2018年8月29日水曜日

東京への流入の増加

 東京圏から地方への移住者に対し,最大300万円の補助をする制度を検討するのだそうです。どういう条件が付されるかは分かりませんが,人口の偏りを何とか是正しようと,政府も必死のようです。
https://www.nikkei.com/article/DGKKZO34630700X20C18A8EA1000/

 現在,人口の1割が東京,3割が首都圏(1都3県)に居住しています。地方では過疎,東京では過密の問題起きています。殺人的な満員電車の遠距離通勤などは,後者の典型です。

 人は都市に集まる。どの社会にも当てはまる普遍則だと思いますが,東京への人口流入は,どう変化してきたのでしょう。人口移動の基本統計として,総務省の『住民基本台帳による人口移動報告』があります。年間の転入者数(a),転出者数(b),転入超過数(a-b)が,都道府県別に分かります。

 転入の量の指標としては,最後の転入超過数が使われます。転入が多くても転出がそれを上回れば,結果としてマイナスになりますので。

 首都圏の転入超過数は,どう推移してきたか。長期統計表をもとに,1都3県の推移をグラフにしてみました。1955~2017年の長期トレンドです。


 埼玉・千葉・神奈川は,ほぼ全ての年でプラスですが,東京は浮動が大きくなっています。1950年代前半から60年代前半の高度経済成長期では,地方から若年労働者がガンガン入ってきたので(集団就職),転入超過数は大幅にプラスになっています。

 しかし60年代後半になり,公害の発生など成長に陰りが見え始めると,住みにくい都心部から郊外に人口が流れるようになります。60年代後半から70年代前半は,東京から周囲の3県に人が移動した「郊外の時代」でした。当時の首都圏の人口増加率マップを描くと,都心が真っ白で郊外に行くにつれ色が濃くなる「ドーナツ化現象」が浮かび上がります。

 90年代半ばまでこの状態が続きますが,それ以降,東京の転入超過数は再びプラスに転じます。2007年に9.5万人のピークになった後,リーマンショックの影響か減少し,2011年以降はまた増えています。昨年(2017年)は7.5万人で,周囲の3県を引き離しています。

 昔ほどではありませんが,東京への人口流入(集中)が増しつつあります。はて,どの年齢層で増加が顕著なのでしょう。最近のボトムだった2010年と2017年の転入超過数を年齢別に出し,折れ線のグラフにしました。最近の公表資料は充実しており,細かい1歳刻みのデータが分かります。


 2010年は,18歳と22歳に山がある二コブでした。大学進学と就職の流入です。しかし2017年では,22歳が突き出ています。転入超過数の増加が飛び抜けて多いのもこの年齢で,2010年の1.3万人から2017年の2.1万人に増えています。少子化で,国内の22歳人口が減っているにもかかわらずです。

 22歳の若者(大卒者)が,就職の地として東京を選ぶ傾向が強まっているのでしょうか。その一方で,私の郷里・鹿児島のような地方県では,就職期の若者の流出が増しているのか。

 全県の比較をやってみましょう。人口サイズが県ごとに異なるので,転入超過数の実数を比べることはできません。そこで,転入超過率という指標を出してみます。年間の転入超過数を,年始(1月1日)の人口で割った値です。

 2017年の東京でいうと,20代前半の転入超過数は5万3312人で,1月1日時点の同年齢人口は67万8698人です。よって20代前半の転入超過率は,前者を後者で割って7.86%となります。人口の社会移動によって,20代前半人口が年間で7.86%増えた,ということです。わが郷里の鹿児島では,この値はマイナスになっています。

 私はこのやり方で,2010年と2017年の転入超過率を都道府県別に計算しました。ベタな一覧表でなく,全県の分布を視覚的に示したグラフを見ていただきましょう。


 最高から最低の幅(レインヂ)を見ると,2010年から2017年にかけて,若者の転入超過率の地域差が広がっています。東京は5.0%から7.9%にアップしていますが,秋田は-3.8%から-5.8%にダウンです。

 若者を呼び寄せる都市と,若者が出ていく地方の格差が拡大しつつあります。また1位と2位の差が開いていることから,東京の「一人勝ち」が進んでいることにも注目です。

 若者を吸い寄せる磁力は,働き口がどれほどあるかです。厚労省の『一般職業紹介状況』という資料によると,2010年の全国の有効求人倍率(年平均,パート含む)は0.52倍でした。リーマンショックの余波があった頃ですが,最近は人手不足もあり1.50倍まで伸びています。「求人<求職」の時代です。

 しかし東京は,0.65倍から2.08倍と伸び幅が大きくなっています。2013年以降,47都道府県で首位の状態が続き,2位の福井との差もじりじり開いています。

 オリンピック特需による一過性のものかもしれませんが,若者の働き口の地域格差(首都集中)が進行しているのかもしれません。「地方では仕事がない,よって都会(東京)に出る」という声もよく聞きますし。22歳の学卒人口の東京流入が増している(2番目のグラフ)は,その証左です。

 エンリコ・モレッティの名著『年収は住むところで決まる-雇用とイノベーションの都市経済学』に,イノベーション都市と衰退する地方の分化が拡大するであろう,という予言がありますが,それが的中しそうで怖いです。

 冒頭に戻りますが,「300万円出すよ」と言って,人々の地方移住を促すという,政府の意向(焦り)も分かります。しかし,移住先に仕事,食い扶持を稼ぐ術がないとなれば,どうしようもありません。

 ネットの普及で,以前に比したら場所を選ばず働ける度合いは増していますが,全ての人がそうというわけにはいきません。人の移住を促すのもいいですが,並行して,企業の移転も後押しするべきでしょう。地方に本社を移転したら大幅減税とかね。政府のテコ入れが求められる時代です。