2019年7月22日月曜日

寄付金の変化

 困った時はお互い様,助け合いましょう。その術としては,無償で労働力を提供するボランティアのほか,お金を寄付するというのもあります。貨幣経済が浸透した現在では,後者の比重が高まっています。

 子どもが難病を患い,海外で高額な手術を受けないといけない。そこで親が募金を手掛け,数千万円もの寄付が寄せられた,というケースは実際にあったこと。日本には1億2千万人の人口がいますが,その100人に1人(120万人)が50円出してくれたら,6000万円のお金が集まります。善意のチカラはもの凄い。

 寄付金の額というのは,助け合いのスピリットを「見える化」するのにいい指標だと思います。ググればどっかの団体が調査した数値も出てきますが,時系列変化もみれる公的統計のデータが望ましい。

 お金といったら,総務省の『家計調査』です。品目別の支出額の統計表をみたら,品目のカテゴリーに「寄付金」というのがあります。最新の2018年のデータをみると,1世帯あたりの寄付金の年間支出額は4506円となっています(単身世帯は除く)。

 普通の家庭の場合,500円の寄付を年間に9回やっている計算ですね。あくまで平均なんで,額が際立って高い世帯に引きずられている可能性もありますが。

 はて,この額はどう推移してきているのでしょう。今世紀になってからの推移をグラフにしてみます。


 2010年までは3000円近辺を推移してきましたが,2011年には6579円と,ボーンと跳ね上がっています。理由は明確。同年3月に起きた,東日本大震災の被災者への寄付でしょう。私も,コンビニのレジの募金箱に入れさせていただきました。

 翌年には元の水準に戻りますが,2015年から上昇に転じ,16年には5000円を超えます。17年には下がりますが18年にはまたアップして4506円。長らく続いた3000円付近から一段上がった水準が定着しつつあります。

 返礼品目当てのふるさと納税でしょうか。あるいは,ネット募金やクラウドファンディングが増えているためかもしれません。今では,個人でもこういうことをしやすくなっていますからね。

 事態にもう少し迫るべく,どういう層で寄付金の支出が増えているかをみてみましょう。1世帯あたりの年間支出額は,世帯主の年齢層別に知ることができます。最新の2018年と,10年前の2008年を比較してみます。


 増えているのは,30~50代となっています。60歳以上の高齢層では減少です。20代は,お金がないためか額は少ないものの,10年間の増加率が高くなっています。

 ITの素養がある若年層や壮年層の増加率が高いことから,やはりネット募金やCFの影響の線が強そうですね。余談ですが,2018年の40代(ロスジェネ)で谷ができているのも注目。

 昨日,このグラフをツイッターで流したところ,ちきりんさんが「テクノロジーで時代が変わることの好例」と言われてましたが,その通りだと思います。ネットのおかげで,人々の善意を集めやすくなっている。

 しからば,他の分野にもこのテクノロジーを適用したらどうか。昨日は参院選の投票日でしたが,投票率は過去最低レベルで50%を割ったそうです。それに寄与しているのは,若年層でしょう。「若者は選挙に行くな,どうせ政治に関心なんてないだろう,お前らは存在しないも同然」。こんなことを言っている,メチャクチャな煽り動画も公開されてましたが,こんなふうに挑発するだけでいいのでしょうか。

 投票所に出向き,紙にマルをつけ,四角い投票箱に入れる。こういうアナログなやり方が,時代にそぐわなくなりつつあると感じます。随所で言われていることですが,ネット選挙の導入を検討すべきかと思います。上記のグラフから察せられるように,テクノロジーで事態は変わる可能性は大ありです。

 寄付に話を戻すと,ITを介して善意を集めやすくなっているのは,素晴らしいことですね。人々を納得させる有意義なプロジェクトであるならば,その実行に必要な資金を簡単に集めることができます。今は大学も苦しくなっており,研究者も自前で研究費を調達しないといけない時代。自分の研究の意義を,一般人に分かってもらえるよう,分かりやすく説明できるようにならないといけない。科研費の申請書に書くような文書では,とうてい分かってもらえません。

 上記の年齢別グラフをもう一度みると,寄付金の支出額が高齢層では下がっています。しかし,貯蓄はスゴイのですよね。ガッツリ溜め込んだところで,振り込め詐欺の被害に遭うこともあるし,自分が死んだあと,相続ならぬ争族(遺族の争い)を引き起こすだけです。はき出すことも考えてほしいなと思います。

2019年7月21日日曜日

教員採用試験の合格率・人物重視度

 陽は出てませんが,蒸し暑く夏らしくなってきました(横須賀)。7月も下旬ですが,多くの自治体で教員採用試験の一次試験が行われていることと思います。東京都は先週でした。受験者のみなさん,お疲れ様でした。

 「これから二次試験対策だ」と意気込む人がいる一方で,「どうせ筆記はパスしないだろうから,二次対策は止めだ」と消沈している人もいるでしょう。また,筆記が受かるかどうか予測がつかず,困惑している人もいるはず。

 結果がどうなるかは神のみが知りますが,過去のデータ(経験的事実)で見当をつけることはできます。合格者を受験者で割った,合格率という指標です。東京アカデミーが自治体別のデータを調べ,HPで公開してくれています。2017年夏に実施された,2018年度試験のデータです。
http://www.tokyo-ac.jp/adoption/outline/result/hokkaido.html

 東京都の小学校教員採用試験の数値は,以下のようになっています。

 A)受験者数 = 3544人
 B)1次合格者数 = 2581人
 C)2次合格者数 = 1979人

 これに基づくと,1次の筆記試験合格率は,2581/3544=72.8%となります。筆記の合格率は7割,じゃんじゃん通すのですね。東京都の試験問題は結構難しく,「ダメだろうな」と気落ちしている人もいるでしょうが,案外大丈夫かもしれないですよ。

 2次試験の合格率は,1979/2581=76.7%ですか。これも思ったより高いな,という印象です。受験者ベースの最終合格率は,1979/3544=55.8%,半分を超えています。受験者の2人に1人が通ると。

 教員採用試験も競争率が低下し,難易度が下がっているといいますが,ホントにそうなのですね。私の世代(ロスジェネ)が新卒だった頃と比べると,隔世の感があります。「まさかあの人が…」という優秀な人がバンバン落とされてましたから。

 他の自治体についても同じ数値を計算しましたので,一覧をお見せしましょう。石川県は,1次合格者数が非公表なんで,データを出せませんでした。


 どの自治体も合格率が高くなっています。70%,80%を超える数値がちらほら見られます(赤字)。北海道の1次合格率は97.9%(受験者758人,合格者742人)。二次の合格率も82.9%で,受験者ベースの最終合格率は両者をかけて81.1%,「ホントかよ」と目を疑います。

 1次と2次の合格率が乖離している自治体もあります。福島県は1次はちょっとばかり難しいようですが,2次で落とされることはほとんどないようです。逆に高知県のように,1次はたくさん通して,2次でバンバン落とす自治体もあり。

 筆記重視か人物重視かは,自治体によって異なるようです。高知県の受験者は,1次をパスしたからといって安堵せず,面接対策に本腰を入れる必要がありそうです。

 自分が受ける自治体がどれほど人物(面接)重視か? こういう関心をお持ちの学生さんもいるかと思います。まあ,上記の合格率から見当はつきますが,単一のメジャーを作ってみます。2次試験の不合格者が,不合格者全体に占める割合(%)です。

 計算式=(1次合格者数-最終合格者数)/(受験者数-最終合格者数)

 東京都の場合,(2581-1979)/(3544-1979)=38.5%となります。残念ながら不合格となった人のうち,2次面接で落とされた人が38.5%であったと。私が住んでいる神奈川県だと,57.8%となります。お隣同士ですが,神奈川県のほうが人物重視のようです。

 全自治体のデータをご覧いただきましょう。


 50%超は赤字にしましたが,結構ありますね。北海道,大阪府,大分県では不合格者の8割以上が面接での脱落者となっています。

 この数値は人物重視度を測る尺度であって,2次試験の難易度を示すものではありません。北海道は,2次の合格率も高いですしね(最初の表)。ただ大阪府は,2次の合格率が低いので,対策に万全を期す必要がありそうです。

 福島県と沖縄県は,筆記で決まる度合いが高いようです。不合格者のうち,面接で落とされた人はごくわずかです。筆記試験の難易度は高くなっています。福島県の教職教養では,学習指導要領の原文の空欄補充問題が毎年出ます。選択肢なしで,書かせる問題です。拙著『教職教養らくらくマスター』にて,赤シートを使った暗記学習をしておくとよいと思います。

 以上,2018年度の小学校教員採用試験の経験データを紹介しました。受験生諸氏の展望を晴らすのに役立てばと思います。「合格率,こんなに高いんだ」と安堵されましたか。自治体によって難易度は違いますけど,普通にやっていれば大丈夫です。これから2次試験対策を始める学生さん,面接では気負いは禁物。肩の力を抜きましょう。

 ただ,知的武装はしておいたほうがいいです。最近の教育時事を取り上げ,「あなたはどう思うか」「どうしたらいいか」と,意見を求められることがあります。それに対し,口ごもるようではアウト。最近の政策文書の概要には目を通し,自分なりの考えは持っておきたいものです。

 日頃から新聞をマメにチェックしている人は特別の準備は要らないでしょうが,そういう人は少ないでしょう。そこで,拙著『速攻の教育時事・2020年度試験対応』をおススメいたします。新学習指導要領の改訂の答申,教員の働き方改革,第3期・教育振興基本計画等,重要文書のエッセンスを見開きでまとめています(合計71テーマ)。短期間で,教育時事に精通できるよう,工夫を凝らした本です。
https://jitsumu.hondana.jp/book/b432109.html

 健闘を祈ります。

2019年7月20日土曜日

学校の職業教育の評価

 日本教育新聞で週1の連載を初めて5年になります。我ながらよく続けているもんだと思います。「毎週,よくネタが尽きませんね」と言われますが,ブログやツイログをちょっと漁れば,ネタなんていくらでも出てきます。
https://blog.goo.ne.jp/tmaita77

 本紙は国内唯一の教育専門紙で,全国津々浦々の学校で講読されていると聞きます。私のコラムは2面に格上げしていただき,読者の目に触れやすくなっています。そのせいか,コラムをみたという読者さん(多くが教員)からメールが来ることも増えてきました。

 一昨日の夕方,地方の高校の先生からメールがきました。「日本の学校は,職業と直結した職業教育が脆弱であると思う。他国と比較したデータはないか」というものです。うーん,ざっくりしていて答えにくいですが,教育を受けている生徒や学生の評価をうかがい知るデータはあります。

 内閣府が2018年に実施した『我が国と諸外国の若者の意識に関する調査』では,生徒・学生に対し,「現在通っている学校は,仕事に必要な技術や能力を身に付けるうえで意義があるか」と訊いています。4段階で答えてもらう形式です(Q48の3)。
https://www8.cao.go.jp/youth/kenkyu/ishiki/h30/pdf-index.html

 私は,各国の中学生・高校生・大学生のサンプルを取り出し,この問いに肯定の回答をした生徒・学生の率を出してみました。「意義がある」という,最も強い肯定の回答のパーセンテージです。*個票データの分析による。

 結果を簡素なグラフにすると,以下のようになります。


 日本はいずれの段階でも,意義を認める生徒・学生の率は低くなっています。中学校は28.3%,高校は28.7%,大学は23.2%です。中高生よりも大学生で低い,という傾向すら出ています。「中→高→大」と,コンスタントに評価が上がっていくアメリカとは対照的ですね。

 ドイツは高校で高いですが,教育と職業訓練の2本立て(デュアルシステム)のなせる業でしょうか。

 メールをくださった高校の先生は,「やはり…」と肩を落とされているかもしれません。日本の生徒・学生に,学校の職業教育の意義を評価させると,こういう有様になります。まあ日本の生徒の場合,将来就きたい職業なんて未定という子が多いので,「意義がある」という明瞭な評価をしにくかったとも考えられます。

 それに,上記の結果をもって学校だけを責めるのは筋違いでしょう。日本の雇用はジョブ型ではなく,メンバーシップ型で,企業は学生が学校で何を学んだかなんて関心を持っていません。面接で,学校で学んだことを訊かれるなんて稀。先方が知りたいのは,性格にクセがないか,組織の和を乱さないか,長く勤めて自社の色に染まってくれるか…。こんなところです。ねらいは,一緒に働くにふさわしいメンバーを迎え入れることです。

 対してジョブ型の欧米では,学校で何を学んだか,何ができるかを徹底的に訊かれます。逆にいえば,それを訊かないと侮辱罪として学生の側から訴えられるケースもあるそうです。労働者に期待する職務が明瞭で,それを遂行する能力を有しているか。この点をジャッジすると。学校では,実践的な職業教育に力が入るわけです。

 日本では,入社後に職業訓練を行い,長いことかけて自社の色に染めていきます。勤続年数と共に給与をアップさせ,定着のインセンティブを強めるという仕掛けつきです。しかし,そういう「丸抱え」のやり方も綻びを見せ始めています。大企業は40代半ば以降の社員のリストラをしていますし,経団連のトップも「もはや終身雇用の維持は難しい」と口にしています。企業も体力がなくなり,学校にも実践的な職業教育を期待する度合いは高くなっていくでしょう。

 そもそも,異国の人にすれば「クレイジー」としか思えないメンバーシップ型を維持していたら,これからますます増える外国人労働者,高度なスキルをもった外国人労働者を採用するなんてできますまい。彼らは,自分の能力に見合った給与を情け容赦なく求めてきますのでね。「新人は,最初はみんなお茶くみと雑巾がけから」。こんなことをしたら,裁判を起こされちゃいます。

 今年の春に専門職大学ができましたが,こういう時代の変化に即したものだと思えます。教員の4割は実務家教員とすることとありますが,中等レベルの学校でも,こういう人材がある程度必要になってくるでしょう。実践的な職業教育は,大学を出たての22歳の若者には難しい。産業界の経験のある実務家教員の採用枠を増やすべし。また副業が奨励され,パラレルキャリアの時代になりつつあるので,社会人講師に教壇に立って貰うのもよし。

 教育は人なりと言いますが,実践的な職業教育を充実させるには,上記のように教員集団の組成を変える必要も出てきます。その度合いは,民間企業の経験が長い教員,またパート教員の割合で測ることができるかと思いますが,この2つのマトリクス上に世界各国を散りばめるとどうでしょう。下のグラフは,「TALIS 2018」の個票データから作ったものです。


 うーん,日本は2つの指標とも低いので,原点付近にあります。パート教員率は9.7%,民間経験10年以上の教員に至っては1.9%なり。学校と社会の敷居が高い故か,教員の多様性が進んでいません。

 対して,右上のカナダやブラジルはスゴイですね。教員の8割はパートで,3~4割が民間経験が長い実務家教員となっています。17日公開のニューズウィーク記事でデータを出しましたが,ブラジルでは教員の仕事時間の9割は授業なんですよね。その理由が分かる気がします。

 学校とは,勉強をするところ。社会生活に必要な資質や能力を育むところ。これが原点です。社会の変化に伴い,学校も,このような原点回帰が求められるようになっています。思い切ってスリム化を断行し,業務を授業に絞るのはどうでしょう(学校行事等の特別活動は授業です)。そうすれば,教員の多様性を押し進めることもできます。目指すべきは,上記のマトリクスにおいて右上にシフトしていくことです。

 少子高齢化に伴い,学校にも人手不足の波が及んでいます。今となっては,教師と子どもが全身全霊で触れ合うことによる全人教育など,学校だけでできることではありますまい。積極的に学校を開放し,外部社会の助けも借りて,社会全体で子を育むという気構えが必要なのです。

 そういう分業において,学校は教授・学習活動に専念する。それがどれほどできているかは,最初のグラフで示された,職業教育への評価によって知ることができます。学校の職業教育への評価が低いのは,日本の雇用慣行による部分が大きいのですが,機能を散漫させている学校の問題でもあるように思います。

2019年7月15日月曜日

中日新聞の非常勤講師の記事

 中日新聞のWeb版に「研究者目指したけれど 大学非常勤講師らの嘆き(下)」という記事が出ています。私もちょっとだけ登場しています。
https://www.chunichi.co.jp/article/living/life/CK2019071502000002.html

 メインは,天池洋介さんという現職の非常勤講師の方です。年齢は39歳,私と同じく氷河期世代ですね。現職の人で,実名・顔出しで出るとは勇気があるなと思います。雇い止めや就職活動への影響を恐れ,尻込みする人が多いのですが,問題を告発したいという気概が勝ったのでしょうか。

 内容もリアルです。年収は200万未満,1日1食,コンビニ弁当にも手が出ない…。生活苦を包み隠さずさらけ出しています。東海圏の大学や専門学校4校で非常勤をされていて,今年度は前期6コマ,後期5コマですか。1コマ(半期15回)の対価が15万円ほどですので,年収は15万 × 11コマ=165万円。幾ばくかの雑収入を合わせても,200万には届きそうにありません。

 それでも,「1日1食,コンビニ弁当にも手が出ない」というのはオーバーではないかと思われるかもしれません。しかし,奨学金返済や研究費・学会参加費自腹という重荷が加わりますので,あり得ないことではありません。

 年間の奨学金返済が30万円,研究費・学会参加費が15万円とすると,手元に残るのは,165-45=120万円。月に10万円で,食費,交際費,家賃,光熱費,税金,国保・年金等を賄わないといけない。「1日1食,友人から恵んでもらったお米でおかずは白菜の漬物」となっても,なんら不思議ではないです。これが,専業非常勤講師のリアルです。

 その専業非常勤講師ですが,文科省統計では「本務なし兼務教員」としてカウントされています。4年制大学(以下,大学)の専業非常勤講師数をみると。1989年は1万5689人だったのが,2016年9万3145人に膨れ上がっています。6倍の増加です。同じ期間にかけて専任教員が1.5倍にしか増えてない(12万1105人→18万4273人)ことと比すと,すごい増加率です。

 大学の人件費抑制志向が強まっているためですが,上記のような超薄給で,よくもまあなり手がいるもんだと不思議に思われるでしょう。答えは簡単,大学院重点化政策で行き場のないオーバードクターが増えているからです。今や,非常勤講師の職も奪い合いで,採用時に給与すら聞けない状態になっています。需要側の要因(人件費抑制)と供給側の要因(ODの増加)が,絶妙にマッチしているわけです。

 様相は専攻によっても違います。大学の専任教員数と専業非常講師数を専攻別に整理すると,以下のようになります。上段は大学院重点化前の1989年,下段は最新の2016年のデータです。文科省『学校教員統計』から採取した数値です。


 どの専攻でも,専業非常講師が増えています。増加幅は専任教員を上回り,専業非常勤講師の比重も増しています。2016年でみると,人文科学と芸術では,前者より後者が多くなっています。人文科学は,大半が語学系の授業を持つ非常勤でしょうが,この依存率はすさまじい。

 授業の多くを,不安定な生活にあえぐ専業非常勤講師が持ったらどうなるか。研究室がなく,複数校を掛け持ちしている人も多いので,学生の質問に落ち着いて応じるのも難しい。「時間がないから今度ね」「またね」…。こういう拒否反応を何度もされたら,学生も勉学の意欲が萎えるというものです。

 首都圏非常勤講師組合のアンケートの自由記述をみると,待遇の悪さに不満を高じさせ,投げやりな態度で授業をする人もいるようです。これも無理からぬこと。真面目に授業準備や質問対応をすればするほど,時給が下がる構造ですので。私自身,2012年頃から「もらえる分しか仕事しない」と割り切るようになりました。学生さんに申し訳ないとは思いつつも。

 それだけならまだしも,露骨に有害なことをする輩もいます。たとえば,卒論代行のバイトです。1本請け負えば手取りで15万円ほどもらえます。半期1コマの授業と同じ対価です。自分の専門も活かせるので,これはオイシイ。良心を痛めつつも,背に腹は代えられぬと,こういうバイトに手を染める輩もいるんです。これは,大学教育にとって明らかに有害なこと。

 昨今,経営難に苦しむ大学が増えていますが,人件費抑制志向も度が過ぎると,大学教育の質を脅かすことになりそうです。大学教員の専業非常勤化は,高度人材の人権侵害のみならず,学生の教育を受ける権利をも侵害します。

 では,どうすべきか。まずは,非常勤講師の待遇改善でしょう。実をいうと,大学によって少なからぬ幅があります。1コマの対価も違いますし,わずかながらボーナスを支給したり,試験採点の手当てを出す大学もあります。この辺は,大学の良識に関わることです。その気になればできること。とくに,授業の多くを非常勤講師に外注している大学は,考えてもらいたいところです。

 そもそも,授業の大半を非常勤講師に外注するのも問題。非常勤講師が持つ授業の割合に制限を設けるべきです。授業の半分以上を非常勤講師が担当するなど,言語道断。学生にすれば「何この大学,先生はほとんどバイト?」です。

 あとは,大学教員市場に続々と送り込まれるオーバードクターを人為的に減らすこと。供給過剰の状態にある,大学院博士課程の定員の見直しも必要でしょう。まあ,行き場がないことが知れ渡ったためか,博士課程の入学者は2003年をピークに減少の傾向にあるのですが(下図)。


 中日新聞記事にて,ご自身の苦境を包み隠さず曝露された,天池洋介さんの気概に敬意を表します。現職の非常勤講師が,実名・顔出しでこの問題に切り込むのは,非常にレアケースです。

 現在,39歳とのこと。私は40歳になった2016年に,「若い人に代わって欲しい」と,非常勤講師を軒並み雇い止めになりました(会議や会合に出ない,私の態度が問題になったという話も聞きましたが)。この「40歳の壁」に阻まれないことを祈ります。

 最後になりましたが,名古屋から横須賀まで取材に出向いてくださった,中日新聞の細川暁子氏に感謝の意を表します。

2019年7月13日土曜日

都道府県別の空き家率の推計

 鹿児島の奄美地方では,梅雨明けが発表されたそうです。関東はいつになるのやら。曇天の日が続き,気が滅入ります。

 昨日,「2043年の都道府県別の空き家率の推計」という表をツイッターで流したところ,「実感ある数値だ,計算方法を教えて欲しい」という質問がきました。メールでです。

 別に,込み入ったことをしているのではありません。中学生でも思いつくような,単純な外挿法です。今のトレンドが続くと仮定した場合,未来はどうなるかを推し量っただけです。使用したのは,2013年と2018年の都道府県別の住宅数,空き家数です。総務省『住宅土地統計』に載っています。

 私の郷里の鹿児島県を例に,説明いたしましょう。


 2013年から18年にかけて,住宅数は1.017倍,空き家数は1.130倍に増えました。この倍率を18年の戸数にかけて,23年の住宅数・空き家数を出します。同じ倍率を23年の戸数にかけ,5年後の28年の戸数を出す…。この繰り返しです。

 分母と分子が今のペースで変化し続けると仮定した場合,どうなるかです。直線的な変化を仮定した乱暴な試算ですが,これによると,20年後の2038年の鹿児島県の住宅数は94万2883戸で,うち空き家が27万991戸と見込まれます。空き家率は28.7%です。さらに20年経った2058年には43.7%になると。

 県内の住宅の4割が空き家…。にわかには信じがたいですが,実際はもっと高くなるのではないでしょうか。人口減少の中,さすがに新住居の建設は控えられるでしょうから,分母の増加は緩やかになる,いや減少に転じる可能性があります。対して分子の空き家数は,増加のスピードが高まるとみられます。これから,死ぬ人が増えてきますので。

 今から40年後,鹿児島県の空き家率は50%,半分を越えているかもしれません。しかるに,同じやり方で全県の空き家率を予測してみると,このラインを超える県も出てきます。2018年の実測値,2038年と2058年の予測値を高い順に並べたランキング表を掲げます。20年スパンの未来展望です。


 全国値はほとんど変わりません。住宅数と空き家数の増加スピードがほぼ同じだからです。しかし前者より後者が大きい県では,空き家率はどんどん上がります。先ほど例示した鹿児島県は,その典型です(18.9% → 28.7% → 43.7%)。

 20%を超える県は薄い色,30%を超える県は濃い色をつけました。時代と共に,不穏なゾーンが広がってきます。空き家が今のペースで増え続けるとしたら場合,2058年には,空き家率20%超の県が19県,30%超が11県になると見込まれます。

 被災3県(宮城,福島,岩手)は,信じがたい数値になっています。計算に使った,2013~18年の空き家の増加倍率が高いためです。2011年の東日本大震災の影響であるのは明白で,これら3県の数値は割り引いて考える必要があります。

 しかし,それとは無関係な西の諸県の空き家率も高く出ています。和歌山県は52%,鹿児島県は44%,徳島県は43%です。少産多死が進む中,分子の空き家数の増加速度は高まるでしょうから,実際はもっと高くなる可能性もあり。

 全住宅の2割,3割,4割が空き家…。こういう地域が出てくるわけです。放置しておいたら,ゴーストタウン化するのは必至。堀江貴文さんが予言している通り,「家賃は要らないから,ハウスキーパーとして空き家に住んでください」と懇願される時代になるかもしれません。

 前回も書きましたが,先行き不透明な中,長期のローンを組んで新居を建てるのはどうか,という気になってきますね。

 空き家は,放置しておくだけなら,朽ち果てたり,犯罪の温床になったりと,社会の安全を脅かす危険因子になります。しかし適切に活用されるなら,全く逆です。若者の「住」支援に使われてもいいでしょう。若者の離家を促し,未婚化・少子化の歯止めになるかもしれません。

 私が住んでいる地域にも,空き家と思しき建物がゴロゴロあります。夕刻のウォーキングで,「この平屋いいなあ。あと10年後には,『ハウスキーパー募集,家賃不要』なんていう張り紙が貼られるのかなあ」と,物色を楽しんでいます。

2019年7月12日金曜日

人口当たりの空き家数はどうなるか

 今年1月1日の日本人人口は1億2447万6364人で,前年に比して43万3239人減ったそうです。1年間で43万人も減ったのは初めてとのこと。
https://news.yahoo.co.jp/pickup/6329638

 どんどん縮んでいくニッポンですが,1年間で43万人も減少とは驚きです。私が住んでいる横須賀市の人口は39万6千人ほどですが,このレベルの都市がごっそり無くなっていることになります。たった1年間で。

 高齢化の影響で死亡者数が増え,出生数は減っています。両者の差分が自然減ですが,年々この数が増えていると。厚労省の『人口動態統計』から,両者の長期推移をとれます。また,国立社会保障・人口問題研究所のレポートから,将来推計も得られます。下図は,1900~2060年までのカーブです。


 明治期以降,長らく出生数が死亡数を上回る「自然増」の時代が続いてきました。私が生まれた1976年では,出生数183万人,死亡数70万人でした。しかしこの頃から前者が減り,後者が増え始め,2007年には逆転し,「自然減」の時代に突入。その差はじわじわ広がり,2018年の出生数は94万人,死亡数は136万人となっています(推計値)。この年の自然減は42万人。なるほど,冒頭の43万人という数値とほぼ一致しています。

 死亡数と出生数の差分,グラフの色付きのゾーンが自然減ですが,2020年以降,毎年50万人以上人口が減っていくと見込まれます。毎年,このクラスの大都市が消失していくわけです。ある論者が「静かなる有事」と言っていますが,言い得て妙です。

 気が滅入りますが,さぞ家は余るようになるだろうなと思います。住む人が死んでも,家は残りますので。2018年の『住宅土地統計』によると,総住宅数は6242万戸で,うち空き家が846万戸となっています。同年の人口は1億2618万人ほど。

 この3つの数値の推移と,将来予測値を出してみました。『住宅土地統計』の実施年(5年おき)のデータです。2023年以降の予測値は,2013~18年の増加倍率を適用して出しました。2013~18年にかけて住宅数は1.0295倍,空き家は1.0323倍に増えましたが,2018年の戸数にこの倍率をかけて,2023年の戸数を推し量った次第です。同様に2023年の戸数に上記の倍率をかけて2028年の戸数を出す。以下,同じです。人口は,2019年の『日本統計年鑑』に載っている数値を使っています。


 2018年のデータだと,人口100人あたりの住宅数は49.5戸,空き家は6.7戸です。これから人口が減るのは分かっていますが,住宅数・空き家数が今のペースで増え続けるとすると,2058年には人口100人あたりの住宅数が83.2戸,空き家数が11.5戸になると見込まれます。

 今後,空き家増加のスピードが増すとすると,人口100人につき空き家が20戸(5人に1戸)の時代になるかもしれません。戦後初期の住宅難の時代からすれば,夢のようですね。

 これは日本全国の予測値ですが,都道府県別の見積もりもできます。都道府県別の将来推計人口(『国勢調査』の実施年,5年間隔)は,2045年までしか得られません。2045年の推計人口を,2043年の住宅数・空き家数の推計値と照らしわせてみます。


 人口当たりの空き家数をみると,100人当たり20戸(5人に1戸)を超える県が5県あります。2013~18年の空き家増加ペースが続くと仮定した見積もりですので,被災3県(岩手,宮城,福島)は割り引いて考えないといけないですが,西の5県はそういう特殊事情とは無縁です。

 私の郷里の鹿児島は,2040年代には人口120.4万人,空き家30.6万戸,県民4人に1戸の空き家が出る計算になります。スゴイですね。

 皆さんは,このデータをどうご覧になられますか。近未来の日本は,朽ち果てた空き家だらけのゴーストタウンになる,国内外の犯罪者の巣窟になる…。こういう不穏な未来図を思い浮かべる人もおられるでしょう。

 家というのは,人が住まないと荒みますからね。しからば,人に住んでもらえばいいだけのこと。先進国ニッポンでも,住居に困っている人はたくさんいます。そういう人たちに安い賃料,ないしはタダで貸し出せばいいのです。ハウスキーパーの役割を果たしていただくと。

 今でも,タダで人様の家を借りている人はいます。2013年の『住宅土地統計』によると,家賃0円の借家に住んでいる世帯は36万世帯となっています。間もなく公開される2018年データでは,50万世帯を超えているかもしれません。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/06/0.php

 近い将来,黙っていても家が空から降ってくる時代になりそうですね。2043年の鹿児島県の推計住宅数は96万戸,うち空き家が31万戸,住宅の3分の1が空き家になると。放置しておいたら,地域全体がゴーストタウン化するのは必至。とにかく,人に住んでもらうしかないわけです。
 
 若い世代で,住宅ローンの残高が増えているそうです。住める家が余りまくる時代になるのに,長期ローンを組んでマイホームを建てるというのは,いかがなものでしょう。人口減少社会においては,新たなハコを作るのではなく,今あるハコを活かす。これが基本です。

 近未来の日本については悲観的な予測だらけですが,明るい展望もあります。黙っていても,家が空から降ってくるようになることです。

2019年7月9日火曜日

労働時間と所得

 今月の21日は,参院選の投票日です。夕刻のウォーキングで,候補者のポスターを貼った掲示板に出くわします。思ったより若い人や女性が多く,好感を持ちました。

 その中で,「8時間労働で普通の暮らしができる社会へ」と言っている人がいます。労基法で規定されている法定労働時間(週40時間)ですが,これを満たせば勤労の義務を立派に果たしているわけですので,当然といえばそうですよね。

 しかし現実はそうではない。だからこそ,こういうフレーズに「おお」となってしまう。こんな感覚になっている自分が怖くもあります。

 労働時間と給与はある程度相関するはずです。昔に比して単純労働や肉体労働が減った今では,他の要素が入り込む余地が多分にありますが,普通に働けば普通の暮らしが保障される社会が望ましい。ごく当たり前のことで,普通に働くの目安が「1日8時間労働=週40時間労働」です。

 基礎的なデータを出してみましょう。2017年の総務省『就業構造基本調査』に,週間就業時間と年間所得のクロス表が出ています。全国編,人口・就業に関する統計表の「03001」表です。

 年間200日以上の規則的就業をしている就業者を取り出し,週間就業時間と所得のクロスをとってみます。所得は200万円刻みの4カテゴリーにまとめました。


 どうでしょう。男性は週35時間で段差があり,それ以降の所得はほぼフラット(変化なし)になっています。年齢や職業などの要素が混ざっているためかもしれませんが,フルタイム(正社員)にあっては,労働時間と給与はあまり関連しないようです。

 真ん中の「週35~45時間」あたりをみると,4割ほどが所得400万未満で,600万を超えるのは4人に1人です。男性の場合,普通に働いた対価がこうなのですが,普通の暮らしができるレベルといえるでしょうか。私のような独り身を養う分には十分ですが,そうでないとなると…。判断が割れるところです。

 右側の女性をみると,こちらは厳しい印象を持ちます。水色と茶色のゾーンが広く,法定の労働時間働いても,4人に3人が400万円(税引き前!)に達しません。4人に1人は,200万円に満たないワーキングプアです。女性の場合,馬車馬のように働いても600万円稼ぐのは難しい。

 現実をみると,候補者がポスターに書いている「8時間労働で普通の暮らしができる社会へ」というフレーズに魅かれてきますね。今の日本社会では,それが実現されているとは言い難い。女性は特にです。

 その女性を正規雇用と非正規雇用に分けてみると,もっと悲惨な状態が露わになります。


 正社員に絞ると幾分かマシになりますが,法定労働時間では400万に届くのは並大抵のことではありません。右側の非正規は,もう目を背けたくなる模様で,どれほど働いても半分がワーキングプアで,9割が400万未満となっています。

 非正規はマイノリティかというと,そんなことはありません。女性雇用者の4割は非正規雇用です。実数にすると755万人ほど。夫の扶養下に入っていて,就業調整している人が多いでしょうが,この超薄給で生計を立てている人もいます。たとえばシングルマザーです。

 法定労働時間どころか,どんなに働いても貧困から抜け出るのは難しい。母子世帯の困窮は,右側のグラフの模様からはっきりとうかがい知ることができます。女性は男性に扶養されるべしという考えが続いてきた結果ですが,21世紀になってもこんな有様とは驚きます。女性の社会進出は,M字カーブの底が浅くなっただの,そんなことでは測れないようです。

 こういう社会って,他にあるんでしょうか。OECDの成人学力調査「PIAAC 2012」では,仕事をしている人に週間就業時間と年収を訊いています。年収は,国全体の中でどの辺に当たるかを見積もってもらう形式です。

 週35~44時間働いている女性を取り出し,どれほどの年収を得ているかを国ごとに比べてみます。下位25%未満のプアと,上位25%以上のリッチの比重をグラフにすると,以下のようになります。前者が高い順に29の社会を並べてみました。


 赤色は,フルタイム勤務をしつつもワーキングプア状態に置かれている女性の率と読めます。首位はスロバキア,2位はギリシャ,3位は日本で,フルタイム就業女性の半分以上がワーキングプアです。普通に働いても,普通の暮らしが得られない社会なり。

 対して下方にあるのは,フルタイムで普通に働けば普通の暮らしができる収入を得られる国で,欧米の主要国はこのエリアに位置しています。オランダはいいですね。パート大国と言われ,日本のような正規・非正規なんていう区分はなく,賃金はあくまで労働時間の関数。それが表れています。

 日本のように,普通に働いても女性の大半はワープアっていう社会は少数派です。女性は男性に扶養されるべしという考えが強いためですが,それは時代にそぐわなくなっているのは明白。未婚率,離婚率の高まりで,自身の稼ぎで生計を立てている女性は増えています。シングルマザーとして子育てをしている人も多し。

 正社員になれたらいいですが,雇用の非正規化により,それも容易ではなくなっています。となると,2番目の図の右側のような蟻地獄でもがき苦しむことになる。メディアで報じられる母子世帯の悲惨な生活実態は,その可視化です。

 上記のデータは,独身者と既婚者が混ざったものですが,未婚の非正規女性の稼ぎを見てみましょうか。老後がチラチラ見え始めている,アラフィフ年代(45~54歳)に注目します。下表は,47都道府県の中央値を高い順に並べたものです。


 ううう,全県がワーキングプア一色です。単身では生活が難しいと思われますが,これで暮らしている人もいます。さらには,子を養っているシングルマザーもいます。

 未婚者ですので,就業調整をしているとは考えられません。独り身を養うべく,フルタイム労働をしている女性が大半でしょう。しかしその対価はこの有様であると。怖くて,老後のことなど考えたくもないはず。日々の暮らしで必死で,そんなことに思いをめぐらす時間もないのでしょうけど。

 最近話題になっている,アラフィフ独身女性の貧困の可視化です。繰り返しますが,女性は男性に扶養されるべしという考えが根付いてきた故のこと。しかるに,パートナーがおらず独り身で暮らす女性が増えている中,それは明らかに時代錯誤なり。

 普通に働けば普通の暮らしが得られる。この大原則に照らせば,上表のデータはもう,違法とも言い得るレベルです(実際そうなんですけど)。今度の参院選では,こういう歪みを正してくれそうな人に票を投じようと思います。

 AIの台頭により,人間が労働から解放される時代がくるといいます。それはずっと先でしょうが,1日8時間の「普通」の労働で済む時代は,すぐそこのはずです。AIとBI(ベーシックインカム)の組み合わせで,普通に働けば普通の暮らしが得られる社会の実現を。