最近,児童虐待が社会問題化しています。全国の児童相談所に寄せられた相談件数の統計でみると,1997年では5,352件であったのが,2009年では44,211件と,8倍にも増えています(厚労省『社会福祉行政業務報告』)。
2000年に児童虐待防止法が制定され,児童虐待が正式に社会問題と認知されたことから,通告活動が活発化した,という側面が大きいことでしょう。しかし,この増加ぶりには,目をみはるものがあります。
ところで,児童虐待といっても,いくつかのタイプがあります。児童虐待防止法第2条が定めるところによると,①身体的虐待,②性的虐待,③ネグレクト,④心理的虐待,の4タイプだそうです。はて,この4タイプの構成は,以前に比してどう変わってきたのでしょうか。
上図は,相談件数の内訳の変化を図示したものです。身体的虐待やネグレクトが大きな比重を占めるという,基本的な構造には変わりありません。性的虐待が非常に少ないのは,事の性質上,なかなか発覚しにくいためであると思われます。
さて,1997年から2009年にかけての目立った変化というのは,心理的虐待のウェイトが高まっていることです。8.6%から23.3%へと増えています。子どもの人格を傷つけるような暴言を浴びせる親が増えた,ということでしょうか。
それもあると思いますが,一番大きな要因は,2004年の児童虐待防止法の改正であると思われます。この改正により,心理的虐待の概念の中に,「児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力(配偶者の身体に対する不法な攻撃であって生命又は身体に危害を及ぼすもの及びこれに準ずる心身に有害な影響を及ぼす言動)」も含まれることになりました。簡単にいえば,子どもの面前での夫婦喧嘩も,心理的虐待に相当する,という解釈が正式化したわけです。
夫婦喧嘩は,子どもに直接危害を加えるものではありません。しかし,両親が口汚く罵り合う光景を見せられることは,子どもにすればたまったものではないでしょう。当人に,心理的な外傷を与えることにもつながります。
教員志望のみなさん。家族関係が不和であると思われる子どもを見つけたら,家庭訪問などの折に,上記のことを保護者に伝えてあげてください。
各地の教育委員会も,こうした認識(願い)を持っているのでしょうか。上記の統計は,教員採用試験でも大変よく出題されます。どうぞ,お知りおきください。