2019年8月21日水曜日

『教職教養らくらくマスター』2021年度版

 8月も下旬,暑いのは相変わらずですが,ちょっとだけ陽が落ちるのが早くなったような気がします。

 実務教育出版から『教職教養らくらくマスター』(2021年度版)が届きました来年夏に実施される,2021年度採用試験に向けて使っていただくものです。24日頃から,本屋さんに並ぶかと思います。
https://jitsumu.hondana.jp/book/b457268.html


 昨年は落ち着いた体裁でしたが,今年はポップなイラストが入っています。この本は毎年刊行されるもので,出るたびにブログでアナウンスするのは気が引けるのですが,ぜひともアピールしたい目玉ポイントがありますので,書かせていただきます。

 今回出た2021年度対策用では,冒頭に,全自治体の出題頻度表を入れています。本書は112のテーマ(教育原理53,教育史11,教育法規35,教育心理13)からなりますが,それぞれの内容が,過去5年間(2015~19年度試験)で何回出題されたかをカウントしたものです。


 「112テーマ × 51自治体」,16ページを要しましたが,出版社さんも「受験生のためなら」と増ページを快諾していただきました。

 各セルには,過去5年間の試験で出題された回数が記されています。たとえば岩手県では,教育原理のテーマ2「教授・学習理論」が5年間で5回,つまり毎年出題されていると。

 「5」は5年間で5回の必出,「4」は5年間で4回の頻出であることを意味します。16ページにわたる全自治体の表をみると,「5」や「4」という数字が結構あります。教職教養の内容は広範ですが,試験で出る内容はある程度決まっているのですよね。

 受験者が最も多い東京都では,学習指導要領がよく出ますねえ。小・中・高とも,ここ5年間で4回出ています。教育法規の「教員の服務」は5年間で5回,必出です。教員の不祥事が続発していることを受けてのことでしょう。

 この表を活用することで,受験する自治体の頻出テーマを割り出すことができます。まずは「5」と「4」のテーマを潰し,徐々に学習の射程を広げていくとよいかと思います。

 逆に言うと,過去5年間で全く出ていない「0」というテーマは,思い切って捨てるのもアリかと思います(時事的なテーマは除く)。中身をちょい出しすると,宮城県や福島県では,教育心理は過去5年間で全く出ていません。完全に「アウト・オブ・眼中」です。福島県では,教育史も全く出ていません。広大な本県の受験生は結構多いかと思いますが,教育原理と法規に絞った,深い学習をするのもいいでしょう。

 4領域からなる教職教養の内容は盛りだくさんですが,ド真面目に全部をくまなく学習する必要はありません。それに越したことはないですが,学習に割くことのできる時間や労力は限られています。横着を推奨するわけではないですが,この出題頻度表を活用し,効率のよい学習をしていただければと存じます。

 タイトルのごとく,教職教養を「らくらくマスター」していただくため,内容の盛り方にも工夫を凝らしています。視覚人間である私のポリシーを前面に出し,図や表を多用し,見やすい体裁に仕立てています。読む本というよりも,「みる」本です。

 無味乾燥な条文が並ぶ教育法規には抵抗感を持つ学生さんが多いでしょうが,どういうことが現場で問題になっているか,どういうことを汲み取るべきかを,私の言葉で書いています。暗記学習の暗さを感じさせない作りになっていると自負します。学校に行かせてもらえない子ども,虐待を受ける子ども…。こういう問題を念頭に置きながら,法規の条文を音読してください。

 目まぐるしく動く教育時事も,しっかりフォローしています。教員の働き方改革の答申も盛り込んでいます。当局の仕分けに基づき,教員が担う必要のない業務,負担軽減な可能な業務がどれかを知っておきましょう。


 他にもアピールポイントはありますが,昨年の紹介記事との重複は避けましょう。
https://tmaita77.blogspot.com/2018/08/2020.html

 来年夏の試験を受験予定の学生さん,本書をぜひ手に取っていただきたく思います。他社から分厚い電話帳みたいな参考書も出ていますが,まずは薄手の要点整理集にて,教職教養の内容をざっくりと押さえることからです。本書では,自分が受ける自治体でよく出る事項が何かを知れる,出題頻度表というサービスもついています。

 教員採用試験の競争率は低下を続けており,最近の小学校試験の競争率は3倍を下回る自治体が多く,2倍を切る所すらあります。オリンピックが終わったらまだ不況になるという予測もありますが,そうなったら試験は難関化するかも分かりません。今がチャンス。受験生諸氏の健闘をお祈りいたします。

2019年8月19日月曜日

高齢期の働き方

 昨日の毎日新聞に「60歳以上労災死傷者急増,4分の1占める,転倒,腰痛,サービス業で」という記事が出ています。
https://mainichi.jp/articles/20190817/k00/00m/040/232000c

 高齢化が進む中,体力の弱った高齢の就業者が増えているためです。人手不足もそれを後押ししています。池袋で,70代のタクシー運転手が運転中に意識を失い,ガードレールに衝突し死亡する事故が起きました(乗客は無事)。ドライバー不足で,高齢の乗務員を雇用せざるを得ない,業界の事情もあるそうです。

 これから高齢の就業者が増えていきますが,彼らはどういう働き方をしているのでしょう。自分が見聞きした経験からイメージするのは容易いですが,客観的なデータで固めてみようと思います。官庁統計を紐解けばすぐ分かることですが,この点はあまり明らかにされてないようです。

 基幹統計の『国勢調査』から,働く人の従業地位や職業を知ることができます。65歳以上の就業者を取り出し,分布をとってみましょう。以下に掲げるのは,従業地位と職業が共に分かる,719万3606人の高齢就業者のデータです。2015年の『国勢調査』によります。


 従業地位をみると,非正規雇用が32.7%と最も多くなっています。3人に1人です。その次がフリーランス(雇人のない業主)で23.2%となっています。就業者全体の分布とはだいぶ違いますね。高齢層では,正社員は14.6%しかいません。

 次に職業をみると,農林漁業が15.1%で最多です。2位はサービス職,3位は販売職ですか。管理職・専門技術職・事務職のホワイトカラーは4人に1人で,残りは体を動かす現業職であると。

 上記の2つの変数をクロスさせると,事態がより立体的に分かります。以下の表は,各セルに該当する人数を示したものです。65歳以上の就業者全体(719万3606人)を1万人とした場合の人数です。


 「5 × 12」の60のセルがありますが,上位5位には黄色マークを付けました。最も多いのは,フリーランスの農林漁業ですね。高齢就業者全体の7.8%,13人に1人です。年金の足しに,家庭菜園をやっているような人でしょうか。

 それに次ぐのは非正規雇用の運搬・清掃職,サービス職となっています。これは日々の生活においてよく目にするところです。会社の経営(管理)に携わる役員・業主は,およそ5.8%となっています。

 おそらく事務職を希望する人が多いのでしょうが,正規の事務職は全体の3.2%,非正規を合わせては6.7%しかいません。ハロワで事務職の求人を検索しても,ヒットがほぼ皆無であるのはよく言われること。

 なお地域差もあります。上記のデータは,高齢者が多い地方の傾向を反映したものかと思いますが,都市型の働き方のケースとして,東京都のデータをご覧に入れましょう。従業地位と職業の両方が分かる,68万412人のデータです。


 全国データでは,フリーランスの農林漁業が最多でしたが,東京都だと,非正規の運搬・清掃業が最も多くなっています。駅の清掃とか,需要がありますからね。会社を経営する管理職も,全国データより多し。非正規のサービス職とは,マンションや駐車場の管理人などでしょう。これも都市部では多し。

 以上,従業地位と職業を手掛かりに,働く高齢者のすがたをラフに描いてみましたが,参考になりましたでしょうか。ざっとまとめると,地方ではフリーランスの一次産業,都市部では非正規の清掃業・サービス職が多い,というところです。

 デスクワークが多くなったといいますが,高齢層に限ると,体を動かす現業職がマジョリティであるのが知られます。冒頭の毎日新聞の記事で,高齢者の労災急増が報じられていますが,その大半はこういう業種で起きています(サービス職等)。

 ホワイトカラーを希望しつつもそれが叶わず,不慣れな肉体労働を始める高齢者が多いのですが,無理は禁物。職場においても,高齢就業者の増加に合わせた,働き方改革が要請されます。お店で,辛そうな表情をしてレジに立っているシニアスタッフを見かけますが,座って勤務してもいい。屋外労働者用の空調服や,介護士向けのアシストスーツなどのテクノロジーも活用すべし。

 今朝の日経新聞に,無人店舗の普及を伝える記事がありましたが,こういうニュースを見ると,働く人の割合が国民の半分未満でも社会が回るようになるのかな,という期待も持たれます。日本は高齢者の就業率が高いのですが,日本と同様,かなり高齢化が進んでいるドイツやイタリアはさにあらず。この違いは,最新のテクノロジーをどれほど活用できているか,サービスの質をどれほど下げることができているか,によると思います。
https://twitter.com/tmaita77/status/1163354878451695616

 あるいは,移民をたくさん受け入れていると。日本は外国人の受け入れ数が4位,世界移民大国だそうですが,多文化共生の在り方を考えないといけないステージにきています。

 日本より少ない労働力で社会を回している国は数多し。国民の多数が死ぬまで働かないといけない社会になるかどうかは,まだ未知数です。今回お見せしたデータは,今となってはもう古い2015年時点のもの。あまり悲観的にならないよう。

2019年8月15日木曜日

正規・非正規の収入格差(性別,年齢,労働時間を統制)

 日本の雇用労働者は正規雇用と非正規雇用に分かれ,官庁統計でもこの区分がしっかりと採用されています。正規と非正規では待遇の格差,収入の格差が大きいことは誰だって知っており,このブログでもデータで繰り返し明らかにしてきました。

 とある方から,「日本の正規と非正規の格差が大きいのは分かった。他国はどうなのか。正規・非正規の給与差の国際比較をやってほしい」というリクエストがありました。

 同じ要望を複数いただいていますが,お応えできません。データがないからです。海外では「正規・非正規」なんていう区分はありません。労働時間に依拠して,フルタイム・パートタイムっていう区分があるだけです。昨日,ツイッターで呟いたところ,予想以上に反響が大きいので驚いています。あまり知られていないのでしょうか。

 久々に正規と非正規の収入格差を露わにしてみたくなりましたが,前からもどかしく思っていることがあります。労働時間を揃えた比較ができないことです。働く時間が違えば,年収が違うのは当たり前ですからね。

 何とか統制できないものか。2017年の『就業構造基本調査』の公表統計を丹念にサーチしたところ,見つけました。全国編の表05200です。この表から,「性別 × 年齢 × 従業地位 × 就業時間 × 年間所得」のクロス表を作ることができます。当該の表に飛べるリンクを貼っておきますので,興味ある方はどうぞ。
https://www.e-stat.go.jp/dbview?sid=0003222437

 私の属性であるアラフォー男性で,年間250~299日・週35~45時間働く労働者を取り出し,正規雇用と非正規雇用に分けて,年間の所得分布を比べてみましょう。性別,年齢,労働時間を統制した比較です。


 %値の母数は,正規雇用が98万2400人,非正規雇用が10万2300人です。働き盛りの男性雇用者ですが,非正規はネグリジブル・スモールではありません。

 普通に働くアラフォー男性ですが,正規と非正規では所得分布がかなり違います。最頻階級をみると,正規は400万円台ですが,非正規は200万円台前半です。同性,同年齢で,同じ時間働く労働者でコレです。異国の人にすれば,「働く時間が同じなのに,何でこんなに収入差が出るんだ」「セイキ,ヒセイキって何なんだ?」と言いたくなるでしょう。

 労働時間や仕事の質よりも,会社の正規のメンバーであるかを重視するニッポン。否とあらば,ボーナスは支給されないし,社会保障からも外される。メンバーシップ型の日本的雇用は,ジョブ型の欧米人からすればさぞ奇異に映るでしょう。

 上記の分布から中央値(median)を出しましょう。右欄の累積相対度数から,50ジャストの中央値は,正規は400万円台,非正規は200万円台前半に含まれることが分かります。按分比例を使って割り出すと,以下のごとし。

正規:
 按分比=(50.0-37.2)/(60.5-37.2)=0.549
 中央値=400+(100×0.549)=454.9万円

非正規:
 按分比=(50.0-33.7)/(61.5-33.7)=0.586
 中央値=200+(50×0.586)=229.3万円

 同じアラフォー男性で,労働日数・時間も同じであるにもかかわらず,正規と非正規では所得中央値が倍以上違います。同じやり方で,男女の各年齢層の正規・非正規の所得中央値を計算しました。下図は,結果を折れ線グラフで表したものです。


 このグラフから読み取れることは,以下の3点です。

 ①:1日8時間労働では,年間所得400万円に達するのは難しい。
 ②:同性,同年齢で,労働日数・時間が同じであっても,正規と非正規では所得に大きな格差がある。
 ③:同年齢で,同じ時間働く正社員同士でも,所得には大きなジェンダー差がある。

 参院選のポスターで「1日8時間労働で普通の暮らしができる社会を」と訴えていた候補者がいましたが,今の日本はそれとは程遠し(①)。正規と非正規の格差は,もはや身分格差といってもいい(②)。男性と女性の差もスゴイ,同時間働いてコレです(③)。

 上記のグラフから,中高年の男性正社員に富が集中しているのも注目ですね。この層を妬むのは簡単ですが,役割期待(一家の大黒柱)の重圧がかかって大変だなとも思います。日本の中高年男性では,失業率と自殺率が非常に強く相関するのは道理です。

 話が逸れましたが,ここでの主眼は,正規と非正規による格差です。日本の悲惨な状況は嫌というほど分かりましたが,海外はどうなのか。上述のように,諸外国では「正規・非正規」という区分はありません。ただ,契約形態による区分(無期雇用,有期雇用)はあり,これが,日本でいう正規・非正規と類似しているのではないか,というコメントをいただきました。

 OECDの国際成人力調査「PIAAC 2012」では,雇用労働者の労働時間,契約形態,そして年収を訊いています。やや年齢幅が広いですが,25~54歳の男性雇用者を取り出し,無期雇用者と有期・臨時雇用者に分け,年収の分布を比べてみます。年収は,「有業者全体の中でどの辺と思うか」と問う形式で,主観の歪みを排せませんが,参考にはなるでしょう。

 以下の図は,6か国の比較結果です。アメリカとドイツは,上記調査のローデータでは,なぜか年齢がペンディングになっているので分析不能です。そこで,パート大国といわれるオランダ(蘭)を加えています。瑞はスウェーデンです。


 Aは無期雇用者(パーマネント),Bは有期ないしは臨時雇用者です。週35~45時間働く男性労働者ですが,2つの群の年収差は,国によって異なっています。

 差が最も大きいのは日本で,ヨーロッパ諸国では差は小さく,イギリスではほとんど差はありません。なお日本もイギリスも,雇用労働者に占める有期・臨時雇用者(B)の割合は1割ほどです。

 詳しく調べてはいませんが,諸外国では,契約の形態によって,待遇に著しい傾斜がつけられるなんてことはないのでしょう。重視されるのは労働時間,仕事の中身です。これぞジョブ型。日本のメンバーシップ型とは対をなしています。

 少子高齢化に伴い,労働力の量を維持するには,「緩い働き方」が増えざるを得なくなります。パート労働やフリーランスの比重はぐんぐん高まるでしょう。「正社員にあらずんば人にあらず」の慣行は撤廃すべし。どういう働き方を選ぼうが,まっとうな暮らしが得られる社会の実現が望まれます。AIによる省力化,BIによる収入補填をもってすれば,不可能なことではありますまい。

 日本では「何ができるか」よりも「何であるか」が重視され,定年後の老人のアイデンティティの源泉が「元**部長」とかいう名刺だったりします。これも馬鹿げたこと。「名刺を捨てろ,ツイッターをやれ」という,田端信太郎氏の言葉は好きです。

2019年8月11日日曜日

通信制の生徒の増加

 2019年度の文科省『学校基本調査』の速報結果が出され,その知見について,いろいろ報じられています。その中で「通信制課程の生徒が1万人余増 不登校生徒の受け皿にも」という記事が目に留まりました。
https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190808/k10012028531000.html

 高校は全日制・定時制のほかに,通信制課程もあります。学校に登校せず,通信教育を受けながら,レポートの提出等で単位を取得していく課程です。少子化で高校の生徒数は年々減っていますが,通信制の生徒だけは増えていると。

 高校の生徒数を,全・定時制と通信制に分けて,この20年間の推移を辿ってみると,以下のようになります。各年の5月時点の生徒数で,『学校基本調査』のバックナンバーから採取しました。ありがたいことに,今では軒並み「e-Stat」で見ることができます。


 全・定時制の生徒は,1999年では421万人でしたが,20年を経た2019年では316万人にまで減っています。25%の減少です。少子化,恐るべし。全国の至る所で,高校の統廃合が行われているのは周知のこと。

 対して通信制の生徒は,17.1万人から19.8万人に増えています。推移をみるとジグザグしていますが,2019年の生徒数(19万7779人)は過去最高ですね。近年になるほど増加のスピードが増しており,昨年から今年の1年間で1万人以上も増加しています。

 トレンドを視覚化すべく,始点の1999年の生徒数を100とした指数の推移をグラフにしてみましょう。


 全・定時制は滑り台のごとく減っていますが,通信制は大局的には増加の傾向です。2015年以降はずっと増加で,ここ2年間,その傾斜が強くなっています。上述のように,この1年間だけで1万人以上も生徒が増えているのです。

 冒頭のNHK記事では,不登校生徒の受け皿になっている面が強調されています。登校して集団生活をしなくていいのですから,そういう面はあるでしょう。小・中学校の不登校児の増加とパラレルなのも興味深い。

 自分のやりたいことをしながら,マイペースで学習を進められる通信制を選ぶ生徒もいるのではと思います。3年ないしは4年という,最低在籍年数は定められていますが,上限はありません。通信制の場合。10年近くかけて単位を積み上げて卒業する生徒もいます。

 ユーチューバーやeスポーツのプロを志す子どもが増えているみたいですが,動画を撮ることやアルバイトをメインに据えながら,学習の証(単位)をゆっくりと積んでいくのもよし。通信制高校は元々,働きながら高卒学歴の取得を目指す勤労青年の教育機関でした。本業の傍らで学ぶ学校としての性格は,今日でも残っているでしょう。「本業」の意味合いが,昔とは異なるとはいえ。

 今後は,こういう「夢追い型」の生徒も増えてくるのではないか。経済学者の森永卓郎氏の言葉を借りると,「一億総アーティスト」の時代になるのですから。多感な思春期・青年期を,四角い空間の中で過ごす必要はない。それをせずとも,高卒の学歴は得られます。その場が通信制高校なり。

 なお公立と私立でみると,増えているのは後者です。増加傾向が始まった2015年と2019年現在の生徒数を比べると,以下のようになります。


 公立は減っていますが,私立は増えています。近年の通信制の生徒増加は,もっぱら私立によるもののようです。

 通信制への需要を見越した学校法人が,通信制高校の経営に乗り出しているのでしょうか。私立の場合,生徒募集の範囲を定めない広域制をとることも可能です。対して公立は,生徒募集の範囲が県内に限定される「狭域」制です。

 通信制というユニークな課程が,学費のかかる私立によって寡占されるのは考え物です。公立の通信制も,柔軟な運営をとっていただきたいと思います。

 小学校ないしは中学校で不登校状態にある皆さん,将来はどうなるのかと,過度に思い詰めるべからず。学校に行かなくても,中学校は自動的に卒業できます。その後,集団生活のない通信制の高校に行くもよし,あるいは独学で高校の教育内容を修め,高卒認定試験に合格して大学入学資格を得る,という道もあります。学級という牢獄を全く経験せずとも,高卒学歴をゲットでき,大学にだって入れるのです。

 通信制は,高校教育の残りカスのように見られている節もありますが,これからはその比重を高めていくでしょう。情報化社会,IT社会という時代の趨勢にも適っています。2019年現在では,高校生の5.9%,17人に1人が通信制の生徒です(最初の表より計算)。

 『脱学校の社会』を著したイリイチは,「情報化社会では,学校の領分は縮まり,それに代わって,人々の自発的な学習ネットワークが台頭してくる」と予言しました。自発的な学習ネットワークだと,教育内容の体系性に欠け,青年期教育の全部をそれで染めてしまうのはよくありません。調和のとれた人間形成のため,教育内容の枠つけも必要。

 通信制高校は,教育内容の質の保障と,学習の自発性・自由という,新旧のスタイルの長所を兼ね備えた,理想的な型であるように思います。「一億総アーティスト」の時代になったら,小・中学校においても,この形態を普及させてもいいでしょう。

2019年8月9日金曜日

都道府県別の大学進学率(2019年春)

 今年度の文科省『学校基本調査』の速報結果が公表されました。学校数,児童・生徒数,卒業後の進路などが載っている,公的な統計資料です。統計表は,e-Statにて見ることができます。

 教員の女性比率が上がった,高校生が減るなか通信制高校の生徒だけは増加している…。面白いファインディングスが報じられています。私はというと,この資料のデータが公開されたら,真っ先に,都道府県別の大学進学率を計算することにしています。地方出身という身の上もあり,教育機会の地域格差の問題には関心を抱いています。都道府県別の大学進学率は,それを「見える化」するのにうってつけです。

 大学進学率とは,18歳人口ベースの浪人込みの4年制大学進学率をいいます。短大は含みません。分子には,大学入学者数を充てます。分母は,推定18歳人口(3年前の中学校卒業者,中等教育学校前期課程卒業者)を使います。分子には上の世代(浪人経由者)も含まれますが,当該年の現役世代からも,浪人を経由して大学に入る者が同数いると仮定し,両者が相殺するとみなします。これは私が独断で考えたのではなく,公的に採用されている計算方法です。

 今年春の大学入学者は63万1267人,推定18歳人口は117万4801人。よって大学進学率は,前者を後者で割って53.7%となる次第です。同世代の半分が大学に行くという,今の時代の数値的な表現です。性別でみると,男子が56.6%,女子が50.7%と,ジェンダー差があります。

 ここまでは文科省の調査結果概要に載っていること。では,47都道府県別の大学進学率をご覧いただきましょう。都道府県別に出す場合,分子には,当該県の高校出身の大学入学者数を充てます。上記e-statの「出身高校の所在地県別大学入学者数」という表に出ています。


 黄色は最高値,青色は最低値です(赤字は上位5位)。全国値は53.7%ですが,県別にみると,最高の73.3%(東京)から最低の38.1%(岩手)まで,大きな開きがあります。

 女子の大学進学率の最低は,今年も郷里の鹿児島ですか…。東京の女子は73.5%,鹿児島の女子は33.7%と,倍以上の開きがあります。同じ国内とは思えぬほどの格差です。2015年だったか,鹿児島県知事が「女子に三角関数を教えて何になる」と発言したことが思い出されます。

 右端の性差は,男子と女子の差分です。大半の県で「男子>女子」ですが,10ポイント以上開いている県もあります。北海道,埼玉,山梨です。女子は,地元の短大や専門学校に行くのでしょうか。ここでの大学進学率は,高校の所在地に依拠して出してますので,埼玉の場合,優秀な女子が都内の高校に流れ込んでいるためとも考えられます。

 女子の大学進学率が男子より高いのは,東京と徳島。この2都県は毎年こうなのですが,その理由は如何。東京は,自宅から通える大学が多いからでしょうが,徳島は何ででしょう。ツイッターで意見を募ったところ,「県内の大学に,文学,教育,栄養,薬学,音楽といった学科が多いからではないか」ということでした。
https://twitter.com/PKR2000G/status/1159457167449006080

 おっと細部に入ってしまいましたが,大学進学率には,本当に大きな地域格差があるのだなあと,実感させられます。今では同世代の2人に1人が大学に行くと言われますが,それは一部の地域に限った話です。大学進学率が50%を超えるのは,16県だけです(女子は9県!)。

 大学に進学する・しないは自由ですが,上記の統計的事実が,各県の高校生の意向の差とは思えませんよね。まぎれもなく,環境の要因を被っています。子どもの学力トップの秋田の大学進学率が低いのも,その証左なり。

 まず考えられるのは,家庭の所得水準です。大学の学費は高く,地方の場合,都市部に下宿するための費用も上乗せされます。ただでさえ所得が低い地方の家庭にとって,このダブルパンチは痛い。東京大学は,2017年度から女子学生の家賃を補助する制度を始めていますが,地方の才女を呼び寄せるのに有効だと思います。

 あとは,親の考え方もあるでしょう。大学を出ている親は,そうでない親よりも大学の価値を認め,子の進学に肯定的な態度をとると。事実,大卒の親が多い県ほど,大学進学率は高い傾向にあります。下図は,親世代の大卒者率と,上表の大学進学率の相関図です。親世代の大卒者率は,2017年の『就業構造基本調査』より計算しました。


 明瞭なプラスの相関関係が見受けられます。相関係数は+0.834にもなります。ダイレクトな因果関係と言い切ることはできませんが,親世代の大卒率は,県民所得よりも大学進学率と強く相関しています。貧しくとも,大学に価値を認める親なら,子を行かせようとしますからね。経済資本よりも文化資本が効く,ということでしょう。

 大卒の住民が地域にたくさんいるというクライメイトが,大学進学を当然視するよう,子どもを仕向けることも考えられます。

 東京工業大学は,親が大学を出ていない学生に奨学金を給付する制度を始めるとのこと。親が進学に否定的な地方在住者の進学を促すのが狙いだそうです。賛否両論ありそうですが,いい視点だとは思います。

 あと一つの大きな要因は,自地域に大学があるかです。自宅から通えるかどうかは,結構デカイ。否とあらば,下宿費用が加算され,コストが直ちに倍増しちゃうからです。また大学がない田舎の場合,大学とはどういうものかのイメージができないのですよね。この点は,鹿児島の奄美群島を調査してよく分かりました。勉強ができる生徒であっても,進路の選択肢に大学が入ってこないのです。これは私が修論を書いた頃の話で,IT化が進んだ今では,この障壁は低くなっているとは思いますが。

 ざっと考えて,こういう環境要因が,当人の能力に関係なく,大学進学チャンスを規定しているのではないかとみられます。女子の場合,男子にもましてそれが顕著でしょう。大学進学率の都道府県格差は,その可視化に他なりません。

 昨年度から給付型奨学金が導入され,来年度から高等教育無償化政策がスタートします。対象がかなり限られていますが,地方から都会に出てくる学生には,各大学の裁量で支援を上乗せしてほしいものです。地元へのUターンを条件とした,奨学金を支給するのもいいでしょう。高等教育を修めた人材のチカラが,地方の発展に寄与してくれるのは間違いありません。

2019年8月7日水曜日

水泳の授業はスイミングスクールで

 酷暑の日が続いています。海がすぐ近くなんで,いつでも海水浴ができるのですが,見苦しい裸体を晒す度胸はないです。

 学校では体育の授業で水泳をしているかと思いますが,昨日,面白い記事を見かけました。タイトルは「この手があった!スイミングで学校の授業は一石三鳥」。3つのメリットとは,熱中症の心配なし,指導充実,コスト半分以下,というものです。
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190806-00010000-tokai-soci

 スイミングスクールの屋内プールなら,熱中症の心配はなし。講師は水泳のプロなんで,指導も充実。スイミングスクールに払う費用は,学校のプールの維持管理費の半分ですむ。至れり尽くせりですね。スクールの側にしても,一般客の少ない午前中に使ってもらえばありがたい。

 この記事をRTしたところ,「日本はスイミングスクールが至る所にあるので,どんどん活用すべきだ」というリプがありました。そうなんですかね。文科省の『体育・スポーツ施設現況調査』という資料に,公共・民間のスポーツ施設のプール数が出ています。

 2015年度とデータがちと古いですが,都道府県別の表をみると,東京都は379,私の郷里の鹿児島県は103となっています。屋内・屋外の合算です。

 これだとピンとこないので,1つのプールを何人の児童で使うことになるか,またどれほどの広さの土地に1つのプールがあるか,という情報も出してみます。公的統計からa~cの3つの数値を取り出しました。いずれも2015年度の数値です。


 東京には56万2969人の児童がいるので,1つの学校外のプールを1485人で使うことになります。1回に使える人数が50人とすると,30回ローテーションすればいい計算です。まとまった時間の水泳の授業が年間5回とすると,1つのプールのトータルの使用回数は150回ですか。この程度なら,一般の利用客の妨げにはならないのでは。学校の授業での使用は午前中と決めればよろしい。鹿児島は,もっとゆとりある形で使えそうです。

 次に気になるのは,学校からプールへの移動です。送迎は施設やスイミングスクールがバスでやってくれるみたいですが,あまりに遠すぎると困る。そこで,何㎞四方の土地にプールが1つあるかを出してみたところ,東京では5.6㎢(2.4㎞四方)の土地に1つはあるじゃないですか。これなら,バスですぐですね。鹿児島は,ちょっと時間がかかるかな。

 この2つが,学校外の施設のプールの利用しやすさを測る指標になります。47都道府県の数値をご覧いただきましょう。まずは,プール1つあたりの児童数です。


 児童数の多い都市部はちとキツイですが,地方ではゆったり使えますね。山梨は1つのプールあたり571人。1回50人とすると,たった11回ローテーションすればいいだけです。授業回数が年間5回とすると,1つのプールの使用回数は55回。余裕です。1回の使用人数をもっと少なくしてもよさそうです。

 次に,スポーツ施設のプールの立地密度です。


 高知や北海道は,学校からプールまでバスで30分ほどかかりそうですが,右下の都市部では数分で済みそうです。ただ渋滞や事故など思わぬ事態があり,他の授業時間の侵食もあり得ますので,スポーツ施設での水泳の授業は,夏季休暇等にまとめて行うのがいいかもしれません。屋内なら,夏である必要はなし。

 熱中症の心配なし,指導充実,コスト半分以下。学校外と連携することで,こんなにものメリットが引き出せます。

 昨年春にスポーツ庁が出した『部活動ガイドライン』では,中学校の運動部活動を,学校外のスポーツクラブ等に委ねるのもアリだと述べています。授業ではない課外活動なんで,全然OKです。北欧の諸国では,こういうスタイルです。中学校教員の8割が,課外活動指導時間「ゼロ!」と言い切っています(OECD「TALIS 2018」)。
http://tmaita77.blogspot.com/2019/06/2018.html

 教育を行う場は,学校だけにあらず。学校外とも手を携え,教育の効果を高めていきたいものです。子どもは社会全体で育てる。こういう構えが大切。日本では,学校と外部社会の敷居が高いのですが,教育資源の活用や人事交流の面でも,これを崩していく必要があるでしょう。

2019年8月5日月曜日

独り身の女性の貧困

 ロスジェネは現在40代前半で,この世代が高齢期に達する20年後はどうなるのかと,悲観的な予測が飛び交っています。不遇なまま放置されてきた世代です。年金など碌にもらえない人が多し。私もそうです。

 目を凝らしてみると,ロスジェネと同じく先行きが心配な人たちがいます。夫のいない,独り身の女性です。女性は男性に経済的に扶養されるべしという考えが根強い日本では,女性が自身の収入で自活する生き方は想定されていません。

 そんなことを考えるのは悪いことだと言わんばかりに,給与にはジェンダー差がつけられています。「つまらんことを考えないで,家事・育児に専念しろ」とね。明瞭な性役割分業で社会が築かれてきた経緯があり,今でもそれが残存しています。

 しかし時代は変わり,結婚しない女性が増えてきました。40歳,50歳を過ぎてもです。45~54歳(アラフィフ年代)の女性人口,そのうちの未婚者数の長期推移を跡付けると,下表のようになります。『国勢調査』の時系列統計より採取しました。2017年の数値は,同年の『就業構造基本調査』によります。


 戦前期では,アラフィフの未婚女性は4万人ほどしかおらず,同年代の女性に占める比率は2%,50人に1人もいませんでした。お見合いで,強制的に結婚させられていた時代ですから。

 しかし時代を下るにつれぐんぐん増えてきて,1995年に50万人を越え,2015年には100万人を突破,2017年では126万人に達しています。今では,アラフィフ女性の14.4%,7人に1人が結婚経験のない未婚者です。

 ここまで増えてくると,もはやネグリジブル・スモールではありません。夫に依存せず,自活しようと奮闘するも,長らく続いてきた通念や制度に阻まれ,貧困状態におかれる女性の問題がクローズアップされてくるのは道理です。今日の現代ビジネスのウェブサイトで,「非正規・無職の女性たちをずっと無視してきた日本社会の罪」という記事が出ています。
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/66225

 「非正規・無業の女性」というと,家計補助のパートや専業主婦をしている妻を思い浮かべるでしょうが,夫のいる有配偶女性と未婚女性では,意味合いが違います。後者の場合,こういう状況に置かれること=「貧困」でしょう。親と同居しているとか,資産があるとか,例外はあるでしょうけど。

 上表によると,2017年のアラフィフ未婚女性は125万6100人です。このうちの59万7000人(47.5%)が,非正規雇用者もしくは無業者となっています。アラフィフ未婚女性の半分近くが,非正規・無業であると。

 この値には地域差もあります。47都道府県別の率を高い順に並べると,以下のようになります。


 トップは沖縄で61.0%,15の府県で50%を超えています。女性が独り身でやっていくのは辛い地域といえましょうか。

 こういう有様ですので,アラフィフ未婚女性の稼ぎも推して知るべし。働いている人の年間所得分布(税込み)から中央値を計算すると,283.8万円となります。300万円に届かないですね。地域別にみると,もっと悲惨な値が出てきます。


 300万円を越えるのは8都県しかありません。富山と福井が入っているのは,正社員率が高いからでしょう。

 その他の県はこのラインを割り,半分の県が250万円を下回っています。言葉はキツイですが,ワーキングプアの部類です(沖縄と青森は200万未満)。夫のいない未婚者なんで,就業調整をしているとは考えられません。独り身を養うべく,フルタイム就労をしている人が大半でしょう。

 これは,幸運にも正規雇用の職に就けている人も入ったデータです。非正規雇用者に絞ると,目も当てられない惨状になります。東京を除く全県が200万未満です。2番目の表にあるように,アラフィフ未婚女性の半分が非正規・無業であることを思うと,問題の深刻さが分かるでしょう。
https://twitter.com/tmaita77/status/1148162055813263360

 女性が自活するって,本当に大変なんだなと思います。女性の自活なんて想定していない,社会の通念や制度の問題です。昔はネグリジブル・スモールとして問題化しなかったのですが,現在ではそうはいきません。最初の表でみたように,夫のいない独り身の女性はどんどん増え,今後もそうなるのですから。

 まずは,最低賃金の遵守です。フルタイムで働いて,年間の所得(税引き前!)が200万円に満たないというのは,それが守られてない証拠です。言わずもがな,賃金のジェンダー差の是正も必要。

 そうなれば,結婚に際して,女性が相手の男性に高収入を期待せざるを得ない度合いも下がります。自分も加勢すればいいのですから。未婚化・少子化の壁も取り払われます。貧困への転落を恐れ,夫のDVを耐え忍ぶなんてことも少なくなる。

 そもそも「結婚はオワコン」とまで言われる時代。こういう時代にあって,今の状況を放置しておくならば,大変なことになるでしょう。ロスジェネは特定世代の問題ですが,独り身の女性はこれから常に増えてくるのですから。社会を揺るがす不安因子として,累積されることがあってはなりません。