2024年1月19日金曜日

大腸内視鏡検査の体験記

  本日,大腸内視鏡検査を受けてきました。そのいきさつの記録です。

 私は毎年,横須賀市の成人特定健康診断を受けています。会社員なら強制的に健診は受けさせられますが,私のような在野人は,自分で手配しないといけません。まあ市から送られてくる受診券を持って,近くのかかりつけ医に行くだけですが。

 有料のオプションとして,胸部検査や大腸がん検診もついています。後者については躊躇する人も多いでしょうが,私は毎年受けることにしています。お肉をバクバク食べますのでね。

 昨年の11月半ば,渡された検査キットを使って,自宅にて便を採取しました。正確さを期すため2回行うのですが,2回目は,お尻を拭いたトイレットペーパーに血がついていました。排便の時に,肛門が切れるような感覚があり,おそらく痔だなと思いました。しかし便に血が混ざってしまった可能性が高く,これは陽性と出るな,と覚悟を決めました。

 1か月経った12月半ば,検査結果を聞きにいったら,案の定,「大腸がん検診が陽性と出ています」と,ドクターから通告されました。「陽性と出た人には,精密検査を受けてもらうことになっています」と言われ,検査をやってくれる医院を紹介されました。

 私は翌日,紹介状をもって,当該の医院に出向きました。ドクターと面会し,「大腸内視鏡検査を受けていただきます」と言われ,詳しい説明を受けました。肛門から内視鏡を挿入し,大腸内をくまなく観察し,がんが潜んでないかを調べる検査です。そして,検査に必要とのことで,血液を採取しました。

 その後,受付の人と日程を調整し,年明けの1月19日に検査することになりました。検査前日の食事制限について説明した資料と,検査当日に飲む下剤を受け取り,家路につきました。

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 年が明け,石川の能登大地震の惨状に心を痛める日を経て,検査前日の18日がやってきました。ツイッターにも書きましたが,この日は食事制限です。消化されにくく,腸内に残ってしまうような食べ物はNG。具体的には,繊維が多いキノコ類や海藻類,野菜もです。

 消化されやすいメニューを少量食べてほしい,とのこと。病院から渡された「おすすめメニュー」に従い,次のようにしました。朝は食パン1枚と目玉焼き,昼は素うどん1杯,夜はおかゆです。当然,空腹でお腹がグーグー鳴りましたが,キャンディーをなめて空腹感をまぎらわせました。夜の9時に,指定された下剤をのみ,早めに就寝しました。

 さて検査当日。この日は朝から絶食で,腸内をカラにするための強力な下剤を飲みます。私が飲むように指示されたのは,マグコロール1.8リットルです。粉が入った容器に水を入れ,よく混ぜて完成。これを10分間隔でコップ1杯ずつ,時間をかけて飲み干していきます。

 大腸内視鏡検査で一番辛いのは,大量の下剤を飲まされることだ,という体験談がネット上に溢れかえっていますが,私は嫌な感じはしませんでしたね。味はポカリそのもので,まずくも何ともない。

 飲み始めてから30分ほどで,強烈な便意が襲ってきました。お腹をキューと締め付けられるような感じです。トイレに座ったら,出るわ出るわ。その後もおよそ15分間隔でトイレに行き,6回くらい排便したら,粒一つない完全な水便になりました。

 これで前処置は完了。指定された14:15に医院に行き,血圧を測定して待合室でちょっと待ちました。検査室に呼ばれ,検査(手術)への同意書を提出。体調や病歴について問診を受けた後,検査服に着替えました。下は,お尻の部分に穴が開いている半パンです。

 さあ,いよいよ検査開始。検査台に横向きに寝ころび,左手をさしだして,鎮静剤を注入するための針をさしてもらいます。それからドクターによって鎮静剤が注入されると,意識が朦朧とします。「眠いでしょ。寝ちゃっていいよ」というドクターの声は覚えていますが,それからの記憶はなし。「終わりましたよ」と,看護師さんに肩を揺さぶられて目覚めました。

 その後,30分ほど休み,フラフラとした足取りで脱衣所に移動し,検査服を脱ぎました。着替えて待合室でちょっと待ち,診察室に呼ばれてドクターから結果の説明。開口一番,「異常はありませんでした」とのこと。安堵しました。腸内の写真をいただきましたが,ポリープ1つも見つからなかったそうです。


 どうやら,便潜血検査で陽性と出たのは「痔」のためだったようです。「今後3年間は,便潜血検査で陽性と出ても,精密検査を受ける必要はない」と言われました。すなわち,便潜血検査を受ける必要はないと。また3年後の2027年1月に,大腸内視鏡検査を受けることとしましょう。
 
 毎年,ちまちまと便潜血検査を受けるより,3年に1回,内視鏡検査を受けるほうがいいかもしれませんね。こちらのほうがずっと精度は高いですし。ちなみに費用は保険診療なんで6000円ほどでした。ポリープ切除の場合はもっと高くなりますが,異常なしの場合はこんなものです。

 大腸内視鏡検査というと躊躇する人が多いと聞きます。医者から受けるように進言されても受けないままで,がんが進行し,人工肛門になってしまう人もいます。

 しかしやってみると,何のことはありません。がん年齢と言われる40歳を過ぎたら,一度,受けてみるといいと思います。日本人の半分が生涯のうちにがんを患うという統計があり,部位別にみると大腸がんは上位に挙がっています(女性では首位)。食生活の洋風化(肉食化)が進んでいるのもあるでしょう。

 便潜血検査で陽性反応が出て,内視鏡検査を受けるよう通告され,あたかも死刑宣告を受けたかのように不安におののいている人もいるかと思いますが,私の体験記が不安低減に役立てば幸いです。

 便潜血検査で陽性となるのは6%,そのうち内視鏡検査で大腸がんが見つかるのは5%。こういう数字も,頭の片隅におきましょう。

2023年12月20日水曜日

都道府県別の大学進学率(2023年春)

  今年の『学校基本調査』の確報結果が出ました。例年同様,都道府県別の大学進学率を計算することといたしましょう。毎年のことですので,計算の方法の説明と,出てきた数値を淡々と報告します。

 大学進学率とは,18歳人口ベースの浪人込みの進学率をいいます。分子には,当該年春の大学入学者数を充てます。2023年春でいうと,63万2902人です。この中には,より上の世代(浪人経由者)も含まれますが,今年春の18歳人口からも,浪人経由で大学に入る人が同数出ると仮定します。

 分母には,今年春の推定18歳人口を使います。3年前の『学校基本調査』に出ている,①中卒者数,②中等教育学校前期課程卒業者数,および③義務教育学校卒業者数を合算します。3年前(2020年春)の①は108万7468人,②は5430人,③は4518人で,これらを足すと109万7416人。これが,今年(2023年)春の推定18歳人口です。

 これで分子と分母が得られましたので,2023年春の大学進学率は,63万2902人/109万7416人=57.7%となる次第です。元資料(このページの図表9)で報告されている数値と一致します。

 同世代の何%が4年制大学に進学するかですが,6割のラインに近づいてきましたね。

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 さて,本題はここからです。57.7%というのは全国の数値であり,地域別にみると著しい違いがあります。これは高等教育機会の地域格差の表現であって,私は毎年,これを明らかにしているわけです。便宜上,地域を都道府県単位で捉えています。

 県別の大学進学率は,『学校基本調査』の結果レポートには載っていません。上記の方法にのっとって,私が独自に計算します。県別の場合,大学進学率の分子には,当該県の高校出身の大学入学者数を充てます。私の郷里の鹿児島県だと,本県の高校出身者で,今年春に全国のどこかの大学に入学したのは6373人(このページの表16)。

 分母には推定18歳人口を使いますが,3年前(2020年春)の中卒者,中等教育前期課程卒業者,義務教育学校卒業者の合算は1万5086人。よって,今年春の鹿児島県の大学進学率は42.2%となります。先ほどみた全国値(57.7%)よりだいぶ低いですね。

 私はこのやり方で,47都道府県の大学進学率を計算しました。各県の分子,分母の数値は男女別にも得られますので,男子と女子に分けた進学率も出しました。以下の表は,結果の一覧です。縦長の表で,スクショを1枚に収められませんでしたので,上下2枚に分割していることをお許しください。

 繰り返しになりますが,この県別・性別のデータは,文科省の『学校基本調査』のデータをもとに,私が独自に計算したものであることを申し添えます。

 47都道府県中の最高値には黄色マーク,最低値には青色のマークをしました。左端の男女計でみると,最高は東京の77.6%,最低は宮崎の40.1%。倍近くの差で,同じ国内かと思う得るほどの格差です。毎年のことで,私はあまり驚かなくなりましたが。

 各県の大学進学率を男女別に出すと,これも毎年のことですが,「男子>女子」の県が大半です。鹿児島では,男子が46.1%であるのに対し,女子は38.1%,8ポイントの差です。一方,東京は性差が1.4ポイントと小さくなっています。自宅から通える大学が多いためでしょう。

 私はかれこれ,10年ほど前から毎年,県別の大学進学率を出してきてますが,各県の位置にも変化があります。たとえば沖縄県で,以前とは異なり,近年の全県での順位は「中の上」です。本県独自の子どもの貧困対策や,国の高等教育無償化政策の効果もあるかと思われます。

 ここで明らかにした大学進学率の都道府県差が,各県の生徒の自発的な進路選択の結果などと考える,おめでたい人はいないでしょう。何よりの反証材料は,子どもの学力首位の秋田が,大学進学率では最低水準であることです。各県の男女差などは,「ジェンダー」の反映ともとれます。(1人しか行かせられないなら男子優先,女子は自宅通学のみ可…)。

 大学進学率の地域差がどういう問題か,どういう要因でもたらされているかについて,私が思うところは,本ブログで何度も書きましたので,ここで繰り返しません。毎年,「都道府県別の大学進学率(**年春)」という記事をアップしています。各県の所得や親世代の大卒率との相関をとったグラフを掲載した記事もあります。

 興味ある方は,左上の検索窓に「都道府県 大学進学率」と打って,呼び出してみてください。

2023年11月18日土曜日

失業と自殺の相関の国際比較

  先日ツイッターで出したグラフについて,「元データがどういうものか,イメージしにくい」という声がありますので,ここで詳細を書いておきます。

 当該のグラフは,男性の失業率と自殺率の時系列データから算出した相関係数を,国ごとに棒グラフにしたものです。日本は+0.9を超えていて,主要国では断トツ。米国は+0.073で無相関,フランスやスペインに至ってはマイナスです。

 失業率は,15歳以上の労働力人口に占める完全失業者の割合です。働く意欲のある人のうち,職に就いておらず,せっせと職探しをしている人が何パーセントかです。出所は,ILOの統計データベースで,「Unemployment rate sex and age (%) - annual」という表にて,各国の男性の失業率の長期推移を,国別に呼び出せます。

 自殺率は,人口10万人あたりの年間自殺者数です。ソースは,WHOの「Mortality Database」で,「Self-inflicted injuries」という死因による死亡者数が,10万人あたりの人数に換算された数値が出ています。

 私はこの2つの資料から,男性の失業率と自殺率の推移を,国別に明らかにしました。観察期間は,1990~2020年の30年間です。日本とスペインについて,採取したデータを漏れなく示すと以下のようになります。


 黄色マークは観察期間中の最大値,青色は最小値です。日本の失業率は低く,30年間であまり動いていませんが,自殺率は変化の幅が大きくなっています(20.4~36.5)。対してスペインは,失業率は大きく揺れ動いているものの,自殺率はほぼフラットです。

 しかしスペインは失業率がメチャ高で,2桁はデフォルト。それでも自殺率は日本よりだいぶ低し。2つの国のコントラストが浮き出ています。

 上記の30年間のデータをもとに,男性の失業率と自殺率の相関関係をみてみます。下図は横軸に失業率,縦軸に自殺率をとった座標上に,各年のドットをプロットした散布図です。赤色は日本,青色はスペインです。


 日本は,失業率が高い年ほど自殺率も高いという,明瞭なプラスの相関関係がみられます。対してスペインは無相関。失業率は大きく揺れ動いているにもかかわらず,自殺率はほぼフラットです。

 両軸が因果の関係にあるとは限りませんが,「失業⇒生活苦⇒自殺」という経路を想定するのは容易いでしょう。日本は,それが非常に強い社会のようです。

 上記は2つの国の比較ですが,分析対象の国をもう少し増やしてみましょう。欧米主要国について,最初の表と同じようなデータをそろえ,相関係数を算出しました。8か国の相関係数を棒グラフにすると,以下のようになります。ツイッターで発信したグラフはこれです。

 瑞典はスウェーデン,西はスペインです。


 主要国の比較ですが,どうでしょうか。失業と自殺が強く関連する社会もあれば,そうでない社会もある。数としては後者が多く,日本の特異性が際立ちます。全世界でみても,失業が最も重くのしかかる社会ではないでしょうか。

 背景として,大きく3つが考えられるでしょう。一つは,日本男性の生活が仕事一辺倒になっていること。自我の拠り所にもなっていて,それを失うことのダメージは計り知れない。日ごろから家庭や地域での暮らしをないがしろにしているので,職場に代わる,自我を安定させるための集団も見いだせない。

 2つ目は,社会保障が不備であること。中高年男性が失職した場合,再就職が容易でなく,貯金がない,頼れる親族がいないという場合でも,生活保護を受けるのも難しい。上のグラフをみると,フランスでは相関係数がマイナスにふれていて,失業率が高い時期ほど自殺率が低い,という傾向すらあります。失業保険が手厚く,若者もガンガン生活保護を受けると聞きますが,そういう要因でしょうか。

 最後は,性役割分業です。日本は「男は仕事,女は家庭」という性役割分業が強く,女性に家事や育児・介護等の負荷がかかる一方で,男性には「一家の稼ぎ手」という役割が強く期待されます。それを遂行できないと,一家が直ちに生活苦に陥り,周囲からの目線も厳しく,当人も自責の念にかられ,最悪の結果になってしまう。

 簡単に言えば,生活(役割)の偏り,社会保障の不備,ということです。これには国ごとの濃淡がありますが,日本は際立って「濃」であることが,失業と自殺の相関関係から知られます。

 日本社会の「病」。治療の余地は大ありです。

2023年7月24日月曜日

フリーランスの時給分布

  2022年の『就業構造基本調査』の結果が出ました。

 働く人の稼ぎを知るならコレです。厚労省の『賃金構造基本統計』や,国税庁の『民間給与実態調査』は,一定規模以上の会社に勤める雇用労働者に限定されますが,『就業構造基本調査』では,自営等も含む全ての労働者の稼ぎを知れます。

 5年に1回実施される調査で,集計の仕方も年々改善されてきています。2022年調査では,従業地位のカテゴリーとして「フリーランス」が新設されています。フリーランスの働き方をしている人が増えているためでしょう。

 従業地位と年収のクロス表により,フリーランスの稼ぎをみてみると,まあ低いこと。かといって,労働時間が短いわけではありません。経験者は分かるかと思いますが,フリーランスの場合,仕事時間に際限がなくなりがちです。

 時間給にすると,まあ悲惨なデータが出てくるだろうと前々から思っていましたが,2022年の『就業構造基本調査』のデータが出たのを機に,数値化をしてみようと思います。使うのは,「年間就業日数 × 週間就業時間 × 年収」の3重クロス表です。

 3つの変数のカテゴリーは,以下のようになっています。


 年間就業日数は3カテゴリー,週間就業時間は14カテゴリー,年収は16のカテゴリーとなっています。よって3つの変数のクロス表は,3×14×16=672のセルからなります。

 年間260日・週42時間就業,年収630万円の普通のサラリーマンは,上記の赤字をかけ合わせたセルに入ることになります。このセルに入る人たちの時間給を,階級値(真ん中の値)を使って計算します。年間就業日数は275日,週の就業時間は42.5時間,年収は650万円と一律にみなすわけです。

 この仮定をおくと,1日あたりの就業時間は,週の就業時間(42.5時間)を5日で割って8.5時間。年間の就業時間は,8.5時間×275日=2337.5時間となります。年収650万円をこれで割って,時間給は2781円となる次第です。まあ,まともな会社の正社員ならこんなものでしょうね。

 他のセルについても,同じやり方で時間給を算出し,672のセルを全部埋めた時給表をつくります。それを参照し,各セルに入っている労働者の数を,時給の度数分布表に割振って時間給の分布を出す,という段取りです。

 いささか乱暴ではありますが,私はこの方法にて,正規職員,非正規職員,フリーランスの時給分布を出しました。年間200日以上の規則的就業をしている者で,時給を出せたのは正規職員が3261万人,非正規職員が1049万人,フリーランスが115万人です。

 完成した分布表は以下になります。昨日,ツイッターで発信したものです。


 3つのグループでは,分布がかなり異なっています。非正規とフリーランスは,低い方のボリュームが多く,時給1000円未満の率は,正規が10.5%であるのに対し,非正規は41.6%,フリーランスは38.8%です。

 フリーランスでは,最も低い500円未満が18.8%と最も多くなっています。ほぼ5人に1人が,超悲惨な働き方をしていると。仕事時間が際限なく長くなりがちな一方で,もらえる対価が少ないためです。

 なお,性別のデータも出せます。予想通り,男性より女性の分布が下に偏しているのですが,フリーランスにあってはそれが顕著です。男性フリーランス89万人,女性フリーランス26万人の時給分布を出し,グラフにすると,以下のようになります。


 フリーランスの時給ピラミッドですが,いかがでしょうか。分布の棒を男女で塗り分けると,女性フリーランスにあっては,時給の最下層が多いことが分かります。全体の33.8%,3人に1人が時給500円未満です。

 報酬の不当な減額,さらには不払いなんてのもあるでしょう。時給500円未満が最多,まったくもって目も当てられません。

 その一方で高収入の人もいて,フリーランスでは「上」と「下」に割れている度合いが高いのも特徴といえます。

 これからは,組織に属さない「個」の働き方が増えてくる,今のままではいけないと,フリーランス保護法なるものもできていますが,2022年の実態はこうです。文書での発注義務,一方的な報酬減額禁止など,法律の遵守を国としても徹底させないといけません。

2022年12月21日水曜日

都道府県別の大学進学率(2022年春)

  久々のブログ更新になります。今年の『学校基本調査』の確報結果が出ましたので,今年春の都道府県別の大学進学率を計算してみようと思います。

 文科省『学校基本調査』の年次統計をみると,今年春の大学進学率は56.6%と報告されています(コチラの表9)。おそらく,この数字の意味を正しく理解している人はごくわずかでしょう。大学進学率とは,同世代の中で大学に進学した人が何%かです。単純なようですが,計算の仕方はちょっと混み入っています。分子,分母を順に説明します。

 まず分子には,今年春の4年制大学入学者数を充てます(以下,4年制大学を大学と言います)。今年春の大学入学者は63万5156人(A)。

 分母は,今年春の推定18歳人口を使います。高校卒業者としたいところですが,同世代の中には高校に行かない人もいますので,これはNG。そこで3年前の①中学校卒業者,②中等教育前期課程卒業者,③義務教育学校卒業者の合算を使います。3年経った今年春の推定18歳人口と見立てるわけです。

 3年前(2019年)の『学校基本調査』によると,①は111万2083人,②は5346人,③は3856人。これらを合算し,今年春の18歳人口は112万1285人(B)と見積もられます。

 これで分子のA,分母のBが得られましたので,2022年春の18歳人口ベースの大学進学率は割り算をして,56.6%となる次第です。文科省の報告書に出ている56.6%と合致しますね。分子には過年度卒業生(浪人経由の大学入学者)も含みますが,今年春の現役世代からも,浪人を経由して大学に入る人が同じくらい出ると仮定し,両者が相殺するとみなします。

 以上が,公的に採用されている同世代ベースの大学進学率の計算方法です。今の日本では同世代の56.6%,2人に1人が大学に行く。メディアでよく言われていることですよね。

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 さて,本題はここからです。上記の56.6%は全国の数値ですが,地域別にみると大きな開きがあるであろうことは容易に推測されます。『学校基本調査』の結果概要には大学進学率の全国値しか出てませんが,都道府県別に同じ数値を算出する方法があります。今年春の都道府県別の大学進学率を独自に計算してみましょう。

 私の郷里の鹿児島県を例にします。本日公開された『学校基本調査』(高等教育機関編)に,大学入学者の数を,出身高校の所在地別に知れる統計表が出ています(コチラの表16)。これによると,今年春の大学入学者のうち,鹿児島県の高校出身者は6521人(過年度卒業生含む)。これが分子です。

 分母には,今年春の同県の推定18歳人口を充てるわけですが,3年前(2019年)の鹿児島県の中学校卒業者,中等教育前期課程卒業者,義務教育学校卒業者の合計は1万5445人。これが分母です。

 よって,今年春の鹿児島県の18歳人口ベースの大学進学率は,6521/1万5445=42.2%となります。先ほどみた全国値(56.6%)よりだいぶ低いですね。

 このやり方で,今年春の47都道府県の大学進学率を計算してみました。ジェンダー差もみたいので,男子と女子に分けた進学率も出しました。以下に掲げるのは,結果の一覧です。このデータは文科省の資料に出ているものではなく,私が独自に計算したものであることを申し添えます。


 黄色マークは最高値,青色マークは最低値です。最高は東京の76.8%,最低は秋田の39.6%となっています。40ポイント近い開きです。

 全国値は56.6%,「今では,同世代の2人に1人が大学に行く」なんて言われますが,50%を超えるのは24県,全都道府県の半分です。大学進学率が8割近い東京にいると,中学の同級生のほとんどが大学に行くなんて思いがちですが,地域別にみると,そうではない県のほうが多し。これが意味するところは,大学進学チャンスには大きな地域格差がある,ということです。

 「大学進学率の都道府県差は,各県の生徒の自発的な進路選択の結果だ」などと考える,おめでたい人はいないでしょう。一番低い秋田は,子どもの学力上位常連県ですよね。同じく学テ上位常連の北陸3県の大学進学率も高い方ではありません。大学進学率が低い県が,表の上と下,東北や九州に多いのも気になる。

 家庭の所得水準が低い,自宅から通える大学が少ない…。能力や意向とは違う,各県の社会経済要因に由来するであろうことは容易に推測できます。たとえば県民所得と絡めてみると,右上がりの傾向がみられます。所得が高い県ほど,大学進学率が高い傾向です。大学の学費は高額ですので,こうした費用負担の要因が関与するというのは道理です。

 親年代の大卒率とは,もっと強く相関しています。2020年の『国勢調査』から,45~54歳の大学・大学院卒率を都道府県別に出すと,東京は42.1%,秋田は15.5%(コチラより算出)。18歳生徒の親御さん年代の大卒率ですが,違いますね。

 全県のデータによる相関図は以下のようになります。


 明瞭なプラスの相関関係です。相関係数は+0.8を越えます。大卒の親は子どもの進学を肯定的にとらえやすい,というのもあるでしょう。ホワイトカラー職に就いている人が多く,大卒学歴の価値を認識している度合いが高いともいえます。

 非大卒の親は,子が「大学に行きたい」と言っても,「高い金出して行かなくても…」と止めてしまいがち。近くに大学がなく,下宿費まで出さないといけないとなったら,なおさらです。

 所得のような費用負担能力だけでなく,こうした文化的要因もあり得る。だいぶ前,東工大が,非大卒の親をもった学生向けの給付奨学金制度を創設すると発表し,注目を集めました。これなどは,保護者のモチベーション格差を埋める手立てと考えられます。

 あと大きいのは,地方では自宅から通える大学が少なく,都市部に出る下宿費もプラスで負担しなければならないことです。バカ高の学費に加え,仕送りの負担も加わる。所得水準が低い地方の家庭にとって,これは重い。東大は女子学生の家賃補助をしていますが,こういう支援も求められるところです。

 他にもいろいろ要因はありますが,ここで出した大学進学率の都道府県差は,社会経済要因の影響を強く被った「格差」としての性格を持つ。この点を押さえていただきたいと思います。本ブログでは,県別の大学進学率を毎年出していて,私が考えるところは述べています。読んでみたいという人は,左上の検索窓で「都道府県 大学進学率」という言葉を入れ,記事を探してみてください。

 最後に1点。最初の表を見てほしいのですが,沖縄県の大学進学率が50%となっています。昨年の43%と比して,かなり伸びています(2021年春の県別大学進学率はコチラ)。消費税の増税分を財源とした,高等教育無償化や給付奨学金制度の効果でしょうか。沖縄県の大学生の給付奨学金利用率は,47都道府県の中で最も高し。

 本日のニューズウィーク記事で書きましたが,奨学金は教育の機会均等に寄与しているのは事実です。問題は貸与型の比重が未だに高いことで,真の機会均等実現の助けとなる,給付型の比重を高めてほしいと願います。

2022年9月12日月曜日

未婚者と有配偶者の死亡率比較(死因別)

  新居に引っ越して,今日で2か月です。1ルームですが,家具の配置を工夫してどうにかしています。狭いだけにエアコンの効きはよく,ガスは都市ガス,そして無料wi-fiの部屋ですので,基礎経費は前居と比して安くなり,助かっています。

 駅チカで,横須賀中央まで15~20分ほどで出れるようになったのもいい。横須賀の名景として知られる馬堀海岸も近くで,毎日,海風に吹かれながら,ここをウォーキングしています。

 このように生活環境はかなり変わりましたが,独り身の自宅仕事は相変わらずで,生活に「他律」というものがなく,気の向くままに暮らしています。食事も「孤食」はもちろん,「固食」にもなりがちで,茶色いメニューが並んだ食卓に向かっては,「いかんなあ」と漏らすこともしばしばです。家族持ちなら,こういうことはないでしょうけどね。

 厚労省の『人口動態統計』をみてみると,私くらいの中年男性の死亡率は,既婚者より未婚者で高くなっています。未婚男子は不健康な食生活になりやすいからでしょうが,細かい死因別の死亡統計を比較してみると,この推測が確からしく思えてきます。

 『人口動態統計』から,主要死因の年間死亡者数を配偶関係別に知ることができます。2020年だと,コチラのサイトの下巻表7です。45~64歳の男女について,未婚者と有配偶者に分けて,主要死因の死亡者数を取り出すと以下のようになります。未婚者とは,一度も結婚したことがない人です。


 男性をみると,死亡者総数は未婚者が2万4624人,有配偶者が2万8258人となっています。後者の方がベース人口の上で多数なのですから,当然といえばそうです。

 しかし死因別にみると,「未婚者 > 有配偶者」のものが多くなっています。肺炎の死亡者は未婚者が750人,有配偶者が288人です。糖尿病や高血圧疾患による死亡者数も,未婚者は有配偶者の場合以上です。ベース人口の差を考慮すると,これらの病で命を落とす確率は,未婚者が有配偶者よりもだいぶ高いことになります。

 女性はこのような差はなく,全ての死因で「未婚者 < 有配偶者」となっています。ベース人口の差を反映しています。どうやら,懸念される「未婚者 > 有配偶者」の差は,とりわけ男性で顕著であるようです。ベース人口で割った死亡率にして,差を浮き彫りにしてみましょう。

 2020年の『国勢調査』によると,同年10月時点の45~64歳男性(日本人)の未婚者は347万3234人,有配偶者は1103万8376人となっています(コチラの統計表)。したがって,トータルの死亡率は以下のようになります。ベース10万人あたりの死亡者数です。

 未婚者=2万4624人/347万3234人=709.0人
 有配偶者=2万8258人/1103万8376人=256.0人

 同じ中高年男性でも,未婚者の死亡率は有配偶者の2.8倍ということになりますね。まあ分かり切ったことですが,死因別にみると,倍率が大きいのが出てきます。上表の各死因の死亡者数を,ベース人口で割った死亡率に換算し,「未婚者/有配偶者」の倍率が高い順に配列すると以下のごとし。


 肺炎による死亡率は未婚者が21.6,有配偶者が2.6。前者は後者の8.3倍です。糖尿病は7.5倍,高血圧は6.8倍,腎不全は6.4倍の開きが出ています。

 肺炎はタバコ,糖尿病は甘いもの,高血圧や腎不全は塩分の摂り過ぎが原因とみられますが,こういう習癖になりやすいのは,食を「他律」されることの少ない未婚者でしょう。とりわけ独り身の男性ではそうです。

 46歳の単身未婚男性の私は,まさに「懸念層」なんですが,思い当たる節は大有りですね。

 ちなみに死亡者(50歳以上)の年齢の中央値を計算してみると,男性の未婚者は69.95歳,有配偶者は81.79歳です。未婚者は既婚者より,12年ほど早死にです。女性では傾向が反対です。上記の死因別のデータをみると,さもありなんですね。

 うーん,年金の恩恵にあまりあずかれそうにないので,保険料を払いたくないなあ。

 命というのは,生活習慣と関連している。逆に言えば,きちんと自分を律することができれば好ましい方向に向くということでもあります。これから「食欲の秋」ですが,頭の片隅に置いておきたいことです。

2022年8月27日土曜日

奨学金利用率の地域差

  米国では,奨学金返済に苦しんでいる人を救うべく,1人あたり1万ドル,借入額をチャラにするそうです。日本円にして120万円くらいでしょうか。私も現在返済中ですが,これをやってくれたらどんなに有難いことかと思います。

 昔に比して大学進学率が上昇し,高等教育の機会が幅広い階層に開かれたといいますが,奨学金という名の借金を負わせることで,それが進められてきたのも事実です。よくないことに,有利子の比重も増しています。

 私の頃は,大学生の奨学金利用率は1割ほどで,ほとんどが無利子だったのですが,今では利用者数が膨れ上がり,無利子より有利子の枠が多くなっています。返済義務のない給付型も創設されましたが,利用者数では貸与型が大半を占めています。

 今の大学生は,どれほど奨学金を利用しているのでしょう。日本学生支援機構のHPに当たってみると,この点の情報は公開されています(コチラです)。2020年度の大学学部学生の給付人員は,給付型が20万2030人,第一種貸与型(無利子)が34万6508人,第二種貸与型(有利子)が53万8880人です。同年5月時点の大学学部学生数は262万3572人(文科省『学校基本調査』)。

 これらの情報を表に整理すると以下のごとし。


 奨学金を利用している大学生は,給付,無利子貸与,有利子貸与の合算でみて108万7418人。複数のタイプを重複利用する学生もいますので,延べ数であることに留意してください。まあ,そういう学生は少数でしょうから,奨学金を使っている学生の頭数の近似数とみてもよいでしょう。

 全学生に占める割合は,41.4%となります。最近では,大学生の4割(5人に2人)が奨学金を使っているのですね。そのうちの半分は,有利子の貸与です。奨学金と呼べた代物ではなく,まぎれもなく「ローン」です。

 学生支援機構のHPでは,47都道府県別の給付人員も公表されています(集計方法は,学校の所在地による)。分母となる全学生数は,『学校基本調査』をみれば分かります。

 私はこれらの情報をもとに,大学学部学生の奨学金利用者率を都道府県別に計算してみました。奨学金を利用している学生(給付,無利子貸与,有利子貸与の合算)が,全学生の何%かです。以下の表は,47都道府県の数値を高い順に並べたものです。


 大学学部学生のうち,奨学金を使っている人が何%かですが,地域差がありますね。最高は沖縄の66.1%,最低は滋賀の17.9%です。滋賀では,自宅から京都の大学に通う学生が多いのでしょうか。

 首都圏でも,奨学金を使っている学生は比較的少なくなっています。自宅から通うことが容易であることもあるでしょう。

 その一方で,奨学金の利用者率が50%を超える県が20あります。私の郷里の鹿児島は53.2%で,沖縄,青森,宮崎は6割超えです。所得水準が低いので,奨学金を借りないと進学が叶いにくいのでしょう。都市部の大学に出た場合は,下宿費用も加算されますしね。

 上表のランキングを眺めていると,各県の所得水準と相関しているように思えますが,どうなのでしょう。2017年の総務省『就業構造基本調査』から,45~54歳(大学生の親年代)の男性有業者の所得分布を県別に出せます(コチラの統計表)。これをもとに中央値を計算すると,東京は633万円ですが,沖縄は332万円。倍近くの差です。

 こういう経済条件の差が,学生の奨学金利用に投影されていないか。横軸に親年代の所得中央値,縦軸に大学生の奨学金利用者率(上表)をとった座標上に,47都道府県のドットを配置すると以下のようになります。


 右下がりの負の相関関係が観察されます。父親年代の所得が低い県ほど,奨学金の利用率が高い傾向です。相関係数は,マイナス0.71861にもなります。

 地方(出身)の学生の奨学金利用率が高い事情は,上に述べたようなことだと思いますが,借金を負わせて(無理をして)進学させてるんだな,という思いを禁じ得ません。

 大学進学率50%超,高等教育のユニバーサル段階に達している日本ですが,(田舎の)学生に借金を負わせることで成り立っていると。地方は所得水準も低いので,卒業後に返していくのも大変です。数百万の借金を背負っていることは,結婚の足かせにもなるでしょう。前から申していますが,奨学金の利用増加は,未婚化・少子化にもつながっていると思うのです。

 高等教育の機会を若者に開くのはいいですが,家計(私費)依存の形でそれを推し進めると,国にとっても個人にとってもよからぬことになる。私費依存の教育拡張の病理です。高等教育への公的支出の対GDP比は,日本は諸外国と比して低いのはよく知られています。真のスカラシップ(給付型)を拡張する余地は大有りです。

 並行して,貸与型の奨学金は「学生ローン」と名称変更すべきです。これだけでも,安易な借り入れを防止することができます。奨学金という美名で釣って借金を負わせるなど,国のすることではありません。実際に勘違いする人もいて,(下の)私大で教えていた時,「奨学金って返すんですか?」と,真顔で驚く学生に会ったことがあります。

 今回は,地域別の大学生の奨学金利用者率を試算してみました。県によっては,大学生の5割,6割が数百万の借金を背負って社会に出ていく事態になっていると。若者が借金漬けになっているような地域では,希望も未来もあったものではありません。

 米国のような奨学金の一部チャラ政策をしてみるのもいい。それで足かせが外れ,婚姻率の上昇にもなればしめたものです。