2023年11月18日土曜日

失業と自殺の相関の国際比較

  先日ツイッターで出したグラフについて,「元データがどういうものか,イメージしにくい」という声がありますので,ここで詳細を書いておきます。

 当該のグラフは,男性の失業率と自殺率の時系列データから算出した相関係数を,国ごとに棒グラフにしたものです。日本は+0.9を超えていて,主要国では断トツ。米国は+0.073で無相関,フランスやスペインに至ってはマイナスです。

 失業率は,15歳以上の労働力人口に占める完全失業者の割合です。働く意欲のある人のうち,職に就いておらず,せっせと職探しをしている人が何パーセントかです。出所は,ILOの統計データベースで,「Unemployment rate sex and age (%) - annual」という表にて,各国の男性の失業率の長期推移を,国別に呼び出せます。

 自殺率は,人口10万人あたりの年間自殺者数です。ソースは,WHOの「Mortality Database」で,「Self-inflicted injuries」という死因による死亡者数が,10万人あたりの人数に換算された数値が出ています。

 私はこの2つの資料から,男性の失業率と自殺率の推移を,国別に明らかにしました。観察期間は,1990~2020年の30年間です。日本とスペインについて,採取したデータを漏れなく示すと以下のようになります。


 黄色マークは観察期間中の最大値,青色は最小値です。日本の失業率は低く,30年間であまり動いていませんが,自殺率は変化の幅が大きくなっています(20.4~36.5)。対してスペインは,失業率は大きく揺れ動いているものの,自殺率はほぼフラットです。

 しかしスペインは失業率がメチャ高で,2桁はデフォルト。それでも自殺率は日本よりだいぶ低し。2つの国のコントラストが浮き出ています。

 上記の30年間のデータをもとに,男性の失業率と自殺率の相関関係をみてみます。下図は横軸に失業率,縦軸に自殺率をとった座標上に,各年のドットをプロットした散布図です。赤色は日本,青色はスペインです。


 日本は,失業率が高い年ほど自殺率も高いという,明瞭なプラスの相関関係がみられます。対してスペインは無相関。失業率は大きく揺れ動いているにもかかわらず,自殺率はほぼフラットです。

 両軸が因果の関係にあるとは限りませんが,「失業⇒生活苦⇒自殺」という経路を想定するのは容易いでしょう。日本は,それが非常に強い社会のようです。

 上記は2つの国の比較ですが,分析対象の国をもう少し増やしてみましょう。欧米主要国について,最初の表と同じようなデータをそろえ,相関係数を算出しました。8か国の相関係数を棒グラフにすると,以下のようになります。ツイッターで発信したグラフはこれです。

 瑞典はスウェーデン,西はスペインです。


 主要国の比較ですが,どうでしょうか。失業と自殺が強く関連する社会もあれば,そうでない社会もある。数としては後者が多く,日本の特異性が際立ちます。全世界でみても,失業が最も重くのしかかる社会ではないでしょうか。

 背景として,大きく3つが考えられるでしょう。一つは,日本男性の生活が仕事一辺倒になっていること。自我の拠り所にもなっていて,それを失うことのダメージは計り知れない。日ごろから家庭や地域での暮らしをないがしろにしているので,職場に代わる,自我を安定させるための集団も見いだせない。

 2つ目は,社会保障が不備であること。中高年男性が失職した場合,再就職が容易でなく,貯金がない,頼れる親族がいないという場合でも,生活保護を受けるのも難しい。上のグラフをみると,フランスでは相関係数がマイナスにふれていて,失業率が高い時期ほど自殺率が低い,という傾向すらあります。失業保険が手厚く,若者もガンガン生活保護を受けると聞きますが,そういう要因でしょうか。

 最後は,性役割分業です。日本は「男は仕事,女は家庭」という性役割分業が強く,女性に家事や育児・介護等の負荷がかかる一方で,男性には「一家の稼ぎ手」という役割が強く期待されます。それを遂行できないと,一家が直ちに生活苦に陥り,周囲からの目線も厳しく,当人も自責の念にかられ,最悪の結果になってしまう。

 簡単に言えば,生活(役割)の偏り,社会保障の不備,ということです。これには国ごとの濃淡がありますが,日本は際立って「濃」であることが,失業と自殺の相関関係から知られます。

 日本社会の「病」。治療の余地は大ありです。

2023年7月24日月曜日

フリーランスの時給分布

  2022年の『就業構造基本調査』の結果が出ました。

 働く人の稼ぎを知るならコレです。厚労省の『賃金構造基本統計』や,国税庁の『民間給与実態調査』は,一定規模以上の会社に勤める雇用労働者に限定されますが,『就業構造基本調査』では,自営等も含む全ての労働者の稼ぎを知れます。

 5年に1回実施される調査で,集計の仕方も年々改善されてきています。2022年調査では,従業地位のカテゴリーとして「フリーランス」が新設されています。フリーランスの働き方をしている人が増えているためでしょう。

 従業地位と年収のクロス表により,フリーランスの稼ぎをみてみると,まあ低いこと。かといって,労働時間が短いわけではありません。経験者は分かるかと思いますが,フリーランスの場合,仕事時間に際限がなくなりがちです。

 時間給にすると,まあ悲惨なデータが出てくるだろうと前々から思っていましたが,2022年の『就業構造基本調査』のデータが出たのを機に,数値化をしてみようと思います。使うのは,「年間就業日数 × 週間就業時間 × 年収」の3重クロス表です。

 3つの変数のカテゴリーは,以下のようになっています。


 年間就業日数は3カテゴリー,週間就業時間は14カテゴリー,年収は16のカテゴリーとなっています。よって3つの変数のクロス表は,3×14×16=672のセルからなります。

 年間260日・週42時間就業,年収630万円の普通のサラリーマンは,上記の赤字をかけ合わせたセルに入ることになります。このセルに入る人たちの時間給を,階級値(真ん中の値)を使って計算します。年間就業日数は275日,週の就業時間は42.5時間,年収は650万円と一律にみなすわけです。

 この仮定をおくと,1日あたりの就業時間は,週の就業時間(42.5時間)を5日で割って8.5時間。年間の就業時間は,8.5時間×275日=2337.5時間となります。年収650万円をこれで割って,時間給は2781円となる次第です。まあ,まともな会社の正社員ならこんなものでしょうね。

 他のセルについても,同じやり方で時間給を算出し,672のセルを全部埋めた時給表をつくります。それを参照し,各セルに入っている労働者の数を,時給の度数分布表に割振って時間給の分布を出す,という段取りです。

 いささか乱暴ではありますが,私はこの方法にて,正規職員,非正規職員,フリーランスの時給分布を出しました。年間200日以上の規則的就業をしている者で,時給を出せたのは正規職員が3261万人,非正規職員が1049万人,フリーランスが115万人です。

 完成した分布表は以下になります。昨日,ツイッターで発信したものです。


 3つのグループでは,分布がかなり異なっています。非正規とフリーランスは,低い方のボリュームが多く,時給1000円未満の率は,正規が10.5%であるのに対し,非正規は41.6%,フリーランスは38.8%です。

 フリーランスでは,最も低い500円未満が18.8%と最も多くなっています。ほぼ5人に1人が,超悲惨な働き方をしていると。仕事時間が際限なく長くなりがちな一方で,もらえる対価が少ないためです。

 なお,性別のデータも出せます。予想通り,男性より女性の分布が下に偏しているのですが,フリーランスにあってはそれが顕著です。男性フリーランス89万人,女性フリーランス26万人の時給分布を出し,グラフにすると,以下のようになります。


 フリーランスの時給ピラミッドですが,いかがでしょうか。分布の棒を男女で塗り分けると,女性フリーランスにあっては,時給の最下層が多いことが分かります。全体の33.8%,3人に1人が時給500円未満です。

 報酬の不当な減額,さらには不払いなんてのもあるでしょう。時給500円未満が最多,まったくもって目も当てられません。

 その一方で高収入の人もいて,フリーランスでは「上」と「下」に割れている度合いが高いのも特徴といえます。

 これからは,組織に属さない「個」の働き方が増えてくる,今のままではいけないと,フリーランス保護法なるものもできていますが,2022年の実態はこうです。文書での発注義務,一方的な報酬減額禁止など,法律の遵守を国としても徹底させないといけません。

2022年12月21日水曜日

都道府県別の大学進学率(2022年春)

  久々のブログ更新になります。今年の『学校基本調査』の確報結果が出ましたので,今年春の都道府県別の大学進学率を計算してみようと思います。

 文科省『学校基本調査』の年次統計をみると,今年春の大学進学率は56.6%と報告されています(コチラの表9)。おそらく,この数字の意味を正しく理解している人はごくわずかでしょう。大学進学率とは,同世代の中で大学に進学した人が何%かです。単純なようですが,計算の仕方はちょっと混み入っています。分子,分母を順に説明します。

 まず分子には,今年春の4年制大学入学者数を充てます(以下,4年制大学を大学と言います)。今年春の大学入学者は63万5156人(A)。

 分母は,今年春の推定18歳人口を使います。高校卒業者としたいところですが,同世代の中には高校に行かない人もいますので,これはNG。そこで3年前の①中学校卒業者,②中等教育前期課程卒業者,③義務教育学校卒業者の合算を使います。3年経った今年春の推定18歳人口と見立てるわけです。

 3年前(2019年)の『学校基本調査』によると,①は111万2083人,②は5346人,③は3856人。これらを合算し,今年春の18歳人口は112万1285人(B)と見積もられます。

 これで分子のA,分母のBが得られましたので,2022年春の18歳人口ベースの大学進学率は割り算をして,56.6%となる次第です。文科省の報告書に出ている56.6%と合致しますね。分子には過年度卒業生(浪人経由の大学入学者)も含みますが,今年春の現役世代からも,浪人を経由して大学に入る人が同じくらい出ると仮定し,両者が相殺するとみなします。

 以上が,公的に採用されている同世代ベースの大学進学率の計算方法です。今の日本では同世代の56.6%,2人に1人が大学に行く。メディアでよく言われていることですよね。

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 さて,本題はここからです。上記の56.6%は全国の数値ですが,地域別にみると大きな開きがあるであろうことは容易に推測されます。『学校基本調査』の結果概要には大学進学率の全国値しか出てませんが,都道府県別に同じ数値を算出する方法があります。今年春の都道府県別の大学進学率を独自に計算してみましょう。

 私の郷里の鹿児島県を例にします。本日公開された『学校基本調査』(高等教育機関編)に,大学入学者の数を,出身高校の所在地別に知れる統計表が出ています(コチラの表16)。これによると,今年春の大学入学者のうち,鹿児島県の高校出身者は6521人(過年度卒業生含む)。これが分子です。

 分母には,今年春の同県の推定18歳人口を充てるわけですが,3年前(2019年)の鹿児島県の中学校卒業者,中等教育前期課程卒業者,義務教育学校卒業者の合計は1万5445人。これが分母です。

 よって,今年春の鹿児島県の18歳人口ベースの大学進学率は,6521/1万5445=42.2%となります。先ほどみた全国値(56.6%)よりだいぶ低いですね。

 このやり方で,今年春の47都道府県の大学進学率を計算してみました。ジェンダー差もみたいので,男子と女子に分けた進学率も出しました。以下に掲げるのは,結果の一覧です。このデータは文科省の資料に出ているものではなく,私が独自に計算したものであることを申し添えます。


 黄色マークは最高値,青色マークは最低値です。最高は東京の76.8%,最低は秋田の39.6%となっています。40ポイント近い開きです。

 全国値は56.6%,「今では,同世代の2人に1人が大学に行く」なんて言われますが,50%を超えるのは24県,全都道府県の半分です。大学進学率が8割近い東京にいると,中学の同級生のほとんどが大学に行くなんて思いがちですが,地域別にみると,そうではない県のほうが多し。これが意味するところは,大学進学チャンスには大きな地域格差がある,ということです。

 「大学進学率の都道府県差は,各県の生徒の自発的な進路選択の結果だ」などと考える,おめでたい人はいないでしょう。一番低い秋田は,子どもの学力上位常連県ですよね。同じく学テ上位常連の北陸3県の大学進学率も高い方ではありません。大学進学率が低い県が,表の上と下,東北や九州に多いのも気になる。

 家庭の所得水準が低い,自宅から通える大学が少ない…。能力や意向とは違う,各県の社会経済要因に由来するであろうことは容易に推測できます。たとえば県民所得と絡めてみると,右上がりの傾向がみられます。所得が高い県ほど,大学進学率が高い傾向です。大学の学費は高額ですので,こうした費用負担の要因が関与するというのは道理です。

 親年代の大卒率とは,もっと強く相関しています。2020年の『国勢調査』から,45~54歳の大学・大学院卒率を都道府県別に出すと,東京は42.1%,秋田は15.5%(コチラより算出)。18歳生徒の親御さん年代の大卒率ですが,違いますね。

 全県のデータによる相関図は以下のようになります。


 明瞭なプラスの相関関係です。相関係数は+0.8を越えます。大卒の親は子どもの進学を肯定的にとらえやすい,というのもあるでしょう。ホワイトカラー職に就いている人が多く,大卒学歴の価値を認識している度合いが高いともいえます。

 非大卒の親は,子が「大学に行きたい」と言っても,「高い金出して行かなくても…」と止めてしまいがち。近くに大学がなく,下宿費まで出さないといけないとなったら,なおさらです。

 所得のような費用負担能力だけでなく,こうした文化的要因もあり得る。だいぶ前,東工大が,非大卒の親をもった学生向けの給付奨学金制度を創設すると発表し,注目を集めました。これなどは,保護者のモチベーション格差を埋める手立てと考えられます。

 あと大きいのは,地方では自宅から通える大学が少なく,都市部に出る下宿費もプラスで負担しなければならないことです。バカ高の学費に加え,仕送りの負担も加わる。所得水準が低い地方の家庭にとって,これは重い。東大は女子学生の家賃補助をしていますが,こういう支援も求められるところです。

 他にもいろいろ要因はありますが,ここで出した大学進学率の都道府県差は,社会経済要因の影響を強く被った「格差」としての性格を持つ。この点を押さえていただきたいと思います。本ブログでは,県別の大学進学率を毎年出していて,私が考えるところは述べています。読んでみたいという人は,左上の検索窓で「都道府県 大学進学率」という言葉を入れ,記事を探してみてください。

 最後に1点。最初の表を見てほしいのですが,沖縄県の大学進学率が50%となっています。昨年の43%と比して,かなり伸びています(2021年春の県別大学進学率はコチラ)。消費税の増税分を財源とした,高等教育無償化や給付奨学金制度の効果でしょうか。沖縄県の大学生の給付奨学金利用率は,47都道府県の中で最も高し。

 本日のニューズウィーク記事で書きましたが,奨学金は教育の機会均等に寄与しているのは事実です。問題は貸与型の比重が未だに高いことで,真の機会均等実現の助けとなる,給付型の比重を高めてほしいと願います。

2022年9月12日月曜日

未婚者と有配偶者の死亡率比較(死因別)

  新居に引っ越して,今日で2か月です。1ルームですが,家具の配置を工夫してどうにかしています。狭いだけにエアコンの効きはよく,ガスは都市ガス,そして無料wi-fiの部屋ですので,基礎経費は前居と比して安くなり,助かっています。

 駅チカで,横須賀中央まで15~20分ほどで出れるようになったのもいい。横須賀の名景として知られる馬堀海岸も近くで,毎日,海風に吹かれながら,ここをウォーキングしています。

 このように生活環境はかなり変わりましたが,独り身の自宅仕事は相変わらずで,生活に「他律」というものがなく,気の向くままに暮らしています。食事も「孤食」はもちろん,「固食」にもなりがちで,茶色いメニューが並んだ食卓に向かっては,「いかんなあ」と漏らすこともしばしばです。家族持ちなら,こういうことはないでしょうけどね。

 厚労省の『人口動態統計』をみてみると,私くらいの中年男性の死亡率は,既婚者より未婚者で高くなっています。未婚男子は不健康な食生活になりやすいからでしょうが,細かい死因別の死亡統計を比較してみると,この推測が確からしく思えてきます。

 『人口動態統計』から,主要死因の年間死亡者数を配偶関係別に知ることができます。2020年だと,コチラのサイトの下巻表7です。45~64歳の男女について,未婚者と有配偶者に分けて,主要死因の死亡者数を取り出すと以下のようになります。未婚者とは,一度も結婚したことがない人です。


 男性をみると,死亡者総数は未婚者が2万4624人,有配偶者が2万8258人となっています。後者の方がベース人口の上で多数なのですから,当然といえばそうです。

 しかし死因別にみると,「未婚者 > 有配偶者」のものが多くなっています。肺炎の死亡者は未婚者が750人,有配偶者が288人です。糖尿病や高血圧疾患による死亡者数も,未婚者は有配偶者の場合以上です。ベース人口の差を考慮すると,これらの病で命を落とす確率は,未婚者が有配偶者よりもだいぶ高いことになります。

 女性はこのような差はなく,全ての死因で「未婚者 < 有配偶者」となっています。ベース人口の差を反映しています。どうやら,懸念される「未婚者 > 有配偶者」の差は,とりわけ男性で顕著であるようです。ベース人口で割った死亡率にして,差を浮き彫りにしてみましょう。

 2020年の『国勢調査』によると,同年10月時点の45~64歳男性(日本人)の未婚者は347万3234人,有配偶者は1103万8376人となっています(コチラの統計表)。したがって,トータルの死亡率は以下のようになります。ベース10万人あたりの死亡者数です。

 未婚者=2万4624人/347万3234人=709.0人
 有配偶者=2万8258人/1103万8376人=256.0人

 同じ中高年男性でも,未婚者の死亡率は有配偶者の2.8倍ということになりますね。まあ分かり切ったことですが,死因別にみると,倍率が大きいのが出てきます。上表の各死因の死亡者数を,ベース人口で割った死亡率に換算し,「未婚者/有配偶者」の倍率が高い順に配列すると以下のごとし。


 肺炎による死亡率は未婚者が21.6,有配偶者が2.6。前者は後者の8.3倍です。糖尿病は7.5倍,高血圧は6.8倍,腎不全は6.4倍の開きが出ています。

 肺炎はタバコ,糖尿病は甘いもの,高血圧や腎不全は塩分の摂り過ぎが原因とみられますが,こういう習癖になりやすいのは,食を「他律」されることの少ない未婚者でしょう。とりわけ独り身の男性ではそうです。

 46歳の単身未婚男性の私は,まさに「懸念層」なんですが,思い当たる節は大有りですね。

 ちなみに死亡者(50歳以上)の年齢の中央値を計算してみると,男性の未婚者は69.95歳,有配偶者は81.79歳です。未婚者は既婚者より,12年ほど早死にです。女性では傾向が反対です。上記の死因別のデータをみると,さもありなんですね。

 うーん,年金の恩恵にあまりあずかれそうにないので,保険料を払いたくないなあ。

 命というのは,生活習慣と関連している。逆に言えば,きちんと自分を律することができれば好ましい方向に向くということでもあります。これから「食欲の秋」ですが,頭の片隅に置いておきたいことです。

2022年8月27日土曜日

奨学金利用率の地域差

  米国では,奨学金返済に苦しんでいる人を救うべく,1人あたり1万ドル,借入額をチャラにするそうです。日本円にして120万円くらいでしょうか。私も現在返済中ですが,これをやってくれたらどんなに有難いことかと思います。

 昔に比して大学進学率が上昇し,高等教育の機会が幅広い階層に開かれたといいますが,奨学金という名の借金を負わせることで,それが進められてきたのも事実です。よくないことに,有利子の比重も増しています。

 私の頃は,大学生の奨学金利用率は1割ほどで,ほとんどが無利子だったのですが,今では利用者数が膨れ上がり,無利子より有利子の枠が多くなっています。返済義務のない給付型も創設されましたが,利用者数では貸与型が大半を占めています。

 今の大学生は,どれほど奨学金を利用しているのでしょう。日本学生支援機構のHPに当たってみると,この点の情報は公開されています(コチラです)。2020年度の大学学部学生の給付人員は,給付型が20万2030人,第一種貸与型(無利子)が34万6508人,第二種貸与型(有利子)が53万8880人です。同年5月時点の大学学部学生数は262万3572人(文科省『学校基本調査』)。

 これらの情報を表に整理すると以下のごとし。


 奨学金を利用している大学生は,給付,無利子貸与,有利子貸与の合算でみて108万7418人。複数のタイプを重複利用する学生もいますので,延べ数であることに留意してください。まあ,そういう学生は少数でしょうから,奨学金を使っている学生の頭数の近似数とみてもよいでしょう。

 全学生に占める割合は,41.4%となります。最近では,大学生の4割(5人に2人)が奨学金を使っているのですね。そのうちの半分は,有利子の貸与です。奨学金と呼べた代物ではなく,まぎれもなく「ローン」です。

 学生支援機構のHPでは,47都道府県別の給付人員も公表されています(集計方法は,学校の所在地による)。分母となる全学生数は,『学校基本調査』をみれば分かります。

 私はこれらの情報をもとに,大学学部学生の奨学金利用者率を都道府県別に計算してみました。奨学金を利用している学生(給付,無利子貸与,有利子貸与の合算)が,全学生の何%かです。以下の表は,47都道府県の数値を高い順に並べたものです。


 大学学部学生のうち,奨学金を使っている人が何%かですが,地域差がありますね。最高は沖縄の66.1%,最低は滋賀の17.9%です。滋賀では,自宅から京都の大学に通う学生が多いのでしょうか。

 首都圏でも,奨学金を使っている学生は比較的少なくなっています。自宅から通うことが容易であることもあるでしょう。

 その一方で,奨学金の利用者率が50%を超える県が20あります。私の郷里の鹿児島は53.2%で,沖縄,青森,宮崎は6割超えです。所得水準が低いので,奨学金を借りないと進学が叶いにくいのでしょう。都市部の大学に出た場合は,下宿費用も加算されますしね。

 上表のランキングを眺めていると,各県の所得水準と相関しているように思えますが,どうなのでしょう。2017年の総務省『就業構造基本調査』から,45~54歳(大学生の親年代)の男性有業者の所得分布を県別に出せます(コチラの統計表)。これをもとに中央値を計算すると,東京は633万円ですが,沖縄は332万円。倍近くの差です。

 こういう経済条件の差が,学生の奨学金利用に投影されていないか。横軸に親年代の所得中央値,縦軸に大学生の奨学金利用者率(上表)をとった座標上に,47都道府県のドットを配置すると以下のようになります。


 右下がりの負の相関関係が観察されます。父親年代の所得が低い県ほど,奨学金の利用率が高い傾向です。相関係数は,マイナス0.71861にもなります。

 地方(出身)の学生の奨学金利用率が高い事情は,上に述べたようなことだと思いますが,借金を負わせて(無理をして)進学させてるんだな,という思いを禁じ得ません。

 大学進学率50%超,高等教育のユニバーサル段階に達している日本ですが,(田舎の)学生に借金を負わせることで成り立っていると。地方は所得水準も低いので,卒業後に返していくのも大変です。数百万の借金を背負っていることは,結婚の足かせにもなるでしょう。前から申していますが,奨学金の利用増加は,未婚化・少子化にもつながっていると思うのです。

 高等教育の機会を若者に開くのはいいですが,家計(私費)依存の形でそれを推し進めると,国にとっても個人にとってもよからぬことになる。私費依存の教育拡張の病理です。高等教育への公的支出の対GDP比は,日本は諸外国と比して低いのはよく知られています。真のスカラシップ(給付型)を拡張する余地は大有りです。

 並行して,貸与型の奨学金は「学生ローン」と名称変更すべきです。これだけでも,安易な借り入れを防止することができます。奨学金という美名で釣って借金を負わせるなど,国のすることではありません。実際に勘違いする人もいて,(下の)私大で教えていた時,「奨学金って返すんですか?」と,真顔で驚く学生に会ったことがあります。

 今回は,地域別の大学生の奨学金利用者率を試算してみました。県によっては,大学生の5割,6割が数百万の借金を背負って社会に出ていく事態になっていると。若者が借金漬けになっているような地域では,希望も未来もあったものではありません。

 米国のような奨学金の一部チャラ政策をしてみるのもいい。それで足かせが外れ,婚姻率の上昇にもなればしめたものです。

2022年6月21日火曜日

小学校卒の人数

  2020年の『国勢調査』の学歴集計が公表されました。5年間隔で実施される基幹統計調査ですが,西暦の下一桁がゼロの年は学歴も調査されます。

 2020年調査では,小学校卒と大学院卒というカテゴリーが新設されています。時代と共に精緻化されているのは,好ましいことです。メディアでは前者の数が注目され,「小学校卒80万人」という見出しが,大手媒体の記事に踊っています。

 これについて「甘いな」と思うところがありますので,ここにて書かせていただこうと思います。

 まずは原資料から,15歳以上の学校卒業者の学歴回答分布を拾ってみましょう。コチラの統計表で呼び出せます。それによると,小学校卒が80万4293人,中学校卒が1126万41239人,高校・旧中卒が3784万5056人,短大・高専卒が1389万514人,大学卒が1983万9068人,大学院卒が206万874人,不詳が1505万9305人です(合計1億76万3239人)。

 なるほど,小学校卒は確かに80万人ほどです。しかし学歴不詳者も約1506万と,かなりいます。全体の15%ほどです。この中にも,小学校卒の人がいるでしょう。学歴は不詳(回答拒否等)が多いので,この部分をオミットするわけにはいきますまい。

 では,学歴不詳者の中に小学校卒は何人いるか。この点を推し量り,上記の80万4293人に加算する必要があります。いわゆる,不詳補完推計というものです。以下の表をもとに,手順を説明します。


 まずは,学歴回答者(小学校卒~大学院卒の合算)の中で,各学歴カテゴリーの人が何%かを出します。表のb欄がそれで,小学校卒は0.938%です。この割合を学歴不詳者にかけると14万1325人。この数が,学歴不詳者の中での小学校卒と推測されます。

 要するに,学歴回答者の中での割合でもって,学歴不詳者を各学歴カテゴリーに割り振る(按分する)わけです。その数は,表のc欄に示されています。

 よって,統計表で分かっている小学校卒80万4293人に,この割振り分(14万1325人)を足して,最終学歴が小学校卒の人の数は94万5618人と見積もられます。不詳補完推計による,より精緻化した数です。

 統計で分かる小学校卒は約80万人ですが,不詳者の割振り分を足すと95万人ほど。メディアでは「小学校卒80万人」という見出しが出ていますが,「小学校卒およそ100万人」としてもよいかと思います。結構な数ですね。多くは義務教育を終えられなかった高齢者や外国人等ですが,彼らが学ぶ夜間中学の整備が求められる所以です。

 そうした教育機会の整備は,地域レベルでなされるものですので,参考までに都道府県別の数値もお見せしましょう。学歴不詳者の割振り分も足した,不詳補完推計値です。


 多い順に並べていますが,最も多いのは北海道で6万3278人となっています。おおよそ人口規模と比例していますが,新潟,静岡,青森,岩手,沖縄といった県も上位であり,地域性のようなものも見受けられます。

 教育機会を欲している人の数です。各自治体は,こうした情報を把握し,学校の設置の参考にしてほしいと思います。コチラの統計表では,もっと細かく区市町村レベルの数も出せます。

 なお中学校卒も加えると,数はうんと膨れ上がります。最初の表によると,中学校卒(不詳補完推計値)は1324万3384人。東京都の人口より多いですね。今でこそ高校進学率は100%近いですが,昔はさにあらず。1960年代前半,団塊世代が15歳だった頃も6割ほどでした(地方では半分未満)。働きながら定時制高校に通う勤労青年もいましたが,卒業にこぎつけるのは容易ではありませんでした。

 「今からでも高校に…」。こういう思いの人もいるはずです。事実,孫世代の生徒と机を並べる高齢者のニュースはよく見ます。高校に,入学年齢の制限なんてありません。各地で高校統廃合が進んでいますが,教育機会を求めているのは10代の生徒だけにあらず。

 逆ピラミッドの年齢構成の社会では,上の世代も含めた教育計画の立案が求められるところです。それは,ここで出した小・中卒人口のマグニチュード(量)を一瞥するだけで分かります。

2022年4月26日火曜日

内面を生きる時期こそ読書を

  教員採用試験の勉強中の方はご存知かと思いますが,4月23日は,子ども読書の日でした。この日から5月12日までは,子ども読書週間で,子どもの読書を促す取組が各地で実施されます。

 ちょうど連休で時間もとれますので,書店や図書館に足を運び,本を手にとってほしいと思います。

 今の子どもは,どれくらい本を読んでいるか。調査データは無数にありますが,最近の信頼できる公的機関の調査データを見てみましょう。国立青少年教育振興機構が2019年に実施した,『青少年の体験活動等に関する意識調査』です。こちらのページで報告書と単純集計表を閲覧でき,必要とあらば,個票データも申請できます。

 調査対象は小4~6年の児童と,中2と高2の生徒です。1か月に読む本の冊数を尋ねた結果を,学年別にグラフにすると以下のようになります。選択された回答の分布です。漫画や雑誌は含みません。


 小学校4年生では回答が割れていますが,学年を上がるにつれ,「ほとんど読まない」の比重が増してきます。パーセンテージをみると,小4では18.5%でしたが,中2では29.5%となり,高2では58.8%まで跳ね上がります。中学生の3割,高校生の6割近くが本を読まないと。

 言わずもがな,これは受験のためでしょう。

 しかし残念な気もします。自我が芽生え,人生とは何か,自分はどう生きるかに思いをはせる,すなわち「内面」を生きる時期こそ,書物に多く触れることが望ましい。大よそ中高生の頃ですが,日本の現実をみると,本を読まない時期になってしまっています。ウチにこもりたいが,現実はそれを許さず,こうした葛藤が非行等の問題行動につながることもあるでしょう。

 ここで,1995年のジブリ「耳をすませば」が思い出されます。私が大学に入った年に公開された,中3生徒の恋物語です。池袋の映画館まで,1人で観に行った覚えがあります。館内はカップルが多く,居づらい思いをしましたがね…。

 主人公の月島雫は,天沢聖司に魅かれます。天沢少年は,高校には行かず,バイオリン職人になるための修行をすると決め,夢に向かって着々と進んでいく。それに触発され,雫は物語を書こうと決めます。受験勉強はそっちのけ,成績は急降下し家族に心配されますが,粗削りながら一つの作品を仕上げるに至ります。

 その結果,自分の不勉強を自覚し,「これではだめだ,高校に行ってもっと勉強せねば」と,勉学への内発的な動機付けが得られることになりました。無謀な試しですが,15歳の少女にとって非常に意義あるものだったのです。

 多感な思春期にいろいろな本に触れ,志あるならば「試し」をやってみる時間があればいいのにな,と思うのは私だけではありますまい。しかし日本では受験がありますので,なかなかそうはいかない。中高生が手にとる書物は,教科書か受験参考書だけ。

 ちなみに学力による高校受験というのは,どの国にもある普遍的なものではありません。OECDの国際学力調査「PISA 2018」では,15歳生徒が在籍する高校の校長に,入学者の決定に際して,学力を考慮するかと尋ねています。日本を含む主要国の回答分布は以下のごとし。


 日本の回答は予想通りです。「常に考慮する」,つまり入試で学力考査を実施する高校が大半ということです。

 しかし他国はそうではなく,アメリカは55%,イギリスは77%の高校が「全く考慮しない」と答えています。入試で学力テストを実施しない高校の率と読み替えていいでしょう。居住地域や,自校の教育方針に当該の生徒や親が賛同するかどうかなどで,入学者を選ぶわけです。

 高校受験の圧力は,国によって違います。日本の状況を普遍的なこと,致し方ないことと割り切る必然性はどこにもありません。思春期の生徒が奔放な「試し」ができるよう,できることはあるのではないか。入試の廃止は現実的でないですが,学力一辺倒のやり方は変えることができるように思います。

 そうですねえ。月島少女が背伸びして書き上げた物語を評価する,というのはどうでしょう。すなわち,「試し」の成果を評価要素に入れるのです。そうすることで,思春期の感性を存分に生かした「試し」が促され,結果として,勉学への内発的な動機づけが得られるきっかけを供することになるかもしれません。

 月島少女の頃(90年代半ば)と違って,今は「試し」の成果を発信するツールもたくさんあるわけでしてね。ブログ,SNS,ユーチューブとか。フィードバックを得るのも容易です。

 昭和型の受験勉強を強いることを,(惰性で)いつまでも続けていていいものか。型にはまった労働力を大量生産するにはいいやり方ですが,個性や創造力を育むことには不向きです。昭和と時代背景が異なる令和では,入試のやり方を考え直す余地はあるでしょう。

 読書の話から逸れてきましたが,中高生が書物を手に取れる「ゆとり」が得られるようにすべきです。朝の10分間読書でよし,としてはならないのです。