2014年2月28日金曜日

2014年2月の教員不祥事報道

 月末恒例の教員不祥事報道の整理です。今月,私がネット上でキャッチした不祥事報道は26件です。最近,ツイッター使用の時間を短くしていますので,オチがあるかもしれませんが,把握した分を記録しておきます。

 大阪の中学校にて,15年間無免許で授業してきた教員の存在が明らかになりました。教員免許更新の書類手続きにて発覚したとのこと。今後,こうした「ニセ教員」の存在が続々と露になるかもしれません。

 また,児童・生徒の前で刃物を出すなど,行きすぎた指導の事案がみられたのも今月の特徴だと思います。

<2014年2月の教員不祥事報道>
トイレ侵入容疑、教諭逮捕=「盗撮目的」カメラ所持―静岡県警
 (2/2,時事通信,静岡,中,男,52)
児童買春の教諭 罰金40万…富山(2/3,読売,富山,中,男,29)
1年近く教科書なしで授業、男性教諭が配り忘れ(2/4,読売,熊本,小,男,50代)
未認定生徒がエアライフル=顧問の教諭書類送検(2/5,時事通信,香川,高,男,46)
全校児童・教職員の情報入りUSB、教頭が紛失 (2/5,読売,京都,小,男,54)
22歳教諭が、自分が勤務する小学校に脅迫文(2/7,読売,愛知,小,男,22)
・同上(わいせつ:小男59、中男46,盗撮:高男24 愛知)
校長懲戒>木刀で生徒殴る親 制止の教員に「止めるな」
 (2/7,朝日,広島,中,男,60)
校長のあご骨折させるなどした教諭2人(2/7,毎日,奈良,傷害:小男50,飲酒運転:中男51)
勤め先の男子児童にわいせつ容疑、小学校教諭逮捕(2/8,朝日,東京,小,男,32)
図工教科書配り忘れ、福岡・久留米の小学校でも(2/10,読売,福岡,小,男,50代)
駅伝の強豪、西脇工陸上部で体罰 兵庫県教委が監督を訓告処分
 (2/13,神戸新聞,兵庫,高,男,50)
小学教諭、課題図書や児童の衣類盗む…懲戒免(2/14,読売,神奈川,小,男,32)
中2女子27人の前で、真剣使い居合見せた教諭 (2/15,読売,香川,中,男,59)
スナックで同僚の顔殴り、腕にかみついた教諭(2/15,読売,山口,高,男,60)
あなたのこと知りすぎているかも…教諭がメール(2/15,読売,岩手,小,男)
わいせつ行為の男性教諭を懲戒免職(2/17,産経,静岡,高,男,52)
「辞職願を持ってきたか」パワハラ校長を戒告(2/18,読売,岩手,小,男,50代)
・同上(体罰:30~40歳代中高男3人,現金管理杜撰:中男57,岩手)
問題配布遅れて試験3分不足、金井高入試(2/20,神奈川新聞,神奈川,高,男,60代)
教え子に抱きつく 中学男性教諭を停職6カ月(2/20,毎日,高知,中,男,40代)
教室内で黙想中に盗撮、懲戒免職 岡山、中3の担任教諭
 (2/21,共同通信,岡山,中,男,30代)
“ニセ教諭”が15年間授業 大阪の中学「いつバレるかとドキドキ…」
 (2/22,産経,大阪,中,男,45)
児童指導で頭たたき刃物出す…小学教諭を処分へ(2/22,読売,鹿児島,小,男,50代)
女子高生狙い下半身露出=中学教頭、容疑で書類送検(2/28,時事通信,大阪,中,男,50)
14歳少女売春の客に県立高講師と自衛官(2/28,産経,秋田,高,男)

2014年2月26日水曜日

高校・大学教員の女性比の国際比較

 OECDの“Education at a Glance 2013”を眺めていたら,各国の教員の女性比率をまとめた表が目につきました。2011年の学校段階ごとの数値が掲げられています。

 高校(Upper secondary education)と高等教育機関(Tertiary education)の数値を拾い,グラフ化すると下図のごとし。高等教育機関の教員は,多くが大学教員とみてよいでしょう。点線は,29か国の平均値です。


 わが国の「外れっぷり」のスゴイこと。高校教員の女性比28.4%,大学教員の女性比25.2%というのは,国際的にみたらかなり特異なのですなあ。

 昔に比べたら日本も右上に動いてきているのでしょうが,国際的な布置図でみたら,全然「仲間はずれ」の位置です。

 最近は,大学教員の公募でも「女性限定」公募がちらほらみられますが,こういう意図的な取組が必要なのも分かろうというものです。
https://jrecin.jst.go.jp/seek/SeekJorDetail?fn=0&id=D114020931&ln_jor=0

 東京オリンピックが開催される2020年までに,「指導者層に占める女性割合30%」という目標が掲げられていますが。この年のわが国の位置は,上図でいうとどこ辺りか。仮に目標が達成されたとしても,せいぜい韓国辺りか・・・。

 それはさておき,昨日から国立大学の二次試験が始まっていますが,報道によると,理系専攻の人気が高まっているとのこと。とくに女子の志願者が増えているみたいで,「リケジョ増える?」という見出しが躍っています。予言の成就ではないですが,私もそうなればいいなと思います。

 受験生のみなさんの健闘を祈ります。

2014年2月22日土曜日

大卒者の専攻別の正規就職率

 正規就職率。いわゆる正社員への就職率ですが,この指標に関心を持っている学生,親御さん,教育関係者はさぞ多いことでしょう。

 最近では,文科省『学校基本調査』の進路統計でも,就職者を正規と非正規に分けて集計しています。就職率が高いといっても,「ほとんどが非正規なんじゃねーの?」と突っ込まれますしね。まあ,精緻な統計が作成されるのはいいことです。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm

 この恩恵を利用し,今回は,大卒者の正規就職率という指標を計算してみようと思います。性別や専攻別の数値も出してみることにしましょう。正規就職率の出し方ですが,私は,以下の計算式がいのではないかと思います。

 (正規就職者数+臨床研修医数)/(卒業生数-進学者数-専門学校等入学者数)

 就職の意思のない大学院進学者や専門学校入学者は,分母から除きます。分子に臨床研修医を加えるのは,医療系の専攻の場合,キャリアが研修医から始まるのが一般的であるからです。

 このやり方で,2013年春の大卒者の正規就職率を計算すると,男子は74.1%,女子は74.9%となります。男女とも4分の3くらいですが,女子のほうが若干高いのですね。需要が高まっている福祉系の専攻で女子が多いためでしょうか。

 では,男女の正規就職率を専攻系列別に出してみましょう。下表はその一覧です。


 全専攻でみると4分の3ほどですが,専攻によってかなり違っています。マックスは男女とも保健系であり,男子は87.0%,女子は90.9%です。医学や看護を修めた学生ですが,このご時世。やっぱり強いですねえ。

 一方,正規就職率が最も低いのは芸術系であり,男女とも半分を割っています。アーティストや作家志望で,敢えて就職に背を向ける学生さんが多いのか。まあ,これもよろし。次に低いのは教育系ですが,これは教員採用試験の再トライ組が多いためでしょう。

 表を全体的にみると,予想通りといいますか,おおよそ「理高文低」の傾向が見受けられます。

 あと,どの専攻でも男子より女子の正規就職率が高いのも特記点です。5ポイント以上の差には不等号をつけましたが,理学系では,10ポイント近くもの開きが出ています。リケジョへの需要の高まりとみられます。

 次に,上記の大雑把な専攻系列よりも下った,細かい小専攻ごとの率も出してみましょう。人文科学系の下には,文学,史学,哲学,およびその他という4つの下位専攻があります。私は,こうした小専攻別の正規就職率を計算してみました。男女いずれかの卒業生数が50人に満たない専攻を除いた,56の専攻です。

 高い順に並べたランキング表をつくってみましたので,それをご覧いただきましょう。まずは男子のものです。


 上位は,理系の専攻のオンパレードですね。1位は看護学,2位は医学。やっぱ強い。文系の主な専攻にはマークをしましたが,全体平均(74.1%)を超えるのは,商学・経済学だけです。

 続いて女子のランク表です。構造は,男子とほぼ同じです。


 このランク表を専攻選びの参考にしろというのではありませんが,社会の人材需要はどういうものか。その一端を見て取ることができる気がします。

 最後に,56専攻の男女の正規就職率を視覚化しておきましょう。私は視覚人間ですので,こういう「締め」をしたくなります。横軸に男子,縦軸に女子の正規就職率をとった座標上に,56の専攻を位置づけてみました。点線は,全体値です。


 これが,専攻別の正規就職率の布置図です。あなたが志望する,あるいは在学している専攻はどこに位置しますか。

 こういう図も,高校の進路指導室の壁に貼ってみたらどうでしょう。拡大したら,結構インパクトありそうです。

2014年2月19日水曜日

年収別の生涯未婚率

 2月9日の記事では職業別の生涯未婚率をみたのですが,一生未婚にとどまる確率は年収とも関連しています。

 2012年の総務省『就業構造基本調査』では,有業者の「年収×配偶関係」のクロス集計がなされています。私はこれを使って,有業者男女の年収別の生涯未婚率を計算し,グラフにしてみました。それをご覧いただこうと思います。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm

 生涯未婚率とは一生未婚のままにとどまる者の比率ですが,通常,50歳時点の未婚率のことをいいます。この年齢以降は,結婚する者はほとんどいないであろう,という仮定に立つわけです。なお,5歳刻みの統計から出す場合,40代後半と50代前半の未婚率を均すという便法がとられます。

 まずは,計算に使った素材をお見せします。上記の資料から採取した,年収別の有業者の数です。


 男性でみると年収400万円台が最も多いようですが,この層の40代後半の未婚率は19.8%,50代前半13.2%です。よって,この階層の男性の生涯未婚率は,両者を均して16.5%となります。年収400万円台の男性の場合,6人に1人が生涯未婚のままにとどまると見込まれるわけです。

 同じやり方にて,男女の各階層の生涯未婚率を計算しグラフにすると,下図のようになります。


 ほう。男女では,年収と生涯未婚率の関連の仕方が逆ですね。若干の撹乱はありますが,男性は年収が低いほど,女性は年収が高いほど生涯未婚率が高い傾向です。こうしたジェンダー差は,「X型」の図柄によって可視化されています。

 ガシガシ稼ぐキャリア・ウーマンは敬遠されるのか,あるいはそういう女性は十分自活できるので結婚に消極的なのか。どういう因果経路かは定かでありません。しかし男性にあっては,収入が少ないと結婚できないという「拘束性」が明らかなように思います。

 「男は一家を養うべし」。時代遅れの偏狂なジェンダー観念に由来する図柄ですが,これは日本独特のものなのか。今後,どうなっていくのか・・・。

 指導者層の女性比率が*%という数値指標もいいですが,男女共同参画社会の具現の度合いは,男女の生涯未婚率の年収曲線によっても見て取ることができるでしょう。

2014年2月18日火曜日

生活保護受給者の自殺率(2010年)

 最近はネット上にて,政府の各種審議会の内部資料もみれるようになっています。厚労省・社会保障審議会の生活保護基準部会の資料を眺めていたところ,生活保護受給者の自殺者数が載っているものを見つけました。下記サイトの参考資料2です。
http://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/2r9852000001ifbg.html

 これを生活保護受給者の数で除せば,生活保護受給者の自殺率が算出されます。ベースの受給者数は,厚労省の『被保護者調査』にて知ることが可能です。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/74-16.html

 私は,2010年の分子と分母の数を採取して,生活保護受給者の自殺率を計算してみました。前者は2010年中の自殺者数,後者は同年7月末時点の受給者数です。年齢層別に出してみましたので,その結果をご覧いただきましょう。


 人口全体では,自殺率は高齢層ほど高くなるのですが,生活保護受給者に限定すると,若年層ほど高く,ピークは30代です。「働き盛りのいい若いモンが保護なんて受けやがって・・・」。こんなバッシングにさらされ,行政による就労指導もひときわ厳しいことと思います。分かるような気がします。

 それと,10万人あたり138.2人という自殺率の絶対水準の高さにも驚かされますね。これは当然,全人口でみた場合の率よりもはるかに高いものです。

 ここにて,保護受給者と人口全体の自殺率を年齢層別に出し,照合してみましょう。人口全体の自殺率は,上記の社会保障審議会資料に載っている2010年中の自殺者数を,同年10月時点の推計人口で除して出しました。下の図は,生活保護受給者と人口全体の自殺率の年齢曲線です。


 若年の生活保護受給者の自殺率が際立って高いのが一目瞭然です。30代の受給者の自殺率は全体の5.5倍にもなります。同年齢層全体と比した相対水準の高さにも唖然とさせられます。

 考えてみれば,若年の生活保護受給者は,重度の精神疾患で働けないなど,かなり「セレクト」された人たちです。ある精神科医の方がツイッターで教えて下さったところによると,30代の生保受給者の多くは精神疾患を患っているとのこと。

 これに追い打ちをかけるかのごとく,世間からのバッシングの風当たりは強く(怠け者!),行政の就労指導も厳しいときています(必要なのは配慮であるのに)。若年の生活保護受給者の自殺率が異常に高いというのも,分かろうというものです。

 生活保護は,憲法にて規定されている生存権を保障するための制度ですが,若年層にとっては,上手く機能していないのではないでしょうか。「働かざる者食うべからず」,年齢による役割規範の強い日本ならではの特徴だと思いますが,どうでしょう。

 これから先,若者は量的にますます少なくなり,彼らに対する負荷(圧力)が大きくなってくることは,昨年の10月27日の記事でみたところです。「若いのが生活保護を受けるなんてとんでもない。ブラックでも何でもいいから働け」。こんな声が強まるような気がします。そうなったとき,上図の曲線の傾斜がもっときつくなるのではないか。

 少子高齢化が確実に進行するわが国にあっては,年齢による偏狂な役割規範を克服することが求められるでしょう。性による役割観念(ジェンダー)の撤廃には関心が向けられていますが,もう一つの属性である「年齢」のほうにも,もっと目を向けようではありませんか。

2014年2月17日月曜日

積雪の夕日

 今日の帰り,自宅近辺で撮った写真を一枚。積雪の夕日です。予報によると,水曜から木曜にかけてまた積もる恐れがあるとのこと。気をつけましょう。


2014年2月16日日曜日

職業別の平均年収

 最近,総務省『就業構造基本調査』の分析にのめり込んでいますが,この調査のスゴイところは,有業者の年収分布が仔細に明らかにされていることです。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm

 本調査でいう年収とは,「賃金,給料,手間賃,諸手当,ボーナスなど過去1年間に得た税込みの給与総額」とされています(用語解説)。自営業主の場合は,「過去1年間に事業から得た収益」です。

 これまで,年収の男女差,年齢差,正規・非正規差,地域差などをみてきたのですが,今回は,職業別の平均年収を出してみようと思います。週刊誌でよくみかけるテーマですが,ネットアンケートなどではなく,官庁統計から割り出した場合,どういう結果になるでしょうか。

 パートや派遣等の非正規を除いた正規職員に対象を絞りたいところですが,正規職員だけの年収分布を職業別に知ることはできません。ただ,年間就業日数別の集計はされているようですので,年間200日以上就業者を取り出すことにしましょう。フルタイム,ないしはそれに準じる働き方をしている人たちです。

 私は,年間200日以上就業者の年収分布を職業別に明らかにしました。手始めに,男性の医師,教員,および介護サービス職員の年収分布をみていただきましょう。


 ほう,医師はスゴイですねえ。全体の半分近くが年収1500万以上です。教員も全体よりは高くなっています。しかし介護職は明らかに低い層に多く分布しており,年収200万円台の者が最多で,5人に1人が200万未満のワープアです。

 この分布をもとに,それぞれの職業の平均年収(average)を計算してみましょう。度数分布から平均を出すやり方はご存知ですね。各階級に含まれる者の年収を,一律に中間の値とみなします。たとえば300万円台の階級の場合,一律に年収350万円と仮定するわけです。上限のない「1500万以上」の階級は,一律2000万円としましょう。

 こうした階級値の考え方に依拠すると,医師の平均年収は,次のようにして求められます。

 {(25万×0.3人)+(75万×0.1人)+・・・(2000万×46.8人)}/100.0人 ≒ 1464.2万円

 男性医師の平均年収は1464万円と算出されました(スゴイ)。男性教員は649万円,男性介護サービス職員は277万円です。ちなみに,男性の全職業の平均年収は470万円なり。

 このやり方で,男女のフルタイム有業者の平均年収を職業別に出してみました。以下に掲げるのは,その一覧表です。船舶・航空機運転従事者の女性は該当者がいないので,「**」としています。


 いかがでしょうか。年収が高い職業は,上のほうの管理職や専門職層で多いようです。男性の上位3位は,①医師(1464万円),②法人・団体役員(837万円),③管理的公務員(791万円)です,女性の上位3位は,①医師(986万円),②管理的公務員(765万円),③法務従事者(615万円)なり。

 この表は資料としてみていただくこととし,68職業の平均年収の布置図をつくってみましょう。横軸に男性,縦軸に女性の平均年収をとった座標上に,それぞれの職業を散りばめてみました。点線は,全体の平均年収を意味します。


 医師の外れっぷりのスゴイこと。あなたが就いておられる職業はどの辺りに位置しますか。プロットしてみてください。

 なお,2月9日の記事では,同じく『就業構造基本調査』のデータをもとに,職業別の生涯未婚率を出しています。今回明らかにした平均年収との相関係数を出すと,男性では-0.498という値です。年収が低い職業ほど,生涯未婚率が高い傾向が有意に認められます。女性の場合は,このような関連はみられません(+0.165)。やっぱねえ・・・。

 興味ある方は,先の記事の生涯未婚率一覧表と突き合わせて,相関図を描いてみては。学生さんにやらせてみようかな。私の授業では,学生さんに興味を持ってもらえる素材を使うことにしています。

2014年2月14日金曜日

都道府県別・年齢層別の生活保護受給率

 2月2日の「沖縄タイムス」朝刊にて,私が計算した,高齢者(65歳以上)の県別生活保護受給率が紹介されました。各県の高齢層のうち,生活保護を受給している者がどれほどいるかです。
http://www.okinawatimes.co.jp/article.php?id=61770


 2011年の沖縄でみると,65歳以上の生活保護受給率は4.93%,およそ20人に1人です。高齢者の貧困の量を可視化したデータということで,誌上に掲載させてほしい,という依頼でした。

 さて,この記事で報じられたのは高齢者の生活保護受給率ですが,他の年齢層の県別数値も計算してみましたので,ここにてそれを掲げようと思います。

 生活保護を受けている者の数を知ることができる資料として,厚労省の『被保護者調査』があります。毎年実施されているもので,各年の7月末時点の被保護人員の数が掲載されています。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/74-16.html

 2011年の資料によると,同年7月31日時点における,東京の30代の被保護者は18,293人です。10月時点の都の推計30代人口は約219万人(総務省『人口推計年報』)。よって,東京の30代の生活保護受給率は,0.84%と算出されます。

 このやり方で,各県の年齢層別の生活保護受給率を試算してみました。下表は,その一覧表です。47都道府県中の最高値には黄色,最低値には青色のマークをし,上位5位の数値は赤色にしています。


 20~30代の若者では北海道が最も高く,40代以降では大阪がマックスです。大阪の60歳以上の受給率は5.34%であり,およそ20人に1人です。

 この表は資料としてみていただければと思いますが,県よりも下った地域レベルでみると,もっとすさまじい値がでてきます。上記の厚労省資料には,政令指定都市の被保護人員数も出ていますが,私は,大阪市の生活保護受給率年齢曲線を描いてみました。率計算のためのベース人口は,同市の年齢別推計人口(2011年10月1日時点)です。


 全国のカーブとの違いが一目瞭然です。この市は生活保護受給者が多いといわれますが,人口あたり何人という率にしてグラフ化してみると,確かに頷かされます。70代前半の受給率は11.3%であり,9人に1人が生活保護を受けている計算になります。

 冒頭の沖縄タイムス記事では,大阪市の突出した高さについて,「高度経済成長期に地方から都市部に集まった労働者の高齢化が顕在化」したためと述べられていますが,そういう事情もあるでしょう。

 著名ブロガーのちきりんさんは,生活保護以外の福祉を全廃したらどうかと提案していますが,そういう抜本策もありなのかなあ。
http://d.hatena.ne.jp/Chikirin/20120629
 
 「生活保護支給費はすごく増えると思うけど,・・・(中略)・・・年金や医療関係の支給費は生活保護に比べてめっちゃデカいので,その財源を回せば,少々生活保護が増えても財源には困りません。現在の制度では,ものすごい貯金がある人でも年金をもらってるし,オレオレ詐欺に数千万円もダマされるほど余裕のある高齢者も医療費の大半を補助されています」(上記リンク先記事より引用)。

 なるほどなあ。私が還暦を迎えることには,本当に具現されていたりして。

2014年2月11日火曜日

女性のすがたの変化

 未婚率の話ばかりが続いたので,話題を変えましょう。ツイッターでも発信したのですが,女性のすがたの変化図をつくってみましたので,ブログにも載せておこうと思います。

 ツイッターの図は,1992年と2012年の比較でしたが,ここでは1987年と2012年の比較図を提示いたします。男女雇用機会均等法が制定されたのは1986年のことですが,この四半世紀にかけて,女性の社会進出はどれほど進んだのでしょう。

 私は,総務省『就業構造基本調査』のデータを使って,①自営・家族従業等,②正規職員,③パート・アルバイト,④派遣・契約社員等,⑤専業主婦,⑥通学,⑦その他,という成分の比重をみて取れる統計図をつくってみました。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm

 ①~④は有業者,⑤~⑦は無業者です。では,ブツをみていただきましょう。


 読みとれる点は以下のごとし。

イ)結婚・子育て期のM字カーブの底が浅くなり,有業女性の比重が増えている。
ロ)しかし増えているのは,パート・バイトやハケンといった非正規雇用である。
ハ)この四半世紀において,女性の社会進出は確かに進んだが,それは「非正規依存型」のものであった。

 こんなところでしょうか。『男女共同参画白書』などで,昔に比べてM字カーブの底が浅くなったことが強調されますが,Mの中身をレントゲンで覗いてみると「・・・」という感じです。Mの外形だけに注目するだけでは足りないようですね。

 なお,北欧のスウェーデンなどは,わが国と様相を異にしています。80年代から今世紀初頭にかけて,両国の働き盛りの女性のすがたがどう変わったかを解剖してみましょう。下の図は,『世界価値観調査』の時系列データをもとに作成した,30~40代女性の組成図です。
http://www.wvsevsdb.com/wvs/WVSAnalize.jsp


 日瑞とも有業者の比重が増えていますが,その中身が違っています。スウェーデンではフルタイム就業の増加幅が大きいのですが,日本ではパートタイムの増が目立っています。

 前者の社会進出を「フルタイム(正規)型」とすれば,わが国のそれは「パートタイム(非正規)型」と性格づけることができるでしょう。

 働く女性の頭数やM字カーブの形状に関心が向けられることが多いのですが,その内訳を解剖するとこうなる,ということのご報告です。

2014年2月9日日曜日

職業別の生涯未婚率

 生涯未婚率という指標をご存知でしょうか。読んで字のごとく,生涯,未婚の状態にとどまる者がどれほどいるかです。

 これは,全人口の人生を死ぬまで追跡して出すような,込みいったものではありません。生涯未婚率としては,50歳時点の未婚率が用いられます。この年齢以降は,結婚する者はほとんどいないであろう,という仮定に立つわけです。

 なお,多くの官庁資料の年齢統計は5歳刻みのものですが,5歳刻みの統計から生涯未婚率を出す場合,40代後半と50代前半の未婚率を平均するという便法がとられます。

 私は,この方式に依拠して,男女の生涯未婚率を職業別に計算してみました。こういうデータは見かけないので,興味を持った次第です。正規・非正規の影響を除くため,正規職員男女の率を出すこととします。資料は,2012年の総務省『就業構造基本調査』です。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm

 男性の教員でいうと,40代後半の未婚率は7.1%,50代前半の未婚率は7.6%です。よって,男性教員の生涯未婚率は,これらを均して7.3%と算出されます。ちなみに女性教員は16.1%なり。女性は男性の倍以上ですね。

 では,上記資料から計算した,全職業の正社員男女の生涯未婚率をみていただきましょう。下表をご覧ください。「**」は,該当者がいないため,率が算出不能であることを意味します。


 生涯未婚にとどまるであろう者の割合は,職業によって大きく違っています。医師などは,男性と女性の差がスゴイです。男性はわずか2.8%ですが,女性は35.9%にもなります。男性は36人に1人ですが,女性は3人に1人です。

 高収入ということがあるでしょうが,激務なので,家庭生活との両立が難しいという事情もあるかと。また,ある方が教えて下さったところによると,大病院の医局などは,妊娠した女性医師へのマタハラがすさまじいそうです。仕事か家庭か。医師は,こうした選択を迫られる度合いが高い職業でいえるでしょう。生涯未婚率のジェンダー差,さもありなんです。

 ほか,情報処理技術者も性差が大きくなっています。いわゆるIT技術者ですが,この業界では,正社員女性の半分が生涯未婚にとどまると見込まれます。音楽家・舞台芸術家などは,男女とも生涯未婚率が高いですね。

 職業別の正社員男女の生涯未婚率を視覚化してみましょう。横軸に男性,縦軸に女性の生涯未婚率をとった座標上に,男女双方の率が分かる62職業をプロットしてみました。点線は,全職業の値です。


 右上は,男女とも生涯未婚率が高い職業ですが,高度な知識・技術を要する専門職が多いですね。出版社の編集者とかも高いんだなあ。

 しかし,最も注視すべきは,やはり医師の特異性でしょう。諸外国でも,こんな位置になるのでしょうか。これから先,高度な専門職への女性の参入が進んでいくと思われますが,そのことが未婚化・少子化の進行をもたらすのではと懸念されます。そもそも,前者は後者の抑制要因になるものであり,その逆であってはなりません。

 指導者層や専門職の女性比率を*%にしようという数値目標が掲げられますが,形の上でそれを実現すればよいという単純な話ではなさそうです。

2014年2月7日金曜日

結婚の希望と現実

 結婚相手を探しておられる女性のみなさん,現代ニッポンの未婚男性の年収は下図のごとし。昨日,ツイッターで発信した図では無業者を加えませんでしたが,ここではそれを加味した図にしています。資料は,2012年の総務省『就業構造基本調査』です。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm


 パッと見で「こんなに低いの?」という印象を持たれたことでしょう。電車のつり広告で「20代女性が結婚相手に求める年収は600万」というフレーズをみたことがありますが,600万以上の者は,20代の未婚男性では0.7%しかおらず,30代でもわずか5.7%です。

 現実に多いのは低収入層であり,私の年齢層の30代後半でも,半分が300万未満で,3分の1が200万未満のワープアです。

 30代に焦点を当てて,未婚女性が結婚相手に最低限求める年収と,未婚男性の年収(上図)を照合してみましょう。前者は,明治安田生活福祉研究所の『結婚・出産に関する調査』(2013年)から知ることができます。
http://www.myilw.co.jp/life/enquete/07_marriage.html


 両者の間には,少なからぬズレがみられます。最低でも400万を望む女性は全体の65.8%いますが,この基準を満たす男性は26.2%しかいません。男性の側からすると,半分ちょっとが年収300万未満ですが,これでよしとしする女性はたったの1割なり。

 言葉が不適切かもしれませんが,これが結婚市場の現実です。上記の図をツイッターに載せたところ,「男性だけに稼ぎを期待するのは間違いだ」「共働きすれば何とかなる」「夫婦協力して稼げばいい」という意見が多数ありました。

 まったくもって,その通りだと思います。男性の腕一本で一家を養えるような時代は終わっています。時代は変わっているのです。しかし,当事者の意識は旧態依然のまま。このギャップに,未婚化の進行の一因をみてとれるでしょう。その克服には,女性の社会進出を促す条件の整備,男女の給与差の是正が必要であることは言うまでもありません。

2014年2月6日木曜日

年収と未婚の関連(改)

 昨年の9月10日の記事では,30代後半男女の年収別の未婚率を出したのですが,この記事をみてくださる方が多いようです。

 結婚とは,男女の自由意思に基づくものとみられがちですが,フタを開けてみると,年収のような経済条件に強く規定されています。こういうデータが珍しかったのでしょうか。また,男女では傾向が逆になっていることも,興味をひいたのだと思われます。

 しかるに,問題点のご指摘もいただきました。一つは,各年収階層の量を考慮していないこと。二つは,無業者を入れていないことです。

 なるほど,年収1,500万以上の女性の未婚率が飛びぬけて高いのですが,この層は量的にはごくわずかです。各階層の量も提示しないといけませんよね。また,働いていない無業者の存在も無視することはできません。最近は,働き盛りの層でも無業者が増えてきていますし。

 今回は,こうした点をふまえて作り直した図をご覧に入れようと思います。まずは,素材から見ていただきましょう。無業者と,有業者の年収別の3階層です。先の記事と同様,30代後半男女のデータを収集しました。ソースは,2012年の総務省『就業構造基本調査』です。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm
 

 男性では年収400万以上の有業者が最多ですが,女性では無業者と200万未満の有業者が拮抗しています。前者は専業主婦,後者は家計補助のパート等が多くを占めるでしょう。

 このデータを使って,層別の未婚率の様相が分かるグラフをつくってみましょう。とはいえ,単純な折れ線グラフでは,この前と同じです。ここでは,各層の量も分かる図にしたいと思います。


  横幅で4つの階層の量を表現し,各層の未婚・既婚構成が分かるようにしました。未婚者を除いた全てが既婚者とは限りませんが,離別・死別の者はそう多くないので,まあ既婚(有配偶)と括ってもよいでしょう。

 男性では,年収が上がるほど未婚率は低下していきます。男性にあっては,無業者と年収200万未満のワープア(Ⅰ)はわずかですが,量的に少ないこの層にしわ寄せがいっている模様です。無業者の未婚率は80.6%,ワープアの未婚率は61.7%なり。

 しかるに女性は,おおむね高年収層ほど未婚率が上昇します。自分で稼げるので結婚を望まないのか,結婚を望みつつも稼ぐ女性は敬遠されるのか。事情は分かりませんが,年収と未婚率の関連の性差に,「男が養うべし」というわが国のジェンダー観念がみてとれます。

 ところで,年収と未婚の関連のジェンダー差は,地域によって若干違います。上図のような傾向が顕著な東京と,それが比較的薄い沖縄のケースをみていただきましょう。


  東京の場合,年収と未婚の関連ならびにその性差が,全国傾向にも増してクリアーです。無業男性の9割,ワープア男性の8割が未婚であり,年収200万以上の女性の半分近くは未婚なり。

 対して沖縄はというと,無業男性やワープア男性でも既婚者が結構いるのではないですか。女性にあっても,年収階層による未婚率の傾斜がゆるくなっています。「男女ともに稼ぐ」。こういう考えが浸透しているのかもしれません。所得水準が低いので,共働きでないとやっていけない,という事情もあるでしょうが。

 「男は仕事,女は家庭」というジェンダー観念が強いのは地方であり,都市部ではそれがなくなってきているといわれますが,実情は逆なのかもしれませんね。

 偏狂なジェンダー観念についてどう思うかと世論調査で尋ねることは簡単ですが,口でなら何とでも言えます。ジェンダーの克服の度合いは,目に見える行動量でもって把握すべきでしょう。年収による未婚率の傾斜の男女差が,今から10年後,20年後になくなっているか。こうした点にも注意していきたいものです。

2014年2月3日月曜日

殺人率と自殺率の国際比較図

 前に,殺人率と自殺率の国際比較図をツイッターで発信したところ,見てくださる方が多いようなので,ブログにも載せておきます。横軸に自殺率,縦軸に殺人率をとった座標上に,188の社会を位置づけたものです。

 殺人率とは人口10万人あたりの殺人事件件数をいい,自殺率とは人口10万人あたりの自殺者数を意味します。双方とも2008年のデータです。


 日本は殺人率が非常に低く,自殺率が高いので,右下の底辺を這うような位置にあります。他の先進国もおおむね同じです。アメリカは物騒だとかいわれますが,世界全体でみれば,この国よりも殺人率が高い社会がわんさとあります。邦人の殺害事件があった南米のエクアドルが,だいたい中間というところです。

 ところで,殺人と自殺という,性質が真逆の逸脱行動の量を同時観察することで,それぞれの社会の国民性のようなものがみえてきます。極限の危機状況に置かれたとき,他人を殺るか,それとも自らを殺めるか。図の数値は,各国の国民の内向性を可視化したものです。

 日本の殺人率は0.5,自殺率は24.8です。殺人と自殺の合算量のうち,98.0%が自殺で占められています。対して中米のホンジュラスの場合,この値はわずか9.0%です。両国のお国柄のコントラストが明らかです。
 
 わが国では,危機状況のほとんどが,誰にも危害を加えない形で処理されている。結構なことではないか,という意見もあるでしょう。しかし,際立って高い内向率の裏には,「他人に助けを求めるのは恥ずべきこと」「なんでもかんでも自己責任」といった機械思考が蔓延している,日本社会の病理兆候も見え隠れしています。

 上記の国際統計は,こうした視点から読み解くべきだと思いますが,いかがでしょうか。

2014年2月2日日曜日

子育て期における人口増加率地図(首都圏版)

 昨日は,都内49市区の「子育て期における人口増加率地図」をご覧いただきましたが,1都3県にまで射程を広げた首都圏版をつくってみましたので,展示しようと思います。

 子育て期における人口増加率とは,20代後半から30代前半にかけての増加率を意味します。2008年1月の25~29歳人口と,2013年1月の30~34歳人口を照合して計算しました。参照したのは以下の資料です。

・埼玉県:『埼玉県町(字)別人口調査』
 http://www.pref.saitama.lg.jp/site/a009/
・千葉県:『千葉県年齢別・町字別人口』
 http://www.pref.chiba.lg.jp/toukei/toukeidata/nenreibetsu/index.html
・東京都:『住民基本台帳による東京都の世帯と人口』
 http://www.toukei.metro.tokyo.jp/juukiy/jy-index.htm
・神奈川県:『神奈川県年齢別人口統計調査』
 http://www.pref.kanagawa.jp/cnt/f11000/ 

 神奈川県の資料は,各年4月時点の人口が掲載されていますので,当県の自治体は,2008年と2013年の4月時点の人口比較によります。他の3都県は,1月時点の比較です。

 都内の中央区でみると,2008年1月の25~29歳人口は9,477人(a)ですが,5年後の2013年1月の30~34歳人口は14,034人(b)にまで膨れ上がっています。増加率にすると,+48.1%にもなります。計算式は,<(b-a)/a >です。

 1都3県に視界を広げた場合,この増加率を上回る自治体はあるでしょうか。首都圏242市区町村の増加率を同じやり方で出し,マッピングすると,下図のようになります。


 全体的にみると,子育て期にかけて人口が減っている地域が多くなっています。242市区町村のうち,133の地域が白色か薄い緑色です。

 それ以外は人口が増えた地域ですが,増加率が5%を超える濃い緑色は,都心もしくはその近辺に多いですねえ。前回も書きましたが,子どもができたら家庭の時間を長く持ちたいということで,通勤時間が短くなる都心に移り住む,ということでしょうか。あるいは,早期受験なども見越してのことか。

 しかるに,都心か周辺部かという,地域ロケーションが決定的かというと,そうではありません。濃い緑色は,都心から離れたゾーンにも点在しています。その中には,町村もあり。

 ここにて,子育て期における人口増加率が高い地域の顔ぶれをみてみましょう。やや飛躍していうなら,子育てに選ばれている地域はどこかです。20代後半から30代前半にかけての増加率が10%を超える地域を一覧表にしてみました。高い順に並べています。


  首都圏全体でみても,トップは中央区です。ほか,都心かその近辺の市区が多く名を連ねています。千葉県の流山市がありますが,当市はホームページのトップで「母になるなら流山・父になるなら流山」とうたっています。さぞ充実した子育て施策を実施しているのでしょう。
http://www.city.nagareyama.chiba.jp/index.html

 なお,表の中には郡部(町村)も含まれており,神奈川県の開成町は14.9%の増です。この町のホームページをみると,「子育て支援センター,のびのび子育てルーム,チビッ子らんど,地域育児センター」などを通した育児支援を実施しているようですが,そうした実践の賜物でしょうか。

 上表に掲げられた自治体の子育て施策一覧表をつくってみるのも一興ではないでしょうか。保育に関心のある学生さん,卒論のテーマになりかもしれませんよ。

2014年2月1日土曜日

子育て期における人口増加率地図

 昨日の読売新聞が報じたところによると,2013年中の転出超過が全国一だったのは,神奈川県の横須賀市だそうです。とりわけ転出が多いのは子育て世代とのこと。これに対し市長は,「誠に遺憾。転出の抑制と転入の促進の方策を打ち出したい」とコメントしています。
http://www.yomiuri.co.jp/national/news/20140131-OYT1T00535.htm?from=tw

 前にどこかで書きましたが,ヒトの動き(mobility)というのは正直です。水が高きから低きに流れるがごとく,魅力的な地域には人が入り,そうでない所からは人は出ていくというのは道理です。

 私はこういう考えのもと,子育て期における人口増減を,都内の49市区別に明らかにしてみました。計算したのは,20代後半から30代前半にかけての人口増加率です。この値が高いほど,子育てに選ばれている地域という見方をとります。

 参照したのは,『住民基本台帳による東京都の世帯と人口』という資料です。現在公表されている最新の数値は,2013年1月時点のものです。この時点の30~34歳人口は,5年前の2008年1月では25~29歳ということになります。
 http://www.toukei.metro.tokyo.jp/juukiy/jy-index.htm

 この2つの数値を照合することで,同一世代(コーホート)について,20代後半から30代前半にかけての人口増減を明らかにすることができます。下の表は,都内49市区別の結果一覧です。


 子育て期における人口増加率が最も高いのは,中央区となっています。20代後半では9,477人だったのが,30代前半になるや14,034人にまで膨れ上がっています。増加率にすると,実に+48.1%にもなります。1.5倍近くの増加です。

 2位は台東区の40.3%,3位は港区の39.3%なり。人口増加率という単純な指標ですが,これでみる限り,子育てに選ばれている地域といえるかもしれません。

 なお,赤色は増加率が10%を超える数値ですが,ほとんどが都心ではないですか。子育ては自然が多い地域でのびのびと。こんなふうに考える人が多いかと思いますが,そうでもないのかなあ。

 西部では,人口が減っている地域もあり,私が住んでいる多摩市に至っては10.4%の減でワーストです。多摩市は公園面積が首都圏で1位であり,子育てにはうってつけの環境だと思うのですが。ちと複雑な気持ちです。
http://tmaita77.blogspot.jp/2013/01/blog-post_30.html

 子どもができたら,家庭の時間を多く持ちたいということで,通勤時間が短くなる都心が選ばれるのでしょうか。あるいは,早期受験などを見越してとことでしょうか。まあ好みは人それぞれですのでとやかくは申しませんが,ちょっと意外でした。

 私は視覚人間ですので,上表の増加率を地図化しておこうと思います。4つの階級を設けて,49市区をグラデーションで塗り分けてみました。


 東高西低が明瞭ですね。特別区(23区)ではほとんどが10%以上の増ですが,西部では白色,すなわち人口減の地域も結構あります。

 大雑把にみればこんな感じですが,各市区の人口増加率は,子育て施策による部分も大きいと思われます。ある方がツイッターで教えてくださったところによると,「中央区に流入が多いのは 待機児童が比較的少ないこと,出産祝い金(3万)があることなんかがありそう」とのこと。また,「移動教室の際,保護者の方からの集金は賄い費(食事代)だけでした。バス代も宿泊費も区からお金が出ていました」という経験談もお聞きしました。なるほどなあ。
 http://www.city.chuo.lg.jp/kosodate/index.html

 繰り返しますが,ヒトの動きというのは正直です。今回出した,子育て期における人口増加率のような指標は,各地域の子育て施策の効果を評価するメジャーとして使えるでしょう。経年変化にも関心を向けていただきたいものです。