2017年10月21日土曜日

学部と修士の正社員就職率

 「頭のいい女子はいらないのか:ある女子国立大院生の就活リアル」と題する記事が目に止まりました。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171020-00010000-binsider-bus_all

 内容は,タイトルから推して知るべし。シューカツに臨んだ院生が,「大学院ねえ。そんなに勉強してどうするの」「あなたの学歴ではもったいない」などと,嫌味を言われるケースです。

 女子の場合,男子にもまして,こういう風当たりは強いでしょう。私が修士課程で一緒だった女子院生も上記のようなことを言われたことがあるそうで,「逆学歴差別だ」と憤っていました。

 大学院まで行くと,かえって就職がなくなる。だいぶ前からこういうことが言われていますが,データでみるとどうなのでしょう。今年春の卒業生の正規職員就職率を,大学学部と修士課程で比べてみましょう。分子と分母は以下です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001011528

 分子=正規職員就職者数+臨床研修医数
 分母=卒業生数-大学院等進学者数-専修学校等入学者数

 分子ですが,医学部の場合,キャリアが臨床研修医からスタートすることが多いですので,この数も含ませます。分母は,就職の意思がない大学院等進学者と専修学校等入学者は除外します。

 このやり方で,学部卒業者と修士課程修了生の正規職員就職率を計算してみました。下図は,結果をグラフにしたものです。ジェンダー差をみるため,性別で分けています。


 男子は,学部から修士にかけて,正社員就職率がちょっと上がります。しかし女子は,学部では85.4%だったのが,修士になると69.5%と大きく陥落します。学部では「男子<女子」だったのが,修士卒では大逆転です。

 ただこれは,専攻の違いによるかもしれません。理系では,学部卒より院卒が有利といいますが,理系の院生の大半は男子です。対して,女子院生の多くは文系の専攻であると。

 そこで,学部・修士の正社員就職率を専攻別に出してみました。下表は,結果の一覧です。上段は学部,下段は修士の専攻別の正社員就職率です。


 女子でも,理学専攻は,学部から修士にかけて正社員就職率がアップします(87.4%→90.6%)。

 予想通りといいますが,下落が大きいのは文系の専攻です。人文科学の女子では,学部の83.3%から修士の45.0%へと,40ポイント近くも落ちています。社会科学も,88.7%から59.1%と大下落です。

 文系の院に行くと悲惨であるのは男子も同じですが,女子はそれが顕著であると。ちなみに冒頭の記事で紹介されているのは,国立大の社会学の女子院生のケースです。

 男女の専攻別の正規職員就職率が,学部から修士にかけてどう変化するか。この点を視覚的に見て取れるグラフを作ってみましょう。横軸に学部卒,縦軸に修士卒の正社員就職率をとった座標上に,男女の10専攻のドットをプロットしてみました。

 青色は男子,オレンジ色は女子です。専攻名は,頭文字で略記しています(人=人文科学,社=社会科学…)。


 斜線は均等線です。このラインより上にあるのは,学部より修士の正社員就職率が高い専攻です。下にあるのは,その反対です。

 修士に行くメリットがあるのは,男子の理系専攻ですね。男子の理学専攻は,学部の78.6%から修士の89.3%へと,10ポイント以上の増。この専攻に限っては,女子も院進学の利点があるようです。

 しかるに女子にあっては,理学を除く全ての専攻で,大学院に進学すると正社員就職チャンスが狭まります。その度合いは,均等線からの垂直距離で見て取れますが,悲惨を極めているのが,人文・社会系です(緑枠)。

 最近は大学院修士課程への進学率が上がっているといいますが,正社員就職率という点でみると,メリットがあるのは男子の理系専攻に限られるようです。

 素朴な人的資本論に従えば,学部卒より院卒のほうが生産性に優れているので重宝されるはずなのですが,わが国の現実はさにあらず。ある方がツイッターでつぶやいていましたが,「欲しいのは学力・能力ではなく,ただの奴隷」なんだなと。
https://twitter.com/WadaJP/status/921264218728361984

 確かにそうかもしれませんねえ。採用面接で,学校で何を学んだかなんて聞かれないし…。先方が知りたいのは,性格にクセがないか,言われたことを従順にやってくれるか,これだけです。知識や技術は入社後に訓練すると。

 中には,学生の有している資質・能力に関心を持つ会社もあるでしょう。「大学院でプラス2年間学んだそうだが,それで得られたものは何か」と。学生の側は,それを分かりやすく伝える術を身に付けないといけません。
https://twitter.com/vc66AaZmbH5oZbE/status/921313998938578944
 
 ただ,同じ専攻にもかかわらず,大学院に進むと一般社会に出るチャンスが明瞭に「男子>女子」となるのは,「学のある女は要らぬ」という,旧態依然としたジェンダー観念が未だに蔓延っていることの証左といえるでしょう。

 国際比較をやったら,日本固有の傾向なのかもしれません。

2017年10月12日木曜日

18歳と19歳の投票率

 今月22日は衆院選の投票日ですが,昨年より選挙権の付与年齢が18歳に引き下げられ,高校生も投票できるようになっています。それに伴い,各地の高校で主権者教育が行われています。

 関心が持たれるのは,若きティーン(18・19歳)の投票率ですが,昨日の神戸新聞の記事によると,18歳から19歳にかけて投票率がガクンと下がる傾向があるそうです。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20171011-00000016-kobenext-soci

 「ホンマかいな」と,昨年の参院選の年齢別投票率をグラフにすると,下図のようになります。昨日,ツイッターで発信した図です。


 ほう。18歳では51.2%と半分を超えていたのが,19歳では39.7%に急落し,22歳まで低下を続けます。大学在学中にかけて投票率は下がるのですねえ。

 上記の神戸新聞でも言われていますが,18歳の高校生は,学校で密な主権者教育(啓発)がされますが,教師と学生の距離が大きい大学はさにあらず。要するに,野放しの大学生は投票所に足を運ばないのでしょう。

 あと考えられるのは,住民票を移していない学生が多いということ。これでは,自分が住んでいるアパートに投票案内は届きません。実家に戻って投票するなんて,億劫なことはしたくない。よって,投票率が低くなると。

 それをうかがわせるデータもあります。問題の19歳の投票率が,都道府県でどう違うかです。昨年の参院選でいうと,19歳の投票率の全国値は39.7%ですが(上図),都道府県別にみると,最高の53.8%から26.6%までの開きがあります。倍の格差です。

 各県の19歳の投票率を地図にすると,以下のようになります。


 値が相対的に高いのは,都市部ですね。実家から大学等に通っている学生が多いためでしょう。

 対して西日本のエリアでは,投票率が35%に満たない県(白色)が多くなっています。私の郷里の鹿児島も然り(34.3%)。住民票を移さないまま都会に出ている学生が多いので,投票率が低くなってしまうのでしょう。

 このマップの白色の県は,大学進学の際,住民票をきちんと移すよう,指導を強化する必要があるのではないでしょうか。

 住民票を移してない学生さんも,帰省せずして投票できる「不在者投票制度」なるものもあるようですが,結構手続きが煩瑣です。また,利用できない自治体もあるとのこと。住民票を移すのがベストであるのは,言うまでもありません。
https://www.buzzfeed.com/jp/sumirenakazono/senkyo-hitorigurasi-touhyo?utm_term=.ile5gOdVDM#.xuEPnaZv6J

 私は,事情あって18歳から独立生計でしたので,役所関係の諸手続きはきちんとする習性が身についています。そうでないと,病院すらいけないですからね。

 学生さんもやがては親の扶養を離れ,独立生計者となりますが,各種の行政手続きを「親任せ」ばかりにしていると,後々痛い目をみるでしょう。大学入学に伴い転居したら,まずはその地の役所に足を運び,ちゃんと住民登録をしましょう。

 さて,今月の衆院選は,ティーンに選挙権が与えられた2度目の国政選挙ですが,投票率はどうなるでしょう。今年の19歳は,昨年(18歳時)の経験があるので,最初のグラフのような大幅な陥落傾向は消えているかもしれませんね。

 ここ数日,10月とは思えぬ暑さが続きましたが,明日は気温が一気に下がり,肌寒くなるそうです。今日のマックスが28度に対し,明日は17度(横浜)。10度以上の落差です。ちゃんと,布団を被って寝ましょう。

 今日は立川病院に行き,先日受けた歯根端切除手術の予後観察を受けましたが,「予後不良,再手術の必要あり」という判断。確定ではありませんが,来月にまた入院し,手術を受ける可能性が高くなってしまいました。やれやれです。(-_-;)

2017年10月9日月曜日

首都圏の大学学部別の公務員・教員就職率

 前回は,母校・東京学芸大学と文教大学教育学部について,卒業生の教員就職率を出してみました。資料は,旺文社の『大学の真の実力 2018年度用』です。
https://www.obunsha.co.jp/product/detail/051009

 各大学の学部別に,公務員就職者数と教員就職者数が分かる,スグレモノです。私はこれを使って,公務員就職率と教員就職率の分布を明らかにしたいと考えました。また上位の20位を拾い,「公務員(教員)になるならココ」という情報も出したいと思いました。

 ひとまず首都圏(埼玉・千葉・東京・神奈川)の分だけ,データベースを作りました。それぞれの学部について,就職率の算出に必要なデータを入力した次第です。その数,720学部なり。



 公務員(教員)就職率を出すに当たっては,就職の意思のない大学院等進学者を,卒業生全体から除いた数をベースにしました。東京学芸大学教育学部でいうと,今年春の卒業生は1131人,進学者は213人,教員就職者は317人ですので,教員就職率=317/(1131-213)=34.5% となります。これは,前回の記事で明らかにしたことです。

 公務員(教員)就職者が非公表であるなど,率の計算ができない学部,分母(卒業生から進学者を除いた数)が50人に満たない学部は,分析対象から外します。

 私はこのやり方で,首都圏の664学部の公務員就職率,649学部の教員就職率を明らかにしました。下表は,その分布です。

 なお,本資料に計上されている就職者数は,フルタイムの雇用形態のようですので,臨時職員や時間講師の類は含まれないと思われます。フルタイムの公務員(教員)就職率です。


 公務員や教員になる学生は多くないので,就職率が5%ないしは10%未満という学部がほとんどです。

 私の母校・東京学芸大学教育学部は,公務員就職率が5.1%,教員就職率が34.5%ですので,表の黄色マークの階級に属します。

 しかし,率が高い学部もありますね。公務員就職率のマックスは48.9%,教員就職率のそれは79.5%です(いずれも私立)。教員就職率およそ8割。前回みた文教大学教育学部の74.8%をも凌駕していますが,どこかしら。

 では,首都圏の大学の学部のうち,公務員就職率ないしは教員就職率が高い学部の顔ぶれをみていただきましょう。まずは,前者の上位20位です。表の「母数」は,パーセンテージの分母となった数(=卒業生数-進学者数)です。


 トップは,日本文化大学ですか。公務員就職率48.9%,およそ半分。公務員に強い大学として定評があり,公務員志望者向けの「公共コース」,警察官・消防官向けの「法心理コース」といった課程を設けているようです。
http://www.nihonbunka-u.ac.jp/about/feature/

 その次は,同じ八王子市にある創価大学看護学部。そして3位は,東京大学・法学部です。多くが国家公務員でしょう。

 上位20学部の内訳は,国立が10,私立が9で,公立は首都大学東京の都市環境学部がランクインしています。

 次に,教員就職率です。わが母校・東京学芸大学は,首都圏の上位20位にランクインするか。50%以上,進学者を除く卒業生の半分以上が教員になる学部は赤字にしました。


 トップは,千葉の秀明大学です。文教を上回るって,ここですか。「学校教師学部」と名にふさわしく,強いですねえ。全寮制で,1年次から学校現場で研修をしているそうです。
http://www.shumei-u.ac.jp/faculties/edu/index.html

 3位は鎌倉女子大学の教育学部で,4・5位が千葉大と埼玉大の教育学部となっています。私が出入りしていた武蔵野大学の教育学部は48.1%で9位。割と頑張っているんだな。

 母校・東京学芸大学(34.5%)は,首都圏の649学部の中では17位となっています。横国は19位。前回も書きましたが,ゼロ免課程の学生が結構おり,この部分を除けば率はもっと上がるでしょう(それは千葉大や埼玉大の教育学部も同じですが)。

 14位の聖徳大学児童学部は,亡き恩師・陣内靖彦先生が,学大を定年後に行かれたところです。

 上記の2つの表は,「公務員(教員)になるならココ」という情報にもなるかと思います。これは首都圏(1都3県)のデータです。射程を全国に広げれば,顔ぶれはガラリと変わるでしょう。過激な広告で知られる,関西の雄・近畿大学は強そうだな。

 どなたか時間のある方,関西版をぜひやってみてください。旺文社の『大学の真の実力 2018年度用』は,2300円です。

2017年10月8日日曜日

旺文社『大学の真の実力』

 3連休の2日目ですが,いかがお過ごしでしょうか。秋晴れの空が広がっていますね。近くのソレイユの丘は,家族連れで賑わっていることでしょう。私は変わらず,自宅仕事ですが。

 さて,毎年この時期になると,各社の大学調査の結果をまとめた冊子が公刊されます。翌年度の受験生の参考に供するためです。私は毎年,読売新聞社の『大学の実力』を購入していますが,旺文社も独自に調査をやっているようです。

 受験雑誌『蛍雪時代』で知られる会社ですが,その特別号として,大学調査のデータをまとめた冊子が出るようです。その名は『大学の真の実力』。今年(2017年)の調査には,全国の751大学全てが回答しているとのこと。
https://www.obunsha.co.jp/product/detail/051009

 今年の調査結果の冊子を,アマゾンで取り寄せました。


 全大学が回答しているのは,大学(学部)別の退学率のようなデータは出さない,という編集方針の故でしょう。

 しからば,読者の目を引く「きわどい」データが載ってないかというと,そんなことはありません。入学者の地元出身率・現役率,卒業者のうちの公務員就職者・教員就職者など,読売新聞調査にはないデータも載っています。

 公務員就職者・教員就職者数を,全国の大学の学部別に知れるのはスゴイ。私は,東京学芸大学という教員養成大学の出身ですので,教員就職率という指標に関心を持ちます。

 この資料が集計している教員就職者とは,無期雇用,ないしは雇用期間1年以上で週の労働時間が30~40時間程度の者,ということですので,フルタイムの雇用形態の者とみてよいでしょう。時間講師の類は含まれないと思われます。

 はて,今の学大はどれくらい頑張っているか。300ページに,今年春の学大の卒業生(1131人)の進路が出ています。私の頃からのライバル,埼玉の私大・文教大学教育学部との優劣も,気になりますねえ。以下のシンプルな比較表を作ってみました。


 教員就職者数は,学大が317人,文教大が347人です。卒業者は学大の方が多いのに,教員就職者は文教のほうが多し。就職の意思のない大学院等進学者を除く卒業生(学大の場合,1131-213=918人)に占める,教員就職者の割合は,学大が34.5%,文教が74.8%です。

 ぐうう,倍以上の差です。だいぶ水を開けられていますねえ。まあ学大の場合,ゼロ免課程が結構ありますので,この部分を除いたら教員就職率はもっとアップするでしょうが,それでも文教の74.8%には及ばないだろうなあ。

 上表のデータをグラフにしましょう。進学者を除く卒業生ベースの教員就職率がイメージしやすいようにします。この場合,横幅も使えるモザイク図が一番。横幅を使って,進学者とそれ以外に分かち,後者の中での教員就職者の比重を可視化します。


 違いがよく分かりますね。進学先も就職先も決まってない進路未定者は,教員養成大学の場合は,多くが教員採用試験の浪人組でしょう。

 これは2つの大学の結果ですが,他にも教員養成大学(学部)はたくさんあります。学大の教員就職率は34.5%ですが,全体の中の位置はどうなのかなあ。国立と私立の分布の差も知りたいところ。国立の教員養成大学は,未だに研究志向が強く,社会のニーズに応えていない,という社説を新聞で読んだことがありますが,国立と私立ではどっちに軍配が上がるか。

 目下,首都圏(1都3県)の分のデータベースを作っているところです。おカネのある研究者なら,バイトを雇って全国の大学(学部)の卒業生の進路DBを作るのも容易でしょうが,私はそうはいきません。
https://twitter.com/tmaita77/status/916614544906117120

 しかるに,限られた労力(資源)から有意義なアウトプットを引き出すのも,研究者の腕の見せ所。首都圏のデータをもとに,教員就職率の分布と,「教員ないしは公務員を目指すなら,**大学の**学部!」ということが分かるデータを作ってみようと思います。

2017年10月2日月曜日

47都道府県の真正待機児童数の推定

 すっかり知れ渡っている,待機児童問題。待機児童とは,保育所に入りたくても入れず,待たされている児童のことです。

 この数はどれほどか。毎年,厚労省が数値を発表していますが,この統計が「抜け」だらけで,実態を把握し切れていないことはよく知られています。「どうせダメだろう」と,保育所への入所を申し込まなかった場合はカウントされない,母親が求職活動をしなかった場合はカウントされないなど…。

 こういう状況に危機感を持ったのか,野村総研が,就学前の乳幼児がいる母親を対象にした大規模調査をもとに,真正の待機児童数を推し量ってくれました。希望しつつも入れなかった乳幼児の数で,厚労省の狭い定義から外れるものも含みます。その数,34万6千人とのこと。
https://mainichi.jp/articles/20170930/k00/00m/040/133000c

 厚労省発表によると,2016年4月時点の待機児童数は2万3553人。ずいぶん違いますねえ。公的統計の背後には,13倍もの暗数があると推測されます。

 さて,上記の真正待機児童の推定数34万6千人ですが,この数は,2016年10月時点の保育所等在所者(約369万人)の9.37%に該当します。保育所等非在所者とは,0~5歳人口から,認可保育所および幼保連携・保育型認定こども園の在所者数を引いた数です。

 私はこの比率(9.37%)を適用して,47都道府県の真正待機児童の数を見積もってみました。各県の0~5歳の保育所等非在所児の9.37%が,希望しつつも入れないでいる,真正の待機児童である。こういう仮定です。


 真正の待機児童数(c)は,保育所等非在所児数(=a-b)に0.0937をかけることで得られます。東京の場合,出てきた数は3万9620人。厚労省発表の2016年4月時点の数値(8466人)と隔たってますね。

 厚労省統計(d)によると,9の県で待機児童数がゼロという素晴らしい結果が出ていますが,母親の生の声をもとにすると,残念ながら4ケタの待機児童がいると推測されます。

 北海道,埼玉,千葉,東京,神奈川,静岡,愛知,大阪,兵庫,福岡では,5ケタの暗数があると見込まれます(黄色マーク)。cの赤太字は,真正待機児童数が当局発表の100倍以上に上る県で,北海道,群馬,岐阜,愛知,和歌山,佐賀が該当します。

 以上は,9.37%という比率を一律に適用したラフ推計です。保育所不足が深刻な都市部では,もっと高い比を乗じるのが妥当でしょうから,真正待機児童数はもっと多くなると思われます。

 ただ言えるのは,待機児童数を掬う現行の網の目があまりにも粗い,ということ。上表の右端に示された潜在需要数に,各自治体は目を向けてもらいたいと思います。

2017年9月30日土曜日

2017年9月の教員不祥事報道

 日が落ちるのが早くなりました。夕刻の散歩は,5時くらいに出ています。もう半袖じゃ肌寒いですね。

 月末の教員不祥事報道の整理です。今月,私がネット上で把握した報道は44件です。赤字は珍事案。児童に無理やり給食を食べさせ,5人を嘔吐させたという,小学校のベテラン女性教師の事案が注目されます。

 私の頃は,「お前が全部食わないと,みんなが昼休みに入れんぞ」とよく脅されました。保護者からも「偏食は厳しく直してほしい」という要望多数で,涙目になってゲロを吐く児童も結構いました(それがもとで,いじめに発展すると)。

 しかしですねえ。これは「肉体的苦痛を与える」という,体罰の構成要件に該当するともとれますね。あまり,やり過ぎないようにしてほしいものです。

 明日から10月,秋も深くなってきます。季節の変わり目,体調を崩されませぬよう。背景を秋晴れ模様に変えます。

<2017年9月の教員不祥事報道>
女子更衣室にカメラ設置し盗撮企て、小学校教諭免職
  (9/4,日刊スポーツ,兵庫,小,男,31)
盗撮の41歳小学教諭を懲戒免職(9/4,日刊スポーツ,東京,小,男,41)
「競馬や借金の返済に…」 90万円着服の元小学校校長に退職金返納命令
 (9/4,名古屋テレビ,愛知,小,男,60)
野球部物品購入費約30万円私的流用した中学校教諭を懲戒免職
 (9/6,産経,宮城,流用:中男56,セクハラ:小男49)
京都で生徒引率中に万引疑い…女性養護教諭を逮捕 
 (9/6,サンスポ,鳥取,中,女,35)
無免許運転:支援学校教諭の処分検討(9/6,毎日,』岐阜,特,男,30代)
生徒の指骨折させた教諭を懲戒戒告(9/7,MBC,鹿児島,男,40代)
はがき偽造:学校講師、容疑で逮捕(9/8,毎日,愛媛,特,男,29)
体罰と暴言で男性教諭処分 県教委、停職1カ月
 (9/8,神奈川新聞,神奈川,高,男,51)
北海道立高の教諭逮捕 速度測定器蹴った容疑
 (9/8,産経,北海道,高,男,52)
市立小学校男性臨時教師が盗撮 懲免処分(9/8,朝日放送,大阪,小,男,23)
校内に大量の女性下着 「バザー販売用」男性教諭が保管
 (9/9,西日本新聞,福岡,高,男,40代)
<高知・公立中教諭>女子生徒3人に「校内外でキス」
 (9/9,毎日,高知,中,男,40代)
男児に強制わいせつ容疑、保育教諭の36歳男を逮捕 
 (9/11,日刊スポーツ,静岡,男,36)
男性高校教諭が女子生徒30人に「正座」強要(9/14,福島民友,福島,高,男)
大阪・市立高:無免許教科で授業 非常勤講師
 (9/14,毎日,大阪,高,男,20代)
わいせつ動画投稿疑いの高校教諭を懲戒免職 
 (9/15,サンスポ,滋賀,高,男,31)
スマホ盗撮の高校教師「懲戒免職」 女子高生などのスカート内
 (9/16,福島民友,福島,高,男,30)
<わいせつ>SNSに下半身動画投稿 高校教諭を懲戒免職
 (9/16,毎日,滋賀,高,男,31)
支援学校の講師逮捕=女子中生にわいせつ容疑
 (9/19,時事通信,兵庫,特,男,23)
小学校教諭、男児にわいせつ未遂容疑 トイレ個室に押し込む
 (9/20,京都新聞,茨城,小,男,37)
酒気帯び運転の中学教諭2人懲戒免職 岩手県教委
 (9/21,産経,中男57,中女52)
<児童情報紛失>女性教諭、飲酒後転倒で意識失い
 (9/21,毎日,大阪,小,女,50代)
不正に口座開設 容疑で小学校教諭を逮捕(9/21,産経,茨城,小,男,43)
女子高生の裸撮影した疑い 高校非常勤講師の男逮捕 
 (9/21,日刊スポーツ,千葉,高,男,23)
下着窃盗容疑で小学校教諭逮捕、写真や動画を撮影 
 (9/21,日刊スポーツ,奈良,小,男,48)
教え子の小6女児にわいせつ容疑 56歳教員を逮捕 
 (9/21,日刊スポーツ,茨城,小,男,56)
中学講師が衣類“万引き” 試着室に何度も
 (9/22,テレビ朝日,広島,中,女,47)
中学校長、住宅侵入疑い 宮崎、呼気からアルコール
 (9/22,産経,宮崎,中,男,59)
小学校教諭が酒飲みノーヘルでミニバイク運転
 (9/23,神戸新聞,兵庫,小,男,24)
懲戒処分:万引き中学教諭、減給 横浜市教委
 (9/23,毎日,神奈川,中,女,34)
傷害容疑で高校教諭逮捕 茨城・取手の飲食店
 (9/25,産経,東京,高,男,27)
中学校侵入し女子生徒の上履き盗んだ疑いで支援学校講師を免職
 (9/25,サンスポ,秋田,特,男,22)
給食の完食指導で5人が嘔吐 小学校教諭を厳重注意
 (9/26,朝日,岐阜,女,50代)
覚醒剤所持で逮捕された中学教諭を懲戒免職(9/26,産経,埼玉,中,男,27)
中学校の20代男性教師 勤務先の女子生徒にみだらな行為で書類送検
 (9/27,東海テレビ,愛知,中,男,20代)
部活中に女子生徒の脚触る 中学教諭、保護者に謝罪
 (9/28,神戸新聞,兵庫,中,男,40代)
男子生徒に“平手打ち”で骨折など全治3カ月
 (9/28,TNC,福岡,高,男,30代)
水泳授業中、腕立てする女子高生にまたがる 教諭を処分
 (9/29,朝日,大阪,高,男,57)
飲酒運転の車に同乗の教諭を懲戒停職処分(9/29,日テレ,山梨,小,男,20代)
少女との淫らな行為撮影の男性講師ら懲戒免職
 (9/29,産経,大阪,高,男,34)
着服:元中学校長、PTA費など 室蘭、登別で計238万円
 (9/29,毎日,北海道,中,男,60)
女子生徒に「結婚して下さい」 高校の助手を停職処分
 (9/30,朝日,神奈川,高,男,20代)
酔って車にビールかけたうえ破損 男性教諭と講師を懲戒処分
 (9/30,産経,大阪,中,男,29・31)

2017年9月27日水曜日

親世代の所得と大学授業料の変化

 昨日の文科省の発表によると,2015年度の私大の平均年間授業料は86万8447円で,過去最高を記録したそうです。
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shinkou/07021403/1396452.htm

 記録更新は毎年のことですので,驚くに値しませんが,「高い」の一言に尽きます。その一方で,親世代の所得は減ってきていますので,家計の負担は大きくなっています。今や親を頼れず,学費稼ぎの無理なバイトをしたり,奨学金という借金をフルに借り込む学生も少なくありません。

 私は,このトレンドをグラフで表してみたいと考えました。大学の授業料推移はググれば一発で出てきますが,親世代の所得の推移を重ねたものは見つかりません。あるにしても,全世帯の所得変化とリンクさせたものだけ。

 全世帯の所得減少は,高齢化(乏しい年金暮らし世帯の増加)によりますので,これは使わないほうがよいでしょう。願はくは,大学生の親世代の世帯に限定したいもの。

 厚労省の『国民生活基礎調査』に,世帯の年間所得分布を,世帯主の年齢層別に集計したデータがあります。年齢区分は10歳刻みになっていますが,世帯主が40~50代の世帯を,大学生の子がいる世帯と見立てることにしましょう。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21.html

 最新の2016年版の資料には,前年(2015年)のデータが掲載されています。


 両裾が低く,真ん中辺りに山があるノーマルカーブではないようです。最も多いのは,所得1200~1500万円の階級となっています。バリバリの働き盛りで,共働きの世帯も多いでしょうから,こうなるでしょうか。

 この幅広い分布を,一つの代表値に集約しましょう。極端な値に引きずられる平均値ではなく,中央値(Median)にします。上記の3216世帯を所得が高い順に並べた時,ちょうど真ん中にくる世帯の所得がナンボかです。

 右端の累積相対度数から,中央値は所得600~650万円の階級に含まれることが分かります。按分比例の考えを使って,中央値(50.0)がこの階級の中のどこにあるかを推し量ります。以下の2ステップです。

 ① (50.0-46.2)/(51.2-46.2)= 0.753
 ② 600万円+(50万円 × 0.753)≒ 637.7万円

 世帯主が40~50代の世帯の年間所得の中央値は,637.7万円と出ました。まあ,違和感はない数値ですね。これは2015年のデータですが,上記の厚労省資料は1996年版までをネットで見れますので,1995年以降の20年間の推移を辿ることができます。

 95年といえば,私が大学に入った年。当時と今では状況は変わっているでしょう。親世代の所得の変化と,国公私立大学の年間授業料のそれを併行させると,以下の表のようになります。国立の授業料は,2004年の独法化以降は,国が示した標準額です。公私立大学の額は平均値です。ソースは,冒頭のリンク先の文科省統計です。。

 黄色マークは観察期間中の最高値,青色マークは最低値です。


 予想通り,親世代の所得は減ってきています。ピークは96年の752.4万円でしたが,2015年現在では637.7万円までダウンしています。115万円の減です。

 その一方で,大学の授業料は年々上昇しています。1995年と2015年の両端を比べると,国立は8.8万円,公立は9.7万円,私立は14.0万円の増です。私立の負担増が顕著ですが,私大の比重が高いわが国にあっては,家計へのダメージは大きい。

 上表に示されたヤバいトレンドをグラフにしましょうと凹凸が結構ありますので,3年間隔の移動平均法で推移を滑らかにします。当該年と前後の年の数値(3年次)の平均をとるわけです。たとえば2000年の数値は,99年,00年,01年の平均をとります。

 このやり方で,親世代の世帯の所得中央値と私大授業料のカーブを描くと,下図のようになります。


 きれいな「X」になりました。家計の余裕のなくなりと,それを顧みない(冷酷な)学費増加。大学生のブラックバイトや奨学金返済地獄は,こういう条件に由来することを忘れてなりますまい。

 この問題がようやく認識されてきたようで,大学の授業料無償化について議論されています。高等教育は個人的な投資の意味合いが強いので,無償化はどうかという意見もあるようですが,教育を受けることは,奢侈品を買うのとは違います。法律で規定された「権利」です。それが家庭の経済条件に左右されることがあってはならぬこと。

 教育基本法第4条は「教育の機会均等」について定めていますが,それは初等・中等教育のみならず,高等教育にも適用されます。

 ただ大学の場合,一律に無償化を図るのは,富裕層を優遇することにもなるでしょう。金持ちだらけの大学もありますので。

 高等教育のどの部分を無償にするかが議論の焦点のようですが,まずは全体の学費の水準を下げ,貧困層に特化した授業料の減免枠を拡大するのがいいと,私は考えています。特定の部分に資源を注入する(狭く深く)ではなく,まずは「浅く広く」から始めたほうがいいと思います。

 私は,大学院以降はずっと授業料免除をもらいましたが,これにはホント救われました。私のような貧乏人が大学院博士課程まで学べたのは,この制度のおかげです。しかるに今は,独法化の影響もあり,枠がうんと減っているとのこと。それでもって,特定の部分を無償化したり,奨学金の貸付を増やすというのは,教育の機会均等に寄与しないでしょう。

 要は,「下」に手厚くする,ということです。2010年度に高校無償化政策が実施され,公立高校の学費が軒並み無償になりましたが,2014年度に制度改正されました。授業料の無償は止め,所得が一定水準以下の困窮家庭の生徒に就学支援金を支給する方式に変わりました。所得制限を設ける代わりに,浮いた財源で「下」に対する支援を手厚くする。これと類似のことを,大学段階でもやったらいいのではないか。

 日本の大学の授業料はバカ高なのですが,問題なのは,このことによって,大学教育を受けるチャンスが家庭の経済力によって制約されることです。こういう事態は,法が定める「教育の機会均等」の理念にも反すること。先決なのは,この病理を治癒することです。特定部分の無償化よりも,全体の学費の水準を下げる,貧困層を対象とした学費の減免枠を増やす。私がこう主張する所以です。

 高等教育の無償化という,インパクト100%の政策が目的化してしまってはいけない。何のためにそれを行うのか。原点を見失わないようにしたいものです。

2017年9月24日日曜日

教員の病気離職率(2015年度)

 今月の半ばに,2016年度の文科省『学校教員統計』の中間集計結果が公表されました。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/NewList.do?tid=000001016172

 教員の個人調査と異動調査に分かれていて,後者では,調査の前年度間に離職した教員の数を知ることができます。2016年調査では,2015年度間の離職者数が調べられているわけです。

 離職といってもいろいろな理由があり,数としては「定年」によるものが最多です。ほか,理由のカテゴリーとしては,病気,死亡,転職,大学等入学,家庭の事情,職務上の問題,その他,があります。

 このうちの「病気」による離職者数は,教職危機の指標として使えると私は考えています。精神を病んで学校を去る教員が増えているといいますが,そういうケースはこの中に含まれます,本資料に載っている病気離職者数の半分以上は精神疾患によるものです。

 上記の中間報告によると,2015年度の公立小学校本務教員の病気離職者は540人となっています。同年5月時点の公立小学校本務教員数は41万397人(『学校基本調査』による)。よって,2015年度の公立小学校教員の病気離職率は,ベース1万人あたり13.2人となります。この値は,病気離職率とみなせるものです。

 『学校教員統計』と『学校基本調査』のバックナンバーをたどることで,教員の病気離職率の長期推移を出せます。下表は,公立小・中・高の教員の病気離職率の変化を明らかにしたものです。

 『学校教員統計』は3年間隔なので,データも3年刻みになっています。


 分子・分母の数も掲げていますので,この表は参考資料としてご覧ください。小・中・高の病気離職率のカーブを描くと,下図のようになります。


 80年代初頭は学校が荒れたためか,教員の病気離職率は高い水準にありました(とくに中学校)。その後,管理教育の徹底により荒れが鎮静化したためか,離職率は下がり,小・中・高とも1997年度にボトムになります。

 しかし今世紀以降,病気離職率は上昇に転じます。急な右上がりです。21世紀になって,矢継ぎ早に大きな教育改革が実施されました。06年の教育基本法改正,07年の全国学力テスト再開,主観教諭・副校長の職階導入(組織の官僚制化の高まり),09年の教員免許更新制導入,外国語教育の早期化…。

 短期間に,これほど多くの改革がなされたことは,かつてなかったと思われます。上図に描かれた病気離職率の急上昇は,現場がそれに翻弄されていることの表れかもしれません。だとしたら,何とも皮肉なことです。

 ちなみに教員の病気離職率は,年齢層別に出すこともできます。先日公表された2016年度調査の中間報告では,このデータはまだ出ていませんが,2012年度のデータで私が計算したところ,入職して間もない20代前半と,定年直前の50代後半が高い「U字カーブ」になっています(拙著『データで読む・教育の論点』晶文社,2017年,260ページ)。
http://www.shobunsha.co.jp/?p=4364

 危機は,教職生活の始めと終わりにあります。前者は,若手を手取り足取りサポートできない,今の職場環境によるでしょう。後者は,自分たちが入職した頃とはすっかり変わり果てた今の学校に対する,年輩教員の戸惑いではないでしょうか。詳細は,上記の拙著をお読みください。

 2015年度の年齢層別の病気離職率カーブは,どういう型になっているか。もしかしたら,40代の中堅層が高い型になっているかもしれません。育児・介護のダブルケアを強いられる,中年女性教員の離職率の高まりによってです。

 上記のグラフによると,教員の離職率は最近は下がっています(高校は上昇が止まらず)。しかし,80年代の学校が荒れた時代よりも高し。過去35年ほどのトレンド観察ですが,現在の教員は,危機的な状況に置かれているといってよいでしょう。

 「働き方改革」を支持するエビデンスは,こういうところにも見受けられます。

2017年9月22日金曜日

年収格差の変化

 昨日の「日経DUAL」に,男性の学歴別の生涯賃金を試算した記事が載りました。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=11204

 15~59歳までの現役時の賃金総額が,中卒でナンボ,高卒でナンボ,大卒でナンボ,というデータです。予想通り,大きな学歴差が出ています。学歴社会ニッポンの可視化です。興味ある方は,どうぞご覧ください。

 私はこの記事の最後で,「今の子どもたちが働き始める頃はどうなっているか。大学進学率がますます高まり,『大学を出ていなければ人にあらず』の時代になっているか,それとも,雇われ労働の減少により,学歴など関係ない実力主義の時代になっているか。後者の可能性も否定できない」と述べました。今後の趨勢予測です。

 これはフィーリングですが,過去数十年の変化(トレンド)をもとに,もう少し説得力のある展望をしたいなと思いました。私は今41歳でバリバリの働き盛りですが,キリのいい40歳時点の年収の学歴差が,過去からどう変わってきたか。

 厚労省の『賃金構造基本統計』に,標準労働者の所定内月収と年間賞与額が細かい1歳刻みで出ています。標準労働者とは,学卒後すぐに就職し,現在までずっと同じ会社で勤めている者です。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html

 年収は,月収の12倍に年間賞与額(ボーナス)を足して推し量りましょう。2016年の資料によると,大卒の40歳男性の所定内月収は42.99万円(a),年間賞与額は192.66万円(b)と出ています。よって年収は,12a+b=708.5万円となる次第です。

 私と同世代の大卒男性の平均年収ですが,結構稼いでいるのですねえ。言わずもがな,私などはこれに遠く及びません。

 この値が過去からどう変化してきたか。他の学歴群との差はどうか。1980(昭和55)年からの推移をラフなピンポイントで辿ってみました。


 上段は年収の見積もり実額(万円)で,下段は高卒を1.0とした場合の指数です。学歴差は,この指数で見て取ることができます。

 上段をみると,どの群も2000年までは年収が上がっていますが,2016年には下がっています。今世紀以降のお寒い状況が表れていますねえ。中卒は,478万円から350万円と,128万円も減っています。

 大卒が高卒の何倍かをみると(下段),1990年で1.24倍とボトムになり,その後は上昇と一途で,2016年には1.3倍となっています。中卒は高卒の6割ちょい,大卒の半分以下です。

 うーん,年収の学歴差はちょっとずつ広がってきているようです。企業が,労働者の採用・処遇・昇進を決める際,関便なシグナルとして学歴を使うのはよく知られていますが,昨今の人手不足の影響により,それが顕著になっているのでしょうか。

 あるいは,私が昨日の日経DUAL記事に書いたように,大学進学率の高まりにより,高卒と大卒の段差がますます大きくなっていくのか…。

 次に,企業規模の差をみてみましょう。年収を規定する条件として学歴が大きいのは分かっていますが,勤めている会社の規模,大企業か中小企業かも侮れません。大卒の40歳男性というように,学歴・年齢・性別を統制して,年収の企業規模差を出してみました。

 小企業は従業員10~99人,中企業は100~999人,大企業は1000人以上の企業を指します。


 同じ条件の男性でも,勤務先の企業規模によって年収は違いますね。どの群も今世紀になって年収が減っていますが,減り具合は小企業ほど大きくなっています。大企業は25万円ほどの減ですが,小企業は93万円のダウンです。

 平成不況,グローバル化・国際化の荒波を被っているのは,零細企業のようです。生産の下請け競争は今や世界規模になっていますが,その影響もあるでしょう。下段の指数で分かるように,同じ大卒の働き盛りの男性でも,年収の企業規模差は拡大の傾向にあります。

 実力主義の時代が到来しているという声も聞きますが,学歴や企業規模といった条件が収入を規定する度合いが増してきています。

 もう一点,ジェンダーの差も押さえておきましょう。女性にすれば,男性との差がどうなっているか,興味がおありでしょう。40歳女性の年収推移を,学歴別に出してみました。下段は,男性の年収(最初の表参照)を1.0とした場合どうなるかという,ジェンダー差の指標です。


 女性も男性と同じく,2000年から2016年にかけて年収が下がっています。大卒をみると,714万円から552万円と,162万円のダウンです。最初の表でみた男性の下落幅(761万円→709万円)よりもずっと大きくなっています。

 その結果,男性との年収格差も開いています。大卒でいうと,2000年では,男性=1.0とした場合の指数は0.94とかなり接近していたのですが,2016年は0.78とかなり下がってしまいました。年収の性差は,学歴が低い群ほど顕著なようです。育児や介護により,中年の女性がバリバリ働くのが難しくなっているのか。

 以上,年収の学歴差,企業規模差,ジェンダー差のトレンドを大雑把に見てきました。残念なことですが,今世紀以降になって,外的な属性による差が拡大していることが知られます。これが続けば,近代社会が否定したはずの(悪しき)属性主義が蘇ることにもなるでしょう。

 そもそも,外的な属性によって収入に傾斜がつくのは,企業の側が能力査定において無精をしているからです。面倒だから,学歴のような分かりやすいシグナルを使おうと。採用活動の「学歴フィルター」などはその典型。

 人手不足の時代の趨勢かもしれませんが,AIなどの活用により,人物査定がもっと精緻に行われるようになれば,状況は変わるかもしれません。

 ここでみたのは,会社に雇われている雇用労働者のデータです。上からの査定を受ける必要のない自営業では,学歴主義の度合いは相対的に小さいでしょう。

 下のグラフは,40代前半の男性の年収の学歴差を,正規職員と自営業で比べたものです。『就業構造基本調査』(2012年)の年収分布をもとに,階級値の仮定を設けて独自に計算しました。


 組織に雇われている正社員では明瞭な学歴差ですが,自営業ではそれが比較的緩くなっています。

 インターネットの普及により,個人が下請けを請け負う「クラウドワーク」が台頭しているといいます。クライアントにすれば仕事の出来栄えが全てで,当人の学歴など関係ありません。

 私が日経DUAL記事で,「雇われ労働の減少により,学歴など関係ない実力主義の時代になっている可能性もある」と書いたのは,こういう状況変化の兆しを見越してのことです。私自身,今はこういう道に足を踏み入れているのですが。

2017年9月20日水曜日

高齢者の幸福度・生活満足度

 楠木新さんの『定年後』(中公新書)を読んでいます。話題本になっているようですが,「人生100年の時代」が到来し,べらぼうに長い定年後の生き方を真剣に考える人が多くなっているからでしょう。
http://www.chuko.co.jp/shinsho/2017/04/102431.html

 29~31ページに,「東京と地方の定年後は異なる」という話があります。地方には,定年後も農作業や自治会の役員などいろいろな仕事(役割)があるが,都会ではそうではない。都会では,「組織を離れると社会とつながる機会がとても少ない」と(30ページ)。

 探せばデータはあるでしょうが,高齢者の幸福度や生活満足度は,都会より地方で高いかもしれませんね。しかるに私は,この箇所を読んで別の分析課題を思いつきました。就業・非就業によって,高齢者の幸福度や生活満足度がどう違うかです。

 この課題を検討できるデータとしては,ISSP調査や世界価値観調査がありますが,サンプル数が多い後者を使うことにしましょう。
http://www.worldvaluessurvey.org/WVSOnline.jsp

 私は,日本の60歳以上の高齢男性のサンプルを取り出し,就業者と非就業者に分け,幸福度と生活満足度を比べてみました。幸福度は4段階,生活満足度は10段階で尋ねられています。下の表は,回答の分布です(無回答・無効回答は除く)。

 就業者とは,フルタイム,パート,自営のいずれかの形態で働いている人で,その他を非就業者としました。


 就業者のサンプル数は165人,非就業者は226人です。日本の60歳以上の男性の就業率は,4割ほどとなっています。

 この2群で幸福度を比較すると,就業者のほうが高いようです。「とても幸福」という回答比率は,就業者が42.4%,非就業者が24.3%となっています。

 生活満足度は10段階で自己評定してもらってますが,8以上の高い満足度を示している人の割合は,就業者が53.7%,非就業者が40.7%で,こちらも働いている人のほうが高くなっています。

 わが国の高齢男性のデータですが,いかがでしょう。やっぱり,仕事(役割)があるかどうかは重要なんですね。人間は社会的存在であることからして当然ですが,社会参画の度合いの高い男性にあっては,とりわけ該当するようです。

 ただ女性は違っていて,同じ60歳以上のサンプルでみると,「とても幸福だ」の回答比率は就業者が36.6%,非就業者が37.0%でほぼ同じ。8以上の生活満足度を答えた人の割合も,50.0%と52.5%で大差なしです。

 女性は,仕事の他にも役割を見いだせるからでしょうね(趣味や地域活動など)。しかし,仕事一辺倒できた男性はさにあらず。会社を定年になったら,直ちに居場所や役割を喪失してしまいます。

 男性は,どの国でも同じだろうと思われるでしょうが,そうではないようです。高齢男性の幸福度や生活満足度が,就業者と非就業者でここまで違うのは,主要国で見る限り,日本だけです。

 サンプル数の多いアメリカを引き合いにして,就業者と非就業者の距離を「見える化」してみましょう。横軸に「とても幸福だ」と答えた人の比率,縦軸にレベル8以上の生活満足度を答えた人の割合をとった座標上に,日米の就業者と非就業者のドットを置き,線で結んでみました。青色は男性,オレンジ色は女性です。


 色付きは就業者,色なしは非就業者のドットです。ご覧のように,日本の高齢男性は,両者の距離が大きくなっています。幸福度や生活満足度が,仕事の有無に規定される度合いが高い,ということです。

 前に書いたように,現役時に仕事一辺倒の人が多いので,仕事以外に社会との接点(役割)を見いだせないのでしょう。現役時から,多様な顔を持っておきたいものです。

 少子高齢化に伴い,人手不足が深刻化することから,高齢者も「支えられる」から「支える」存在への変身が求められるようになります。四角いオフィスではなく,自分が住んでいる地域社会においてです。

 自治会の役員はむろん,最近は学校も教員不足が進んでおり,長年培った高度な知識やスキルを拝借したいという依頼も舞い込んでくるかもしれません。

 ただ高齢男性が地域活動に参画する場合,よく聞かれるのが「態度がデカイ」ということです。千葉県は,退職した元校長の人材を活用し,新人教員の指導に当たらせているそうすが,私がこの取組をツイッターで拡散したところ,「コチコチ頭の老人が,自分たちの古いやり方を押し付けることにならないといいけど」という懸念が多く寄せられました。

 「下は上の言うことを聞くもの」という,年齢規範の強い日本ならではの病理と思えますが,こういうことも,高齢男性の役割の幅を広げるのを阻んでいます。

 これから先,高齢者の就業率も自ずと上がっていきますので,今回のデータを取り立てて問題視する必要はないかもしれませんが,社会との接点(役割)が仕事だけというのは寂しい。日本の男性において,それが最も顕著であることが示唆されます。

 最後になりますが,高齢者の自殺率が高いのは,病苦や年金等の不足による生活苦のためではありません。社会から切り離された「孤独」によるものです。デュルケムのいう「自己本位的自殺」に通じるもの。『自殺論』に書いてある通り,「人は集団に属さずして,自分自身を目的にしては生きられない」のです。

2017年9月15日金曜日

夫の家事・育児分担率の変化(2011~16年)

 本日,2016年の『社会生活基本調査』の生活時間統計が公表されました。1日あたりの各種行動の平均時間が分かるデータです。
http://www.stat.go.jp/data/shakai/2016/kekka.htm

 このデータが公表されたら,真っ先にやろうと思っていた作業があります。共働き夫婦の夫の家事・育児分担率がどう変わったかです。このデータは何度も出してきましたが,ここ数年の変化をみてみましょう。

 『社会生活基本調査』は5年間隔ですので,2011年のデータとの比較を行います。この年以降,女性の社会進出の促進と並行して,男性の家庭進出(家事・育児参画)を促す取り組みもなされてきました。この問題に対し,最も熱心に情報を発信している『日経DUAL』が創刊されたのは,2013年のことです。さて,成果が見られるかどうか。
http://dual.nikkei.co.jp/

 観察対象は,6歳未満の乳幼児がいる共働き夫婦です。手のかかる幼子がいる夫婦ですが,夫婦の家事・育児時間の総計のうち,夫がしている分は何%を占めるか。これが,家事・育児分担率の概念です。

 では,原資料から採取したデータをご覧いただきましょう。各曜日の1日あたりの平均時間です。


 平日と土日をひっくるめた週全体の数値をみると,夫の家事・育児の平均時間(1日あたり)は,2011年が54分,2016年が67分です。13分増えています。妻のほうは,329分から327分へと微減です。

 その結果,夫の分担率は14.1%から17.0%にちょっと上がっています。家事・育児の8割以上を妻がやっている状況は変わりませんが,よい方向に向かってはいるようです。曜日ごとにみると,土曜日の増加幅が大きくなっています(21.0%→25.1%)。

 これは全国のデータですが,続いて,47都道府県別のデータもみてみましょう。結論を先取りすると,この5年間の変化の様相は県によって多様です。全国トレンドより増加傾向が顕著な県もあれば,悲しいかな,夫の分担率が下がってしまっている県もあります。

 週全体でみた1日あたりの平均時間をもとに,同じ指標を都道府県別に計算してみました。計算式は,夫/(夫+妻)です。全国値は上表にあるように,2011年が14.1%,2016年が17.0%ですが,県ごとにみると大きな地域差があります。


 黄色マークは最高値,青色マークは最低値です。2016年でみると,東京の25.2%から福岡の9.6%までのレインヂがあります。東京の夫の分担率は4分の1ですが,福岡は10分の1にも満たないと。

 この5年間の変化をみると,東京は16.7%から25.2%と,かなりアップしていますね。全国値でみた伸び幅を上回っています。逆に陥落が大きいのは,2011年にトップであった島根です。22.4%から13.2%に落ちています。

 はて,この分岐は何によるのか。夫の仕事時間の変化でしょうか。同じ属性の男性(6歳未満の子がいる共働き夫婦の夫)の平日1日あたりの平均仕事時間をみると,東京は2011年の573分から,2016年の529分へとかなり減っています。逆に島根は,488分から534分に増えています。なるほど,合点がいきますね。

 ただこれは両端で,仕事時間の増加倍率と,家事・育児分担率のそれ(上表の右端)との間には,有意な相関関係はありません。「男性が家事をしない要因は,仕事時間だけではない」と言いますが,他にもファクターはあるでしょう。

 良好なアチーブメント?を出している県は赤字にしてみました。2016年の数値が全国値(17.0%)を上回っており,かつ,この5年間の増加倍率が1.5を超える県です。この基準でノミネートされるのは,東京,兵庫,奈良,山口,宮崎の5都県なり。

 これらの都県では,この5年間にどういうことをやったのか。5都県の男女共同参画関係のHPに当たって,政策の一覧表を作るのもいいですね。その作業は,他日を期すことにいたしましょう。

 ひとまず,客観的な数値の提示まで。上記の47都道府県の変化表をみて,「わが県の変化は,こういうことではないか」という意見を頂戴できれば幸いです。ここで紹介させていただこうと思います。

2017年9月13日水曜日

歯根端切除手術を受ける

 一昨日から昨日にかけて,2泊の泊りがけで出かけてきました。歯根端切除の手術を受けるためです。

 手術は12日でしたが,当日の朝に満員電車に乗るのは嫌だったので,前日の11日に上京しました。1日都内を自由に動き回れる時間ができるとなると,私の場合,行く場所は一つ。総務省統計局の統計図書館です。


 新宿駅からバスで15分ほど。総務省の1階の統計図書館には,官庁統計がバックナンバーを含めて全て所蔵されています。私にとっての聖地です。
http://www.stat.go.jp/library/

 目当ての資料は,厚労省『賃金構造基本統計』のバックナンバー。この資料は,2001年以降はネットで見れるのですが,それより前のものは冊子でないと見れません。目的のデータが載っている冊子を棚から抜き出し,該当ページのコピーを取りました。


 今では,官庁統計はネットで見れますが,だいぶ前の資料となると,冊子に当たらざるを得ません。この統計図書館には,それが全て揃っているのです。書庫にある資料も,頼めばすぐに出してくれます。国会図書館のように,申し込み冊数に制限があり,長時間待たされることもありません。

 統計の調べものをするならココが一番。どんな用事も片付きます。私が首都圏を離れるのを躊躇うのは,ここに自由に通えなくなってしまうからです。

 お昼まで作業をした後,職員さんに交じって食堂でランチ。私のような,だらしない身なりの風来坊は浮きますなあ…。

 午後は,新宿の紀伊国屋本店に行きました。3階の教育,社会問題,教育フェアの3か所で,拙著『データで読む・教育の論点』が平積みになっているのを見て,うれしく思いました。2階の教員採用試験コーナーでは,『教職教養らくらくマスター』が売れ筋本として前面に平積みされていました。

 その後,中央線で立川に行き,ホテルに入りました。夕飯は,近くの中華料理屋で食べましたが,ちょっと酷かった。炒飯はベチャベチャ,餃子は「レンチンですか?」と言いたくなるような代物。まあ,こういうハズレもある。

 翌日の午前10時に,立川病院に入院しました。南武線の西国立駅からすぐです。きれいな新棟が建っています。病室は,一泊一万円の個室にしました。相部屋だったら3000円ほどなのですが,滅多にない機会なんで奮発ってことで。


 体温と血圧を測って,点滴をつないでもらったら,手術開始まですることなし。ベッドを適当な角度に起こして,読書タイム。治験なら,これでおカネももらえるのですよね。私は年齢でアウトですけど。

 薄味の病院食の昼食を食べて,念入りに歯磨きをして,午後2時から手術開始。私が受けたのは,歯根端切除手術です。

 前居の多摩市のかかりつけ歯科で,「上前歯の歯根に大きな膿の袋ができている,手術して取り除いたほうがいい」と進言され,立川病院の歯科口腔外科を紹介されました。年間の手術数が250もあり,歯根端切除手術ならココという定評があるそうな。
http://www.tachikawa-hosp.gr.jp/shinryo/21/index.html

 歯茎を切開し,歯根にこびりついた膿をガリガリと取り除き,汚染された歯根の先端を切除。切除した先っぽに細菌が繁殖しないようスーパーボンドで封鎖して,歯肉を縫い付けておしまい。

 手術時間はおよそ2時間。痛みはあまりありませんでしたが,後頭部が圧迫されてキツかった。柔らかい枕でも敷けばよかった。

 術後は,上の唇がタラコのように腫れあがりました。固いものはNGなんで,夕食はお粥。テレビでお笑いをやってましたが,笑うと,歯肉を縫い付けた糸が張るので辛い。来週の抜糸までは,上の唇は極力動かすべからず。

 翌日の朝,手術した歯茎を消毒しレントゲンを撮って,退院の許可が出ました。会計窓口で請求された金額は,入院費込みで6万6170円。


 「さて生保を初めて使うか」と電話をしたら,歯根端切除手術は支払い対象外だそうです。払われるのは入院費だけ。うう,結構な出費になりました。

 以上,一昨日から昨日までのお出かけの記録です。今年になって,病院通いがとみに増えました。CTも3回撮りました(歯茎,脳,胸部)。41歳になりましたが,体にガタが出始めているのでしょうか。健康には留意したいものです。

 さて明日から,通常通り仕事です。月末に,新学習指導要領関係の単行本の締め切りがあります。2016年の『社会生活基本調査』や『学校教員統計』のデータも公表されます。夫の家事分担率の都道府県比較や,教員の離職率などをブログに載せますので,どうぞ,お楽しみに。

2017年9月9日土曜日

1つの中華料理店にいくらのおカネが落ちるか

 国民の消費性向を知れる便利な資料として,総務省の『家計調査年報』があります。細かい品目ごとに,1世帯あたりの年間支出額を知ることができます。
http://www.stat.go.jp/data/kakei/npsf.htm

 この資料の目玉は,47都道府県の県庁所在地別のデータも載っていることです。「納豆の首位は水戸市」「ギョーザは宇都宮市」といったフレーズが新聞によく踊りますよね。商売を始めようという人が開業の地を考える際の参考にもなるでしょう。

 しかるに,支出額が多い(消費性向が強い)ことだけをもって,開業の地を決めるのは危険です。当然そこは競合店も多く,激戦であることでしょう。商売敵がどれほどいるか,またお客さんが落としてくれるおカネの絶対額も考慮したいもの。

 私は,メジャーな外食産業の中華料理店を例に,これらの条件を勘案した参考指標を計算してみました。タイトルに記した通り,「1つの中華料理店にいくらのお金が落ちるか」です。

 2014年の総務省『経済センサス』の産業小分類統計によると,同年7月時点の全国の中華料理店は5万5095店です(a)。個人営業店のほか,チェーン店なども含みます。

 『家計調査年報』によると,2014年の1年間における,1世帯あたりの中華そば・中華食(外食)の年間支出額は1万481円(b)。単身世帯もひっくるめた,総世帯でみた額です。『住民基本台帳』に掲載されている,同年1月時点の世帯数は5595万2365世帯(c)。

 よって2014年の1年間に,全国の中華料理店に流れたおカネの総額は5864億3674万円と見積もられます(b×c)。これを全国の中華料理店数(a)で除すと,1店舗あたりの額は1064万円となります。

 店舗の維持費,原材料費,従業員の給料等の諸経費が半分かかるとしたら,アガリは500万ちょっとくらいでしょうか。まあ全体の分布をみれば,年に500万円も儲けているラーメン屋さんは,そう多くないでしょう。一部の超有名店(チェーン)によって釣り上げられた額と考えられます。

 それはひとまず置いて,この値を47都道府県の県庁所在地別に計算してみました。計算に使った3つの値(a~c)と,算出された値の一覧表を以下に掲げます。上記と同様,2014年のデータによる試算結果です。


 最高は大津市の2190万円,最低は宮崎市の554万円です。大津市は店舗が少なく,近郊都市で市場もそこそこ大きいので,1店当たりの額が多くなっています。大津市民が中華料理の外食に費やしたおカネの全てが,市内の63店舗に流れたとは限りませんが。

 マーケットが最大の東京都区部(23区)は,店舗数が7176店とケタ違いに多いので,1店あたりの配分額は827万円と少ないですね。

 競合店の数,落としてくれるおカネの総額を勘案した,1店舗あたりのベネフィットの試算値です。お客さんの地域移動を度外視していますが,流入と流出がトントンになる(相殺する)という仮定を置くならば,全く的外れということにはなりますまい。

 今回は中華料理店を例にしましたが,ハンバーガー店,すし店などについても,同じ値を出すことが可能です。『経済センサス』の産業小分類統計に店舗数は出てますし,1世帯あたりの年間支出額は『家計調査年報』に出ています。興味ある方は,どうぞ計算してみてください。私が上表のデータを作成するのにかかった時間は,およそ30分です。

 ところで,青森市の1店舗あたりの額は768万円とあまり多くないですね。しかるに最近,この北の地にとても魅力的な中華料理店があるのを知りました。王味(わんみ)というお店です。
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/2010/04/post_1488.html

 とくに,ニンニクたっぷりの餃子が絶品であるとのこと。青森はニンニクの産出量がダントツでトップですが,そういう地の利が出ていますね。ニンニク大好きの私にとっては,たまりません。写真を見るだけで,唾液反応が出ます。

 秋の旅行で,この店に行ってみようかなと考えています。青森まで開通した新幹線にも乗ってみたいですし。晩秋の楽しみができました。

2017年9月4日月曜日

やっぱり教員の勤務時間は長い

 教員の過重労働が世に知れ渡るようになってきました。

 最近出た,妹尾昌俊さんの『先生が忙しすぎるをあきらめない』(教育開発研究所)の第1章では,教員の勤務時間が異常に長いことが豊富なデータで示されています。
http://www.kyouiku-kaihatu.co.jp/class/cat/desc.html?bookid=000489

 私も,教員の長時間労働についてはデータを作ってきましたが,初めてみるデータがいろいろ提示されており,勉強になりました。とくに興味を持ったのは,小・中学校の週間勤務時間分布を,他の産業と比較している表です(25ページ)。

 これによると,教員の勤務時間は,キツイといわれる運輸業・宿泊業・飲食業よりもずっと長し。「大変なのは教員だけではない」という声を聞きますが,他の職業と比べてみても,教員の世界は異常なんだなと感じました。

 私は,この職業比較のデータをもっと精緻化させてみたいと考えました。妹尾氏は,『労働力調査』のラフな産業分類のデータを使っていますが,『就業構造基本調査』に,もっと細かい職業中分類の就業時間の統計が出ています。

 このデータから描ける,全職業の布置図の中に,小・中学校教員のドットを置いてみようと思います。

 まずは,小・中学校教員の勤務時間分布を代表値に集約することから始めましょう。下表は,2016年度の文科省『教員勤務実態調査』(速報)による,学校内の週間勤務時間の分布です。原資料では,教諭と管理職(副校長・教頭)に分けられています。
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/29/04/1385174.htm


 5時間刻みの階級に該当する教員の数が,%値で示されています。最頻階級(Mode)は,小教諭・中管理職が55~59時間,中教諭・小管理職が60~64時間,となっています。現場の感覚からすれば「そんなもんだろう」でしょうが,法定の週間労働時間(40時間)から大きく隔たっています。労基法などどこ吹く風です。

 週60時間以上働いている教員の割合は,小教諭が33.5%,中教諭が57.6%,小管理職が62.8%,中管理職が57.8%,です。1日12時間以上勤務している教員が多し。

 階級値(階級の真ん中の値)を用いて,週間の勤務時間の平均値(average)を出すと,小教諭が57.3時間,中教諭が63.2時間,小管理職が63.4時間,中管理職が63.5時間,となります。平均でコレとは酷い。

 これは,学校内の勤務時間によるものです。自宅での授業準備や持ち帰り残業等も含めれば,事態はもっと悲惨なものになります。

 小・中学校教員の週間勤務時間分布を,2つの代表値(週間平均勤務時間,週60時間以上勤務者比率)で表してみました。ここでの目標は,この2指標のマトリクス上に,教員を含めた全職業のドットを配置したグラフを作ることです。

 他の職業についても,同じ値を計算しましょう。2012年の『就業構造基本調査』に,週間の勤務時間の分布を職業別に集計した表があります(下記サイトの表34)。これをもとに,上記の2つの代表値を職業別に明らかにしました。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&tclassID=000001048178&cycleCode=0&requestSender=search

 下表は,算出されたデータの一覧表です。資料的意味合いもこめて,省略はしないで全部掲げましょう。週間平均勤務時間が50時間以上,週60時間以上比率が30%以上の数値は赤字しました。キツイ職業の目安です。


 教員の勤務時間は,他の職業に比して長くなっています。長時間労働がいわれる医師,飲食物調理,自動車運転業をも凌駕しています。

 グラフにすると,教員が他を抜きん出ている様が分かります。横軸に週間平均勤務時間,縦軸に週60時間以上勤務率をとった座標上に,教員を含む70の職業のドットを配置すると,下図のようになります。


 教員は,全職業の標準(点線)からはるかに隔たった,右上のゾーンのあります。教員のデータは,学校内の勤務時間に基づきますが,自宅での仕事時間も加味したら,もっと右上にぶっ飛ぶことでしょう。

 タイムカードや残業代という概念が存在しない。公立学校の教員は,月給の4%の調整手当で「使いたい放題」。学校では,一般社会では考えられないことがまかり通っています。かつてデューイは,学校を「陸の孤島」と形容しましたが,労働者の管理についてもそれは当てはまるようです。

 先月末に中教審が出した緊急提言によると,ようやく,この異常な環境が是正される見通しが立ってきました(タイムカード導入!)。
http://www.yomiuri.co.jp/national/20170829-OYT1T50068.html

 タイムカードとは,時間を切り売りして給料を得る労働者の世界では欠かせないアイテムですが,教員の世界ではそれがずっとなかった。教員はカネ勘定で働く労働者とは異なる,「教師=聖職者」というような,昔ながらの教師像が残存しているのでしょう。

 働き方改革の徹底と同時に,こうした社会の眼差しを正すことも必要です。時代と共に,教師像は「聖職者→労働者→専門職」というふうに移行するといいますが,日本は未だに,最初のステージにとどまっています。

 個々の教員は,「やりがい搾取」(本田由紀教授)という罠にはまっていることにも要注意。「子どものためなら」と,現況の異常事態を受け入れてはなりません。ブラック労働を厭わぬ精神を,子どもに植え付けることにもなります。

 教員は,社会(子ども,保護者,教育委員会…)からの眼差しを意識して演技する「役者」のような存在です。制度レベルでの労働条件改善は重要ですが,根本的には,教師像を問い直す作業も必要になるでしょう。

 時代比較や国際比較で,今の日本社会で,常識と信じて疑われない教師像を相対視する。亡き恩師・陣内靖彦先生の著書『日本の教員社会』(東洋館出版,1988年)は,歴史社会学の視点からそれをやっている名著です。

2017年9月2日土曜日

同一条件の夫婦の家事・育児分担率

 夫婦の家事・育児分担率については,何度もデータを出してきました。共働き夫婦でみても,夫の家事・育児分担率はきわめて低い。一貫したファインディングは,コレです。

 しかるに共働きといっても,夫と妻では働いている時間が違うだろう,雇用(勤務)形態が違うだろう,という疑問が度々寄せられました。

 この疑問に答えられず歯がゆい思いでいたのですが,『社会生活基本調査』(2011年)の公表統計を丹念に見たら,夫婦の働き方を揃えることができるデータが出ているではありませんか。下記サイトの表20~22です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001040666&cycode=0

 これらを使うことで,同じくらい働いている夫婦,双方とも正社員(フルタイム就業)の夫婦に限定して,家事・育児分担率を計算することができます。はて,このように就業の条件を揃えた場合,夫婦の家事・育児分担率はどうなるか。ちょっとはマシな数値が出てくるでしょうか。

 1)就業時間,2)雇用形態,3)勤務形態,の3つを統制して,夫の家事・育児分担率を出してみましょう。夫婦の平均時間の合算に占める,夫の割合(%)です。就学前の乳幼児がいる夫婦に注目します。

 下の表は,平日・土曜・日曜の平均時間から算出した,夫の家事・育児分担率の一覧表です。


 双方とも週35時間以上働いている夫婦の平日でみると,夫が43分,妻が284分。就業時間を揃えても,違うものですねえ。夫の分担率は,43/(43+284)=13.1%となります。およそ8分の1です。

 まあ,「夫有業+妻無業(主婦)」の伝統的夫婦の5.2%に比したら高いですが,大きな差とはいえません。雇用形態や勤務形態を統制しても,正社員(フルタイム)夫婦の数値は,伝統的夫婦のそれと大差なしです。

 むろん,条件をもっと統制する余地はあるでしょうが,基本的な就業条件を揃えても,夫の家事・育児分担率は低い,という事実は知っておくべきでしょう。

 なぜ夫は家事(育児)をしないか。仕事時間と当人の意識のクロスから導き出した,「家事をしない夫の4類型」を,先日公表の日経デュアル記事で提示しました。仕事時間を短くすれば,夫は家事をするとは限らない。こういう問題提起です。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=11011

 今月の半ばに,2016年の『社会生活基本調査』の生活時間統計が公表されます。上記の同じデータを作ったら,どういう数値になっているでしょうか。事態の改善が見られるでしょうか。ここ数年の「ワーク・ライフ・バランス」施策の評価にもなります。データの公表を,期して待つことにいたしましょう。

2017年8月31日木曜日

2017年8月の教員不祥事報道

 台風の影響で,今日は悪天候でした。気温も上がらず,10月中旬並みの肌寒さでしたね。今月は冷房をずっと「つけっぱ」にしてましたが,1か月ぶりに冷房を切りました。

 さて,今月私がネット上でキャッチした教員不祥事報道は32件です。赤字は注目事案。わいせつの処分歴を隠して採用され,また同じ悪さをした臨時講師ですが,こういう人はたくさんいるでしょう。これを受け,過去の処分歴を照会できるデータベースを作成するとのことです。

 また今月は,盗みといった財産犯が多い印象です。教員は安定していますが,後先の給料もきっかり予測できちゃいますので,多額の借金を抱えたりすると「もう返せない」と絶望してしまいます。

 辛いのは,先行きが不透明なことではなく,先行きが透明であること(分かり切っていること)なのです。公務員の皆さんが多かれ少なかれ抱えている,心的葛藤の源泉だと思います。

 暦の上では夏も終わり,明日から9月です。9月のカレンダーには,私にしては珍しく,予定が多く書き込まれています。中旬には大きな病院に入院し,歯茎切開の手術を受けます。月末に,新学習指導要領関係の単行本の締め切りもあり。

 2016年の『社会生活基本調査』(生活時間統計),『学校教員統計』のデータも公表されます。楽しいデータ分析も待っています。

 よい月になりますように。背景を,夕暮れの海岸に変えます。9月は中旬に,もう一度替える予定です。

<2017年8月の教員不祥事報道>
特殊詐欺に関与の石川の中学教諭、少女にわいせつ容疑で再逮捕
 (8/1,産経,石川,中,男,27)
盛岡の中学校教諭が酒気帯び運転/岩手(8/1,岩手放送,岩手,中,男)
休暇で沖縄へ…ビーチで女児の尻撮影、長崎の小学校教諭逮捕
 (8/2,産経,長崎,小,男,47)
わいせつ行為で教諭ら懲戒免職(8/2,NHK,千葉,小男27,中男27)
教え子と性的な行為 本島南部の教諭を逮捕
 (8/3,琉球放送,沖縄,中,女,30代)
わいせつ行為教諭を懲戒免職処分(8/5,テレビ和歌山,和歌山,中,男)
中学生に裸の画像送らせる 逮捕の小学教諭に停職処分
 (8/8,朝日,愛知,小,男,37)
わいせつの臨時講師を免職 他県で処分、改名して採用
 (8/8,サンスポ,愛知,小,男,30)
勤務する小学校の更衣室にカメラ設置容疑、教諭を逮捕
 (8/9,朝日,兵庫,小,男,30)
女子大学生の下着盗撮の疑い、養護学校教諭を逮捕 
 (8/9,日刊スポーツ,島根,特,男,54)
懲戒処分:ソフト違法複製、中学教諭を停職
 (8/10,毎日,北海道,中,男,52)
危険ドラッグを密輸、勤務時間外に使用 所持容疑で逮捕の小学校教諭
 (8/10,埼玉新聞,埼玉,小,男,47)
・窃盗:高校教諭を懲戒免職処分に 県教委(8/10,毎日,静岡,高,男,33)
酒気帯び運転の教員に停職処分 滋賀県教委
 (8/11,京都新聞,滋賀,小,男,60)
寝屋川市の教諭逮捕、女子高生スカート内盗撮の疑い 
 (8/13,日刊スポーツ,大阪,男,32)
滋賀県立高の教諭を書類送検=酒気帯び運転で当て逃げ
 (8/16,時事通信,滋賀,高,男,31)
<覚醒剤>埼玉の中学教諭を所持容疑で逮捕(8/16,毎日,埼玉,中,男,27)
高校教諭、覚醒剤使用疑い 広島県警が逮捕
 (8/19,共同通信,広島,高,男,45)
「早く子供たちの顔覚えたかった」新任講師、小学生の個人情報入りかばん盗まれる
 (8/19,産経,大阪,小,女)
息子の市採用で贈賄 校長逮捕(8/21,朝日,山梨,中,男,57)
静岡の支援学校教諭逮捕 ゲームソフト万引疑い
 (8/22,産経,静岡,特,男,32)
大麻所持の疑いで中学校教諭を逮捕 神奈川・三浦
 (8/22,朝日,神奈川,中,男,28)
同僚と飲食、酒気帯び事故 62歳群馬県立高教諭を免職
 (8/23,産経,群馬,高,男,62)
盗撮容疑で30代の中学教諭逮捕 東京・板橋区 
 (8/23,日刊スポーツ,東京,中,男,30代)
中学の女生徒にキス、20代の男性教諭を懲戒免職 
 (8/23,日刊スポーツ,京都,中,男,20代)
中1に教諭「ベランダから飛び降りろ」と発言
 (8/23,読売,福島,中,男,50代)
女性教諭が小1児童に暴言「脳みそ使えよ」
 (8/24,沖縄タイムス,沖縄,小,女,20代)
自転車無断使用、女性教諭を停職(8/24,産経,東京,小,女,24)
津市の小学校教諭、万引き容疑で逮捕
 (8/25,CBCテレビ,三重,小,男,30)
教頭がプリぺイドカード盗み現金着服、1か月の停職処分
 (8/25,TBS,神奈川,小,男,49)
「ふがいないプレーに厳しい指導」生徒に平手打ちした男性教諭懲戒処分
 (8/25,産経,兵庫,中,男,42)
52歳教諭を懲戒免職、同僚の財布盗んだ疑い
 (8/29,TBS,神奈川,中,男,52)
高校教諭が女子高生盗撮 福島、懲戒処分へ (8/30,産経,福島,高,男,30代)

2017年8月29日火曜日

47都道府県・20政令市の部活時間

 今年度の『全国学力・学習状況調査』の結果が公表されました。
http://www.nier.go.jp/17chousakekkahoukoku/index.html

 今年度は対象の生徒(中3)に部活時間を尋ねており,教科の平均正答率との相関が分析されています。それによると,平日1日1時間台の「ほどほど」の群で,学力が最も高いとのこと。
http://www.asahi.com/articles/ASK8W5R69K8WUTIL017.html

 長時間部活に明け暮れると,疲労から勉強も手につかなくなるでしょう。過度の部活は,勉学の支障になるというのは頷けます。逆に,部活時間が30~59分,30分未満,ゼロとなるにつれて教科の平均点が下がる傾向もあるようですが,これは,家庭環境のような他のファクターがありそうです。

 部活時間は,中学生の質問紙調査の問21で尋ねられています。6つの選択肢から1つを選んでもらう形式です。全国の公立中学校3年生の回答分布は,以下のようになっています。無回答・無効回答と「しない」の帰宅部生を除く,86万6678人の回答分布です。


 平日1日2時間台の生徒が半分を占めています。放課後の3時半から6時くらいまでというケースでしょう。私の頃も,これがマジョリティであったと記憶しています。3時間以上というのは,朝練もやっている生徒さんでしょう。

 学力が最も高い「適度」な1時間台の生徒は,全体の32.2%となっています。およそ3人に1人ですが,この層がもっと増えてほしい。

 フツーの生徒さんの部活時間を知るため,上表の分布を一つの代表値に集約してみましょう。よく用いられるのは平均値ですが,ここでは中央値(Median)を出すことにします。全体を高い順に並べた時,ちょうど真ん中にくる生徒の値です。

 右端の累積相対度数から,中央値は2時間台の階級に含まれることが分かります。累積比50%の値は,120~180分の間のどこに位置するか,按分比例の考えを使って推し量ってみます。以下の2ステップです。

 ① (50.0-36.9)/(86.8-36.9)=0.262
 ② 120分+(60分×0.262)=135.7分

 公立中学校3年生の,平日1日あたりの部活時間の中央値は135.7分,2時間16分と出ました。こんなものでしょうか。

 しかるに,地域別にみると値にはバリエーションがあります。同じやり方で,47都道府県・20政令市の中央値を計算してみました。ついでに,過重な部活をしている生徒(1日3時間以上)も出してみました。全国値は上表にある通り13.2%ですが,こちらも大きな地域差があります。


 平日の部活時間の中央値は,都道府県別にみると,75.6分から151.2分までのレインヂが見受けられます。岐阜は極端に部活時間が短いのですが,何か事情でもあるのでしょうか。*情報提供は下記ツイート。
https://twitter.com/JUKUHOSHINO/status/902416421094752260

 最高は神奈川で,岐阜の2倍です。中央値が151分(2時間半)とはキツイ。3時間以上の過重な活動をしている生徒の率も24.7%と高くなっています。4人に1人です。

 150分以上の中央値と,20%以上の過重活動(3時間以上)比率は赤字にしています。ブラック部活の危険信号と読んでもいいでしょう。都道府県では秋田と神奈川,政令市では横浜市,川崎市,名古屋市,北九州市がヤバそう。

 過度な部活が社会問題化していることを受けて,『全国学力・学習状況調査』でも,生徒の部活時間が調査されることになりました。ここでお見せしたデータは,初回の「初期値」です。この値の変化によって,部活改革や教員の多忙化政策の効果が可視化されることになります。

 しかるに,国内の地域比較なんて「どんぐりの背比べ」で,異国の人の目からすれば,どの地域の状況も異常に映ることでしょう。随所でいわれていますが,北欧では「学校の部活」という概念がありません。この手の活動は,地域のスポーツクラブ等に委ねられています。

 国際比較をしてみると,スウェーデンやフィンランドでは,教員の課外活動指導時間はほぼゼロです。
http://www.newsweekjapan.jp/stories/business/2015/08/post-3842.php

 これから先,退職高齢者などの「地域密着人口」が増えていきます。その中には,高度なスキルを持った人材もいるでしょう。こうした地域資源を活用し,放課後の部活は,地域社会に委ねていくことも考えられてよいでしょう。こういうことも,「社会全体で子どもを育てる」という理念の具体的な表れの一つといえます。

2017年8月25日金曜日

書店・文房具店の立地密度

 ネット書店の台頭により,街の本屋さんが苦境に立たされています。昨日の朝日新聞によると,全国の自治体の2割が,書店ゼロなのだそうです。
http://www.asahi.com/articles/ASK8R5FDVK8RUCLV00Q.html

 書店の減少は,官庁統計からも知ることができます。総務省『経済センサス』の事業所統計(産業小分類)によると,書店・文房具小売事業所の数は,1991年では7万6915店でしたが,2014年では3万7817店まで半減しています。
http://www.stat.go.jp/data/e-census/2014/index.htm

 書店へのアクセスがどれほど不便になったかを分かりやすくするため,上記の店舗数を面積で除して立地密度を出してみましょう。自転車で動き回れる範囲の生活圏に,書店・文具店がいくつあるか。

 そうですねえ。5キロ四方の土地(25平方キロメートル)に,お店がいくつあるかを計算してみましょうか。総務省『日本統計年鑑』によると,全国の面積は37万7971㎢となっています。よって,25㎢あたりの店舗数は,以下のようになります。

 1991年 … ( 7万6915店 / 37万7971㎢ )× 25 = 5.1店
 2014年 … ( 3万7917店 / 37万7971㎢ )× 25 = 2.5店

 私が中学生の頃は,自転車で動き回れる生活圏に5つの書店・文具店があったのですが,最近では2店に減ってしまっていると。

 この立地密度を都道府県別に出すと,以下のようになります。各県の店舗数と立地密度(25㎢あたりの店舗数)の一覧表です。


 どの県も店舗数は減っており,生活圏での店数も減少をみています。私が住んでいる神奈川県では,1991年では5キロ四方の土地に38店ありましたが,2014年では18店です。

 横須賀市に限ったら,値はうんと低くなるだろうなあ。肌感覚として,この辺りに書店はないですもの。横須賀中央や久里浜に中規模の書店はありますが,品揃えがイマイチです。こういうわけで,毎週木曜は上京し,大きな書店をぶらつくことにしています。

 しかし神奈川県はマシな部類で,地方では1~2店という県がザラです。5キロ四方の土地に,1~2しか書店・文具店がないと。2014年の北海道,岩手,秋田では1店もない計算です(アミ)。

 北海道は広いですからねえ。北海道の面積は8万3424㎢で,2014年の店舗数は1661店ですから,前者を後者で除して,50.2平方キロメートルの土地に1つの書店・文具店があることになります。平方根をとって,7.1キロメートル四方の土地に1つの店舗があると。

 7.1キロを,子どもが自転車でこぐのはキツイ。子どもの生活圏に,書店が1つもないことの数値的な表現です。

 この数値は,書店へのアクセシビリティの指標になるでしょう。値が低い順,つまりアクセスがよい順に47都道府県を並べると,以下の表のようになります。


 都市部ほどアクセスがいいのは当然。東京では,700メートル四方の土地に1店あります。東京では700メートル走れば書店にいけますが,北海道ではその10倍の7キロを自転車こがないといけない。

 ラフな試算ですが,知の泉へのアクセス可能性には,スゴイ地域差があることにも注意しないといけませんね。それを埋める策として,公共図書館の整備が大きな位置を占めます。

 『経済センサス』によると,書店・文具店は減っていますが,図書館の数は増えています。1991年では2273だったのが,2014年では3311になっています。およそ1.5倍の増です。住民の知のセンターとしての,図書館の役割の重要性が認識されているのでしょう。

 ただ数の上では,商業書店のほうがはるかに多いので,知の源泉に直に触れる機会が著しく減じていることには変わりありません。

 リアルの書店は,思わぬ本との出会いを提供してくれる場です。目的の本を前もって決めて購入するネット書店では,決して味わえないこと。この貴重な空間を一種の「公共財」とみなし,保護する策も必要でしょう。フランスでは,街の書店を保護するために,送料無料でのネット販売を禁じる「反アマゾン法」が施行されていると聞きます。

 北海道では,買い物難民を救済すべく,各地で採算度外視の公設スーパーが建てられているそうです。こういう視点が,知の源泉であるリアル書店の再起に適用されてもいいでしょう。

 国を挙げて,子どもの読書活動推進の取組がなされていますが,口先での啓発活動に仕向ける予算を,リアル書店の再起に充ててもよいでしょう。子どもが本を読もうという気になるのは,大人から「本を読め」と言われることによってではなく,本屋さんで「これは!」という本に偶然出会うことによってです。

2017年8月22日火曜日

10代の劣等感の国際比較

 更新の間が空いてしまいましたので,今日ツイッターで発信した一葉のグラフを,ブログにも載せておきましょう。

 10代の青少年のうち,「自分は役に立たないと強く感じる」という者の比率の国際比較です。当該の項目に,「そう思う」という最も強い肯定の回答をした者の割合です。

 資料は,内閣府『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』(2013年)なり。当該調査のローデータを加工して,%値を独自に出しました。
http://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/hikikomori/h27/pdf-index.html


 日本は性差が大きくなっています。男子は6.9%でスウェーデンの次に低いのですが,女子は17.5%で比較対象国の中で最も高くなっています。

 おそらくは,役割期待のジェンダー差の表れではないかなと推測します。低い期待に順応し,「どうせ私なんて…」と思っているのか,高い期待(家事+仕事!)に応えられず,劣等感を募らせているのか。

 韓国の男子がメチャ高なのは,地獄とも形容できる受験競争へのコミットを万人が強いられるからでしょう。勝者の枠は決まっていますので,そこから漏れた多数の者が劣等感を植え付けられると。それは,とりわけ男子で顕著と思われます。

 日本の女子はもしかすると,成績良好な子ほど劣等感が強かったりして。周囲の期待との葛藤の所産です(女子なのに…)。

 ちなみに男子はというと,前に私がやった分析によると,性役割観に反対する者のほうが劣等感が強いという結果が出ています。周囲から「軟弱,ヒモ」とか言われるのでしょうか。
http://tmaita77.blogspot.jp/2016/01/blog-post_20.html

 日本は性役割観が強い社会ですが,それは未来を担う青少年の自我に反映されてしまっています。しかし人口減少社会では,「男は仕事,女は家庭」という分業では家計が成り立ちませんし,社会の存続も脅かされます。

 上記のグラフを見て,偏狭な性役割観の打破の必要性を,改めて思い知らされます。男女に関係なく,家庭や職場といった領域において,各人のタレントを十二分に開花させるためにもです。

2017年8月15日火曜日

再分配政策の見直し

 自由主義・資本主義の社会では,人々が有している富の量には,著しい傾斜がつけられています。富める者もいれば,貧しい者もいる。

 当然のことですが,その度合いが過ぎると社会が不安定化するので,前者から後者への所得移転(再分配)が行われるのが常です。平たく言えば,富をたっぷり持っていて,生活に困っていない人が,生活に困っている人を助けると。

 しかるにわが国では,生活の困窮度に関係なく,下の世代が上の世代を助ける(支える)という構図が定着しています。制度上は,資産をどっぷり持っていて,高級ゴルフクラブに足繁く通う老人が社会保障給付の対象になり,非正規雇用でカツカツの若者は,彼らを支える側に回らないといけない。

 助ける側になるか助けられる側になるかは,年齢によって機械的に決まるわけです。年齢による役割規範が強い日本ならではのシステムだと思いますが,これはおかしいと思っている人は星の数ほどいるでしょう。

 一橋大学の小塩隆士教授は,そうした現行制度の問題を指摘し,目指すべき制度がどういうものかを,分かりやすい図で示してくださっています。下記内閣府レポートの22ページです。図を拝借させていただきましょう。
http://www.cao.go.jp/zei-cho/gijiroku/zeicho/2015/__icsFiles/afieldfile/2015/07/16/27zen14kai5.pdf


 現行制度は,生活の困窮レベルに関係なく,若い世代が年老いた世代を支える(助ける)と。しかしこれは「不公平でしかも非効率」なので,年齢に関係なく,生活に困っていない人が困っている人を助ける制度に変えるべきである。こういう提言です。

 多くの人が腹の底で考えていることを,見事に代弁してくださっていますねえ。この図を紹介したツイートが広く拡散しているのも頷けます。

 私はこういう4象限の図を見ると,それぞれの象限に該当する人の数がどれほどかを知りたくなります。上記の図に説得力を添える「+α」の作業として,それを推し量ってみましょう。

 2016年の厚労省『国民生活基礎調査』では,世帯の貯蓄額分布が,世帯主の年齢層別に明らかにされています。下記サイトの表156です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001184705

 私はこのデータを使って,上図の4象限に該当する世帯量を見積もってみました。生活に困っていない世帯は,貯蓄2000万以上の世帯としましょう。生活に困っている世帯は,貯蓄50万未満としましょうか。病気や事故などに見舞われた場合,即座に生活破綻に陥るリスクを抱えている世帯です。

 貯蓄だけでなく収入(所得)も考慮したいのですが,貯蓄と所得のクロスのデータは,年齢層別に得ることはできません。ここでは,ラフな見積もりとして,貯蓄のみに注目することにします。

 世帯主が60歳未満と60歳以上の世帯に分けて,上記の基準を適用して,生活に困っていない世帯と困っている世帯の数(全世帯数を1万とした場合の数)を出しました。下図は,4象限の世帯量を正方形の面積で表現したものです。


 高齢世帯というと,乏しい年金でギリギリの暮らしをしている世帯が多数というイメージですが,そうでない世帯もある。数の上では,貯蓄50万未満の世帯よりも,貯蓄2000万以上の世帯のほうが多くなっています。

 昨日,ツイッターでグラフを発信しましたが,高齢世帯の貯蓄格差は凄まじい。スッカラカンの世帯と,どっぷり貯め込んでいる世帯にはっきりと分化(segregate)しています。後者は,振り込め詐欺の電話1本で何百万もポンと出せる世帯です。

 60歳未満の現役層では,上の富裕世帯よりも下の生活困窮世帯のほうがずっと多くなっています。年齢という軸だけで,これらの世代が「支える側」の位置につかされるのはキツイ。

 生活に困っていない人が,困っている人を助ける。支援の矢印は「上から下」に向くべきであって,「左から右」と年齢軸で決められるべきではありますまい。

 むろん,右上のガッツリ貯め込んでいる高齢世帯も,個別事情は多様でしょう。しかるに,機械的な「年齢主義」を見直す(撤廃する)時期に来ているのは確かです。日本は超高齢化社会のステージに達しているのですから。

 振り込め詐欺は,困窮若年層(左下)による,富裕高齢層(右上)に対するテロ行為のようなもの。振り込め詐欺のプレーヤー研修では,「富裕老人から数百万円巻き上げてもどうってことはない。むしろ,いいことだ」と思わせることに重きを置くそうですが(鈴木大介『老人喰い』ちくま新書),洗脳される側にすれば,妙に説得力を持って聞こえてしまうのも事実でしょう。現行制度において搾取されている,本来受け取るべきの支援を受け取れていない人も多いのですから。

 上記の面積図によると,量的に多数なのはこの2者(困窮若年層,富裕老人層)です。今後ますます,この2つの層は増えていくのではないでしょうか。再分配政策を見直さないと,両者の溝の深まり,葛藤は避けられないでしょう。