2018年6月25日月曜日

教員志望者の学力

 「教育は人なり」といいますが,学校教育の成否は,教員の専門力量による所が大です。どの自治体も,優秀な人材を採用したいと願っています。

 未来を担う若き青少年のうち,教員を志望する者はどれくらいいるのでしょうか。OECDの「PISA 2015」の質問紙調査によると,日本の15歳生徒の教員志望率は6.7%となっています(OECD「Effective Teacher Policies」2018年)。30歳の時点で,この仕事に就いていたいと答えた生徒の比率です。
http://www.oecd.org/education/effective-teacher-policies-9789264301603-en.htm

 同世代の15人に1人ですが,この群の学力水準は高く,数学的リテラシーの平均点は565点で,教員以外の専門職志望者の552点よりも高くなっています。13点の差です(上記資料)。

 15歳生徒の教員志望率と,教員志望者の学力の相対水準。ゴチにした2つの指標をとった座標上に,「PISA 2015」に参加の65か国を配置すると,以下のような図になります。


 横軸をみると,日本の生徒の教員志望率(6.7%)は,真ん中よりやや高いというところです。トップは,アルジェリアの23.0%なり。

 教員志望率は発展途上国で高い傾向にあり,全ての国で「男子 < 女子」です。教員は,女性が自立を図るための職業とみなされているのでしょう。

 縦軸は,教員志望者の数学的リテラシーの平均点が,他の専門職志望者に比して何点高いかです。これによると,前者の学力が後者に劣る国が多くなっています(値がマイナス)。教員の待遇があまりよくないので,優秀な人材は他の専門職に流れてしまうのだと思われます。

 しかるに日本は違うようで,学力が優れている生徒を教員に引き寄せるのに成功しています。その度合いは,世界でトップです。その次はお隣の韓国。両国とも,国際学力調査ではいつも上位に食い込むのですが,教員の高いパフォーマンス故とも考えられますね。

 韓国は教員の社会的地位が高く,教員給与も民間に比して高いのですが,日本はさにあらず。にもかかわらず,優秀な生徒を引き寄せることができているのですが,教員という崇高な仕事への憧れ,やりがいに魅せられてのことでしょうか。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/04/post-4996.php

 雇う側にすれば何とも都合のいい構造になっていますが,これがいつまで続くかは未知数です。若者の「**離れ」ではないですが,「教員離れ」が起きているとも聞きます。教員の劣悪な労働条件が世に知れ渡っていますしね。

 事実,教員採用試験の競争率も低下しています。私の頃と最近のデータを比べてみましょうか。2000年度(99年夏実施)と2017年度(16年夏実施)の,小学校の試験のデータです。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/senkou/1401021.htm


 受験者は4万6156人から5万2161人に増えています。大学進学率の上昇や,教職課程を設置する私立大学の増加にもよるでしょう。

 しかし増加は主に都市部で,数としては,受験者が減っている県が多くなっています(27県,赤字)。私の郷里の鹿児島では,半分以下に減じています。北海道,青森,秋田,群馬,福井もそうです(ゴチ赤字)。それでいて,採用者は増えているものですから,どの県でも競争率は下がっています(鹿児島だけは別)。

 2000年度試験では5.1~54.2倍の分布幅でしたが,2017年度試験は2.3~8.9倍です。私の頃は,38の県で競争率が10倍を超えていましたが(和歌山は54倍!),最近ではそういう県は皆無で,5倍を超える県も4県しかありません。最低の広島は2.3倍で,2人に1人が通る状況ですが,採用担当者もさぞ頭を抱えていることでしょう。

 ツイッターでも発信しましたが,両年度の競争率の地図を載せておきます。


 採用試験の競争率低下は,採用者の増加による所が大きいですが,受験者の減少も寄与しています。現在は受験者を増やしている都市部も,こうした動きに侵食されないという保証はありません。

 公務員試験,教員採用試験の競争率は,民間の景気動向と逆の動きをするのはよく知られていますが,近年の競争率低下を,そのせいばかりにしてはいけないでしょう。「教員離れ」が起きている可能性も,疑ってみる必要があるかと思います。

 最初のグラフで分かるように,日本は,優秀な若者を教員に引き寄せるのに成功しています。労働条件や待遇がよくないにもかかわらず,です。高度な人材を安く使える,個々の教員の熱意ややりがい感情に寄りかかっているわけですが,こういう虫のいいやり方も,綻びを見せ始めてきました。

 教員の専門職性を明瞭にし,働き方改革を断行しなければ,他国と同様,優秀な人材は他の専門職に流れてしまうでしょう。今の日本の状況を正常とみるべからず。最初の国際布置図によると,その逆であると思います。

2018年6月23日土曜日

ロスジェネ固有の悲哀

 梅雨の最中,ジメジメとした日が続いていますが,いかがお過ごしでしょうか。

 ツイッターで,2010年から17年にかけての年齢層別の年収変化の表を発信したところ,注目を集めています。40代前半だけが減っており,ロスジェネがこの年代に達したことの影響がもろに出ているからです。

 厚労省の『賃金構造基本統計』に出ている,月収額と年間賞与額から計算したものですが,これらの要素ごとの変化も知りたい,という声がありました。また労働時間のほうはどうかと。さらに,収入を労働時間で除した時間給にも興味を持たれます。

 私は原資料にあたって,以下のa~cの数値を採取し,それをもとに,推定年収と時間給を出してみました。aは超過労働時間,bは残業代も含みます。

 月の労働時間=a
 きまって支給される月収額=b
 年間賞与その他特別給与額=c
 推定年収=12b+c
 時間給=(12b+c)/12a

 この5つの要素をもとに,ここ数年で労働条件がどう変わっているかを年齢層別にみてみようと思います。最近の景気回復で上向きにあるとは思いますが,4番目の年収を観察した所,40代前半だけが狙い撃ちされているかのごとく減っていました(冒頭のツイート)。他の要素はどうなっているか。

 まずは男性の変化表をご覧いただきましょう。大学・大学院卒(以下,大卒)の一般労働者のデータです。一般労働者とは,パート等の短時間労働者を除く人たちです。


 一番上の労働時間をみると,昨今の人手不足の影響もあってか,どの年齢層でも増えています。しかし増加幅は40代前半で最も多くなっています(6時間増)。

 月収は,40代前半は2万円ダウン。年間賞与額(ボーナス)は,最近の好況のゆえか,どの年齢層でも増えていますが,40代前半はたった1万円増えただけ。これら2要素から出した推定年収は,この年齢層だけが狙い撃ちされているかのごとく下がっています(マイナス25万円)。これは,ツイッターでもお見せしたデータです。

 40代前半は,労働時間の増加幅が大きく,年収はダウンしていますので,後者を前者で割った時間給も下がっています。40代後半も下がっていますが,下落幅はこちらのほうが多し(マイナス237円)。

 40代前半の悲哀。学校卒業時に就職氷河期に遭遇し,キャリアや昇給を順調に積めていないロスジェネがこの年齢層に達したことの効果でしょう。私はこの世代ですけど,こうも明瞭に不遇が可視化されると,ため息が出ます。

 女性の変化表も掲げておきましょう。上記の男性とほぼ同じ傾向です。


 この表の数値をみて,「年収や時間給が高すぎる,こんなに貰っているのか」という印象を持たれるかもしれませんが,これは月収やボーナスの平均値から試算した額です。中央値でみたら,値はうんと下がるはずです。中央値は,来月半ばに公表される『就業構造基本調査』(2017年)のデータで計算してみることにします。

 40代前半といったら,バリバリの働き盛り,子育ての最中の世代です。この層が置かれている状況は,以前と比して厳しい。これまで当たり前のように期待されていた,子どもの教育費負担も難しくなるでしょう。

 国もそれを認識しているのか,高校就学支援金や大学の学費無償化といった政策も施行され始めています。家計に依存しきった教育財政の構造が変わりつつあります(現状ではまだまだですが)。私は随所で述べていますが,ロスジェネとは,これまでのやり方が通用しないファーストジェネレーション,社会を変えてくれる「黒船世代」でもあると思っています。

2018年6月20日水曜日

アラフォー男性の時間給

 子どもの教育費負担など,いろいろな重荷がのしかかるアラフォー年代ですが,一昔前に比して収入が大きく減っていることは,このブログでも繰り返し明らかにしてきました。

 その一方で,昨今の人手不足もあり,労働時間は増えていると聞きます。バリバリの働き盛りですので,頼られることも多いでしょう。労働時間が増えているにもかかわらず,収入は減っている。だとしたら,やるせないです。

 労働条件というのは,一般に労働時間と収入の2要素で評価されますが,この2つから時間給が割り出されます。1時間あたりの稼ぎがナンボかです。労働時間を考慮した稼ぎというのは,まだ出してませんでしたので,今回はそれをやってみましょう。

 資料は,厚労省の『賃金構造基本統計』です。この資料から,年齢階層別の労働時間と収入を知ることができます。40代前半の男性労働者(短時間労働者を除く一般労働者)について,以下の4つの数値を採取します。
http://www.mhlw.go.jp/toukei/list/chinginkouzou.html

 a)月の所定内労働時間
 b)月の超過労働時間
 c)決まって支給される月収額
 d)年間賞与その他特別給与額

 cは残業代も含みます。cの12倍にdを足すことで,年収額が出てきます。月の労働時間(a+b)を12倍すれば,年間の労働時間になります。目的の時間給は,前者を後者で割ればいいわけです。

 では,実際の数値を引いて計算しましょう。最新の2017年と,前世紀末の1999年のデータを比較してみます。願わくはもっと前に遡りたいのですが,上記の資料はネットでは99年からしか見れません。


 この20年あまりで,アラフォー男性の月の労働時間は179時間から184時間に増えています。増分は,残業(b)によるものです。昨今の人手不足の影響も感じられますね。その一方で,はじき出された年収を見ると648万円から598万円と,50万円も減じています。前より多く働いているのに稼ぎは減っている。上で述べたことが,データで露わになってしまいました。

 この結果,1時間あたりの収入(時間給)も,3018円から2709円にダウンしています。働く時間と得られるお金の2要素による,労働条件悪化の可視化です。

 これは全国の数値ですが,47都道府県別のデータも出すことができます。労働時間,年収,この2つの割り算から出てくる時間給の一覧表を掲げます。計算に使った素材は上記と同じです。


 どうでしょう。多くの県でアラフォー男性の労働時間は増え,収入は減っています。年収が550万円を超える数値には青色のマークをしましたが,その数が減っています。私が住んでいる神奈川は年収の減少幅が最も大きく,106万円の減です。

 その結果,労働時間あたりの稼ぎも多くの県でダウンしています。黄色マークは2500円以上の県ですが,1999年では34県だったのが,2017年では17県と半減しています。埼玉,神奈川,山梨はアラフォー男子の時間給が500円以上低下。労働時間の増加,収入の減少が他県に比して大きいためです。

 ツイッターで発信しましたが,右端の時間給の地図をここに再掲しておきましょう。上表の黄色マークの県に色を付けたマップです。アラフォーの列島貧困化をご覧ください。
https://twitter.com/tmaita77/status/1009257245496918016


 このように働き盛りの労働者が疲弊する一方で,企業の内部留保は過去最高を更新していると聞きます。富の再配分の必要を強く感じずにはいられません。

 この年代は家庭を持ち,財やサービスをバリバリ消費してくれる顧客の存在でもあります。この人たちを痛めつけることは消費の冷え込みをもたらし,結局は自分たちに返ってくるでしょう。また子育ての最中でもあり,子どもへの教育投資がままならなくなり,未来を支える良質な労働力が育たず,社会全体にとってもマイナスになるのは疑い得ません。

 さらに今のアラフォーは,学校卒業時に就職氷河期だった「ロスジェネ」という悪条件も背負っています。キャリアを順調に積めず,非正規・低所得の状態に留め置かれている人が数多し。外国人労働力の受け入れ拡大が決まりましたが,この世代のパワーにも注目してほしいものです。団塊ジュニアのちょっと下の世代で,他世代に比して量的規模も大きくなっています。

 この世代の子ども(ロスジェネ・ジュニア)も,そろそろ高校進学,大学進学のステージに達してきます。親世代の疲弊(格差)が大きいことから,家庭環境とリンクした教育機会の格差も拡大する懸念が持たれます。今回可視化した現実は,後続世代にも影を落とすものです。

2018年6月17日日曜日

図書館司書の非正規化

 雇用の非正規化が進んでいますが,官の世界,教育の領域もそれを免れてはいません。蓋を開けてみると,民間よりも酷いくらいです。

 教育は学校教育と社会教育に分かれますが,とりわけ後者を担う人材の非正規化は凄まじい。全国のどの自治体にもある,代表的な社会教育施設は図書館ですが,そこには司書という職員が置かれます。図書館法で定められた資格を要する,れっきとした専門職です。

 近年,司書の非正規化はものすごい勢いで進んでいます。ツイッターで,司書の非正規率マップの変化を発信したところ,かなり注目を集めています。肌感覚が数値化された,という思いなのでしょう。

 いろいろリプもついていますが,指定管理図書館の司書も加えたほうが正確だ,というご意見をいただきました。なるほど,そういう図書館が増えていますよね。公共施設の管理・運営を民間業者に委託できる,という制度です。
https://twitter.com/dellganov/status/1007598307806363649

 私は多摩市にいた頃,お隣の府中市の中央図書館によく行きましたが,ここは指定管理図書館のようで,黒いユニフォームを着た業者のスタッフが来館者の対応に当たっていました。おそらくは,ほぼ全てが非正規雇用の人たちだと思われます。上記リンクのリプによると,95%はそうではないかと。

 指定管理図書館の司書も分子に加えたら,司書の非正規率はもっと悲惨なものになります。計算し直しましたので,結果をご報告いたしましょう。資料は,文科省の『社会教育調査』です。図書館司書の数を,雇用形態別に知ることができます。下の表は,1999年と2015年の全国データです。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/chousa02/shakai/index.htm


 前世紀の末から最近にかけて,司書の数は9783人から1万9015人に増えています,倍近くの増加です。少子高齢化に伴い,生涯学習の重要性が認識されたこともあるでしょう。

 しかし増分は,直営の非常勤司書(c)と指定管理図書館の司書(d)によるもので,直営の専任司書(a)は減っています。司書の数は増えていますが,雇用形態の組成が大きく変わっている。安上がりの非正規が激増していますので,トータルの人件費はさぞ浮いているのでしょう。

 非正規比率を出すには,cとdを分子にすればいいと思いますが,指定管理図書館の司書の95%を非正規とみなし,以下の式で計算することにします。

 非正規率=( c + 0.95d )/ e

 これによると,1999年の非正規率は23.2%,2015年は69.4%となります。すごい増加ですね。最近では,図書館司書の7割が不安定な非正規雇用であると。

 これは全国の数値ですが,都道府県別にみると大きな地域差があります。1999年では,47都道府県の分布幅は,4.6%~56.1%でした。しかし2015年になると,最も小さい県でも45.8%,半分近くです。では最高値(MAX)は…。両年の都道府県別数値を高い順に配列した表をご覧いただきましょう。


 50%(半分)を超える県にはをつけましたが,2015年では44の県が染まってしまっています。濃い色は8割を超える県で,最高の熊本では83.8%にもなります。図書館職員全体ではなく,司書という専門職でコレです。

 司書の非正規率が半分を超える県に色を付けた地図にすると,地獄絵図ともいえる模様になります。前世紀末からの変化はあまりにも大きい。


 財政難により致し方ない面もあるとはいえ,ここまでナタをふるっていいものか。非正規は給与も低く,社会保障もありません。人間らしい暮らしが担保されるなら,柔軟な働き方ができる非正規も悪くないと思えますが,現状はそれから大きく隔たっています。

 図書館の機能遂行にも影響が及ぶでしょう。図書の賃借業務だけでなく,利用者の学習をサポートする専門力量が求められる司書ですが,非正規の人たちはどういう思いで働いているのか。

 私は前居の図書館で,ちょっと専門的な質問をしたところ,「今日は専任の人が休みなんで…」と尻込みされたことがあります。よく見ると名札に「臨時」と書いてありましたが,「非正規の自分が出しゃばったことをしてはいけない」と,要らぬブレーキをかけているように感じられました。ネームプレートは自我の源泉といいますが,こういう名札は止めたほうがいいと思いましたね。

 正規との給与格差による不満,長期的視野に立った力量形成(研修)機会の不足といった問題もあるでしょう。

 社会の変化がますます速くなり,少子高齢化も進む中,学校教育よりも社会教育の領分が大きくなってきます。その中核となるのが,全国津々浦々に設置された,学習のセンターである公共図書館です。そこで働く職員が,非正規化の先鋒を行ってしまっている。

 司書と並ぶ社会教育の専門職として,博物館の学芸員もありますが,この職業の非正規率もスゴイ。思うに,これらの職業の専門性がよく認識されていないのでしょう。文化国家を名乗るならば,人々の生涯にわたる学習を支える仕事の専門性について議論を突き詰め,待遇についても考え直したいものです。

 諸外国ではどうなっているのか。社会教育職員の国際比較という類の研究があったら,見てみたいと思います。

2018年6月15日金曜日

光文社新書からの経緯書

 『AI時代の新・ベーシックインカム論』(光文社新書,2018年4月刊行)にて,私が作成したグラフを無断使用されました。出典の記載にも不備がありました(掲載誌名の不記載)。

 本件につき,同社新書編集部より経緯説明書(謝罪文)が届きました。無断で使われたのは,『ニューズウィーク日本版』サイトの下記記事の図1です。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2016/02/20-12.php


 出典記載不備について経緯が書かれていますが,無断使用については一言も言及がありません。法で定められた引用という理解なので,会社の文書で取り立てて謝罪する必要はない,という認識なのでしょう。

 「筆者からの要望で,図表を掲載する決定をしました」と書いてありますが,許諾もなしに,他人の作品を「掲載する決定」を勝手にしてよいのでしょうか。

 記事の一文や二文をカッコ付けで引用するのとはワケが違います。作者の思い入れや労力が多く詰まった写真,イラスト,統計グラフといったコンテンツを使うに際しては,事前に許諾を求めるのが礼儀です。商業出版という営利事業での利用なら,なおのことです。相手の意向によっては,使用料を払うことも求められます。

 光文社さん。そちらが無断で使って下さったのと同じグラフを使用するに際して,別の出版社さんはちゃんと許諾を求めてきましたよ。メールをお見せしましょうか。


 そもそも,『ニューズウィーク日本版』サイトの利用規約には,「コンテンツの無断使用・複写は禁止します」と明記されています。この規定も侵害していることになります。
https://www.newsweekjapan.jp/tos.php

 まあ先方も非は認めているようで,担当編集者のメールに「許諾申請を怠っていました。誠に申し訳ございません」という謝罪の言葉があり,使用料も払うと言ってきました。また,「今後は気を付けます」という文言もありました。もう,同じことはしないでしょうね

 新書の業界も大変で,次から次へと新作を出さないといけないプレッシャーに晒されているのは分かりますが,倫理にもとる行為は慎んでほしいと思います。法に触れるかどうか,ということは関係なくです。

 スタイルアクトという会社が,首都圏の学区別の平均年収を出して注目を集めています。思想や感情の表現ではない,事実としてのデータは著作物ではありません。よって無断で拝借し,商業誌に載せて金儲けしても違法ではありません。でもそんなことをしたら,この会社が黙っていませんし,世間から集中砲火を浴び,業界から追放されることは必至ですよね。

 要は,倫理の問題です。世の中,法で対処できない部分は,人々の「倫理」「良識」で成り立っているのです。

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 この会社の新書の制作過程については,小谷野敦氏も疑問を呈されています。
http://d.hatena.ne.jp/jun-jun1965/20100124
http://d.hatena.ne.jp/jun-jun1965/20100904

2018年6月11日月曜日

研究者への到達チャンス

 私は1976年生まれで,1999年に学部を卒業し,2001年に修士課程,2005年に博士課程を修了しました。博士の最短年数は3年ですが,私は1年多くかかりました。

 私の世代は今年で42歳ですが,研究職の道を歩んでいる人の場合,トントンで行っている人は准教授になっているでしょう。しかしこういう勝ち組はわずかで,数としては,脱落組のほうがはるかに多くいます。

 いやらしい関心ですが,こうした淘汰の過程を数値で可視化できないかと,ふと思いました。文科省の『学校基本調査』で,学部卒業,修士修了,博士修了時点の人数は分かります。また同省の『学校教員統計』で,各年齢時点における,大学本務教員の職階別の人数が分かります。
http://www.mext.go.jp/b_menu/toukei/main_b8.htm

 これらの統計を駆使することで,大学教員へのキャリアルートにおける選抜(淘汰)過程を明らかにできます。私は,自分の世代である1976年生まれと,一回り上の1967年生まれの2世代について,データを試しに作ってみました。

 拾ったのは,①学部卒業,②修士修了,③博士修了,④助教・助手・講師,⑤准教授,の5つのステージにおける人数です。上記の2世代の場合,以下の時点・年齢の数を採取すればいいでしょう。①~③は『学校基本調査』に載っている卒業(修了)者数,④と⑤は『学校教員統計』の大学本務教員数です。


 ストレートだと27歳で博士課程を修了(満期退学)し,30歳前後で助教か講師になり,40歳では准教授になっていると思われます。

 では,2つの世代について,5つの時点における頭数を見ていただきましょう。博士課程修了者には,単位取得満期退学者も含みます。


 何の加工もしていない原数値です。当然ですが,ステージを経るにつれて,人数はぐんぐん萎んできます。私の世代だと,学部卒業者は53万2436人ですが,博士修了者は1万5160人で,40歳時点の准教授数になると1906人にまで減じます。

 このような淘汰は,男子よりも女子で大きいかな,という印象です。また,一回り上の世代よりも厳しくなっているようにも思えます。

 それは後で可視化するとして,まずは,それぞれのステージにおける男女比率を出してみましょうか。簡単な割り算です。


 私の世代を見ると,おおむね女性比は下がってきます。助教・助手・講師の段階ではペコっと上がるのですが,博士課程修了者とは別のリクルート源からの有期採用が多いのでしょうか。准教授のステージになると,男女比は「4:1」になります。

 近年の男女共同参画政策の効果か,上の世代よりは,ちょっとだけ状況は改善されています。しかし絶対水準としてはまだまだで,「男女共同参画」が具現された姿とは到底言えません。

 次に,サバイバル率を出してみましょう。どの時点をベースにするかですが,研究者の卵としての資格を得た,博士課程修了時点の人数を100とした数に換算してみましょうか。こちらも,簡単な割り算です。


 1976年生まれ世代だと,27歳の博士修了者数を100とした場合,31歳時の助教・助手・講師は18.4,准教授は12.6となります。准教授への到達率,およそ1割です。性別にみると男子は13.2,女子は10.7で,男子のほうがやや高くなっています。

 上の世代と比較すると,状況は悪くなっていますね。准教授(=パーマネントポスト)への到達率は,1967年生まれ世代では4分の1だったのが,10分の1になってしまっています。ジェンダー差もちょっと拡大しています。

 90年代以降の大学院重点化の影響が大きいでしょう。最初の原数表に戻ると,博士課程修了者数は67年生まれでは8019人だったのが,76年生まれでは1万5160人に膨れ上がっています。このように競争の母体が増えたにもかかわらず,パーマネントポストは減ってしまっている。

 後続の世代では,このサバイバル率はもっと低くなると見込まれます。私の世代は1割ですが,最近博士号をとった世代が40歳になる頃(2030年前後)の准教授数は,いったいどうなっていることか。18歳人口の減少により,少なからぬ大学が潰れているでしょうし。

 まあ学生も,市場の閉塞状況はよく知っているようで,博士課程への進学者は2003年をピークに減少の傾向にあります。競争の母体が減るので,1割という数値は維持されるかな。『ニューズウィーク日本版』で,大学教員市場の開放係数という指標を計算してみましたので,興味ある方はご覧ください。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/01/post-9390.php

2018年6月7日木曜日

「不詳」は分母から除こう

 人間の頭数を数えた官庁統計は,最も信頼できる資料です。データは公表されており,それを加工することで,地域別の失業率や大卒率といった指標を独自に出すことができます。

 最近はデータがエクセルでアップされているので,必要な数字をコピペして割り算するだけ。入力の手間もかかりません。便利になったものです。

 しかるに,最近の統計表を見ていて気になることがあります。「不詳」というカテゴリーの人数が少なくないことです。基幹統計の『国勢調査』でもです。とくに最終学歴などは「不詳」が多く,都市部では全数の中でもかなりの比率になります。

 下表は,都内23区のアラフォー年代の最終学歴構成です。学歴は,西暦の下一桁が「0」の年に調査されますので,2010年のデータとなっています。統計表「01020」より作成しました。
https://www.e-stat.go.jp/stat-search/database?page=1&toukei=00200521&tstat=000001039448&result_page=1&second=1


 どの区でも,不詳が結構な数になります。港区,新宿区,渋谷区,豊島区では,最終学歴不詳者が全体の4割を超えます。最も高いのは港区で,アラフォーの学校卒業人口4万3066人のうち,1万9770人(45.9%)が学歴不詳です。学歴不詳率,半分近くなり。

 都内23区は外国人人口が多いからではないか,と言われるかもしれませんが,外国人がこんなに多いはずないですよね。学歴はデリケートな項目ですので,回答拒否が多いのだと思われます。

 ここまで不詳者が多いとなると,統計の信憑性が揺らいできます。たとえば大卒率を出す場合,不詳を含む総数(左端の数値)を分母にすると,おかしなことになります。不詳は,分母から除かないといけません

 この措置をするかしないかで,値は全然違ったものになります。港区について,2通りのやり方で大学・大学院卒率を計算すると,以下のようになります。

①分母に不詳者を含む場合
 14,066/43,066 = 32.7%

②分母に不詳者は含まない場合
 14,066/(43,066-19,770)= 60.4%

 2010年の35~44歳といえば私の世代ですが,同世代ベースの大学進学率は4割は超えているはずです。東京の都心では,これよりもうんと高いはず。東京の港区で,アラフォーの大卒率がたった3割なんて,ちょっと考えられません。①よりも②の数値をとるべきでしょう。

 都内23区について,①と②のやり方で,アラフォーの高学歴人口率を算出すると,以下の表のようになります。


 はじき出された値はかなり異なります。黄色マークは20ポイント以上違う区ですが,学歴不詳者が多いことによる,統計上の歪みが大きい区です(最初の表)。

 2020年の『国勢調査』では学歴が調査されますが,こうした歪みはもっと大きくなるのではないかと思われます。「不詳」のカテゴリーの者が増えることでしょう。『国勢調査』をはじめとした官庁調査への回答は,統計法で義務づけられており,罰則もあるのですが,現実には機能していないようです。

 ネット回答が普及し,全項目に回答しないと送信できないようになれば,この弊は幾分かは緩和されるかもしれませんが。

 とはいえ現状はこんなですので,『国勢調査』等の官庁統計を使って,地域別の「**」率のような指標を計算するときは,「不詳」というカテゴリーの人数は,分母から除くべきかと思います

 ここで示したのは学歴という極端な例ですが,労働力状態や配偶関係等でも,不詳者は結構います。失業率や未婚率といった指標を出す際は,要注意です。

 プレジデント・オンラインの記事で,都内23区のワーママ率と主婦率を出した表があるのですが,これらの指標の定義は何か,という問い合わせをしました。
http://president.jp/articles/-/25139

 ワーママ率=6歳未満の子がいる女性のうち,労働力状態が「主に仕事」の者の比率
 主婦率=6歳未満の子がいる女性のうち,労働力状態が「非労働力」の者の比率

 こういう回答でしたが,表の数値を見る限り,分母から労働力状態不詳を除いていないのではないか,という懸念が持たれます。それを咎める気はないですが,今後は注意した方がいい,という進言をしておきました。