2021年7月27日火曜日

悩みを相談しない

  夏も本場,学校も夏休みに入ったみたいで,登下校の小学生とすれ違うこともなくなりました。

 夏休みといえば「宿題」ですが,私も,ここ毎日「宿題」をやっている感覚です。社会科の教員採用試験の要点整理集の改訂で,あとちょっとで世界史が終わるところです。カレンダーに予定を書き込んで,そのペースに沿ってやっています。私は,物事を計画的に仕上げていくのは性に合っています。

 朝から夕刻まで,この宿題の日々で,ツイッターやブログの更新が少なくなってますが,ツイッターに上げた図表のネタを書いておきましょう。タイトルのごとく,悩みを相談しない日本の若者についてです

 コロナ禍で辛い日々が続いてますが,困りごとや悩みは相談することが大切。自分で抱え込み,先行きを勝手にシュミレートして,自分と対話しても碌な答えは出てきません。客観的(楽観的)な見方ができる他人に,きちんと言語化してはき出すこと。これに尽きます。

 ところがデータで見ると,日本の子ども・若者には,これをしない人が多い。2018年の内閣府の国際意識調査で,13~29歳の子ども・若者に対し,「悩みがあっても,誰にも相談しない」という項目に,当てはまるか否かを問うています。「はい」と答えた人の率をグラフにすると以下のごとし。男性と女性に分け,年齢層ごとのパーセンテージをつないだものです。


 日本の折れ線(赤色)は,他国より高い位置にあります。とくに男性は顕著です。悩みがあっても,人に相談しない人の率が高くなっています。20代後半の男性は33%,女性は21%です。

 前にデータを出しましたが,「人に迷惑をかけるな」と言い聞かされて育ってますからね。とくに男子は,「弱音を吐くべからず」という有形・無形の圧力を感じ取っているのでしょう。

 こういう国民性を意識してか,政府の『自殺対策白書』では,学校において「SOSの出し方教育」を行うことを推奨しています。困った時は遠慮せずSOSを出しなさい,一人で抱え込んではいけません,ということです。

 自己責任論や根性論にとらわれて,SOSを出せない子どものメンタルもほぐさないといけませんが,同時に,「SOSの受け止め方」も問わねばなりますまい。当の子どもは,相談したところで説教をされるだけ,事態がかえって悪化するだけと思っているのかもしれません。

 子どもの場合,悩みの相談相手としては,親や教師が想起されますが,日本の10代に「悩みを誰に相談するか」を問うと,これらを選ぶ子の率は低くなっています。代わりに高いのは…? 以下のグラフを見てください。


 日本の子は,友人に相談するという回答の率が他国と比して高くなっています。言い方がキツイですが,親や教師はあまり頼りにされていないのかもしれません。「親や先生に相談したって…」と思っているのかもしれないですね。

 文科省の自殺対策の手引では,悩みの相談相手として友人が多きな位置を占めることを認識し,悩みをしっかり受け止める「傾聴」の仕方を生徒に教えるべき,と指摘しています。結構なことですが,教師や親にも手ほどきが要るのではないでしょうか。子どもが相談してきた時,話を決して遮ったりせず,まずはじっくりと聞くことです。

 来年度から成年年齢が18歳に下げられることに伴い,消費者被害の増加も懸念されます。今以上に,ためらうことなく悩みを相談できる環境をつくらないといけません。責任,自由に加えて支援の3点を。

 「悩み上がっても,誰にも相談しない」。こういう傾向を,国民性や文化(これとても,上の世代が下の世代に植え付けているのですが)のせいだけにせず,子どもを取り巻く周囲の「SOSの受け止め方,気付き方」の問題ともみるべきでしょう。

2021年7月16日金曜日

県庁所在地の基礎生活費

  日経新聞WEB版に「地方移住,こんなはずでは,増える支出に落とし穴」という記事が出ています。内容は推して知るべし。生活費が安くなるからと移住したもの,光熱・水道費や自動車関連費がかさんで,かえって支出が増えてしまった,という体験談です。

 そうですねえ。東京からの移住の場合,住居費は確実に安くなるでしょうが,光熱・水道費は上がりそうです。田舎はプロパンガスが多いですが,都市ガスより高いですからね。水道も,維持費の関係で田舎では割高です。自動車の費用は言うまでもません。公共交通網が発達している東京と違って,地方では車は必須です。維持費がバカになりません。

 データで総決算の比較をすると,どうなるでしょう。『家計調査』に,2人以上世帯の年間支出額平均が47都道府県の県庁所在地別に出ています。2020年のデータは,コチラの統計表です。私は,①住居費,②光熱・水道費,③鉄道・バス費,④自動車関連費の4つを,各県の県庁所在地別に呼び出しました。③を入れたのは,都市部では自動車は要らずとも,公共痛交通機関の費用が要ると考えるからです。

 手始めに,東京23区と,私の郷里の鹿児島市を比べてみましょうか。背比べの積み上げグラフにすると以下のごとし。


 住居費は鹿児島市が安いですが,自動車関連費用がかかります。しかしトータルでみると,鹿児島市の方が安いですね。上記は2人以上世帯の年間支出額ですが,平均世帯人員は東京23区が2.97人,鹿児島市が2.92人ですので,家族サイズを考慮しても鹿児島市のほうが割安です。

 郷里をひいきするのではないですが,きたれ,鹿児島へ。生活費が安いのに加え,食べ物も美味い!

 しかし47都道府県の県庁所在地のデータを眺めると,東京区部より割高なエリアも見受けられます。以下は一覧表です。


 黄色マークは最高値,青色マークは最低値です。住居費は東京がマックスですね。光熱・水道費は寒い北国で高くなっています。鉄道・バス費は都市部で高く,自動車関連費はその逆です。

 47都道府県の県庁所在地の基礎生活費は,4つの費目の合算を平均世帯人員で割った値で測れます。東京区部は,4つの費目の合算は81.25万円で,世帯人員は2.97人ですので,1人あたりの基礎生活費は27.36万円となります。鹿児島市は24.62万円です。

 47都道府県の県庁所在地の数値を,高い順に並べると以下のようになります。


 東京がマックスではないですね。上位というのでもなく,中よりちょっと上という位置です。首位は住居費と自動車費がともに高い福岡市で,その次は鳥取市です。鳥取市では車関連の支出が多い(年額55.8万円)。

 右下をみると,関西圏では基礎生活費が安上がりですね。京都市は19.14万円で,福岡市の半分くらいです。学生の街ですが,これは2人以上世帯のデータに基づく数値なんで,単身学生は除外されています。

 冒頭の日経新聞でも言われてますが,移住しようとしているエリアのデータを調べてみるのもいいでしょう。

 地方の郡部では,光熱・水道費や自動車費がもっと高くなると思われます。随所で言われていますが,移住はまず地方都市からで,それを経てから郡部に移るという2ステップを踏んだほうがよさそうです。郡部には「濃すぎる人間関係」という,別のコストもありそうですしね。

 『家計調査』からササっとこしらえたデータですが,生活費が「都市>地方」とは単純には言えないようです。

2021年7月9日金曜日

洋服への支出減少

  コロナが渦巻いて久しいですが,それが社会にどういう影響を与えたか,可視化できるデータが溜まってきています。

 私はこれまで,社会病理学を専攻する立場から自殺者数に注目してきました。コロナ前の2019年と2020年を比較すると自殺者は増えています。性別にみると,男性では微減ですが,女性では増加です。さらに年齢も加えると,若い女性で増加率が高くなってます。女子高生では1.8倍です。データと背景の考察はコチラの記事で。

 なお,総務省の『家計調査』も使えます。お金をどれほど使っているか,どういう品目に使っているかです。コロナになってから外出自粛が要請されるようになり,経済停止により家計も厳しくなっているとみられます。こういう条件が出てくると,家計はどう変わるか。

 まずは使うお金の額です。上記の資料によると,2人以上世帯の消費支出額(年間平均)は,2019年は352万547円,2020年は333万5114円となっています。コロナ禍になってから減ってますね。しかし観察のスパンをもっと広げると,今世紀初頭の2000年では380万7937円です。平成不況で収入が減っているためか,消費に使うお金も長いスパンでみて減ってきています。世帯の高齢化の要因もあるでしょうが。

 中学の社会科で習うレベルですが,生活が苦しくなると必須度の高い品目への支出は維持ないしは増える一方で,そうではない品目(奢侈品)への支出は減ります。前者の代表格は食費で,後者としては,たとえば洋服なんかはどうでしょう。

 トータルの消費支出額,食費,および洋服の支出額の変化をグラフにしてみます。2人以上世帯の年額平均で,始点の2000年を100とした指数にしています。コチラの統計表からデータを作成しました。

 今世紀になって,新自由主義政策の影響もあってか国民の生活は苦しくなり,それゆえ消費支出額は減っています。2019年から2020年の減り幅が大きく,コロナの影響も出ています。具体的な額は上述の通りです。

 食費はというと,こちらは増えていますね。消費支出全体に占める割合(エンゲル係数)もアップしており,消費が必須品に偏るようになっている,すなわち生活が苦しくなっていることが,この点からも汲み取れます。

 さてあと一つの洋服への支出額ですが,こちらは消費支出全体よりも速いスピードで減少しており,コロナの影響もよりハッキリ出ています。2000年では8万243円でしたが,2019年は5万9473円,2020年は4万3886円です。

 洋服は,外界の温度変化(暑さ,寒さ)への適応という機能もありますが,おしゃれや見栄のツールとしての機能もあり,時代につれてこちらが強くなってきています。収入が減り,かつコロナで人と会えなくなっているとなったら,この財への支出が減るというのは道理です。

 生活が苦しくなったらどうなるか? この20年間の変化ですが,教科書セオリーがはっきり可視化されるものですね。中学の社会科の資料集にでも載せていただきたいグラフです。

 洋服への支出額ですが,47都道府県別の変化も見ておきましょう。県別のデータは2007年からとれます。2007年と2020年の県別データを高い順に並べ,左右に並べてみます。県別のデータも,上記リンク先の統計表で得られます。


 若者が多い都市部で高い傾向かなと思いますが,最低値は両年とも沖縄ですね。年中暖かく,軽装だからでしょうか。

 ご自分の県の値をみていただければと思いますが,注目いただきたいのは表の色つき範囲です(薄い色は5万円台,濃い色は6万円以上)。2007年ではほとんどの県が5万円以上で,36の県で6万円を超えていました。それが2020年では,5万以上が11県,6万以上は3県しかありません。

 上記のデータは地図化してツイッターにあげています。コメントにもありますが,こういうマップも,国全体が貧しくなっていることの可視化です。洋服を買う量が減っているのか,それとも安いやつで済ませているのか,そこまでは判別できません。

 あと一つのデータを示しましょう。洋服といってもいろいろありますが,中でも減り幅が大きいのは,スーツ関連です。背広,ワイシャツ,ネクタイへの年間支出額はどう変わったか。最初のグラフと同じく,2000年の値を100とした指数のグラフにします。


 すごい減りっぷりですね。ネクタイに至っては,この20年間で8割の減少です(1595円→307円)。クールビズとやらで,夏場,ネクタイをする頻度が減っているのもあるでしょう。

 収入の減少で,以前は老舗で高級品を買っていたのが,最近は安いやつで済ませるようになっているのもあるでしょうが,働き方の変化も大きいでしょう。今はオフィスでもカジュアル化が進んでますし,雇用労働自体が減ってきています。

 お金の使い方の変化にも,時代の変化がハッキリ表れるものです。

2021年7月6日火曜日

非正規公務員の悲惨

 今年は梅雨入りが遅く,7月になっても雨の日が続いています。蒸しますが,いかがお過ごしでしょうか。

 昨日,「非正規公務員の過半数が年収200万未満」という記事(NHKサイト)を見かけました。ある団体による大規模調査の結果です(1252人が回答)。それによると,661人(52.8%)が年収200万未満と回答したとのこと。働く貧困層,それも「官」の世界で働く,いわゆる官製ワーキングプアです。

 今や「官」の世界も非正規化が進んでおり,非正規の比重は小さくありません。生活苦や正規との格差への不満を訴える声が看過できなくなり,大規模調査に踏み切った,ということでしょうか。改革を促す貴重なデータであると思います。

 なお公務員の収入は,官庁統計でも分かります。毎度使っている『就業構造基本調査』です。有業者の年間所得分布を,産業分類別に知ることができます。コチラの統計表です(2017年)。

 「公務」というカテゴリーの有業者を取り出し,正規雇用と非正規雇用に分けて,年間所得の分布をとってみます。ジェンダー差もみるため,性別も入れましょう。母数は男性正規が154万人,女性正規が42万人,男性非正規が11万人,女性非正規が27万人です。


 左は正規,右は非正規ですが,分布の違いが明瞭です。正規では所得200万未満はほんのわずかですが,非正規では大半です。男性では56.0%,女性では76.7%です。上記の団体の調査で男女込みで52.8%とのことですが,官庁統計の数値はそれよりも高くなっています。

 上表の公務員とは産業分類が「公務」の人で,教員,警察官,図書館司書,児童福祉士などは入っていません。多くが役所の職員かと思いますが,こういうフツーの公務員に限ると,非正規のプア化の状況がハッキリと出ます。

 上記の分布から中央値(median)を計算すると,男性正規が588万円,女性正規が467万円,男性非正規が186万円,女性非正規が137万円となります。ちょうど真ん中の人たちですが,非正規は男女とも200万円に届きません。

 地域別にみると,もっと悲惨な値も出てきます。上記でリンクをはった統計表では,「地域」という変数もあります。これを入れれば,47都道府県別に,非正規公務員の所得分布を呼び出せます。それをもとに,各県の非正規公務員の所得中央値を算出してみました。

 県別にバラすと人数が少なくなるので,男女込みにしています。まあ非正規公務員では女性が多いので,ほぼ女性の傾向を反映していると読んでいいかと思います。下表は,高い順に並べたものです。


 どの県も200万円に及びません。それどころか,150万円にも届かない県が多数です(色付き)。全国値は149万円。濃い色は140万円未満で,最下位の鹿児島では114.8万円です。私の郷里ですが,生活が成り立つレベルではないですね。

 上の表から,全国どこにおいても,非正規公務員はプアであることが分かります。

 非正規公務員は女性が多く,夫の扶養内で就業調整してる人がたくさんいるんじゃないの,という疑問もあるでしょうか。別の統計表にて,公務員の週間就業時間の分布をとってみると,そうでもないようです。


 就業時間が分かる公務員のデータですが,正規も非正規も,最頻階級は35~42時間ですね。非正規も,フルタイム就業の人が最も多くなっています。35時間以上のフルタイム就業の割合は全体の35.6%,3人に1人です。

 お店のパートとは違い,公務員となると,非正規もそこそこ労働時間が長いことが知られます。専門的な業務も多く,無給の残業をしている非正規の人もいるのではないでしょうか。にもかかわらず,年間所得は先ほどみたように200万,地域によっては150万にも達しません。ブラック労働撲滅の旗振りをする「官」の世界でこうであるとは,開いた口がふさがりません。

 冒頭のNHK記事によると,役所の非正規職員は,今では会計年度任用職員というみたいです。ボーナスも支給されるなど待遇改善もされているようですが,まだまだ不十分であることは政府も認めています。

 フレキシブルな働き方が求められる中,非正規雇用者の待遇改善は急務。いや,そもそも「正規・非正規」なんていう区分が他国に例を見ないおかしなものであって,職務内容や労働時間に依拠して給与が決まる,素直なシステムに変革すべきです。それと最も隔たってるのが「官」の世界であるとは,何とも皮肉なこと。

 改革が必要なのは,データでも明らかです。