2014年7月31日木曜日

2014年7月の教員不祥事報道

 早いもので,7月も今日で終わりです。月末恒例の教員不祥事報道の整理です。今月,私がネットでキャッチした報道は33件です。

 いつもながら体罰やわいせつが多くを占めますが,ツイッターで生徒を中傷するなど,SNS絡みの不祥事も出てきています。SNSは便利なツールですが,それは諸刃の剣であり,使い方を誤ると身を滅ぼすことにもつながります。自戒をこめて言いますが,注意していただきたいものです。

 さて前期も終り,夏休みに入りました。まあ私は,学期中も休暇中も大して生活に変わりありませんが,今年はどっかに行きたいな。皆様,よい夏休みを。

<2014年7月の教員不祥事報道>
高校教諭、振り込め詐欺用カード譲渡容疑 「金に困り」 (7/3,朝日,三重,高,男,55)
57歳の府立高教諭逮捕=卒業生を強姦未遂疑い(7/4,時事通信,大阪,高,男,57)
PTA大会の夜に… 酒酔い運転で秋田県立高教諭逮捕(7/5,産経,秋田,高,男,50)
校長・教頭の「隠れ喫煙部屋」発覚 兵庫・尼崎の小学校 (7/5,朝日,兵庫,小)
32歳中学男性教諭、酒気帯び運転で追突事故(7/7,読売,北海道,中,男,32)
階段で生徒突き落とした教諭、倒れた所を顔叩く(7/8,読売,神奈川,中,男,26)
研修中にわいせつ行為 静岡県教委が男性教諭を懲戒免職(7/9,産経,静岡,特,男,20代)
同じ中学で5教諭停職…授業に支障、期間ずらす (7/10,読売,大阪,中,31~42)
女子生徒ら足蹴にするなど体罰 大阪市立中のバレー部顧問、停職10日
 (7/10,産経,大阪,中,男,30)
男性高校教諭、女子生徒に抱きつく 県教委、停職1年の処分
 (7/11,さきがけ,秋田,高,男,30代)
児童に包丁「静かにせえ」 広島の小学校教諭を処分(7/12,朝日,広島,小,男,59)
酒気帯びで人身事故、教諭を懲戒免職(7/12,産経,埼玉,小,男,47)
ツイッターに生徒を「学習障害」愛知の高校教諭(7/12,産経,愛知,高)
女性教諭、同僚に殴られ重傷 岐阜、容疑の男逮捕(7/12,朝日,岐阜,小,男,38)
教え子に「抱かせて」メール845通…懲戒免(7/14,読売,東京,高,男,32)
小学校で盗撮容疑、米国人指導助手を逮捕(7/15,朝日,宮城,小,男)
爆破予告で60歳教諭逮捕=「高校に恨み」業務妨害容疑
 (7/15,茨城,時事通信,高,男,60)
スカートのぞき懲戒処分 相双の中学校男性教諭(7/17,福島民友,福島,中,男,41)
・同上,生徒の脚を蹴りけがをさせた(中,男,38)
小学校教諭、自転車盗で停職3カ月 「歩くの面倒で」 (7/17,朝日,愛知,小,男,26)
81歳はね死亡、小学校長逮捕…容疑で広島県警(7/18,読売,広島,小,女,59)
教員免許無いまま14年指導 中学教諭が死亡(7/20,NHK,京都,中,男)
銭湯で裸の男性盗撮=容疑で中学教諭逮捕(7/25,時事通信,鳥取,中,男,44)
みだらな行為で中学教諭停職、川崎市教委が分限免職予告も
 (7/25,神奈川新聞,神奈川,中,男,26)
盗撮逮捕教諭を免職、自転車で重傷事故は戒告
 (7/25,神奈川新聞,神奈川,盗撮:中男49,事故:小男27)
現金43万円紛失 校長と事務長を戒告処分(7/26,埼玉新聞,埼玉,高,男,58)
ひき逃げでも起訴 酒気帯びの中学校前教頭(7/26,千葉日報,千葉,中,男,55)
県教育委員会 盗撮・酒気帯び2人の教諭 懲戒処分
 (7/26,チューリップテレビ,富山,盗撮:高男43,酒気帯び運転:小男40代)
高校生にわいせつ行為をした疑い 京都府立高教諭を逮捕(7/28,朝日,京都,高,男,55)
起訴の48歳小学教諭懲戒免職 強制わいせつ・児童ポルノ製造
 (7/29,岩手日報,岩手,小,男,48)
無免許で教員15年、給与4千万詐取(7/31,読売,大阪,中,男,45)
児童の口に粘着テープ、教諭「体罰の意識薄く」(7/31,読売,三重,小,男,40代)
用意したレジ袋で万引き…教諭逮捕 西条市(7/31,日本テレビ,愛媛,小,男,52)

2014年7月29日火曜日

学校中退者の意識の国際比較

 日本は同調圧力が強く,標準のレールを逸脱した人間はあまり歓迎されない社会です。そのことは,学校中退者の意識にも表れています。この層の自尊心や将来展望を他国と比較してみると,わが国の特異性が見出されます。今回はそれをみてみましょう。

 内閣府の『2013年度・我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』では,対象の13~29歳の青少年に対し,現在の在学状況を尋ねています。選択肢は,①在学中,②在学しているが休学中,③学校は卒業した(既卒),④学校は中退した,の4つです。
http://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/thinking/h25/pdf_index.html

 このうちの④が学校中退者ですが,これに該当する者の数は,日本が31人,韓国が27人,アメリカが29人,イギリスが46人,ドイツが23人,フランスが104人,スウェーデンが45人です。対象者全体に占める比率は,日韓が2.6%,米が2.8%,英が4.3%,独が2.2%,仏が10.3%,瑞が4.2%となります。

 数的には少ないですが,これら7国の学校中退者(13~29歳)のすがたと意識を観察してみましょう。まずは,就業状態からです。意識をみる前に,それを規定するとみられる客観的な条件から押さえることとします。


 どうでしょう。他国ではフルタイム就業や懸命に職探しをしている失業者が多くなっていますが,日本では,パート(バイト)と専業主婦・夫以外の無業者が幅を利かせています。フルタイム就業という形で社会に受け入れられない,あるいはそうする意欲をなくしている中退者の現実が看取されます。

 このことは,彼らの将来展望からもうかがえます。「自分の将来について明るい希望を持っているか」という問いへの回答分布をとると,下図のようになります。


 わが国の学校中退者の将来展望閉塞が明らかです。およそ半数の者が「希望がある」と明言している韓米とは大違いです。今が辛いというだけならまだしも,将来の展望が開けていないことは,大きな苦痛の源泉となるでしょう。

 まあ,中退者でなくとも,日本の若者の展望は閉塞しているのは確かです。それでは,中退者と一般群の数値を並べることで,前者の特徴をあぶり出してみましょう。後者の一般群とは,中退者以外の者のことです。

 私は,7か国の中退者と一般群について,以下の4つの数値を明らかにしました。

ア)自分に満足している ・・・ 「そう思わない」の比率
イ)自分には長所がある ・・・ 「そう思わない」の比率
ウ)仲のよい友達が一人もいないの比率
エ)自分の将来に明るい希望を持っているか ・・・ 「希望がない」の比率

 ア,イ,エは,4段階のうち最も強い否定の回答です。では,結果のグラフをみていただきましょう。縦軸の目盛幅は0~60%にしています。10%ごとの目盛選を入れていますので,それに依拠して大よその水準を読みとってください。


 自分への不満,自尊心欠如,ぼっち,将来展望閉塞とも,一般群よりも中退者で高くなっていますが,日本ではその差が際立っています。青色のバーの高さが何とも痛々しい。一般群の水準を考慮に入れても,わが国の学校中退者の苦境が知られます。

 中退というのは,字のごとく卒業を待たずして中途で学校を辞めることですが,それはれっきとしたオルタナティヴであり,否定的に捉えられるべきものではないと私は考えます。むしろ,そういう「逃げ」の道を開けておかないほうが大きな罪です。

 制度としてはこの道は開かれていますが,現実問題として,そこに踏み出すのは躊躇せざるを得ない。今回のデータから,早い段階で学校とおさらばした若者の苦境と同時に,そうしたくともそれができず,学校という檻の中で窒息している生徒・学生の悲劇をも読み取るべきであると思います。

2014年7月27日日曜日

東京都内23区の学力の推計

 矢野和男氏の筆になる『データの見えざる手-ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則-』(草思社)という本が話題になっています。アダム・スミスの「神の見えざる手」を模したグッド・ネーミングですね。

 内容紹介の文章に,「人間の行動を支配する隠れた法則を方程式で表す」という一文があります。これは統計学の基本テーゼであり,重回帰分析や数量化Ⅱ類なども,この考え方に依拠しています。

 7月19日の記事では,所得,高学歴率,大学収容力という3要因から各県の大学進学率を推計する重回帰式をつくりましたが,今回は,子どもの学力についても同じことをしてみようと思います。タイトルにあるような,東京都内23区の学力の推計です。

 東京都は毎年,独自の学力調査を実施しています。『児童・生徒の学力向上を図るための調査』です。私は都教委に情報公開申請をして,2013年度の都内市区別の結果を入手しました。地域分散の大きい,公立小学校5年生の算数の平均正答率を分析対象とします。
http://www.metro.tokyo.jp/INET/CHOUSA/2013/11/60nbs400.htm

 言わずもがな,各区の平均正答率は,地域の社会経済指標と強く相関しています。後者が分かれば,前者をほぼ正確に予測できるほどです。私は3つの指標をもとに,各区の学力を推計する重回帰式をつくってみました。その3要因について説明します。

 まずは,①住民一人当たり課税額です。地域住民の富裕度を表す指標ですが,こういう経済指標と学力は強く相関しているでしょう。通塾するにもお金がかかりますしね。出所は,2012年度の『東京都税務統計年報』です。

 その②は,高学歴人口率です。親の教育熱心度や文化嗜好と関わるものであり,こちらも学力と強く関連しているとみられます。大学・大学院卒人口が,学校卒業人口の何%を占めるかです。資料は,2010年の総務省『国勢調査』です。

 あと一つの要因として,③教育扶助受給率も計算に入れましょう。教育扶助とは生活保護の一種であり,学齢の子がいる生活困窮世帯に支給されます。貧困と学力の相関はよく指摘されますが,この指標も学力を強く規定しているでしょう。教育扶助受給率は,2012年度の教育扶助受給世帯数を,同年5月時点の公立小・中学生数で除して算出しました。分子の出所は『東京都福祉・衛生統計年報』,分母は都教委の『公立学校統計調査』です。

 下の表は,被説明変数である算数の平均正答率と,説明変数の3指標の一覧です。最高値には黄色,最低値には青色のマークをつけています。


 大都市という基底的特性を同じくしながらも,学力や社会経済指標の値は大きく違っていますね。学力のマックスは文京区,一人当たり課税額は,六本木ヒルズのある港区が最高ですか。さもありなんです。

 算数平均正答率と3要因との単相関係数を出すと,一人当たり課税額とは+0.6889,高学歴人口率とは+0.9052,教育扶助受給率とは-0.7969となります。いずれも1%水準で有意です。高学歴率との相関はスゴイですね。

 では,3要因を同時に投入して,各区の算数平均正答率を推計する重回帰式をつくってみましょう。3要因は互いに強く相関しているので,多重共線の問題が出るかと思いましたが,線形結合している変数はありませんでした。

 一人当たり課税額をA,高学歴人口率をB,教育扶助受給率をCとおくと,各区の算数の平均正答率を最も高い精度で予測する式は以下のようになります。

 算数の平均正答率=0.0354A+0.4431B-0.0978C

 各要因の規定力の強さは係数から分かりますが,各々の単位を考慮して標準化した標準化偏回帰係数(β値)にすると,Aが+0.0731,Bが+0.7084,Cが-0.1789となります。高学歴率の規定力がダントツですね。やっぱり,保護者の教育熱心度とかでしょうなあ。

 ちなみに,この分析の精度を表す決定係数は0.831であり,学力の区別分散の83%がこれらの3要因で説明されることが示唆されます。つまり,A~Cの3要因が分かれば,各区の学力をほぼ正確に予測できる,ということです。

 さて,上記の重回帰式を使って,各区の算数平均正答率の理論値を出し,上表の観測値と照合してみます。下の表は,両者の残差をとったものです。


 ほとんどの区が,±2ポイントの範囲内に収まっていますね。課税所得,高学歴率,教育扶助率だけで,子どもの学力はかなり予測できちゃうんだなあ。

 しかしここで注目すべきは,地域条件から期待されるよりも高い結果を出している区です。新宿区と足立区は,観測値が理論値を3ポイント以上上回っています。「がんばっている」区と評してよいでしょう。

 地域別の学力テストの結果は,こういう視点からも読むべきでしょう。報告書に記載されているままの観測値だけが問題にされますが,それはある意味,アンフェアというものです。地域条件も考慮すると,各地域の違った側面も見えてきます。足立区は,正答率の絶対水準は低いものの,地域条件から期待される水準に比せば高い結果を出している,「がんばっている」区と評されるわけです。

 はて,この区ではどういう取組がなされているのか気になりますが,区のホムペをみたところ,経済的理由により通塾が叶わない子どもを対象とした「足立はばたき塾」や,学習支援ボランティアを活用した学力向上施策が実施されているようです。
http://www.city.adachi.tokyo.jp/k-kyoiku/kyoiku/gakuryoku/index.html

 なるほど,こういう実践の成果ともいえるでしょう。その成果は,観測値だけでは分かりにくいですが,地域条件から演繹される期待値との残差という数値によって可視化されていますね。

 ちなみに,足立区の公立小学校の教育条件指標をみると,教員一人あたり児童数は18.8人,一学級あたりの児童数は29.0人であり,いずれも23区平均よりも高くなっています(2012年度)。私が前にやった分析では,学力の社会的規定性の克服に際しては少人数教育が有効という結果が出たのですが,ここでは違うのかな。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110006793455

 現在,学力テストの地域別結果を公表する・しないで激論が交わされていますが,私は市区町村レベルのデータは公表してほしいと思っています。理由の1は,学力の社会的規定性を実証するには,県単位のマクロデータでは難しいからです。あと一つは,今回やったような残差分析に使いたいからです。

 観測値をそのまま読むのではなく,地域条件から期待される理論値と照合し,両者の差(残差)によって,各地域のガンバリ度を評価する。さらに,「がんばっている」地域でどういう実践が行われているかを丹念に観察し,それを広める努力をする。この仕事は,教育による社会的不平等の克服にも寄与することでしょう。

 長くなりましたので,この辺りで。学力テストの結果の読み方に関する,一つの問題提起でした。今日も酷暑ですが,よい休日をお過ごしください。

2014年7月25日金曜日

東京の通勤時間地図

 前期もそろそろ終わりです。私は今年度の前期は,水曜日と金曜日が出講でした。水曜は江東区の有明,金曜は埼玉の狭山です。大よその所要時間は,双方とも片道1時間半くらいです。結構遠い。

 しかし,水曜(5限)の帰りはちょうど夕刻のラッシュと重なりますのでたまりません。大崎から新宿までの埼京線,新宿からの小田急線は,殺人的な混み具合です。ぎゅうぎゅうに押しつぶされていると,「いったいどうなっているんだ?」という問題意識がわいてきます。

 通勤行動の時間的な偏り(集中度)については,昨日グラフをつくり,ツイッターで発信しました。ここでは,東京都内の地域別の通勤時間を地図化してみましたので,それをご覧に入れようと思います。
https://twitter.com/tmaita77/status/492247718639566849

 資料は,2008年の総務省『住宅・土地統計調査』です。本資料から,雇用者世帯の家計支持者の通勤時間分布(片道)を地域別に知ることができます。手始めに,都心の千代田区と私が住んでいる多摩市の分布をみていただきましょう。不詳は,集計から除外しています。
http://www.stat.go.jp/data/jyutaku/index.htm


 当然ですが,分布が全然違いますね。千代田区は「15~30分」が突き出ていますが,多摩市は「75~90分」がピークです。私は,この中に含まれるかな。

 原資料には,分布の代表値として中央値(Median)が掲載されています。中央値とは,データを高い順から並べたとき,ちょうど真ん中にくる値です。この値は,千代田区が25.3分,多摩市が57.5分となっています。倍以上の違いじゃん。都心と郊外の違いがモロに出ています。

 では,通勤時間の中央値に依拠して各地域を塗り分けた地図を掲げます。データがやや古いですが,2008年の東京の通勤時間地図です。


 きれいな「西高東低」の模様になるかと思いきや,そうではありません。中心部の色が濃く,東西にいくにしたがって色が薄くなる「分断型」です。東の都心に職域が集中しているのではなく,東西に分散しているのですね。これは初めて知った。

 色が濃い地域では,東への通勤者が大半でしょうが,西への通勤者も少なからずいると思われます。まあ私も,後期の杏林大学は西の八王子だものな。いや,西の市郡では自地域で生活が完結している人が多いのかもしれません。

 来週の火曜(29日)に公表される,2013年のデータではどういう模様になるか。最近,テレワークなどの導入が進んでいるといいますが,全体的に色が薄くなっているのでは。そうだといいなと思います。

 さて,前期は埼玉はもう終わり,有明も30日の水曜でおしまいです。あの地獄のラッシュも,あと一回のガマンです。

 暑さ厳しき候,みなさまご自愛のほど。

2014年7月23日水曜日

大学生の学業・バイト・交際時間の変化

 総務省の『社会生活基本調査』は,各種の生活行動の平均時間や実施率を教えてくれるスグレモノです。1976年以降5年間隔で実施されていますが,1986年から最新の2011年調査の結果はネットでみることができます。

 私は,この25年間(四半世紀)にかけて,大学生のメジャーな行動時間がどう変わってきたかを調べました。着目したのは,学業,仕事(バイト),および交際・付き合いの3つです。

 大学生のマジメ化がいわれていますが,学業(勉強)時間は増えてきているであろう。最近,学生のブラックバイトが問題化していますが,バイト時間は増えているのではないか。これらの反動として,交際時間は減ってきているのではないか。こんな仮説を持って,データに当たってみました。

 原資料には,①総平均時間,②実施者平均時間,③実施率の3つが掲載されています。私は各年について,平日と日曜の数値を採取しました。

 なお大学生の数値を拾ったのですが,1986年から2006年の調査では,調査対象者に大学院生も含まれています。まあ,サンプル中の院生の数は微々たるものですから,大勢に影響はないでしょう。


 まずは平日のデータです。観察期間中の最大値は赤字にしましたが,どうでしょう。学業時間は,総平均,実施者平均とも2011年がマックスです。長期的にみても,大学生の勉強時間は増えているのですね。ちなみに,学業時間が最も短かったのは総平均でみると1996年,私の頃ではないですか(223分)。なはは・・・。今の学生さんに顔向けできませんなあ。

 その代わりかどうかは知りませんが,96年の学生はバイト実施率が最も高くなっています。平均時間でみても現在より長し。私の頃のほうが,バイトはしていたんだな。まあ,これはあくまで平均値であり,ブラックと呼べるレベルのバイトをしている者の率でみるとまた違うでしょうが。

 あと一つの交際をみると,ほほう,実施率はみるみる下がってきています。1986年では29.2%でしたが,四半世紀を経た2011年ではほぼ半減しています。平均時間も短くなっていますね。

 平日のデータですが,大よそ,巷でいわれる学生の「マジメ化・ウチ化」の傾向がデータでも確認されました。では,今度は日曜日をみてみましょう。


 学業時間は昔のほうが長いですね。86年の平均時間は際立って長し。この年だけ,サンプルに院生が多く含まれていたのでしょうか。実施者平均でみると2011年が241分で最も短くなっており,平日と真逆です。その分,バイト時間は増えていることから,最近では「平日は勉強,休みの日はバイト」というような色分けがされているように思えます。

 交際・付き合いのほうは,平日と同じく,実施率がリニアに減少しています。しかし,実施者平均は2011年が272分で最大です。このことは,遊ぶ学生とそうでない学生の分極化が出てきていることを示唆します。大学進学率が50%を超える今にあっては,Fランク(Nランク)など,いろいろな大学がありますしね。さもありなんです。

 いかがでしょう。今回のデータの知見をまとめると,世間でいわれる「大学生のマジメ化・ウチ化」傾向が支持されるとともに,休日の過ごし方に,学生間の開きが出ていることも知りました。これは,私にとっては発見です。

 学生バイトのブラック化は可視化されませんでしたが,次回(2016年)の『社会生活基本調査』のデータでは,どうなっているか分かりません。観察を継続していきたいと思います。

 今日の統計法では,『社会生活基本調査』の調査票を受講生に配布し,記入してもらい,それを集計して「受講生の1日」を明らかにしてみようかな。それを全国データと比較すると。自分たちの生活の相対化です。結構楽しんでもらえるかも。

2014年7月21日月曜日

お悩みのジェンダー差

 前々回の記事では,厚労省の『国民生活基礎調査』(2013年)データを使って,ライフステージごとの「お悩み一望図」を掲載しました。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21.html

 多くの方が見てくださったようですが,性別の違いを知りたいという要望があったので,男女の図を並べたものをつくってみました。上記調査では,悩みやストレスがあると答えた者に対し,その原因を複数回答で尋ねています。寄せられた回答を合算し,その内訳を視覚的に表現した図です。


 縦長でちと見にくいかもしれませんが,いかがでしょう。思ったよりジェンダー差は小さいようですが,30代の子育て期で差が出ていますね。男性は仕事,女性は育児・教育の比重が比較的大きくなっています。

 あと,子ども期における「学業・受験・進学」の悩みは男子で多く,女子ではその分,「家族以外の人間関係」の比重が大きくなっています。こちらも,さもありなんです。女子の場合,グループとかの友達付き合いも気を使いますしねえ。雨宮さんの名著『ともだち刑』が想起されます。
http://bookclub.kodansha.co.jp/bc2_bc/search_view.jsp?b=2760169

 いやー,やっぱり「視覚化」が一番。国を動かす国会議事堂の中に,こういうニッポンの闇を表現した統計図を貼るスペースを設けてほしいと思います。昔,世界の名画を壁に貼った「名画喫茶」が流行ったそうですが,名画ならぬ「統計喫茶」とかって商売になるでしょうか。「先生,やってみたらどううですか」と学生さんに言われています。

 不気味な統計図に囲まれて飲むコーヒーもまた格別でしょう。

2014年7月19日土曜日

県別大学進学率の規定要因

 昨年の9月12日の記事では,都道府県別の大学進学率を出したのですが,この記事を見てくださる方が多いようです。地方出身の方(私もそう)にすれば,日頃の実感が数値化された,ということでしょうか。

 また,各県の進学率は県民所得と非常に強く相関していることも知りました。大学進学率の都道府県差は,生徒個々人の意向や能力の差ではなく,外的な条件の違いに由来する教育機会の不平等の表れであることもうかがえます。わが国の大学の高学費・都市部偏在を思うと,さもありなんです。

 ところで,各県の大学進学率と強く関連しているのは,県民所得のような経済指標だけではありません。今回は,他のメジャーな要因をも考慮した分析をしてみようと思います。

 私は,47都道府県の大学進学率の要因として,県民所得の他に2つを考えました。高学歴人口率と大学収容力です。地域に大卒人口が多いことは,子どもの進学をプッシュするクライメイト要因になるでしょう。また地元に大学があることは,自宅からの進学が容易になるなど,費用負担の緩和にもなるでしょう。こんな見方です。

 ①県民所得は経済要因,②高学歴人口率は文化要因,③大学収容力は地理要因,と考えていただければよいと思います。ごく単純なフレームですが,この3要因だけで,大学進学率の県間分散の大方を説明できるのも事実です。

 ②と③について,計算の方法を説明します。高学歴人口率は,各県の学卒人口のうち,大学ないしは大学院を出た者がどれほどいるかです。資料は,2010年の『国勢調査』。県別にみると,最高の25.1%(東京)から最低の9.1%(青森)までのレインヂがあります。

 大学収容力は,各県の18歳人口に対し,大学入学枠のイスがどれほど用意されているかを表す指標です。計算式は,<県内の大学への入学者数/推定18歳人口>なり。分母は,3年前の中学校・中等教育学校前期課程卒業者を充てます。資料は,文科省『学校基本調査』。県間のレインヂは,138.5%(京都)から15.5%(和歌山)と甚だ大きくなっています。

 被説明変数である大学進学率と,3つの説明変数の県別一覧表を掲げます。いずれも,現時点で得ることのできる最新の数値です。県民所得は住民一人当たりの額であり,『日本統計年鑑2014』に掲載されていたものを使っています。

 大学進学率の計算方法は,お手数ですが,昨年の9月12日の記事をご参照ください。18歳人口ベースの浪人込みの進学率です。


 前の記事でも触れましたが,2013年春の大学進学率は,最高の東京(71.3%)と最低の岩手(33.9%)では倍以上も違います。同じ日本かと思うほどのすさまじい格差ですね。

 さて,このような地域差を説明する要因指標を3つ用意したのですが,大学進学率との単相関係数を出すと,県民所得は+0.759,高学歴人口率は+0.881,大学収容力は+0.797となります。ほう。費用負担能力(所得)よりも,地域に大卒者がどれほどいるかというクライメイトの効果が大きいのですね。まあ,個々の家庭でも,大卒の親のほうが進学に理解があるでしょうし。

 しかるに,上記の3要因は互いに強く相関しています。3つの要因との単相関を個々バラバラにみるのではなく,これらを同時に取り込み,各要因の独自の規定力を取り出す作業をしてみましょう。そのための分析手法として知られているのが,いわゆる重回帰分析です。

 重回帰分析とは,複数の説明変数から被説明変数を求める計算式をつくるものです。県民所得をA,高学歴人口率をB,大学収容力をCとすると,各県の大学進学率を最も高い精度で予測する式は以下のようになります。

 大学進学率=0.0054A+1.0251B+0.0878C+11.8792

 この式から各県の大学進学率の予測値を出し,上表の実測値と照合してみましょう。横軸に予測値,縦軸に実測値をとった座標上に,47都道府県を位置づけると下図のようになります。


 実線の斜線は均等線ですが,多くの県がこの線の近辺に収束しています。上下の点斜線は±5%の線ですが,43の県がこの範囲内に収まっています。先ほどの予測式の精度はかなり高いとみてよいでしょう。

 つまるところ,所得,高学歴率,および収容力の3要因が分かれば,各県の大学進学率をほぼ正確に予測できる,ということです。ちなみに,重回帰分析の精度は決定係数という指標で測られますが,今回の値は0.8712にもなります。大学進学率の都道府県分散の87%が,上記の3要因だけで説明されることを示唆します。

 さて,大学進学率に対する各要因の(独自の)規定度は,上記の予測式の係数で表されますが,3要因の単位を考慮した標準化が必要になります。詳細は省きますが,標準化された係数は,県民所得が0.2508,高学歴人口率が0.5124,大学収容力が0.2879です。これが標準化偏回帰係数(β値)であり,被説明変数に対する独自の規定力を表します。

 算出されたβ値をみると,高学歴人口率が最も高いですね。単相関でみた場合よりも,この要因の優位性が際立っています。やっぱ,経済要因や地理要因よりも,こういう文化的要因の影響が大きいのだなあ。たとえ貧しくとも,大卒の親は無理をしてでも子を大学にやるみたいな・・・。

 なお,男子と女子で分けてみると,大学進学率の要因構造はちょっと違っています。男子の進学率,女子の進学率を別個に被説明変数に立て,3要因による重回帰分析をしてみました。下の図は,算出されたβ値を図示したものです。


 所得の規定力はほぼ同じですが,高学歴人口率のそれは「男子>女子」です。男子の場合,進学に理解のある(高学歴)の親は,無理をしてでも進学させる。こういうことでしょうか。

 しかるに,大学収容力の影響力は女子のほうが大きくなっています。女子の場合は,保護者が自宅外に出すのを躊躇うためでしょう。私が高校の頃も,こういう女子生徒がいました。九大に行ける能力があるのに,女子だからということで,自宅から通える地元の鹿大に行けと。

 重回帰分析による,都道府県別大学進学率の要因分析でした。話を分かりやすくするために,ごく単純な枠組みの分析としましたが,より多くの要因を取り入れた精緻な分析もあります。教育社会学の代表テーマといえるものですしね。これまでの先行研究の到達点を教えてくれるものとして,朴澤泰男氏による以下の論文があります。
http://ci.nii.ac.jp/naid/130003397431

 私が今回,重回帰分析を使った分析記事を書いたのは,この手法についての質問を学生さんから受けたからです。まあ,基本的な考え方を分かってもらえればよいと思います。重回帰式の求め方や,β値の計算方法などは,別に理解しなくてもよいでしょう。今はコンピュータの時代。統計ソフト「エクセル統計」にて,被説明変数と説明変数の範囲をカバーし,ワンクリックすれば,立ちどころに必要な値が出てきます。

 学部の学生さんで重回帰分析とは。卒論で使うとのことでしたが,スゴイなあ。でもね。クロス集計や単相関だけでも,大抵のことは分かりますよ。

 今はエクセルとかSPSSで,高度な手法も簡単にできるため,それに振り回されるあまり,本質を見失うこともしばしば。果ては,難しい数式を並べて誤魔化すなんていう非道も・・・。本当の必要に迫られたらやる。これでいいではありませんか。

2014年7月16日水曜日

人生のお悩み一望図(2013年)

 昨日,2013年の厚労省『国民生活基礎調査』の結果が公表されました。3年に一度の大規模調査であり,対象者の悩みや生活意識などについても詳細に尋ねています。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21.html

 その中で,悩みやストレスがあると答えた者に対し,その原因を複数回答で問う設問がありますが,寄せられた回答の内訳図をつくってみました。5歳刻みの年齢層別のグラフです。最新の「人生のお悩み一望図」をご覧ください。


 ご自身の悩みの領分を確認し,それがいつ頃まで継続するのか,近い将来にどういうトラブルが予見されるのか・・・。このような展望を持っていただければと存じます。

 1月2日の記事では,2010年のデータによる図を公開しましたが,とある方は,これをカラープリントして,デスクのマットに入れてくださっているそうです。「今の自分の位置が分かる。ありがたい」。こういう声をいただいております。

 上記の「お悩み一望図」を,せいぜい活用していただければと思います。

2014年7月15日火曜日

不安定な生活態度の形成要因

 非行とは,不安定な生活態度を形成した少年が,有害環境に接触することで生じます。前者は少年を非行へと押し出すプッシュ要因,後者はそれに引き込むプル要因です。

 これにかんがみ,非行の予防活動は,①少年の健全育成(プッシュ要因の除去)と②環境の浄化(プル要因の除去)からなります。後者は行政の役割ですが,前者は家庭や学校における人間形成のなせる業です。

 今回は,中学生の生活態度の不安定度を計測し,その高低が,家族密度や学校適応の程度とどう関連しているのかをみてみようと思います。対象を中学生に限定するのは,発達段階の上で第2次反抗期に位置し,諸々の心理的葛藤に苛まれやすい時期であるからです。言わずもがな,非行の発生率が最も高いのもこの時期なり。

 用いるのは,内閣府の『小・中学生の意識に関する調査』(2013年度)です。小学校4年生~中学校3年生とその保護者を対象とした調査ですが,児童・生徒の調査票の中に,以下の設問があります。


 いずれも生活態度の不安定度に関わるものであり,これらの肯定の度合いが高い生徒ほど,ちょっとした誘発要因で非行に傾斜する危険を持っているといえるでしょう。

 私は,これら4つの項目への反応を合成して,対象となった中学生の生活態度がどれほど不安定かを計測する尺度をつくりました。1という回答には4点,2には3点,3には2点,4には1点というスコアを与え,それらを合算した数値です。全部1に○をつけたヤバい生徒は16点,全部4を選んだ健全な生徒は4点となります。

 当局に申請してローデータを入手しましたので,こういう変数操作も可能です(感謝!)。下図は,対象となった中学生661人のスコア分布です。


 まあ,さすがに低いほうに多く分布していますが,相対評価でもって,不安定度「低群」,「中群」,および「高群」の3群に分けてみます。3群の量がほぼ等しくなるように配慮すると,4~5点を「低群」,6~7点を「中群」,8点以上を「高群」と括るのがベストです。これによると,低群が191人,中群と高群が235人となります。

 この3つの群で,家族密度や学校適応に関する設問への答えがどう違うかを明らかにしてみましょう。それぞれの項目について,最も強い肯定の回答の比率を拾い,グラフにしてみました。20%ごとの目盛線から,率の水準を読みとってください。


 ほう。いずれの項目とも右下がり,すなわち「弱群>中群>高群」という傾向が観察されます。多感な思春期の生徒にとって,家庭や学校のインパクトって大きいのだなと思います。曲線の傾斜は右側のグラフで大きいようですが,生徒の生活の大きな領分を占める学校への適応如何が大きな影響を与える,ということでしょう。

 上記の図は悲観的な意味合いを持つのではなく,むしろその逆です。家庭や学校での実践によって,子どもが非行へと傾斜せしめる素地が形成されるのを防ぐことができる。そういう見方をしていただきたいと思います。

 しかるに,あと一つの事実も指摘せねばなりません。それは家庭環境との相関です。両親ありの世帯と母子世帯の生徒を取り出し,先ほどの3群の分布をとると,下図のようになります。


 母子世帯の群で,生活態度が不安定な生徒が多くなっています。貧困や将来展望の悲観など,いろいろな経路が考えられますが,家庭環境と非行発生率に強い相関があることは,本ブログでも明らかにしたところです。

 以上,中学生の生活態度の不安定度を左右する要因についてざっと吟味してみましたが,他にも無数にあるでしょう。精緻な検討は今後の課題にしようと思いますが,それらの要因群に中には,人為的に(努力で)変異可能なものとそうでないものがあります。

 前者は啓発活動がある程度の効をなすでしょうが,後者はそれだけでは足りません。物質的な支援が必要となる場合が多々あります。要因の析出に加えて,このような仕分け作業も必要となるでしょう。これらの積み重ねが,少年の健全育成(不安定な生活態度の形成阻止)という面における,非行防止の取組を体系だてることにつながると思われます。

 当面の課題は要因の析出ですが,複数の要因を同時に取り込んで,各々の独自の寄与度を明らかにするには,多変量解析の手法が待たれます。今回の3群を高い精度で判別する予測式をつくる技法。それは,林の数量化Ⅱ類です。博士論文で使った記憶がありますが,すっかり忘れてしまいました。今,復習しているところです。

2014年7月13日日曜日

就業日数・就業時間別の学生バイト数

 学生のブラックバイトが問題化していますが,7月8日の記事では,大学生等のバイト実施率・平均時間を出してみました。全国値でみると,平日の実施率は24.2%,実施者の平均時間は278分(1日当たり)です。

 これは平均値ですが,している学生はメチャクチャしていることでしょう。『社会生活基本調査』では,全体を均した平均値しか分かりませんが,『就業構造基本調査』のデータを加工することで,バイト学生の年間就業日数・週間就業時間の分布を出せることを知りました。その試算結果をご報告します。

 『就業構造基本調査』では,パート・バイト等の非正規就業者の年間就業日数・週間就業時間分布が集計されています。結果表の中に,非正規就業者全体の数と,そのうちの学校卒業者の数を分けて掲げた表があります。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm

 私は,前者から後者を差し引くことで,在学者(学生)の数を割り出してみました。在学者の非正規就業者は,ほとんどが学生バイトとみてよいでしょう(以下,学生バイト)。下の表は,このようにして出した,学生バイトの年間就業日数・週間就業時間の分布表です。最新の2012年度調査のデータから作成しました。


 年間就業日数と週間就業時間の双方が判明する,学生バイトの総数は95万600人です。このうち,「年間200日未満・週15時間未満」のカテゴリーが33万8千人と最も多くなっています。およそ3人に1人。月15日,1日2~3時間程度の適度なバイトといえます。

 しかし,長時間バイトをしている学生もいるようで,年間200日以上・週35時間以上のフルタイム並みのバイト学生が6万3600人,全体の6.7%,15人に1人です。問題になっているブラックバイトの出現率の近似値とみてよいかと思いますが,いかがでしょう。ネグリジブル・スモールではありませんね。

 この値が業種や地域などの条件でどう変異するかは興味ある課題ですが,公表資料では,そこまでは明らかにできません。ただ,ジェンダー差や時系列変化は出すことができますので,やってみようかと思っています。

 ひとまず,上記の分布表を資料としてここに掲載いたします。

2014年7月12日土曜日

5歳児の非在園率

 教育課程の国家基準である学習指導要領は,大よそ10年間隔で改訂されますが,次期改訂において,小学校1年生の教育内容の一部を幼稚園や保育園に移行する方針が発表されました。
http://mainichi.jp/shimen/news/20140712ddm001100209000c.html

 上記の毎日新聞記事によると,「絵本などの普及で5歳児の識字率も上がっているため,国語のひらがなの読み書きのほか,算数の足し算,引き算なども検討対象にする」とのこと。「小1プロブレム」に象徴されるような,就学前教育と小学校教育の段差を解消する上でも効果あり,と期待されています。

 しかるに,注意しないといけないのは,幼稚園や保育所に通っていない幼児の存在です。幼稚園は義務教育学校ではありませんし,保育所は,日中わが子を保育できない親が子を預ける児童福祉施設です。したがって,これらの学校・施設のいずれにも通っていない幼児もいます。

 昔は,こういう非在園児が結構多かったのですが,今はどれくらいいるのでしょう。小学校に上がる直前の5歳児に焦点を当てて数を出してみましょう。

 私は,5歳人口と,同年齢の幼稚園・保育所在園児の数をそろえ,前者から後者を差し引いてみました。5歳人口は『国勢調査』の実施年しか正確な数が分かりませんので,年次がやや古くなりますが,2010年のデータを使うこととします。

 2010年の①5歳人口,②5歳の幼稚園児数,③5歳の保育所在所児数は以下のごとし。

 ①:人口 ・・・ 105万8489人 *10月時点 総務省『国勢調査』
 ②:幼稚園児数 ・・・ 61万942人 *5月時点 文科省『学校基本調査』
 ③:保育所在所児数 ・・・ 41万8645人 *10月時点 厚労省『社会福祉施設等調査』

 ①-(②+③)をして,5歳の非在園児数は2万8902人となります。ベース人口中の出現率は2.7%,およそ37人に1人です。

 最近はもっと減っているかもしれませんが,ネグリジブル・スモール(無視できる数)ではありません。上記の改革を実行するに際しては,これらの非在園児に対するフォローも必要になります。

 それはさておき,①~③の原資料には都道府県別の数も掲載されています。これを使って,5歳児の非在園率を都道府県別に計算してみました。幼稚園にも保育所にも通っていない幼児が多いのは,どの県か。県別一覧表をご覧ください。


  右欄の数が,先ほどと同じやり方で算出した非在園児率ですが,なぜか値がマイナスになる県もあります(6県)。これは,調査実施時期のビミョーな差や,『国勢調査』の5歳人口が不正確であるためと思われます。『国勢調査』の年齢統計をみると,「年齢不詳」人口も結構います(全国で98万人ほど)。ここでは,グレーの網掛けの数値は度外視しましょう。

 ひとまず形になっている値をみると,マックスは宮崎の11.5%です。2010年の数値ですが,5歳児の10人に1人が幼稚園にも保育所にも通っていないと見積もられます。赤字は上位5位ですが,九州が多いですねえ。私の郷里の鹿児島も5位にランクインしています。

 全体的にみて,東北や九州などの周辺部の値が高いようですが,地域性もあるのでは。この点を確認するには地図化(マッピング)が一番。上表の出現率を4段階で塗り分けた地図をつくってみました。マイナスの値が出た6県は,一番下の白色にしています。


 北と南が濃い色になっています。祖父母が同居(近居)の世帯が多いなど,共働きであっても,家庭内保育をしやすい条件があるのでしょうか。しかし,小1の教育内容が5歳児に下りてくるとなると,これらの県では,フォローの対象となる幼児が多いことになります。

 ところで,気になるデータもあります。上図の県別非在園児率と経済指標の相関です(非在園率がマイナスの6県は除外)。地図の模様からも察しがつくことですが,一人当たり県民所得が低い県ほど,5歳児の非在園児率が高い傾向にあります。相関係数は-0.414であり,1%水準で有意です。


幼稚園や保育所の子を通わせるのにも費用がかかりますしね。高等教育(大学)段階では,進学率と所得は非常に強く相関していますが,就学前の段階においても,こうした現象があることにちと驚かされます。
http://tmaita77.blogspot.jp/2013/09/blog-post_12.html

 小1の学習内容を幼稚園や保育所に移行するに際しては,これらのいずれにも通っていない「幼児への対応」が重要な課題となるといえましょう(上記,毎日新聞記事)。もしかすると,5歳段階からの義務教育化が想定されているのかもしれませんが。

2014年7月10日木曜日

大学生のバイトの国際比較

 前回は,学生のバイト実施率・平均時間を県別に出したのですが,今回は国際比較をしてみようと思います。依拠する資料は,内閣府『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』です。
http://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/thinking/h25/pdf_index.html

 私は本調査のローデータを開いて,各国の大学生サンプルを取り出しました。取り出されたサンプル数は,日本が237人,韓国が339人,アメリカが176人,イギリスが99人,ドイツが150人,フランスが99人,スウェーデンが199人です。英仏がやや少なくなっていますが,分析に耐えない数ではありません。

 これらの学生の就業状態を明らかにすると,下図のようです。無回答・無効回答はありませんでした。


 フルタイムの仕事を持つ学生(≒社会人学生)を別にすれば,日本の学生が一番バイトをしていますね。実施率は6割近くです。

 まあ,遊ぶ金を稼ぐ程度の「ユルい」バイトが大半でしょうが,高学費を稼ぐための長時間バイトも少なくないことでしょう。昨今よくいわれる「ブラックバイト」の被害者もね。

 それをうかがわせるデータもあります。日本の大学生を,バイトしている群(139人)としていない群(96人)に分け,各種の心配事の量をとってみました。4段階の回答のうち,一番強い肯定の「心配である」の比率です。結果をチャート図でお見せしましょう。


 全体的にみて,バイト群のほうが心配事が多くなっています。非バイト群との差は,友人や異性関係の項目で大きくなっていますが,勉学や将来に関わる不安についても然りです。長時間のバイト学生だけを取り出したら,値はもっと高くなるのではないでしょうか。とくに勉強や将来の項目で。

 日本学生支援機構の『学生生活実態調査』では,学生のバイト時間の量も調べています。また,各種の心配事の設問も盛り込んでいるようです。それを使って,今述べたような問題のデータをつくってみたらどうかしらん。学生支援のための貴重なエビデンスにもなるでしょう。ローデータを出してくだれば私がやるのですが…。公的調査はさまざまな角度から分析され尽くすべし。
http://www.jasso.go.jp/statistics/gakusei_chosa/12.html#arubaito

 ローデータという点でいうと,昨日公表された内閣府の『2013年度 小学生・中学生の意識に関する調査』は,それを提供してくれるそうです。もちろん無償。下記サイトの連絡先に一報を入れるだけでよし。私は早速申請し,先方からの連絡を待っているところです。
http://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/thinking/h25/junior/pdf_index.html

 何度も言いますが,公的調査のデータは国民の共有財産。多くの人による多様な視点から,十分に活用されるべきものであることは言うまでもありません。最近,そういう機運が高まっていることは,とても好ましいことだと思っています。

2014年7月8日火曜日

都道府県別の学生バイト

 最近,ブラック企業ならぬ「ブラックバイト」の存在も知られるようになってきています。メチャクチャな条件のバイトのことで,正社員並みの責任を負わされる,試験前でも休ませてくれない,というようなものです。言わずもがな,主な被害者は学生です。

 学生のバイト実態については各種の調査がなされていますが,官庁統計からもそれを知ることができます。総務省の『社会生活基本調査』では,在学者の1日当たりの平均生活行動時間を明らかにしているのですが,設けられている属性カテゴリーの中に,小・中・高校生以外の「その他の在学者」があります。大学生や専門学校生など,中等後教育機関の学生とみてよいでしょう。
http://www.stat.go.jp/data/shakai/2011/h23kekka.htm

 「その他の在学者」(以下,学生)は,平日1日あたりどれほど仕事(バイト)をしているのでしょうか。原資料には,①総平均時間,②行動者平均時間,③行動者率,の3つが掲載されています。最新の2011年調査の数値は,以下のようです。

 ①:総平均時間 ・・・ 67分
 ②:行動者平均時間 ・・・ 278分
 ③:行動者率 ・・・ 24.2%

 ①をみると67分(1時間7分)と短いですが,これは,調査対象の平日にバイトをした者もしなかった者もひっくるめて出した平均値です。当該の日にバイトをした者(24.2%)だけを取り出して平均時間を出すと,278分(4時間38分)に跳ね上がります。これが②の行動者平均時間です。

 コンビニとかで,夕方の6時から10時半までバイトしたら4時間半ですので,行動者平均でみたらまあこんなとこでしょう。

 これは平均値(average)ですが,している学生はメチャクチャしていると思われます。残念ながら時間の分布までは分かりませんが,平均値が県によってどう違うかを知ることができます。47都道府県について,上記の①~③の値を整理してみました。左欄は平日,右欄は日曜日です。

 最高値には黄色,最低値には青色のマークを付しています。赤色は上位5位の数値です。


 平日をみると,東北の青森は行動者率と総平均がマックスになっています。しかし,行動者平均はさほど長くありません。多くの学生が,適度な範囲でバイトをしている県です。

 新潟はその逆で,行動者率はわずか2.9%(34人に1人)ですが,この層だけを取り出して平均時間を出すと473分,8時間近くにもなります。している学生としていない学生の差が激しい県といえます。

 次に日曜に目を移すと,九州の大分がスゴイですね。調査対象の日曜に4割近くがバイトをしており,その平均時間は558分,9時間以上にもなります。これはもう,平均でみてもブラックの域に達しているといえるのではないでしょうか。

 県ごとにみると結構すさまじい実態が出てくるのですが,たまたま調査日がそうであったというだけの偶然でしょうか。ひとまず,各県の大学関係者の参考資料として提示したく思います。

 といっても,ベタの表を載せて終わりというのはいささか無精ですので,左欄の平日のデータを視覚化しておきます。横軸に行動者率(実施率),縦軸に実施者の平均時間をとった座標上に47都道府県をプロットしてみました。点線は全国値(24.2%,278分)です。


 右上にあるのは,実施率が相対的に高く,平均時間も長い県です。学生バイトが多い県ですが,青枠の中には首都圏の1都2県が入っていますね。

 右下にあるのは多くの学生が適度にバイトしている県,左上は少数の学生が長時間バイトをしている県です。新潟はかっ飛んでいますが,何かの偶然かしらん。平日にして,している学生の平均時間は8時間近く。むーん。

 しかるに,私の周りでもこういう学生さんを見かけます。授業中いつも居眠りをしている学生がいて,呼び出して話を聞いたところ,週5日コンビニ夜勤をしているとのこと。夜の11時から朝7時までの8時間です。

 この学生は地方出身の下宿生ですが,仕送りはゼロ。オール自活(親は学費負担だけで手一杯)。奨学金は借りたくないとのこと。だとしたら,これくらいバイトしないとやれんでしょう。

 最近は,学生に勉強させるためガンガン課題を出してくれと言われるのですが,こういう学生をみると,そうする気も起きなくなります。この学生の場合は,「奨学金をフルに借り込んで学業に専念しろ」という意見もあるでしょうが,借金を勧める(強制する)のもどうかと。

 2012年8月の中教審答申では「学生を鍛え上げる」方針が明示されているのですが,こうした方向と現行の高学費は明らかに相容れないと感じています。それは私だけではありますまい。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo0/toushin/1325047.htm

 日経デュアルの連載記事(第3回)でも書いたのですが,わが国の高等教育の費用負担は明らかに「私費依存型」です(北欧は,ほとんどが公費負担)。私費依存型の高等教育は限界に達しつつあるように思います。

 この問題を可視化しているのが,学生の長時間バイト,ブラックバイト被害です。バイトという劣悪な条件で働かされる中,そういう状況に学生が慣れ切ってしまうのも恐ろしいことです。「これが当たり前なんだ」と。

 アルバイトに教育効果を認める向きもありますが,それは諸刃の剣であり,負の社会化効果も多分に含んでいます。それは,昨今流行っているインターン・シップなどについても言えること。われわれは,この点を絶えず認識しておかねばなりません。

2014年7月6日日曜日

家計に対する妻の寄与率

 今朝の南日本新聞に,「家計は妻の給料頼み?コープかごしま調査」と題する記事が載っていました。私の郷里のローカル紙ですが,向こうは共働きじゃないとキツイだろうなと思います。給与水準も低いですし。
http://373news.com/modules/pickup/index.php?storyid=58013

 こういう新聞記事からブログのネタのヒントを得ることが多いのですが,「家計に占める妻の稼ぎの比率って,どれくらいが相場なんだろう」という疑問を持ちました。正社員の夫が500万稼いで,妻がパートで100万稼ぐとすると,この場合の妻の寄与率は,100/(100+500)=16.7%となります。

 これは架空の例ですが,総務省『就業構造基本調査』の結果表の中に,夫の年収と妻の年収をクロスさせた表があります。これを使って,上記の問いに答えるデータをつくれないものか。

 最新の2012年調査でみると,子がいる核家族世帯(夫が30代)のうち,夫の年収が400万円台,妻の年収が100万円台前半の世帯は61,900世帯です。階級値の考え方に依拠して,夫の年収を450万円,妻の年収を125万円とみなすと,妻の寄与率は,125/(125+450)=21.7%となります。

 私はこのようにして,各セルに該当する世帯の妻寄与率を計算し,その分布を明らかにしました。妻が無業(専業主婦)の世帯は,0%となります。下の図は,この値の相対度数分布をとったものです。夫婦とも無業の世帯,いずれかが家族従業の世帯は分析から除外しています。


 0%,すなわち妻が専業主婦の世帯が最も多くなっていますが,その比率は10年前に比して減っていますね。その分,共働き世帯が増えており,総収入に占める比重が2~3割の世帯の増分が大きくなっています。妻のほうが稼いでいる世帯(50%超)も。

 これは夫が30代の世帯のデータですが,他の年齢層ではどうでしょう。子どもの発達段階によって,妻の寄与率も変わってくると思われます。私は,寄与率の分布を明らかにした元データ(上図の大カテゴリーにまとめる前)から,その平均値を出しました。夫の年齢層別の平均値をグラフにすると,下図のようになります。


 どの年齢層でも平均値はアップしていますが,とりわけ30代で増加幅が大きいですね。冒頭の南日本新聞でも,39歳以下の妻の年収が大幅に伸びているとありましたが,それと合致します。子どもが小・中学生の年代であり,何かと「物入り」の時期です。

 年齢が上がるにつれて率が上がっていくのは,子育てから解放された妻が働きに出ることが多くなるためでしょう。

 まあしかし,妻の寄与率が15~20%くらいというのは,絶対水準でみればやはり低いのでしょうね。北欧の社会で同じ値を出したら,どうなるだろう。4割くらいが相場だったりして…。

 でも,以前に比して増えていることは明らかであり,今後もこのトレンドは継続することでしょう。3日に公表した日経デュアルの記事でも書きましたが,昔の高度経済成長の時代はいざ知らず,男性の腕一本で一家を養える時代はとうに終わっています。夫婦共に力を合わせて生計を立てていく時代です。

 これから先,高齢化も進行することで,育児だけでなく介護の負担も現役世代にのしかかってきます。否が応でも共働きでないとやっていけず,今回みた妻の寄与率も,2030年頃には3~4割になっているのではないかしらん。

 現在でも,地域によっては,妻の寄与率が高い水準にあるケースもあることでしょう。残念ながら,地域(県)別のデータをつくることはできませんが,ぜひ知りたいところですなあ。

 それではみなさん,よい日曜日の午後をお過ごしください。

2014年7月3日木曜日

貧困と学業不振・問題行動の関連

 言わずとも知れた教育社会学の典型テーマですが,教員を対象とした調査からも,この現象を浮かび上がらせることができます。今回はそれをご報告しようと思います。

 用いるのは,ここのところ毎回使っている,国際教員調査(TALIS 2013)です。ローデータをゲットしましたので,任意の設問間のクロスも自由自在。いろいろなことを明らかにできる「お宝」です。ローデータは,下記サイトにてダウンロードできます。

 本調査では,対象の中学校教員に,自分が担当している特定の1クラス(Target Class)を想定してもらい,当該クラスにおける授業実践について深く尋ねています。調査日直近の木曜日の午前11時以降に,最初に教えたクラスとされています。

 設問の中に,当該クラスの生徒のうち,社会経済的に不利な家庭環境の生徒は何%いるかを問うものがあります。適切な住環境,栄養,ないしは医療的ケアを欠いた家庭の生徒です。俗にいう,貧困家庭の生徒といってよいでしょう。

 日本の中学校教員の回答分布は,以下のようです(無回答・無効回答は除外)。各教員が大雑把に見積もった結果です。

 ①:全くいない(None) … 1,018人
 ②:1%~10% … 1,712人
 ③:11%~30% … 579人
 ④:31%~60% … 113人
 ⑤:60%以上 … 30人

 ①をA群,②をB群,③をC群,④と⑤は合わせてD群といたしましょう。D群に行くほど,貧困家庭の多いクラスを受け持っている教員ということになります。貧困家庭の生徒が3割以上いると答えたD群は,量的には少ないですね(143人)。

 さて各群の教員は,同じクラスにおいて,学業不振児や問題児(行動に問題がある生徒)はどれほどいると答えているか。下の図は,群ごとの回答分布をとったものです。


 左側をみると,D群の教員の半分は,同じクラスに学業不振の生徒が3割以上いると答えています(黒色)。図の模様がおおむね右下がりになっていることから,貧困児と学業不振児の割合の相関関係が見て取れます。

 右側の問題行動いついても,貧困の量との関連を認めてよいでしょう。A群の教員の半数は「全くいない」と答えていますが,C群やD群では白色は少なく,その代わりグレーやブラックの比重が多いのです。

 貧困と学業不振・問題行動の因果経路の説明は省きますが,こうした社会的規定性があることを常に疑い,それを可視化する努力を怠ってはなりますまい。

 と同時に,事態の打開策を探るという視点でいうなら,次のような問題を立てることも必要です。D群の白色のクラスでは,どういう実践が行われているか?

 貧困家庭の生徒が3割以上いるクラスにもかかわらず,学業不振児や問題児が一人もいない。こういうクラスですが,そこではどういう教育実践が行われているか。このような問題です。おそらく,「下」に手厚い実践がなされているのではないでしょうか。

 上記のデータでは,D群の教員は143人しかいません。白色の部分に限定したらサンプルがごくわずかになってしまいますので,この問題を追及できませんが,重要な課題です。いや,量的に少ないというなら,いっそ一人一人を対象としたインタビュー調査も可能でしょう。私に権限があれば,そういうことをするな…。こんなふうに思います。

2014年7月1日火曜日

教員の社会人経験の国際比較

 教員は視野が狭い,社会を知らないといわれます。22歳まで「学校」で学び,その後もずっと「学校」で勤務するわけですから,確かにそうかもしれません。

 このことにかんがみ,最近は教員採用試験でも社会人の特別枠を設けたり,研修でも民間企業等に教員を派遣する社会体験研修が取り入れられています。

 それはさておき,わが国の教員のうち,社会人経験もある者はどれほどいるのか,国際的にみて多いのか少ないのか。今回は,こういう基本的な部分を明らかにしてみようと思います。

 OECDの国際教員調査(TALIS 2013)では,対象の中学校教員に対し,教育職以外の職で働いた経験を尋ねています。働いた年数を記入してもらう形式です。同調査のローデータには,記載されたままの数値が入力されていますが,私はこれを6つの階級にまとめ,その分布をとってみました。校長は除く,一般教員のデータであることを申し添えます。
http://www.nier.go.jp/kenkyukikaku/talis/


 上に掲げたのは主要4国の分布図ですが,日本は8割が「0年」,すなわち経験ゼロです。フランスも日本と同じ型ですが,日本よりは社会人経験ゼロ教員は少なくなっています。

 英仏をみると,この2国の場合,社会人経験のある教員のほうがマジョリティーです。アメリカでは,全教員の6割が,5年以上教育職以外の職で働いたことがあると答えています。あらゆる機会が開かれている国といいますが,こういう職業移動(mobility)の機会も開かれているのですね。

 ローデータに記録されている社会人経験年数(上図のカテゴリーにまとめる前)をもとに,その平均年数を計算すると,日本が0.8年,アメリカが8.0年,イギリスが5.3年,フランスが1.6年となります。日本が最も短いですね。

 では,対象となった32か国の布置図を描いてみましょう。多くの国を対象とする場合,簡便な代表値を使うことになりますが,まずは,先ほど出した社会人経験の平均年数を用います。教育職以外の職に勤務した年数の平均値です。

 それとあと一つ,教育職以外の職に就いた年数が教員の勤務年数よりも長い,「社会派教員」の割合も出してみます。日本でいうと,両方の年数を答えた教員2,861人のうち,後者よりも前者が長い教員は92人です。よって,社会派教員の出現率は3.2%となります。アメリカは32.4%!。3人に1人が,「社会人経験年数>教員経験年数」の社会派教員です。

 この2つの指標を使って,各国の教員の社会人経験の量を測定し,結果をグラフで表してみます。横軸に社会人経験の平均年数,縦軸に「社会人経験>教員経験」の教員の比率をとった座標上に,32の社会をプロットしてみました。点線は平均値です。


 2指標は相関していますので右上がりの分布になっていますが,日本はお隣の韓国と並んで右下にあります。教員の社会人経験量が少ない社会です。対極には,先ほどのアメリカのほか,カナダとメキシコがありますね。アジア型と北中米型のコントラストが際立っています。

 わが国では,社会人経験のある教員が少ないことがデータで分かりました。そういう教員を増やすべきかについて,教職課程の学生さんとたまに議論するのですが,「増やすべきだ」という意見が大半です。中高の頃,偏差値とは別の「実社会」を知っているセンセイに出会えたなら…。こういう声も聞きます。それに,社会に出た後で,やっぱ教員になりたいと思う人だっているじゃんと。

 なるほどと頷かされますが,大阪の民間出身校長が立て続けに不祥事を起こすなど,負の判断材料も多し。正負の材料とも,掘ればいくらでも出てくるでしょうが,政策とはやはり客観的なエビデンスで決められるべきもの。

 純粋培養教員と社会人教員とで,職務のパフォーマンスがどう異なるか。こういう問題を実証的に明らかにすることが求められるでしょう。TALISでは,対象教員の自己有能感や職務満足度についても尋ねています。これらの回答が両群でどう違うか。

 さしあたり,この問題を追及することは可能です。今後の課題とし,興味ある結果が出ましたら,この場で報告しようと思います。