2018年10月9日火曜日

「家族より国に頼れ」と言ってみろ

 日本の一人親世帯の貧困率は50%超で世界一。シングルマザーの多くは困窮状態に置かれているのですが,最後のセーフティネットとして生活保護があります。

 しかしこの公的扶助を使わず,風俗で働くことを選ぶ母親が多いとのこと。「生活保護よりデリヘルで働く 隠れシングルマザーの選択 制約より自由をなのか…」と題する記事が目に止まりました。
http://news.livedoor.com/article/detail/15407773/

 タイトルからすると,いろいろ縛りが生じる生活保護を使うのを躊躇うシングルマザーが多い,という内容を想起しますが,そればかりではないようです。生活保護を申請すると,親や親戚に扶養照会がいき,自分の今の状態が分かってしまう。世間体を気にする地方都市では,それを嫌う人が非常に多いのだそうです。

 私は親戚付き合いはゼロなんで,堂々と申請に行けるかな。

 「援助してくれる親戚はいませんか?」
 「いません」
 「こちらで調べて連絡しますが,いいですか?」
 「どうぞ,ご自由に」

 こんな感じでしょう。しかし,付き合いの多い人はそうはいかない。2番目の問いに青ざめることになります。数としてはこちらが大半で,私のような「世捨て人?」は超マイノリティです。

 だいたい,扶養照会を受けて「はい,面倒みます」と回答する人なんているのでしょうか。申請を妨害するための水際作戦としか思えません。「申請したら,今の惨めな状態が親族にバレるぞ」とね。

 悪名高き扶養照会ですが,「扶養照会 申請」という語でググったら,「政治家なら『家族に頼れ』じゃなくて『国に頼れ』と言ってみろ」というタイトルのブログ記事が出てきました。絶妙のタイトルだと,中身も読まずツイッターで拡散しちゃいました。
https://www.continue-is-power.com/entry/2018/01/27/190000

 困窮者(要保護者)の世話を誰がすべきか? この問いに対する多数派の答えは,社会によって違います。「家族」という国があれば,「国(政府)」という国もある。「高齢者の世話は誰がすべきか?」という問いに対する答えを,主要国で比較すると,以下のようになります。2012年のISSPの調査データです。


 18歳以上の国民の意見ですが,日本は「家族」という回答が6割を占めます。自己責任の風潮が強いアメリカではもっと高く,66.0%です。

 お隣の韓国では,家族が37.0%,政府が54.1%となっています。ちょっと意外ですね。「子が親の面倒をみるべし」という儒教的価値観は,廃れつつあるようです。それでいて年金等の社会保障は未整備なんで,この国の高齢者の自殺率はべらぼうに高くなっています。「ヘル朝鮮」は,過渡期の悲劇の産物です。

 フランスでは,「家族」「政府」「その他」の回答にほぼ3分されていますね。家族でも政府でもない「その他」とは,NPOや民間団体等です。市民社会発祥の地であるこの国では,こういう団体も育っているのでしょう。

 きわめつけは,右端のスウェーデンです。84.1%の国民が,高齢者の世話は政府がすべきと答えています。日本やアメリカとコントラストをなしています。税金をがっぽり取られるとはいえ,福祉先進国の姿が出ていますね。

 生活保護申請者の親族への扶養照会など,考えられないことでしょう。稲葉剛氏は,扶養照会は前近代的な制度で,社会保障の利用を阻んでいるとし,厚労省の審議会で段階的な廃止を直言されています。
http://inabatsuyoshi.net/2017/09/02/2955

 上述のように,扶養照会は生活保護の申請を躊躇わせる水際作戦の一環だと,私も思います。これがために,シングルマザーの最後のセーフティネットが,公的扶助ではなく風俗になってしまっている。

 困窮状態にもかかわらず,生活保護を受けていない世帯数って,どれくらいなんでしょう。2016年の厚労省『国民生活基礎調査』に,世帯単位の所得階級と貯蓄階級のクロス表が出ています。両方が分かる9006世帯のうち,「所得150万円未満・貯蓄ゼロ」の世帯は407世帯です。比率にすると4.52%となります(以下は,量のイメージ図)。


 2015年の『国勢調査』から分かる,国内の総世帯数は5344万8685世帯。先ほど比率をかけると,約242万世帯です。これが生活保護相当の困窮世帯の見積もり数ですが,最新の今年7月時点の生活保護世帯数(約163万世帯)よりもずっと多くなっています。

 捕捉率にすると,163/242=67.3%,7割にも達しません。保護を受けて然るべき79万世帯が,公的なセーフティネットから取りこぼされ,別のセーフティネットに依存しています。扶養照会が,それに一役買っていることは間違いないでしょう。

 スウェーデンの政府は「家族より国に頼れ」と堂々と言ってのけていますが,日本の政府にもこう言ってほしい。稲葉氏の進言を受け入れ,扶養照会という前近代的な制度を段階的に廃止していくという,具体的な行動で,その思いを示してほしいと思います。