2011年4月26日火曜日

現代の選抜

 今,天野郁夫教授の『教育と選抜の社会史』ちくま学芸文庫(2006年)を読んでいます。これは,1982年に第一法規から刊行された『教育と選抜』という書物が文庫化されたものです。ハードカバーの,ややかさばる学術書が,コンパクトな文庫になることはよいことだと思います。

 この本には,戦前期日本における教育選抜に関連する,さまざまな統計データが掲載されています。予想がつくことですが,複線型の教育制度であった当時,高等教育まで進学する者というのは,ごくわずかでした。天野教授によると,明治末期の頃,旧制高等学校に進学する者は,同世代の300人に1人にも満たなかったそうです(237頁)。

 旧制高校とは,帝国大学の予備教育機関のようなものです。よって,上記の数字は,帝国大学進学率に読み替えてもよいでしょう。それが,300人に1人(≒0.3%)にも満たなかったというのです。帝国大学とは,「国家ノ須要ニ応スル学術技芸ヲ教授シ及其蘊奥ヲ攻究スルヲ以テ目的」とする機関でしたが,選びに選び抜かれた人間が行くところだったのですね。

  ところで,現在の東大や京大の選抜度は,かつての帝国大学と比してどうなのでしょう。これらの機関に行く者が同世代人口に占める比率も相当小さいものと思われます。私は,興味本位から,現在の「帝国大学」たる東大・京大の選抜度を調べてみました。

  読売新聞教育取材班『大学の実力2011』中央公論新社(2010年)によると,2010年の東大・京大の在学生数は27,490人です。これを4で除した数(6,873人)を,この年の東大・京大入学者とみなします。この6,873人は,この年の18歳人口のどれほどを占めるのでしょうか。


 上表によると,この意味での東大・京大入学者は,18歳人口全体の0.6%ほどに相当します。0.6%といったら,だいたい167人に1人です。むーん。かつての帝国大学(旧制高校)の選抜度よりは若干低いようですね。

 ついでに,旧帝大と国立大学についても,同じ値を計算しました。旧帝大の入学者数は,先ほどの東大・京大と同じ便法で出しています。国立大学入学者数は,文科省『学校基本調査』によります。これによると,旧帝大入学者数は同世代人口の1.8%,国立大学入学者は8.3%というところです。大学全体の入学者になると,同世代の51%を占めます。大学進学率が50%超とは,こういうことです。

 上記の表の統計を少し加工すると,この年の18歳人口の組成が明らかになります。下図をご覧ください。


 2010年の18歳人口約121万人のうち,東大・京大に入った者は0.6%,それ以外の旧帝大に入った者は1.2%,その他の国立大学に入った者は6.5%,公私立大学に入った者は42.7%,大学に行かなかった者は49.0%,です。

 高等教育進学段階における,現代の選抜の有様というのは,以上のようなものです。旧帝大生のシェアが1.8%,国立大生のそれが8.3%でしかないことは,私にとって発見でした。大学全入とはいっても,これらの機関の選抜度はまだまだ高いようですね。

 もうしばらくは,受験競争の激しさが続きそうです。