2019年12月26日木曜日

出生数86万人の衝撃

 2019年,令和の元年も間もなく終わろうとしています。勤め人の方は,今日が仕事納めでしょうか。

 さて,今年の年間出生数は90万人を割り,86万4000人になることが確実になりました。新聞で大きく報じられましたので,ご存知の方は多いでしょう。少子化は,予想を上回るスピードで進んでいます。

 一方。高齢化で死ぬ人は増えますので,国内の人口はどんどん減っていきます。自然減(死亡数-出生数)は,この1年間で50万人を超えたとのこと。史上初です。毎年,人口50万超の大都市がごっそり消えていく時代の始まりです。

 出生数のこれまでと今後を,グラフで可視化してみましょうか。出生数の長期推移は,厚労省の『人口動態統計』にて分かります。まずは,以下のグラフの左側を見てください。


 戦後初期から現在までの年間出生数ですが,直線的に減ってきているのではありません。終戦直後の第1次ベビーブーム,その子世代の第2次BBの山があります。日本で最も出生数が多かったのは1947(昭和22)年で,270万人もの赤ちゃんの産声が上がっていました。2019年の86万人の3倍以上です。私は第2次BBのちょっと後の1976年生まれですが,この年の出生数も183万人で,今よりもずっと多し。

 出生数のカーブをみると,第1次と第2次に続く第3次BBの山があってもよさそうですが,それはできていません。自然に考えると,90年代後半から今世紀初頭にかけて第3次の山ができるのが期待されるのですが,さにあらず。

 平成不況が深刻化し,若者の自立が困難になったためでしょう。学校卒業後も実家に居座り,基礎的生活条件を親に依存し続けるパラサイト・シングルについて,山田昌弘教授が本を出されたのは1999年のことです。私が大学を出た年ですが,当時の就職の厳しさは肌身で知っています。

 当時の政府はというと「痛みを伴う改革」なるフレーズを掲げ,新自由主義路線をひた走り,若者支援などは微塵も考えられていませんでした。第3次BBの山ができなかったのは,しごく当然のこと。人数的に多い団塊ジュニア世代が子を産めなかったのはイタイ。この世代も45歳に達し,出産年齢を越えようとしています。

 団塊ジュニアのすぐ下である,われわれロスジェネも間もなく出産年齢を越えます。今年になって,ロスジェネへの支援が本格的に始まりました。有難いことですが,遅きに失している感も否めません。もっと早くやってくれていれば,少子化もここまで加速度的に進まなかったでしょう。

 次に,グラフの右側をご覧ください。90年代半ばから2050年までのスパンをすえ,3本の曲線が描かれています。出生数の実測値と,社人研による出生数推計値です。

 よく言われることですが,推計値というのは甘いものですね。推計よりもずっと速い速度で,少子化は進行しています。今年(2019年)の出生数の推計値は,1997年推計では104万人,2017年推計では92万人であるのに対し,現実の出生数は上述のように86万人です。まあ,あくまで中位推計で,悲観的な下位推計値よりはマシなんですが。

 赤色の実測値は,今後どう推移するか。最近は右下がりの勾配が急ですが,2025年頃から減少が緩やかになると見込まれます。しかしそれでも,2040年頃には60万人を割っちゃいそうです。

 しかし,2018年から19年の1年間で,出生数が92万人から86万人と,6万人も減ったのは驚きです。政府関係者は暢気なもんで,「改元を待って結婚したカップルが多かったからではないか」などとニヤケ顔で言っています。
https://twitter.com/katepanda2/status/1209509333693657088

 出生数減を改元のせいにするとは,まあ呆れたもんです。政府は,やるべきことをしているのか。逆累進の強い消費税を10%に上げ,金持ちにも貧乏人にも負担を強いる形で財源を増やしたわけですが,その用途を誤ってはいないか…。

 為政者の反省を促すため,今から3つの図表を出します。まずは,結婚期の男性の稼ぎです。地域差があるので,47都道府県別の中央値を見ていただきます。


 20代後半男性のフツーの稼ぎです。全国値は325万円で,マックスの東京は377万円。都市部はそこそこ多いように見えますが,地方は悲惨で,私の郷里の鹿児島は263万円となっています。

 未婚女性の多くが結婚相手の男性に年収400万超を期待する,という調査データがあったと思いますが,そういう男性に出会うのは,東京でも容易ではありません。鹿児島では,300万円稼ぐ男性に会えたら御の字です。婚活業界の方はよくご存知でしょうが,こういうギャップが未婚化を促進している現実があります。

 夫婦二馬力の共稼ぎをすればいいではないか,と言われるかもしれませんが,子を産んだ女性が(フルタイムの)就業を続けるのはなかなか難しい。政府は10月から保育所・幼稚園の費用を無償にしましたが,入園希望者が激増する一方で,受け入れの枠は増えてないので,競争が激化し待機児童問題が深刻化するだけの結果になってます。

 なぜ受け入れの枠が増えないか(増やせないか)。必要な資本である「土地・建物・ヒト」のうち,確保に難儀しているのはヒトです。保育士は相変わらずの超薄給で,なり手が集まりません。幼稚園教員も酷い。


 上記のグラフによると,保育士と幼稚園教員は,半分が月収20万未満の超薄給となっています。小学校以降との落差があまりにも大きい。年齢構成や資格要件の差を考慮しても,理不尽です。就学前教育・保育に携わる人材が,冷遇され過ぎています。

 これでは人が集まらず,受け入れの枠が増やせるはずはありますまい。増税で得られた財源は,保育士や幼稚園教員の待遇改善に使うべし。費用を無償にしたところで,恩恵を得るのは,運よく入れた少数の世帯だけです。それよりも人材を集め,受け入れの枠を増やしたほうが,二馬力で稼げる家庭を増やし,多くの人にベネフィットが及ぶことになります。人手不足に悩む社会にとっても好都合です。

 あと一つは,教育全般に使う金を増やすこと。公的教育費支出の対GDP比は,日本はいつもOECD加盟国では最下位です。


 夫婦が出産を控える最大の理由は「教育費が高いから」というのは,分かり切っていること。私立高校の無償化や,高等教育の無償化等,進展の兆しが出てきていますが,これをもっと押しすすめるべし(質の悪いFランには退場してもらいつつ)。

 子どもを産んでくれたら,当人が一人立ちするまで毎月5万円支給する。ブロガーの永江一石さんがこんな提案をしていますが,こういうのもいいでしょう。子ども(後続世代)は,社会の維持存続に不可欠であり,上の世代は誰であれ,やがては彼らの世話になります。後続世代を育てるための資金を,社会全体で分担する(=税金で賄う)のは理に適っています。
https://www.landerblue.co.jp/48333/
 
 私は前から,富裕層に負担の傾斜をつけた「次世代育成税」を導入すべきだと思っています。こういう用途ならお金を出してもいい。こう考えるお金持ちは多いはず。

 財政の素人の私が,思い付きをグダグダ書きましたが,国として「打つ手」はまだまだあるはず。出生数激減を改元のせいにしている場合ではありません。ここで出した3つの図表を国会の壁にはり,血税の用途について真剣に議論していただきたいと思います。