2019年1月6日日曜日

若年出産

 晩産化が進んでいますが,若くして出産する女子もいます。2017年の厚労省統計によると,全出生児94万6065人のうち,10代の母親から生まれた子は9898人となっています(『人口動態統計』)。比率にすると,千人あたり10.5人です。

 若年出産は都市部で多く,その内部でみても地域差があります。『東京都人口動態年報』という資料に,都内の区市町村別の数値が出ています。全出生児数と,うち10代の母親から生まれた子の数を拾い出せば,若年出産の割合を地域別に出すことができます。

 私は過去5年間(2013~17年)の資料に当たって,都内23区の数値を揃えました。以下の表は,その結果です。世田谷区の場合,2013~17年の5年間に生まれた子どもは3万9127人で,うち10代の母親から生まれた子は67人であることを意味します。


 右端の数値は,過去5年間の出生児のうち,10代の母から生まれた子の占める割合です。若年出産の指標と読むことができます。単位は‰(千人あたり)であることに留意ください。

 同じ東京特別区でも,若年出産の率は区によってバラツキがあります。最低は港区の0.9‰,最高は足立区の13.1‰です。去年の3月,足立区の公立中学校で性交や避妊の授業をしたことが取り沙汰されましたが,こういう地域的な背景を踏まえての取組だったのかもしれません。

 足立・葛飾・江戸川の城東3区では,若年出産比率が10‰を超えます。大田区,豊島区,北区,板橋区,練馬区でも値が相対的に高くなっています(5‰超)。数値の表では分かりづらいですが,地図に落としてみると,若年出産には地域性があることも知られます。


 土地勘のある人はピンとくるでしょうが,10代の出産の率は,各区の住民の所得水準とマイナスの相関関係にあります。貧困による高校非進学・中途退学とも関連しているでしょう。

 10代の夫婦の離婚率は非常に高く,若くして出産した母と子が貧困に陥るリスクは高し。貧困の世代連鎖という結果にもなります。足立区の中学校で,性交や避妊についてやや踏み込んだ授業をしたのも,こういう問題を意識してのことだったのかもしれません(推測ですが)。

 「要らぬ性的関心を助長する」という咎めがあったようですが,結果はその反対でした。授業後にとったアンケートによると,安易な性行動に慎重になる生徒の率が大幅に増えたとのこと。
https://www.asahi.com/articles/ASL4C5K16L4CUTIL04K.html

 「中学校学習指導要領の規定を逸脱している」と,都教委は渋面をつくっています。各学校は,教育課程の国家基準である学習指導要領に依拠してカリキュラムを編成しないといけません。しかし学習指導要領に盛られている内容は,全ての生徒に指導しなければならない最低限のものです。それをちゃんと消化した上で,各学校が必要と判断した場合,プラスアルファの内容を加えて指導することは認められています。

 正しい知識がないばかりに,望まない妊娠・出産に至ってしまうケースが後を絶ちません。「セックスしても,その日のうちに熱いお風呂に入れば大丈夫」などと,本気で信じてしまう子もいます。ネットにも,この種のデマが飛び交っていますからね。

 ネットが普及した現在では,児童生徒が性の情報(刺激)に触れるなどたやすいことです。今となっては,子どもと大人の世界は完全にボーダレスです。青少年にスマホ等を買い与える場合は,有害情報を遮断するフィルタリングの措置をしないといけないのですが,こんな規則を守る親は少ないでしょう。

 こういう時代であるからこそ,学校において,意図的に正しい知識を教える必要があるのではないでしょうか。ネットで知識を手軽に得られる今では,学校の教室という四角い空間で学ぶことの意義が薄れている,と言われます。しかし,手軽に得られる知識には間違いがあることがしばしば。上記のデマなどは,その典型です。知識の殿堂としての学校の存在意義は,100%朽ち果てているわけではないのです。