OECDの2018年版の教育白書が公開されました。原書名は『Education at a Glance 2018』です。ありがたいことに,OECDのサイトで全文をPDFでダウンロードできます。
教育の国際統計が満載の基本資料で,毎年今の時期に刊行されています。毎年注目されるのは,各国の政府が教育にどれほどカネを費やしているかです。公的な教育費支出がGDPに占める割合という形で出ています。
2018年版の資料には,2015年の34か国(OECD加盟)のデータが出ています。日本はGDPがそこそこある経済大国ですが,政府支出の教育費はそのうちの何%に当たるか,国際順位はどうか。以下は,高い順に並べた棒グラフです。
日本は2.9%で,34か国の中では最も低くなっています。このデータを初めて見る人は強烈なショックを受けるでしょう。しかし,同じデータを毎年採取している私にすれば「またか」って感じです。ここ数年,ずっと同じ結果ですので。
首位のノルウェーは6.3%で,日本の倍以上です。上位のは北欧の諸国が多いですが,大学までの学費が無償というのは,こういう財政的な条件によります。しかし,わが国ではそうではありません。教育にカネを使わない国といわれますが,その引き合いに出されるのは,上記のようなデータです。
しかるに,日本は分母のGDPが巨大なんで絶対額は多いのではないか,それに少子化が進んでいるので教育費のシェアは小さくて当たり前。こういう疑問もよく出されます。
では,子ども・若者あたりの絶対額にしてみましょうか。2015年の日本の名目GDPは4兆3954億8700万ドルです(総務省『世界の統計2018』)。政府支出の公的教育費はこのうちの2.93%なんで,これをかけて,公的教育費支出の実額は1287億5200万円となります。
同年の子ども・若者人口(25歳未満)は2874万人。したがって,子ども・若者1人あたりの公的教育費は4479ドルです。1ドルを110円とすると,だいたい50万円くらいですか。
これが日本の公的教育費の絶対額ですが,こちらは他国と比してどうなのでしょう。先ほどみた対GDP比と,子ども・若者1人あたりの額のランキングを併置してみます。
対GDP比が最下位なのは先ほどみましたが,子ども・若者あたりの絶対額は,ちょうど真ん中というところです。欧米の主要先進国より少なくなっています。
トップのノルウェーはスゴイですね。1人につき年間1万5095ドル(166万円)もの教育費を,政府が支出していることになります。大学までの学費が無償というのも頷けます。日本との差額は100万円以上ですが,日本ではそれを家計が負担している(させられている)わけです。
発展途上国のメキシコは,1人あたり年間854ドル(9.4万円)。中等・高等教育の就学率が低いこともあるでしょう。しかし日本は,大学進学率50%超の教育大国です。その費用負担が家計で賄われている事実は,何度強調しても足りません。
ちなみにこの額は,近年減少の傾向にあります。上記は2015年のデータですが,5年前の2010年についても,同じやり方で子ども・若者1人あたりの公的教育費を計算できます。『Education at a Glance』は,ここ数年のバックナンバーもネットで閲覧可能です。
2010年と2015年の数値が得られた29か国について,5年間の増減率を計算してみました。
この5年間で,1人あたりの公的教育費支出が減っている国がほとんどですが,日本は減少率が大きくなっています。6810ドルから4479ドルと,34.2%の減少です。
2010年は円高でしたので,1ドル=90円とすると年間61.3万円。しかし2015年は,上述のように50万円ほどです。
日本の状況を詳しくいうと,生産年齢人口の減少のためか,名目GDP額はこの5年間で減っています。公的教育費支出の対GDP比も,3.59%から2.93%に減少。その結果,公的教育費の実額も減少。その幅は,子ども・若者人口の減少よりも大きい。ゆえに,1人あたりの公的教育費支出も減っていると。
少子高齢化が進んでいるので,他のことにカネを回さないといけないのですが,教育への投資を蔑ろにしていいものか。子ども・若者1人あたりの額も,主要国では最低レベルです。
教育費が目減りしていく傾向が続くとすると,少子化に拍車がかかりそうで怖い思いがします。何度も書くように,教育費を家計に負担させるやり方は,加齢と共に昇給する年功賃金・終身雇用制を前提とします。しかし,それが崩れつつあるのは肌感覚でも分かりますし,データでも示せます。アラフォー男子の所得も大幅に減っていますからね。
http://tmaita77.blogspot.com/2018/07/40.html
古い言い回しですが,教育は国家百年の計。これを蔑ろにしてない社会では,優秀な人材が生まれ,社会を支える新参者も出てきます。残念ながら,今の日本はそれから遠ざかりつつあるように思えます。