2023年7月24日月曜日

フリーランスの時給分布

  2022年の『就業構造基本調査』の結果が出ました。

 働く人の稼ぎを知るならコレです。厚労省の『賃金構造基本統計』や,国税庁の『民間給与実態調査』は,一定規模以上の会社に勤める雇用労働者に限定されますが,『就業構造基本調査』では,自営等も含む全ての労働者の稼ぎを知れます。

 5年に1回実施される調査で,集計の仕方も年々改善されてきています。2022年調査では,従業地位のカテゴリーとして「フリーランス」が新設されています。フリーランスの働き方をしている人が増えているためでしょう。

 従業地位と年収のクロス表により,フリーランスの稼ぎをみてみると,まあ低いこと。かといって,労働時間が短いわけではありません。経験者は分かるかと思いますが,フリーランスの場合,仕事時間に際限がなくなりがちです。

 時間給にすると,まあ悲惨なデータが出てくるだろうと前々から思っていましたが,2022年の『就業構造基本調査』のデータが出たのを機に,数値化をしてみようと思います。使うのは,「年間就業日数 × 週間就業時間 × 年収」の3重クロス表です。

 3つの変数のカテゴリーは,以下のようになっています。


 年間就業日数は3カテゴリー,週間就業時間は14カテゴリー,年収は16のカテゴリーとなっています。よって3つの変数のクロス表は,3×14×16=672のセルからなります。

 年間260日・週42時間就業,年収630万円の普通のサラリーマンは,上記の赤字をかけ合わせたセルに入ることになります。このセルに入る人たちの時間給を,階級値(真ん中の値)を使って計算します。年間就業日数は275日,週の就業時間は42.5時間,年収は650万円と一律にみなすわけです。

 この仮定をおくと,1日あたりの就業時間は,週の就業時間(42.5時間)を5日で割って8.5時間。年間の就業時間は,8.5時間×275日=2337.5時間となります。年収650万円をこれで割って,時間給は2781円となる次第です。まあ,まともな会社の正社員ならこんなものでしょうね。

 他のセルについても,同じやり方で時間給を算出し,672のセルを全部埋めた時給表をつくります。それを参照し,各セルに入っている労働者の数を,時給の度数分布表に割振って時間給の分布を出す,という段取りです。

 いささか乱暴ではありますが,私はこの方法にて,正規職員,非正規職員,フリーランスの時給分布を出しました。年間200日以上の規則的就業をしている者で,時給を出せたのは正規職員が3261万人,非正規職員が1049万人,フリーランスが115万人です。

 完成した分布表は以下になります。昨日,ツイッターで発信したものです。


 3つのグループでは,分布がかなり異なっています。非正規とフリーランスは,低い方のボリュームが多く,時給1000円未満の率は,正規が10.5%であるのに対し,非正規は41.6%,フリーランスは38.8%です。

 フリーランスでは,最も低い500円未満が18.8%と最も多くなっています。ほぼ5人に1人が,超悲惨な働き方をしていると。仕事時間が際限なく長くなりがちな一方で,もらえる対価が少ないためです。

 なお,性別のデータも出せます。予想通り,男性より女性の分布が下に偏しているのですが,フリーランスにあってはそれが顕著です。男性フリーランス89万人,女性フリーランス26万人の時給分布を出し,グラフにすると,以下のようになります。


 フリーランスの時給ピラミッドですが,いかがでしょうか。分布の棒を男女で塗り分けると,女性フリーランスにあっては,時給の最下層が多いことが分かります。全体の33.8%,3人に1人が時給500円未満です。

 報酬の不当な減額,さらには不払いなんてのもあるでしょう。時給500円未満が最多,まったくもって目も当てられません。

 その一方で高収入の人もいて,フリーランスでは「上」と「下」に割れている度合いが高いのも特徴といえます。

 これからは,組織に属さない「個」の働き方が増えてくる,今のままではいけないと,フリーランス保護法なるものもできていますが,2022年の実態はこうです。文書での発注義務,一方的な報酬減額禁止など,法律の遵守を国としても徹底させないといけません。