2018年6月20日水曜日

アラフォー男性の時間給

 子どもの教育費負担など,いろいろな重荷がのしかかるアラフォー年代ですが,一昔前に比して収入が大きく減っていることは,このブログでも繰り返し明らかにしてきました。

 その一方で,昨今の人手不足もあり,労働時間は増えていると聞きます。バリバリの働き盛りですので,頼られることも多いでしょう。労働時間が増えているにもかかわらず,収入は減っている。だとしたら,やるせないです。

 労働条件というのは,一般に労働時間と収入の2要素で評価されますが,この2つから時間給が割り出されます。1時間あたりの稼ぎがナンボかです。労働時間を考慮した稼ぎというのは,まだ出してませんでしたので,今回はそれをやってみましょう。

 資料は,厚労省の『賃金構造基本統計』です。この資料から,年齢階層別の労働時間と収入を知ることができます。40代前半の男性労働者(短時間労働者を除く一般労働者)について,以下の4つの数値を採取します。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html

 a)月の所定内労働時間
 b)月の超過労働時間
 c)決まって支給される月収額
 d)年間賞与その他特別給与額

 cは残業代も含みます。cの12倍にdを足すことで,年収額が出てきます。月の労働時間(a+b)を12倍すれば,年間の労働時間になります。目的の時間給は,前者を後者で割ればいいわけです。

 では,実際の数値を引いて計算しましょう。最新の2017年と,前世紀末の1999年のデータを比較してみます。願わくはもっと前に遡りたいのですが,上記の資料はネットでは99年からしか見れません。


 この20年あまりで,アラフォー男性の月の労働時間は179時間から184時間に増えています。増分は,残業(b)によるものです。昨今の人手不足の影響も感じられますね。その一方で,はじき出された年収を見ると648万円から598万円と,50万円も減じています。前より多く働いているのに稼ぎは減っている。上で述べたことが,データで露わになってしまいました。

 この結果,1時間あたりの収入(時間給)も,3018円から2709円にダウンしています。働く時間と得られるお金の2要素による,労働条件悪化の可視化です。

 これは全国の数値ですが,47都道府県別のデータも出すことができます。労働時間,年収,この2つの割り算から出てくる時間給の一覧表を掲げます。計算に使った素材は上記と同じです。


 どうでしょう。多くの県でアラフォー男性の労働時間は増え,収入は減っています。年収が550万円を超える数値には青色のマークをしましたが,その数が減っています。私が住んでいる神奈川は年収の減少幅が最も大きく,106万円の減です。

 その結果,労働時間あたりの稼ぎも多くの県でダウンしています。黄色マークは2500円以上の県ですが,1999年では34県だったのが,2017年では17県と半減しています。埼玉,神奈川,山梨はアラフォー男子の時間給が500円以上低下。労働時間の増加,収入の減少が他県に比して大きいためです。

 ツイッターで発信しましたが,右端の時間給の地図をここに再掲しておきましょう。上表の黄色マークの県に色を付けたマップです。アラフォーの列島貧困化をご覧ください。
https://twitter.com/tmaita77/status/1009257245496918016


 このように働き盛りの労働者が疲弊する一方で,企業の内部留保は過去最高を更新していると聞きます。富の再配分の必要を強く感じずにはいられません。

 この年代は家庭を持ち,財やサービスをバリバリ消費してくれる顧客の存在でもあります。この人たちを痛めつけることは消費の冷え込みをもたらし,結局は自分たちに返ってくるでしょう。また子育ての最中でもあり,子どもへの教育投資がままならなくなり,未来を支える良質な労働力が育たず,社会全体にとってもマイナスになるのは疑い得ません。

 さらに今のアラフォーは,学校卒業時に就職氷河期だった「ロスジェネ」という悪条件も背負っています。キャリアを順調に積めず,非正規・低所得の状態に留め置かれている人が数多し。外国人労働力の受け入れ拡大が決まりましたが,この世代のパワーにも注目してほしいものです。団塊ジュニアのちょっと下の世代で,他世代に比して量的規模も大きくなっています。

 この世代の子ども(ロスジェネ・ジュニア)も,そろそろ高校進学,大学進学のステージに達してきます。親世代の疲弊(格差)が大きいことから,家庭環境とリンクした教育機会の格差も拡大する懸念が持たれます。今回可視化した現実は,後続世代にも影を落とすものです。

2018年6月17日日曜日

図書館司書の非正規化

 雇用の非正規化が進んでいますが,官の世界,教育の領域もそれを免れてはいません。蓋を開けてみると,民間よりも酷いくらいです。

 教育は学校教育と社会教育に分かれますが,とりわけ後者を担う人材の非正規化は凄まじい。全国のどの自治体にもある,代表的な社会教育施設は図書館ですが,そこには司書という職員が置かれます。図書館法で定められた資格を要する,れっきとした専門職です。

 近年,司書の非正規化はものすごい勢いで進んでいます。ツイッターで,司書の非正規率マップの変化を発信したところ,かなり注目を集めています。肌感覚が数値化された,という思いなのでしょう。

 いろいろリプもついていますが,指定管理図書館の司書も加えたほうが正確だ,というご意見をいただきました。なるほど,そういう図書館が増えていますよね。公共施設の管理・運営を民間業者に委託できる,という制度です。
https://twitter.com/dellganov/status/1007598307806363649

 私は多摩市にいた頃,お隣の府中市の中央図書館によく行きましたが,ここは指定管理図書館のようで,黒いユニフォームを着た業者のスタッフが来館者の対応に当たっていました。おそらくは,ほぼ全てが非正規雇用の人たちだと思われます。上記リンクのリプによると,95%はそうではないかと。

 指定管理図書館の司書も分子に加えたら,司書の非正規率はもっと悲惨なものになります。計算し直しましたので,結果をご報告いたしましょう。資料は,文科省の『社会教育調査』です。図書館司書の数を,雇用形態別に知ることができます。下の表は,1999年と2015年の全国データです。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa02/shakai/index.htm


 前世紀の末から最近にかけて,司書の数は9783人から1万9015人に増えています,倍近くの増加です。少子高齢化に伴い,生涯学習の重要性が認識されたこともあるでしょう。

 しかし増分は,直営の非常勤司書(c)と指定管理図書館の司書(d)によるもので,直営の専任司書(a)は減っています。司書の数は増えていますが,雇用形態の組成が大きく変わっている。安上がりの非正規が激増していますので,トータルの人件費はさぞ浮いているのでしょう。

 非正規比率を出すには,cとdを分子にすればいいと思いますが,指定管理図書館の司書の95%を非正規とみなし,以下の式で計算することにします。

 非正規率=( c + 0.95d )/ e

 これによると,1999年の非正規率は23.2%,2015年は69.4%となります。すごい増加ですね。最近では,図書館司書の7割が不安定な非正規雇用であると。

 これは全国の数値ですが,都道府県別にみると大きな地域差があります。1999年では,47都道府県の分布幅は,4.6%~56.1%でした。しかし2015年になると,最も小さい県でも45.8%,半分近くです。では最高値(MAX)は…。両年の都道府県別数値を高い順に配列した表をご覧いただきましょう。


 50%(半分)を超える県にはをつけましたが,2015年では44の県が染まってしまっています。濃い色は8割を超える県で,最高の熊本では83.8%にもなります。図書館職員全体ではなく,司書という専門職でコレです。

 司書の非正規率が半分を超える県に色を付けた地図にすると,地獄絵図ともいえる模様になります。前世紀末からの変化はあまりにも大きい。


 財政難により致し方ない面もあるとはいえ,ここまでナタをふるっていいものか。非正規は給与も低く,社会保障もありません。人間らしい暮らしが担保されるなら,柔軟な働き方ができる非正規も悪くないと思えますが,現状はそれから大きく隔たっています。

 図書館の機能遂行にも影響が及ぶでしょう。図書の賃借業務だけでなく,利用者の学習をサポートする専門力量が求められる司書ですが,非正規の人たちはどういう思いで働いているのか。

 私は前居の図書館で,ちょっと専門的な質問をしたところ,「今日は専任の人が休みなんで…」と尻込みされたことがあります。よく見ると名札に「臨時」と書いてありましたが,「非正規の自分が出しゃばったことをしてはいけない」と,要らぬブレーキをかけているように感じられました。ネームプレートは自我の源泉といいますが,こういう名札は止めたほうがいいと思いましたね。

 正規との給与格差による不満,長期的視野に立った力量形成(研修)機会の不足といった問題もあるでしょう。

 社会の変化がますます速くなり,少子高齢化も進む中,学校教育よりも社会教育の領分が大きくなってきます。その中核となるのが,全国津々浦々に設置された,学習のセンターである公共図書館です。そこで働く職員が,非正規化の先鋒を行ってしまっている。

 司書と並ぶ社会教育の専門職として,博物館の学芸員もありますが,この職業の非正規率もスゴイ。思うに,これらの職業の専門性がよく認識されていないのでしょう。文化国家を名乗るならば,人々の生涯にわたる学習を支える仕事の専門性について議論を突き詰め,待遇についても考え直したいものです。

 諸外国ではどうなっているのか。社会教育職員の国際比較という類の研究があったら,見てみたいと思います。

2018年6月15日金曜日

光文社新書からの経緯書

 『AI時代の新・ベーシックインカム論』(光文社新書,2018年4月刊行)にて,私が作成したグラフを無断使用されました。出典の記載にも不備がありました(掲載誌名の不記載)。

 本件につき,同社新書編集部より経緯説明書(謝罪文)が届きました。無断で使われたのは,『ニューズウィーク日本版』サイトの下記記事の図1です。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/02/20-12.php


 出典記載不備について経緯が書かれていますが,無断使用については一言も言及がありません。法で定められた引用という理解なので,会社の文書で取り立てて謝罪する必要はない,という認識なのでしょう。

 「筆者からの要望で,図表を掲載する決定をしました」と書いてありますが,許諾もなしに,他人の作品を「掲載する決定」を勝手にしてよいのでしょうか。

 記事の一文や二文をカッコ付けで引用するのとはワケが違います。作者の思い入れや労力が多く詰まった写真,イラスト,統計グラフといったコンテンツを使うに際しては,事前に許諾を求めるのが礼儀です。商業出版という営利事業での利用なら,なおのことです。相手の意向によっては,使用料を払うことも求められます。

 光文社さん。そちらが無断で使って下さったのと同じグラフを使用するに際して,別の出版社さんはちゃんと許諾を求めてきましたよ。メールをお見せしましょうか。


 そもそも,『ニューズウィーク日本版』サイトの利用規約には,「コンテンツの無断使用・複写は禁止します」と明記されています。この規定も侵害していることになります。
https://www.newsweekjapan.jp/tos.php

 まあ先方も非は認めているようで,担当編集者のメールに「許諾申請を怠っていました。誠に申し訳ございません」という謝罪の言葉があり,使用料も払うと言ってきました。また,「今後は気を付けます」という文言もありました。もう,同じことはしないでしょうね

 新書の業界も大変で,次から次へと新作を出さないといけないプレッシャーに晒されているのは分かりますが,倫理にもとる行為は慎んでほしいと思います。法に触れるかどうか,ということは関係なくです。

 スタイルアクトという会社が,首都圏の学区別の平均年収を出して注目を集めています。思想や感情の表現ではない,事実としてのデータは著作物ではありません。よって無断で拝借し,商業誌に載せて金儲けしても違法ではありません。でもそんなことをしたら,この会社が黙っていませんし,世間から集中砲火を浴び,業界から追放されることは必至ですよね。

 要は,倫理の問題です。世の中,法で対処できない部分は,人々の「倫理」「良識」で成り立っているのです。

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 この会社の新書の制作過程については,小谷野敦氏も疑問を呈されています。
http://d.hatena.ne.jp/jun-jun1965/20100124
http://d.hatena.ne.jp/jun-jun1965/20100904

2018年6月11日月曜日

研究者への到達チャンス

 私は1976年生まれで,1999年に学部を卒業し,2001年に修士課程,2005年に博士課程を修了しました。博士の最短年数は3年ですが,私は1年多くかかりました。

 私の世代は今年で42歳ですが,研究職の道を歩んでいる人の場合,トントンで行っている人は准教授になっているでしょう。しかしこういう勝ち組はわずかで,数としては,脱落組のほうがはるかに多くいます。

 いやらしい関心ですが,こうした淘汰の過程を数値で可視化できないかと,ふと思いました。文科省の『学校基本調査』で,学部卒業,修士修了,博士修了時点の人数は分かります。また同省の『学校教員統計』で,各年齢時点における,大学本務教員の職階別の人数が分かります。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/main_b8.htm

 これらの統計を駆使することで,大学教員へのキャリアルートにおける選抜(淘汰)過程を明らかにできます。私は,自分の世代である1976年生まれと,一回り上の1967年生まれの2世代について,データを試しに作ってみました。

 拾ったのは,①学部卒業,②修士修了,③博士修了,④助教・助手・講師,⑤准教授,の5つのステージにおける人数です。上記の2世代の場合,以下の時点・年齢の数を採取すればいいでしょう。①~③は『学校基本調査』に載っている卒業(修了)者数,④と⑤は『学校教員統計』の大学本務教員数です。


 ストレートだと27歳で博士課程を修了(満期退学)し,30歳前後で助教か講師になり,40歳では准教授になっていると思われます。

 では,2つの世代について,5つの時点における頭数を見ていただきましょう。博士課程修了者には,単位取得満期退学者も含みます。


 何の加工もしていない原数値です。当然ですが,ステージを経るにつれて,人数はぐんぐん萎んできます。私の世代だと,学部卒業者は53万2436人ですが,博士修了者は1万5160人で,40歳時点の准教授数になると1906人にまで減じます。

 このような淘汰は,男子よりも女子で大きいかな,という印象です。また,一回り上の世代よりも厳しくなっているようにも思えます。

 それは後で可視化するとして,まずは,それぞれのステージにおける男女比率を出してみましょうか。簡単な割り算です。


 私の世代を見ると,おおむね女性比は下がってきます。助教・助手・講師の段階ではペコっと上がるのですが,博士課程修了者とは別のリクルート源からの有期採用が多いのでしょうか。准教授のステージになると,男女比は「4:1」になります。

 近年の男女共同参画政策の効果か,上の世代よりは,ちょっとだけ状況は改善されています。しかし絶対水準としてはまだまだで,「男女共同参画」が具現された姿とは到底言えません。

 次に,サバイバル率を出してみましょう。どの時点をベースにするかですが,研究者の卵としての資格を得た,博士課程修了時点の人数を100とした数に換算してみましょうか。こちらも,簡単な割り算です。


 1976年生まれ世代だと,27歳の博士修了者数を100とした場合,31歳時の助教・助手・講師は18.4,准教授は12.6となります。准教授への到達率,およそ1割です。性別にみると男子は13.2,女子は10.7で,男子のほうがやや高くなっています。

 上の世代と比較すると,状況は悪くなっていますね。准教授(=パーマネントポスト)への到達率は,1967年生まれ世代では4分の1だったのが,10分の1になってしまっています。ジェンダー差もちょっと拡大しています。

 90年代以降の大学院重点化の影響が大きいでしょう。最初の原数表に戻ると,博士課程修了者数は67年生まれでは8019人だったのが,76年生まれでは1万5160人に膨れ上がっています。このように競争の母体が増えたにもかかわらず,パーマネントポストは減ってしまっている。

 後続の世代では,このサバイバル率はもっと低くなると見込まれます。私の世代は1割ですが,最近博士号をとった世代が40歳になる頃(2030年前後)の准教授数は,いったいどうなっていることか。18歳人口の減少により,少なからぬ大学が潰れているでしょうし。

 まあ学生も,市場の閉塞状況はよく知っているようで,博士課程への進学者は2003年をピークに減少の傾向にあります。競争の母体が減るので,1割という数値は維持されるかな。『ニューズウィーク日本版』で,大学教員市場の開放係数という指標を計算してみましたので,興味ある方はご覧ください。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/01/post-9390.php

2018年6月7日木曜日

「不詳」は分母から除こう

 人間の頭数を数えた官庁統計は,最も信頼できる資料です。データは公表されており,それを加工することで,地域別の失業率や大卒率といった指標を独自に出すことができます。

 最近はデータがエクセルでアップされているので,必要な数字をコピペして割り算するだけ。入力の手間もかかりません。便利になったものです。

 しかるに,最近の統計表を見ていて気になることがあります。「不詳」というカテゴリーの人数が少なくないことです。基幹統計の『国勢調査』でもです。とくに最終学歴などは「不詳」が多く,都市部では全数の中でもかなりの比率になります。

 下表は,都内23区のアラフォー年代の最終学歴構成です。学歴は,西暦の下一桁が「0」の年に調査されますので,2010年のデータとなっています。統計表「01020」より作成しました。
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/database?page=1&toukei=00200521&tstat=000001039448&result_page=1&second=1


 どの区でも,不詳が結構な数になります。港区,新宿区,渋谷区,豊島区では,最終学歴不詳者が全体の4割を超えます。最も高いのは港区で,アラフォーの学校卒業人口4万3066人のうち,1万9770人(45.9%)が学歴不詳です。学歴不詳率,半分近くなり。

 都内23区は外国人人口が多いからではないか,と言われるかもしれませんが,外国人がこんなに多いはずないですよね。学歴はデリケートな項目ですので,回答拒否が多いのだと思われます。

 ここまで不詳者が多いとなると,統計の信憑性が揺らいできます。たとえば大卒率を出す場合,不詳を含む総数(左端の数値)を分母にすると,おかしなことになります。不詳は,分母から除かないといけません

 この措置をするかしないかで,値は全然違ったものになります。港区について,2通りのやり方で大学・大学院卒率を計算すると,以下のようになります。

①分母に不詳者を含む場合
 14,066/43,066 = 32.7%

②分母に不詳者は含まない場合
 14,066/(43,066-19,770)= 60.4%

 2010年の35~44歳といえば私の世代ですが,同世代ベースの大学進学率は4割は超えているはずです。東京の都心では,これよりもうんと高いはず。東京の港区で,アラフォーの大卒率がたった3割なんて,ちょっと考えられません。①よりも②の数値をとるべきでしょう。

 都内23区について,①と②のやり方で,アラフォーの高学歴人口率を算出すると,以下の表のようになります。


 はじき出された値はかなり異なります。黄色マークは20ポイント以上違う区ですが,学歴不詳者が多いことによる,統計上の歪みが大きい区です(最初の表)。

 2020年の『国勢調査』では学歴が調査されますが,こうした歪みはもっと大きくなるのではないかと思われます。「不詳」のカテゴリーの者が増えることでしょう。『国勢調査』をはじめとした官庁調査への回答は,統計法で義務づけられており,罰則もあるのですが,現実には機能していないようです。

 ネット回答が普及し,全項目に回答しないと送信できないようになれば,この弊は幾分かは緩和されるかもしれませんが。

 とはいえ現状はこんなですので,『国勢調査』等の官庁統計を使って,地域別の「**」率のような指標を計算するときは,「不詳」というカテゴリーの人数は,分母から除くべきかと思います

 ここで示したのは学歴という極端な例ですが,労働力状態や配偶関係等でも,不詳者は結構います。失業率や未婚率といった指標を出す際は,要注意です。

 プレジデント・オンラインの記事で,都内23区のワーママ率と主婦率を出した表があるのですが,これらの指標の定義は何か,という問い合わせをしました。
http://president.jp/articles/-/25139

 ワーママ率=6歳未満の子がいる女性のうち,労働力状態が「主に仕事」の者の比率
 主婦率=6歳未満の子がいる女性のうち,労働力状態が「非労働力」の者の比率

 こういう回答でしたが,表の数値を見る限り,分母から労働力状態不詳を除いていないのではないか,という懸念が持たれます。それを咎める気はないですが,今後は注意した方がいい,という進言をしておきました。

2018年6月4日月曜日

年齢別の在学者数

 昨日の朝日新聞にビックリ仰天の記事が出ています。福岡県那珂川町に,93歳の小学生がいるそうです。
https://www.asahi.com/articles/ASL5P5VTKL5PTIPE020.html

 90歳の高校生,大学生といった記事は目にしたことがありますが,小学校で学んでいるというケースは初耳です。現在93歳ということは,1925年生まれと推測されますが,戦前期,尋常小学校への就学の機会も逃したのでしょう。

 それを今から取り戻そうと,曾孫世代の児童らと学んでおられます。いくつになっても学ぼうという姿勢は,子どもたちにとっても刺激になると,校長先生も喜び顔です。

 この那珂川町という自治体は,町民聴講制度なるものを設け,地域の学校を住民に開放しているそうです。学校を生涯学習の場にしようという試み,それは未来形の学校を先取りしています。これから子どもは減りますが,大人(高齢者)は増えてきますからね。その中には,向学心を持っている人も少なくありません。上記の記事で紹介されている,93歳の小学生はその典型です。

 これは福岡県の田舎町のケースですが,統計でみて,このような人はどれほどいるのでしょう。基幹統計の『国勢調査』では,西暦の下一桁が「0」の年(大調査の年)に,国民の在学状況を調べています。設けられているカテゴリーは,以下の4つです。
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/database?page=1&toukei=00200521&result_page=1

 1.小・中学校
 2.高校
 3.短大・高専
 4.大学・大学院

 やや区分が粗いですが,これらの学校に在学している人の数を年齢別に知ることができます。以下の表は,小・中学校と高校の在学者の年齢分布です。最新の2010年に加え,時代変化を見るため,20年遡った1990年のデータを見てみます。


 黄色マークは伝統的な在学年齢で,小・中学校は6~15歳,高校は15~18歳です。当然ですがこのゾーンの在学者が大半を占めます。しかし少子化により,この伝統的な年齢層の児童・生徒は大幅に減じています。

 代わって増えているのは,それとは別の「非伝統的」な年齢層の在学者です。赤字はこの20年間で増えている数字ですが,小・中学校では18~22歳,25~27歳,そして30歳以上の児童・生徒が増えています。夜間中学校の生徒が多いと思われますが,上記のお爺さんのように,小学校で学ぶ大人もいるでしょう。

 高校を見ると,13~14歳の生徒が出てきています(10人)。飛び入学を果たした生徒さんでしょうか。しかし法規上,飛び入学が認められるのは大学だけだったような気が…。

 それはさておき,高校でも伝統的な年齢層の生徒は減り,大人の生徒が増えています。子どもの頃,義務教育は終えたものの,高校進学は叶わなかったという大人は,一定より上の世代では数多くいます。1950年代の半ばまで,高校進学率は半分にも達していませんでしたから。今から高校生活を謳歌しようと,高校の門をくぐる高齢者のニュースはよく耳にします。

 次に,短大・高専と大学・大学院の在学者の年齢統計を見てみましょう。これらの高等教育機関では,成人学生はより多くなっています。


 短大・高専は90年代以降,学生数が大きく減じています。伝統的な年齢層の学生(15~20歳)は,122万人から58万人へと半減以下です。短大が苦境に立たされているためでしょう。しかし,それ以外の非伝統的な年齢層の学生は増えています(16万人→17万人)。学生全体に占める比率も,11.7%から22.7%へと倍増です。
 
 短大は,4年制大学よりも地理的分散の度合いが高い利点を生かし,今後は地域の生涯学習のセンターとしての機能を前面に出すべきでしょう。非伝統的年齢層の学生数の伸び率は,大学・大学院よりも,短大・高専のほうが大きくなっています。

 最後に大学・大学院ですが,90年では皆無だった,15~17歳のうら若き学生が出てきています。高校から大学への飛び入学は法でも認められています。
http://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/shikaku/07111318.htm

 18歳人口ベースの大学進学率が上がっているので,大学・大学院は,伝統的な年齢層の学生も増えています。それよりも上の学生も増えており,30歳以上の学生はこの20年間で3倍の伸びです。社会人に門戸を開く大学も増え,仕事と教育の間を往来する「リカレント教育」も,以前に比したら普及してきました。ただし,欧米に比べたらまだまだですけど…。

 以上,在学者の年齢統計をラフに見てきましたが,たまに新聞で目にする「90歳の高校生!」という類の記事が,ごく一部のマイノリティをつまんだものではない,ということが伺われます。学校は子どもや若者の占有物ではなく,そこで学ぶ大人(高齢者)は増え,その傾向は止まることはないでしょう。いろいろな世代の人間が学校に出入りし,机を並べて学ぶのはいいことです。

 今回見た統計では,マックスの年齢階級が「30歳以上」と括られてしまっていますが,2020年の『国勢調査』で同じ統計表を出す際は,改めてほしいと願います。中高年,高齢層といった多様なステージの学生数を把握できないからです。

 非伝統的な学生が学校に求めるものは,ステージによって異なります。学校がそれに応える準備をするためにも,細かい年齢統計が必要になるのは言うまでもありません。

2018年6月3日日曜日

晩産化の進行

 私の母(故)は1940年生まれ,私は76年生まれですので,私は母が36歳で産んだ子どもということになります。当時では,立派な「晩産」の部類です。

 40年以上の時を経た現在では,40歳を超してからの出産も珍しくありません。40歳以上の母から生まれる子は増えていますし,全出生児に占める割合も然り。厚労省の『人口動態統計』から,ラフな変化を跡付けてみると,以下のようになります。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/81-1.html

 ネットでは1980年の資料から見れるようですので,この年次からの5年間隔の推移を作ってみました。


 少子化で,生まれる子どもの数は減っています。1980年では158万人でしたが,2016年では100万人を切っています。しかるに,40歳以上の母から生まれた晩産児は増えています。1980年に比して8倍近くの増加です。

 その結果,晩産児の割合はぐんぐん増えており,1980年では0.45%でしたが,2016年では5.62%なり。最近では,生まれてくる子どもの18人に1人は,晩産児です。

 遅い年齢で結婚する晩婚が増えているためでしょう。またある方がツイッターで言うには,出産可能なレベルの経済力が備わる年齢が上がっているのでは,とのこと。なるほど,今の40代の世帯年収は一昔前の30代。あり得るかもしれませんね。
https://twitter.com/amareviewer/status/1003140865622065153

 40歳以上の出産といえば,第2子や第3子がほとんどだろうと思われるかもしれませんが,2016年では第1子が最も多くなっています。体力の低下する時期に,要領をなかなか得ない「初の育児」を迫られることになる。

 それだけならまだしも,年老いた親の介護ものしかかってきます。晩産に伴う問題として,しばしば指摘されるのは「ダブルケア」です。40歳で出産した場合,子が高校に入る時に親は55歳,大学に入る時に58歳,大学卒業時(自立時)には62歳になっています。45歳出産の場合は,プラス5歳です。親はとうに80歳を超え,「育児+介護」のダブルの負担が課されることになります。

 言わずもがな,その大半を担うのは女性です。それは統計にも表れており,近年,中高年女性の睡眠時間が殊に短くなっています。平均の睡眠時間では事の重みが伝わりにくいので,1日6時間未満しか寝てない人の割合をとってみましょう。

 下図は,働いている有業男女のうち,平日の睡眠時間が6時間に満たない人の割合の年齢カーブです。青色は1991年,オレンジ色は2016年の曲線なり。『社会生活基本調査』の行動時間階級の統計から作成しました。
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/database?page=1&toukei=00200533&result_page=1


 左側が男性,右側が女性のグラフですが,男女とも50代の伸び幅が大きくなっています。女性は,1991年では7.7%でしたが,2016年では23.9%にも達しています。今では,働く50代女性の4人に1人は,1日の睡眠が6時間未満です。

 50代になっても,高校生くらいの子がおり,弁当づくりで早起きしないといけない。加えて親の介護…。心身ともに疲弊している,この年代の女性の姿が目に浮かびます。
https://twitter.com/ulala_go/status/1002790783349641216

 なお晩産化の度合いには,地域差もあります。生まれてきた子ども全体のうち,晩産児が何%かを都道府県別に計算することができます。時代変化も知りたく,1995年と2016年の地域別数値を出し,高い順に配列したランキングにしてみました。90年以前のデータはPDFでの公表で,データを打ち込むのが面倒なので,95年との比較にしたことをご容赦ください。


 20年前の1995年では,0.6%~2.7%の分布幅でしたが,2016年では3.9%~7.9%のレンジになっています。全国的に晩産は進んでおり,最近では半数の県で晩産児率が5%(20人に1人)を超えています。マックスの東京は7.89%,13人に1人です。

 都市的な地域で晩産率は高くなっていますが,親との同居率(近居率)が低い,地域の人間関係も薄いなどの条件も相まって,ダブルケアの負担は想像以上に重い事態が予測されます。

 最近ではこの問題への関心が高まり,2016年の内閣府調査では,ダブルケア人口の推計値がはじき出されています。保育所への入所審査に,ダブルケアをしていることも考慮する自治体もあり(横浜市)。ダブルケアの当事者の互助会なども生まれているそうです。インターネットの普及により,こうした「つながり」の創出は以前より容易になっています。

 こうした取り組みと並行してなすべきは,家事の省力化です。諸外国を倣って弁当など手抜きでいい。さすがに運動会の弁当は手抜きはしづらいですが,午前中に終わらせちゃう「時短」運動会が父母に好評のようです。

 今後50代は,「育児+介護」のダブルケアのステージになります。これまでの通念は通用しません。完璧を求めるべからず。それを追求し,3代共倒れになっては,元も子もありません。求められるのは,3代の存続を可能ならしめる「手抜き」です。家庭科の教科書では,まあ手のかかる調理法ばかりが指南されていますが,これも変えないといけないと思います。時短メニューを推奨・紹介すべきだと思います。