2011年4月30日土曜日

現代の高校非進学

 義務教育は,中学校までです。よって,勉強は好きでない,早く社会に出たい,というのであれば,高校に行く必要はありません。

 昔は,高校に行かない生徒が結構いました。「三丁目の夕日」は1958年(昭和33年)の物語ですが,この年の中卒者に占める高校進学者の比率は54%です(文科省『平成22年・文部科学統計要覧』)。逆にいえば,46%の者は中学校を卒業して,すぐに社会に出ていたことになります。

 ですが,今日では,高校に進学しないという「自由」を行使することには,大きな勇気が要ります。2010年春の高校進学率は96.3%です。よって,高校に進学しない者は,同世代の3.7%しかいないことになります。こうなると,中卒者は,就くことのできる職種が極めて限られる,劣悪な条件で働かされるなど,大きな不利益を被ることになります。

 こういうこともあってか,高校までの教育機会は,公的に保障しようということで,昨年4月より,高校無償化政策が施行されています。公立高校の授業料を無償にし,私立高校生には,授業料の補助を行う,というものです。好きで進学しないというならまだしも,貧困という外的要因により高校に行けない,ということはあってはならないことですので,賛意を表します。

 しかるに,高校非進学と貧困との結びつきを示唆する統計があります。私は,東京都内の49市区について,高校非進学率を計算しました。2005~2009年の公立中学校卒業者のうち,高校に進学しなかった者が占める比率です。私が住んでいる多摩市の場合,この5年間の中卒者は5,019人,高校非進学者は84人ですから,高校非進学率は1.7%となります。

 49市区の高校非進学率を地図化すると,以下のようです。資料源は,東京都教育委員会の『公立学校統計調査(進路状況編)』です。
http://www.kyoiku.metro.tokyo.jp/toukei/toukei.html


 49市区全体の値は2.7%ですが,地域によってかなり異なります。最も高いのは武蔵村山市の5.7%,最も低いのは文京区の1.5%です。前者は,後者の3倍以上です。4%を超えるのは,足立区,立川市,青梅市,昭島市,福生市,東大和市,および武蔵村山市の7地域となっています。黒色と赤色の高率地域は,都内の東部と西部に固まっていることが明らかです。

 さて,高校非進学率が相対的に高い地域は,どういう地域でしょうか。ここでは,各地域の子どもの貧困の度合いとの関連をみてみようと思います。私は,教育扶助を受けている世帯が,全世帯に占める比率を出しました。教育扶助とは,生活保護の一種で,義務教育学校に通う子どもがいる貧困世帯に対し,学用品や給食費などを支給する制度です。この比率が高いほど,子どもの貧困の度合いが高いと解釈されます。

 2008年の教育扶助世帯率と,先ほど明らかにした5年間の高校非進学率を関連づけると,下図のようになります。


 右上がりの正の相関です。相関係数は0.537であり,1%水準で有意とみなされます。若干の撹乱はありますが,大まかには,教育扶助世帯率が高い地域ほど,高校非進学率が高い,という傾向があります。

 前述のように,2010年4月より高校無償化政策が行われていますが,その政策の効果は,上記のような相関,すなわち,高校非進学と貧困との結びつきが解消されているかどうか,という点において検証できるでしょう。

 高校ないしは大学に進学するしないは,個人の自由です。よって,進学率に地域差があることは,ある意味,当たり前のことです。それが,不平等という名の,治療すべき病理現象であるかどうかは,進学率と貧困指標との結びつきの如何によって判断されます。こうした検証作業を継続することが重要であると思います。