今回にて,このブログの記事の数がちょうど100になります。「社会学は時代の診断学である」というマンハイムの言葉を肝に銘じ,これからも,さまざまな角度から現代社会の診断を手掛けてゆきたいと思います。
今回は,青年の危機状況を診るユニークな指標を紹介します。α値というものです。こういう(数学)記号をみただけで拒否反応を呈する方もいるかもしれませんが,小難しいものではございません。ある年齢層の自殺率が,人口全体の自殺率の何倍かというものです。
この指標を考案されたのは,横浜国立大学の渡部真教授です。渡部教授は,青年層の自殺率の絶対水準を観察するだけでは不十分で,社会の中の自殺が青年層にどれほど集中しているかも捉える必要がある,と述べています。
このような観点から,15~24歳の青年の自殺率を全体のそれで除した値をα値と命名し,この指標の時代比較・国際比較を行っています。当該の論文は,「青年期の自殺の国際比較」というもので,日本教育社会学会の学会誌『教育社会学研究』第34集(1979年)に掲載されています。CiniiのURLを貼っておきます。
http://ci.nii.ac.jp/naid/110001877637
私は,25~34歳を青年層とみなし,この年齢層のα値の時代推移を明らかにしました。統計の出所は,厚労省『人口動態統計』です。最新の2009年の統計でみると,25~34歳の自殺率は10万人あたりで23.3で,人口全体の自殺率は24.1ですから,α値は,23.3/24.1≒0.97となります。では,時代推移をみてみましょう。
上図によると,1982年までは,α値は1.0を超えていました。1.0を超えるということは,社会の中の自殺(危機)が,青年層に偏在していることを意味します。1960年代前半までは,1.2を超えていたようです。当時は,高度経済成長期で,中高年層の自殺率が低下するなか,青年層の自殺率だけが伸びていました。よって,全体の自殺率と比した場合の,青年層の自殺率の高さが際立っているわけです。
当時は,社会の激変期にあり,価値観の急変に適応できず,厭世感に苛まれた純真な青年がさぞ多かったことでしょう。また,昔ながらの「イエ」の慣行により,自由な恋愛結婚を阻まれた男女が無理心中を図る,というようなことも頻繁に起きていたようです。
しかし,1960年代後半以降,α値はぐんぐん低下し,1983年には1.0を下回ります。その後も低下し,今世紀初頭の2001年には0.77と最低値を記録します。ところが,その後上昇に転じ,2009年では0.97となり,1.0に迫る勢いです。今後,どうなっていくのでしょうか。
回を改めて,このα値の国際比較を手掛けてみようと思います。各国の年齢層別の自殺率は,WHOのホームページから知ることができます。興味ある方は,どうぞ,数字ハンティングをなさってください。
http://apps.who.int/whosis/database/mort/table1.cfm