2018年5月22日火曜日

バブルとロスジェネの稼ぎ比較

 私は現在41歳で,あと2か月弱で42歳になります。40代になると体力低下を自覚するといいますが,まさにその通りです。低下より「落下」という比喩がふさわしいと思うくらいです。
https://twitter.com/maedax_x/status/876413840795123714

 「40過ぎたくらいの若造が何をぬかすか」と言われそうですが,正直,こういう思いですね。まあしかし,経済資本も社会関係資本も持ち合わせていない私ですが,何とかここまで生きてこられています。

 ロスジェネといわれる私の世代ですが,大学を出てから40歳前後まで生きてきています。後ろを振り返れば,社会人としての20年近くの軌跡(データ)が溜まっています。それを総決算してみるのも面白いでしょう。観点はいろいろありますが,就職してからトータルでいくら稼いできたかという,カネ勘定をしてみようと思います。

 私の世代(1976年生まれ)は,ストレートの場合,1999年春に大学を卒業し就職しました(就職率はどん底!)。23歳の年ですが,1999年の厚労省『賃金構造基本統計』によると,同年6月の大卒男性標準労働者の所定内月収は21.35万円(A)で,前年の年間賞与額は28.52万円(B)となっています。この2つをもとにすると,年収は12A+B=284.7万円と見積もられます。ロスジェネ世代の社会人1年目の推定年収です。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html

 この要領で24歳,25歳,26歳……の時点の年収を出していき,40歳までを累積すれば,23~40歳までの稼ぎ総額が出てきます。

 はて,ロスジェネ世代の大卒男性のこれまでの稼ぎ総額はナンボくらいでしょう。われわれが「ツイテない」世代であるのに対し,一回り上のバブル世代は「ツイテいる」世代。1990年春に大学を出た,1967年生まれとの対比もしましょうか。

 下の表は,両世代の各年齢時点の年収とその合算です。前後しますが,ここで観察対象とする標準労働者とは,「学校卒業後直ちに企業に就職し,同一企業に継続勤務しているとみなされる労働者」をいいます(用語解説)。


 23~24歳を除いて,どの年齢時点の年収もバブル世代のほうが高くなっています。おおむね加齢と共に差が広がり,37歳時の年収はバブルが686万円,ロスジェネが591万円と,95万円も開いています。

 一番下の赤字が大学を出てから40歳までの稼ぎ総額ですが,バブルが9736万円,ロスジェネが9006万円なり。同じステージの稼ぎ総額ですが,両世代では730万円も違っています。生まれる時代が一回り違ったことによる差です。

 こういう不運もあり,ロスジェネ世代では,離家・結婚・出産といったイベントが首尾よくいかなかった者も数多し。山田昌弘教授の『パラサイト・シングルの時代』(ちくま新書)が大ヒットしたのは,私の世代が社会に出た1999年だったことは特記されるべきことです。
http://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480058188/

 ちなみにここで見ているのは,大学卒業と同時に就職し,ずっと同じ会社で勤めている標準労働者,言ってみれば「勝ち組」のデータです。私の世代では,新卒時の正規就職が叶わず非正規のまま滞留している人も多く,この層も含めた全労働者でみれば,バブル世代との差はもっと大きいと思われます。

 当然ですが,稼ぎの額は企業規模によっても異なります。「就社」慣行の強い日本ではとくにそう。厚労省の『賃金構造基本統計』では,従業員1000人以上,100~999人,10~99人,という3段階に分けて,所定内月収と年間所与額が計上されています。

 このデータを使って,バブルとロスジェネの23~40歳の稼ぎ総額を,企業規模別に出してみました。やり方は,上記で説明した通りです。はじき出された結果だけを見ていただきましょう。


 全体の総額は,最初の表でみた通り,バブルが9736万円,ロスジェネが9006万円です。企業規模別にみると,バブルの大企就職組は40歳時点にして1億円超えですか。スゴイですね。

 赤字で示しましたが,ロスジェネの中企業は,バブルの小企業よりも低くなっています。

 2世代の差(右端)をみると,大企業は459万円,中企業は469万円ですが,小企業では805万円も開いています。小企業ほど落ち込みが大きいようです。ロスジェネでは,大企業と小企業の格差も広がっています。私の世代はどの層も割を食っているのですが,それは(弱い)小企業で顕著のようです。不況期には,下請いじめが横行するといいますからね。

 以上,40歳までの稼ぎ総額を試算してみました。65歳定年とすると,社会人生活はあと四半世紀ほど残っていますが,定年までの稼ぎ総額,すなわち生涯賃金でみたら世代格差はもっと広がることは間違いありません。40歳の時点で700万円ほど差が出ているのですから(最初の表),2000万円くらいの差にはなるでしょう。

 生まれる家庭や地域は選べませんが,時代も選択できません。階層格差,地域格差と同時に,世代格差という視点も落とせません。私は,この3つのいずれにも関心を持ちます。どの視点で見ても「下」の部類に属しますので。

2018年5月20日日曜日

若者の趣味の変化

 博報堂生活総研が,『生活定点1992-2016』という資料を出しています。ネットで閲覧可能です。
http://seikatsusoken.jp/teiten/

 内容はタイトルの通りで,同じ設問(定点)を設けて,1992~2016年の四半世紀における意識変化を跡付けています。データを呼び出しやすいのもミソで,左端の「ダウンロード」という箇所から,全てのデータが詰まったエクセルファイルを入手できます。性別・年齢層別の推移データを抽出するのも,ワンクリックです。実にありがたい。

 暇をみては,このエクセルファイルを開き,いろいろな項目の推移データを作っているのですが,「よくする趣味・スポーツ」の時代変化が面白い。昨日,20代の若者の変化表をツイッターで発信したところ,多くの方の関心を引いています。

 そこでは,両端(1992年,2016年)のデータを対比させたのですが,始点の年次をもうちょっと下げると比較できる項目が増えますので,ここでは1996年と2016年の比較をしてみようと思います。20年間という,ちょうどいいスパンになりますしね。

 博報堂調査では,複数の趣味・スポーツについて,「よくする」と答えた人の割合を計上しています。この20年間の変化はドラスティックです。情報化を反映して,パソコンをよくする20代の率は,1996年では9.8%でしたが,2016年では26.5%に増えています。一方,パチンコ・スロットは,19.0%から8.1%に減じています。

 以下の表は,この20年間の増加ポイントが大きい順に45項目を配列したものです。


 この20年間で大きく減っているのは,ドライブ,スキー,パチンコ,釣り,ゴルフですか。アクティブでおカネがかかるものですが,今の若者はカネもヒマのないですからねえ。

 対して増分が大きいのは,パソコン,映画,食べ歩き,ジョギング,サッカー・フットサル,となっています。カネがかからない簡素なものといいますか…。この20年間で率が増えているもの(細線より上)をみると,若者の趣味が健全化しているような印象も持ちます。ゲーセンや競馬とかは減ってますしね。

 同時に,若者の生活世界が狭くなっているようにも思えます。釣り道具やスキー板を車に積んで遠出するのではなく,自宅でパソコンしたり,そこら辺をジョギングしたりと。青年期は,アイデンティティ確立のための試行錯誤を許された「モラトリアム」の時期で,いろいろなことをするのを期待されるのですが,それが貧相になっていると言ったら,言い過ぎでしょうか。

 この変化をもって,若者の内向化とか言うのは容易いですが,その基底には,若者の所得の減少があるのを見落としてはいけないでしょう。よく言われる「若者の**離れ」をもたらしているのは,「おカネの若者離れ」である可能性があります。

 さて表によると,自動車・ドライブを「よくする」という20代の率は,この20年間で42.9%から17.5%に減っています。1996年の20代人口は1913万人,2016年の1254万人に,この比率を乗じると,ドライブを愛好する20代の絶対数は,1996年は821万人,2016年は219万人と見積もられます。4分の1近くにまで減っています。自動車業界にとっては,大打撃ですね。

 量的に多い上の年齢層(30代,40代,50代,60代)も加味するとどうでしょうか。下の表は,5つの年齢層(10歳刻み)のドライブ愛好者数の絶対数を推し量り合算してみたものです。


 ドライブ愛好者は若年層では減っていますが,60代では242万人から302万人に増えています。団塊世代の影響で,2016年ではベースの人口量が膨れ上がっているためです。

 しかるに5つの年齢層を合算した愛好者数のトータルは,2497万人から1421万人に減じています。4割以上の減。自動車業界にとってダメージが大きいのは否定できないようです。現に,クルマの売り上げは落ちているといいますし。

 同じ方式で,他の趣味・スポーツについても,20~60代の愛好者数の変化を明らかにしてきました。下表は,この20年間で何倍になったかという倍率が高い順に,45の項目を並べたものです。


 市場が膨らんでいるのは,パソコン,サッカー・フットサル,カメラ,オートバイ,楽器ですか。カメラ・ビデオ撮影は,スマホで撮影しインスタにアップする,というものでしょうね。

 囲碁・将棋,書道,麻雀,お茶といった古風な趣味は,愛好者がこの20年間で3割ほどに激減しています。カラオケやボーリングの愛好者も減ってますねえ。私の頃は,学生の定番娯楽でしたが,今の学生さんの実施率は下がっているのだろうなあ。国分寺のスターレーン,まだあるかしら。

 読書人口も,2814万人から2327万人への減少。イタイ変化です。何度もデータを出したことがありますが,街の本屋さんはかなり淘汰されています。

 上表の数値は,それぞれの趣味の推計愛好者数ですが,各業界の躍進(衰退)可能性を示すバロメーターとしても読めるでしょう。数としては,顧客を減らしてしまっている業界の方が多いようです(細線より下)。人口減少・高齢化により,モノが売れない,サービスの需要が発生しない社会になるといいますが,その現実の一端が表れています。

 まあ,上記の表に掲げられているものの多くは「伝統的」なもので,新たなものがこれから出てくるでしょう。サービスだってそうです。時代の変化に即した,新たなサービスへの需要が増してきます。それを見越して,柔軟に変身を遂げていくことが,企業にとっての「生き残り」の条件となるのは間違いありません。

2018年5月18日金曜日

未婚のシングルマザー

 子どもの貧困が社会問題化していますが,とりわけ一人親世帯の状況は酷くなっています。日本の一人親世帯の相対的貧困率は半分を超え,世界でトップです。二人親世帯を前提に諸制度が組み立てられており,そうではない少数の一人親世帯に困難が凝縮する構造になっています。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/07/post-8063.php

 しかるに,一人親世帯といっても一枚岩ではありません。夫と離婚した母と子からなる母子世帯が大半ですが,母子世帯のお母さんの中には,結婚せずにずっと子どもを一人で育て続けている人もいます。いわゆる,未婚のシングルマザーです。

 基幹統計の『国勢調査』から,母子世帯の数が分かります。定義は,母親と未成年・未婚の子からなる世帯です。2015年調査によると,この意味の母子世帯は75万4724世帯で,他の世帯員がいる世帯も含む母子世帯は106万2702世帯となっています。後者は,親と同居している世帯も含む,広義の数ですね。
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/database?page=1&toukei=00200521&result_page=1

 時代別・地域別のデータは,後者のものしか得られませんので,この広義の母子世帯数を使うことにしましょう。しかし上記の数値から分かるように,その多く(7割)は母子だけで暮らしている世帯です。

 母子世帯の母親の配偶関係はどうなっているか。下表は,1995年,2005年,2015年の3時点のデータです。


 少子化傾向とは裏腹に,母子世帯は増えてきています。1995年では73.6世帯でしたが,2015年では106.3万世帯です。

 母親の配偶関係別にみると,増加幅が大きいのは未婚者です。母が未婚の母子世帯は,この20年間で4.8万世帯から17.7万世帯と,4倍近くに膨れ上がっています。全体に占める割合も,6.5%から16.6%へと大幅増です(下段)。最近では,母子世帯の6分の1が,未婚のシングルマザー世帯であると。メディアでよく報じられていることですが,統計でも確認されます。

 これは全国の数値ですが,母子世帯の母親の未婚者比率には地域差があります。都市と地方では,かなり違っています。上記の3つの年次について,この値を都道府県別に計算し,高い順に並べたランキングにしてみました。


 10%台はピンク,20%以上は濃いピンクにしましたが,全国的に未婚の母子世帯比率が高まっていることが知られます。1割を超える県は,1995年では1県でしたが,2005年では9県になり,2015年では全県が色で染まってしまっています。

 東京・沖縄・大阪は,2割超です。東京と沖縄では,母子世帯の4分の1が,未婚シングルマザーとなっています。上位には都市的な県が多く,下位は農村県がほとんどです。県民の意識差なども大きいでしょうね。

 未婚のシングルマザーというと,相手の男性に逃げられたとか,否定的なイメージが持たれがちですが,現実は多様です。ここで分析対象にしている母子世帯(他の世帯員がいる世帯も含む)には,もしかすると,婚姻届けを出さないでパートナーの男性と同棲している世帯も含まれるかもしれません。こういう世帯の母親は,統計上は未婚者と計上されます。

 いろいろと縛りが生まれる法律婚を回避し,こういう事実婚を選ぶカップルが増えているといいますしね。

 2015年調査のデータでは,都内23区別の未婚シングルマザー比率も出すことができます。「おや?」というデータですので,ご覧に入れましょう。


 さすがは東京23区。全ての区の率が2割を超え,3割超の区も少なくありません(黄色マーク)。上位3位は,港・中央・千代田です。港区では,シングルマザーの半数以上が未婚者です。

 富裕層が多い区ですが,女性の稼得能力が高く,かつ親も裕福なので,結婚せずに一人でやっているママさんが多いのでしょうか。あるいは,事実婚を選択しているキャリアウーマンが多いのか。
https://twitter.com/meimei881/status/997068132580651008

 未婚のシングルマザーの増加は,いろいろな角度から眺めないといけませんが,法律婚をせずとも子育てできるようになるのは,望ましいことだと思います。「旦那はいらんが,子どもは欲しい」。こういう考えの若い女性は結構いるようで,これらの女性が出産に踏み切った場合,出生数は一気に団塊ジュニアの頃に回復するという試算もあります。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/07/post-7974.php

 よく知られているように,フランスやスウェーデンとかでは,生まれてくる子どもの半数以上が婚外子で,何の不利益も課せられていません。

 ただ現段階で一番問題なのは,未婚のシングルマザーは,母子世帯が受けられる各種の支援の対象から外されていることです。理由は,法律で定める「寡婦」の定義に含まれないから。6月から法改正が始まり,保育料の軽減などは受けられるようになるそうですが,税控除の適用などは「寡婦」の定義を変えないといけないので見送り。

 寡婦の定義変更について,政府関係者は「寡婦に未婚を対象に加えると,結婚してから出産するという伝統的な家族観に影響を与えかねない」と言っていますが(2/4,東京新聞),そんな伝統にしがみつく必要はどこにもありますまい。

 先ほど,未婚のシングルマザーの華やかな側面の可能性を指摘しましたが,現時点では,そういう人は少数派でしょう。母子世帯の母親の年収は,夫との離別者や死別者と比して,格段に低くなっています。同じような生活条件なのに,寡婦とみなされないだけでこんなに差が出ているのは,異国の人の目からすれば「差別」としか映じないでしょう。
https://financial-field.com/tax/2018/03/15/entry-13835

 お役人が言うようなつまらぬ「伝統」を払拭し,どういうライフスタイルを選ぼうが子を産み育てられる社会になればいいな,と願います。

2018年5月16日水曜日

21世紀の読書離れ

 暑くなってきましたが,いかがお過ごしでしょうか。一昨日,ツイッターで読書実施率地図の時代変化を発信したところ,多くの方の関心をひいていますので,ブログにも載せようと思います。

 読書実施率とは,過去1年間に「趣味としての読書」をしたという人の割合です。「趣味としての読書」とは何ぞやですが,『社会生活基本調査』の用語解説をみても詳しい解説がありません。趣味ですので,学校の「朝の10分間読書」や会社での研修等で,強制的にやらされるものは含まない,自発的な読書に限られると思われます。
http://www.stat.go.jp/data/shakai/2016/index.html

 老弱男女をひっくるめた10歳以上の国民の読書実施率は,2001年では45.5%でしたが,2016年では38.7%に下がっています。言わずもがな,スマホが普及したことの影響が大きいでしょう。

 この数値は都道府県別に出すこともできます。下表は,高い順から並べたランキングを,2001年と2016年で対比したものです。


 1~6位までの都府県の顔ぶれは不動ですね。首都圏の1都3県と,京都・奈良です。都市部で高いようですが,大きな書店が多いためでしょう。あと一つ,考えられる要因については後述。

 全国的に,読書実施率は下がっています。2001年では50%を超える県が4つありましたが,2016年ではそれは皆無になり,代わって40%未満の県が大幅に増えています。

 この3つの階級で,47都道府県を塗り分けたマップにすると,以下のようになります。ツイッターで発信したのはコレです。


 強烈な変化ですねえ。2001年では色付きの県(4割以上)は29でしたが,2016年では7都府県しかありません。「列島・読書離れ」が明瞭に可視化されています。

 以上は,10歳以上の読書実施率の変化ですが,減っているのはどの層なんでしょうか。スマホの普及の影響で,書を手に取る頻度が大きく減っているのは若年層かと思いますが,データでみるとどうでしょう。

 年齢別の傾向を知るには,年齢曲線を描くのが一番。下図は,読書実施率の年齢カーブを,2001年と2016年で比べたものです。


 50歳以上は変化なしですが,40代まででは,読書実施率が下がっています。減少幅が大きいのは,30~40代の働き盛りですね。空前の人手不足の時代で労働時間も伸びているのですが,その影響でしょうか。

 しかるに,書を手に取り「知」を摂取し考える習慣をつけないと,雇い主に搾取されるだけの存在に堕してしまいます。30~40代といえば,子育ての最中の親世代ですが,子どもにもよからぬ影響が及ぶでしょう。子どもに「本を読め」とうるさく言ったところで,自分がそれをしないならば,説得力はゼロです。

 わずかな時間でもいいから,毎日欠かさず本を手に取りたいもの。何かのビジネス誌で「通勤時間はいい読書時間」という記事を読んだ記憶がありますが,上記の読書率の都道府県差と関連があるような気がします。

 最初の表のとおり,読書実施率は都市部で高いのですが,通勤時間が長いこととも関連しているのではないか。働き盛りの35~44歳の男性有業者を取り出し,平日の通勤時間と読書実施率の相関図を描くと,下図のようになります。


 ほう。プラスの相関関係ですね。通勤時間が最も長い神奈川は,中年男性の読書率も最も高くなっています。都心までの1時間や2時間の通勤時間を,何もしないでボーっとしているのはもったいないですからね。

 京急では,座って通勤できる「ウィング号」を運行していますが,「車中で仕事ができる,本が読める」と好評のようです。

 カバンにいつも何らかの本を忍ばせ,わずかな時間でもいいからそれを開く。あるいは,就寝前の30分は読書タイムにする。私は,後者をやっています。22時30分くらいに布団に入り,1時間ほど本を読んでから灯を消します。今,枕元に置いているのは,ビジネス小説の『バルス』です。
https://twitter.com/tmaita77/status/994478297466658817

 今はネットでいろんな情報収集ができますが,検索エンジンに上がるのは,自分の嗜好に合わせてピックアップされた記事ばかりです。これでは栄養が偏ります。リアル書店に定期的に出向く,紙の新聞を手に取るなど,自分の興味のない分野の「知」のバイキングにも触れないといけません。

 私は三浦半島の南西に住んでいますが,週に1度は上京し,紀伊国屋本店などの大きな書店をぶらつくことにしています。また,夕刻のウォーキングでコミュニティセンターを通るので,ちょっと立ち入って,備え付けの紙新聞(読売,神奈川)にざっと目通しすることを始めました。

 これは私なりのささやかな実践ですが,1日わずかな時間でもいいので,書を手に取ろうではありませんか。スマホ上で指をそそくさと動かす姿なかりでなく,重厚な本を開いている姿も,子どもに見せたいものです。

2018年5月10日木曜日

学校のウェブサイト利用の国際比較

 昨年の夏に出た「学校における働き方改革に係る緊急提言」では,校務のICT化の推進が提言されています。児童生徒の管理や庶務連絡をネット経由で行うだけでも,教員の業務負担は緩和されるでしょう。
http://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/079/sonota/1395249.htm

 特段難しいことではなく,学校のウェブサイトを使えばいいだけのことです。残念なことに,この文明の恩恵を使えていないのが日本の学校の現状。

 OECDの「PISA 2015」のICT調査では,「学校外で,学校のウェブサイトで教材等をダウンロード・アップロードすることがどれほどあるか」と問うています。この問いに対する,日本の15歳生徒の回答分布は以下のようです。
http://www.oecd.org/pisa/data/2015database/

 全く・ほとんどしない … 89.1%
 月に1・2回する … 6.2%
 週に1・2回する … 2.9%
 ほぼ毎日する … 0.9%
 毎日する … 0.8%

 全く・ほとんどしない生徒が9割で,週1回以上する生徒(後3者の合算)は5%弱しかいません。われわれの感覚からすれば「そんなものだろう」ですが,この結果は,国際標準から外れています。

 横軸に「全く or ほとんどしない」生徒,縦軸に「週1回以上する」生徒の比率をとった座標上に,ICT調査の対象の46か国を配置すると,下図のようになります。アメリカは,調査対象外です。


 日本は,一番右下にあります。横軸の値が最も高く,縦軸は最も低い。すなわち,学校のサイトで教材等をDL・アップする生徒が最も少ない,ということです。

 斜線は均等線で,このラインより上にある国は「横軸 < 縦軸」です。タイはスゴイですね。ICT先進国のエストニアやデンマークも,さもありなん。他の先進国はこのラインを下回っていますが,日本よりはマシです。

 もう一つ,学校のウェブサイト利用に関する設問がありますので,この問いへの回答も加味してみましょうか。「学校外で,学校のウェブサイトで庶務連絡等をチェックすることがどれほどあるか」です。

 以下に掲げるのは,双方の問いに「週1回以上する」という生徒の割合の国際比較図です。ツイッターでも発信しましたが,かなり注目を集めています。


 ぐうの音も出ません。本当に先進国なのかと,目を疑います。右上の諸国では,教員が教材プリントを刷って生徒の配るなんてことはしません。行事への出欠の伝達も,ウェブサイト上でワンクリックです。

 教育内容の増加で「重すぎるランドセル」が問題になっていますが,教科書を電子化すれば,薄いタブレット1台で済むこと。

 日本でも,民間企業はここまで酷くはないでしょう。学校だけが,社会のICT化から取り残されているのかもしれません。こうした「陸の孤島」で育った生徒は,実社会に出た時に戸惑うことになります。学校のICT化は,教員の業務の適正化だけではなく,情報化社会に即した教育を行うためにも必要なことです。

 国際学力調査ではいつも世界トップレベルなのですが,情報化社会を生き抜く資質能力が身についているのか,ちょっとばかり心配になってきます。生徒のパソコン所持率も低いですし…。
http://tmaita77.blogspot.jp/2015/02/blog-post_25.html

 それは,コンピュータを必須ならしめる環境に生徒を置いていないためです。求められるのは,生徒をしてパソコンに触れざるを得ないような環境を作ること。「教育の情報化」が目指されていますが,それは,ICT機器を使った教授・学習活動(授業)だけではなく,学校生活全体のICT化をも含むのです。

 今回のデータは,後者の側面が著しく立ち遅れていることを可視化しています。

2018年5月4日金曜日

通勤時間による損失

 日本は労働時間が長いと同時に,通勤時間も長い国です。

 往復1時間,2時間の通勤なんて,無駄の最たるもの。このことが日本人の労働生産性を下げている。こういう主張をよく聞きますが,確かに頷けます。

 はて,おカネにしてどれくらいの無駄が生じているのでしょうかねえ。総務省『社会生活基本調査』(2016年)から,40代前半の男性有業者の通勤時間分布を取り出すと,以下のようになります。平日1日あたりの通勤時間(往復)の分布です。
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/database?page=1&toukei=00200533&result_page=1


 通勤時間が分かる380万4000人のうち,最も多いのは,30分以上1時間未満となっています。2時間以上の遠距離通勤者は115万8000人で,およそ3人に1人です。首都圏の埼玉・千葉・神奈川だと,もっと多いでしょう。もしかしたら半分いったりして。

 この分布をもとに,380万人あまりの通勤時間の総計を出してみましょう。各階級の通勤時間は,一律中間の値とみなします。②は45分(0.75時間),③は1時間15分(1.25時間)…というふうにです。

 勤務時間のトータルは,15の階級の「階級値×人数」を合算することで出せます。結果は,623万5000時間なり(右下)。平日1日でみた,40代前半男性の通勤時間のトータルです。

 これに,1時間あたりの労働生産額を乗じれば,通勤による損失額の近似値が出てきます。1時間で生み出せる財やサービスの金額を知るのは難しいですが,ここでは,時間給を充てることにしましょう。1時間の労働に支払われる対価ですので,的外れではありますまい。

 2016年の厚労省『賃金構造基本統計』によると,40代前半の男性一般労働者の年収推定値は599.5万円(A)。月あたりの残業込みの労働時間は183時間(B)。よって時間給は,A/12B=2730円となります。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html

 40代前半男性の平日1日の総通勤時間623万5000時間に,時間給2730円をかけると,170億2000万円となります。スゴイですねえ。働き盛りのアラフォー男性でみた,通勤による1日の損失額です。

 言わずもがな,働いている人は40代前半の男性だけではありません。生産年齢の5歳刻みの年齢階層を男女で分けた,16の群について,同じやり方で通勤による損失額を試算してみました。


 女性より男性の方が,通勤時間相当の損失額は大きくなっています。通勤時間・給与とも,女性より高いですので。損失の年齢ピークは,男女とも40代後半です。生産性に満ちた働き盛りで,損失は大きいようです。

 男女の全年齢層の損失を合算すると,1423.9億円となります。平日1日でです。これが毎日積み重なるとなると,天文学的な数値になります。

 雇用労働化が進んだ現在では,自宅からオフィスへの通勤はやむを得ないことであり,上記の数値の全てが損失と決めつけることはできませんが,日本の場合,他国と比してそれは大きいでしょう。通勤時間が長いだけでなく,オフィスの偏在により,殺人的な満員電車に揉まれる「痛勤」地獄も加わりますので。会社に着いて,「さあ仕事だ」という時点にして,かなりのエネルギーを消耗してしまっています。こういうことが労働生産性に響いているのは,間違いありません。

 OECDのジェンダー・ポータルの統計で,通勤時間の国別統計がありましたので,これを労働生産性と絡めたグラフを掲げておきましょうか。後者は,就業者1人あたりのGDP額で,『世界の統計2017』より2015年の数値を採取しました。


 横軸は,1日あたりの男性(15~64歳)の平均通勤・通学時間ですが,これが長いほど労働生産性が低いという,うっすらとした傾向がみられます。27か国のデータから算出される相関係数は,-0.403です。

 労働生産性の要因としては,職場のICT化の度合いなどもあるでしょうが,通勤時間の長さも寄与していると思います。オフィスが偏在しており,郊外から都心という一方通行の「痛勤」が支配的な日本では,大きなマイナス要因となっていることでしょう。今回の試算によると,その額は平日1日で1424億円なり。

 長時間の「痛勤」がなくなれば,どれほど事態は変わることか。IT化の進行により,一つの空間に集まって仕事をする必然性は薄れており,在宅仕事(テレワーク)も少しずつ広がってきています。並行して,オフィスの分散化も図りたいもの。師匠のご子息は,満員電車に乗るのは御免と,都心とは逆方向にある会社に就職したそうですが,こういう若者も増えてくるかもしれませんね。

 早朝の集中通勤を無くすべく,時差通勤も導入も求められます。役所はともかく,「9~5時」という定型に全ての事業所が拘る必要はないでしょう。

 ブラック労働のメルクマールとして,長時間勤務や薄給などがありますが,長時間の満員電車「痛勤」は,それらに勝るとも劣らないマイナス要因です。給与が安くてもいいから,最後のものはご免こうむりたい。私は,こういう考えです。
https://twitter.com/sateco/status/991973090547531781

 個人の健康阻害だけでなく,社会全体にとっても大きなマイナスであることは,今回のラフな試算からもうかがえます。

2018年5月1日火曜日

喫煙と寿命の相関

 全国一の短命の青森県ですが,塩分の摂り過ぎが原因ではないかということで,「スープは残してください」と張り紙をするラーメン屋さんも多いそうです。ラーメン好きには辛いですね…。

 しかし,本県の塩分摂取量は全国一ではありません。2016年の『国民健康・栄養調査』によると,本県の成人男性の塩分摂取量は46県中8位です(熊本県は除く)。各県の塩分摂取量は,平均寿命と有意な相関関係にはありません。

 飲酒率も然り。厚労省『国民生活基礎調査』(2016年)から,毎日飲酒する成人の率を出し,平均寿命との相関をとると,マイナスではありますが有意とは認められません。

 あと思いつく不健康因子は喫煙ですが,こちらは飲酒にもまして地域差が大きくなっています。下図は,「毎日喫煙する」と答えた人の率の年齢カーブを,全国と青森県で比べたものです。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/20-21.html


 毎日喫煙率は40代以降は下がり,60歳を超えた高齢期では地域差がほとんどなくなります。健康を意識し,タバコを控える人が増えてくるのでしょう。

 しかるに,30~40代の働き盛りでは差が大きくなっています。禁煙は早いほどいい,若い頃の喫煙は,取り去ることのできないダメージをもたらすと言いますが,この年齢層の喫煙率の差が,平均寿命とリンクしてはいないか。

 私は,30~40代の毎日喫煙率と,男性の平均寿命のデータを都道府県別に揃えました。前者は,2016年の『国民生活基礎調査』から計算した者です。後者は,先日公表された2015年の『都道府県別生命表』から得ました。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/tdfk15/index.html

 下表は,都道府県別のデータの一覧です。熊本県は震災の影響で,2016年の喫煙率は出せませんでした。


 30~40代の喫煙率は20.5%~35.2%,男性の平均寿命は78.7歳~81.8歳までの開きがあります。

 どうでしょう。喫煙率が高い北東北の3県(青森,岩手,秋田)は,平均寿命が80歳を下回っています。逆に喫煙率が低い東京や京都は,寿命が比較的長いような…。

 傾向がどうであるかは,相関図を描けば一目瞭然。横軸に喫煙率,縦軸に寿命をとった座標上に,熊本県を除く46県を配置してみます。


 ほう,右下がりですね(相関係数は-0.5965)。30~40代の喫煙率が高い県ほど寿命が短いという,有意なマイナスの相関関係です。

 地域単位の相関関係から,個人の行動レベルの因果関係を引き出すことは慎むべきですが,こういう事実もあるんですね。

 寿命の規定要因については,個人レベルのアンケート調査をもとに,いろんな因子を取り込んだ重回帰分析がされているのでしょうが,上記のグラフを試しにツイッターで流した所,多くの方が見てくださいました。喫煙と寿命の相関のデータって,あまり出されていないのかしら。喫煙の害がいろいろ叫ばれている割には。そこで,ここにも載せておこうと思いました。

 タバコへの風当たりが強く,今は大学の建物は全面禁煙で,吸う人は外に出ないといけない。吸った後は一定時間経たないと,エレベータに乗っちゃダメ。厳しくなったもんです。

 亡き恩師はヘビースモーカーでしたが,今の時期に大学に勤められていたら発狂されたかもしれません。

 論文の個別指導の時も,遠慮なくスパスパされる先生でしたが,研究室の密室なんで,私もうんと煙を吸わされました。今なら大問題になるでしょうが,不思議と嫌な気持ちはしませんでした。「長生きなんてしてもしょうがない」。こういう思いを,師弟で共有していたからかな…。

 考えは人それぞれ。タバコだけをやり玉に挙げる,今の風潮にはちょっとばかり違和感を持ってはいます。