4月末に元号が変わります。平成の時代も,残りわずかになってきました。
平成はこういう時代だったという,記事や番組が目につきます。平成の世相・出来事の年表が提示されますが,時代軸に,人間の成長過程(年齢)の軸も加味すると,それぞれの世代の軌跡が浮かび上がります。
平成という時代をどういうステージで過ごしたかは,世代によって異なります。平成は激動の時代でしたが,そのインパクトは一律ではないわけです。
1976年生まれの私の世代は,平成の元年(89年)に13歳でした。つまり,思春期以降をこの時代で過ごしたわけです。平成の初頭に生まれた世代は,今年で30歳になります。今年の春に就職する学生は,1996(平成8)年生まれですね。
縦軸に平成の時代(1989~2019年),横軸に人間の年齢(青年期まで)をとった座標上にて,各世代の軌跡線を引くと,平成の時代と,その時代下における人間形成の様相を一度に知ることができます。久しぶりの登場ですが,ジェネレーショングラムという図法です。
図中には,目ぼしい出来事や教育政策を書き入れました。中谷・伊藤編『歴史の中の教育・教育史年表』教育開発研究所(2013年)を,主に参考にしたことを申し添えます。
日本でいう平成の元年(1989年)は,世界的には,ベルリンの壁が崩壊し,東西ドイツが統一された年として知られています。国内では,埼玉県入間川流域で連続幼女誘拐殺人事件が起き,子を持つ親が震え上がっていました。
現在,大学入試改革が議論されていますが,現行の大学入試センター試験は1990年に始まったのですね。第2次ベビーブーマーが受験期に達し,大学受験競争が最も激しかった頃です。時はバブル期,入り口は大変でも出口はラクで,学生の就職はウハウハ,超売り手市場でした。
しかし浮かれた時代も終焉し(バブル崩壊!),社会に暗雲が立ち込めてきます。95年には,阪神・淡路大震災が発生し,オウム真理教による地下鉄サリン事件も起きました。私が大学入学で上京した年です。東京は物騒な所だ,と思った記憶があります。この年は,インターネットが勃興した「ネット元年」としても知られています。
平成不況はいよいよ深刻化し,97年には大手の山一証券が倒産,翌年に年間自殺者が3万人の大台にのりました。学生の就職率はどん底,若者の自立も困難になりました。学校卒業後も実家暮らしを続ける「パラサイトシングル」が注目された出したのも,ちょうどこの頃です。図から分かるように,私の世代(緑色)は,大学卒業期がこうした暗黒期と重なった「ツイテない」世代,人呼んで「ロスト・ジェネレーション」です。
前世紀の末は,「キレる子ども」なんていうフレーズも飛び交いましたね。栃木県の中学校で,生徒がナイフで女性教師を刺し殺す事件が起きたのは98年のこと。当時の文部大臣が「ナイフを持つのは止めよう」と呼び掛けていました。図をみると,この時期に思春期だったのは,平成初頭に生まれた世代(青色)です。多感なステージが,社会の暗黒期,ネットの隆盛による激変期だったことも影響しているでしょう。親が離婚した,リストラで父親が自殺したという生徒も,相対的に多いのでは。
この春に就職する学生さんは,こうした大変な時期に生まれた世代(赤色)です。乳幼児期の時代状況は人格形成に影響するといいますが,モノを欲しない,どこか悟った気風があるのも,このことに由来するのでしょうか。
小学校に上がった年(2002年)に,ゆとり学習指導要領が施行されます。教育内容が3割削減され,学校週5日制も完全実施されました。この世代は,6~15歳の学齢期がゆとり学習指導要領実施時期ともろにかぶっています。真正の「ゆとり世代」ですね。この春に入社してくる世代ですが,まずもって知っておくべき事実です。
高校生の時期にスマホが普及し,それを手に取った最初の世代でもあるようです。当然,固定電話の使い方など知る由もありません。電話を忌み嫌い,PCのキーボード入力よりも,スマホのフリック入力が速い世代。職場における世代断層のタネは多そうです。
しかるに,上の世代のやり方に押し込めるのはナンセンスです。21世紀型のスタイルを教えてくれる存在と見なしたいもの。この世代(96世代)が育った軌跡を見る限り,滅私奉公的を求めるやり方は通用しそうにありません。スマホで外部と簡単につながり,会社の不正はすぐに見破られ,SNSで容赦なく告発されます。怖いですねえ。
しかし,日本の病んだ社会を変えてくれる改革者ではありませんか。ITやAIも駆使して,成熟社会にふさわしい働き方を打ち立ててくれるでしょう。なおこの世代は,多感な15歳の時に東日本大震災に遭遇し,ボランティア志向といった社会性が強い世代でもあります。それも活かしたいもの。
平成は激動の時代でしたが,幼少期よりその乱気流を通り抜けてきた世代は,21世紀型の考え方・価値観を持ち合わせています。日本社会に新風を吹き込んでくれるでしょう。この春に就職する世代は,平成に次ぐ新時代の幕開けと共に社会生活をスタートするわけです。この世代の軌跡を描いてみると,面白い時代を創造してくれるのではないかと,期待しちゃいます。
上の世代がなすべきは,それを押さえつけることではなく,認めることです。