2020年1月31日金曜日

2020年1月の教員不祥事報道

 年が明けたと思いきや,1月ももう終わりです。月末の教員不祥事報道の整理です。よく続けるもんだと言われますが,教育委員会の関係者から「不祥事防止の研修資料作りの参考になります」というお言葉をいただき,継続しております。

 今月,私がネット上でキャッチした不祥事報道は37件です。赤字は注目事案。教育実習生にセクハラをした小学校教諭。対生徒や同僚だけでなく,実習生も対象になり得ます。
 
 私が中学の頃,実習にきた女子学生が自己紹介したとき,何も質問が出なかったので,担任教員(男性)が「お前ら,何か聞かんか。彼氏いるんですかとか」と発言し,当人が顔を赤らめて「いません」と答えたのを覚えています。今なら完全にアウトで,大学から強い抗議がくることでしょう。実習セクハラもよく起きていると思われますが,新聞紙上で報じられるのはあまりないので,新鮮に感じました。

 校長のパワハラが新聞沙汰になるのも珍しい(秋田の中学校)。昨年の11月,パワハラの判断に資するため,概念と具体例を盛った公的指針が示されました。日本社会に長く根付いているパワハラですが,学校も例外ではありません。

 冬も本場,2月になります。背景を雪模様に変えます。昨年の2月はしょうもない争いに神経を費やしたのですが,何事もなく,穏やかに春が迎えられることを欲します。
https://facts.tokyo/3316

<2020年1月の教員不祥事報道>
児童ポルノ容疑で中学校教諭逮捕(1/7,NHK,福岡,中,男,27)
小3女児にわいせつ行為、26歳講師を起訴
 (1/7,日刊スポーツ,大阪,小男26)
当時16歳の女子高校生に”淫行” 高校教師の男逮捕
 (1/8,九州朝日放送,福岡,高男33)
女子バスケ部で暴力、暴言 大阪市、男性教諭を停職
 (1/9,サンスポ,大阪,中男36)
教職員へパワハラ、中学校長を停職処分 秋田県教委で初
 (1/9,産経,秋田,中男50代)
児童の名簿紛失、教諭の小学校教諭 校外に持ち出し禁止の名簿
 (1/9,埼玉新聞,埼玉,小)
酒気帯び運転容疑で高校講師逮捕(1/9,NHK,東京,高男59)
教諭が『殺すぞ』と暴言」生徒の告発を校長が2度放置
 (1/10,読売,大阪,中,男,59)
中学教師がスーパーの駐車場から軽自動車盗む
 (1/12,テレ朝,群馬,中,男,27)
教え子の太もも掴み男性教諭逮捕(1/14,チバテレ,千葉,高男44)
わいせつ疑いの中学教諭懲戒免職(1/14,NHK,兵庫,中男40代)
横浜の市立高校教諭逮捕 少女にわいせつ疑い(1/16,産経,神奈川,高男26)
教育実習生にわいせつで教諭停職(1/16,NHK,長野,小男51)
路上で女子大生に抱きつきけがさせ逮捕 小学校教諭を懲戒免職処分
 (1/17,佐賀テレビ,佐賀,小,男,47)
校長2人を懲戒処分 三重県教委、交通事故で減給
 (1/17,伊勢新聞,三重,中男59,小女60)
特別支援学校講師ら3人懲戒処分
 (1/17,NHK,熊本,特男24,小男31,小男60,体罰)
県立高教諭 傷害容疑で逮捕(1/19,NHK,沖縄,高男49)
「見知らぬ男が2階で寝ている」女性から通報…25歳小学校教諭 泥酔し住居侵入
 (1/19,FNN,北海道,小男25)
香川県で2台の車が正面衝突し2人が死亡 県立高の教頭を逮捕
 (1/19,共同通信,香川,高男54)
教諭が生徒2人の首近くにカッターナイフ(1/20,朝日,千葉,中男20代)
小学教諭による卑劣犯行の全容 修学旅行費盗み着替え盗撮
 (1/20,産経,奈良,小,男,25)
教え子の女子生徒と性行為、高校講師を懲戒免職 
 (1/21,読売,岐阜,高,男,24)
落書き容疑で中学教諭逮捕 トイレ内、生徒も中傷か
 (1/21,産経,千葉,中男47)
小学教諭を児童ポルノ製造容疑で逮捕 16歳少女わいせつ動画撮影
 (1/22,毎日,愛媛,小男29)
個人情報入ったUSB、出張先に置き忘れ(1/22,産経,千葉,中男34)
剣道部監督が部員から現金、愛媛(1/23,神奈川新聞,愛媛,高男60)
盗撮目的トイレ侵入 教諭が免職(1/23,NHK,埼玉,小,男,24)
妻に包丁突き付け停職 埼玉の高校教諭処分(1/23,産経,埼玉,高男29)
県教委 教諭2人を懲戒免職
 (1/23,NHK,静岡,児童ポルノ禁止法違反,中男30代,高男20代)
文庫本を万引き、広島の教諭逮捕(1/25,毎日,広島,高男57)
下越地方の男性教諭を減給処分 部活動指導中に体罰
 (1/25,新潟日報,新潟,高男50代)
茨城県教委、男性教諭を懲戒免 女性にわいせつ行為
 (1/25,茨城新聞,茨城,特男51)
部員にわいせつ 男性教諭を懲戒免職(1/28,サンテレビ,兵庫,高男40代)
窃盗容疑の教諭 逮捕時職業偽る(1/28,NHK,神奈川,小男48)
女児に強制わいせつ 27歳の小学校教諭を逮捕(1/29,FNN,島根,小男27)
公立学校教諭2人が懲戒免職
 (1/30,神奈川テレビ,神奈川,中男28,小男40,わいせつ行為)
教え子の高2男子にわいせつ、女子更衣室で盗撮… 2教諭を懲戒処分
 (1/31,神奈川新聞,神奈川,わいせつ:小男40,盗撮:中男28)

2020年1月26日日曜日

レイプ事件の何%が裁判所まで行くか

 性犯罪被害者が刑事裁判官の研修会で講演したのだそうです。性犯罪者の心理について知って欲しい,というねらいとのこと。
https://www.jiji.com/jc/article?k=2020012500191&g=soc

 近年,一般人には理解しがたい論理による,性犯罪の無罪判決が相次いでいます。「本当に嫌なら激しく抵抗したはず」「酒で意識を飛ばせた女性への行為については,被告が『同意がある』と思った可能性があるので,故意とは言えない」etc…。機械的に法の構成要件や判例を適用するのではなく,裁判官にもっと「人間の心」を持ってほしい,ということでしょうか。

 上記記事では,「性犯罪では,山のように不起訴事案があり,警察に行けない人さえいる。裁判所にたどり着くのはごくわずかだということを裁判官に分かってほしい」という,弁護士のコメントも記されています。

 レイプ犯を法廷に立たせるには,①警察が被害届を受理して捜査に踏み切ること,②検察が当人を起訴すること,という2ステップを経ないといけません。この2つの関門を通過できる率を出してみると,「裁判所にたどり着くのはごくわずか」というのがよく分かります。

 まず①です。2012年1月に法務総合研究所が実施した犯罪被害調査によると,過去5年間に強姦(現行法では強制性交等)の被害にあったという16歳以上の女性の率は0.27%です。この比率を,同年齢の女性人口にかけると15万3438人となります。これが,2007~11年の5年間の推定被害者数なんですが,同じく2007~11年の警察統計に出ている強姦事件認知件数の合算は7257件。警察が認知した(被害届を受理した)事件数は,推定被害者数の4.73%でしかありません。

 これが①の関門の通過率ですが,さもありなんですよね。大抵の被害者は泣き寝入りで,警察に行くことすらしません。勇気を出して警察署の門をくぐっても,「よくあること」「証拠がないので難しい」と,被害届をつっぱねられます。この辺りのことは,伊藤詩織さんの『Black Box』(文藝春秋,2017年)に書いてあります。

 次に②です。警察が被害届を受理し,捜査をした被疑者の何%が起訴されるか。被疑者の起訴率は法務省の『検察統計』に出ています。年による変化がありますが,2007~11年の強姦罪被疑者の起訴率の平均値は49.56%となっています。およそ半分です。

 ①の通過率は4.73%,②のそれは49.56%と出ました。ゆえに,レイプ事件の何%が裁判所まで行くかという,タイトルの問いへの答えは,この2つを掛け合わせて2.34%となります。推定事件数43件に1件です。図解すると,以下のような感じです。


 ラフな試算ですが,冒頭の記事で上谷弁護士が言われているように,「裁判所にたどり着くのはごくわずか」ということが非常によく分かります。

 とくに①が難関のようです。この段階にて,推定事件数の95%が闇に葬られています。多くの被害者が羞恥心や恐怖から警察に行かないためですが,女性警官の率を増やすなど,被害を訴え出やすい環境を作るべきです。被害届をつっぱねられても,弁護士に同行してもらえば,受理してもらえる確率がかなり高まるとのこと。

 次に②の関門。検察が被疑者を起訴するかどうかの判断ですが,上述の通り,2007~11年の強姦被疑者の起訴率の平均値は49.56%,およそ半分です。しかし最近では,率に変化がみられます。


 上図はレイプ犯の起訴率の推移ですが,低下の傾向をたどっています。2018年の起訴率は34.3%と,90年代の頃と比して半減です。最近の起訴率を適用すると,「レイプ事件の何%が裁判所まで行くか」という問いへの答えは,もっと残念なものになります。

 性犯罪の無罪判決が相次いでおり,検察が起訴をためらうようになっているのでしょうか。しかし近年の裁判所の判断は,一般社会からすれば理解しがたいものが多く,だからこそ冒頭で紹介したように,性犯罪被害者が裁判官の研修会で講演したりしているわけです。

 事件時,被害者はあまりの恐怖に体が凍り付いてしまうことが多い。こういう医学の知見を知っているのなら,「激しい抵抗」というレイプの構成要件を機械的に適用するのには,裁判官も慎重になるはず。被害者の肉声に耳を傾け,認識に幅を持たせてほしいと思います。随所で言われていますが,望ましいのは「合意のない性行為は罰する」ようにすること。

 しかし,被害者の心理をよく心得ている裁判官もいます。伊藤詩織さんの民事訴訟を裁いた裁判官です。事件の翌日,被告の男性を気遣うようなメールを送ったことを,被告の弁護士が「レイプ被害者がそういう行動をとるのはあり得ない」と追及したのですが,性被害者が事実を受け入れられずに,今までと変わらないふるまいをするのはありうること」と,被害者の心理に理解を示しています。

 性犯罪者が然るべき罰を科されるには,①被害届の受理,②起訴,③裁判での有罪判決,という3段階を踏まないといけませんが,近年,いずれの段階の判断もおかしいものになりつつあります。この記事で導いたのは,③までの到達確率が2.34%という数値です。法廷に引っ張り出されるレイプ犯は,推定全数の43人に1人。性犯罪天国と揶揄されても仕方ない,先進国というにふわしくないファクトです。

2020年1月23日木曜日

アラフィフの危機は普遍則?

 アメリカの研究者が,世界132か国の調査をもとに,年齢と幸福度の関連を分析したところ,幸福度の年齢カーブはV字型になるのだそうです。ボトムは47~48歳であるとのこと。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200121-00010014-fnnprimev-life

 家庭でも職場でも,いろいろ役割がのしかかるステージですからね。この年代では「幸福度を下げる要素がたくさん揃っている」と書かれています。

 私はこういう報道に接すると,元資料に当たって追試をしてみたくなるのですが,公開されているデータではないので,それは叶いません。しからば,国内統計で類似のデータが出ているものはないかと探したところ,いいのがありました。スポーツ庁の『スポーツの実施状況等に関する世論調査』(2018年度)です。なんとなんと,調査対象の2万人のローデータファイルまでアップされているではないですか。

 調査票をみると,健康意識と生活充実度を尋ねた設問があります。前者はQ1,後者はQ33です。この2つの設問の回答を年齢別に集計し,自分を健康だと思っている人,生活が充実していると感じている人のパーセンテージを出しました。サンプルが多いんで,細かい1歳刻みの集計にも耐えます。

 年齢別の数値をそのままグラフにすると凹凸が激しいので,3歳間隔の移動平均法で年齢カーブを滑らかにしました。40歳の場合,39歳,40歳,41歳という3つの年齢の平均をとるわけです。こうすることで,傾向を見いだしやすくなります。


 青色は健康曲線,赤色は生活充実曲線です。アメリカの研究者が描いた幸福度曲線と同じく,こちらもV字型となっています。なんとなんと,ボトムも全く同じく47~48歳あたりではないですか。

 子どもの教育費がかかる時期で,職場では管理職としての重責がのしかかります。学校だと主幹教諭や教頭(副校長)とかになる頃ですが,ものすごい激務で,希望降任をする人もいます。子どもを相手にする実践者から,組織を統括する管理職への移行に,アイデンティティの喪失を感じる人も少なくありません。教員にとっては,危機のステージです。

 しかし,それが緩和される50代からは上昇に転じ,生活充実度はうなぎ上りに高まります。60代以降の伸びが大きいですが,退職して,好きなことをできる時間的余裕ができるためでしょうか。

 アラフィフの危機はよく言われるのですが,多くの調査データで観察される普遍則といえそうです。上記のようなグラフを知っておくと,「そのうち上向きに転じる」と,気が楽になるかもしれません。

 でも,どうなんでしょうね。「今は懸命に働いて貯金し,定年後は存分に楽しもう」という考えの人もいますが,楽しみを,体力の弱った高齢期に先延ばしする人生って一体…。

 「お金の価値は年齢と共に低下する」といいます。同じ1000万円が手元にあっても,若い人なら世界中の色んな所に行けますが,老人の場合,行動可能範囲は限られるでしょう。現役時に働きづめで遊ぶ術も知らず,ガッツリ貯め込んだ貯金は減らぬまま。あげく,振り込め詐欺でゴッソリ巻き上げられるなんてことになったら,実に哀れです。

 若い頃から生活を充実させておくことが,老後を豊かに生きる条件になります。60歳を境に生き様をガラッと変えるなんて,そう簡単にできることではありますまい。

 目下,アラフィフの年代に「人生の谷」が見受けられます。このステージの人たちを,どう救うか。アラフィフ・クライシスに対処する専門家への需要も増すかもしれません。

2020年1月17日金曜日

子どもの自殺だけは増えている

 厚労省の発表によると,2019年の年間自殺者は1万9959人で,統計が始まって以来初めて2万人を下回ったのだそうです。

 厚労省だから『人口動態統計』かなと思ったのですが,統計開始が1978年と書かれていますので,警察庁のデータみたいですね。「ホンマかいな」と元資料に当たったところ,『2019年(令和元年)中における自殺の状況』に確かに当該の数字が出ています。

 「統計史上初の2万人割り!」というのが目玉みたいですので,その様をグラフにしてみましょう。警察の自殺統計が始まった1978年から2019年までの,年間自殺者数の推移をたどると以下のようになります。


 1976年生まれの私が生きてきた時代とほぼ重なります。自殺者数は90年代の半ばに急増し,1998年に3万人のラインを越えます。前年に山一証券が倒産し,日本経済が急速に悪化したためです(98年問題!)。増分の多くは,50代の男性でした,無慈悲なリストラによるものでしょう。

 その後,2011年まで年間自殺者3万人越えの時代が続きます。悲しいかな,私の世代の就職・結婚期はこの暗黒時代と重なっていました。ロスジェネと呼ばれる所以です。

 自殺者は2009年に3万2845人に達した後,坂を転げるように減少してきています。景気回復に加え,中高年や高齢層を対象とした自殺対策が功を成したのかもしれません。報じられたとおり,2019年の自殺者は1万9959人で2万人を割りました。

 しかしこれは人口全体の自殺者数で,国民は社会的な役割を異にする層からなっています。それを分かつ基準は性別や年齢なんですが,年齢層別にバラして変化をみてみると,「おや」という傾向が出てきます。2019年の年齢層別数値はまだ出てませんので,前年の2018年の年齢層別自殺者数を,ピークだった2009年と比べると以下のようです。


 この9年間で自殺者は大幅に減り,どの年齢層でも減っていると言いたいのですが,10代だけは増えてしまっています。565人から599人への増加です。少子化により10代人口が減っていることを思うと,若き青少年が自殺に傾く傾向は殊に強まっているといえます。

 子どもの自殺のニュースはよく報じられますよね。いじめを苦にした自殺が多いと思われがちですが,警察庁の自殺の動機統計に当たってみると,多いのは「学業不振」や「親の叱責」です。「友人関係の不和」というような動機よりも,これらのほうが多くなっています。

 少子化で,子どもが激的に減っています。2019年の出生数は86万人と予測を大きく下回り,前年よりも6万人減です。こうなると,保護者からの期待圧力は殊に強くなるでしょう。もうすぐ中学受験が始まりますが,背中に包丁をつきつけて勉強させる毒親もいるとのこと。

 こういう状況の中,生活態度を不安定化させた子どもがスマホを覗くと,自殺勧誘サイトのようなものが目に触れ,同志とつながって最悪の結果となってしまう…。

 ・プッシュ要因=少子化による期待圧力の高まり。
 ・プル要因=スマホで,SNS上の自殺勧誘サイトの類が容易に目につく。

 この2つの要因が揃ってしまっていると。

 厚労省の『人口動態統計』では,より長期的なスパンで自殺者数の推移をとれます。10~14歳の年間自殺者数を,ベース人口10万人あたりの数(自殺率)にし,1950年からの推移を描いてみます。年による凹凸が激しいので,3年次の移動平均の曲線も添えましょう。2010年の自殺率は,2009年,2010年,2011年という前後の年も合わせた3年次の平均とするわけです。こうすることで推移を滑らかにできます。


 青色の自殺率は凹凸が激しいですが,赤色の移動平均で大局的なトレンドをみれます。なんと,10代前半の青少年の自殺率は戦後最高ではないですか。

 2010年頃からの伸びが大きいですが,スマホが普及し出した頃ですよね。先ほど指摘したプル要因(SNS上の自殺勧誘サイトの類)と接触しやすくなったことが大きいでしょう。言わずもがな,プッシュ要因(期待圧力)も時代と共に強まっています。

 対策は,これらのプッシュとプルの要因を除去することです。保護者は養育態度の歪みが出ないよう注意し,警察や事業者はネットパトロールを強化し,よからぬ情報を一掃すること。言い古されていることですが,こういうことが基本となるでしょう。とくに,長期休暇明けの時期は要注意です。内閣府の過去40年間のデータによると,子どもの自殺者は9月1日がダントツで多くなっています。
https://twitter.com/tmaita77/status/1214060294491652096

 子どもの自殺のサインは,SNS上に吐露されやすいもの。自殺勧誘サイトの駆除も含め,こういうSOSを汲み取るネットパトロールに際して,ネットスキルに長けたひきこもりの中高年の力を動員するのもいいでしょう。対人関係は苦手だが,こういうことは得意という人はいるはず。彼らの社会参加を促すことにもなれば,一石二鳥です。

 国民全体の自殺者減少が注目されていますが,目を凝らすと,子どもだけは増えています。自殺対策の重点を,中高年や高齢層から子ども・若者にシフトする時です。

2020年1月14日火曜日

富裕層,成績がいい子がいじめられる国

 不登校・いじめ研究の第一人者の森田洋司教授が逝去されました。

 2006年の社会病理学会で不登校の地域差研究を発表した際,「マクロレベルの手堅いアプローチですねえ」と褒めていただいたのを覚えています。2008年に出した『47都道府県の子供たち』をお送りした際も,丁重なお返事を頂戴しました。謹んで,先生のご冥福をお祈りいたします。

 森田先生が提唱された,いじめの四層構造論は非常に有名です。いじめを加害者の人格問題ではなく,観衆や傍観者をも射程に入れた集団現象(学級病理)と捉える視点。一番外側の,人数的に多い傍観者をして,いかに仲裁者に変えるか。道徳家の説教とは違った,実践的な解決策も提示されています。詳細は,『いじめ-教室の病』という本にて。

 いじめの統計といったら,文科省の『全国学力・学習状況調査』にて,いじめに対する意識(許容度)を尋ねた結果が出ています。国際学力調査の「PISA」では,いじめを受ける頻度について問うています。

 最新の「PISA 2018」によると,日本の15歳生徒のうち,「少なくとも月に数回,何らかのいじめを受ける」と回答した生徒の率は17.3%となっています。調査対象の75か国の中では下から6番目と,低い水準です。トップはフィリピンの64.9%,2位はブルネイの50.1%,3位はドミニカの43.9%…。上位には,発展途上国が多くなっています。イギリスは27.9%,アメリカは25.9%という具合です。

 何をもっていじめというかが国によって違うでしょうから,この数値の比較はあまり意味がないかもしれません。しかし国内の属性間の比較をすると,日本の特異性が出てきます。ツイッターで発信したところ注目されましたので,ブログにも載せておきましょう。

 ・富裕層の生徒の被害率が,貧困層よりも何ポイント高いか?
 ・成績良好な生徒の被害率が,成績不良の生徒よりも何ポイント高いか?

 「PISA 2018」の結果レポートの第3巻に国別のデータが出ています。本書は,OECDのサイトにて,全文をPDFでダウンロード可能です。以下に掲げるのは,差分が大きい順に74か国を並べたものです。


 マイナスの数値が多くなっています。富裕層よりも貧困層,できる子よりもできない子がいじめられやすい国が大半,ということです。

 しかし日本だけは,両方ともプラスの値になっています。貧困層よりも富裕層,できない子よりもできる子がいじめられる,世界でも稀な国であるのが分かります。韓国も,できる子がいじめられるようですが,受験社会であるためでしょうか。

 出る杭は打たれる,和を以て貴しとなす,厳しい外圧に晒されて社会を築いてきた経緯がないので,つまんない足の引っ張り合いをする余裕がある…。いろんなことを言えますが,欧米の人からすれば「?」でしょうね。自尊心がないので,そんなしょーもないマウントをし合うのかと。

 上表のデータをグラフにしましょう。横軸に富裕層と貧困層,縦軸に成績良好と不良の差分をとった座標上に,74か国を配置します。


 日本は両軸ともプラスなんで,右上の象限にあります。貧困層よりも富裕層,できない子よりもできる子がいじめられる社会です。こういう社会が日本だけというのは何とも怖い,いや情けない…。

 認めたくはないですが,これから先,富の格差はべらぼうに大きくなってくるでしょう。AIに代替されない創造性と,それを道具として使いこなすデジタルリテラシー。これらがある少数の人と,そうでない大多数との格差です。

 しかし封建社会と違い,前者は後者を搾取しまくる悪人ではなく,イノベーションを発揮して,皆の生活を豊かにしてくれるメシアです。キメラゴンさんという月収7ケタの中学生が話題になってますが,学校にも行かず,自身のイノベーションで成功を遂げている,今後の青少年にとって実に頼もしいモデルとなっています。「こういう生き方もできるんだぞ」と。

 しかし,ここまで頭角を現すとアンチが出てくるのが常で,心ない誹謗中傷も受けているようです。上記のデータの通りですね。マナブさんというインフルエンサーが,誹謗中傷に苦しんでいるが,弁護士を立てるお金がないという人向けに,資金を援助するというプロジェクトを発動されています。安全地帯から石を投げる,頑張っている人の足を引っ張る。そういう卑怯者を一掃する上で,有意義なことだと思います。
https://twitter.com/tmaita77/status/1211870337022869505

 私も人を激しく攻撃することがありますが,実名でやっています。相手が法的措置をとると言ってきたら,いつでも法廷に出向く覚悟でいます。人を攻撃するなら,それくらいの覚悟を持つべきです。それがないくせに,匿名で人格攻撃をするなど卑怯千万。

 分かりますか,コンサルの*さん。私の告発記事のおかげで,すっかり仕事がなくなっていることでしょう。匿名でコソコソ卑怯なことをした,当然の報いです。きっぱりと廃業し,方向転換をしてください。

2020年1月12日日曜日

年齢層別の餓死者数

 われわれロスジェネの苦境が知れ渡ってきましたが,餓死者まで出ているという,ショッキングな社説に触れました。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200110-00010005-nishinpc-soci

 飽食の国・ニッポンで餓死なんてあるはずないと思われがちですが,あるのですよね。統計でも,その存在をうかがい知ることができます。死者の数といったら厚労省の『人口動態統計』ですが,死因の小分類カテゴリーに「食糧の不足」というものがあります。死因コードは,X53です。

 この死因で亡くなった人が餓死者とみられます。『人口動態統計』の死因小分類統計は,1999年以降のバックナンバーがネット上で公開されています。私は各年の資料に当たり,「食糧の不足」という原因による死亡者数を採取しました。下図はその推移です。性差があるので,男女で分けています。


 始点の1999年,私が大学を出た年ですが,この年では年間85人の餓死者が出ていました。その後,小泉内閣の「痛みを伴う改革」という残酷路線もあってか,2003年に93人とピークを迎えます,

 それ以降はリーマンショックの2008年,東日本大震災の2011年に突起があるものの減少傾向で,2018年の餓死者は22人と,今世紀初頭の4分の1ほどとなっています。景気回復に加え,フードロス志向が高まり,フードバンクのような取組も本格化してきているので,悲劇の確率は減っているのでしょうか。ITの普及も,困窮者に食べ物を届けることに寄与しています。

 性別でみると,餓死者には男性が多くなっています。1999~2018年の餓死者は997人ですが,そのうちの806人(80.8%)が男性です。餓死者の8割は男性であると。経済力は男性のほうがありそうですが,調理力はむろん,人とのつながり(社会関係資本)は女性に劣りそうです。変なプライドが邪魔をして助けを求められないなんてのも,男性のほうが多そうです。

 ちなみに年齢層別にみると,きれいな傾向が出てきます。1999~2018年の餓死者で,年齢が分かるのは914人です。私はこの914人のデータを,性別・年層別のグラフにしてみました。なおこの中には,2009年の死者は含みません。この年だけ,なぜか公表統計のファイルが年齢層別に分割されていて,それぞれのファイルから餓死者数を拾うのは非常に面倒であるので,採取を断念しました。

 それでも900人超のデータなんで,安定した傾向が検出できます。ブツを見ていただきましょう。


 50代をピークとした,きれいな山型になっています。相対的にですが,危ないのはアラフォー年代であるようです。

 人件費が高いという理由で,リストラされやすいステージです。年齢の壁に阻まれ,再就職も容易ではありません。どうしようもなくなって生活保護を申請しようにも,「まだ生産年齢なんで働けるはず」と突っぱねられる…。苦難のオンパレードです。

 男性が圧倒的に多いですが,「金の切れ目が縁の切れ目」ってことで,妻子と分かれた(逃げられた)人も多いでしょう。生活が荒み,地域に人間関係もないので,独り身で孤立しがちになると。

 2007年に北九州市で,「おにぎり食いたい」と書き残して餓死した人がいましたが,無念の死を遂げたのは52歳の男性でした。上記グラフのピークのステージです。執拗な就労指導で生活保護を打ち切られたのが原因だったそうです。

 これから先,ネットでフードバンク等の情報が得られるようになり,ドローンで困窮者に食べ物を届けることも容易になるでしょう。こういうテクノロジーを駆使して,悲劇を無くしたいもの。国民1人が1日茶碗1杯分の食べ物を捨てる国で餓死が起きる,食品ロスと餓死が背中合わせの国なんて,何ともおかしい。

 データから分かる要注意層は,50代の男性であるようです。会社にどっぷり浸かってガシガシ稼ぐものの,そこを切られたら脆い。職場・収入と共に家族も失い,一気に転落することになる。会社一辺倒のスタイルは,いいことがなさそうです。随所で言っていますが,複数の顔を持ちたいもの。

 食品ロスと餓死が同居する国というのは,バランスのよくない生き方をしている人が多い国です。その矛盾が,50代になると一気に噴き出てくる。ワークライフバランスのとれた社会では,上記グラフのような型にはならないでしょう。

2020年1月8日水曜日

ジニ係数の国際比較(2017年)

 「税金は金持ちから取るべし」。日本ではこの原則の実現度が低いだろうなと思ってましたが,データをみるとそうでもないようです。

 昨日ふと目にした日経記事によると,給与所得者の4.2%でしかない「1000万プレーヤー」が,所得税総額の半分を負担しているとのこと。税による再分配も,そこそこ機能してるんだなと思いました。

 富裕層は,国内の富のかなりの部分を占有しているのも事実です。だからこそ税による再分配が必要なんですが,その程度は社会によって異なっています。「国民の1%でしかない超富豪が,国内の富の半分をせしめている」なんていう報道を見かけることがありますが,ここまで極端でないにせよ,どの国にも多かれ少なかれ,こうした偏りはあるはずです。日本の現状はどうなんでしょう。

 ILOの国際労働統計に「Labour income distribution」という表が出ています。収入に依拠して国内の有業者を10の階層(D1,D2,…D10)に等分し,各層の収入が有業者の収入総額の何%に当たるか,というデータです。
https://ilostat.ilo.org/data/

 日本の2017年のデータをみると,上位10%(D10)の階層の収入が,全有業者の収入合算の27.6%を占めています。上位10%の稼ぎが,全労働者の稼ぎ総額の4分の1以上を占めると。下位半分の層(D1~D5)のシェア合算(19.9%)よりも高くなっています。

 上位10%の稼ぎが,下位半分の合算よりも多い。スゴイ偏りに見えますが,国際的にみるとこういう国が大半です。上位10%の占有率がハンパない国もあります。その一方で,階層間の偏りが小さい社会もあります。たとえば,「週4日・1日6時間労働」を提唱しているフィンランドです。

 10の社会をピックアップして,上位10%(D10)と下位半分(D1~D5)の収入シェアをグラフにしてみましょう。


 どうでしょう。目を引かれる部分から書くと,インドでは上位10%の収入が全体の7割,アフリカのニジェールでは9割をも占めます。ものすごい偏り,いや格差です。インドはカースト制,ニジェールは一部の富裕層が土地や生産手段を寡占しているためでしょう。

 この2国のインパクトが強すぎて,他の8か国の差が見えにくくなりますが,日本も含め,「下位半分 < 上位10%」の国が多くなっています。しかしフランスとフィンランドは逆です。フィンランドは下位半分のシェアが3割を超えており,平等度が比較的高い社会です。

 各国の収入分布の偏り,稼ぎの不平等度を単一の尺度で測りたいのですが,どういう数値を計算したらいいでしょう。上位10%から下位半分を引くというのは単純すぎます。私は久々に,ジニ係数を計算することとしました。統計の素養がある方はご存知のはず。そう,分布の偏りを数値化するならコレです。日本のデータを例に,計算方法を説明します。


 収入10分位階層の人数と収入シェアの分布です(全体=1.0)。10等分ですので,有業者の人数比はどの階層も0.1(10%)となります。しかし各階層の収入分布はそれに見合っておらず,上位10%(D10)の層だけで,全階層の収入の28%が占められています。下位半分(D1~D5)のシェアは2割ほどでしかありません。右欄の累積相対度数をみると,人数分布と収入分布のズレはもっと分かりやすいでしょう。

 この累積相対度数をグラフにすることで,両者のズレの程度が視覚化されます。横軸に人数,縦軸に収入の累積相対度数をとった座標上に10の階層のドットを配置し,線でつなぎます。こうしてできた曲線をローレンツ曲線といいます。


 人数と収入の分布が等しい場合,つまり完全平等の場合,ローレンツ曲線は対角線と重なります。逆に両者のズレが大きいほど,曲線の底が深くなります。

 ここで求めようとしているジニ係数は,対角線とR曲線で囲まれた部分の面積を2倍した値です。図でいうと,色付きの部分です。完全平等の場合,対角線とR曲線は重なりますので,ジニ係数は0.0となります。対して,極限の不平等状態の場合は,色付き部分は正方形の半分の三角形となりますので,ジニ係数は,0.5を2倍して1.0となります。ジニ係数が0.0から1.0の範囲をとるというのは,こういう意味合いです。

 現実のデータは,この両極の間のどこかに位置するわけです。上図の色付き部分の面積は0.210で,日本の収入ジニ係数はこれを2倍して0.420となります。色付き部分の面積の計算方法は,下記記事を参照してください。
http://tmaita77.blogspot.com/2011/07/blog-post_11.html

 日本の有業者の収入分布の偏り,すなわち不平等度はジニ係数0.420という数値で測られます。これをどうみるかですが,一般にジニ係数が0.4を越えたら要注意水準と判断されるそうです。最近の日本はこのラインを越えてしまっていると。人口の高齢化,雇用の非正規化が進んでいることを思うと,さもありなんです。

 最初のグラフから察する限り,お隣の韓国やアメリカもそうでしょうね。インドやニジェールに至っては,ジニ係数はさぞ大きいでしょう。ILOの統計から189か国の収入ジニ係数を計算しましたので,ご覧に入れましょう。

 まずはジニ係数が0.5に満たない118か国です。低い順に配列し,0.05間隔で区切りを設けています。


 左上は,収入ジニ係数が低い社会です。先ほどみたフィンランドをはじめ,北欧や東欧の旧共産圏が多くなっています。イメージ通りですね。

 目ぼしい国を拾うと,フランスは0.327,ドイツは0.388,日本は先に見た通り0.420です。イギリスは0.421,アメリカは0.429,韓国は0.443となっています。

 韓国より先,ジニ係数が0.45を超えるエリアになると,中南米の諸国が多くなってきます。殺人発生率がべらぼうに高いホンジュラスは0.480,大国ブラジルは0.497ですか。日本に技能実習生を多く送り出しているベトナムは0.498と。

 次に掲げるのは,収入ジニ係数が0.5を超える71か国です。


 ほとんどが発展途上国ですね。中国が0.570,北朝鮮は0.584となっています。中国の場合,一部のエリートの占有率がものすごく大きいイメージがあります。

 もうすぐ世界一の人口大国となるインドは0.744です。中央アフリカ,リベリア,ニジェールの3国はジニ係数が0.8を超えています。いつ暴動が起きてもおかしくない格差ですが,実質独裁国家に近く,強力な統制により秩序を保っているのでしょうか。

 以上が,世界189か国の収入ジニ係数の一覧です。資産ではなく,収入という面での偏り(不平等)のレベルですが,国によって全然違うことがお分かりになったかと存じます。それが大きいのは発展途上国で,社会の発展につれ格差度合いは小さくなってくるのが常です。

 これは税引き前の収入シェアに基づく試算で,税引き後(再分配後)でみたら,結果は違ったものになるでしょう。そうでなければいけないのですが,日本はどうですかね。税引き前だとジニ係数は0.42で要注意水準なんですが,再分配後だとどうなるか…。

 冒頭で書いたように,日本の所得税制度は,富の再分配の上でそこそこ機能しているみたいなんで,希望は持てます。しかし最近では,歳入のメインは所得税ではなく消費税なんですよね。10%に税率を上げたことによるでしょう。

 金持ちにも貧乏人にも同じ負荷がかかる消費税よりも,累進性のある所得税・法人税のシェアが高まる方が望ましい。富裕層の脱税がしばしばニュースになりますが,消費税アップよりも,税務署の職員増やしたほうが歳入増加につながるのではないでしょうか。企業の内部留保は上昇の一途であるとのこと。「税金は金持ちから取るべし」という原則を徹底させる余地は,まだあるように思えます。

 前にも言いましたが,社会の維持存続に欠かせない少子化対策という用途なら,お金を出してもいい。こう考えるお金持ちは多いはず。富裕層に負担の傾斜をつけた,次世代育成税を導入すべしと,私は前から思っております。

2020年1月3日金曜日

ロスジェネの稼ぎの地域差

 年が明けました。晴天のお正月ですが,いかがお過ごしでしょうか。

 1976年生まれの私は今年で44歳になります。ロスジェネといわれるわれわれの世代も,40代半ばにさしかかっているわけです。20代前半から20年ほどの社会人生活を経て,生きてきた軌跡(データ)もたまってきました。

 職業生活の折り返しの地点ということにちなみ,中間決算をしてみようと思うのですが,私の世代のみなさん,入職してから今日までの稼ぎの総額はどれくらいですか。先月末のニューズウィーク記事でラフに見積もった所,20代前半から40代前半の20年間の稼ぎ総額は,1973~77年生まれの男性では8000万円ほどと出ました。

 悲しいかな,バブル世代と比して1000万円ほど少なくなっています。学校卒業時が就職氷河期でしたので,非正規雇用に留め置かれている人などが多いからでしょう。

 これは全国のデータですが,地域による違いも気になります。私は鹿児島出身ですが,同じ世代でも,ずっと鹿児島で働いてきた人と,ずっと東京の人では,これまでの稼ぎ総額はかなり違っていることでしょう。所得の地域格差のデータは何度も出しましたが,時間(加齢)とともに累積するとなると,雪だるま式に大きくなるはず。

 『就業構造基本調査』の実施年に合わせ,私の世代の4つの年齢時点について,男性有業者の所得中央値を出してみます。以下に掲げるのは,東京都と沖縄県の追跡結果です。


 2002年に私の世代は20代後半でしたが,当該年齢男性の所得中央値は東京が351万円,沖縄が219万円でした。この時点にして131万円もの差がついており,加齢とともにどんどん開いてきます。40代前半では,倍近くの差です。加齢による所得の伸びは,沖縄では小さいようですが,本県では非正規雇用の率が高いためでしょうか。

 4つの時点の所得中央値を合算すると,東京は1842万円,沖縄は1006万円となります。単純に考えると,20代前半から40代前半の20年間の稼ぎ総額は,これを5倍して,東京が9211万円,沖縄が5029万円となる次第です。ロスジェネの稼ぎの中間決算,東京と沖縄では4000万円以上の開きなり。

 他の県についても同じデータを作りましたので,資料として提示いたしましょう。


47都道府県のロスジェネ男性の稼ぎの軌跡ですが,各地のロス男の皆さん,このフツーのラインと比べていかがですか。

 20代前半から40代前半までの20年間の総額は,右端の4年次の合算を5倍することで,大よその見当をつけられます。東京は9211万円,大阪は8026万円,わが郷里の鹿児島は6701万円となります。違うものですねえ。田舎の同窓会で「都会に出ている人は,ちょっと多めに払え」なんてギャグが飛ぶそうですが,理に適っている面もあります。

 全県の中間決算値の表も載せておきましょう。上表の右端の数値を5倍した値です。20代前半から40代前半までの稼ぎ総額と見取ってください。


 私は28歳まで学生やりましたんで,職業生活のスタートが遅く,かつずっと「非常勤講師&文筆業」で凌いできていますので,これまでの稼ぎ総額なんて微々たるもんです。神奈川の中央値(9202万円)の半分にも達しません。立派なプアの部類です。

 ロスジェネといわれる私の世代でも,やり手の人は,現時点にして稼ぎの累積が1億円超えているのでしょうね。

 上記は40代前半までの中間決算の見積もりですが,総決算(≒生涯賃金)だとどうでしょう。これから先,40代後半,50代になるにつれ,所得はアップすることが見込まれます。そうですねえ。試みに,上表の中間決算値を2.5倍してみましょうか。このやり方で見積もると,ロスジェネ男性の生涯賃金は以下のごとし。

 東京 = 9211万円 × 2.5 = 2億3028万円
 大阪 = 8026万円 × 2.5 = 2億65万円
 鹿児島 = 6701万円 × 2.5 = 1億6752万円
 沖縄 = 5029万円 × 2.5 = 1億2573万円

 こんな感じです。巷でいわれている数値よりもちょっと低めですが,特殊事情を背負ったロスジェネなんで,まあ違和感はないです。東京と鹿児島では6000万円,東京と沖縄では1億円以上の違いですか…。

 稼ぎの地域差も,生涯のスパンで累積してみると,ものスゴイ差になります。東京でガッツリ稼いで,定年後は田舎にUターン(Iターン)なんてのもアリでしょうねえ。いや,どこで仕事しても稼ぎは同じっていうフリーランスは,田舎に居を構えるのが得策。家賃や物価が安いですから。鹿児島の奄美大島はこの点に目を付け,全国からフリーランスの移住を募っています(フリーランスの島!)。

 ただこの島は,賃貸の家賃がちと高い。借家の数が少なく,だだっ広い物件しかない故でしょうか。その点,私が住んでいる横須賀市,それも西海岸は激安です。借り手がなかなかつかないのか,家賃を下げまくっていて,部屋2つ,風呂・トイレセパレートで3万円台の物件がゴロゴロあります。交通の便がよくないので,勤め人には不便なんですが,自宅仕事のフリーランスはぜひ来たれ。都内へも気軽に行ける圏内です。

 話が逸れましたが,ロスジェネ男子の稼ぎの「これまで」と「これから」を,ラフに見積もってみました。お正月の読み物としてどうぞ。明日から帰省ラッシュが始まります。事故にはくれぐれもお気をつけて。