2019年12月10日火曜日

既婚女性の子ども数は減っていない

 今年(2019年)の出生数が90万人を割り,86万人ほどになる見通しです。昨年は91万8400人でしたから,たった1年間で6万人近く減ることになります。

 これは少子化ですが,高齢化で死ぬ人も増えますので,人口の減少は加速度的に進むことになります。2020年代以降,人口が毎年50万人,2040年代以降は毎年100万人のペースで人口が減ることが見込まれます。1日あたり1370人,2740人の人がいなくなっていく。テロ並みの脅威です。
https://twitter.com/tmaita77/status/1203983801929453569

 少子化の要因は,①結婚する女性が減っていること(未婚化)と,②既婚女性が産む子どもが減っていること(少産化),という2つのフェーズに分けることができます。どちらも進んでいると思われていますが,②については違うのだそうです。

 ソロ社会研究者の荒川和久氏がデータを示されています。荒川氏は「少子化は,お母さんが産む子どもの数が減ったからではない」と題する記事にて,既婚女性の子ども数の分布を,1985年と2015年で対比しています。
https://comemo.nikkei.com/n/n857d9b6f6b61

 『国勢調査』にて,既婚女性が同居している児童数分布の統計表があるのですが,このデータが使われています。ほう,こんな表があるとは知りませんでした。荒川氏は,15~44歳の既婚女性を取り出していますが,私は25~44歳の既婚女性を抽出し,同居している児童数(=子ども数)の分布を,1985年と2015年で対比してみました。


 両年とも,子どもが2人というお母さんが最も多くなっています。1985年では全体の40.4%,2015年では37.4%を占めます。右欄の%の分布をみると,この30年間で大きな変化はないですね。既婚女性の子ども数(結婚した女性が産む子どもの数)はほとんど変わっていないようです。

 変わったのは,お母さんの絶対数です。左欄の人数の合計をみると,1985年では1595万人だったのが,2015年では1001万人と,およそ3分の2に減っています。昔に比して出産年齢の若い女性の絶対数が減り,加えて未婚率も上昇しているのですから,当然のことですね。

 荒川氏は,少子化ではなく「少母化」が問題なんだと主張されています。

 さて,上記の分布から既婚女性の子ども数の中央値(median)を出すと,1985年が2.08人,2015年が2.03人となります。ほとんど変化なしです。この値を都道府県別に計算してみると,驚くなかれ,増えている県もあります。


 既婚女性の子ども数の中央値です。この30年間の変化をみると,減っている県が多いですが,増えている県が19県あります。黄色マークです。子どもの絶対数が減っているのは明らかなんですが,既婚女性に限るとこうなんですねえ。

 以前に比して,既婚者は同世代の中でセレクションされた層になっていて,出産を前提にできる層(経済力のある層)しか結婚しなくなっている,という見方もできるかとは思います。

 既婚女性の出産数は減っていない。少子化の真因は,人口減少・未婚化による「少母化」のようです。これは如何ともし難い。人数的に多い団塊ジュニア世代の女性ももうすぐ50代になり,出産年齢を外れます。若い女性の絶対数もどんどん減りますので,逆立ちしても,一国の出生数を増やすことは不可能です。

 事態をいくぶんか食い止める方法は,「少母化」のもう一つの要因である未婚化を抑えること。これは広く認識されており,だいぶ前から各地で婚活支援の取組が盛んですが,なかなか効果を上げられないでいます。

 実をいうと,若者の間では結婚はオワコンという向きも強まっているのですよね。前にニューズウィーク記事で書きましたが,「旦那は要らんが子どもは欲しい」と考える若い女性,結構いるのです。20代女性のおよそ3割が該当します。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2019/09/post-12915.php
 
 これらの女性が出産に踏み切れたら,状況はかなり改善されるでしょう。それは夢物語かもしれませんが,事実婚,同性婚,未婚…どういうライフスタイルを選ぼうが,子どもを産み育てられる社会の実現が求められるのは間違いありません。国際的にみて,日本はその実現度合いが最も低い部類でしょう。未婚のシングルマザーの寡婦控除を認めようという議論の際,政府関係者が「未婚者を寡婦に加えると,結婚して出産するという伝統的家族観が揺らいでしまう」などと発言するのですから。

 そういうしょーもない伝統的家族観が,少子化を進行させてしまっていることに気づいたほいがいい。

 今回のデータから,伝統的家族観に沿った暮らし(法律婚)をしている夫婦に限ると,出産数は減ってないことが分かります。法律婚をしているのは,25~44歳女性の62%ですが(2015年,『国勢調査』),残りの38%の人たちも出産・子育てを考えられるような社会にすべし。未婚の母への支援が以前よりも進んでいるのは,それに向けた具体的な動きとして評価できます。