2018年9月6日木曜日

法律婚か,事実婚か?

 将来,子どもにしてほしくないことを日本の親に尋ねると,62.3%が「未婚で子を持つこと」を選んでいます。スウェーデンでは,こういう考えの親は17.6%で,忌み嫌われるのは「自分との同居」です(国立女性教育会館『家庭教育に関する国際比較調査』2006年)。

 常道から外れたことに対する仕打ちが厳しい日本では,当然のことかもしれません。わが子に辛い道を歩んで欲しくない,という親心でしょう。しかるに,「結婚してから出産」というルートを常道とみなす思考そのものが,普遍的ではありません。上記で比較対象にしたスウェーデンでは,事実婚の状態で出産し,子育てしているカップルが数多くいます。

 「あなたの配偶関係は,法律婚か,それとも事実婚か?」。各国の子育て年代を取り出し,この問いを投げかけたならば,どういう答えが返ってくるでしょうか。2010~14年にかけて実施された『世界価値観調査』の個票データを使って,それを明らかにできます。
http://www.worldvaluessurvey.org/WVSOnline.jsp

 子がいる25~44歳のサンプルを取り出し,配偶関係が「法律婚(Married)」の人と,「事実婚(Living together as married)」の人の数を明らかにしました。日本でいうと,法律婚が397人,事実婚が2人です。事実婚は本当に少ないですね。しかし,そうでない国もあります。手始めに,6つの社会のデータをみてみましょう。



 日本の事実婚は2人ですが,お隣の韓国では皆無です。伝統的家族観が強いためでしょう。しかし,欧米になると事実婚の率は跳ね上がり,アメリカは13.6%,ドイツは18.3%,スウェーデンは35.7%となります。スウェーデンでは,3人に1人が法律婚ではなく事実婚を選んでいます。事実婚にも保護や権利を付与する「サムボ法」は有名です。

 南米のコロンビアでは,事実婚の比重が6割を超えます。この国では,法律婚よりも事実婚が幅を利かせています。国民の大半が離婚御法度のカトリックなんで,法律婚をためらい,事実婚を継続する人が多いのでしょう。

 他の国はどうでしょう。全部で58の国のデータが分かります。私は,上表の右端の事実婚比重を高い順に並べたランキング表を作ってみました。法律婚と事実婚の合算に占める,事実婚の割合です。


 トップは先ほどみたコロンビアの62.2%で,お隣のペルーも半分を超えます。「法律婚 < 事実婚」の社会です。上位6位までが中南米の国で占められています。離婚御法度のカトリックのお国柄ゆえでしょう。

 北欧や東欧の国も高し。しかし右段のアジア諸国になると率は5%未満になり,婚前交渉厳禁のイスラーム諸国では皆無になります。

 事実婚の浸透度合いの国際比較ですが,国によって違うものですねえ。ちなみに時系列比較も可能です。『世界価値観調査』は,5~10年間隔でこれまで6回実施されてきています。上記は,2010~14年に実施された第6回調査のデータですが,20年前の1990~94年の第3回調査のデータと比べてみましょうか。

 第3回調査は対象国が少なく,16か国の数値しか得られませんが,分布の幅を比べることには意義があります。第3回の16か国,第6回の58か国の事実婚比重の分布を,縦軸のドット布置図で表すと,以下のようになります。


 90年代前半では,最高のブラジルでも14.2%でした。しかし20年後では,2割を超える国が多くなり,コロンビアやペルーのように半分を超える国も出てきています。

 時代と共に事実婚比重は上がるのが国際的趨勢で,ブラジルは14.2%から40.2%,スウェーデンは2.0%から35.7%にアップです。しかし日本は,1.5%から0.5%にダウンしています。事実婚がほぼ皆無である状況は,20年の時を経ても変わっていません。

 いろいろと縛りが生じる法律婚をせずとも出産できるようになれば,加速度的に進む少子化に歯止めがかかるのではないか。

 「結婚はいいが子どもは欲しい」。実は,こういう考えの若い女性は結構いるのです。具体的な比率で示せます。それを20代未婚女性数にかけ,推定数を出すと*万人。これらの女性が出産に踏み切ったら出生数は団塊…。おっと,この議論は今月半ば公開の日経DUAL記事ですることにいたしましょう。
https://dual.nikkei.co.jp/article/023/63/

 ただ言いたいのは,どういうライフスタイルを選ぼうが,子を産み育てられる社会になればいい,ということです。事実婚のカップルの権利を保証する,一人親家庭の支援を手厚くする…。少子化が克服されるなら,そのコストも回収されるでしょう。朝日新聞で報じられましたが,千葉市はその一歩を踏み出しています。