以上)に対し,家庭内で担っている役割を訊いた設問です。
http://www8.cao.go.jp/kourei/ishiki/h22/kiso/zentai/index.html
いくつかの項目を提示し,それを担っているかどうかを尋ねています。同居者のいる高齢者のうち,家事を担っている者の割合を,国ごとに比べると下図のようになります。
日本の高齢男性の家事実施率が,極端に低くなっています。たったの14.0%です。一方,女性は83.5%。これでは,熟年離婚も起きるだろうなと思います。「定年退職して,家事もしない夫が毎日家にいると思うと気が遠くなる。離婚したい・・・」。こんな投書を新聞で読んだことがありますが,さもありなんです。
私は,定年退職した無職男性の家事分担率と,熟年離婚率の相関関係を知りたくなりました。都道府県単位の統計を使って検討してみましたので,今回は,その結果をご報告します。
まずは,無職の高齢男性の家事分担率を県別に出してみましょう。2011年の『社会生活基本調査』から,無職の65歳以上男女の平均家事時間(平日1日あたり)を知ることができます。男性の値を男女計の値で除せば,夫の家事分担率の近似値になるでしょう。
http://www.stat.go.jp/data/shakai/2011/index.htm
下の表は,都道府県別の一覧表です。黄色は最高値,青色は最低値です。上位5位の分担率は赤色にしました。
夫分担率の全国値は22.5%,およそ5分の1ですが,県別にみると値がバラついていますね。最高は長野の37.8%,最低は大阪の13.9%です。この両端では,20ポイント以上の開きがあります。
ここでの関心は,各県の高齢夫の家事分担率が,熟年離婚率とどう相関しているかです。次に,後者を県別に計算してみましょう。私は,2012年中に離婚を届け出た60歳以上の妻の数を,同年10月時点の同年齢の有配偶女性数で除した値を計算しました。前者の出所は厚労省『人口動態統計』(2012年),後者は総務省『就業構造基本調査』(2012年)です。
東京でいうと,分子は1626人,分母は109万7700人です。よって,2012年の60歳以上女性の離婚率は,ベース1万人あたり14.8と算出されます。これを熟年離婚率といたしましょう。
この意味での熟年離婚率を県別に計算し,上表の無職高齢男性の家事分担率との相関をとってみました。横軸に後者,縦軸に前者をとった座標上に,47都道府県をプロットすると下図のようになります。
無職高齢男性の家事分担率が低い県ほど,熟年離婚率が高い傾向にあります。相関係数は-0.5012であり,1%水準で有意です。
大阪や沖縄の熟年離婚率が高いのは,高齢者の生活が苦しいとか,所得格差が大きいとか,他にも要因がありそうですが,47都道府県の総体でみて,定年後の夫の家事分担度と熟年離婚率の有意な相関がみられたのは,注目に値するかと思います。
熟年離婚が悪いなどとは言いませんが,妻に去られた夫は,苦悩に満ちた生活を送ることになるかもしれません。家事など一切できないのですから。前に日経デュアルの記事で検討したところによると,時系列統計でみて,男性の離婚率と自殺率はプラスの相関関係にありますが,女性はその逆なのです。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=4666
今後,こういう高齢期の悲劇が増えてくるかもしれません。退職高齢者がますます多くなるのですから。妻をして,「定年退職して,家事もしない夫が毎日家にいると思うと気が遠くなる。離婚したい・・・」と思わせないためにも,家事をしましょう。今回のデータは,定年を控えた中高年男性にみていただきたいと思います。