2019年10月13日日曜日

広島疎開記

 12日に大型の台風19号が関東地方を襲いました。河川沿いで浸水の被害多数と報じられています。被害に遭われた方には,心よりお見舞い申し上げます。

 私は,台風が襲来する11~12日の間,西の広島県に疎開していました。非常食,水,断水時用トイレ等のグッズは揃え,停電対策もぬかりなく行い,自宅で息をひそめて台風が去るのを待とうと思っていたのですが,先日の15号と19号のデカさを比較したニュースをみて,震え上がりました。
https://twitter.com/tmaita77/status/1182309123649503233

 先月9日の午前2時頃に,台風15号が横須賀を直撃したときは,アパートがヨコに揺れました。外に出ようにも出れず,このまま天井が落ちてくるのを待つのかと,非常に怖い思いをしました。これよりもさらにスゴイのがきたら…。いても立ってもいられなくなりました。10日から11日に日付が変わった頃です。

 西に逃れよう。強風圏から外れる岡山以西の宿を探したところ,山陽新幹線の東広島駅前の宿をとれました。11~12日の2泊です。11日のお昼前に生協が届くのを待って,スマホ,貴重品,今書いている本のゲラ,着替えをリュックに詰め込んで出発。新横浜まで出て,東広島までの自由席券を買い,ちょうど滑り込んできた,のぞみの博多行きに飛び乗りました。

 平日の昼間だし座れるだろうと思いましたが,これが甘かった。のぞみの自由席は,16両中3両しかなく,新横浜にきた時点で,立っている乗客が多数。仕方なくデッキの手すりにもたれて,ドアの窓越しに,高速で流れる景色に見入っていました。

 名古屋,京都,新大阪…。降りる乗客は少なく,座ることができません。もう限界だと,岡山でこだまに乗り換えました。こちらはガラガラ。しかし各駅停車で,停まるたびに,のぞみの通過待ちをしますので,結構イライラします。ゆったりできますので,時間のある人にはいいでしょうね。PCを広げて仕事をしているビジネスマンもいました。

 17時40分頃に,目的の東広島駅に到着。広島の一つ手前です。広島入りしたのは,2002年の教育社会学会以来でした。


 台風の強風圏から外れてますので,風はありませんでした。赤い夕空が広がっていたのが印象的です。


 ホテルにチェックインし,岡山まで立ち通しだった足を休めました。夕食は,無料で提供されるカレーライス。近くのセブンで唐揚げ棒を買ってきて,唐揚げカレーにしたら結構美味い。

 ノートパソコンを借りることができなかったので,仕事は断念。11日の夜は,これから来る台風関連のニュースをずっと見ていました。

 いよいよ台風が襲来する12日。テレビでは,朝から関東地方の大変な様子が報じられています。広島は安全ですので,隣の広島市街まで行って観光しようかと思いましたが,風が思いのほか強し。それに,こんな日に遊び惚けるのは不謹慎な気がしたので,宿で過ごすことにしました。

 お金が浮いたので,お昼は,近くの専門店で最高級のお好み焼きとビール。本場の広島のお好み焼きは美味しかった。使われるそばやソースからして違います。

 午後は3時くらいまで昼寝をして,駅で帰りの新幹線の切符(指定席)を買い,夕方からはテレビにくぎ付けです。台風が上陸し,ものすごい豪雨に見舞われている神奈川県の箱根町。横須賀は大丈夫か,自宅のある長井地区は大丈夫かと,スマホで停電状況等もチェックしました。際立った被害があれば,ツイッター上に画像が上がるはずだと,「横須賀 台風」の語で何度も検索をかけましたが,幸いそれは出てきませんでした。

 そうこうしているうちに夜は更け,ぐっすり眠ろうと,缶ビールを3本空け,床につきました。

 翌日の13日。台風が去り,雲一つない青空が広がりました。しかしテレビをつけると,河川氾濫による浸水被害のニュースのオンパレードで,心を痛めました。

 7時45分頃にチェックアウトし,東広島を8時3分に出る新幹線で帰宅開始。福山で東京行きののぞみ号に乗り換え。今度は指定席なんで,ゆっくりできました。新幹線の指定券って520円なんですよね。行きとは全然違う快適さで,窓越しに流れる風景に見入っていました。

 12時14分に新横浜に到着。こちらは,台風一過で気温が上がっていました。横浜線で東神奈川まで行くも,京浜東北線は完全に復旧しておらず,仲木戸駅から京急に乗りました。東神奈川と仲木戸って,すぐ近く,というかほぼつながっているのですね。

 京急もダイヤが大幅に乱れてましたが,普通で横浜まで行き,そこから快特で三崎口まで帰ってこれました。東広島からの所要時間,6時間ジャストです。


 バスでわが町長井まで戻ってきましたが,見渡したところ,目だった傷跡はないようでした。自宅もほぼ無傷。近くのおばさんに「どうでしたか」と尋ねたところ,「こないだと違って,全然大したことなかったよ」という回答。お金と時間を費やした疎開は,空振りでしたが,うれしい空振りです。

 冷蔵庫以外,軒並み外しておいた電気コードをつなぎ,土埃で汚れた玄関,アイホン,表札を拭き,一休み。週末にする予定だった掃除を半分済ませると,もうすっかり夕方。近くの高台から,台風一過の夕日をカメラに収めました。


 ソレイユの丘の観覧車(左下)と,相模湾がお分かりでしょうか。わたしはやっぱりこの地が好きで,帰ってきて落ち着きます。

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 以上,広島への疎開記でした。しかし,台風がくるたびに遠方に疎開していては,お金がもちません。普通は,ヤバいと思ったら地元の学校の体育館等に設けられる避難所に駆け込むのでしょうが,避難所暮らしはどうなのでしょう。とりわけ女性にとっては酷だという話をよく聞きます。
https://twitter.com/mypippichan/status/1183198366546587648

 災害の死亡者(率)は,いつも男性より女性が多いのですが,もしかすると,女性は避難所を忌避しがちであるからか…。トイレは少なく,盗難や性犯罪の被害と背中合わせ。自宅も危険なら,避難所の体育館も同じくらい危険といえるかもしれません。女性にとっては。

 私としても,盗難の被害は怖い。アパートが潰れた時に困るので,貴重品は全部持っていくことになるでしょうが,その管理をどうするか。貴重品を入れた巾着袋は服の中に入れるか,触れたらブザーが鳴る仕掛けにするか…。いろいろ策を凝らさないといけません。

 ツイッターで,災害避難所の国際比較が流れてきたことがありますが,海外では,全然違うのですよね。仕切り,プライバシーの確保…。災害大国の日本が追随する余地,大有りです。

 どんな時も命を守るのが先決。大きな台風がくると分かった時点で,疎開者が安く泊まれる素泊まりの宿が各地でたくさん用意されるといいと思います。災害が予測される土地からは事前に離れる。しごく当然のことです。

2019年10月6日日曜日

能力よりもジェンダーがモノをいう国

 「学力が収入に直結する社会 家の蔵書量が多いほど高学歴が多い」という記事を見かけました。
https://www.moneypost.jp/587237

 紹介されているのは,子ども期に家の蔵書量が多かった群ほど,高学歴の率が高いというデータです。早稲田大学の橋本健二教授が,SSM調査のデータから導かれたものです。橋本先生は以前,練馬の武蔵大学におられ,お招きを受け,2013年度の後期に「不平等の社会学」を担当させていただいたことが思い出されます。

 蔵書という文化資本が多い家庭で育った子は,学力が高くなり,高学歴を得て,高収入の職業(地位)に就ける。分かりやすい因果経路です。塾通い等の費用を賄えるかという経済資本(家庭の所得)に注目されることが多いですが,子どもの認知面の学力に影響するのは,経済資本よりも文化資本であると思われます。

 ところで,私が関心を持ったのは上記記事タイトルの前段です。「学力が収入に直結する社会」。これも誰もがピンとくることですが,データで可視化されているのを見たことはないですね。

 ホワイトカラー労働が増えている現在では,認知面の学力が職務遂行能力と近似する度合いが高まっており,学力と収入の相関関係は,当人の能力がモノをいう「メリトクラシー」の度合いを見て取るメルクマールであるといえます。

 この2変数の相関関係は,OECDの国際成人学力調査「PIAAC 2012」から明らかにできます。調査対象の16~65歳の成人を,数学的思考力の習熟度レベルに依拠して3つのグループに分け,現在年収の分布を比較してみます。

 数学の習熟度に基づくグループ分けですが,日本のサンプルの分布をみるに,レベル3未満を「低群」,レベル3を「中群」,レベル4~5を「高群」と括ると,量的にバランスがよくなります。

 このやり方で日本の成人有業者を3群に分け,年収の分布をとってみます。年収には性別(ジェンダー)が強く影響しますので,この変数は統制したほうがいいでしょう。下図は,男性と女性に分けて,数学学力と年収のクロス分析をした結果です。下記サイトのリモート集計から導きました。
https://nces.ed.gov/surveys/international/ide/


 数学学力が高い群ほど,年収が高い傾向にあります。年収は「有業者全体の中でどのくらいの位置と思うか」という問いに答える自己評定ですが,参考にはなるでしょう。

 男女とも,きれいな右下がりの模様が描かれており,ハイタレントの人ほど稼ぎが多いという,メリトクラシーの社会になってはいるようです。厳密にいえば,横軸の学力とて,育った家庭環境といった生得要因の影響を受けていますので,100%そうとはいえませんが…。

 それにグラフを見てみると,稼ぎを規定する要因は,当人の学力だけではないことが知られます。女性では学力レベルに関係なく,青色のプア(下位25%未満)が幅を利かせています。

 よく見ると,女性の高学力グループ(右端)よりも,男性の低学力グループ(左端)のほうが,収入が高いではありませんか。年収上位25%以上の人(稼ぐ人)の割合は,前者では19%ですが,後者では26%となっています。

 女性の場合,家計補助のパート勤務が多いからでしょう。正社員であっても,収入の高いポジションは男性に占有されがちです。女性のハイタレントが浪費されているんだなあ,という感想を抱くのはあまりにも容易い。

 女性の高学力群は,男性の低学力群よりも稼ぎが少ない。これが日本の現実なんですが,こういう社会って他にあるんでしょうか。「PIAAC 2012」は国際調査なんで,他国のデータも作れます。各国のサンプルからこの両群を取り出し,年収が上位25%以上の人の率を計算しました。下表は,データが得られた21か国の中での対比です。


 稼ぎが多い人の出現率ですが,前述の通り,日本の女性の高学力群ではが19%,男性の低学力群では26%です。前者から後者を引いた値はマイナスになります。

 表を見ると,学力の高い女性の稼ぎがそうでない男性より低い国って,日本,韓国,スロバキアの3国だけのようです。アメリカでは,女性高学力群の数値が男性低学力群より21ポイントも高くなっています。実力主義のお国柄ですね。「ジェンダー < 能力」です。

 国際的にみればこれがスタンダードで,日本は遺憾ながら,それから最も隔たった国であるようです。そういえば,日本の高学歴マザーのフルタイム就業率は,宗教的な統制の強い中東諸国と同レベルなんでした。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/11/post-8805.php

 また,「PIAAC 2012」のデータで検討してみると,日本の生産年齢女性では,フルタイム就業者よりも専業主婦の学力平均点が高いのです。統計的に有意ではないもの,他国には類を見ない独特の傾向です。

 女性のハイタレントが眠ってしまう国。地方の優秀な女子高生が大学に進学できない,という事実もあります。要因を挙げたらキリがないですが,まずなすべきは,女性がフルタイム就業しやすい環境を作ること。増税で得られた財源は,保育士の待遇改善に充て,保育所の受け入れ枠を増やすべきでした。この点は,何度でも申しておきたいと思います。

2019年10月4日金曜日

『特別支援学校らくらくマスター』(2021年度版)

 実務教育出版より,『特別支援学校らくらくマスター』『小学校全科らくらくマスター』の出来本が届きました。来年夏実施の2021年度採用試験に向けて使っていただくものです。10月8日ころ,発売の予定です。


 両方とも,最新の出題傾向に合わせて毎年刊行していますが,特別支援学校のほうは大幅リライトしています。過去5年間の典型過去問を取り寄せ,仕分けし,章やテーマの構成をかなり変えました。

 特別支援学校とは,障害のある子どもの教育を行う学校のことです。2006年までは,養護学校,聾学校,盲学校というように分かれていましたが,2007年度から特別支援学校に一本化されています。障害のある子どもの教育の名称が,特殊教育から特別支援教育に変わったことも注目。障害児は特殊なのではなく,特別のニーズを持つだけの存在です。

 特別支援教育は,通常の学校でも行われます。その主な場は特別支援学級で,軽度の障害のある子どもは,通常の学級に籍を置きつつ,週に何時間か特別の指導を受ける「通級による指導」の対象になります。

 上記の書物は,特別支援学校の教員志望者向けのものですが,通常学校の教員を志す学生さんにも役立つかと思います。小・中・高校にも,特別な支援を要する子はいますので。たとえば,発達障害の子などです。

 最新の『特別支援学校らくらくマスター』は,①特別支援教育の基礎,②特別支援学校,③障害の理解,④障害の診断・検査,⑤時事事項,の5つの章からなります。この5つの章立ての下,合計62の小テーマを盛り込んでいます。


 上記は,最初のテーマ1です。文科省の公的資料をもとに,特別支援教育とは何ぞやを解説しています。重要語句を赤字にし,フィルムで隠した暗記学習ができるようにしています。実際の試験で出る空欄補充問題さながらの学習が可能です。

 お堅い公的資料の原文の紹介がメインになるのはやむを得ないですが,図や表組の整理も多用し,トーンが単調にならないよう工夫を凝らしています。以下は,障害児教育史の重要人物のまとめです。


 既に勉強を始めている方はお分かりでしょうが,特別支援学校の試験では,障害の医学的な事項が出題されます。網膜色素変性といった病名を選択肢なしで書かせる,オージオグラムから平均聴力を計算させる,日常用語を点字で表記させるなど,難易度の高い問題がガンガン出題されます。

 一番の難関はココで,頭を抱えている受験生が多いでしょうが,過去問を眺めてみると,出題元の資料はほぼ決まっています。文科省の『教育支援資料』(2013年)です。問題を作成する側も,医学のプロではないので,こういう資料に頼らざるを得ないようです。出題ミスも怖いですし…。
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/tokubetu/material/1340250.htm

 上記のリンク先から現物に飛んでみると,視覚障害,聴覚障害,知的障害,肢体不自由といった障害種ごとに,障害の概要や指導方法について詳述しています。『特別支援学校らくらくマスター』では,この公的資料をもとに,障害の概要,求められる合理的配慮,ならびに指導方法の3本立てで整理しています。以下は,視覚障害の概要の部分です。


 私なりに原資料の内容を咀嚼したうえで,内容の配列や盛り方を工夫しています。手前味噌ですが,本書の「障害の理解」のチャプターをきちんと押さえれば,障害の医学事項の問題の8割は正答できるかと思います。赤字をフィルムで隠したドリル学習を反復しましょう。難解な医学書を紐解く必要はないです。

 教員採用試験の本は他社からも多数出ていますが,特別支援学校の試験対策用は,片手の指で数えるほどしか出ていません。この分野の執筆を担当できる人がいないのでしょうか。

 『特別支援学校らくらくマスター』は,その少数の本の中でも,一番売れているようです。アマゾンで「教員採用試験 特別支援学校」で検索すると,最上位のおススメ本として出てきます。


 試験を受験する学生さんだけでなく,特別支援学校の現職の先生にも使っていただいているようでありがたや。ある特別支援学校の教頭先生からは,「内容がコンパクトにまとまっており,毎年,研修のテキストとして使わせてもらっています」という,ありがたいメッセージもいただきました。

 現在は,インクルージョンの時代です。障害のある子の教育を担う特別支援学校の教員,特別支援教育の素養を身に付けた人材への需要は,ますます高まるはずです。教員採用試験の受験者だけでなく,障害児教育の全般を幅広く学びたいという全ての方に,本書を手にとっていただきたく存じます。

 実は私の亡き母は,晩年は重度のリウマチで寝たきりの状態でした。身体障害者手帳の1級も取得していました。私が本書の執筆を引き受けたのは,こういう身の上もあってのことです。

2019年10月2日水曜日

首都圏211区市町村の年収中央値

 2018年の総務省『住宅土地統計』の結果が公表されました。字のごとく住宅や土地に関わる官庁統計ですが,世帯の年収分布を知れるのがウリです。

 そんなの『就業構造基本調査』でも分かるじゃんと言われるでしょうが,『住宅土地統計』では,都道府県よりも下った区市町村別のデータを得ることができます。

 富の地域格差を露わにするのは,私の主な仕事の一つなんですが,都道府県という括りはいかにも大きい。東京都内でもエリアによる差はありますし,私の郷里の鹿児島では,鹿児島市と離島部ではこれまたえらい違いがあります。

 このほど公開された『住宅土地統計』のデータをもとに,首都圏(1都3県)の区市町村別の年収比較をしようと思い立ちました。古いデータで同じ作業を手掛けたことがありますが,ここでは「夫婦+子」の核家族世帯に限定します。各自治体の関係者に,子育て年代の懐具合を知ってもらいたく思います。

 また年収分布の代表値としては,平均値ではなく中央値(median)を使います。全世帯を年収順に並べた時,ちょうど真ん中のくる世帯の年収です。当該自治体のフツーの世帯の年収を知るにはこれがベスト。

 各地域の年収分布から中央値を計算します。私が住んでいる横須賀市を例に,説明しましょう。


 区市町村別・世帯類型別となると,年収階層の区分が粗くなりますが,これは致し方ありません。横須賀市の場合,真ん中が厚いノーマル分布となっています。最も多いのは年収500~600万円台の階級で,累積%が50ジャストの中央値も,この階級に含まれることが知られます。

 按分比例を使って,中央値を割り出しましょう。本ブログを長く見ている方は,もう慣れっこですよね。

 按分比=(50.0-35.4)/(63.3-35.4)=0.523
 中央値=500万円+(200万円 × 0.523)=604.6万円

 横須賀市の核家族世帯(≒子育て世帯)の年収中央値は605万円と出ました。一番上の子が小・中学生の世帯なら,こんな所でしょうか。

 上記の統計資料から,首都圏211区市町村の核家族世帯の年収分布を呼び出せます。私は同じやり方にて,211区市町村の年収中央値を計算しました。平均値なら計算式が一律なんで一発なんですが,中央値は結構手間がかかりました…。

 211区市町村の値をみると,幅広く分布しています。以下に掲げるのは,3つの階級を設けて塗り分けたマップです。


 予想通り,東京の都心部で高年収のエリアになっています。核家族世帯の年収中央値が800万円を越えるのは12の自治体ですが,そのほとんどが都内23区です。

 川崎市の中原区も濃い色ですが,朝の超混雑で有名な武蔵小杉駅がある区ですね。タワマンが雨後の筍のごとく建っているエリアですが,お金のある世帯を引き寄せているのでしょう。

 先ほど出した横須賀市の中央値は605万円なんですが,600万円台の自治体の数は多し(薄い青色)。この階級の下のほうってことは,首都圏の全区市町村の「中よりちょっと下」という位置でしょうか。

 「地図だけでは分からない。自分の自治体の値と,全体の中での位置を知りたい」。こういう要望があるはず。上述のとおり,本記事の狙いは「各自治体の関係者に,子育て年代の懐具合を知って」いただくことです。資料の意味合いをこめ,211区市町村の核家族世帯の年収中央値をご覧に入れましょう。

 高い順に配列したランキングの形で見ていただきます。100万円ごとに区切りの線を引いています。


 首位は千代田区の1160万円,2位は中央区の925万円,3位は港区の923万円となっています。スゴイですね,中央値でこれです。年収600万円ちょい(横須賀市の中央値)では,ちょっとばかり疎外感を抱きそうです。

 年収中央値800万円超の顔ぶれをみると,さもありなんという感じです。文化人の街,東京の武蔵野市もランクイン。

 黄色マークは,私が住んだことのあるエリアです。母校の学芸大がある小金井市は768万円で,住民の富裕度が高い部類です。私は北門近くの安アパートに住んでましたが,ちょっと自転車を走らせると,目を見張るような高級住宅地でした。

 前に住んでいた多摩市は668万円ですか。ジブリ「耳をすませば」のモデル地,聖蹟桜が丘のいろは坂の上は,ブルジョアエリアになっています。聖地巡礼したことがある人はお分かりでしょう。

 言わずもがな,各地域の住民の富裕レベルは,子どもの教育達成と強くリンクしています。都内23区のデータで,学力テストの成績との相関分析をやったことがありますが,それはもうスゴイ相関でした。
https://tmaita77.blogspot.com/2014/07/23.html

 学力テストの結果を評価するにあたっては,各地域の社会経済条件を勘案することも必要です。不利な条件にあるにもかかわらず,高い地域を出している,がんばっている地域の教員を称えましょう。ここでお見せしたデータは,こういう用途に使ってほしいです。

 今回は中央値をお見せしましたが,下位10%値を出せば,就学援助を基準を設定するのにも使えるのではないでしょうか。同じように按分比例を使うことで,度数分布表から割り出せます。

 今回のデータの元としたのは,2018年の『住宅土地統計』の「家族類型(8区分),世帯の年間収入階級(6区分),住宅の所有の関係(2区分)別普通世帯数-全国,都道府県,市区町村」という統計表です。
https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003355489

 ダイレクトに飛べるリンクも張っておきます。政策に活かすべく,官庁統計という公共財を大いに利用しましょう。

2019年9月30日月曜日

2019年9月の教員不祥事報道

 ニュースをみると,明日から増税スタート,保育無償化スタートとあります。今日は9月の末日でした。教員不祥事報道の整理の日です。

 今月,私がネット上でキャッチした不祥事報道は39件です。今月は,校長や教頭といった管理職の不祥事が目につきます。新潟の小学校校長の男子高校生買春事件は,世間を震撼させました。

 兵庫県の小学校教諭が,林間学校で就寝中の女子児童4人にわいせつ行為を働いたのもショッキング。こういう人がいるから,養護教諭に男性は宛てられないと言われるのだなあ,と思ってしまいます。

 小学校教頭がツイッターで差別発言を繰り返していた事案。匿名であってもバレます。先生方にはSNSで情報収集したり,ご自身の実践を発信したりしていただきたいですが,使い方には気を付けましょう。近年の教員採用試験では,情報モラルについて問われる頻度が増しています。

 明日から10月です。過ごしやすくなってきました。背景を秋晴れ模様に変えます。

<2019年9月の教員不祥事報道>
・リサイクルショップで値札付け替え、小学校教諭逮捕
 (9/1,日刊スポーツ,山梨,小,男,45)
・17歳といかがわしい行為の疑い50歳中学教諭逮捕
 (9/2,日刊スポーツ,北海道,中,男,50)
・女子高生の胸、わしづかみ容疑 中学教諭逮捕
 (9/3,京都新聞,京都,中,男,30)
・少女にみだらな行為 私立高校教諭の男を逮捕
 (9/3,MBC,鹿児島,高,男,25)
・「もう片方も聞こえなくするぞ」剣道部顧問 生徒にけが
 (9/3,NHK,岐阜,中,男,31)
・県立高校教諭が懲戒免職(9/3,NHK,熊本,高,男,43)
・幼稚園教諭の女を現行犯で逮捕 横断歩道で車にはねられ女性死亡
 (9/4,FNN,福島,幼,女,51)
・女子生徒の太もも触り停職処分 県立高校男性教諭
 (9/5,テレビ神奈川,神奈川,高,男)
高校教諭がみだらな行為疑い逮捕(9/6,NHK,福島,高,男,45)
・中学教諭が酒気帯び運転で懲戒免職 部活動後の懇親会で飲酒
 (9/6,瀬戸内海放送,岡山,中,男,36)
小学校長が置引の疑い 自宅謹慎、書類送検へ 
 (9/6,サンスポ,埼玉,小,男)
・盛岡工業の副校長酒気帯び検挙(9/7,NHK,岩手,高,男,51)
・名古屋市の中学教諭が地下鉄駅の階段で盗撮して逮捕される
 (9/7,CBC,愛知,中,男,28)
・体罰で中学校教諭を減給処分(9/9,NHK,北海道,中,男,40代)
・過去に体罰の中学女性教諭、再び生徒を平手打ち 小学校男性教諭は同僚女性にセクハラ(9/10,神戸新聞,兵庫,体罰:中女42,セクハラ:小男30代)
・飲酒運転 教員を任意で捜査(9/10,NHK,岩手,小,男,50代)
・生徒に頭突きや殴打 中学教諭を懲戒処分
 (9/10,北海道放送,北海道,中,男,40代)
・日南の中学校で教諭が体罰(9/11,NHK,宮崎,中,男,30代)
・相次ぐ教職員の酒気帯び運転 小学校教諭また摘発
 (9/12,岩手放送,岩手,小,男,53)
・群馬県教委、60歳中学教諭を懲戒免職 女子生徒の体触るわいせつ行為で
 (9/17,産経,群馬,中,男,60)
・小学校金庫から窃盗疑い教諭逮捕(9/17,NHK,奈良,小,男,25)
・47歳の県立高校教諭 酒気帯び運転で懲戒免職
 (9/18,テレビ山梨,山梨,高,男,47)
・越地方の小学校男性教諭が体罰 児童にバインダー投げ懲戒処分
 (9/18,上越妙高タウン情報,新潟,小,男,30代)
男子高校生を買春か 新潟の小学校校長ら2人を逮捕
 (9/18,共同通信,新潟,小,男,58)
・生徒の頭たたいた教諭ら懲戒処分
 (9/18,NHK,岐阜,高,男性53歳,62歳)
・高3女子を買春、逮捕の小学校教諭 横浜市教委が懲戒免職
 (9/19,神奈川新聞,神奈川,小,男,31)
・生徒と不適切行為 教諭懲戒免職(9/19,NHK,北海道,特,男,41)
・あわや大事故…酒気帯びで衝突、中学教諭を逮捕 アルコール5倍
 (9/20,沖縄タイムス,沖縄,中,男,41)
・女性教諭、2歳園児の腕にフォーク先端を押し当てる
 (9/21,読売,鹿児島,幼,女)
林間学校で女児4人に強制わいせつ容疑 小学校教諭逮捕
 (9/23,朝日,兵庫,小,男,32)
・勤務先の女子生徒にわいせつ行為か 県教委が中学校男性教諭を懲戒免職
 (9/24,サンテレビ,兵庫,中,男,20代)
・仙台市立中学校の男性教師が生徒らに「死刑」発言
 (9/25,東日本放送,宮城,中,男)
・教材費を横領 高校講師懲戒免職(9/25,NHK,茨城,高,男,36)
・「ローン返済滞り」修学旅行の積立金盗む 小学校教諭免職
 (9/27,神奈川新聞,神奈川,小,男,29)
・小学校教頭が酒気帯び運転 「酒が残っているとは考えていなかった」
 (9/27,琉球新報,沖縄,小,男,56)
・特別支援学校教員が個人情報紛失(9/28,NHK,大分,特,男,50代)
小学校教頭が蔑称ツイート、2011年ごろから繰り返す「軽率だった」
 (9/30,共同通信,北海道,小,男,50代)
泥酔状態で建造物侵入、容疑で小学教諭を逮捕
 (9/30,毎日,静岡,小,男,30)
中学校教諭が酒気帯び運転で懲免(9/30,NHK,青森,中,男,40)

2019年9月29日日曜日

女性のフルタイム就業率と出生率の相関

 首都の東京では出生率が上がっているのですが,都内の地域別にみるとトレンドは一様ではありません。都内23区でみると,出生率が上がっている区があれば,その逆の区もある。前者には,都心の区が多くなっています。

 前回の記事で明らかにしたことですが,「子育てに専念できる,リッチな主婦世帯が多いからだろ」という意見がありました。確かに富裕層が多いエリアですが,そうなんでしょうか。

 私は都内23区別に,子育て期の有配偶女性のフルタイム就業率を計算してみました。25~44歳の有配偶女性のうち,労働力状態が「主に仕事」の人のパーセンテージです。労働力状態が不詳の人は分母から除きます。資料は,2015年の『国勢調査』です。

 下表は,高い順に23区を並べたものです。加えて,出生率のランキングも明らかにしました。人口当たりの粗出生率ではなく,出産年齢の有配偶女性ベースの出生率です。2015年の出生児数を,25~44歳の有配偶女性数で割って出しました。分子は『東京都統計年鑑』(2015年),分母は上記と同じく『国勢調査』(2015年)から得た数値です。


 既婚女性のフルタイム就業率が最も高いのは,中央区ではないですか。港区は順位は下のほうですが,率は42.2%と23区の平均値よりは高くなっています。タワマンひしめくエリアで,優雅な主婦世帯が多いというのではなさそうです。

 これらの区は所得水準が高いのですが,2馬力の共働き世帯が多いからでしょう。夫婦とも稼ぎが多い,パワーカップルも多いものと推測されます。

 前回もみたところですが,これらの区の出生率は高し。港区は首位,中央区は3位です。この出生率は,出産年齢の既婚女性をベースにしたものであり,都心部には子育てファミリーが多い,という類の事情は除かれています。

 上表のデータをもとに,2つの変数の相関図を描くと以下のようになります。


 出産・子育て期の既婚女性のフルタイム就業率と出生率は,有意なプラスの相関関係にあります。地域単位のデータですが,「働く女性が増えると出生率が下がる」なんてどの口が言った,という感じですね。

 出産・育児にはお金がかかりますが,二馬力でガシガシ稼ぐ世帯が多い区で出生率が高いというのは,まあ理に適っています。ちなみに大阪市の24区のデータでも,同じ傾向が検出されます。
https://twitter.com/tmaita77/status/1177530453709881346

 来月から保育の無償化政策が始まりますが,認可園に入りやすいのは,夫婦とも正社員の世帯なり。首尾よくわが子を保育園に入れたら費用はタダ,それで余裕ができて更なる出産ができる…。こういう構図が強まるかもしれません。

 保育の無償化政策は「富裕層の優遇だ」という声がありますが,具体的にはこういうこと。これが進んだら,出産と経済力のリンクがますます強まることになります。意図せざる結果,政策の逆機能です。

 政府としては,費用負担を軽減することで出産増を狙っているのでしょうが,保育所の定員枠は手付かずのまま。入園競争は以前よりも激化し,入れた世帯と落ちた世帯の落差も大きくなります。この政策は,子持ちの世帯を分断(separate)して,政府への反旗を抑えようという意図でもあるのかと,勘ぐりたくもなります。

 何度も申していますが,無償にしても入れなければどうしようもないのです。

 増税で得られた財源は,保育園の入所枠を増やすことに使うべきでした。具体的には,保育士の待遇改善です。予想ですが,保育の無償化政策は,直ちに機能不全(逆機能)を露呈することでしょう。舵の転換を考えていただきたいと思います。

2019年9月27日金曜日

都内23区の出生率の変化

 ちょっと涼しくなってきました。おかげで,金曜の夕方にソレイユの丘の温浴施設,週末のお昼に長井水産という「お楽しみ」が復活できそうです。

 少子化が加速度的に進んでいますが,首都の東京,それも都心部ではそんなもの「どこ吹く風」。子どもが増え続け,地元の学校は悲鳴を上げています。タワマン効果もあってか,子育てファミリーがどっと流れ込んでいるからです。

 これは社会増ですが,自然増もあるみたいです。出生率(人口千人あたりの出生数)をみると,湾岸の中央区では,2002年では8.5であったのが,2017年では13.1に増えています。15年間で4.6ポイントの増加です(東京都の統計資料)。

 隣接する千代田区と港区も,同じ期間にかけて出生率の伸び幅が大きくなっています。都内23区では出生率が上がってる区が多いですが,減っている区もあり。一覧表にしてみると気になる傾向が出てきますので,ご覧に入れましょう。


 2002年と2017年の比較ですが,まず目につくのは,上位の顔ぶれの変化です。赤字は上位3位ですが,2002年では城東エリアの区が高かったのが,2017年では都心の3区に様変わりしています。中央区,港区,千代田区です。

 先に記したように,これらの区では出生率の伸びが大きいからです。対して城東エリアの区は出生率が下降し,23区の中での順位も陥落しています。足立区は,2002年の2位から17年の22位へと大下落です。

 一昔前は地価が安いエリアで出生率が高かったのですが,最近はその逆になりつつあります。地域単位のデータですが,出生率と経済力がリンクする傾向すら出てきています。

 上表の3つの数値をグラフにしてみましょう。(1)2017年の出生率,(2)過去15年間の出生率の伸び幅,(3)住民の経済力です。(1)を横軸,(2)を縦軸にとった座標上に23区を配置し,各区のドットの大きさで(3)を表現します。


 右上には,都心の3区があります。最近の出生率が高く,過去からの伸び幅も大きい区です。対極の左下には城東の3区が位置しています。出生率が下がり,23区内の順位が下位に落ちている区です。

 23区はおおよそ右上がりの線上に位置するみたいですが,その位置を規定する要因として,住民の経済力があるみたいです。ドットの大きさからそれが知られます。最初の表から,2017年の出生率と,2016年の住民1人あたりの税負担額の相関係数を出すと+0.7208にもなります。

 飛躍を承知で言うと,結婚・出産は富裕層の特権となりつつあるのでしょうか。藤田孝典さんの名著『貧困世代』(講談社現代新書)の帯に,「結婚・出産なんてぜいたくだ!」と書いてあったのを思い出します。

 ここで取り上げた出生率は,人口ベースの粗出生率であって,都心のエリアには子育てファミリーがたくさんいるからだ,という疑問があるかもしれません。では,出産年齢の有配偶女性をベースにした出生率を出してみましょうか。

 基幹統計の『国勢調査』から,25~44歳の有配偶女性の数を取り出し,各区の年間出生数をこれで割ってみます。『国勢調査』の実施年に合わせ,2000年と2015年の区別の出生率を計算してみました。以下に掲げるのは,出生率の順位が高い区に色をつけたマップです。


 結婚している出産年齢の女性をベースにした出生率ですが,このように精緻化した出生率でみても,地域差の構造が様変わりしています。今世紀の初頭では城東の区で高かったのが,最近では都心エリアで高くなっていると。

 同じように結婚している出産年齢の女性であっても,子を産もうという意向が地域によって違うようです。そういう差はいつの時代でもあるのですが,最近の特徴は,地域住民の経済力とリンクする傾向が強くなっていること。ある方がツイッターで言われてましたが,不妊治療にも費用が掛かる…。

 都内23区という局地の地域データの傾向なんですが,出産と経済力の関連の強まりを演繹するのは乱暴でしょうか。日本は教育費が高く,夫婦が出産をためらう最大の理由は「教育費がかかるから」というのは,各種の調査で明らかにされていること。

 そういえば前に,ニューズウィーク記事にて,日本は,男性の経済力と子持ち率の関連が最も強い社会であるのを示したのでした。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/01/post-9286.php

 来年実施される2020年の『国勢調査』のデータではどうなっているか。濃い色が,ますます一部のエリアに凝縮されてないことを祈ります。

 子育て費用の軽減として,来月から認可保育所の無償化が始まりますが,予想される効果はいかほどか。保育士の超薄給はそのままで,保育士不足は手付かずですので,入れる枠は変わりません。無償にしても入れなければどうしようもない。入れた人と落ちた人の落差も大きくなります。

 重点をおくべきは費用軽減よりも,受け入れの枠を増すこと。保育士の待遇改善はその中核に位置します。費用負担の経年をしつつ,夫婦二馬力で稼げる環境を醸成すること。今,データを出してみたのですが,ママのフルタイム就業率と出生率って,プラスの相関なんですよね。「働く女性が増えると出生率が下がる」なんて,どの口が言った?
https://twitter.com/tmaita77/status/1177462811825324032

 増税で得られた財源の使いみちを,誤らないようにしたいものです。