同郷の長渕剛さんの名曲『とんぼ』(1988年)に,「死にたいくらい憧れた 花の都大東京」という歌詞がありますが,いつの時代も若者は東京に憧れるもの。地方県から東京に移住する若者は,増加傾向にあるのかどうか。
前々回は,若者の流出入を県ごとにみましたが,今回は,東京に出る若者に限定しようと思います。東京に出る若者がどれほどいるか,増えているのか。これが観察ポイントです。
総務省の『住民基本台帳による人口移動報告』では,各県からの転出者数が,行先の都道府県別,また年齢層別(10歳刻み)に集計されています。こういう細かい統計表は,2012年版から見ることができます。
移動のステージは,18歳の高卒時と,20代前半の就職時(大卒は22歳)です。よって10代と20代を取り出し,各県から東京に転出した人が何人かを見てみます。
以下の表は,2012年と2017年の人数を対比したものです(外国人は含まない)。この5年間で転出率が何%増えたかという,流出率も計算しました。黄色マークは10%,ゴチ赤字は20%以上増えたことを意味します。ゴチ青字はマイナス,つまり東京への転出者が5年間で減ったことを示唆します。
全体的にみて,10代では東京への流出が減っている県が多く,20代では全県で増えていることが分かります。大学進学時での上京は減っているが,就職時の上京は増えていると。
北海道・東北・北関東は,10代の東京流出者が軒並み減少しています。
ある方がツイッターで言われていましたが,これは地方の疲弊を表しているのではないか。家計が厳しくなり,大学進学では上京させられない,せめて近県止まり(九州なら福岡)だが,地元に雇用がないので就職では一気に出ていく。こんな仮説です。
右側の20代をみると,ゴチの赤字(20%以上増)は関西に多くなっています。滋賀から和歌山は,軒並みこれです。大阪の大学を出て東京に行く。関西から東京への若者の移動が増えています。本社を大阪から東京に移す企業が増えていると聞きますが,雇用の口もそれに釣られているのでしょうか。
東京から大阪への移動も5年間で増えていますが,逆方向の増分にはとうてい及びません。大阪から東京に転出した20代は,2012年では7887人でしたが,2017年では10323人と,3割も増えています。
この5年間で,東京への転出者が何%増えたか。各県の増加率をグラフにしておきましょう。地図にしようか迷いましたが,縦軸上に47都道府県のドットを置いた布置図にします。
10代(大学進学時)では,東京への流出が増えた県と減った県がちょうど半々ですが,20代は全県で増えています。高知の20代の東京転出者は34.7%の増です(544人→733人)。
その高知県ですが,大阪に行く20代は減っています(666人→624人)。高知からの20代の転出先の首位は,大阪から東京にシフトしています。
実は,西日本にこういう県が多いのです。私の郷里の鹿児島も,大阪に出る20代は減る一方で,東京に高飛びする20代は増えています。
中国・四国・九州の西日本の諸県について,東京・大阪への20代の転出者数がどう変わったかを示すと,以下のようになります。
西日本の全県で,大阪よりも東京への転出者の増加率が大きくなっています。8つの県では,東京は増加,大阪は減少です。2017年現在では,鳥取と徳島以外の県で,「東京>大阪」となっています。西日本からの若者の流出先のメインも,大阪から東京(関西から首都圏)にシフトしつつあるようです。
21世紀はイノベーションの時代ですが,イノベーション都市・東京の利点がますます強まっているのでしょうか。
東京への一極集中の度合いが最も大きいのは,IT産業です。この産業は,地域を問わずどこでも仕事ができそうなものですが,蓋を開けるとそうではない。イノベーションがモノをいう産業では,一流の知や人材が集積する,それとの接点が日常的に持てる大都市に拠点を構えるのが有利であるとのこと(モレッティ『年収は住むところで決まる』)。
ネットの普及でどこでも仕事ができるようになった,労働者も地方分散も自ずと進むだろう。放っていては,こういう楽観的な予言が実現する可能性は低いようです。ネットの普及とイノベーション化はパラレルで,後者は都市への人口集中を促す条件となっています。
政府も放任策をとる気はないようで,地方に移住・起業した者には300万円補助する政策を検討するとのこと。人の移動を促すのに加えて,拠点を移した起業は大幅減税など,雇用の口の移動も後押ししたいものです。
あるいは,人口減少がどんどん進み,今の半分くらいになったら,人々が居住するエリアも限られたものになってしまうのか(首都圏,中京圏,関西圏のみなど)。こういう究極の可能性も否定できないでしょう。