昨日の東洋経済オンラインにて,「正規・非正規で「恋人の有無」に大きな差」という記事が出て,話題になっています。20代男性の正規の恋人なし率は25.5%であるのに対し,非正規では38.5%であるとのこと。
http://toyokeizai.net/articles/-/101481?page=2
データの出所は「2011年内閣府調査」としか書いていませんが(名称を書いてください),信頼のおける公的調査のデータなのでしょう。
私は,内閣府『わが国と諸外国の若者の意識に関する調査』(2013年)のデータを使って,同じデータをつくってみました。ローデータ(個票データ)が手元にありますので,こういうオリジナル集計も自由自在にできます。
http://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/thinking/h25/pdf_index.html
20代男女(学校卒業者)のサンプルを正規職員と非正規職員に分け,婚姻状況の設問(F3)とのクロスをとってみました。下表は,何の加工もしていない実数表です。
これをモザイク図で表現すると,下図のようになります。横幅を使って,正規・非正規の比重も表しています。
なるほど,男性では非正規のほうが「恋人なし」率が高くなっています。正規では50.4%なのに対し,非正規では81.1%です。両群の分布の差は,1%水準で有意と判断されます。
上記の東洋経済記事では,非正規の男性は「どうせ自分なんて」という劣等感が強く,女性に声をかけられない,と書いてありましたが,さもありなん。わが国では,正規と非正規の間に「身分格差」とでも形容できる格差があり,後者の不遇は際立っています。それが長く続くと,劣等感を受け付けられ,人格も荒んでくるというものでしょう。
しかし女性では,関連が反対になっています。有意差ではありませんが,正社員のほうが「恋人なし」率が高いのです。一人でやっていけるから,恋人なんぞいらぬ,ということでしょうか。非正規の「恋人なし」率が低いのは,結婚している(恋人がいる)女性の非正規率が高い,という逆の因果を読むべきでしょうね。
ところが男性は,さにあらず。非正規だから(経済力がないから)恋人ができない,という因果が強いと思われます。まだまだ日本では,男性が中心となって一家を支えるべし,という観念が強固です。上図のデータから,こうしたジェンダーを見てとることができます。
上記の内閣府調査はサンプルが少ないのですが,全数推計の『就業構造基本調査』でも,類似のデータを作ることができます。30代後半男女の未婚率が,正規と非正規でどう違うかです。下記サイトの表23のデータから,モザイク図を作ってみました。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&tclassID=000001048182&cycleCode=0&requestSender=search
男性は非正規のほうが未婚率が高く,女性はその逆であると。男性は,少数の非正規に困難が凝縮されているようで,何とも痛々しい・・・。
男性は,非正規だから未婚という因果方向でしょうが,女性は,既婚だから家計補助の意味合いのパート等が多い,未婚で夫の扶養下にないから正社員が多い,ということでしょう。
世論調査では「男は仕事,女は家庭」というジェンダー意識は弱まってきていますが,こういう現実が残存していることを思うと,手放しには喜べません。やはり口先の意見ではなく,客観的な行動に着眼すべきであると感じます。