2013年12月31日火曜日

2013年の総括

 大みそかの夜ですが,いかがお過ごしでしょうか。今年もあと数時間となりましたが,年を越す前に,今年やったことを総括しておこうと思います。

 まず本業?の大学非常勤講師ですが,今年度の担当授業は前期2コマ,後期5コマでした。前者は,「調査統計法2」(武蔵野大学,水5)と「リカレント教育論」(武蔵野学院大学,金2)です。後者は,「不平等の社会学」(武蔵大学,月2),「教育社会学」(杏林大学,火5・6),「調査統計法1」(武蔵野大学,水5),「ボランティア論」(武蔵野学院大学,金2)です。

 今年から練馬の武蔵大学にお邪魔しているのですが,この大学の情報処理センターはスゴイ。全部のパソコンにSPSSが入っており,国際成人力調査(PIAAC)のローデーターのDL作業に使わせていただきました。感謝!

 いくつかの大学に行っているのですが,ICT環境一つとっても,大学によってずいぶん違うな,という印象です。でも,武蔵の情報処理センター,ガラガラでしたな。勿体ない。学生さんはこういう施設(図書館も)をフルに活用し,学費の元をバッチリ取るべし。

 研究ほうは,7月に『教育の使命と実態-データからみた教育社会学試論-』という著書を武蔵野大学出版会より出しました。私にとって,3冊目の単著です。①子ども,②家庭,③学校,④教員,⑤青年,および⑥社会という切り口を設け,教育の「見えざる」諸相をデータで明らかにしています。割引販売もいたしておりますので,ご希望の方はご連絡ください。
http://www.ajup-net.com/bd/isbn978-4-903281-23-0.html

 あと一つの業である文筆は,これまで出してきた教員採用試験の参考書(実務教育出版社)の内容改訂を行いました。看板の『教職教養らくらくマスター』については,さらに有用な書籍になったと自負しております。教員志望の学生さんのお役に立てれば幸いです。

 なお今年より,同社の『受験ジャーナル』という雑誌にて,「データで見る世相」という連載原稿を執筆しております。見開き2ページのスペースにて,特定の主題についてデータを交えた記事を書かせていただいてます。下の写真は,初回のもの。こんな感じっす。


 さて,このブログについても,2013年のまとめをしておきましょう。毎日ツイッターにて,前日のブログPV数を記録しているのですが,そのデータを接合して,1月1日から昨日(12月30日)までのPV数の推移をグラフにしてみました。


 1日あたりだいたい1,500くらいで推移していますが,突出した日も含めた364日の平均値を出すと,1日あたり2,913です。来年は,この数値がもっと増えればよいな,と思っております。

 ちなみに,1日のPV数が10,000を越えたのは7回です。マックスは9月12日の30,051です。この日に公開した,「都道府県別の大学進学率」という記事をみてくださる方が多かったようです。「大学進学率」という言葉でググると,この記事が2番目に出てきます。
http://tmaita77.blogspot.jp/2013/09/blog-post_12.html

 早いもので,2010年12月17日に本ブログを開設してから3年が経過しました。執筆した記事は,合計で694です(本記事も含む)。はて,どの記事が多く見られているのか。下の表は,PV数の上位10位の記事を整理したものです。


  トップは,昨年の8月末に書いた,博士課程院生の進路の記事ですが,先ほどの「都道府県別の大学進学率」がその次に来ており,もう少しで抜く勢いです。こないだ,PIAACのデータを使って書いた「成人の知的好奇心の国際比較」もランクインしていますな。

 赤字は今年に書いた記事です。これまでストックした記事の上にあぐらをかくことなく,常に情報を更新していこうと思っております。来年の総括の記事では,上表の全ての記事が赤字になるよう,がんばります。

 長くなりましたので,この辺りで。来年も,本ブログをよろしくお願い申し上げます。では皆様,よいお年をお迎えください。

舞田 敏彦  拝

2013年12月30日月曜日

2013年12月の教員不祥事報道

 師走ですが,今月も,私がキャッチした限りで37件の教員不祥事報道がありました。わいせつや体罰といった「お決まり」のものに加えて,個人情報紛失のような事案も見受けられます。持ち帰り仕事をせざるを得ない,教員らの多忙に由来するともいえるでしょう。

 今月は明日が残っていますが,明日の記事ではこの1年間の総括をする予定なので,不祥事報道の整理は1日早めた次第です。

<2013年12月の教員不祥事報道>
・体罰教諭「首絞めたの思い出した」…学校再謝罪(12/1,読売,山形,中,男,40代)
・免停中の中学教諭、オートバイを酒気帯び運転(12/2,読売,福岡,中,男,50)
・電車で盗撮後男性客殴った小学校教頭、在宅起訴(12/3,兵庫,読売,小,男,54)
・教え子の着替え盗撮の疑い 小学教諭を書類送検(12/3,朝日,福岡,小,男,37)
・警告無視、元交際相手につきまとった教諭逮捕(12/5,読売,北海道,小,男,30)
・高3女子とわいせつな行為、中学校教諭を懲戒免 (12/5,読売,北海道,中,男,23)
・中学教諭を書類送検=少女にみだらな行為(12/7,時事通信,岐阜,中,男,44)
・都教委も仰天、AV女優だったエリート先生(12/8,イザ!,東京,小,女,27)
・<脅迫文>学校に送付 授業視察を中止 小学校教諭逮捕
 (12/11,毎日,愛知,小,男,22)
・児童28人分情報入りUSB、女性担任が紛失(12/11,読売,東京,小,女)
・生徒会長選挙で教師が落選運動 埼玉東部の市立中、謝罪
 (12/13,朝日,埼玉,中,男女1名)
・暴言の中学教諭を減給(12/17,愛知,毎日,中,男,26)
・同上(愛知,窃盗容疑:小男41,威力業務妨害容疑:中男27)
・音楽講師に美術担当指示 高知の中学校長(12/18,高知,共同通信,中,男,57)
・蛇口41個開き、校舎水浸しに 教諭を懲戒免職処分 (12/18,朝日,大阪,中,男,27)
・生徒の胸ぐらつかみ、首絞めた容疑 教諭を書類送検 (12/18,朝日,大阪,中,男,34)
・講師ら3人を減給 北九州市教委 体罰加えけが、保護者を中傷
 (12/18,福岡,体罰:中男25,体罰:中男41,保護者を中傷:小男58)
・信楽中女子バスケ顧問、体罰で懲戒処分(12/19,京都,京都新聞,中,男,47)
・児童情報のUSB盗難…教諭、自宅でかばんごと (12/19,読売,岡山,小,女,50代)
・無免許運転11年、小学校教諭処分 母親に打ち明け発覚(12/19,朝日,福島,小,40)
・同上(福島,体罰:中男48)
・指導中もみあい中3けが…講師を書類送検(12/19,大阪,読売,中,男,33)
・講師が他校生徒にわいせつ行為、懲戒免職(12/19,静岡,静岡新聞,特,男,30代)
・教諭5人を懲戒処分 教育長「県民裏切りおわび」 わいせつ、酒気帯び、体罰
 (12/20,千葉,千葉日報,わいせつ:高男36)
・椅子投げ女子生徒けが=男性教諭を懲戒処分―(12/21,佐賀,時事通信,中,男,50代)
・西脇工監督が体罰=高校駅伝強豪、部員たたく(12/22,兵庫,時事通信,高,男,50)
・小型カメラでスカート内盗撮、主任教諭を懲戒免(12/22,読売,東京,中,男,47)
・校長がUSB紛失…全校生徒ら1029人分情報(12/24,読売,大阪,高,男)
・無断欠勤続けた教諭を停職6カ月に(12/25,神奈川,神奈川新聞,小,男,33)
・同僚に睡眠薬の講師免職(12/25,大阪,時事通信,小,女,60)
・小学校の女性講師、休日にバイトでオイルマッサージ(12/25,大阪,産経,小,女,30)
・全裸にスニーカーとリュックサック 公然わいせつ容疑で中学校教諭逮捕
 (12/25,産経,神奈川,中,男,35)
・中学野球部男性顧問、生徒に体罰 さいたま市教委が減給処分
 (12/26,埼玉,埼玉新聞,中,男,36)
・児童の修学旅行費、部活動費…なんと校長が着服
 (12/26,読売,熊本,小,男30代,男50代)
・生徒平手打ち、店員に暴力…中高教諭3人減給
 (12/27,石川,読売,体罰:高男30代,中男50代,暴力:中50代)
・音楽講師が無免許で英語指導 静岡市の中学校
 (12/27,静岡,静岡新聞,無免許指導:中女20代,指示:中男50代)
・中間テストの回答、改ざんして加点…教諭を処分(12/28,岐阜,読売,中,男,29)

2013年12月29日日曜日

青年期の自殺の国際比較

 前回は,25~34歳の自殺量の国際比較をしたのですが,それより1段下の15~24歳の状況にも関心が持たれます。シューカツ失敗自殺に象徴されるように,わが国では,学校から社会への移行期の危機が強まっているといわれます(たとえば22歳)。

 今回は,15~24歳の自殺の国際比較をしてみようと思います。この層は,子どもと大人の狭間にあり,社会において果たす役割を見つけることを期待される青年層です。以下では,青年ということにいたしましょう。

 自殺量の指標ですが,まずは,自殺者がベース人口のどれほどに相当するかという,自殺率を出しましょう。それとあと一つ,死因全体に占める自殺の比重も計算してみます。最近の日本では,青年層の死因の半分が自殺などといわれますが,他国ではどうなのかに興味を持ちます。

 私は,WHOの“Mortality Database”にあたって,計算に必要な数値を79か国分収集しました。手始めに,わが国を含む主要6か国のデータをみていただきましょう。カッコ内は,統計の年次です。
http://apps.who.int/healthinfo/statistics/mortality/whodpms/


 ほう。死因中の自殺比,自殺率とも,日本がトップですね。その次は,お隣の韓国。この東アジアの2国と欧米4か国の間に断絶があります。

 前回みたように,25~34歳では韓国の自殺率が最も高いのですが,1段下の青年層では,わが国のほうが高いのだなあ。あと,死因に占める自殺の比重が高いのは,やっぱり日本の特徴なのですな。

 今みたのは6か国ですが,比較の対象を79か国に広げてみましょう。上記の2指標をもとに2次元のマトリクスを構成し,その上に79の社会を散りばめてみました。点線は,79か国の平均値を表します。ほとんどの国が2008年のデータですが,上表の韓国と米国のように,年次が前後にズレている国も若干あります。ご了承ください。


 やっぱり世界は広し。縦軸の自殺率でみると,わが国よりも値が高い社会が7つあります。カザフスタンやロシアなど,旧共産圏の青年の自殺率が高いのはよく聞くところですが,北欧のフィンランドが入っているのがちと意外。でも後述のように,この社会では,以前に比したら青年の自殺率はグンと下がっているのですが。

 次に,横軸の死因中の自殺比でみると,こちらはわが国がトップです。青年の死因の4割超が自殺であるのは,世界を見渡しても日本だけなり。まあこのことは,病気や事故で命を落とす青年が少ないことと表裏ですが,わが国の青年の「内向性」が垣間見れるような気がします。「自己責任!」が美徳とされる社会ですから。

 最後に,20年前の1990年に比して,各国の位置がどう動いたかを観察してみましょう。色をつけた8か国について,1990年のデータをつくり,上図の最近のドットと線でつないでみました。下の図にて,8つの社会の位置変化を見てとることができます。矢印のしっぽは1990年,先端は上図と同じ位置を表します。


 この20年間で右上に大きく動いているのは,日韓の2国だけです。米英とフィンランドはその逆。フィンランドなんかは,90年代以降にかけて青年の自殺率が半減しているではありませんか。役割模索期の青年にとっての「失われた20年」は,万国共通のものではないのですね。

 なお,フィンランドの自殺率低下の事情については,下記の記事にて紹介されています。
http://xbrand.yahoo.co.jp/category/lifestyle/4917/4.html

 われわれは,今,自分が目にしていることを「普遍的」であるかのように思いがちですが,そういうことはなく,時代比較や国際比較をすることで,「今,ここ」という呪縛から己を解き放つことができます。そのためのデータを提供することも,社会学の重要な役目なのではないか,と考えております。

2013年12月26日木曜日

90年代以降の若者の自殺(国際比較)

 以前は,WHOの“ World Health Statistic annual ”という資料に,各国の年齢層別の自殺者数が載っていたのですが,近年のものにはそれがないので,どうしたことかと思っていました。

 どうやら最近では,死因の国際統計は,WHOホームページの“Mortality Database”で提供されているようです。下記サイトで条件を指定することにより,目的の情報を得ることができます。自殺は,“Intentional self-harm”です。
http://apps.who.int/healthinfo/statistics/mortality/whodpms/

 私はここから,1990年以降の25~34歳の自殺者数を,主要国の分だけ取り出してみました。日韓米英独仏の6か国です。6つの社会の若者の自殺者数は,下表のように推移してきています。


 日本をみると,この20年間で若者の自殺者は2,160人から3,550へと増えています。倍率にすると1.6倍です。お隣の韓国は3倍近くなり。今,この国の若者は大変だそうですが,それは自殺者数にも表れています。
http://dametv.cocolog-nifty.com/blog/2012/12/post-5fec.html

 しかるに,他の4か国では,若者の自殺者は減少をみています。ドイツに至っては,1,922人から912人へと半減以下です。若者にとっての「失われた20年」は,国際的にみて普遍なものではないのですね。

 念のため,25~34歳人口で除した自殺率の推移も掲げておきましょう。計算に使うベースの人口も,上記のWHOデータベースにて得ることができます。いやはや便利。


 ベース人口を考慮した自殺率でみても,この20年間で上昇傾向にあるのは日韓だけです。「若者の危機」がいわれて久しいですが,それは社会によって一様ではないことが知られます。「若者が大変なのはどこの国も同じだ」と政治家が口にするのを見たことがありますが,そういう弁明が果たして正しいのかどうか・・・。

 はて,世界的にみてイレギュラーなのは日韓の2国なのか,それとも欧米の4国なのか。この点を知るには,比較の対象をもっと広げる必要があります。より多くの社会について,90年代初頭と最近の自殺率を出し,両者のマトリクス上に各々を散りばめた布置図をつくれば,事態はクリアーになるでしょう。後々の課題にしようと思います。

2013年12月24日火曜日

いじめがよく把握されている県はどこか

 文部科学省は毎年,いじめの認知件数を公表していますが,この数値がいじめの実態を反映したものでないことはよく知られています。当局の取り締まりの強度によって,数が大きく左右されますものね。


 この点は,上の図からも分かります。各県の中学校のいじめ認知件数は,いじめを容認する生徒の割合と相関していません。東京や神奈川は,いじめを容認する生徒が多いにもかかわらず,当局が認知した件数は少ない。これらの県では,闇に葬られた,いわゆる「暗数」が多いものと思われます。私の郷里の鹿児島などは,その逆です。

 私はここにて,横軸のいじめ容認率から各県のいじめの「期待度数」を出し,それを統計上の認知件数と照合することで,いじめ把握度という指標を計算してみようと思います。各県がいじめの把握にどれほど本腰を入れているかを測る,ガンバリ尺度です。

 首都の東京を例に,計算の過程を説明します。2012年度の『全国学力・学習状況調査』の生徒質問紙調査によると,東京の公立中学校3年生のいじめ容認率は8.7%です。同年5月の公立中学校3年生の生徒は231,211人(『学校基本調査』)。よって,いじめを容認している中学校3年生の実数は,20,115人と見積もられます。

 この数をもって,いじめの期待度数とし,統計上の認知件数と比べてみるのです。2012年度の『児童生徒の問題行動等生徒指導上の諸問題に関する調査』によると,同年度中に都の中学校で認知されたいじめ件数は4,660件なり。先ほど割り出した期待度数の,おおよそ23%に相当します(4,660/20,115 ≒ 0.23)。

 大都市の東京では,当局が掬ったいじめ件数は,期待される水準の5分の1というところです。いじめは「見えにくい」現象ですので,これでも「よし」とすべきでしょうか・・・。

 それを知る目安を得るには,他県との比較が必要です。私はこのやり方で,47都道府県の中学校のいじめ把握度を計算しました。下の表は,その一覧です。最高値には黄色,最低値には青色のマークを付しました。上位5位の数字は赤色にしています。


 最初の図からも分かることですが,鹿児島はスゴイですねえ。この県では,期待度数の3倍以上のいじめが認知されています。ほか,数値が1.0を越えるのは山梨です。2011年10月の大津市いじめ自殺事件以降,全国的にいじめの取り締まりが強化されていますが,この2県はとくに本腰を入れたのだろうと思います。

 しかし,これら2県は全体の中ではイレギュラーなケースです。いじめ把握度の全国値は0.28であり,0.2(2割)を下回る県もちらほら見られます。福島と佐賀は0.1未満。この2県では,かなりの数の「暗数」が潜んでいる可能性が・・・。

 さて,各県のいじめ把握度を地図化してみましょう。0.2未満,0.2以上0.3未満,0.3以上0.4未満,および0.4以上という4つの階級を設け,各県を塗り分けてみました。


 相対評価ですが,0.4を越える県,つまり期待度数の4割以上を拾っている県は,「がんばっている」県と評してよいでしょう。濃い青色がそれですが,全国的に散らばっており,地域性のようなものはなさそうです。各県の政策の有様が影響していると思われます。トップの鹿児島県は,「いじめ対策必携」なる資料を全教職員に配布している模様です。
http://www.pref.kagoshima.jp/ba04/kyoiku-bunka/school/shidou/hikkei.html

 いじめの量を測る指標としては,児童生徒のいじめ容認率のような指標がいいでしょう。各県のいじめ認知のガンバリ度を計測するには,いじめの期待度数といじめ認知件数を照合して出す,いじめ把握度がよいでしょう。これらの指標も定期的に公表し,各県の状況診断に与してみてはどうでしょう。

 ここにて,私が申したいことです。

2013年12月22日日曜日

小・中学生の学力と大卒者の正規就職率の相関

 こういうデータが出たのですが,偶然(見かけ)の相関でしょうか…。


 大卒者の正規就職率は,他の教科の平均正答率とも強く相関しています。公立中学校3年年生の国語Aとは+0.743,国語Bとは+0.534,数学Bとは+0.694の相関です。公立小学校6年生の国語Aとは+0.499,国語Bとは+0.469,算数Aとは+0.516,算数Bとは+0.466の相関なり。

 沖縄を「外れ値」として除外すると係数値は下がりますが,統計的に有意な+の相関関係は保たれます。*上図でいうと,+0.745から+0.563に下がります。

 大卒者の正規就職率と関連する指標といったら,地域の求人倍率などが思い浮かびますが,そうした労働市場の指標よりも強く,子どもの学力と関連しているのですな。

 『全国学力・学習状況調査』で試される学力というのは,受験向きの学力とは違った,いわゆる「確かな学力」です。その定義は,「知識や技能はもちろんのこと,これに加えて,学ぶ意欲や自分で課題を見付け,自ら学び,主体的に判断し,行動し,よりよく問題解決する資質や能力等まで含めたもの」とされています(文科省)。

 なるほど。こうした学力の多寡が,就職に影響する経路というのは,考えられなくもないです。全国学力調査の正答率に依拠して生徒を分け,各群の成人後の状況を追跡するなどの調査研究が求められるかもしれませんね。

 教育の効果というのは,こうした長期的な視点からも観察・計測されるべきでしょう。

2013年12月21日土曜日

20代のワーキングプア率地図

 1990年代以降,日本社会に暗雲がたちこめてきたといいますが,そうした闇の広がりを可視化した統計図をつくっています。

 昨日,ツイッターで発信した「20代のワーキングプア率地図の変化」は,そのうちの一つです。各県の20代の有業者のうち,年収が200万円未満のワープアが何%占めるか計算し,それを地図化したものですが,見てくださる方が多いようです。ブログにも転載しておこうと思います。

 ご覧に入れるのは,1992年と2012年の地図です。双方とも,総務省『就業構造基本調査』の統計をもとに作成したものであることを申し添えます。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm


 地域を問わず,就労しつつも最低限の生活を得るに足りるだけの収入しか得られない「ワープア」が,若者の間で増えていることが見てとれます。ワープア率4割超という黒色が広がってきていますね。90年代以降の「失われた20年」の状況を思えば,さもありなんです。
 
 パートやバイトとかも含めているからだろう,といわれるかもしれませんが,雇用の非正規化が進んでいる現在,こうした不安定就労で生計を立てている者も少なくないはずです(とくに若者では)。これらの層をオミットしては,事態を見誤ることになるでしょう。

 ツイッター上の反応をみると,「全国が総ブラック化するのは時間の問題」といったコメントが散見されます。派遣法が改正され,全ての職種で「ハケン」が使えるようになりましたが,確かにそうした危惧が持たれるところです。今度,『就業構造基本調査』が実施されるのは2017年ですが,そのデータで同じ地図を描いたら,どういう模様になっているか・・・。

 さて,各県の数値を知りたいという要望が数件ありましたので,上記の地図の元データを提示いたします。計算の過程についてイメージを持っていただくため,分子と分母の数値も掲げます。これらの単位は千人です。

 算出された県別のワープア率ですが,最高値には黄色,最低値には青色のマークをしました。また,上位5位の数値は赤色にしています。資料としてご覧ください。


 今年もあと数日ですが,急に冷え込んできました。年末でお忙しいとは思いますが,皆様,体調を崩されませぬよう。

2013年12月19日木曜日

殺人被害率の国際比較

 私は講義で,犯罪や自殺など「そっち系」の話をよくするのですが,「世界で一番ヤバい国はどこですか」と学生さんに聞かれることが多いです。ここでいう「ヤバい」というのは,治安が悪いという意味でしょう。

 治安の良し悪しを測る指標としてまず思いつくのは犯罪率ですが,どの社会においても,犯罪の多くはコソ泥であり,ちょっと物騒な国では強盗というところです。これらの場合,実際に起きていても当局に認知されない「暗数」や,統計のとり方の基準というような問題が付きまといます。後者についていうと,窃盗と強盗の線引きとかは,ビミョーな要素を含んでいます。

 しかるに,こうした問題の度合いが低い罪種が一つあります。それは殺人(homicide)です。殺人の場合,実際に起きた事件の大半が警察に認知されるとみてよいでしょう。血まみれの死体が転がっているわけですから。

 私は,UNODC(国連薬物犯罪事務所)の原統計にあたって,179か国の男女の殺人被害率を収集しました。ベース人口10万人あたりの殺人被害者数です。下記サイトの“Homicide by sex”という箇所をクリックすれば,エクセルファイルの表が出てきます。
http://www.unodc.org/unodc/en/data-and-analysis/homicide.html

 これによると,2009年の日本の殺人被害率は,男女とも0.4です。10万人あたりの殺人被害者数は0.4人という意味です。低いですねえ。海を隔てたアメリカは,男性が6.6,女性が1.9と記録されています(2010年)。

 では,179か国の殺人被害率をみていただきましょう。ベタな一覧表ではなく,横軸に女性,縦軸に男性の被害率をとった座標上に,179の社会を位置づけた布置図をご覧いただきます(点線は平均値)。各国の統計の年次は,2008~2010年のいずれかとなっています。先ほどみたように,わが国の被害率は2009年のものです。


 『犯罪白書』とかで主要国の殺人発生率の比較がなされ,アメリカがべらぼうに高いみたいなことが強調されるのですが,全世界のマトリクスでみたら全然低い部類じゃん。ドイツはわが国のすぐ隣。英仏は,ドイツと位置がほぼ同じなので色づけしていません。

 さて右上には,わが国よりも殺人被害率が数十倍高い社会が位置しています。ホンジュラス,エルサルバドル,ジャマイカは中米国,コートジボワールは西アフリカの国です。ウワサにはよく聞きますが,数値の上でもはっきり表れました。

 先週,冒頭の質問を学生さんに投げかけられました。「ツイッターかブログにデータをアップするから見てちょうだい」と言っておきましたが,見てくれるかしらん。授業に際しては,こういうツールも駆使しないといけませんね。あまり大学に行かない,私のような身の者にとっては。

2013年12月15日日曜日

成人の通学率の国際比較

 OECDの国際成人力調査(PIAAC)の質問紙調査には,興味深い設問が多く盛られています。今回は,次の設問への回答結果を国ごとに比べてみようと思います。

 現在,何らかの学位や卒業資格の取得のために学習しているか(B_Q02a)

 生涯学習という言葉が使われるようになって久しいですが,学校は,子どもや青年の占有物ではありません。成人(adults)にも門戸は開かれるべきであり,人生のどの段階にあっても,必要を感じたならば「学び」に立ち返れるシステムの構築が求められます。

 いわゆるリカレント教育ですが,社会の変化速度の高まりによる再学習への要請,職場における人間疎外状況の強まりなど,それを求める背景要因はいくつだって挙げるlことができるでしょう。

 成人といっても幅広い年齢層を含みますが,ここでは働き盛りの層の肯定率を拾ってみます。下の図は,横軸に25~34歳,縦軸に35~44歳の肯定率をとった座標上に,22の社会を位置づけたものです。上記の設問に「はい」と答えた者の割合です(無回答・無効回答は集計から除外)。点線は,22か国の平均値を意味します。

 ここで提示する統計は,PIAACのローデータを独自に集計して作成したものです。データファイルは,下記サイトでダウンロードすることができます。
http://www.oecd.org/site/piaac/publicdataandanalysis.htm


  日本は,最も左下にあります。成人の通学率が最も低い社会です。対極には,フィンランドが位置していますね。この社会では,25~34歳の4人に1人,35~44歳でも10人に1人が広義の学生です。

 ほか,右上のゾーンには,デンマークやスウェーデンなど,北欧の国が点在しています。生涯学習の先進国として,社会教育のテキストで紹介されることの多い国々ですが,さもありなんです。

 手元に,天野郁夫教授の筆になる『学習社会への挑戦』日本経済新聞社(1984年)という本があります。それによると,スウェーデンでは,4年以上の労働経験を持つ25歳以上の成人に,資格を問わず大学進学の道を開く「25・4」の制度があるそうです。形を変えつつも,現在でもこういう制度が存続しているのでしょう。

 なお右上にはアメリカも混じっていますが,この競争社会では,成人した後も組織的な学習を絶えず強いられる,ということなのかもしれません。いみじくも天野教授は,スウェーデンの生涯学習を「公共政策型」,アメリカのそれを「市場型」というように整理しています。

 上図において対極の位置関係にある,日本とフィンランドの様相をもう少し細かく観察してみましょう。私は,上記の問いへの肯定率を5歳刻みの年齢層別に出し,折れ線を描いてみました。日芬の2本の通学率カーブをご覧ください。


  年齢を上がるに伴い通学率が下がってくるのは同じですが,日本の場合,10代後半から20代前半にかけての傾斜が急になっています。20代後半以降では,学校に通っている者は5%もいません。対してフィンランドでは,曲線の傾斜が緩やかです。両国の成人学生の量の差は,緑色のゾーンで示されています。

 わが国の状況をどうみるかですが,組織的な教育機関(学校)での学び直しに対する要求があるものの,幾多の阻害条件により,それが満たされていない,ということであると思います。前に,生涯学習の世論調査をもとに,大学等で学びたいと考えている成人の推定量を出し,実際の通学人口と照合してみたところ,後者を前者で除した希望実現率はたったの4%でした。25人に1人です。
 http://tmaita77.blogspot.jp/2012/10/blog-post_27.html

  まあ,教育有給休暇どころか,仕事を終えた後に夜間の学校に通いたいと言っただけで渋面をつくられるような国ですから,頷けるというものでしょう。日本も高度化を遂げた社会であり,再学習への要求はあるものの,それが叶えられていない。上図に描かれた,20代後半以降のフラットな型は,こういう事態を表現したものと読むべきだと思います。

 なお,上図のような極端な「L字型」は,教育を受ける(受けられる)時期が人生の初期に集中していることを示唆します。このことは,成人のみならず子どもにとっても不幸です。目的もないのに,付和雷同的に上級学校への進学を強制される。「後からは戻れないのだから,今のうちに行かないと・・・」です。わが国のカーブも,もう少しフィンランド型に近づけば,子どもの世界に風穴が開けられる,というものでしょう。

 子どもの問題を考えるにしても,そこだけを切り取ってばかりいていけないのだな,と感じさせられます。

2013年12月8日日曜日

成人の知的好奇心の国際比較

 昨年に実施された,OECDの国際成人力調査(PIAAC)の結果が公表されています。学力調査の成人版であり,わが国の平均点がトップだったことが話題を読んでいます。曰く,「おとなの学力,世界1」。
http://www.nier.go.jp/04_kenkyu_annai/div03-shogai-piaac-pamph.html

 ところでこの調査では,学習に対する意欲や日々の学習行動についても尋ねており,私としてはこちらのほうに関心を持ちます。変動の激しい社会では,新しいことを積極的に吸収していく意欲・態度が求められるのは,言うまでもありますまい。

 こういう関心を持って調査票を眺めたところ,ズバリ該当する設問がありました。属性調査(Background Questionnaire)のI_Q04dにおいて,以下のセンテンスに自分はどれほど当てはまるかと問うています。

 I like learning new things (私は新しいことを学ぶのが好きだ)

 私は,本調査のローデータ(未加工データ)を使って,この設問への回答結果を国ごとに明らかにしました。最初に,わが国を含む主要国の回答分布をみていただきましょう。対象は,各国の16~65歳の国民です。(   )内の数字はサンプル数です。無回答・無効回答は集計から除外しています。

 なお,ローデータは下記サイトにてダウンロード可能です。SASとSPSSのファイルで提供されています。私は,エクセルのほうが使い勝手がいいので,SPSSでDLしたのをエクセル形式に変換しました。この作業に際しては,非常勤で教えに行っている武蔵大学の情報処理センターのパソコンを使わせていただきました。記して,感謝申します。
http://www.oecd.org/site/piaac/publicdataandanalysis.htm


 日本の成人の知的好奇心は,他国と比して高くないようです。「とてもよく当てはまる」と「よく当てはまる」を強調しましたが,欧米4国と日韓の間に断絶があります。両者の合算値は日韓では4割ほどですが,他の4国では6割を超え,米仏では8割にも達します。

 読解力や数学的思考力はトップですが,知的好奇心の面では芳しくないようですね。アメリカなんかはその逆。どっちがいいのやら・・・。

 知的好奇心と学力のマトリクス上に,調査対象となった各国を散りばめてみましょう。後者は,国際差が大きい数的思考力の平均点を用います。下図は,双方が分かる21か国の布置図です。点線は,平均水準を意味します。


 日本は,数学力はトップですが知的好奇心は下から2番目なので,左上に位置しています。対極には,先ほどみた米仏や南欧の国がありますね。

 今から10年,20年先のことなんて分からない。インターネットをも超えるテクノロジーが出現するかもしれない。こういう変動社会において,躍進する可能性を秘めているのはどちらか。現在のみならず「未来」の視点も据えるなら,日本の位置に対する評価も変わってくるでしょう。

 むろん,新しい知識というのは既存の知識の上に積み上げられるものであり,知的好奇心は,そうした土台を伴っていることが望まれます。上図の右上にあるのは,それが比較的具現されている社会です。ほう,いずれも北欧国ですね。スウェーデンとかは,生涯学習の先進国としてよく紹介されますが,さもありなんです。

 あと一つ,面白い図を紹介しましょう。「新しいことを知りたい」という知的好奇心は年齢によって異なりますが,年齢ごとの好奇心分布をスウェーデンと日本で比較したものです。ローデータを使うことで,こういう細かい統計を作成することも可能です。


 両国とも,若年層のほうが知的好奇心が高く,年齢を上がるにつれてそれは萎んでいきます。これは生理的な側面も含んでいますが。2つのグラフをみてどうでしょう。日本の20歳の好奇心は,スウェーデンの65歳とほぼ同じではありませんか。

 凝視すると,左右のグラフはつながっているようにも見えますよね。ある方がツイッター上で「スウェーデン人の死後の世界が日本人なんだ」とつぶやいておられました。言葉が穏やかでないですが,言い得て妙かなとも思います。

 加齢による知的好奇心の変化というのは,脳の構造変化のような生理要因にのみ由来するのではなく,社会現象としての側面も持っているのですなあ。

 「大人の学力,世界1」という目出度い結果が出ているのですが,それは,子ども期にかけて試験という外圧で刷り込まれたものなのかもしれません。しかるに,変動の激しい社会では,人生の初期に学校で学んだ知識は直ちに陳腐化してしまいます。こういう時代では,学校を離れた後も,新しいことを自分で吸収していく意欲・態度が重要となります。

 学校教育では,あらゆる学習の基盤となる基礎知識を教え込むと同時に,こうした「学ぶ意欲」を涵養することが求められますが,わが国の場合,後者が弱いのではないか,という懸念が持たれます。それどころか,長期の学校生活を経る過程において,それが摘み取られているという皮肉な事実があるかもしれません。学ぶ意欲の追跡調査なども実施されて然るべきではないでしょうか。

 私は,武蔵野大学で調査統計法という授業を担当していますが,どうせ使わない,すぐ忘れるような「教科書的」内容をねじ込むのではなく,統計を活用して世の中の問題を「斬る」意欲・態度を身につけてもらうことに主眼を置いています。

 授業評価の質問紙にて,「この授業の内容をもっと自分で深めてみたいという気になったか」という設問がありますが,私が一番注目するのはココです。Yesという回答比率が少しでも高くなるよう,日々奮闘しているつもりです。

2013年12月5日木曜日

女性タレントの浪費

 総務省の『就業構造基本調査』は5年間隔で実施されていますが,この調査の時系列結果をつなぎ合わせることで,加齢に伴う就業者の増減を知ることができます。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm

 私は,結婚・出産期にかけて,女性の正規職員(正社員)の数がどう変化するかに興味を持ちました。昔に比べたら改善されているのでしょうが,わが国はまだまだ,仕事か家庭かの二者択一を女性に強いる社会であるといわれます。そうであるなら,この時期において,女性正社員の減少が観察されるはずですが,実情はどうなのでしょう。

 2007年の25~29歳は,5年後の2012年には30~34歳になります。私は,この2カテゴリーの正規職員数(男女)を調べ,両者を照合してみました。下表をご覧ください。


 20代後半から30代前半にかけて,男性正社員は増えていますが,女性は減っていますね。女性は162万人から132万人へと,およそ2割の減です。なるほど,巷でいわれていること,さもありなんです。

 しかし,2割減とはねえ。人員削減で,どの企業も正社員の数をうんと減らしていると思いますが,働き盛りの女性にここまで抜けられて,痛手にはならないのでしょうか。

 これは正規職員全体の傾向ですが,次に,職業別のデータをみてみましょう。結婚・出産期にかけて女性正社員の減少が著しい,女性がフルタイム就業を継続しづらいのはどの職業か。アンケートで意識を尋ねるのもいいですが,官庁統計から分かる「ヒトの動き」に着目するのも一つの手です。

 私は,上表と同じ増減倍率を68の職業について計算しました。2012年の30代前半の正社員数が,2007年の20代後半の何倍になったかです。

 下の表は,男女の一覧表です。0.8未満,すなわち2割以上減の場合は黄色のマークをしています。「**」は,20代後半時点の正社員がほぼ皆無なので,倍率が算出できなかったことを示唆します。「0.00」は,20代後半の時点では存在した正社員が,30代前半ではいなくなった,ということです。


 予想通りといいますか,男性より女性で多くのマークがついていますね。女性の場合,27の職業で減少率が2割を越えています。

 とりわけ注目したいのは医師(歯科医師,獣医師は含まない)で,女性の正規雇用の医師は,20代後半では11,500人だったのが,30代前半では6,200人にまで減っています。ほぼ半減です。離職して自ら開業する開業医が増えるのかなと思いましたが,ツイッター上で教示いただいたところによると,そうではないようです。

 こちらもツイッターで教えていただいたことですが,「大学病院や医局はマタハラ,パワハラのジャングル」だそうです。「妊娠出産育児を少しでも考える女性医師は辞めるしか」なく,「そういう女性は初めから医師を目指さない」とのこと。これはヒドイ。
https://twitter.com/ftetsuo1/status/406990822228250624

 ちなみに,青色で囲っているのは専門・技術職ですが,このゾーンに黄色のマークが結構ついているではないですか。これはもう,女性の才能(talent)の浪費という問題にも通じるでしょうなあ。「ヒト」しか資源のない日本にとって,とうてい看過し得ぬことです。

 「ヒトの動き」というのは,正直です。ブラックの指標として,結婚・出産期にかけての正社員増加倍率というものも考えられてよいでしょう。願はくは,これを企業別に出したいのですが,『四季報』とかで,各企業の年齢層別正社員数を載せてくれないかしらん。こちらは,離職率などと違って回答を嫌がられることはないでしょう。

 『帝国データバンク会社年鑑』とかに載っているかな。今度,国会図書館に行ったときに調べてみようと思います。

2013年12月1日日曜日

15歳生徒の数学嗜好の国際比較

 今年の初頭に出た,西内啓さんの『統計学が最強の学問である』(ダイヤモンド社)がベストセラーになっています。副題の「データ社会を生き抜く武器と教養」という文言にひかれた方も多いことでしょう。
http://www.diamond.co.jp/book/9784478022214.html

 「統計は未来を占う羅針盤」といわれますが,不確実性の度合いを高めていく世の中にあって,統計学の素養を身につけておくことは重要といえます。また「データ社会」という表現も言い得て妙で,スイカ等のICカードの普及により,人間の行動の多くが「データ化」されています。それを集積したのがいわゆる「ビッグ・データ」であり,これを分析しマーケティング等に活かす「データ・サイエンティスト」という職業への需要も高まっているそうです。

 こうした状況変化を見越してのことか,最近は文系の学部でも,統計学を必修にしている所が少なくありません。私が教えに行っている武蔵野大学環境学部も然り。「調査統計法1」という科目が必修であり,今年度は私が担当しています。

 ところで,当の学生さんたちが「統計学をモノにしたい」という意欲をどれほど持っているかというと,それが高い子もいればそうでない子もいます。私がみる限り,数的には後者のほうが多いな,という印象です。中高でよほど痛い目に遭ったのか,すっかり数学アレルギーを呈している子も・・・。これは,学習を進めるにあたって大きな痛手となります。

 まあ,私の頃も数学は嫌われていましたし,他の社会でも概ねそうでしょうが,データでみるとどうなのか。今回は,大学に入ってくる前の高校生の数学嗜好を,国ごとに比べてみようと思います。国際データのなかで,わが国がどこに位置づくのかが見ものです。

 OECDの国際学力調査のPISA2003では,対象の15歳生徒の数学嗜好を尋ねています。8つの項目を提示し,各々にどれほど当てはまるかを答えてもらう形式です。設問を掲げます。生徒質問紙調査のQ30です。


 いずれの項目においても,左寄りの回答ほど数学嗜好が強いことを意味します。これら8項目への回答を合成して,対象生徒の数学嗜好を測る一元尺度をつくってみましょう。

 「1」という回答には4点,「2」には3点,「3」には2点,「4」には1点という点数を与えます。この場合,回答した生徒の数学嗜好の強さは,8~32点のスコアで計測されることになります。全部1に丸をつけるバリバリの数学好きは32点,全部4を選ぶ超数学嫌いは8点となる次第です。

 私は,OECDサイトからローデータ(未加工データ)を入手して,このやり方にて,41か国・25万8,035人の生徒の数学嗜好スコアを計算しました。いずれかの項目に無回答ないしは無効回答がある生徒は,分析対象から除外しています。
http://pisa2003.acer.edu.au/

 手始めに,日本とアメリカの男子生徒のスコア分布をみていただきましょう。日本は2,257人,アメリカは2,638人のスコア分布です。


 最頻値(モード)をみると,日本は8点の超数学嫌いが最も多く,アメリカでは24点が最多です。24点とは,8項目全てに「そう思う」と答えるレベルです。分布を全体的にみても,日本は低いほう,米国は高いほうに偏していることが分かります。
 
 これだけからも,男子生徒の数学嗜好は日本よりアメリカで高いことが明らかですが,その程度を簡易に表すため,スコアの平均点を出すと,日本は18.2点,アメリカは21.5点となります。これにて,「日<米」という事実が可視化されました。

 それでは,PISA2003の対象の41か国について,この数学嗜好スコアの平均点を算出してみましょう。ジェンダー差もみるため,各国の平均点を男女別に出しました。下図には,横軸に男子,縦軸に女子の平均点をとった座標上に,41の社会を位置づけたものです。


 日本は,男女とも最下位です。15歳生徒といったら高校生ですが,わが国は,高校生の数学嗜好が世界で最も低いようです。言いかえると,数学ギライが最も多い社会なり。

 先ほどサシで比較したアメリカは中間辺りであり,生徒の数学嗜好がもっと強い社会もみられます。図の右上には,北アフリカのチュニジアをはじめ,発展途上国が多く位置していますね。国力増強のため,理数教育に力が入れられているのか。それとも,理系人材が重宝されるのか。いろいろな事情が想起されます。

 なお斜線は均等線であり,この線より下に位置する場合,女子よりも男子の数学嗜好が強いことを意味しますが,予想通りというべきか,多くの国がこのラインより下にあります。ただタイだけは例外で,この熱帯国では男子より女子が数学好きです。人間はやっぱり,社会によって有様を変えられる社会的生き物なのだな,と思わされます。

 さて,以上のデータをどうみたものでしょう。ご存知の通り,わが国の生徒の数学的リテラシーは国際的にみて高い水準にありますが,悲しいかな,それに「意欲・態度」というものが備わっていないようです。

 それは,試験や大学受験という外圧がなくなった途端,メリメリと剥がれ落ちてしまう「偽」の学力であるともいえます。その昔,ある教育学者が「学力の剥落」という現象を指摘したことがありますが,日本ではそれが頻繁に起きているのではないかと危惧されます。

 今回のデータから,目の前の学生さんのレディネスというのが,どういうものかが分かりました。最強の学問である統計学の素養を身につけてもらうには,統計学の有用性を感じることのできる教材をふんだんに使う必要がありそうです。

 度数分布表から平均値を求めるやり方を扱ったときは,都内の地域別の平均年収を計算させましたが,あれなんかはウケてたな。このように,抽象的な内容の「有用性」を分からせる教材を用意するのも,教師のウデの見せどころですよね。がんばりませう。

2013年11月30日土曜日

2013年11月の教員不祥事報道

  月末の教員不祥事報道の整理です。今月,私がネット上でキャッチした報道は25件です。いつも通り,記事名と当該教員の属性を記録しておきます。

 明日から師走。今年も残り1か月となりました。無事に過ごせますよう。

<2013年11月の教員不祥事報道>
・女性盗撮の教諭、懲戒免職に(11/1,神奈川新聞,神奈川,中,男,27)
・都立高教諭ら3人懲戒免…教え子にわいせつ行為
 (11/1,読売,東京,わいせつ:高男33,わいせつ画像送付:中男29,麻薬:高男56)
・小2男児の尻たたけ…女性担任、クラスで指示(11/6,読売,高知,小,女,60)
・児童36人分のテストを紛失、誤って焼却か(11/6,読売,群馬,小,男,30代)
・同僚のパソコン盗んだ高校教師、その動機は(11/6,読売,大分,高,男,44)
・児童に「むかつき」平手打ち 小学校教諭、傷害の疑い(11/8,朝日,神奈川,小,男,28)
・痴漢容疑で小学校教諭の男逮捕(11/11,神戸新聞,兵庫,小,男,49)
・ラインで教え子に「好きです」 男性高校教諭を停職処分(11/14,朝日,愛知,高,男,46)
・校庭のヒョウタン「食べる?」 児童嘔吐、教諭懲戒免職(11/14,朝日,大阪,小,男,63)
・体罰研修受けても…大阪府立高バスケ部、顧問が生徒蹴る
 (11/14,朝日,大阪,高,男,31)
・教諭が女子生徒の顔に頭突きし鼻血、報告なし (11/15,読売,福岡,中,男,20代)
・音楽講師、同僚の運動靴に「バカ」と落書き *睡眠薬入り菓子も食べさせる
 (11/15,読売,大阪,小,女,60)
・出張と偽りパチンコ、音楽教諭を停職6か月(11/15,読売,埼玉,中,男,57)
・中学の校長が教諭2人殴る(11/15,埼玉新聞,埼玉,中,男,55)
・今度は買春…公立校教員が今年度6人捕まった県(11/16,読売,長野,特,男,50)
・わいせつ問題でむつ市教委陳謝(11/16,東奥新聞,青森,小,男)
・スピード違反で検挙3回、女性教諭を戒告処分
 (11/19,読売,岩手,無免許運転:小男47,スピード違反:小女49)
・数学教諭、43人の答案改ざん 「情わいた」と正答に(11/20,朝日,岐阜,中,男,29)
・中学教諭が生徒に「人間のくず」 山形県教委、6人処分
 (11/21,共同通信,山梨,体罰:高男40代,暴言:中男50代)
・<窃盗容疑>愛知県警が新人教諭逮捕 校長…子どもにおわび
 (11/22,毎日,愛知,小,男,22)
・缶酎ハイ2本で車横転、小学校教頭を懲戒免(11/22,読売,和歌山,小,男,52)
・業中にメールで同僚中傷 女性教諭を減給処分(11/22,福島民友,福島,高,女,50代)
・テストの点数入り資料を紛失 女性教諭を戒告処分に
 (11/26,神奈川新聞,神奈川,小,女,50代)
・部活指導中に飲酒、淫らな行為…教諭5人懲戒免
 (11/29,読売,神奈川,飲酒指導:高男24,わいせつ:特男27,わいせつ:小男40,窃盗:小男25,わいせつ:小男59,わいせつ:中男33,体罰:中男38)
・児童の母親と不適切な関係 千葉市教委が小学校長処分
 (11/30,千葉日報,千葉,小,男,59)

2013年11月29日金曜日

紅葉の高尾山 2013

 今日も快晴。午前中,埼玉の大学で授業した後,ちょいと高尾山に行ってきました。本日の私の足取りを記録。

 自宅 →(徒歩)→ 聖蹟桜ヶ丘 →(京王線)→ 分倍河原 →(南武線)→ 府中本町 →(武蔵野線)→ 新秋津 →(徒歩)→ 秋津 →(西武線)→ 稲荷山公園 →(大学バス)→ 武蔵野学院大学で授業 →(大学バス)→ 稲荷山公園 →(西武線)→ 飯能・昼食 →(徒歩)→ 東飯能 →(八高線)→ 八王子 →(中央線)→ 高尾 →(京王線)→ 高尾山口 →(徒歩・リフト)→ 高尾山展望台 →(リフト・徒歩)→ 高尾山口 →(京王線)→ 聖蹟桜ヶ丘 →(京王バス)→ 自宅
 
 高尾山ですが,今は紅葉が見ごろ。平日なのですいていました。リフトで上がり,展望台に到着。そこから写した眺望を2枚。

 

 1枚目は展望台の北側です。圏央道が写っていますね。2枚目は,都心方面です。この写真では分かりませんが,スカイツリーもうっすらと見えました。絶景を眺めながらのお茶とみたらし団子は格別。

 山上で1時間ほどブラついた後,リフトで下山。このリフト,シートベルトがついてないので,下りは結構コワい。乗り始めは,いかなり眼下の景色に投げ出されるかのような感を持ちます。そういうのはちょっと・・・という人は,併行して走るケーブルカーを使ったほうがいいかもしれません。

 ささやかな秋の遠(近)足記録でした。

2013年11月28日木曜日

日本社会Jさんの病理診断カルテ

 私が専攻する社会病理学の課題は,社会の病気を診断することです。コント流に,社会を生物有機体になぞらえるわけです。ここでは,日本社会をヒトに見立てて「Jさん」と呼びましょう。

 ある日,身体の不調を訴えるJさんが診察にやってきました。はて,外見上は何ともないようですが,どこが悪いのか。当人に尋ねても答えは曖昧。そこで,どの部位が悪いのかが分かる診断カルテを作成しました。

 自殺率の水準に依拠して,性別の年齢人口ピラミッドに色をつけた図です。自殺率とは,2012年中の自殺者数を同年10月時点の人口で除した値です。分子は厚労省『人口動態統計』,分母は総務省『人口推計年報』から得ています。


 どうやら,右半身(男性)の胸の辺り(中高年)が悪いようです。この部位には,身体を動かすにあたって重要な役割を果たす中枢器官が集中しています。過重な役割を負わされていることからくる,疲労・息切れと思われます。この部位に密集している中枢器官を,左半身の側に移行させる手術が必要のようです。

 測定器具を変えて,もう一枚,別のカルテをつくってみました。今度は,完全失業率による塗り分けです。働く意欲のある労働力人口のうち,職にありつけないでいる完全失業者がどれほどいるかです。2010年の『国勢調査』の統計を使いました。*人口ピラミッドは,上図と同様,2012年の推計人口をもとに作図しています。


 こちらでみると,足の部分が悪いようです。身体を支える大事な部位ですが,動脈硬化により,栄養(職)がここに行き渡っていないことが主因とみられます。栄養の巡りをよくする手術も必要のようです。

 以上,日本社会Jさんの病理診断カルテの試作品でした。国会の廊下の壁には,こういう図を拡大して貼るべし。

2013年11月24日日曜日

留学志向の国際比較

 11月20日の読売新聞Web版に「韓国留学熱,父親に重圧・・・孤独,仕送り,自殺も」と題する記事が載っています。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20131120-00000225-yom-int

 学歴社会である韓国では,母子連れだって早期留学する傾向が強く,一人残された父親が孤独や仕送りの重圧に苛まれて自殺にまで至る。こうした悲劇が頻発しているとのことです。やたらと推奨される(早期)留学ですが,こういう影の面もあるのだな,と感じました。

 私はこの記事を読んで,留学志向の国際比較をしてみたくなりました。国別の留学生数がないかと,OECDの “ Education at a Glance 2013 ” にあたったところ,留学生の出身国の構成比が載っていました。各国の高等教育機関で学んでいる留学生の,出身国の内訳です(2011年のデータ)。主要国の数値は,以下のごとし。

 日本 ・・・ 1.0%
 韓国 ・・・ 3.6%
 米国 ・・・ 1.4%
 英国 ・・・ 0.7%
 独国 ・・・ 3.1%
 仏国 ・・・ 1.6%

 調査に回答した,世界各国の留学生全体での比率ですから,こんなものでしょう。最も高いのは韓国の3.6%ですが,この国の高等教育該当年齢人口が他国よりも少ないことを考えると,これだけからも,隣国の留学志向の強さをうかがい知ることができます。

 ここにて,高等教育対象の年齢人口の量を考慮して,各国の留学志向を測る尺度を計算してみましょう。下の表をご覧ください。


 左欄は,上記資料に掲載されている,留学生の出身国内訳です。数値が分かるのは42か国であり,残りの45.7%は「その他」として括られています。ひとまず,この42か国を比較対象としましょう。留学生欄の万分比は,42か国から送り出されている留学生の合計を1万人とした場合の国別内訳です。

 私は,この留学生の万分比を,高等教育該当年齢人口(15~29歳人口)のそれと照合してみました。後者の出所は,国連の人口推計サイトです。
http://esa.un.org/unpd/wpp/unpp/panel_indicators.htm

 どうでしょう。お隣の韓国は,高等教育該当年齢人口では,42か国全体の0.922%しか占めていませんが,留学生の中では6.554%を占めています。よってこの国からは,通常期待されるよりも,7.1倍多く留学生が輩出されている計算になります(6.554/0.922 ≒ 7.10)。この値でもって,各国の留学志向の強さを測ることとしましょう。留学生輩出率と呼んでおきます。

 右端の欄にて42か国の留学生輩出率をみると,トップはルクセンブルク,2位はアイスランド,3位はスロバキア,4位はアイルランド,5位はエストニア,となっています。いずれもヨーロッパの小国ですが,距離的に近い先進国(英独仏)への留学生が多いものと思われます。

 色をつけた主要国の中でみると,韓国が最も高いようです。冒頭の記事でいわれている「韓国留学熱」,さもありなんです。日本は1.01であり,人口統計からみた期待値と同程度ですか。世界の知が集積する米国では,学問への需要が国内で十分満たされるのか,国外への留学志向は低いようです。

 全体の傾向の俯瞰するため,留学生輩出率を高い順に並べたランク図も掲げておきます。値がかっとんで高いルクセンブルクは非掲載です。


 地理的に隣接し,社会文化的な条件も近似している韓国と日本ですが,両国の位置は大きく離れています。しかるに今後,日本の位置は徐々に上がっていくのではないかと思われます。4学期制を導入し,学生の留学を後押ししようという大学も出てきていますしね。早期留学も次第に普及してくることでしょう。

 しかしそうなったとき,冒頭の記事でいわれているような病理現象が起こらないかどうか。文化を同じくする韓国の現在の有様は,わが国の先行きを映し出している鏡ともいえます。子どもの教育という点において,いちはやくグローバル化の波に乗っている(晒されている)隣国において何が起きているか。われわれは,つぶさに観察する必要がありそうです。

2013年11月21日木曜日

自殺のジェネレーショングラム

 社会は,育った時代状況を異にする「異世代」の人々からなりますが,それぞれの世代の軌跡は,年齢と時代(年)のマトリクス上に引いた斜線でもって表されます。

 8月6日の記事では,ジェネレーショングラムという図法を紹介しました。私の恩師の松本良夫先生が,電車のダイヤグラムをヒントに考案されたものです。

 この図にいろいろな情報を書き込むことで,各世代の軌跡を詳細かつ視覚的に眺めることができます。先日,この図を研究で使いたいという方からメールをいただきました。元教員の方で,学習指導要領改訂の歴史を書き入れた図にしたいとのことです。

 なるほど。妙案だと思います。私は,1977年版の学習指導要領で教えられましたが,今教えている学生さん(≒20歳)は,98年版の指導要領で育ってきた,いわゆる「ゆとり世代」です。

 逆に,60年代後半生まれの世代は,教育内容の「現代化」を掲げ,内容をびっちり詰め込んだ68年版の指導要領で締め付けられた世代。そのせいか分かりませんが,この世代は,10代の間に非行者を多数輩出した「業績」を持っています。非行の第3のピークは80年代の前半ですが,いみじくも当該世代が10代の頃ですよね。

 学習指導要領改訂史を盛り込んだジェネレーショングラムは,各世代の人間形成の理解を深めるためのツールとなることでしょう。教育学の講義の教材にも使えそう。完成したら,どうか見せてくださいまし。

 さて私のほうは,自殺率の色をつけたジェネグラをつくってみました。自殺率とは,自殺者数を人口で除した値です。分子の自殺者数は,戦前期は内閣府の『大日本帝国人口動態統計』,戦後は厚労省『人口動態統計』から得ました。分母の人口は,総務省統計局ホームページの長期統計系列から得ています。

 5歳刻みの年齢層ごとの自殺率を5年間隔で出し,それを使って,ジェネグラの座標上に色をつけたというわけです。そしてこの上に,4つの世代の軌跡線を引いてみました。

 この図から,各世代の「生きづらさ」の軌跡をたどることができます。「われわれの世代は大変だった・・・」。ちょっとカッコつけて,誰もがこういうことを口にしたくなるものですが,客観的にみるとどうなのか。とりあえず,ブツをみていただきましょう。自殺のジェネレーショングラムをとくとご覧ください。


 図には,4世代の軌跡線が描かれています。①1921~25年生まれ,②31~35年生まれ,③46~50年生まれ,④71~75年生まれ,です。①は私の小学校時代の恩師・橋本美智子先生,②は学問の師・松本良夫先生,③は団塊の世代,④は私の世代です。*私は76年生まれなので正確には違いますが,まあよしということで。

 図中の白色の数値は,自殺率(10万人あたり)の区切りを意味します。たとえば紫色のゾーンは,自殺率15以上20未満であることを示唆します。黒色は,自殺率が40を越えるヤバい箇所です。

 俯瞰的にみてどうでしょう。「パッと見」の印象は,松本先生の世代(青色)は大変だったのだなあ,ということです。20代前半の青年期に,黒色の山を通過しています。時は1955(昭和30)年。戦後10年,社会の激変期だった頃です。新旧の価値観に引き裂かれ,生きる方針を見失った青年も多かったことでしょう。当時の自殺原因の多くが「厭世」であったことはよく知られています。

 次に,量的に多い団塊世代(黄色)ですが,この世代は,50代になって危機にぶつかっていますね。平成不況の盛り。多くが,リストラ等を苦にした中高年男性の自殺であると思われます。

 私の世代(緑色)はというと,2010年時点の30代後半までしか分かりませんが,加齢ともに自殺率が段階的に上がっていくタイプです。これは他の3世代とは異なる傾向なり。今後,40代,50代になるにつれて,自殺率はもっとアップしていくのでしょうか。

 参考までに,4世代の各年齢時点での自殺率をつないだ折れ線を提示しておきましょう。各世代の自殺の軌跡が分かるかと思います。


 松本先生世代の青年期の山はスゴイ。当該世代の20代前半期の自殺率は,実に65.4にもなります。典型的な青年期突出型。団塊の世代は,50代で痛い目に遭っている中高年期危機型。

 私の世代は,加齢とともに自殺率が一貫して上昇している一貫上昇型です。他の3世代のように,青年期の山がいったんおさまるというような傾向にあらず。このあたりに,何やら不吉なものを感じます。今後,どうなるやら,ロスジェネといわれる私の世代ですが,非正規雇用,単身未婚ニートなど,不安因子を多く抱えているといわれます。図の点線のような推移にならないことを願いたいです。

 あまり楽しい作業ではありませんが,みなさんも,上記の図に自分の世代の軌跡線を引いてみてはどうでしょう。あるいは,「この人は何でこうなんだろう」という人の軌跡を書き込んでみるのもいいかも。個々人の体験をオミットした「世代群」としてのマクロな生活史になりますが,人間理解(異世代理解)のツールになるかもしれません。

 酒場の壁に,この図を拡大して貼ったら,酒の話題として大いに盛り上がるんじゃないかなあ。「みてみろ,俺の頃は・・・」みたいな。売り込んでみようかな。

 次回は,非行のジェネレーショングラムをお見せしようと思います。各世代の10代の非行の軌跡図です。お楽しみに。*私は気まぐれなので,予定変更の場合あり。

2013年11月17日日曜日

病(辞)める教員たち

 昨日の晩,公立学校教員の病気離職率の推移図をツイッターに載せたところ,みてくださる方が多いようです。教職受難の時代といわれるなか,この問題に関心をお持ちの方も多いことでしょう。当該の図をここにて再掲するとともに,もう少し深めたデータも併せて提示しようと思います。
https://twitter.com/tmaita77/status/401715784633708544/photo/1


 上図でいう病気離職率とは,当該年度間に病気離職した教員の数を,同年10月1日時点の本務教員数で除した値です。公立小学校教員でいうと,2009年度間の病気離職者数は609人(文科省『学校教員統計』2010年度)。同年10月時点の本務教員数は413,321人(同『学校基本調査』2009年度)。したがって,この年の病気離職率は,1万人あたりでみて14.7となる次第です。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kyouin/1268573.htm

 全教員1万人につき14.7人(680人に1人)という程度ですから,量的に多い現象ではありません。しかし病気離職というのは,過労やバーンアウトのような,広く蔓延している病理現象の相似形をなしていると思われます。教員の危機兆候を可視化するねらいにおいて,この指標を観察することは無駄ではありますまい。

 さて,この指標の推移をみてみましょう。赤色の中学校の折れ線をみると,1980年代の半ばで高かったようです。「金八先生」にも描かれていますが,この頃,全国的に校内暴力の嵐が吹き荒れていたことはよく知られています。こういうことの影響もあるでしょう。

 その後,生徒の問題行動が沈静化するとともに教員の病気離職率も低下しますが,今世紀の初頭をボトムにして,以後急上昇しています。小学校では伸びがもっとすごく,この10年ほどで3倍ほどになっています(5.3→14.7)。

 今世紀以降,同時多発テロ(2001年)やリーマンショック(2008年)など,いろいろなことがありましたが,わが国の教育界においても然り。2006年の教育基本法改正,翌年の教育三法改正。それに伴い,副校長や主幹教諭などの細かい職階が導入され,教員組織の官僚制化が進んだといわれます。また,2007年度からの全国学力テストの開始,翌々年度の教員免許更新制施行により,教員の多忙化に拍車がかかったという声もあり。

 加えて,学校をとりまく外部環境も変わりました。それを象徴するのが,学校に無理難題をふかっけるモンスター・ペアレントの増殖です。東京都がこの問題に関する調査報告書を出したのは2008年ですが,上図に示されている,病気離職率の上昇期と重なっています。
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/press/pr080918j.htm

 考察を深めるため,教員のどの層で離職率が大幅にアップしているのかを検出してみましょう。今世紀以降の上昇幅が最も大きい,小学校教員に的を絞ります。2000年度と2009年度について,公立小学校教員の病気離職率を年齢層別に出し,グラフを描いてみました。

 なお,年齢層別の離職率の計算にあたっては,分母を翌年の10月1日時点の本務教員数にしています。2009年度の離職率は,2009年度間の離職者数を,翌年(2010年)10月1日時点の本務教員数で除して算出しています。年齢層別の教員数(ベース)は,『学校教員統計』の実施年のものしか得られませんので,このような措置をとりました。1年程度のラグなら問題はないものと,お許しください。


 今世紀以降,公立小学校教員の病気離職率は急増しているのですが,年齢層別にみると,若年層と高齢層の伸びが顕著であるようです。言葉がよくないですが,病巣はこの部分にあるようです。

 職業生活の始めと終わりに位置する「2つの危機」。これらをどうみたものでしょうか。高齢層については,加齢による体力の衰えなどもあるでしょうが,若年層については如何。

 採用試験の競争率低下により質が下がったとか,右も左も分からず職務遂行が上手くいかないとか,いろいろなことが想起されます。しかるに,ここではもっと構造的な部分に目を向けてみましょう。私が注目したいのは,教員集団の構造です。

 10月27日の記事では,人口の年齢構成変化により,若年層が上の世代から被る圧力が強くなってきているのではないか,という仮説を提起しました。現在のわが国の人口ピラミッドをみると,逆ピラミッド型とまではいきませんが,上が厚く下がやせ細った型になっています(つぼ型)。そこで見出されるのは,量的に少ない若年層が多数の上世代を支えている様,いや後者に押しつぶされている様です。

 実をいうと,教員の世界では,こうした事態がもっと顕著です。団塊世代の大量退職によって最近は増えているものの,財政難から教員の新規採用は抑制されていますしね。

 私は,2010年度の『学校教員統計』のデータを使って,同年10月時点の公立小学校教員の年齢ピラミッド図をつくってみました。本務教員のものです。


 いかがでしょう。教員の量(マグニチュード)からして,赤色の20代の若年教員はやせ細っています。比率でいうと,全国は13.3%であり,この値が最小の沖縄ではたったの3.2%です。

 この上に,多数の年輩教員が乗っかっているわけですが,彼らが自分たちよりも下の若年教員をサポートする存在になるのか,あるいは逆に重荷になるのか。これについては見方が分かれるでしょうが,後者の側面もあるのではないでしょうか。

 前にも書きましたが,「上は支えられる存在,下は支える存在」,「上は指導する存在,下は指導される存在」というように,日本は年齢による役割規範が強い社会です。官僚制化の度合いが強い教員組織にあっては,それがひときわ顕著である,という見方もできます。

 仮にこちらの面をとるとすると,若年教員が上の年輩教員から被る圧力の強さは,頭数を比べることで数値化することができます。図中の黄色の数値がそれです(圧力係数)。30歳以上の教員数が20代の何倍かですが,全国では6.5倍,沖縄では何と29.8倍にもなります。当県の若年教員の状況はどういうものなのでしょう。

 ここにて客観的に明らかにしたのは,①教員の病気離職率が最近高まっていること,②それはとりわけ若年教員で顕著であること,です。その背景として,近年の教育改革や外部社会の変化に加えて,教員集団の構造変化があるのではないか,という仮説を提起したいと思います。

 2004年に,静岡県の磐田市の小学校に勤務していた新任女性教員(24歳)が自殺する事件がありました。原因は,担当する学級で続発する諸問題に孤軍奮闘しなければならなかったことによる,心理的な負担(鬱)であったそうです。

 報道によると,当該教員が先輩教員に助けを求めた際,「バイトじゃねえぞ。しっかりやれ」といびり倒されたそうな,その一方で,各種の雑務だけは押しつけてくる。上の世代がサポート資源ではなく重荷になるというのは,こういうことです。これを逆転させることが,ぜひとも必要です。

 上図の黄色の数値を「圧力係数」と名づけていますが,「サポート係数」というように,逆の見方ができるようになることが望まれます。それがどれほど具現されたかは,この数値と病気離職率や精神疾患率との相関をとることで実証されるでしょう。今後,継続的にデータをとっていきたいテーマです。

2013年11月14日木曜日

資料:公立小学校6年生の生活行動時間(県別)

 文科省の『全国学力・学習状況調査』では,6つの生活行動を取り上げ,平日(月~金)にどれくらいの時間行うかを尋ねています。質問紙調査のワーディングは,以下のようです。いずれも,「1日あたり」という文言がついています。
http://www.nier.go.jp/kaihatsu/zenkokugakuryoku.html

①:どれくらいの時間,睡眠をとることが最も多いですか。
②:どれくらいの時間,テレビやビデオ・DVDを見たり,聞いたりしますか(テレビゲーム除く)。
③:どれくらいの時間,テレビゲーム(コンピュータゲーム,携帯式のゲーム含む)をしますか。
④:インターネット(携帯電話やスマートフォンを使う場合含む)をしますか。
⑤:どれくらいの時間,勉強をしますか(学習塾や家庭教師含む)。
⑥:どれくらいの時間,読書をしますか(教科書や参考書,漫画や雑誌除く)。

 ①は睡眠,②はテレビ,③はゲーム,④はネット,⑤は勉強,そして⑥は読書というように略記しましょう。用意されている選択肢は,次のごとし。hは時間,mは分を意味します。


 私は,調査対象の公立小学校6年生の回答分布を使って,各々の平均時間を都道府県別に出してみました。度数分布表から平均値を出す場合,階級値の考え方に依拠することになります。

 各階級の時間を,中間の値で代表させます。たとえば,「1時間以上2時間未満」と答えた児童は,中間をとって一律に「1時間30分(90分)」であるとみなします。

 2013年度調査の結果をみると,東京の小6児童の場合,⑤の勉強時間の回答分布は次のようです。3h以上が22.7%,2h以上3h未満が15.1%,1h以上2h未満が27.6%,30m以上1h未満が21.6%,30m未満が9.5%,「しない」が3.5%,です。よって,この大都市でいうと,小6児童の平日の平均勉強時間(1日あたり)は,以下のようにして求められます。

 [(210分×22.7人)+(150分×15.1人)+・・・(0分×3.5人)]/100.0人 ≒ 106.3分

 平日の1日あたり1時間46分。まあ,こんなものでしょう。では,6つの生活行動時間の1日あたり平均時間を都道府県別にみていただきましょう。最新の2013年度調査の結果から,軒並み計算したものです。最高値には黄色,最低値には青色のマークをしました。赤色は上位5位です。


 北海道の子どもは,テレビ,ゲーム,ネットの時間が相対的に長いようですが,雪に閉ざされた冬場は外遊びがままならないためでしょうか。他にも特記事項がありますが,細かいコメントは控えます。資料として,ご覧いただければと存じます。

 11月も中旬。今週になって,急に冷え込んできました。みなさま,体調管理には十分ご注意ください。

2013年11月10日日曜日

子育てに選ばれる地域

 育児雑誌などで,「子育てしやすい街」とかいう特集をよく見かけます。公園面積,保育所数,児童館数などの指標を集め,それらを総合してランキング化するというものです。先日,コンビニで立ち読みした週刊誌でも,そんな記事があったなあ。
 
 しかるに,人の動きに注目するのも一つの手です。高きから低きに水が流れるのと同様,より住みよい地域に人間が移るのも道理です。私は,東京都内の49市区について,最近5年間の人口変化を観察しました。注目したのは,乳幼児期(0~4歳)から児童期(5~9歳)にかけての人口増減です。

 どういう指標を計算したのか,私が住んでいる多摩市を例に説明しましょう。東京都の『住民基本台帳による東京都の世帯と人口』という資料の2008年版によると,同年元旦の多摩市の0~4歳人口は5,981人です。この世代は,5年後の2013年には5~9歳になりますが,この年の元旦の5~9歳人口は5,960人。
http://www.toukei.metro.tokyo.jp/juukiy/jy-index.htm

 5年間で21人の減です。幼児には病気や事故がつきものですが,不幸にして亡くなったのでしょうか。それとも,子が小学校に上がるのを機に別の所に移ろう,という家庭があったのか。おそらくは,大半が後者のような人口移動でしょう。

 私は,この値を都内の49市区別に計算しました。2008年の0~4歳人口と2013年の5~9歳人口の差分をもって,「子育てに選ばれる」度合いのバロメーターにしようというわけです。プラスの増分が大きい市区ほど,子育てに選ばれる地域である,という見方をとります。

 下表は,その一覧です。増加率が5.0%を越える場合,黄色のマークをしています。


 トップはぶっちぎりで千代田区です。この区では,乳幼児期では1,509人でしたが,児童期になると1,940人にまで膨れ上がっています。実に28.6%の増加です。
 
 子が小学校に上がったら,母親のフルタイム就業が困難になる「小1の壁」はよく知られていますが,「学童保育がしっかりした所に越したい」という考えを持っている家庭も多いことでしょう。

 千代田区の学童保育についてちょいと調べたところ,学童保育の設置率は高いほうであり,「夜7時まで小学生1~6年生を預けられる23区で最も恵まれた区」というお墨付きもあります。当区の児童期における人口増は,こういう部分によるのかもしれません。
http://www.gakudonavi.com/index.php?FrontPage

 しかるに,49市区全体でみた場合,児童人口あたりの学童保育定員数と上表の増加率は無相関でした。子育て期の家庭を引き付ける地域の要因としては,他にもいろいろある,ということでしょう。上表のデータをみて,「こういうことではないか」という意見がありましたら,お寄せいただけると幸いです。

 ちなみに,乳幼児期から児童期の人口増加率を地図化すると,下図のようになります。白色は,増加率がマイナス,つまり人口が減っている市区です。


 今回は,0~4歳と5~9歳というラフな区分の比較をしましたが,①乳児(0~2歳),②幼児(3~5歳),③児童(6~8歳)というように区切って,3年スパンの変化を追ってみたらどうでしょう。

 ①~②の増減は保育所,②~③のそれは学童保育の問題状況と関連しているかもしれません。千代田区について,ちょっと吟味してみましょう。

 2010年の乳児人口(0~2歳) ・・・ 1,080人
 2010年の幼児人口(3~5歳) ・・・ 953人
 2013年の幼児人口(3~5歳) ・・・ 1,217人
 2013年の児童人口(6~8歳) ・・・ 1,121人

 乳児期から幼児期の増加率=(1,217-1,080)/1,080 = 12.7%
 幼児期から児童期の増加率=(1,211-953)/953 = 17.6%

 2010年~2013年の間でみると, 幼児期から児童期にかけての増加率のほうが高いですね。やっぱり決め手は学童保育の充実でしょうか。この時期に限定した人口増加率は,各市区の学童保育供給量と相関しているかもしれません。

 話が細かくなりましたが,人の動きというのは正直です。人口統計から明らかにできることは無尽蔵。今回の分析は,各市区の子育て環境診断を念頭にやってみたものです。

2013年11月7日木曜日

大学卒業生・大学院修了生の進路図

 昨日の晩,大学学部卒業生と大学院博士課程修了生の進路図をツイッターに載せたところ,みてくださる方が多いようです。ブログのほうにも転載いたします。

 ご覧に入れるのは,今年春の専攻系列別の進路内訳図です。非正規就職,一時的な仕事(バイト),その他(無業),および不詳・死亡の4カテゴリーは,「不安定進路」として括っています。用いた資料は,2013年度の文科省『学校基本調査』の速報値です。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm


 何も言いますまい。博士課程の場合,不安定進路の比重が高いですね。黒色の「不詳・死亡」というのは穏やかでないですが,さすがに死亡はほぼ皆無でしょう。おそらくは,連絡が取れないなどの理由による進路不詳者であると思われます。でも,行方不明者も結構いそうだなあ。

 図には数値を記していませんが,参考までに,グラフの元データを掲げておきます。中間の修士課程修了生の進路内訳も示しておきます。右端のNは,卒業生・修了生の実数です。


 学部卒業者の場合,大学院進学者が多いので,進学者を除いた進路内訳図にすべきではないのか,という意見がありました。卒業者数から進学者数を除いた数を分母にして正規就職率を出し,段階ごとに比較すると,下図のようになります。


 理学と工学で,修士課程修了者の正規就職率が最も高くなっています。理系では,民間でも修士学位が評価されているためでしょう。しかし,博士修了となると,率はガクンと下がりますね。人文系と社会系は,学部→修士→博士になるにつれて,正規就職率が段階的に落ちていきます。不安定進路は,この裏返しです。

 寒くなってきたのに,ますます寒気を覚えるような図を出して恐縮ですが,これが現実。目をそらさずに直視すべし。最初の図を拡大して,高校の進路指導室の壁にでも貼ったらどうでしょう。「無目的に勉強ばっかするとこうなる」。若き高校生に知らしめてみては。

2013年11月4日月曜日

偏差値と正規就職率の関連

 10月17日の記事では,大学の学部単位のデータを使って,偏差値と退学率の関連を明らかにしました。偏差値に依拠して全国の1,192学部を4群に分かち,各群の退学率分布をとったのですが,偏差値が低い群ほど,退学率が高いほうに多く分布していることを知りました。

 最近,大学教育の効果に関する議論が盛んですが,その際は,入学難易度(ランク)を考慮しなければいけません。インプット要因の制御です。

 さて今回は,関係者の多くが関心を持っている正規就職率が,偏差値とどういう関連にあるのかをみてみようと思います。こういう問題を追及するのはタブーかもしれませんが,実態がどうなっているかをデータで明らかにしてみましょう。

 これまでと同様,読売新聞教育部『大学の実力2014』(中央公論新社)のデータを使わせていただきます。本資料には,2013年春の卒業生の進路内訳が,各大学の学部別に掲載されています。私はこれを加工して,私立大学の学部別の正規就職率を計算しました。計算式は,以下です。

 正規就職率=(正規就職数+研修医数)/(卒業生数-進学者数)

 医学部等の場合,キャリアが研修医から始まるケースが多いので,このカテゴリーも分子に含めることとしました。就職の意志がないとみられる進学者は,分母から除いています。

 この手続きで正規就職率を出した学部のうち,学研教育出版社の『大学受験案内2014』にて,入試偏差値が判明した1,281学部を分析対象とします。
http://hon.gakken.jp/book/1130386100

 私は,この1,281学部を偏差値の水準に依拠して4群に分かちました,①40未満,②40台,③50台,④60以上,です。BF(ボーダーフリー)の学部は①に入れています。この4群について,今年春の卒業生の正規就職率分布をとると,下図のようになります。


 巷でいわれていることですが,入試偏差値と正規就職率が強く関連していますね。偏差値が低い群ほど,正規就職率が低いほうに多く分布しています。偏差値40未満の群をみると,全体(446学部)の半分が正規就職率6割未満です。対して,偏差値60以上の学部群では,110学部中75学部(68.2%)が正規就職率8割超となっています。

 むむう。正直,ここまであからさまな関連があるとは思いませんでした。集団による「外的拘束性」の威力,侮りがたし。

 しからば,所詮はランクが全てであって現場の実践は無力なのかというと,そういうことではありません。偏差値40未満の群の折れ線(青色)をみると,この群の正規就職率分布は,すそ野が広い「富士山」型になっています。正規就職率が低い学部が多いのは確かですが,その逆の学部もあります。

 ピンクの丸に注目していただきたいのですが,この群の中で,正規就職率が9割を越えるのは6.7%,実数でいうと30学部です。偏差値40未満だけど正規就職率90%超,「がんばっている」学部です。

 この30学部において,どういう実践がなされているのか,興味が持たれます。読売新聞社の『大学の実力2014』では,各学部の教育実践も調査しています。私は16の項目をピックアップし,30学部の実施状況一覧表をつくってみました。「1」は,実施されていることを意味します。


 ほう。実施を表す「1」が結構多いではないですか。30学部中20学部以上で実施されているのは,イ)入学前補習,ロ)1年時の必修ゼミ,ハ)3・4年時の必修ゼミ,ニ)卒論が卒業要件,ホ)CAP制,となっています。*ホのCAP制とは,1年間でとれる単位数を制限し,単位のまとめ取りを防ぐ制度です。

 そんなこと,普通の学部でもやっているよ,と言われるかもしれませんが,入学前補習と1年時必修ゼミなんかは,この「がんばっている」学部の特徴といえるような気がします。スタートが肝心,入学時のケアを手厚くする,ということでしょうか。

 なお,多くが理系や医療系の学部ですが,人文・社会系の学部もあります(赤色)。このうち,黄色のマークをした,某ビジネス学部と某経営法学部はスゴイですね。16項目のうちのほとんどを実施しています。文系学部で「偏差値40未満だけど正規就職率90%超」。この偉業は,こういう実践に由来する面が強いと思います。

 なすべきことは,こうした「がんばっている」事例の発掘でしょう。現在,教育社会学の分野で「効果のある学校」の研究が注目されています。社会階層が低い子どもたちの学力を底上げすることに成功している学校のことです。このような学校の実践を詳細に明らかにした研究も公表されています(鍋島祥郎『効果のある学校-学力不平等を乗り越える教育-』解放出版社,2003年)。

 大学進学率が50%を越える今にあっては,高等教育(大学)段階でもこの手の調査研究が求められるのかもしれません。上表でマークをした2学部に取材をしてみようかしらん。こんなことを考えています。

2013年11月2日土曜日

正社員の離職理由

 先日,新規学卒者の離職状況に関する資料が厚労省より公表されました。それによると,2010年4月の入職者のうち,3年目となる2013年3月までに辞めた者の率は,高卒で39.2%,大卒でも31.0%になるそうです。3年以内の離職率,大卒で3割ですか。
http://www.mhlw.go.jp/topics/2010/01/tp0127-2/24.html

 これは全業種をひっくるめた値ですが,宿泊・飲食業に限定すると,3年以内の離職率は大卒で51.0%,高卒だと66.6%にもなります。この業界では,大卒の2人に1人,高卒の3人に2人が,3年以内に離職している計算になります。
 
 このように離職率は高いのですが,離職の理由はどういうものなのでしょう。まあ若者は,労働条件が悪い(キツイ)というものが大半を占めると思われますが,それだけではありますまい。女性の場合は,育児離職も少なくないと思われます。

 総務省の『就業構造基本調査』には,前年の1年間に離職した者の数が,離職の理由別に掲載されています。私は,最新の2012年調査の結果を参照して,2011年10月~2012年9月までの期間に正規雇用職(正社員)を辞した者の離職理由を調べました。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm

 この期間中の正社員離職者のうち,離職理由が分かる者はおよそ223万人。その内訳を年齢層ごとに示すと,下図のようです。ここでいう年齢は調査時点(2012年10月)のものであり,離職時点のものとは違いますが,双方のラグは小さいので,ほぼ同じとみてもよいでしょう。


 離職理由の内訳をみると,年齢層ごとの特徴が出ていますね。60代では定年,それより上の高齢層では「病気・高齢のため」という理由がほとんどです。50代において,リストラが幅を利かせているのが痛々しい。

 次に若年層の部分に目をやると,予想通り,「労働条件が悪い」という理由が最も多くなっています。若者を食い物にするブラック企業が蔓延っている現状を思うと,さもありなんです。25~34歳では,結婚や育児の比重も高し。多くが女性でしょう。

 いま,女性という言葉が出ましたが,理由構成の性差も気になるところです。結婚,育児,および50代の箇所にある介護といった,家庭関連の理由比重のジェンダー差はどうなのかしらん。

 私は,20~50代の生産年齢に限定して,上記と同じ図を男女別につくってみました。以下に,2つの内訳図を並べてみます。


 結婚,育児,および介護のゾーンはピンク色で囲いましたが,やっぱり男女では全然違いますね。女性の30代前半では,結婚・育児が離職理由の4割を占め,50代後半では介護の比重が1割強になっています。

 女性の正規就業(フルタイム就業)を阻むものとして,結婚・育児・介護があるといわれますが,統計にもまざまざと表れています。

 そんなこと当たり前だろう,といわれるかもしれませんが,これらのイベントが女性の正規就業に影響を及ぼすのは,わが国の特徴であるともいえます。3月25日の記事でみたように,北欧のフィンランドでは,子の有無によって女性のフルタイム就業率が変わることはほとんどありません。対して日本では,子どもができることで率はガクンと下がります。

 ゆえに,上図の模様は,わが国に固有のものであるともいえましょう。若年層で幅を利かせている悪条件離職,女性だけに広くみられる結婚・育児・介護離職。ここにて可視化したのは,こういう問題です。

2013年10月31日木曜日

2013年10月の教員不祥事報道

 10月も今日でおしまい。私がネット上でキャッチした,今月中の教員不祥事報道を整理します。その数34件なり。先月よりも減っています。最近,ネット検索の時間が短くなっているので,オチがあるかもしれませんが。

 わいせつ,飲酒運転,体罰・・・。件の詳細は記事名で検索していただきたいと思いますが,動機をみると「ストレスでやった」というものが少なくありません。下図にみるように,教員(正規)の就業時間は,正社員全体に比して長いですしね。教員の4人に1人が,週60時間以上働いています。


 「少人数教育は学力やいじめ発生頻度と関係ない」などという理由で,教員増をケチっている場合ではないでしょう。*私の研究では,小人数教育は学力の絶対水準と関連はなくとも,学力の社会的規定性の克服には効果あり,という結果が出ています。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110006793455

 秋も深くなってきました。今朝のニュースによると,寒暖差アレルギーなる病気が広がっているそうです。ご注意くださいますよう。

<2013年10月の教員不祥事報道>
・中学臨時講師、休みにスマホでスカート内盗撮(10/1,読売,兵庫,中,男,28)
・酒気帯び運転の女性教諭を停職処分(10/1,読売,京都,中,男,45)
・忘れ物児童に招き猫ポーズさせ撮影…教諭を注意(10/4,読売,小,広島,男)
・女子着替え中の教室で騒ぎ、駆けつけた教諭が(10/4,読売,小,福岡,男,30代)
・高校教諭の男、銭湯で入浴男性客を盗撮容疑 (10/5,読売,愛媛,高,男,32)
・バーナーでケース破壊、レンズ窃盗容疑の教諭 (10/5,読売,愛知,小,男,41)
・中3女子のTシャツまくり上げる…高校教諭逮捕(10/10,読売,埼玉,高,男,25)
・バイク走行の教諭、職務質問で見つかったのは(10/11,読売,神奈川,小,男,25)
・児童の母親にキス迫る 小学教諭を停職処分(10/11,産経,長野,小,男,50代)
・ひき逃げ容疑で臨時教諭を逮捕(10/12,埼玉新聞,埼玉,中,男,25)
・窃盗容疑で教諭逮捕=高校で同僚のPC盗む(10/16,時事通信,大分,高,男,44)
・聖カタリナ高で体罰か 男性教諭、進路指導で(10/16,愛媛新聞,愛媛,高,男,30代)
・入浴中の男性客を盗撮、高校教諭に罰金命令(10/16,読売,愛媛,高,男,32)
・40代男性教諭を懲戒免職 女子生徒の尻触る(10/19,福島民友,福島,高,男,40代)
・生徒に高圧的な指導 女性教諭を分限免職(10/20,産経,香川,高,女,53)
・中学教諭が結核気づかず勤務、生徒ら15人感染(10/20,読売,東京,中,男,40代)
・指導に力が…野球部監督、イス投げ顔たたく(10/21,読売,北海道,高,男,30代)
・コンビニ弁当など906円分万引きした高校教諭(10/22,読売,長野,高,男,45)
・体罰や職務怠慢 教諭ら戒告(10/23,読売,岩手,道交法違反:中男(49),体罰:高男(49))
・「自分に気があると…」男性に下半身さらした疑い(10/23,産経,神奈川,中,男,24)
・県立高講師を懲戒免職 女子生徒にわいせつ行為(10/24,千葉日報,千葉,高,男,20代)
・小4女児にペンチ見せ「宿題忘れたら歯抜く」(10/24,読売,兵庫,小,男,30)
・同上(兵庫,体罰:中女(36),体罰:中男(48),盗撮:中男(28),飲酒運転:高男(51))
・赴任したての担任教諭、廊下走った小4を土下座(10/25,読売,愛知,小,男,50代)
・教諭が授業中に椅子投げる 女子生徒がケガ(10/25,佐賀新聞,佐賀,中,男,50代)
・高校教諭、顔見知りの10歳代後半女性に乱暴(10/25,読売,三重,高,男,35)
・前の盗み「無職」と偽った女教諭、今回は懲戒免(10/25,読売,埼玉,中,女,49)
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2013年10月27日日曜日

若者にかかる圧力

 今朝方,20代の若者が上の世代から被る圧力の表現図をツイッターで発信したところ,みてくださる方が多いようです。戦後60年間の変化があまりにドラスティックだからでしょうか。
https://twitter.com/tmaita77/status/394250132876574720

 ブログにも転載しようと思いますが,そのままコピペというのは芸がないので,近未来まで射程を延ばした図に作り直してみました。1950(昭和25)年,2010(平成22)年現在,および2060(平成72)年の断面をご覧ください。前2者の図は総務省『国勢調査』,2060年の図は国立社会保障・人口問題研究所の「将来推計人口」をもとにしています。
http://www.ipss.go.jp/syoushika/tohkei/Mainmenu.asp


 ご覧いただいているのは,それぞれの時点における,わが国の年齢人口ピラミッド(5歳刻み)です。赤色は20代の若者ですが,この上に乗っかっている人口量(相対)が時代とともに増えていますね。

 「上は支えられる存在,下は支える存在」,「上は指導する存在,下は指導される存在」というように,年齢による役割規範が強い日本社会では,上図のような事態は,若者に対する圧力の強まりを意味しているともとれます。
 
 こうした圧力の強さは,図中の黄色の数値によって可視化されています。赤色の上に乗っている30歳以上人口を,赤色の20代人口で除したものです。この値は戦後初期の1950年では2.2でしたが,60年後の2010年には6.6となり,2060年には9.6にまで高まることが予想されます。

 近未来はおいておくとして,今の日本では,20代の若者1人につき年長者6.6人ですか。この6.6人の全てが一方的に寄りかかってくるだけの存在とは限りませんが,支えを求めてくる者,あれやこれやとうざったいことを言ってくる者がマジョリティーであることは否定できますまい。

 今は6.6人ですが,2060年には,若者1人に対し年長者9.6人という社会になることが見込まれます。9.6人分の「最近の若いモンは・・・」が1人にぶつけられたらたまらんだろうな。

 次に,国際比較をしてみましょう。私は,2010年近辺の54の社会について,同じ値を計算してみました。以下では,圧力係数といいます。用いた資料は,総務省統計局の『世界の統計2013』です。
http://www.stat.go.jp/data/sekai/index.htm
 
 ここでみる圧力係数は,20代人口と30歳以上人口という2つの要素から決まりますが,各国について,双方の量が分かるようにしましょう。国によって人口規模が大きく違いますので,全人口に占める相対量を使います。日本の場合,20代人口が10.7%,30歳以上人口が70.7%です。

 下図は,横軸に20代人口比率,縦軸に30歳以上人口比率をとった座標上に,54の社会をプロットしたものです。斜線は,後者を前者で除した圧力係数の値を表します。2.0,3.0,4.0,5.0,および6.0のラインを引きました。


 図をみると,日本は最も左上にあります。先ほど出した日本の6.6という値は,世界で一番高いようです。その次がイタリアで6.4となっています。わが国と同様,少子高齢化が進んでいる社会ですよね。

 6.0を越えるのはこの2つの社会だけですが,ドイツとフィンランドが5.0~6.0のゾーンに位置し,英米仏韓の4国が4.0~5.0のゾーンに散りばめられています。主要先進国の位置は,だいたいこの辺りです。

 一方,図の右下の2.0を下るゾーンには,アジアやアフリカの発展途上国が多く位置しています。若者と年長者の量がさして変わらない社会です。これらの社会では,寿命が短いためでしょう。

 ここでみたのは,20代の若者1人に対し,それより上の年長者が何人いるかという指標です。この値が高いことが,若者が手厚く保護される社会の条件となるのか,それとも,彼らにとって「生きづらい」社会が生まれることの条件をなすのか。どちらに転ぶかは,われわれ次第です。

 さしあたりなすべきは,年齢による(偏狭な)役割規範の克服でしょう。年長者の側も,自らが完成した存在であるかのごとく,上から目線で若者にあれこれと文句を言うばかりでなく,自分とて未完成の存在であり,若者と一緒に学ぶ,時には彼らに教えを乞う,というような謙虚な姿勢を持ちたいものです。

 2010年7月に策定された「子ども・若者ビジョン」は,「子ども・若者は大人と共に生きるパートナー」という理念を掲げていますが,人口構成が「歪」になっているわが国ほど,この理念の具現が求められている社会はないでしょう。
http://www8.cao.go.jp/youth/wakugumi.html

 前々回と前回みたように,最近の日本では,若者の自殺率だけが上昇しています。新卒重視採用,ブラック企業というような時代の病理を反映したものでしょうが,歪な人口構成・世代関係というような,より基底的な部分にも原因はありそうです。