2020年9月30日水曜日

2020年9月の教員不祥事報道

  秋風が吹いてきました。9月も今日で終わりです。今月の教員不祥事報道の整理です。今月,私がキャッチしたのは35件です。

 わいせつが多いのはいつもですが,わいせつ教員を二度と教壇に立たせない方向で法整備するという,厳しい方針が示されています。現行では,わいせつで懲戒免職となり免許失効となっても,3年経てばまた取得できるんですよね。この期間を20年に延ばす,ないしは再取得不可にするといった案ですが,憲法がいう職業選択の自由の規定を侵す可能性もあるので慎重を期したいと,文科大臣は述べています。

 私は,わいせつで懲戒処分を受けた教員のデータベースを作るといいと思っています。採用の際,教育委員会の担当者が閲覧できるようにです。提出された教員免許状の番号を打てば,当人の処分歴が出てくるデータベース,できないものでしょうか。

 16歳の娘を殴り,御用となった中学校の教頭。体罰も容赦なく,犯罪化される時代になりました。ちなみに最近の虐待で最も多いのは,子どもの面前での夫婦間DVです。これもれっきとした心理的虐待です。コロナ禍による巣ごもりの中,イライラが募っていますが,子どもの面前での振る舞いには注意しましょう。

 目玉事案は,ウーバーの配達バイトをして,停職半年の処分を受けた中学校教諭。激務の合間をぬって自転車をこぎ140万円稼ぐとは,いやはやスゴイ体力ですね。任命権者の許可を得なかったことでお咎めを受けたようですが,許可申請しても,こういうバイトはダメと言われる可能性が高そうです。

 でもこの先生,すごく面白い授業をしそうだなと感じるのは私だけでしょうか。狭い学校だけでなく,「外」に出て行こうとする先生はオモシロイ。副業解禁の時代ですが,教員の副業にも幅を持たせてほしいと思います。嫌々行かされる,民間企業の社会体験研修なんかより,ずっと「社会」を知るのにいいでしょう。

 しかし,生徒に危害を加えたわけでもないのに,停職半年(≒退職勧告)っていう処分は重い。SNSで恋愛相談をしていた小学校教諭は,確か減給で済みましたよね。

 朝夕は冷えるようになってきました。10月は秋晴れが続くようで,うれしく思います。おっと,健診に行かないといけませんね。背景を変えます。


<2020年9月の教員不祥事報道>

中学校教諭 みだらな行為で免職(9/1,NHK,栃木,中,男,29)

男性8人に睡眠薬飲ませ性的暴行か 元中学教諭を逮捕

 (9/3,朝日,大阪,中,男,429

女子中学生に2万円渡して…みだらな行為をした疑い

 (9/7,カンテレ,大阪,中,男,36)

児童の個人情報を私的に利用、男性教諭を減給処分

 (9/8,産経,宮城,特,男,58)

「邪魔だと思う人は手を挙げて」支援学級の子に不適切発言

 (9/8,沖縄タイムス,沖縄,小,女)

ポイントカードと割引券持ち去り使用 県立高教諭、停職処分で依願退職

 (9/10,千葉日報,千葉,高,男,31)

酒気帯び運転・居眠り運転 教員2人を懲戒処分

 (9/10,MBC,鹿児島,酒気帯び:小男61 居眠り:中男31)

教諭の男が海岸で男児の裸撮影 神戸の小学校に勤務

 (9/11,神戸新聞,兵庫,男,33)

生徒殴りけが 高校教諭停職処分(9/11,NHK,神奈川,高,男,41)

小学校教諭、飲酒運転で検挙 砥部町教委が上申検討

 (9/12,毎日,愛媛,小,男,50代)

町立中学校の教諭が“児童買春”で逮捕(9/14,STV,北海道,中,男,24)

「ベビーシッター違うんやで」堺市立小教諭がSNSで施策批判

 (9/15,毎日,大阪,小,男,30代)

いかがわしい行為か 教諭を逮捕(9/16,NHK,北海道,小,男,26)

勤務先の中学校の女子生徒にみだらな行為

 (9/17,瀬戸内海放送,香川,中,男,52)

児童24人分の絵日記や学習プリントを廃棄 20代教諭を懲戒処分

 (9/17,BSN,新潟,小,男,20代)

女子高校生を盗撮 我孫子市立中教諭を逮捕

 (9/18,産経,千葉,中,男,26)

いじめへの対応遅れ 校長を懲戒処分(9/18,産経,大阪,小,男,60)

16歳の娘を殴りけがさせた疑い 中学校の教頭を逮捕

 (9/19,朝日,岐阜,中,男,57)

スーパーで財布2個を盗む 容疑で小学校教諭の男を逮捕

 (9/19,京都新聞,京都,小,男,31)

福島・包丁所持で小学校教員が現行犯逮捕

 (9/21,福島中央テレビ,福島,小,男,27)

コンビニで100万円置き引き容疑 私立中教諭を逮捕

 (9/22,朝日,愛知,中,男,39)

生徒から集めた学年費540万円を横領 51歳の教諭を懲戒免職

 (9/23,神戸新聞,兵庫,高,男,51)

「なぜしたのか自分でも分からない」…高校教諭、駅の券売機前で女性を触り逮捕

 (9/24,読売,埼玉,高,男,43)

教諭のセクハラ報告せず 堺市教委、校長を厳重注意

 (9/25,毎日,大阪,男,60代)

「救急車に乗りたくない」と救急隊員に暴行 男性教諭を逮捕

 (9/25,リアルライブ,茨城,特,男,32)

帰宅途中に人身事故、羽後町の女性教諭を減給

 (9/25,魁新報,秋田,小,女,50代)

“酒気帯び運転”教諭ら懲戒免職(9/25,NHK,茨城,小)

40代の中学校教員があおり運転 女性の車に距離詰めて追走

 (9/28,神戸新聞,兵庫,中,男,40代)

大麻所持高校講師を免職 女生徒にセクハラ教諭停職

 (9/28,神奈川新聞,神奈川,大麻:高男25,セクハラ:高男65)

副業で出前代行をした中学校教諭を懲戒処分「体力維持のため」と話す

 (9/29,読売,神奈川,中,男,53)

公立学校教諭を逮捕 少年の下半身触った疑い(9/30,毎日,福井,男,27)

市原市教諭 わいせつ容疑で逮捕(9/30,NHK,千葉,中,男,43)

高校教諭2人が不適切会計で減給処分(9/30,NNN,山形,高男50代2名)

教室で体罰か 小学校講師懲戒(9/30,NHK,茨城,小,男,65)

携帯音楽プレーヤーなど盗み繰り返す…中学教諭を懲戒免職

 (9/30,読売,宮城,中,男,57)

2020年9月22日火曜日

コロナ渦の影響を受けているのは誰か

 コロナ渦によるパニックが起きてから,およそ半年が経過しました。学校の一斉休校,緊急事態宣言による飲食店の営業自粛,それに伴う従業員の雇止め,巣ごもり生活…。国民の生活に,前代未聞の計り知れない影響をもたらしています。

 テレワークの普及,時差通勤,対面式の取引の見直しなど,これまでの社会の変化を促すプラスの影響もありますが,やはりマイナスの影響のほうが大きいと言わざるを得ません。失職,収入減少,そして孤独といった生活不安です。

 それによって社会に暗雲が立ち込めているのですが,社会のヤバさ(病み)の度合いを可視化するのに最もいいのは,自殺の統計量です。絶望して自ら命を断つ個人はどれほどいるか。自殺とは,個々人の多様な動機でもたらされるものですが,それを集積すると,社会の状態を反映した,一定の傾向性も見えてきます。

 3~8月の半年間の自殺者数を,2019年と2020年で対比すると,以下のようになります。資料は,厚労省による自殺の詳細集計結果です。


 予想に反してといいますか,3~6月の自殺者数は前年より減っています。コロナ渦への対策という,共通の目的ができたので,国民の連帯感(つながり)が強まった,有事や突発的な危機状況の時には,社会の自殺率は低下する。デュルケムの『自殺論』の説を援用する論者もいましたね。

 しかし7月は前年を上回り,8月は前年同月より246人も増える事態になっています。コロナ渦が長期化する中,貯蓄が底をついた,延々と続く孤独に耐えられなくなった,このように生活態度が不安定化している所へ,地獄のような酷暑が追い打ちをかけた…。いろいろ想像をめぐらすのは容易いことです。

 ここまでは新聞等でも報じられたことですが,次に問うべきは,社会のどの層において自殺が増えているかです。この点を掘り下げることで,事態により接近することができます。

 まずは性別(gender)です。上記の表のデータを,男性と女性にバラしてみると以下のようになります。左は男性,右は女性の自殺者数の対前年比較です。


 男性は7月まで前年より減っており,8月もちょっとばかり増えた程度です。対して女性は6月に前年を上回り,7月,8月になるにつれ増加率が高まっています。8月は,前年の464人から650人へと186人の増,1.4倍に増えました。

 8月の自殺者は前年より246人増えましたが,うち186人(75.6%)は女性だったことになります。自殺が増えているのは,主に女性であると。コロナ渦は,男性より女性の「生」に影を落としています。

 女性は非正規雇用が多いので,簡単に解雇され生活苦に陥った,在宅している夫からのDV,果ては巣ごもり生活で望まない妊娠をした…。こういうことが考えられますが,年齢層別のデータも見た後に,大よその見当をつけましょう。

 原資料では,10歳刻みの年齢層別の自殺者数も計上されています。性別も絡めることができます。以下の表は,自殺者がかなり増えた8月の対前年比較です。年齢不詳の自殺者もいますので,上記でみた全体数と総和が一致しないことに留意してください。


 上段をみると,8月の自殺者の増加率は,10代や20代で大きくなっています。10代は2.1倍,20代は1.4倍の増です。数は少ないものの,子どもや若者の危機が大きいことは見逃すべきではありません。

 大学生について言えば,キャンパスで友人にも会えず,自宅で悶々とオンライン授業を受ける中,メンタルを蝕まれています。医療ベンチャーの「ジャパンイノベーション」の調査では,大学生の4割に「うつ症状」ありという,驚愕のデータが示されています。バイトができないことによる生活苦に加え,就職や未来はどうなるかといった将来不安も大きいはず。若者にあっては,見通しの悪さと自殺率は非常に強く相関していることを,先週のニューズウィーク記事で指摘しました。

 さらに男子と女子に分けると,コロナの危機がどこに集中しているかが分かります。どの年齢層でも,男子より女子の増加率が高くなっていますが,飛びぬけているのは10代の女子です。昨年は10人だったのが今年は40人,4倍に増えています。

 10代といえば多くが生徒・学生ですが,学校段階別の自殺者数をみると,「!」という事実が出てきます。以下に示すのは,中学生,高校生,大学生の自殺者数の対前年比較です。


 8月の自殺者数をみると,女子中学生では4倍,女子高生では7倍に激増しています。8月だけでは数が少ないので,コロナ渦がまん延した3~8月の半年のデータで傾向を固めてみても,女子中高生の自殺の増加率は際立っています(下段)。

 はて,どういうことか。このデータをツイッターで流したところ,家庭内での性暴力被害があるのではないか,という声が多数でした。巣ごもり生活の中,家族や交際相手からの被害を受けてしまう。親密な間柄なので,被害を訴えにくい。女子高生の妊娠相談が増えているというのは,ニュースでも報じられたところです。

 ティーンが馴染んでいるSNSを介した,相談体制の網を張り巡らせることが急務です。最悪の行動に走ってしまうか否かは,当人がどれほど社会に包摂されているかによります。そうしたインクルージョンは,リアルである必要はなく,デジタル(バーチャル)を介したものでもいいのです。コロナ渦で対面接触が制限されている中,後者の重要性が増してきています。

 今回のデータで分かったのは,コロナ渦の闇は,社会の弱い層に集中してしまっていることです。自殺対策というと,中高年層や高齢層がターゲットにされることが多いのですが,若年層にも目を向ける必要がありです。言わずもがな,対策の仕方も大きく違います。

 あと一つ,若者は,生存権を守る最後の砦の生活保護を非常に受けにくいというのは,大きな問題です。22歳の女性が生活保護申請した所,「親に頼りなさい」と役所に門前払いされた,という記事が目につきました。22歳にもなれば,親と別居し自立するのが当たり前と考えられている欧米では,まずあり得ないことでしょう。

 「若いというだけで,助けてもらえないのか」。こんなふうな思い込みを持たせては,若者を追い詰めるだけです。私は法律面は詳しくないですが,家族に頼れと言って,申請書類を突っぱねるのは違法であるはず。弁護士さんは,生活保護の申請同行のような事案に強くなってほしいと思います。今後,爆発的に需要が増すのは間違いありません。

2020年9月18日金曜日

奨学金利用増と未婚化

 歯止めがかからない未婚化ですが,その一因として,奨学金の利用増加があるのではないか。私は前からこう思っていて,ツイッターでそれをつぶやいたらバズリました。同じ思いの人は多いんだなと。

 突拍子もない仮説に思えるかもしれませんが,借金のある人との結婚には,誰しも及び腰になるでしょう。

 「新婚早々,夫が消費者金融で200万円の借金を抱えていることが判明した。離婚できるか?」。こんな相談事例が弁護士ドットコムの記事で紹介されていますが,消費者金融を「日本学生支援機構」に変えてみたらどうでしょう。「新婚早々,夫が奨学金200万円借りていることが判明した」。今時,こんなのはザラにあると思いますが,いかがでしょうか。それくらい,奨学金という名の借金を抱えている若者が多くなっているのです。

 ツイッターでは,当てずっぽうの奨学金利用率のグラフを出しましたが,きちんと当局の統計に当たって,奨学金利用率をより正確に出してみましょう。文科省のHPに,奨学金の貸与を受けている高等教育機関の学生数が出ています。高等教育機関の全学生数は,同省の『学校基本調査』で分かります。

 1998年と2017年について,高等教育機関の学生数と,そのうち奨学金を貸与されている学生数を表にすると以下のようです。高等教育機関とは,大学,短大,高専,専修学校専門課程をいいます。


 学生数は390万人から373万人に減っています。「?」と思われるかもしれませんが,これは,短大生と専修学校生が減っているからです。4大生に限ったら,進学率の上昇により増えています。

 奨学金の利用者数はといえば,1998年の50万人から2017年の134万人に膨れ上がっています。全学生数に占める割合(利用率)は,1998年が12.8%,2017年が35.9%です。無利子(1種)と有利子(2種)の構成も変わっていて,以前は無利子が多かったのですが,今では逆転しています。

 私の頃は,奨学金利用率は1割ちょいで,多くが無利子だったのですが,今では学生の3人に1人が奨学金を借りていて,その6割が有利子であると。いやはや,この20年間で変わったものです。奨学金の利用は増えていて,よくないことに有利子化も進んでいます。

 しかるに,あくまで学生の中での話であって,同世代全体でみたら奨学金という借金をする子はそれほどの量にならないのでは? こんな疑問もあるかと思います。ですがね,今となっては,同世代の多くが高校より上の高等教育機関に進学します。18歳人口ベースの高等教育進学率(浪人込み)は,1998年にして68.3%で,2017年では80.3%にもなります(文科省『学校基本調査』)。

 同世代ベースの奨学金利用率も出してみましょう。1998年だと,同世代中の68.3%が高等教育機関の学生ですので,上記の表の数値を使うと,以下のようになります。

 無利子 = 68.3 ×(39/390)= 6.8%
 有利子 = 68.3 ×(11/390)= 1.9%

 なるほど,微々たるものといえるかもしれません。しかし2017年では様相が変わっています。以下の図は,同世代中の学生比率,奨学金利用者率を面積グラフで視覚化したものです。


 どうでしょう。2017年では,同世代の8割が学生で,29.1%が奨学金を借り,17.8%が有利子のローンまがいの借金をしていることが分かります。

 同世代ベースの奨学金利用率は29.1%,およそ3人に1人。在学中の借入額で多いのは,200~300万円ほど。結婚しようという相手が多額の借金を抱えていることなんて,珍しくも何ともないのです。

 当の若者をそれを知ってか,婚活イベントでは,「奨学金,いくら借りてます?」が定番の質問なのだそうです。正直に話すと婚姻に至らないので,借金を隠し,後でそれが発覚する。「新婚早々,夫が奨学金200万円借りていることが判明した」。繰り返しますが,こんなのはザラのはず。

 若者の未来を広げるはずの奨学金が,実際は彼らをがんじがらめにし,果ては未婚化・少子化にもつながっているとしたら,何とも皮肉なことですよね。上のグラフのとおり,同世代ベースで見ても,奨学金を借りている者の率は高いのです。若者の3人に1人が数百万円の借金(有利子)を背負っている。これが,結婚の足かせにならないなどと考えられるでしょうか。

 高等教育の機会を多くの若者に開くのはよいですが,当人に借金を負わせること(私費負担)でそれを進めると,当人の人生を狂わせると同時に,社会全体にとっても逆機能となります。残念ですが,今の日本は,こういう病に陥っていると診断せざるを得ません。私費依存の教育拡張の逆機能です。

 教育を受けることは権利であり,機会の均等を保障する術の中核は奨学金。この原点に立ち返り,真の給付型の奨学金(スカラシップ)を増設すべきです。それができないというなら,現行の貸与型奨学金は素直に「学生ローン」と名乗るべし。この点については,ニューズウィーク記事でも書きました。

 今は3人に1人ですが,若者が4割,いや半分が数百万円の借金を負って社会に出るのが当たり前になったりしたら,大変なことです。未婚化はますます進み,経済的徴兵なども蔓延るようになるでしょう。既にその兆候は出ていて,近年,「**すれば奨学金返済免除」という類の政策をよく聞きます。

 教育は当人や国の可能性を開くものですが,現状では,その逆に機能している。社会病理学を専攻する者の端くれとして,こういう診断結果をお出ししておこうと存じます。

2020年9月12日土曜日

女性のフルタイム就業率の低下

  エレン・ケイは「20世紀は児童の世紀」と言いましたが,21世紀は女性の世紀,もっと限定すると「働くママ」の世紀。日経デュアルの連載の最終回で,私はこう書きました。

 こういう意識は共有されているようで,政府は毎年,『男女共同参画白書』を公刊し,女性の就業率等のデータを公表しています。定番のグラフは,女性の労働力人口率の年齢カーブです。各年齢層の女性のうち,就労意欲のある労働力人口は何%か。ドットをつないだ折れ線グラフです。

 このグラフの形は,過去と比して変わっています。ILOのデータベースから数値を採取したグラフで,その様をご覧に入れましょう。日本だけでは面白くないので,アメリカとスウェーデンのカーブも添えます。


 赤色は日本ですが,1990年では結婚・出産期に谷がある明瞭な「M字」型になっていました。よく知られているM字カーブです。しかし30年を経た2020年(推計値)をみると,谷はほとんどなくなっています。これをもとに,政府文書では「女性の社会進出が進んだ」と書かれることが多し。

 未婚で働き続ける女性が増えたからだろ,という疑問が出てきますが,それは置いておいて,ここで問うべきは働き方の中身です。大きくはフルタイムとパートに分かれ,日本では正規と非正規という従業地位の区分もあります。同じ時間,同じ仕事をしても,この2つのグループの間では,身分格差と形容できるような賃金格差があるのは誰もが知っています。

 ILOの統計では,こうした区分別の就業者数を知ることはできませんが,『世界価値観調査』で就業状態を尋ねた設問のデータが使えます。だいぶ前まで遡った時系列比較も可能です。上記の3か国の成人女性に対し,労働力状態を問うた設問の回答結果は以下のごとし。左欄は第1回の1981~84年調査,右欄は最新の第7回(2017~20年)の回答分布です。WVSサイトのオンライン集計で,サクッと出すことができます。


 赤字は最頻値ですが,日本は80年代と変わらず,21世紀の現在でも主婦が最も多くなっています。アメリカとスウェーデンはフルタイム就業が最多で,現在のスウェーデンでは半分を越えます。

 賢明な皆さんは,上記の表をみて「は?」「マジかよ…」と思っていることでしょう。それを視覚的なグラフにして,インパクトを出しましょう。


 そう,フルタイム就業率の変化です。女性の社会進出が進んでいるのは世界的な潮流ですが,日本の女性のフルタイム就業率は下がっています。男女雇用機会均等法が制定される前の頃よりも,現在の方が低くなっています。

 働く女性は増えているのに,フルタイム就業率は下がっている。すなわち,他の働き方が増えているってことです。フルタイムとパートで働く女性の率(上表)をグラフにすると,それがハッキリわかります。


 女性の就業率(自営除く)ですが,日本でも働く女性は増えています。しかし,フルタイムとパートで色分けしてみると,増えているのはパートでフルタイムは減っています。働く女性が増えたといっても,増分の多くはパートであるようです。

 アメリカとスウェーデンでは,パートは減り,フルタイムが増えています。スウェーデンは32.8%から51.7%へと大幅増加です。この国の就業率が下がっているのは,成人学生が増えているためでしょう。元の表(前掲)によると,現在の成人女性の12.3%が学生ですので。さすがは生涯学習の先進国ですね。

 一口に女性の社会進出と言っても,様相は国によって違っていて,欧米はフルタイム増によるものですが,日本はパート(非正規)依存型であるのが知られます。今世紀の初頭に新自由主義のナタが振るわれましたが,女性は,それを下支えする安い労働力として取り込まれているだけだと。シカゴ大学の山口一男教授が言われていますが,「量ではなく,質の向上が重要」であるといえます。

 女性のトータルの就業率をみて「よし」とするのではなく,その中身を透視しないといけません。女性の労働力が安いことは,グラフ化してツイッターで流しましたが,こうでは女性は結婚相手の男性に高収入を求めざるを得ません。しかし今では,若年男性の給料も下がってますので,そんな望みは叶わない。しからばと,実家にパラサイトして理想の相手と会えるのを待ち続け,それが集積して,社会全体の未婚化・少子化が進行する…。

 二馬力でいけば,稼ぎ手を柔軟にチェンジすれば何とかなる。大事なのは,こういう展望を若者に持たせることです。2番目のグラフをみると,80年代では欧米も日本と近い状況でした。変わったのは,その後です。為せば成るを実証しているといえます。

2020年9月11日金曜日

体育が得意な子は人気者?

  「スクール・カースト」という言葉が流行ったことがあります。クラスの中の階級ってことですが,こういうのがあることは,誰もが経験知で悟っていることです。

 階級分けの尺度は,メンバーの中でどれほど人気を得ているか,決め事などの際,どれほど影響力を持ち得ているかです。カーストが上位の子が遊びに来ると,「**と仲良くしてね」などと,接待する親もいるといいます。わが子がいじめに遭わぬように,という思惑もあるでしょう。

 学級担任の教師にとっても,教室内のカースト構造は重要な関心事です。それを可視化する技法として,ソシオメトリック・テストなども開発されています。私は中3のとき,これをやった記憶がありますね。

 そう,「好きな子,嫌いな子の名前を挙げてください,その理由も書いてください」ってやつです。教師は得られた回答をもとに,学級内の人間関係図(ソシオグラム)を描きます。「スキ!」の矢印を多く集めている子はスターで,「キライ!」の矢印を多く向けられている子は排斥児です。私なんかは,まぎれもなく後者だったと思います。

 カーストの決定要因としては,ルックスの良さや腕っぷしの強さなどの他に,勉強の出来というのもあるでしょう。子どもの本分は勉強で,学歴社会の度合いが強いわが国では,勉強ができる子が賞賛の対象になりやすいからです。

 この点は,データで示すことができます。勉強の得意度と,友達の多さのクロスによってです。思春期の小学校6年生のクロス集計結果を示すと,以下のようになります。勉強の得意度で分けた4つの群ごとに,友人の多さを尋ねた結果を比較したグラフです。国立青少年教育振興機構『青少年の体験活動等に関する調査』(2016年)の個票データを,独自に集計して出しました。

 双方の問いに有効回答をした2562人のデータで,タテの4つの群ともサンプル数は十分です。群ごとに友人の多さをみると,勉強が得意な群ほど,友人は多いという子が多くなっています。「とても思う」の回答比率(青色)は,勉強が最も得意な群では68.3%ですが,最も不得意な群では37.1%しかいません。攪乱のないきれいな傾向です。

 むろん例外もいて,勉強がとても得意なグループにも,友人が全くいないと自覚している子(赤色)もいます。私などは,まさにそうでした。

 まあ,一口に勉強といっても,いろいろな教科がありますからね。教科ごとに得意群と不得意群に分け,友人が多い子の割合を比べてみると,面白い傾向が出てきます。得意群は,得意な教科を尋ねた設問において,当該教科に丸を付けた児童で,不得意群はその他です。以下の表は,友人がとても多いと考えている児童の率(上図の青色)を,不得意群と得意群で比べたものです。


 どの教科でみても,友人が多い子の割合は,不得意群より得意群で高くなっています。座学では,社会科外国語において,両群の差が比較的大きいですね。博識で話が面白いからでしょうか。

 しかし,それ以上に差が明瞭なのは体育です。不得意群では38.6%ですが,得意群は60.3%で,21.7ポイントもの差が開いています。

 これは経験則に照らしても頷けます。運動ができる子はスターになりやすく,不得手な子は体育の授業で恥をかいたりすることが多いですしね。私自身,体育の授業には碌な思い出がありません。一人ずつ,皆の前で跳び箱を跳ばせるなどは,本当にやめてほしいと思いました。

 いわゆる「スクールカースト」の決定要因として,運動・スポーツの出来は大きいと。

 ですが,どの子どもも何らかの得意なものは持っています。それを掬い上げて褒めたたえるべきです。他者からの承認欲求は,思春期の年代ではとくに強くなります。教育の目的は調和のとれた人間形成ですが,バランスに囚われすぎると,不得意なことの矯正ばかりに目が行きがちになります。

 それよりも得意なことを認識させ,肯定的に自己を捉え,明るい将来展望を持たせたいもの。丹念な児童観察・理解をもとに,それを成し遂げるのは,専門職としての教師の役割です。

2020年9月10日木曜日

東京からの転出超過

  人口を吸い尽くしている大都市の東京ですが,今年7月の人口移動統計では,転出超過に変わったのだそうです。転入者よりも転出者の方が多くなった,ということです。

 しかし,新聞に出ている転出超過数だけを見ても,事情は分かりません。コロナ渦の中,「密」な東京は御免と,出ていく人が増えたのか。それとも入ってくる人が減ったのか。転出超過数は,転出者と転入者の差分ですが,私は原資料に当たって,この2つの要素を揃えてみました。

 資料は,総務省の『住民基本台帳人口移動報告』です。毎月の人口の流出入が都道府県別に出ています。東京都の転入者数と転出者数を,2019年1月から2020年7月まで辿ってみると,以下のようになります。


 コロナ渦が本格化した4月以降を,昨年と比べると,東京への転入者は減っていますね。4月をみると,昨年は6万8677人の転入でしたが,今年は5万9565人。およそ15%の減です。大学進学や就職で,地方から上京してくる若者が減ったのでしょう。5~7月も,昨年に比して転入者が減っています。

 転出者も昨年の同時期と比して減っています。しかし転入者の減少幅の方が大きいので,結果として転出超過数は増えています。巨大都市の東京は,「転入>転出」が常なんですが,今年の4月以降は吸引力が低下し,5月に初めてプラスに転じ,7月は2522人の転出超過となっています。

 東京が転出超過に転じたのは,入ってくる人が減ったことによるみたいです。コロナ渦の東京に飛び込むのは,「飛んで火に入る夏の虫」であると。

 では,どういう層で転入者が減っているのか。この点を出してみると,事態にもうちょっと迫れます。以下の表は,7月の年齢層別の転入者と転出者を,2019年と2020年で比較したものです。


 7月の東京への転入者は,昨年よりも4203人減りましたが,年齢層別にみると減少幅は25~34歳で大きくなっています(900人超)。コロナの影響により,職住近接を求めて都心に越してくる人が減ったのでしょうか。20代後半では転出も微増していることから,テレワークや子育てには広い住居を,と考える人が増えていることもあり得ます。

 要素を上表にて明らかにしましたので,転出者から転入者を引いた転出超過数の年齢グラフを作ってみましょう。


 転出超過の幅が,30代で大きく増えているのが分かります。東京からの転出超過のピークは,乳幼児を別にすれば,退職を機に郷里に帰る人が多い60代前半になるのが常ですが,今年は30代に変わっています。

 子どもを抱えた働き盛りの層ですが,在宅勤務の推奨の中,職住近接志向が低下し(転入減少),かつ広い住居でテレワークや子育てをしようという考えが強まっているためではないでしょうか(転出増加)。

 大都市・東京の人口移動統計から,働き方志向の変化が見て取れます。7月に明らかな転出超過に転じたのですが,これが8月,9月,さらにはずっと続くのか。注目される所です。

2020年9月2日水曜日

賃貸共同住宅の空き部屋率

  日本は人口減少の局面に入っており,これからどんどん萎んできます。1年間の人口減少は50万人ほどで,あともうちょっとしたら1年で100万人減る時代になります。毎年,千葉市くらいの政令市がごっそり消えるのです。

 その一方で,人を入れるハコ(住宅)は増え続けています。私は夕刻,ウォーキングをするのですが,建設中の住宅をちらほら見かけます。海沿いに3軒並んで一戸建てを建てているのですが,津波が来たら一発じゃないですかね…。

 日本人の新築嗜好は強し。数か月前,あるファミリー(父母,子3人)が,マイホームを建てて,隣のアパートを出ていきました。先日,ママさんと会って立ち話をしたのですが,「アパーの家賃の3倍のローン(12万円)を毎月払わねばならず,死ぬ思いです」と言ってました。

 見た所,結構大きな家なんで3000万円くらいでしょうか。月12万返済だと,20年かかる計算ですね。お金の面でがんじがらめにされるだけではなく,転居も制約されます。私のように気が移ろいやすく,かつ色々トラブルを起こす人間には,家を建てるというのはマイナスでしかありません。そもそもお金もないですけど。

 人口減少の時代だというのに,新しい住宅が雨後の筍のように建つ。その様をデータで可視化すると,以下のようになります。住宅数は『住宅土地統計』でしか分かりませんので,この調査の実施年(5年おき)のデータを拾っています。

 戦後初期の1953年からの推移です。人口は増え続けますが,2008年をピークにもう減少の局面に入っています。

 住宅数はというと,戦後にかけて人口を上回る速度で増加しています。戦争で多数の家が焼かれてしまいましたので,「住」の供給は政府にとって至上命題でしたからね。しかし,人口が減り始めた最近でも増え続けています。2008年は5759万,2013年は6063万,2018年は6241万と,過去最高です。

 2008年から2018年の10年間で,人口は1.3%減りましたが,住宅は8.4%増加です(右欄の指数)。今後,この乖離はますます大きくなるでしょう。

 なぜこうなっているか。新築嗜好は昔も同じだったはずで,人口減少時代での住宅増加を上手く説明できません。考えられる要因は一つ,そう賃貸住宅(アパート,マンション)の増加です。家族サイズの縮小(単身化)もあり,1ルームのような狭小物件への需要が増していますし,土地の相続税対策としてアパートを建てる地主も増えていると聞きます。

 しかし,そもそも借り手となる人間の数が減ってますので,賃貸経営も楽ではない。この辺のアパートも空き部屋が多く,何とか埋めようと家賃を下げまくっています。部屋2つ,風呂・トイレセパレートで5万未満の物件がゴロゴロあります。交通の便が悪いのが原因ですが,私のような自宅仕事の自営業にはありがたい限りです。とはいえ勤め人にはキツイのか,なかなか借り手がつかない。

 賃貸アパートやマンションの空き部屋率,どれくらいなのでしょう。そこらの不動産屋がやった調査データは色々あるんでしょうが,官庁統計でカッシリした数値を出したい。

 『住宅土地統計』の時系列統計(上記リンク先)に,共同住宅の借家数(a)と,賃貸用共同住宅の空き家数(b)が出ています。aは,居住世帯がある共同住宅借家です。両者の合算が賃貸の共同住宅の数で,これに占めるbの割合が,賃貸の共同住宅(アパート・マンション)の空き部屋率になります。

 以下の表は,双方のデータがとれる1998年からの推移です。


 ここ20年間の傾向ですが,両方とも増え続けています。aは1ルーム等に住まう単身世帯の増加,bは節税目的でのアパートの建てすぎによるのではないでしょうか。賃貸共同住宅の空き部屋数は,この20年間で275万から378万と,100万以上も増えています。

 右端の空き部屋率をみると,大よそ2割弱で動いてきています。空き部屋は増えていますが,賃貸共同住宅全体(分母)も同じくらいのペースで増えてますので,率に変化はないみたいです。

 賃貸アパート・マンションの部屋の2割が空き部屋。これは全国値で,地域による違いもあります。同じやり方で47都道府県の賃貸住宅の空き部屋率を計算し,高い順に並べると以下のようになります。1998年と2008年のランキングの対比です。


 この20年間の空き部屋率は,全国値では17.3%から18.5%の微増にとどまりますが,都道府県別にみると状況の深刻化がみてとれます。

 5%刻みで色分けしてますが,不穏な色が垂れてきています。2018年では25の府県で20%,8の県で25%を超えています。最近の栃木や山梨では,賃貸部屋の3分の1が埋まっていないと。厳しいですね。私が住んでいるエリアでも,こんな感じかなと思います。もっと降りて市区町村レベルでみると,4割,5割という数値が出てくるかもしれません。

 東京のような大都市はまだマシですが,地方での賃貸経営は厳しい。しかし,さら地の土地は地方に多く,これだと税金をガッポリとられるので,アパートを建てよう。業者にそそのかされ,こういう考えに傾いてしまう地主が多し。某県の田舎で,レオパレスのあの無機質なアパートが次々と建つ「レオパレス銀座」がテレビでやってましたが,あんな感じです。

 空き部屋でも,業者が一括で借り上げてくれるサブリース契約なるものもありますが,空きの期間が長くなると,「家賃下げます」と言われます。拒否すると,「じゃあ契約打ち切りです」と言われ,手元には借金だけが残る。よく言われる,賃貸オーナーの悲惨な末路です。

 需要もないのに,アパートなんかを建てるのは,①自然破壊,②景観悪化,③犯罪の温床になる,という実害が生じます。こんな行動に地主を掻き立てるなら,さら地から高い税金をとるなんて,いっそ止めたほうがいい。ないしは税金免除の対象を,子どもの遊び場や保育所など,社会性のある用途への土地供与に限るといい。

 2番目の表によると,既に378万もの賃貸アパート・マンションの空き部屋があります。横浜市の人口と同じくらいです。その一方で,住居に困っている人は数多くいます。コロナの影響で失職し,家賃を払えなくなり,「住」を失った人もいます。行政が家賃を補助する形で,使われないでいる378万もの空き部屋(住資源)を活用すべし。家主にとっても生活困窮者にとってもメリットありです。社会全体にしても,路上生活者の増加によるデメリットを補って余りありです。

 これから先は,人口減少時代です。こういう時代にあって,住宅の乱築などはしないほうがよろしい。なすべきは,既存のハコの活用です。うまくデータベース化し,供給と需要をリンクさせれば,「住」に困る人なんていなくなるはずです。前にニューズウィーク記事でも書きましたが,空き家が増えすぎて,「タダでいいから,ハウスキーパーとして住んでくれ」と頼まれる時代が来ると私は見込んでいます。