2018年度の文科省『全国学力・学習状況調査』の結果が公表されました。例年より早い公表ですが,夏休み中に結果を分析してもらい,指導の改善に役立ててほしいとの意図だそうです。
http://www.nier.go.jp/18chousakekkahoukoku/index.html
目ぼしい結果が各紙で報じられていますが,新聞を読まない子が小6で6割,中3で7割という報道が目にとまりました。今年は,新聞をどれほど読んでいるかという設問が設けられたようですね(児童・生徒質問紙の問25)。
公立小学校6年生の回答分布をみると,ほぼ毎日が7.4%,週に1~3回が12.5%,月に1~3回が19.0%,ほとんど・全く読まないが60.9%,となっています。なるほど,小6児童では6割が新聞を読んでないようです。
「ネットニュースを見るか」という設問が別にありますので,上記でいう新聞とは,紙の新聞に限られると思われます。今となっては,紙の新聞をとってない家庭も少なくないので,こういう結果になるでしょうか。私の頃も,新聞に目通しする子どもはそんなにいなかったように思います(私は結構読んでいましたが)。
しかるに,上記の問いへの回答には地域差があります。注目されている,新聞を読まない小6児童の割合を都道府県別に採取し,高い順に並べてみました。全国値は上述のように60.9%ですが,47都道府県でみると幅があります。
最高は大阪の70.6%,最低は福井の44.8%です。同じ6年生ですが,新聞を読まない子のパーセンテージには大きな地域差があります。
上位と下位の顔ぶれをみると,新聞を読まない子の率は都市部で高く,地方で低い傾向がみられます。下位をみると日本海沿岸の県が多いですが,三世代同居率が高いので,新聞をとっている家庭が多い,ということかもしれません。
ただ,下位の2県が学力上位常連の福井・秋田であるのは示唆的ですね。新聞を読むに越したことはないですが,活字を読む,世間の動きに触れることで,好ましい影響がもたらされているのでしょうか。あるいは学校にて,新聞を使った授業(NIE=Newspaper in Education)が盛んなのか。
上表のデータを,各県の教科の正答率と関連づけてみると,有意なマイナスの相関関係が観察されます。個人単位でみても,新聞をよく読む群ほど学力が高い傾向にあります。読解力に限られません。
最も分散の大きい,算数の応用科目(算数B)の正答率と絡めてみると,以下のようになります。新聞を読む頻度で小6児童を4群に分け,算数Bの正答率の四分位階層とクロスさせたものです。横幅を使って,4群の相対量も表現しています。上述のとおり,新聞を読まない子が6割でマジョリティです。
ご覧の通り,きれいな右下がりです。新聞を読まない群ほど成績良好のA層が少なく,不良のD層が多くなっています。A層の率は,新聞を毎日読む群では52.9%ですが,ほとんど・全く読まない群では30.2%です。
目下,新聞を読まない子が多数を占め,毎日読むという子は全体の1割もいません。ちょっと触れさせるだけで他を抜きんでられるチャンスと読めるかもしれません。
しかるに,上図の相関が「新聞→学力アップ」という因果とは限りません。学力が高い児童は好奇心旺盛で新聞を読むという逆の経路もあり得ますし,新聞を読む子の家庭は裕福である可能性が高く,上記の相関は,出身階層と学力の関連が背後にある見かけのものかもしれません。
家庭環境を統制しても,上記のような模様になるのであれば,新聞パワーをある程度認めてもいいと思いますが,それはなかなか難しい。
ただ,OECDの国際学力調査「PISA 2009」のデータにて,それに近い分析をすることができます。私は日経DUALの記事にて,父親の学歴が大卒以上の生徒だけを取り出して,新聞を読む頻度と学力の相関を出したことがあります。
https://dual.nikkei.co.jp/article/094/45/
該当の表のデータを,ここに再掲いたしましょう。
父が大卒の生徒ですので,新聞を読む生徒が多くなっています(カッコ内の構成比)。また2009年のデータなので,当時はまだ,ネットよりも紙の新聞を読む子が多かったのかもしれません。
さて,グループごとの平均点をみると,どの側面の学力も,新聞を読む頻度が多い群ほど高い傾向がみられます。きれいな傾向です。家庭の所得ではなく,親の学歴を統制した比較による結果ですが,いかがでしょう。
2018年の今では,紙の新聞を読む子は少なく,代わりにネットニュースをスマホ等で見る子が多くなっています。「ネットニュースをどれほど見るか」という問いに対し,公立小6児童の57.3%が「よく見る」と答えています(2018年度,文科省『全国学力・学習状況調査』)。
世の中の動きをキャッチするという点ではいいのですが,ヤフーニュースとかに上がってくる記事は,当人の嗜好に合わせてセレクトされたものなんですよね。食事にたとえると,知の栄養バランスが偏します。記事の量や配置によって,当該ニュースの重要性を推し量ることもできません。
紙の新聞に触れることで,バランスよく知を摂取できる,活字力が鍛えられる,新聞独自の簡素・明瞭なグラフ表現等も学べる…。子どもの場合,こういう効用もあるでしょう。
NIEは,わが国では80年代半ばから始まった実践で,今でも学校現場で推奨されています。教育と新聞の結びつきというのは,時代が変わっても強いものなのです。