2017年9月20日水曜日

高齢者の幸福度・生活満足度

 楠木新さんの『定年後』(中公新書)を読んでいます。話題本になっているようですが,「人生100年の時代」が到来し,べらぼうに長い定年後の生き方を真剣に考える人が多くなっているからでしょう。
http://www.chuko.co.jp/shinsho/2017/04/102431.html

 29~31ページに,「東京と地方の定年後は異なる」という話があります。地方には,定年後も農作業や自治会の役員などいろいろな仕事(役割)があるが,都会ではそうではない。都会では,「組織を離れると社会とつながる機会がとても少ない」と(30ページ)。

 探せばデータはあるでしょうが,高齢者の幸福度や生活満足度は,都会より地方で高いかもしれませんね。しかるに私は,この箇所を読んで別の分析課題を思いつきました。就業・非就業によって,高齢者の幸福度や生活満足度がどう違うかです。

 この課題を検討できるデータとしては,ISSP調査や世界価値観調査がありますが,サンプル数が多い後者を使うことにしましょう。
http://www.worldvaluessurvey.org/WVSOnline.jsp

 私は,日本の60歳以上の高齢男性のサンプルを取り出し,就業者と非就業者に分け,幸福度と生活満足度を比べてみました。幸福度は4段階,生活満足度は10段階で尋ねられています。下の表は,回答の分布です(無回答・無効回答は除く)。

 就業者とは,フルタイム,パート,自営のいずれかの形態で働いている人で,その他を非就業者としました。


 就業者のサンプル数は165人,非就業者は226人です。日本の60歳以上の男性の就業率は,4割ほどとなっています。

 この2群で幸福度を比較すると,就業者のほうが高いようです。「とても幸福」という回答比率は,就業者が42.4%,非就業者が24.3%となっています。

 生活満足度は10段階で自己評定してもらってますが,8以上の高い満足度を示している人の割合は,就業者が53.7%,非就業者が40.7%で,こちらも働いている人のほうが高くなっています。

 わが国の高齢男性のデータですが,いかがでしょう。やっぱり,仕事(役割)があるかどうかは重要なんですね。人間は社会的存在であることからして当然ですが,社会参画の度合いの高い男性にあっては,とりわけ該当するようです。

 ただ女性は違っていて,同じ60歳以上のサンプルでみると,「とても幸福だ」の回答比率は就業者が36.6%,非就業者が37.0%でほぼ同じ。8以上の生活満足度を答えた人の割合も,50.0%と52.5%で大差なしです。

 女性は,仕事の他にも役割を見いだせるからでしょうね(趣味や地域活動など)。しかし,仕事一辺倒できた男性はさにあらず。会社を定年になったら,直ちに居場所や役割を喪失してしまいます。

 男性は,どの国でも同じだろうと思われるでしょうが,そうではないようです。高齢男性の幸福度や生活満足度が,就業者と非就業者でここまで違うのは,主要国で見る限り,日本だけです。

 サンプル数の多いアメリカを引き合いにして,就業者と非就業者の距離を「見える化」してみましょう。横軸に「とても幸福だ」と答えた人の比率,縦軸にレベル8以上の生活満足度を答えた人の割合をとった座標上に,日米の就業者と非就業者のドットを置き,線で結んでみました。青色は男性,オレンジ色は女性です。


 色付きは就業者,色なしは非就業者のドットです。ご覧のように,日本の高齢男性は,両者の距離が大きくなっています。幸福度や生活満足度が,仕事の有無に規定される度合いが高い,ということです。

 前に書いたように,現役時に仕事一辺倒の人が多いので,仕事以外に社会との接点(役割)を見いだせないのでしょう。現役時から,多様な顔を持っておきたいものです。

 少子高齢化に伴い,人手不足が深刻化することから,高齢者も「支えられる」から「支える」存在への変身が求められるようになります。四角いオフィスではなく,自分が住んでいる地域社会においてです。

 自治会の役員はむろん,最近は学校も教員不足が進んでおり,長年培った高度な知識やスキルを拝借したいという依頼も舞い込んでくるかもしれません。

 ただ高齢男性が地域活動に参画する場合,よく聞かれるのが「態度がデカイ」ということです。千葉県は,退職した元校長の人材を活用し,新人教員の指導に当たらせているそうすが,私がこの取組をツイッターで拡散したところ,「コチコチ頭の老人が,自分たちの古いやり方を押し付けることにならないといいけど」という懸念が多く寄せられました。

 「下は上の言うことを聞くもの」という,年齢規範の強い日本ならではの病理と思えますが,こういうことも,高齢男性の役割の幅を広げるのを阻んでいます。

 これから先,高齢者の就業率も自ずと上がっていきますので,今回のデータを取り立てて問題視する必要はないかもしれませんが,社会との接点(役割)が仕事だけというのは寂しい。日本の男性において,それが最も顕著であることが示唆されます。

 最後になりますが,高齢者の自殺率が高いのは,病苦や年金等の不足による生活苦のためではありません。社会から切り離された「孤独」によるものです。デュルケムのいう「自己本位的自殺」に通じるもの。『自殺論』に書いてある通り,「人は集団に属さずして,自分自身を目的にしては生きられない」のです。

2017年9月15日金曜日

夫の家事・育児分担率の変化(2011~16年)

 本日,2016年の『社会生活基本調査』の生活時間統計が公表されました。1日あたりの各種行動の平均時間が分かるデータです。
http://www.stat.go.jp/data/shakai/2016/kekka.htm

 このデータが公表されたら,真っ先にやろうと思っていた作業があります。共働き夫婦の夫の家事・育児分担率がどう変わったかです。このデータは何度も出してきましたが,ここ数年の変化をみてみましょう。

 『社会生活基本調査』は5年間隔ですので,2011年のデータとの比較を行います。この年以降,女性の社会進出の促進と並行して,男性の家庭進出(家事・育児参画)を促す取り組みもなされてきました。この問題に対し,最も熱心に情報を発信している『日経DUAL』が創刊されたのは,2013年のことです。さて,成果が見られるかどうか。
http://dual.nikkei.co.jp/

 観察対象は,6歳未満の乳幼児がいる共働き夫婦です。手のかかる幼子がいる夫婦ですが,夫婦の家事・育児時間の総計のうち,夫がしている分は何%を占めるか。これが,家事・育児分担率の概念です。

 では,原資料から採取したデータをご覧いただきましょう。各曜日の1日あたりの平均時間です。


 平日と土日をひっくるめた週全体の数値をみると,夫の家事・育児の平均時間(1日あたり)は,2011年が54分,2016年が67分です。13分増えています。妻のほうは,329分から327分へと微減です。

 その結果,夫の分担率は14.1%から17.0%にちょっと上がっています。家事・育児の8割以上を妻がやっている状況は変わりませんが,よい方向に向かってはいるようです。曜日ごとにみると,土曜日の増加幅が大きくなっています(21.0%→25.1%)。

 これは全国のデータですが,続いて,47都道府県別のデータもみてみましょう。結論を先取りすると,この5年間の変化の様相は県によって多様です。全国トレンドより増加傾向が顕著な県もあれば,悲しいかな,夫の分担率が下がってしまっている県もあります。

 週全体でみた1日あたりの平均時間をもとに,同じ指標を都道府県別に計算してみました。計算式は,夫/(夫+妻)です。全国値は上表にあるように,2011年が14.1%,2016年が17.0%ですが,県ごとにみると大きな地域差があります。


 黄色マークは最高値,青色マークは最低値です。2016年でみると,東京の25.2%から福岡の9.6%までのレインヂがあります。東京の夫の分担率は4分の1ですが,福岡は10分の1にも満たないと。

 この5年間の変化をみると,東京は16.7%から25.2%と,かなりアップしていますね。全国値でみた伸び幅を上回っています。逆に陥落が大きいのは,2011年にトップであった島根です。22.4%から13.2%に落ちています。

 はて,この分岐は何によるのか。夫の仕事時間の変化でしょうか。同じ属性の男性(6歳未満の子がいる共働き夫婦の夫)の平日1日あたりの平均仕事時間をみると,東京は2011年の573分から,2016年の529分へとかなり減っています。逆に島根は,488分から534分に増えています。なるほど,合点がいきますね。

 ただこれは両端で,仕事時間の増加倍率と,家事・育児分担率のそれ(上表の右端)との間には,有意な相関関係はありません。「男性が家事をしない要因は,仕事時間だけではない」と言いますが,他にもファクターはあるでしょう。

 良好なアチーブメント?を出している県は赤字にしてみました。2016年の数値が全国値(17.0%)を上回っており,かつ,この5年間の増加倍率が1.5を超える県です。この基準でノミネートされるのは,東京,兵庫,奈良,山口,宮崎の5都県なり。

 これらの都県では,この5年間にどういうことをやったのか。5都県の男女共同参画関係のHPに当たって,政策の一覧表を作るのもいいですね。その作業は,他日を期すことにいたしましょう。

 ひとまず,客観的な数値の提示まで。上記の47都道府県の変化表をみて,「わが県の変化は,こういうことではないか」という意見を頂戴できれば幸いです。ここで紹介させていただこうと思います。

2017年9月13日水曜日

歯根端切除手術を受ける

 一昨日から昨日にかけて,2泊の泊りがけで出かけてきました。歯根端切除の手術を受けるためです。

 手術は12日でしたが,当日の朝に満員電車に乗るのは嫌だったので,前日の11日に上京しました。1日都内を自由に動き回れる時間ができるとなると,私の場合,行く場所は一つ。総務省統計局の統計図書館です。


 新宿駅からバスで15分ほど。総務省の1階の統計図書館には,官庁統計がバックナンバーを含めて全て所蔵されています。私にとっての聖地です。
http://www.stat.go.jp/library/

 目当ての資料は,厚労省『賃金構造基本統計』のバックナンバー。この資料は,2001年以降はネットで見れるのですが,それより前のものは冊子でないと見れません。目的のデータが載っている冊子を棚から抜き出し,該当ページのコピーを取りました。


 今では,官庁統計はネットで見れますが,だいぶ前の資料となると,冊子に当たらざるを得ません。この統計図書館には,それが全て揃っているのです。書庫にある資料も,頼めばすぐに出してくれます。国会図書館のように,申し込み冊数に制限があり,長時間待たされることもありません。

 統計の調べものをするならココが一番。どんな用事も片付きます。私が首都圏を離れるのを躊躇うのは,ここに自由に通えなくなってしまうからです。

 お昼まで作業をした後,職員さんに交じって食堂でランチ。私のような,だらしない身なりの風来坊は浮きますなあ…。

 午後は,新宿の紀伊国屋本店に行きました。3階の教育,社会問題,教育フェアの3か所で,拙著『データで読む・教育の論点』が平積みになっているのを見て,うれしく思いました。2階の教員採用試験コーナーでは,『教職教養らくらくマスター』が売れ筋本として前面に平積みされていました。

 その後,中央線で立川に行き,ホテルに入りました。夕飯は,近くの中華料理屋で食べましたが,ちょっと酷かった。炒飯はベチャベチャ,餃子は「レンチンですか?」と言いたくなるような代物。まあ,こういうハズレもある。

 翌日の午前10時に,立川病院に入院しました。南武線の西国立駅からすぐです。きれいな新棟が建っています。病室は,一泊一万円の個室にしました。相部屋だったら3000円ほどなのですが,滅多にない機会なんで奮発ってことで。


 体温と血圧を測って,点滴をつないでもらったら,手術開始まですることなし。ベッドを適当な角度に起こして,読書タイム。治験なら,これでおカネももらえるのですよね。私は年齢でアウトですけど。

 薄味の病院食の昼食を食べて,念入りに歯磨きをして,午後2時から手術開始。私が受けたのは,歯根端切除手術です。

 前居の多摩市のかかりつけ歯科で,「上前歯の歯根に大きな膿の袋ができている,手術して取り除いたほうがいい」と進言され,立川病院の歯科口腔外科を紹介されました。年間の手術数が250もあり,歯根端切除手術ならココという定評があるそうな。
http://www.tachikawa-hosp.gr.jp/shinryo/21/index.html

 歯茎を切開し,歯根にこびりついた膿をガリガリと取り除き,汚染された歯根の先端を切除。切除した先っぽに細菌が繁殖しないようスーパーボンドで封鎖して,歯肉を縫い付けておしまい。

 手術時間はおよそ2時間。痛みはあまりありませんでしたが,後頭部が圧迫されてキツかった。柔らかい枕でも敷けばよかった。

 術後は,上の唇がタラコのように腫れあがりました。固いものはNGなんで,夕食はお粥。テレビでお笑いをやってましたが,笑うと,歯肉を縫い付けた糸が張るので辛い。来週の抜糸までは,上の唇は極力動かすべからず。

 翌日の朝,手術した歯茎を消毒しレントゲンを撮って,退院の許可が出ました。会計窓口で請求された金額は,入院費込みで6万6170円。


 「さて生保を初めて使うか」と電話をしたら,歯根端切除手術は支払い対象外だそうです。払われるのは入院費だけ。うう,結構な出費になりました。

 以上,一昨日から昨日までのお出かけの記録です。今年になって,病院通いがとみに増えました。CTも3回撮りました(歯茎,脳,胸部)。41歳になりましたが,体にガタが出始めているのでしょうか。健康には留意したいものです。

 さて明日から,通常通り仕事です。月末に,新学習指導要領関係の単行本の締め切りがあります。2016年の『社会生活基本調査』や『学校教員統計』のデータも公表されます。夫の家事分担率の都道府県比較や,教員の離職率などをブログに載せますので,どうぞ,お楽しみに。

2017年9月9日土曜日

1つの中華料理店にいくらのおカネが落ちるか

 国民の消費性向を知れる便利な資料として,総務省の『家計調査年報』があります。細かい品目ごとに,1世帯あたりの年間支出額を知ることができます。
http://www.stat.go.jp/data/kakei/npsf.htm

 この資料の目玉は,47都道府県の県庁所在地別のデータも載っていることです。「納豆の首位は水戸市」「ギョーザは宇都宮市」といったフレーズが新聞によく踊りますよね。商売を始めようという人が開業の地を考える際の参考にもなるでしょう。

 しかるに,支出額が多い(消費性向が強い)ことだけをもって,開業の地を決めるのは危険です。当然そこは競合店も多く,激戦であることでしょう。商売敵がどれほどいるか,またお客さんが落としてくれるおカネの絶対額も考慮したいもの。

 私は,メジャーな外食産業の中華料理店を例に,これらの条件を勘案した参考指標を計算してみました。タイトルに記した通り,「1つの中華料理店にいくらのお金が落ちるか」です。

 2014年の総務省『経済センサス』の産業小分類統計によると,同年7月時点の全国の中華料理店は5万5095店です(a)。個人営業店のほか,チェーン店なども含みます。

 『家計調査年報』によると,2014年の1年間における,1世帯あたりの中華そば・中華食(外食)の年間支出額は1万481円(b)。単身世帯もひっくるめた,総世帯でみた額です。『住民基本台帳』に掲載されている,同年1月時点の世帯数は5595万2365世帯(c)。

 よって2014年の1年間に,全国の中華料理店に流れたおカネの総額は5864億3674万円と見積もられます(b×c)。これを全国の中華料理店数(a)で除すと,1店舗あたりの額は1064万円となります。

 店舗の維持費,原材料費,従業員の給料等の諸経費が半分かかるとしたら,アガリは500万ちょっとくらいでしょうか。まあ全体の分布をみれば,年に500万円も儲けているラーメン屋さんは,そう多くないでしょう。一部の超有名店(チェーン)によって釣り上げられた額と考えられます。

 それはひとまず置いて,この値を47都道府県の県庁所在地別に計算してみました。計算に使った3つの値(a~c)と,算出された値の一覧表を以下に掲げます。上記と同様,2014年のデータによる試算結果です。


 最高は大津市の2190万円,最低は宮崎市の554万円です。大津市は店舗が少なく,近郊都市で市場もそこそこ大きいので,1店当たりの額が多くなっています。大津市民が中華料理の外食に費やしたおカネの全てが,市内の63店舗に流れたとは限りませんが。

 マーケットが最大の東京都区部(23区)は,店舗数が7176店とケタ違いに多いので,1店あたりの配分額は827万円と少ないですね。

 競合店の数,落としてくれるおカネの総額を勘案した,1店舗あたりのベネフィットの試算値です。お客さんの地域移動を度外視していますが,流入と流出がトントンになる(相殺する)という仮定を置くならば,全く的外れということにはなりますまい。

 今回は中華料理店を例にしましたが,ハンバーガー店,すし店などについても,同じ値を出すことが可能です。『経済センサス』の産業小分類統計に店舗数は出てますし,1世帯あたりの年間支出額は『家計調査年報』に出ています。興味ある方は,どうぞ計算してみてください。私が上表のデータを作成するのにかかった時間は,およそ30分です。

 ところで,青森市の1店舗あたりの額は768万円とあまり多くないですね。しかるに最近,この北の地にとても魅力的な中華料理店があるのを知りました。王味(わんみ)というお店です。
http://www.yamaken.org/mt/kuidaore/archives/2010/04/post_1488.html

 とくに,ニンニクたっぷりの餃子が絶品であるとのこと。青森はニンニクの産出量がダントツでトップですが,そういう地の利が出ていますね。ニンニク大好きの私にとっては,たまりません。写真を見るだけで,唾液反応が出ます。

 秋の旅行で,この店に行ってみようかなと考えています。青森まで開通した新幹線にも乗ってみたいですし。晩秋の楽しみができました。

2017年9月4日月曜日

やっぱり教員の勤務時間は長い

 教員の過重労働が世に知れ渡るようになってきました。

 最近出た,妹尾昌俊さんの『先生が忙しすぎるをあきらめない』(教育開発研究所)の第1章では,教員の勤務時間が異常に長いことが豊富なデータで示されています。
http://www.kyouiku-kaihatu.co.jp/class/cat/desc.html?bookid=000489

 私も,教員の長時間労働についてはデータを作ってきましたが,初めてみるデータがいろいろ提示されており,勉強になりました。とくに興味を持ったのは,小・中学校の週間勤務時間分布を,他の産業と比較している表です(25ページ)。

 これによると,教員の勤務時間は,キツイといわれる運輸業・宿泊業・飲食業よりもずっと長し。「大変なのは教員だけではない」という声を聞きますが,他の職業と比べてみても,教員の世界は異常なんだなと感じました。

 私は,この職業比較のデータをもっと精緻化させてみたいと考えました。妹尾氏は,『労働力調査』のラフな産業分類のデータを使っていますが,『就業構造基本調査』に,もっと細かい職業中分類の就業時間の統計が出ています。

 このデータから描ける,全職業の布置図の中に,小・中学校教員のドットを置いてみようと思います。

 まずは,小・中学校教員の勤務時間分布を代表値に集約することから始めましょう。下表は,2016年度の文科省『教員勤務実態調査』(速報)による,学校内の週間勤務時間の分布です。原資料では,教諭と管理職(副校長・教頭)に分けられています。
http://www.mext.go.jp/b_menu/houdou/29/04/1385174.htm


 5時間刻みの階級に該当する教員の数が,%値で示されています。最頻階級(Mode)は,小教諭・中管理職が55~59時間,中教諭・小管理職が60~64時間,となっています。現場の感覚からすれば「そんなもんだろう」でしょうが,法定の週間労働時間(40時間)から大きく隔たっています。労基法などどこ吹く風です。

 週60時間以上働いている教員の割合は,小教諭が33.5%,中教諭が57.6%,小管理職が62.8%,中管理職が57.8%,です。1日12時間以上勤務している教員が多し。

 階級値(階級の真ん中の値)を用いて,週間の勤務時間の平均値(average)を出すと,小教諭が57.3時間,中教諭が63.2時間,小管理職が63.4時間,中管理職が63.5時間,となります。平均でコレとは酷い。

 これは,学校内の勤務時間によるものです。自宅での授業準備や持ち帰り残業等も含めれば,事態はもっと悲惨なものになります。

 小・中学校教員の週間勤務時間分布を,2つの代表値(週間平均勤務時間,週60時間以上勤務者比率)で表してみました。ここでの目標は,この2指標のマトリクス上に,教員を含めた全職業のドットを配置したグラフを作ることです。

 他の職業についても,同じ値を計算しましょう。2012年の『就業構造基本調査』に,週間の勤務時間の分布を職業別に集計した表があります(下記サイトの表34)。これをもとに,上記の2つの代表値を職業別に明らかにしました。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/GL08020103.do?_toGL08020103_&tclassID=000001048178&cycleCode=0&requestSender=search

 下表は,算出されたデータの一覧表です。資料的意味合いもこめて,省略はしないで全部掲げましょう。週間平均勤務時間が50時間以上,週60時間以上比率が30%以上の数値は赤字しました。キツイ職業の目安です。


 教員の勤務時間は,他の職業に比して長くなっています。長時間労働がいわれる医師,飲食物調理,自動車運転業をも凌駕しています。

 グラフにすると,教員が他を抜きん出ている様が分かります。横軸に週間平均勤務時間,縦軸に週60時間以上勤務率をとった座標上に,教員を含む70の職業のドットを配置すると,下図のようになります。


 教員は,全職業の標準(点線)からはるかに隔たった,右上のゾーンのあります。教員のデータは,学校内の勤務時間に基づきますが,自宅での仕事時間も加味したら,もっと右上にぶっ飛ぶことでしょう。

 タイムカードや残業代という概念が存在しない。公立学校の教員は,月給の4%の調整手当で「使いたい放題」。学校では,一般社会では考えられないことがまかり通っています。かつてデューイは,学校を「陸の孤島」と形容しましたが,労働者の管理についてもそれは当てはまるようです。

 先月末に中教審が出した緊急提言によると,ようやく,この異常な環境が是正される見通しが立ってきました(タイムカード導入!)。
http://www.yomiuri.co.jp/national/20170829-OYT1T50068.html

 タイムカードとは,時間を切り売りして給料を得る労働者の世界では欠かせないアイテムですが,教員の世界ではそれがずっとなかった。教員はカネ勘定で働く労働者とは異なる,「教師=聖職者」というような,昔ながらの教師像が残存しているのでしょう。

 働き方改革の徹底と同時に,こうした社会の眼差しを正すことも必要です。時代と共に,教師像は「聖職者→労働者→専門職」というふうに移行するといいますが,日本は未だに,最初のステージにとどまっています。

 個々の教員は,「やりがい搾取」(本田由紀教授)という罠にはまっていることにも要注意。「子どものためなら」と,現況の異常事態を受け入れてはなりません。ブラック労働を厭わぬ精神を,子どもに植え付けることにもなります。

 教員は,社会(子ども,保護者,教育委員会…)からの眼差しを意識して演技する「役者」のような存在です。制度レベルでの労働条件改善は重要ですが,根本的には,教師像を問い直す作業も必要になるでしょう。

 時代比較や国際比較で,今の日本社会で,常識と信じて疑われない教師像を相対視する。亡き恩師・陣内靖彦先生の著書『日本の教員社会』(東洋館出版,1988年)は,歴史社会学の視点からそれをやっている名著です。

2017年9月2日土曜日

同一条件の夫婦の家事・育児分担率

 夫婦の家事・育児分担率については,何度もデータを出してきました。共働き夫婦でみても,夫の家事・育児分担率はきわめて低い。一貫したファインディングは,コレです。

 しかるに共働きといっても,夫と妻では働いている時間が違うだろう,雇用(勤務)形態が違うだろう,という疑問が度々寄せられました。

 この疑問に答えられず歯がゆい思いでいたのですが,『社会生活基本調査』(2011年)の公表統計を丹念に見たら,夫婦の働き方を揃えることができるデータが出ているではありませんか。下記サイトの表20~22です。
http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?bid=000001040666&cycode=0

 これらを使うことで,同じくらい働いている夫婦,双方とも正社員(フルタイム就業)の夫婦に限定して,家事・育児分担率を計算することができます。はて,このように就業の条件を揃えた場合,夫婦の家事・育児分担率はどうなるか。ちょっとはマシな数値が出てくるでしょうか。

 1)就業時間,2)雇用形態,3)勤務形態,の3つを統制して,夫の家事・育児分担率を出してみましょう。夫婦の平均時間の合算に占める,夫の割合(%)です。就学前の乳幼児がいる夫婦に注目します。

 下の表は,平日・土曜・日曜の平均時間から算出した,夫の家事・育児分担率の一覧表です。


 双方とも週35時間以上働いている夫婦の平日でみると,夫が43分,妻が284分。就業時間を揃えても,違うものですねえ。夫の分担率は,43/(43+284)=13.1%となります。およそ8分の1です。

 まあ,「夫有業+妻無業(主婦)」の伝統的夫婦の5.2%に比したら高いですが,大きな差とはいえません。雇用形態や勤務形態を統制しても,正社員(フルタイム)夫婦の数値は,伝統的夫婦のそれと大差なしです。

 むろん,条件をもっと統制する余地はあるでしょうが,基本的な就業条件を揃えても,夫の家事・育児分担率は低い,という事実は知っておくべきでしょう。

 なぜ夫は家事(育児)をしないか。仕事時間と当人の意識のクロスから導き出した,「家事をしない夫の4類型」を,先日公表の日経デュアル記事で提示しました。仕事時間を短くすれば,夫は家事をするとは限らない。こういう問題提起です。
http://dual.nikkei.co.jp/article.aspx?id=11011

 今月の半ばに,2016年の『社会生活基本調査』の生活時間統計が公表されます。上記の同じデータを作ったら,どういう数値になっているでしょうか。事態の改善が見られるでしょうか。ここ数年の「ワーク・ライフ・バランス」施策の評価にもなります。データの公表を,期して待つことにいたしましょう。

2017年8月31日木曜日

2017年8月の教員不祥事報道

 台風の影響で,今日は悪天候でした。気温も上がらず,10月中旬並みの肌寒さでしたね。今月は冷房をずっと「つけっぱ」にしてましたが,1か月ぶりに冷房を切りました。

 さて,今月私がネット上でキャッチした教員不祥事報道は32件です。赤字は注目事案。わいせつの処分歴を隠して採用され,また同じ悪さをした臨時講師ですが,こういう人はたくさんいるでしょう。これを受け,過去の処分歴を照会できるデータベースを作成するとのことです。

 また今月は,盗みといった財産犯が多い印象です。教員は安定していますが,後先の給料もきっかり予測できちゃいますので,多額の借金を抱えたりすると「もう返せない」と絶望してしまいます。

 辛いのは,先行きが不透明なことではなく,先行きが透明であること(分かり切っていること)なのです。公務員の皆さんが多かれ少なかれ抱えている,心的葛藤の源泉だと思います。

 暦の上では夏も終わり,明日から9月です。9月のカレンダーには,私にしては珍しく,予定が多く書き込まれています。中旬には大きな病院に入院し,歯茎切開の手術を受けます。月末に,新学習指導要領関係の単行本の締め切りもあり。

 2016年の『社会生活基本調査』(生活時間統計),『学校教員統計』のデータも公表されます。楽しいデータ分析も待っています。

 よい月になりますように。背景を,夕暮れの海岸に変えます。9月は中旬に,もう一度替える予定です。

<2017年8月の教員不祥事報道>
特殊詐欺に関与の石川の中学教諭、少女にわいせつ容疑で再逮捕
 (8/1,産経,石川,中,男,27)
盛岡の中学校教諭が酒気帯び運転/岩手(8/1,岩手放送,岩手,中,男)
休暇で沖縄へ…ビーチで女児の尻撮影、長崎の小学校教諭逮捕
 (8/2,産経,長崎,小,男,47)
わいせつ行為で教諭ら懲戒免職(8/2,NHK,千葉,小男27,中男27)
教え子と性的な行為 本島南部の教諭を逮捕
 (8/3,琉球放送,沖縄,中,女,30代)
わいせつ行為教諭を懲戒免職処分(8/5,テレビ和歌山,和歌山,中,男)
中学生に裸の画像送らせる 逮捕の小学教諭に停職処分
 (8/8,朝日,愛知,小,男,37)
わいせつの臨時講師を免職 他県で処分、改名して採用
 (8/8,サンスポ,愛知,小,男,30)
勤務する小学校の更衣室にカメラ設置容疑、教諭を逮捕
 (8/9,朝日,兵庫,小,男,30)
女子大学生の下着盗撮の疑い、養護学校教諭を逮捕 
 (8/9,日刊スポーツ,島根,特,男,54)
懲戒処分:ソフト違法複製、中学教諭を停職
 (8/10,毎日,北海道,中,男,52)
危険ドラッグを密輸、勤務時間外に使用 所持容疑で逮捕の小学校教諭
 (8/10,埼玉新聞,埼玉,小,男,47)
・窃盗:高校教諭を懲戒免職処分に 県教委(8/10,毎日,静岡,高,男,33)
酒気帯び運転の教員に停職処分 滋賀県教委
 (8/11,京都新聞,滋賀,小,男,60)
寝屋川市の教諭逮捕、女子高生スカート内盗撮の疑い 
 (8/13,日刊スポーツ,大阪,男,32)
滋賀県立高の教諭を書類送検=酒気帯び運転で当て逃げ
 (8/16,時事通信,滋賀,高,男,31)
<覚醒剤>埼玉の中学教諭を所持容疑で逮捕(8/16,毎日,埼玉,中,男,27)
高校教諭、覚醒剤使用疑い 広島県警が逮捕
 (8/19,共同通信,広島,高,男,45)
「早く子供たちの顔覚えたかった」新任講師、小学生の個人情報入りかばん盗まれる
 (8/19,産経,大阪,小,女)
息子の市採用で贈賄 校長逮捕(8/21,朝日,山梨,中,男,57)
静岡の支援学校教諭逮捕 ゲームソフト万引疑い
 (8/22,産経,静岡,特,男,32)
大麻所持の疑いで中学校教諭を逮捕 神奈川・三浦
 (8/22,朝日,神奈川,中,男,28)
同僚と飲食、酒気帯び事故 62歳群馬県立高教諭を免職
 (8/23,産経,群馬,高,男,62)
盗撮容疑で30代の中学教諭逮捕 東京・板橋区 
 (8/23,日刊スポーツ,東京,中,男,30代)
中学の女生徒にキス、20代の男性教諭を懲戒免職 
 (8/23,日刊スポーツ,京都,中,男,20代)
中1に教諭「ベランダから飛び降りろ」と発言
 (8/23,読売,福島,中,男,50代)
女性教諭が小1児童に暴言「脳みそ使えよ」
 (8/24,沖縄タイムス,沖縄,小,女,20代)
自転車無断使用、女性教諭を停職(8/24,産経,東京,小,女,24)
津市の小学校教諭、万引き容疑で逮捕
 (8/25,CBCテレビ,三重,小,男,30)
教頭がプリぺイドカード盗み現金着服、1か月の停職処分
 (8/25,TBS,神奈川,小,男,49)
「ふがいないプレーに厳しい指導」生徒に平手打ちした男性教諭懲戒処分
 (8/25,産経,兵庫,中,男,42)
52歳教諭を懲戒免職、同僚の財布盗んだ疑い
 (8/29,TBS,神奈川,中,男,52)
高校教諭が女子高生盗撮 福島、懲戒処分へ (8/30,産経,福島,高,男,30代)