2014年3月31日月曜日

2014年3月の教員不祥事報道

 月末(年度末)になりましたが,恒例の教員不祥事報道の整理です。今月,私がネット上でキャッチした不祥事報道は36件です。年度末のためか,先月よりちょっと増えています。

 今月も新聞紙上を賑わせてくれましたが,全裸で歩く,遅刻した生徒にかき氷をおごらせる,放置自転車を失敬など,珍しい事案も見受けられます。

 2013年1月より不祥事報道の収集作業を続けていますが,事件がだいぶたまってきました。もう少ししたら,本格的なデータベースにしようと思っております。

 明日から新年度です。気持ちを新たにして頑張りましょう。私の仕事始めは9日,来週の水曜日からです。

<2014年3月の教員不祥事報道>
中学教諭、不正アクセスか…女性の旅行予約見る(3/2,読売,広島,中,男,34)
大麻所持で小学教諭逮捕=コンビニ駐車場で―北海道警
 (3/5,時事通信,北海道,小,男,38)
<強制わいせつ>容疑で中学教諭逮捕 女性の下着強盗未遂も
 (3/7,毎日,大阪,中,男,32)
生徒に土下座強要 県立三条東高校教諭(3/8,新潟日報,新潟,高,男,50代)
「手が当たっただけ」痴漢容疑の教諭、駅長室トイレに立てこもる
 (3/10,産経,大阪,高,男,32)
県立高で教諭が生徒に暴言…数十回の謝罪要求も(3/11,読売,愛知,高,男?)
講師が授業中に中学生盗撮、京都 スリッパと足の間に携帯
 (3/11,東京新聞,京都,中,男,25)
区立小副校長、職員室で女性教諭に「大好き」 (3/13,読売,東京,小,男,56)
半身まひの中1男子生徒に正座 長崎・諫早、教諭が体罰
 (3/15,共同通信,長崎,中男45,中男39)
教諭の暴言で小5男児がPTSD…賠償提訴(3/15,読売,千葉,小,男,30代)
男湯の脱衣場をビデオ撮影、男性教諭を懲戒免職 (3/16,読売,東京,高,男,44)
・同上(東京,住居侵入:高男56)
女性教諭、パン1個から「ずるずる」教材費流用(3/18,読売,千葉,中,女,40代)
体罰で中1男子が不登校に…教諭を懲戒処分 (3/18,読売,長崎,中男55,中男32)
「パチンコしたかった」部活費、修学旅行費を着服した教諭処分
 (3/19,産経,和歌山,中,男,32)
元臨時講師、懲戒処分にできず 女子中生にみだらな行為
 (3/20,さきがけ,秋田,高,男,20代)
「女子高生が好き」下半身露出の「罰」は… 中学教頭停職処分→依願退職
 (3/21,産経,大阪,中,男,50)
女子生徒の頬にキス…女性教諭を減給(3/23,毎日,千葉,中,女,51)
男性教諭を免職 卒業アルバム制作費など学年費280万円を横領
 (3/25,埼玉新聞,埼玉,高,男,32)
・同上(埼玉,交通事故:小男性教諭30,体罰:小男性教諭36)
別の学校で講師・全裸で歩く… 神奈川で教諭3人処分,3/25,朝日,神奈川
 (別の学校で講師:高男45,公然わいせつ:中男35,自転車横領未遂:小男25)
生徒に体罰、中学教諭を減給処分(3/25,読売,鹿児島,中,男,34)
青森の高校教頭が違法モデルガン所持で罰金、減給処分
 (3/25,東奥新聞,青森,高,男,60)
生徒にわいせつ行為、高校講師を懲戒免職(3/26,神戸新聞,兵庫,高,男,20代)
体罰で処分された教諭、依願退職直前にまた体罰(3/27,読売,大阪,中,男,29)
遅刻した生徒に「かき氷」おごらせた教諭を停職(3/28,読売,大阪,高,男,25)
・同上(大阪,体罰:高男54,盗撮:小男31)
児童6人に顔たたくなど体罰 男性教諭を減給(3/28,埼玉新聞,埼玉,小,男,57)
これくらいはいいだろう…25回頭たたいた教諭 (3/28,読売,福岡,小,男,29)
コピペで調査書誤入力 4校長を戒告処分
 (3/28,神戸新聞,兵庫,中男59,中男56,中女56,中男60)
教諭が中1を暴行 元校長、けがを報告せず(3/29,朝日,宮崎,中,男,59)
放置自転車使用の教諭、川崎市教委が減給処分(3/29,神奈川新聞,神奈川,小,男,29)
体罰の2教諭懲戒、1人を厳重注意 県教委処分
 (3/29,山形新聞,山形,高男50代,小男50代)
体罰で男性教諭戒告 宮崎県教委(3/29,宮崎日日,宮崎,中,男,59)
女子生徒の携帯にわいせつ画像…教諭を懲戒免職(3/30,読売,香川,中,男,52)
・女性教諭を文書訓告 児童を床に座らせ授業(3/31,毎日,広島,小,女,50代)

2014年3月30日日曜日

2012年度の鉄道自殺

 国土交通省に情報公開申請をして,「運転事故等整理表(平成24年度)」という内部資料を出してもらいました。2012年4月1日から2013年3月31日までの1年間に発生した,鉄道自殺事件の詳細が記載されています。

 私は,①会社名,②地域,③日時,④月,⑤時間,⑥曜日,および⑦場所という項目からなる,簡単なデータベースをつくってみました。データ入力済みのエクセルファイルで提供してもらったので,さして手間はかかりませんでした。


 ピボットテーブル機能を使うことで,単純集計はもちろん,クロス集計もらくらく行うことができます。月別や時間別の単純度数分布はツイッターで発信しましたが,ここでは,「曜日×時間」のクロス集計表をご覧に入れようと思います。鉄道自殺は,どの曜日のどの時間帯に多いのか。検出してみましょう。

 上記の資料によると,2012年度間に起きた鉄道自殺事件は631件となっています。1日あたり1.7件。結構起きていますね。これらの事件を,「曜日×時間」のマトリクス上に散りばめると,以下のようになります。


 まず合計からみると,曜日では金曜が最も多いのですね。憂鬱な月曜かと思いきや,ちょっと意外でした。時間帯別でみると,魔の時間は10~11時台です。その次が14~15時台。ラッシュから外れた時間帯なり。

 曜日と時間をかけ合わせるとどうでしょう。10件を超えるセルにはマークをつけ,15件を超える場合は数字をゴチの赤色にしました。後者の数は5つ。

 ・月曜日の14~15時台
 ・水曜日の22~23時台
 ・金曜日の10~11時台
 ・金曜日の14~15時台
 ・日曜日の18~19時台

 ふうむ,解釈が難しい。日曜日の18時台は,子どもやサラリーマンを憂鬱にさせる,あの「サザエンさん」ソングが流れる時間ですが,他はどうみたものか。ここではデータの提示にとどめておきましょう。

 これからデータベースを充実させていこうと思いますが,私が加えてみたいのは,事件発生時の天候です。曇天や雨天の影響は大きいと思われます。事件が起きた地域・日時の天気は,気象庁のホムペで調べられます。

 ただ,これは多大な労力を要するので,調査統計法の受講学生さんの力を借りようかと。こうした共同作業を通して,データベース作成や集計の技法を体得してもらえたらなと考えています。今年度の前期は,武蔵野大学有明キャンパスで調査統計法2という授業を担当予定です。

2014年3月29日土曜日

20万人の博士,今どこで何を?

 小保方さんのコピペ疑惑が浮上していますが,学部学生の卒論でいうと,最近ではコピペを通り越して,論文を「代筆」してもらう輩もいるとのこと。

 そうした需要に応える業者も存在するようであり,「卒論代行」という語でググると,業者のサイトがわんさと出てきます。

 いくつかの社のサイトを覗いてみると,「スタッフには有名大学の博士課程修了者(博士号取得者)が多数」とあります。定職のない無職博士がやむを得ずやっているケースも多いと思われます。

 とある記事によると,代行による「卒論の完成度はかなり高いらしい。執筆するのは修士号取得者や博士号取得者というからだ。大学の研究室には,年収200万円台のポスドク(非常勤研究員)が腐るほどいるから,人材には事欠かない」のだそうです。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140327-00000011-nkgendai-life

 代行料金の相場は「1字=10円」ですので,2万字の卒論1本仕立てたら20万円,業者が半分持っていくとしても10万円。自分のスキルを活かしてこんなに稼げるのですから,無職博士なら誰もが手を出したくなる闇ビジネスといえるでしょう。

 しかし,国税で育成した知的資源がこんなところに流れているのだとしたら,それこそ大問題です。「少子化 → 学部学生減少 → 大学院生増加で補填 → 無職博士増加 → 専業非常勤講師・卒論代行博士増加 → 大学崩壊」。こんな因果連関も想起されます。

 1990年代以降の大学院重点化政策により,博士号所得者は増加してきています。毎年の『学校基本調査』には,3月の博士課程修了生数とそのうちの単位取得満期退学者数が掲載されていますが,前者から後者を差し引いた数が博士号学位取得者と考えられます。1993年以降の数字を跡づけてみました。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm


 1993年の学位取得者は4477人でしたが,20年を経た2013年では11878人となっています。最近では,年間の1万人超の博士が出ているのですね。

 ちなみに,この20年間に輩出された博士号学位取得者の数を累積すると,20万1614人となります。国の政策によって生み出された知的資源ですが,この20万人の博士が今どこで何をしているのか。大変気になるところです。

 なお,専攻別の学位取得者の数は,以下のように推移しています。先ほどと同じやり方で割り出したものです。参考資料として提示いたしましょう。


 専攻別にみると,文系の専攻で増加率が大きくなっています。2013年の数が1993年の何倍になったかをみると,人文科学は7.7倍,社会科学は6.7倍,私が出た教育は5.9倍です。この20年間に出た,これら3専攻の博士の総数は19553人なり。

 この約2万人の文系博士のうち,定職のない者はどれほどか,やむにやまれず卒論代行のスタッフに堕ちている者は何%ほどか。興味が持たれます。

 いやゴシップ的な興味ではなく,公的な調査によって明らかにされねばならないことでしょう。博士とは,国税で育成した知的資源。これらの資源が社会のどこでどう活かされているか。国としては,説明責任があるのではないかと思うのです。

 言わずもがな,知的人材の「チカラ」が負の方向に向いたら大変なことになります。しかし,卒論代行博士の存在に示されるように,その兆候は出てきています。そのうち,博士向けの闇ビジネスみたいな市場も出現するかもしれません。

 莫大な資源を投じて,社会を覆しかねない危険因子を育成する。これほど馬鹿げたことはありますまい。

2014年3月28日金曜日

日経DUALでの連載スタート

 春の陽気も増してきましたが,いかがお過ごしでしょうか。本日より,日経DUALにて連載が始まりました。「舞田敏彦のデータで読み解くDUALな疑問」です。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=2332


 初回は,「児童相談から分かるヤバい年齢」としました。育児には「楽」あれば「苦」もあり。今は可愛いわが子も,やがては荒れ始めるもの。それがいつかを年齢別の児童相談統計から割り出し,子育てへの展望を持っていただけたらと思います。

 これから大よそ3週間スパンで記事が掲載される予定です。子育て中のママさん・パパさんの関心に応えるような記事を書かせていただこうと思っております。

 他の執筆者の方々は,ご自身の豊富な子育て経験や教育実践経験をもとに論を展開されているようですが,私にはそのような財産はありません。でも,子育て・教育に関わる統計データはたくさん貯め込んでいますので,それを開陳しようと考えております。

 個々の生々しい経験や実践から一歩引いた,それよりも高みに立った地点からの(マクロな)俯瞰的な視野。おこがましい言い方ですが,こういう特色を出せたらなと。

 家庭での子育て,学校,受験,子どもの問題行動,さらには就職・結婚など,テーマにバラエティを持たせるつもりでおります。お時間あるときに,よろしければ覗いてみてください。どうぞ,よろしくお願いいたします。

2014年3月26日水曜日

大学入学者の地元占有率

 最近,大学進学に際して「地元志向」が強まっているといわれます。不況のため,遠距離通学や下宿の費用を負担するのがキツイという家庭が増えているのでしょう。大学の学費だけでもバカ高なのに,下宿費用まで上乗せとなると,それは大変です。

 今回は,大学進学の地元志向の強まりを統計で可視化してみようと思います。各県内の大学入学者の中で,自県出身者の割合がどれほどいるかに注目してみましょう。いわゆる,地元占有率というやつです。

 まずは時計の針を20年戻して,1993年春の状況から。この年の大学学部入学者は55.5万人ですが,このうち,入った大学と同じ県内の高校出身者は19.8万人です(文科省『学校基本調査』)。よって地元占有率は,35.8%と算出されます。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa01/kihon/1267995.htm

 2013年春について,この意味の地元占有率を出すと42.3%です。なるほど,各県内の大学入学者の占める地元出身者の比重が高まっていますね。

 では,大学入学者の地元占有率の変化を,都道府県別に観察してみましょう。各県内の大学入学者に占める,自県内の高校出身者の比率です。分子と分母の数値も提示いたします。


 黄色マークは最高値ですが,地理的に閉じた沖縄は地元占有率が高いですね。現在では,県内の大学入学者のうち,8割が地元出身者です。

 この20年間の変化をみると,全国的傾向と同様,地元占有率が増加している県がほとんどです。10ポイント以上増には<の記号をつけましたが,東北や北関東の県で地元志向の高まりが顕著であることが知られます。秋田で地元占有率が下がっているのは,国際教養大学ができたことの影響でしょう。

 ≪がついている長野と静岡は,地元占有率が20ポイント以上増です。私立の長野大学を公立化しようという議論がされているようですが,そうなった場合,この比率はもっと高まることでしょう。

 仕上げとして,上表の地元占有率を地図化しておこうと思います。30%未満,30%台,40%台,および50%以上という4階級を設けて,各県の濃淡をつけてみました。


 地図の色が全体的に濃くなってきています。大学進学の地元志向の高まりが,可視化されていますね。ちなみに,各県の大学進学者のうち,自県内の大学に入った者はどれほどかという「地元進学率」でみても,類似の傾向がみられることを付記しておきます。

 大学進学の地元志向の強まりは,不況による家計逼迫というネガティヴな側面から解釈されがちですが,別に悪いことではないでしょう。人口のアンバランスが緩和される契機にもなり得ます。そういえば,先日発刊の『プレジデントファミリー』誌に,こんなことが書いてありました。

 「高い教育費を払って都会の有名大学に進学し,苛酷な就職戦線で疲弊するよりも,地元の国立大学で安く学び,生まれ育った土地で働くほうが幸せだと考えることは,決して悪いことではない。…日本のさまざまな地域でそうした選択をする学生が増えれば,地域の活性化にもつながっていくだろう」。『プレジデントファミリー』2014年3月18日号,93ページより。
http://www.president.co.jp/family/

 そうだろうと思います。今回みたのは大学進学時の地域移動ですが,願はくは,大学卒業時のそれも知りたいものです。地元の大学に入っても,大学を出たら他県に出ていく人もいます。逆に,た県の大学に行っても,卒業したら地元に帰ってくる人もいます。

 『学校基本調査』において,大卒者の就職先の県別統計をつくっていただけないでしょうか。これがあれば,自県定着率やUターン率なども出せ,先ほどの引用文にあるような,未来展望の具現の度合いを可視化することもできます。

 勝手な注文ですが,ぜひとも検討していただきたい事項です。

2014年3月24日月曜日

無業者の自殺率

 自殺とは「孤立の病」であるといわれます。「人は集団に属さずして,自分自身だけを目的にして生きることはできない」。デュルケムの名言ですが,あらゆる縁から隔絶されている人間の自殺率がべらぼうに高いことはよく知られています。

 縁といっても,血縁・地縁などいろいろありますが,職業生活の比重が増している現代では,職縁,つまり職業集団に属しているかどうかが大きいと思われます。デュルケムも,自殺の防止に際して職業集団の役割を強調していますしね。

 今回は,生産年齢人口の自殺率が,有業か無業かによってどう変異するかをみてみようと思います。こういうデータは,当局の白書等で公表されていないようですので,みなさんの参考になればと存じます。

 まずは分子の自殺者数ですが,厚労省の『人口動態職業・産業別統計』から,2010年度間の自殺者数を有業・無業別に知ることができます。私の属性(30代後半男性)でいうと,有業者の自殺者数は752人,無業者は627人です。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/135-1.html

 30代後半の男といえば,ほとんどがバリバリ働いていますが,自殺者では有業者と無業者がほぼ拮抗していますね。それだけ,無業者の自殺率がメチャ高ということでしょう。

 自殺率を出すための分母としては,2010年の総務省『国勢調査』の数値を使いましょう。これによると,同年10月の30代後半男性の有業者(就業者)は421万人,無業者(完全失業者+非労働力人口)は38万人です。
http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2010/index.htm

 以上の数値から,30代後半の有業男性の自殺率は17.9,無業者の自殺率は164.3と算出されます。ベース10万人あたりの自殺者数です。ほう。無業者の自殺率は有業者の9倍にもなるのですね。

 私は,他の年齢層の数値も出し,それらをつないだ曲線を描いてみました。ジェンダー差もみるため,グラフは男女で分けています。


 自殺率の性差はよく知られていますが,無業者に限るとすさまじいですね。男性の場合,加齢とともにぐんぐん上がり,45~54歳の層では自殺率が200を超えています。就労はもちろん,ローン返済,子どもの高等教育学費負担,親の介護など,さまざまな役割が課せられる層ですが,それだけに,無業者に対する圧力も大きい,ということでしょうか。

 デュルケムが指摘するような,職業集団のはく奪による,自己アイデンティティの喪失という要因も無視できません。女性でも「有業者<無業者」ですが,最近は女性にあっても職業集団が自我の拠り所となる度合いも高まっています。昔に比したら,無業者の相対的苦悩が増しているのではないでしょうか。女性の社会進出の必要は,こういう面からも指摘できます。

 さて,とりわけ男性の中高年層において,無業者の自殺率が高いことを知ったのですが,地域別のデータもみてみましょう。先ほど説明した分子と分母の数値は,都道府県別に得ることもできます。私はこれを使って,30~50代男性の有業者・無業者の自殺率を県別に出してみました。

 下の表は,47都道府県の一覧表です。最高値には黄色,最低値には青色のマークをつけました。


 どの県でも,有業者より無業者の自殺率が高くなっています。無業者の自殺率のマックスは,首都の東京です。有業者と比した相対倍率も,東京で最も高くなっています(12倍!)。

 赤色は,無業者の自殺率が有業者の10倍を超えるという意味ですが,埼玉,東京,神奈川,富山,大阪,そして奈良というように,多くが都市県です。

 「相対的はく奪」という概念がありますが,生活水準が高い都市部において無業状態に置かれることは,苦痛を増幅させる,ということであると思われます。「豊かさの中の貧困」というやつです。

 そういえば,松本良夫先生の研究でも,生活水準が高い大都市内の相対的に貧しい地区で非行少年の出現率が高いことが明らかにされています。*「最近の東京における少年非行の生態学的構造」『犯罪社会学研究』第3号,1978年。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110002779579

 無業者の自殺率が有業者の何倍かの倍率を地図化すると,構造がよりクリアーになります。上表の相対倍率に依拠して,各県を塗り分けてみました。


 色が濃いのは,首都圏,近畿圏,愛知,広島,そして北陸2県です。都市的地域における,無業者の相対的苦悩が見受けられます。「相対的はく奪」感のような文脈要因だけでなく,より直に,各県の雇用斡旋や生活保護等の施策と関連しているかもしれません。

 同じ生活状況に置かれた人間であっても,当人をとりまく文脈(context)によって,自殺へと傾斜する確率は異なる。社会学的な自殺論の存在意義の一つは,この点を目に見える形で明らかにすることであると考えております。

2014年3月20日木曜日

職業別の年収

 保育士不足が深刻化していますが,資格を持ちつつも当該の職に就いていない「潜在保育士」は相当数いるものと見込まれています。

 子育てや介護に忙しいなど,事情はいろいろでしょうが,なり手がつかない最大の理由は「給与が安い」ことだそうです。教員などと同じ専門職であるにもかかわらず,給与が安すぎる。なるほど,確かによく耳にする話です。
http://www.j-cast.com/2013/10/27186948.html

 上記のリンク先記事によると,保育士の年収は315万円だそうですが,最新の官庁統計から計算するとどういう値になるでしょう。厚労省の『賃金構造基本統計』にあたって,目ぼしい職業の年収を割り出してみました。

 最新の2013年版には,一般労働者の2013年6月の月収と,前年(2012)年中の年間賞与等の額が職業別に掲載されています。一般労働者とは,従業員10人以上の事業所に勤務する,短時間労働者以外の労働者です。月収には,残業代等の超過労働手当も含みます。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chingin_zenkoku.html

 この2つの数字を使って,6つの職業の年収を推し測ってみました。医師,弁護士,大学教授,高校教員,保育士,そして福祉施設介助員(介護員)です。ジェンダーの影響を除くため,男性に限定します。


 医師,弁護士,大学教授は年収1000万超です。スゴイ。高校教員は710万円。私の知り合いに高校の先生が何人かいますが,結構稼いでいるんだな(全年齢をひっくるめた額ですが)。

 しかし,残りの2つになると,年収が一気に下がります。保育士は323万円,介護員は333万円です。保育士の年収ですが,女性も含めれば,上記のJ-cast記事でいわれている315万円に近くなるでしょう。高校教員の半分以下。同じ専門職であるにもかかわらず,給与が安すぎる。納得です。

 年収の計算の仕方についてご理解いただけたかと存じます。私は同じやり方で,126の職業の年収額を計算してみました。ジェンダー差も気になりますので,男女別の数値も出しました。一覧表を提示することはできないので,視覚的なグラフをみていただきましょう。

 下の図は,横軸に男性,縦軸に女性の推定年収額をとった座標上に,それぞれの職業を位置づけたものです。点線は,126職業の平均値です。斜線は均等線であり,この線よりも下にある場合,「男性>女性」であることを意味します。


 職業別の年収の布置図ですが,どうでしょうか。年収が飛びぬけて高いのは,弁護士,大学教授,医師,航空機操縦士(パイロット)ですね。常識に照らしても頷けます。

 医師やパイロットは,「男性>女性」の性差が大きいですね。逆に弁護士は,女性のほうが高くなっています。高収入の専門職に,こうしたジェンダー差があることは知りませんでした。

 なお弁護士ですが,全体平均でみたらこのように高いのですが,職業内部で収入格差が大きくなっています。「イソ弁」とかいいますしね。この職業の月収分布をとってみると,ワープアに近い収入層も存在します。歯科医師も然り。専門職といっても,内部格差が大きい職業もあるようです。
https://twitter.com/tmaita77/status/446171239174787072

 さて保育士と介護職ですが,図の左下のゾーンにあります。男女とも平均を下回っています。女性の社会進出や少子高齢化が進む中,非常に重要な仕事であるにもかかわらず収入が少ないことに,驚きを禁じ得ません。待遇改善が考えられて然るべきでしょう。

 なお,保育士と介護職の年収の年齢曲線を描くと,下図のようになります。先ほどと同様,10人以上の事業所に勤める一般労働者のデータです。


 これらの職業の多くは女性ですので,女性に限定していますが,年齢を問わず,女性全体の値より低くなっています(保育士の50代後半を除く)。加えて注目されるのは,介護職の場合,加齢に伴う上昇がないことです。むしろ減少の傾向すらみられます。人の入れ替わりが激しいためでしょうか…。

 各職業の収入の規定要素は,当該の職に就くためにどれほど専門的な訓練を受けたか(投資費用)と社会的重要性といいますが,原点に立ち返って,後者の側面をもっと重視すべきではないかと思うのです。

2014年3月18日火曜日

『プレジデントファミリー』5月号に掲載

 本日発売の『プレジデントファミリー』5月号に,拙稿が掲載されております。
http://www.president.co.jp/family/


 大学進学率の格差の問題について書かせていただいています。写真の次の見開きページでは,東大・京大合格者の供給源を分析した図も掲げています。

 これまでの論文やブログで何回か書いたテーマですが,編集の方のアドバイスをいただきながら,一般向けの文章にしてみました。本誌は,書店だけでなくコンビニにも置かれていると思います。ご覧いただければと存じます。

 本誌には,興味深い記事が満載です。冒頭の「お金をかけずに,東大生・京大生を育てた母の秘密」とかも面白い。私的には,岡野雅行さんのインタビュー記事「腕一本で生きるカリスマ職人の教育費のかけ方-100万円やるから,世界を旅してこいや!」がよかった。ぜひ,お手にとってください。

2014年3月16日日曜日

専業主婦率と母親の虐待率の相関

 児童虐待が社会問題化していますが,虐待の加害者の多くは母親です。2012年度間の児童相談所が対応した虐待相談件数でみると,総数66,701件のうち,加害者が実母であるケースは38,224件となっています。率にすると57.3%です(厚労省『福祉行政報告例』)。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/38-1.html

 子どもと接する時間が長いのは母親ですから,当然といえばそうですが,今回は,母親による虐待発生率が環境条件によってどう変わるかを明らかにしてみましょう。

 上記の厚労省資料から,加害者が実母である虐待相談件数を県別に知ることができます。大都市の東京でみると,2012年中の件数は2,452件です。同年10月時点の子ども人口(20歳未満)は202万人。よって,子ども人口1万人あたりの件数は12.1件となります。この値を,母親による虐待発生率をみなしましょう。

 この指標を47都道府県別に計算してみると,最高の大阪(37.1)から最低の鹿児島(1.8)まで,甚だ大きな地域差が観察されます。前者は後者の20倍超です。これは両端ですが,全県の値を地図で表現してみると,下図のようになります。2012年の母親の虐待率マップです。


 5.0刻みで塗り分けてみましたが,首都圏や近畿といった都市部で色が濃くなっています。あとは,中国の中枢県や石川ですか。全体的にみて,大よそ,都市性の度合いと関連しているように思えます。

 都会ほど人間関係が希薄で,母親の育児が孤立しやすいことを思うとさもありなんですが,「都会ほど虐待が多い」というオチでは物足りません。虐待と関連していそうな,各県の母親の生活条件を具体的に表す指標との相関をとってみましょう。

 私が着目したいのは,専業主婦率です。母親が一人家にこもって育児をしている県ほど,虐待が多いのではないかと思われます。この現象を統計で可視化できるでしょうか。

 ここでいう専業主婦率とは,6歳未満の子がいる核家族世帯(母子・父子世帯は含まない)のうち,「夫有業・妻無業」の世帯の比率です。三世代世帯の影響を除くため,核家族世帯に限定します。2012年の総務省『就業構造基本調査』からこの指標を県別に出し,先ほどの虐待発生率との相関をとってみました。
http://www.stat.go.jp/data/shugyou/2012/index.htm


 撹乱はありますが,専業主婦率が高い県ほど,母親の虐待率が高い傾向が見受けられます。相関係数は+0.534であり,1%水準で有意です。

 上図の相関は,祖父母と離れて暮らしている核家族世帯の率を介した疑似相関ではないか,という疑いもあります。しかし,6歳未満の子がいる世帯の核家族世帯率との相関を出したところ,係数値は+0.367であり,主婦率との相関よりも小さいのです。

 母親の主婦率と虐待率が因果関係的な面を持っているとしたらどうでしょう。ある方がツイッター上で,「母親が一人,小さい子と24時間接するのはとても危険なことだ」とつぶやいておられました。言い得て妙だと思います。

 虐待の被害者の多くは就学前の乳幼児ですが,この時期の子どもは言語による意思疎通も困難で,なかなか言うことを聞いてくれません。2~4歳頃には,第1次反抗期も迎えます。一人,こうした存在と四六時中向き合うというのは,確かに「危険なこと」なのかもしれません。周囲からのヘルプが得られない場合,なおさらのこと。

 それに,専業主婦は自分の役割を「子育て」に特化しているため,いわゆる「パーフェクトチャイルド願望」が高いのが常です。そうした(高き)理想と現実とのギャップも,虐待発生の素地を準備すると考えられます。

 人間は,一つではなく多様な顔(役割)を持ったほうがいいといわれます。子育てをしている女性も,「母親」だけではなく,職業人や地域人としての顔を備えた方がいいのではないでしょうか。それは男性にもいえることで,職業人だけではなく,父親や地域人としての顔を前面に出さねばなりません。それがないと,自分が手がける仕事に「社会性」が生まれません。営利追求一辺倒に陥りやすくなります。

 私は,専業主婦が悪いなどというのではありません。地域単位の統計から,「専業主婦ほど虐待をしやすい」という行為命題を導くのは早計です。上図の相関は,背後の共通要因を介した疑似相関であることでしょう。おそらく,地域のソーシャルキャピタルの強度といったものだと思います。

 求められるのは,それを可視化する指標を開発ことです。しかし目下,いろいろな指標と虐待率との相関をとったところ,最も強く相関しているのは専業主婦率なので,その事実を提示しておこうと考えた次第です。

2014年3月14日金曜日

理系専攻率の国際比較

 理系人材を増やすことの必要がいわれていますが,わが国では,教育期に理系分野を専攻した者の比率はどれくらいなのでしょう。その国際的な位置は? こういう基本的なことが明らかになっていないように思えます。

 OECDの国際成人学力調査(PIAAC2012)の質問紙調査では,最後に卒業した学校で専攻した学問分野を尋ねています。この設問への回答結果を国別に集計してみましょう。25~34歳の成人男女に焦点を当てます。

 私は,PIAAC2012のローデータを分析して,日本を含む22か国の回答分布を明らかにしました。下の図は,男性の回答分布です。無回答,無効回答は含めていません。
http://www.oecd.org/site/piaac/publicdataandanalysis.htm


 選択肢が9つもあるので図がゴチャゴチャしていますが,日本をみると,一般教養の比重が他国に比して大きいですね。多くが普通科高校の卒業者でしょうが,明瞭な専攻(major)を持たない者が多いのは,日本の特徴のようです(カナダ,エストニアも)。

 しかし,量的に最も多いのは機械工学を専攻した者であり,全体の3割を占めます。これは理系の代表格ですが,自然科学と農学も加えた「理系専攻率」を出すと39.2%,およそ4割です。

 この理系専攻の領分(赤枠)を他国と比べると,日本は少ないですね。最高のスロバキアでは65.5%,その次のチェコでは59.6%が理系専攻者です。いずれも東欧国ですが,社会状況が近似しているお隣の韓国も,わが国より理系専攻率がかなり高くなっています。他の先進国も然りです。

 以上は男性のデータですが,興味が持たれるのは女性です。理系を専攻した女性(リケジョ)の比率はどうなっているのでしょうか。

 横軸に男性,縦軸に女性の理系専攻率をとった座標上に,22か国を位置づけた図をつくってみました。理系専攻率とは,自然科学,機械工学,農学のいずれかを専攻した者の比率です。点線は,22か国の平均値を意味します。


 ほう。日本は,男女とも理系専攻率が最も低い社会であるようです。とくに女性の率はすこぶる低く,わずか7.8%です。お隣の韓国のリケジョ率は27.8%であり,大きく水を開けられています。しかし,韓国がリケジョ大国だとは知らんかった・・・。

 しかし,こういうデータをみると,「女子の脳は男子に比して理系向きにできていない」という生理説を疑いたくなりますねえ。やっぱ社会的なものなんですよ,ホント。

 ひとまず,わが国の国際的な位置が明らかになりましたが,政府がリケジョを躍起になって増やそうとしているのも,分かる気がします。それは大学も同じで,新潟大学の工学部などは,イケメンの写真入りの入学パンフを配布しているそうな。

 しかるに,2012年11月8日の記事でみたように,日本は女子生徒の理系志向そのものが最も低い社会でもあります。このことを汲むと,人生初期の人間形成(社会化)のジェンダー差に,われわれはもっと目を向けねばなりますまい。

 小・中学校の理科教育をみるとどうでしょう。村松泰子教授らが中学校2年生を対象に行った調査によると,理科でよい成績をとることを教師から期待されていると感じている生徒の割合は,女子よりも男子で高いそうです。教えられる内容が男女で異なることはあり得ませんが,こうした「見えざる」期待が存在しないか。

 また家庭において,女児が理系の道に進みたいと口にした時,保護者が歓迎しないような素振りを見せていないか。さらに,小学校の理科専科担当教員や中学校の理科教員の多くは男性ですが,このことが「女子は理系に行くべからず」というような「ジェンダー・メッセージ」となって,生徒に伝わっていないか。こういう疑いも出てきます。

 もともと日本は「ヒト」しか資源のない国ですが,少子高齢化が進行する中,この資本の重要性はますます高まってきます。人口の半分を占める女子の理系タレントが,人為的に潰されるような事態は避けねばなりません。

 今回みたのは成人男女の理系専攻率ですが,この国際統計は,わが国の教育への問題提起を多分に含んでいるものと私は考えます。

2014年3月12日水曜日

公立が強いか?国私立が強いか?

 毎年6月の『サンデー毎日特別増刊号』には,その年の有力大学合格者数の高校別一覧が掲載されます。これは大変貴重なデータであり,教育社会学の研究者も度々利用しています。私も然り。


 ちょっと必要があって,昨年春の東大・京大合格者数のデータベースをつくったところです。それを使って,各県の公立高校と国私立高校から東大・京大合格者がどれほど出ているかを明らかにしました。また,その数をベースの高卒者で除して,合格者の出現率も出してみました。

 公立が強いか,国私立が強いかは県によって違いますが,その事実を数値でご覧いただきたいと思います。

 下の表は,上記写真の資料から計算した合格者数と,それを高卒者で除した出現率の一覧表です。出現率の分母として用いた高卒者数は,前年(2012年)5月時点の全日制高校3年の生徒数です(文科省『学校基本調査』)。県別の卒業生数を国公私別に得ることはできませんので,こうした措置をとりました。

 出現率の最高値には黄色のマークをし,上位5位の数値は赤色にしました。


 出現率をみると,奈良の国私立は強いですねえ。東大・京大の合格者出現率は73.3‰(7.3%),およそ14人に1人です。寄与しているのは,私立のT大寺学園高校でしょう。その次は兵庫の27.8‰。私立のN高校でしょうね。

 公立高校の合格者出現率をみると,マックスは京都の10.0‰です。戦後長らく小学区制をとってきた伝統と関係があるのかしらん。

 それぞれの県で公立が強いか,それとも国私立が強いかを比べると,前者が強い県が多いようです。47県のうち,28の県で公立高校からの合格者出現率のほうが高くなっています。

 公立が強いか,国私立が強いかに依拠して,各県をタイプ分けしてみましょう。横軸に公立,縦軸に国私立からの合格者出現率をとった座標上に,47都道府県をプロットしてみました。


 実線の斜線よりも下にある,つまりⅢのゾーンにあるのは,公立高校が強い県です(その典型は滋賀)。それ以外は国私立が強い県ですが,点線の斜線よりも上に位置するのは,国私立からの合格者出現率が公立よりも10ポイント以上高い,国私立の超優位県なり。

 奈良,兵庫,京都,和歌山,広島,東京,および高知が該当しますが,いずれも名門の国私立高校を擁している県ですね。しかし,奈良の外れっぷりがスゴイこと。

 最後に,上図の3タイプ(Ⅰ~Ⅲ)を地図上で表現してみましょう。Ⅰを黒色,Ⅱを灰色,Ⅲを白色として各県を塗り分けてみました。


 多くが公立優位の県ですが,都市部では色つきの国私立優位の県が多くなっています。近畿では,黒色の国私立「超」優位の府県がほとんど。

 どうでしょう。お遊びのような作業でしたが,上記の地図の模様があまりに濃くなると,公正に関わる問題が出てきます。有力大学の合格チャンスが,入学や在学に多額の費用を要する国私立高校の生徒に寡占される事態となり,低所得の家庭の子弟が不利を被るからです。

 実のところ,これは深刻な問題であり,90年代の初頭に,国私立高校からの入学枠を人為的に制限しようという議論もなされたほどです。

 上記の国私立の優位度マップは,昔に比したら色が濃くなってきていることでしょうし,今後もその趨勢が続かないとも限りません。低俗なデータと思われるかもしれませんが,各県の政策担当者の方に,絶えず目配りしていただきたい統計の一つです。

 今月18日に発刊の『プレジデント・ファミリー』誌にて,この主張を書かせていただいた記事が載る予定です。興味ある方は,ご覧いただければと存じます。

2014年3月10日月曜日

仕事・家事時間の国際比較

 3月8日の「国際女性デー」にかんがみ,前日の7日,OECDは成人男性の家事労働時間の国際統計を公表しました。それによると,日本の1日あたりの平均時間は62分で,国際的にみて下位であるとのこと。
http://sankei.jp.msn.com/world/news/140307/erp14030712160006-n1.htm

 私はこういう報道に接すると,原資料にあたって,詳細なデータを確認したくなります。探すのに手間取りましたが,ツイッター上で教えていただいたところによると,OECDの“ Balancing paid work, unpaid work and leisure ”というもののようです。
http://www.oecd.org/gender/data/balancingpaidworkunpaidworkandleisure.htm

 この資料には,15~64歳の成人男女の生活行動時間が掲げられています。平日,休日をひっくるめた1日あたりの平均時間です。私は,各国の仕事(paid work)と家事労働(unpaid work)の平均時間を拾って,表にまとめてみました。前後しますが,統計の年次はおおむね2009年近辺のものです。わが国は,2011年のデータとなっています。


 なるほど。日本の男性の家事時間は62分であり,韓国に次いで低くなっています。その一方,仕事時間は375分でトップです。後者は前者の6倍以上。偏っていますねえ。北欧のノルウェー(家事184,仕事251)とはえらい違いです。

 さて,私は視覚人間ですので,上表の数値の羅列をグラフ化しようと思います。まずは男性の仕事と家事時間の布置図をつくり,男性の“ Balancing paid work, unpaid work ”の具現度を「見える化」してみましょう。

 横軸に仕事,縦軸に家事の平均時間をとった座標上に,26の社会を位置づけてみました。点線は,26か国の平均値を意味します。


 仕事時間が長く,家事時間が短い日本は,右下に位置しています。対極の左上には,西洋の諸国が多し。これらの社会では,男性の仕事時間は家事時間の1.5倍未満です。6倍を超える東洋の2国とは大違いですね。日本は,男性の“ Balancing paid work, unpaid work ”の具現度が最も低い社会であるとみられます。

 次に気になるのが女性ですが,上と同じ図の女性版をつくるというのは芸がありません。男女の位置の違い(ジェンダー差)が国によってどう異なるのかをみてとれる図をつくってみましょう。

 26か国すべてを盛り込むと煩雑になりますので,主要8か国に対象を絞ります。上図と同じマトリクス上に,各国の男女のドットをプロットし,線でつなぎました。矢印の先端は男性,末尾は女性の位置を表します。


 ほう。日本は線が最も長くなっていますね。仕事・家事時間のジェンダー差が最も大きい,ということです。それもそのはず。男性は仕事375分,家事62分に対し,女性は178分,299分ですから。

 対して北欧のフィンランドやスウェーデンなどは,線が短くなっています。男女の位置変化が小さい,すなわち仕事・家事時間の性差が小さい,ということです。女性の社会進出,男性の家庭進出が進んだ国といわれますが,さもありなんです。

 しかし,わが国の偏りには驚かされます。男性は仕事人,女性は家庭人としての顔しか持っていません。男性の側は家庭人としての顔も持たないと,自らがなす仕事に「社会性」というものが生まれません。営利追求の側面ばかりが強くなります。

 女性にしても,家庭の中にこもりっきりではなく,外の「仕事人」としての顔がないと,生活が息の詰まるものになるでしょう。共働き世帯(主婦世帯)比率と虐待発生率の負(正)の相関関係は,本ブログでもみたところです。
http://tmaita77.blogspot.jp/2012/08/blog-post_28.html

 “ Balancing paid work, unpaid work ”の具現を図ることは,男女個々人の負担緩和という次元にとどまらず,社会の維持・存続に関わる基本的な条件でもあるのです。

2014年3月8日土曜日

相対的貧困率

 貧困状態にある人々の量を測る指標として,相対的貧困率というものがあります。所得が,全世帯の中央値の半分に満たない世帯がどれほど存在するかです。

 この指標は,生計を共にする世帯を単位として計算するものです。収入が少ない人でも,同居人がガシガシ稼いでいるというケースがありますしね。

 今回は,2012年の総務省『就業構造基本調査』の世帯年収分布をもとに,上記の意味での貧困世帯がどれほど存在するかを割り出してみようと思います。まずは素材から。本調査から分かる,全世帯の年収分布は下表のようです。*年収が不明の世帯は除く。


 中央値とは,データを高い順に並べたとき,ちょうど真ん中にくる値を意味します。右端の累積相対度数から,中央値は年収300万円台の階級に含まれていることが分かります。按分比例の考え方に依拠して,ちょうど50番目にくる年収の近似値を出すと389.9万円となります。

 ① (50.0-37.6)/(51.4-37.6) = 0.899
 ② 300+(100×0.899) = 389.9万円

 よって貧困線は,この値の半分の194.9万円となります。年収がこのラインを下回る世帯が貧困世帯と判定されるわけです。ここでは,年収194.8万円までの世帯を貧困世帯とみなすことにしましょう。その量は,次のようにして算出されます。

 5,169,500+(6,493,300×0.948) = 11,325,148世帯

 貧困世帯の量は1,133万世帯。年収が分かる全世帯は5,211万世帯。よって,このデータから算出される相対的貧困率は21.7%となります。現在のわが国では,およそ5分の1の世帯が(相対的に)貧困と判定されることになります。

 ところで,この値は世帯主の年齢によって異なるでしょう。単身世帯はどうか,さらには母子世帯に限定するとどうか。こういうことも気になります。

 私は,年収が上記の貧困線(194.9万円)に満たない世帯の比率を,世帯主の年齢別・世帯類型別に計算し,折れ線グラフにしてみました。


 年齢が上がるほど,貧困世帯の出現率は高くなりますね。また当然ながら,単身世帯に限ると貧困率はうんと高くなります。高齢の単身世帯では,おおむね6割以上が貧困と判定されます。貯蓄や資産を考慮していない,年収だけからした貧困率ですが,値の高さに驚かされます。

 しかし,最も注目すべきは母子世帯。配偶者のいない母親と18歳未満の子だけからなる世帯ですが,この群に限定すると,年齢を問わず半分以上が貧困です。母子世帯の貧困率曲線は右下がりですが,幼子がいる母子世帯の母親の場合,フルタイム就業がままならないためでしょう。

 母子世帯の貧困。これはわが国の雇用の問題とつながっていることは間違いありません。1月25日の記事では,一人親世帯の貧困率の国際比較をしましたが,日本は,親が就業している世帯のほうが就業していない世帯よりも貧困度が高いのです。一言すれば,一人親世帯の親が働いても公的扶助の水準に届かない社会です。まぎれもなく社会問題です。

 あと一つ,30代の世帯の貧困率を県別に出し地図にしてみましたので,それをご覧にいれましょう。世帯主が30代の世帯のうち,年収が上記の貧困線(194.9万円)に届かない世帯が占める割合です。私の世代の貧困率マップなり。


 全国値は10.9%ですが,沖縄では世帯主が30代の世帯の26.4%,4分の1が貧困と判定されます。色が濃いのは15%を超える県ですが,北東北や九州に多くなっています。まあ,地域によって所得水準は違いますから一律比較は無意味かもしれませんが,都道府県地図にするとこんな感じです。

 ちなみに,東京都内23区の貧困率地図の試作品はコチラ。興味ある方はご覧あれ。結構地域性が出ています。

 来年度の統計法の教材が増えました。度数分布表から中央値(貧困線)を割り出し,それを下回る世帯の比率を計算させる。貧困の可視化(見える化)。学生さんにやっていただく作業の一つになりそうです。

2014年3月6日木曜日

都内49市区の子どもの総合診断②

 コマーシャルが入りましたが,前々回の続きといきましょう。A)発育,B)能力,C)逸脱の側面を測る6指標を総動員した,都内49市区の子どもの総合診断です。ここでいう子どもとは,公立小学校の児童をいいます。

 各指標の順位をもとにした,5段階の相対スコア表を再掲します。1~9位は5点,10~19位は4点,20~30位は3点,31~40位は2点,41~49位は1点,としたものです。


 この6つのスコアを均した値をもって,各市区の子どもの状態の良好度を測る一元尺度といたしましょう。

 その際,値が高いほど好ましいという意味を持たせるため,AとCの4指標のスコアは反転させます。5→1,4→2,2→4,1→5,というように置き換えます。この場合,千代田区のスコアは,虫歯は5,肥満は5,学力は5,体力は3,いじめは2,不登校は5,となります。よって,この区の良好度スコアは,これらの平均をとって4.17となる次第です。

 ほう。5段階のスコア平均が4を超えるというのは,かなり高いと判断されます。他の市区はどうでしょう。同じやり方で,子どもの良好度スコアを出し,ランキング表にすると以下のようになります。多角的な観点を合成した,総合スコアです。


 いかがでしょう。最高は世田谷区,最低は足立区です。スコアが4を超える地域はマークをしましたが,都心の富裕そうな区が多いですねえ。

 各市区の子どものすがたは,もしかしたら住民の経済的富裕度と相関しているのでは・・・。こんな疑いが出てきます。私は,住民一人あたり都民税・区民税課税額との相関をとってみました。2011年度の数値であり,ソースは『東京都税務統計年報』です。


 撹乱はありますが,住民の富裕度が高い市区ほど,子どもの良好度スコアが高い傾向です。相関係数は+0.570であり,1%水準で有意と判定されます。なお,港区,千代田区,および渋谷区を「外れ値」として除くと,相関係数は+0.735にアップします。

 今回のスコアは,学力のような能力面だけではなく,病気や問題行動の指標も組み込んだ総合スコアですが,そうしたトータルな子どものすがたとて,社会階層の要因によって少なからず規定されていることが知られます。

 教育社会学では,学力の社会的規定性の問題に関心が向けられますが,子どもの育ちの他の面にもスポットを当てる必要がありそうです。

2014年3月5日水曜日

日本教育新聞にて連載スタート

 日本教育新聞の連載「数字が語る・日本の教育」がスタートしました。現代日本の教育の「裏側」を写す統計図を一枚掲げ,それについて手短なコメントを添える,まあミニコラムみたいなものです。

 文科省著作の雑誌では決して触れられないであろう,教育の「裏事情」を,具体的なデータを交えて紹介していこうと思います。毎週の号に掲載されます。


 初回は,教員の年齢ピラミッド。これから,徐々にスパイシー度(刺激度)を高めていきます。興味ある方はご覧ください。どうぞ,よろしくお願い申し上げます。

日本教育新聞社ホームページ:http://www.kyoiku-press.co.jp/
*本誌は毎週月曜日発刊です。

2014年3月4日火曜日

都内49市区の子どもの総合診断①

 1月13日の記事では,複数の指標を使って,47都道府県の子どもの総合診断をしたのですが,それよりも下った市区町村レベルの診断はできないものかと前から思っていました。

 これまでは資料上の制約から断念していたのですが,最近は,自県内の地域別のデータを積極的に公表している自治体もあります。たとえば東京都です。昨年度から体力テストの市区町村別結果も公表していますし,学力テストにしても,情報公開申請をしたら地域別の平均正答率を出してくれました。

 今回と次回の2回にかけて,複数の指標を用いて,東京都内49市区の子どもの総合診断をしてみようと思います。あくまで試行ですが,他の自治体で類似の取組がなされるための礎になればと存じます。また,情報公開の促進が図られることも願います。

 私は,A)発育,B)能力,C)逸脱という3つの観点のもと,6つの指標を収集しました。下の表は,その一覧です。それぞれ2つずつです。


 ここでいう子どもとは,公立の小学生をさすものとします。の資料から必要な数字を採取して,上記の6指標を49市区別に計算しました。学力の指標として算数Bを使うのは,他科目に比して地域分散が大きいからです。

 その結果をまとめると,以下のようになります。最高値には黄色,最低値には青色のマークをつけました。上位5位の数値は赤色にしています。


 どの指標でみても,結構な地域差がみられます。西部の武蔵村山市は,小学生の虫歯率と肥満率がトップです。子どもの発育の歪みが相対的に顕著です。学力のトップは文京区,いじめ率のトップは足立区ですか・・・。

 おっと,つい細部に入ってしまいましたが,今回の主眼は,6指標を総動員して,各市区の子どものすがたをトータルに診ることです。そのためには,水準や単位が異なる各指標の値を同列のものに揃える必要があります。

 ここでは相対順位に依拠して,各指標の値を1~5のスコアに換算しましょう。1~9位は5点,10~19位は4点,20~30位は3点,31~40位は2点,41~49位は1点,とします。下表は,このやり方で換算した5段階スコアの一覧表です。


 何やら5段階の通信簿みたいですが,これで,性格の異なる6指標を総動員した多角診断が可能になります。

 試みに,文京区と足立区の子どもの診断カルテをつくってみました。大都市という基盤を共通にしながらも,その上で暮らす住民の階層構成が異なる2地域です。


 相対評価であぶり出したものですが,両地域の違いが明らかですね。上表のスコアを使うことで,他の地域のカルテも作成可能です。自分の地域のカルテをつくってみてはいかがでしょう。エクセルでもよし,方眼紙の手書きでもよしです。

 次回は,6指標のスコアを合成して,49市区の子どものすがたを総合評価する一元尺度をつくり,ランキングにしてみようと思います。さらに,それが各地域の社会経済指標とどう相関しているかもみてみたいところ。お楽しみに。

2014年3月1日土曜日

貧困と学力の相関(都内23区)

 貧困と学力の相関。最近の教育界でよくいわれるフレーズですが,個々人の体験や印象論によるものが多く,実証データというのは意外に少ないように思います。

 今回は,大都市・東京の特別区部(23区)の統計を使って,この現象を「見える化」してみましょう。

 まずは,各区の子どもの貧困度を可視化する作業からです。よく使われる指標は,いわゆる相対的貧困率(所得が中央値の半分に満たない世帯の割合)ですが,これを地域別に出すことはできません。ここでは,教育扶助を受けている世帯の率を計算してみます。

 教育扶助とは生活保護の一種であり,学齢の子がいる保護者に対してなされる援助です。この扶助を受けている世帯が多い区ほど,子どもの貧困度が高いという見方をとります。

 東京都の『福祉・衛生統計年報』という資料に,都内の地域別の教育扶助受給世帯数が掲載されています。2012年度の資料によると,足立区の教育扶助受給世帯数は1,303世帯です(月平均)。
http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kiban/chosa_tokei/nenpou/2012.html

 『東京都学校基本調査』から分かる,同年5月時点の公立小・中学生数は45,855人。よって足立区の場合,公立小・中学生千人あたりの教育扶助受給世帯数は28.4となります。この値をもって,教育扶助受給率といたしましょう。

 この指標を23区別に出し,マッピングすると以下のようになります。東京の子どもの貧困地図です。


 ほう。明瞭な地域性がありますねえ。中心部で低く(新宿区は別),北東や北西の周辺部で高くなっています。最高の板橋区と最低の文京区では,教育扶助受給率に6倍近くもの差があることも驚きです。

 この指標と,各区の子どもの学力との相関をとってみましょう。都教委は毎年,『児童・生徒の学力向上を図るための調査』という独自の学力調査を実施しています。私は情報公開申請をして,2013年度調査の市区別の平均正答率をゲットしました。
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/press/pr131128b.htm

 本調査の対象は公立小学校5年生と中学校2年生ですが,中学校の場合,私立中に流れる生徒が多い区もありますので,小学校5年生の学力との相関をとってみます。教科は国語,社会,算数,および理科ですが,地域分散が最も大きい算数の正答率を用いましょう。

 下の図は,23区の教育扶助受給世帯率と算数学力の相関図です。


 教育扶助受給率が高い区ほど,すなわち子どもの貧困度が高い区ほど,算数学力が低い傾向が明らかです。相関係数は-0.797にもなります。

 他の要因を介した疑似相関の可能性も捨てきれませんが,上図の相関は,因果関係の面を強く持っていると私は思います。それについて詳説するまでもありますまい。

 「学力テストの結果とは,すなわち教師力だ」。某県の知事さんがこんなことを言っていました。結果がよかった学校(地域)は,教師の授業がよかったということ。逆も然り。好成績を収めた学校(地域)に予算を重点配分する方針を出し,インセンティヴを高めてもらおう。こういう考えも出てきます。

 しかし,これはとても危険なことだと思います。各学校(地域)の学力テストの結果は,教師力だけに規定されるのではありません。今回みた貧困指標や住民の階層構成など,社会・経済的要因によって決定づけられる面を強く持っています。

 こういう事実があることを知らずに,好成績の地域を厚遇するようなことをしたら,有利な地域はますます有利になり,不利な地域はますます不利になる。こうした格差の拡大現象が引き起こされます。

 学力の社会的規定性が厳として存在することをふまえるなら,不利な条件であるにもかかわらず「がんばっている」地域を評価することでしょう。上記の相関図でいうと,足立区や板橋区は,正答率は低いものの,自地域の貧困指標から期待される水準を凌駕しています。この点にも注視すべきです。新宿区などは,期待水準を大きく上回っています。

 教育社会学にちょっと馴染んだ人間ならこういう発想になると思いますが,現場にはあまりいないのかなあ。考えてみれば,教員採用試験の教職教養では,教育社会学なんて「アウト・オブ・眼中」ですしね。現場の教員が「社会階層」なんていう言葉を口にするようになったらマズイからか?

 愚痴っぽくなってきたので,この辺りでやめにします。大都市・東京の特別区部のデータによる,貧困と学力の関連の「見える化」作業でした。